佐々木ミノル『中卒労働者から始める高校生活』5巻 陰影
中卒労働者から始める高校生活
作者:佐々木ミノル
掲載誌:『コミックヘヴン』(日本文芸社)2012年-
単行本:ニチブンコミックス
1巻は6刷、2巻は4刷、3巻は3刷!
ここまで具体的に増刷回数を誇る単行本帯はめづらしい。
『中卒』を無視して10年代の漫画は語れない、と言える存在感。
前巻からつづく文化祭が終了、たのしい打ち上げがはじまる。
通信制高校だからお酒を飲む者もいて、宴はたけなわに。
若葉と真実のあいだの焼けぼっくいに火がついたり。
子持ちの若葉は本作ならではのJKで、作者の感情も乗っている。
いい感じになったのに突き放す心理をありのまま描く。
母としての倫理、マコトの恋人への遠慮、軽く見られたくない自尊心……。
複雑だ。
未成年の莉央も飲んでいた。
予想にたがわず酒に弱く、より一層めんどくさい女に。
「好きって言え」「あれはノーカウント」「私の気持ちは態度から察しろ」
アルコールは彼女を素直にもさせた。
「いったよ」じゃなくて「ゆったよ」なのが可愛い。
だが本作は、青春の光より影を強調。
2巻でおきた事件について母に謝罪されるが、
娘は冷たい視線を投げるだけで、一言も発しない。
肉親に対しあんまりな態度ではあるが、
思春期の娘が一度閉ざした心をふたたび開くのは稀で、リアルだ。
ついにマコトの父が登場。
くわしく語られないので想像すると、罪を犯し収監されていたが、
出所から2年経ってひょっこり顔を出した様だ。
妹を養うため辛酸を嘗めている息子の職場へ。
片桐父子の再会は、陰影に富む名場面となった。
浮き沈みを丁寧に追う心理描写が本作の特徴だが、
おそらく真実と真彩の父は、生まれつき他者への共感能力をもたない。
兄妹の心などなんの自覚もなく踏みにじる。
でも若者の人生なんて、そんなものかもしれない。
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