内田静枝編『森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター』
パリ秋冬コレクションのレポート(『ヴォーグ・ニッポン』2005年8月号)
森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター
編者:内田静枝
発行:河出書房新社 2015年
レーベル:らんぷの本
森本美由紀は21歳でイラストレーターとしてデビュー。
アルバイト感覚だったらしい。
1980年当時、ファッションイラストはファッショナブルじゃなかった。
「ファッション」とゆう女の子のリアルな夢を、
絵描きのフィルターをとおして見るなんて、まだるっこしい。
それでも長沢節直伝の画業が歓迎されたのは、
女たちのイキイキした表情が、共感をあつめたから。
森本はブリジット・バルドーの熱烈なファン。
可愛らしさをのこすセクシーさ、女らしさ。
作風への影響をみてとれる。
「物語」を感じさせるイラストは映画的。
『週刊アサヒグラフ』(1994年9月9日号)
おフランスに憧れる娘なんて、かつて日本には掃いて捨てるほどいた。
森本の血肉になったのは、「セツ・モードセミナー」で学んだこと。
あまりに居心地よくて、プロになってからも入り浸り、
師匠のいれたコーヒーと会話をたのしんだ。
「下品な缶ジュースは持ち込まないで下さい」といった張り紙のある、
長沢節の美意識が隅々までゆきとどく空間。
そこは新宿のパリだった。
「アートとイラストの違い」は、むつかしくて僕の手にあまる問題だが、
セツ時代の教えに忠実に、モデルをつかっていた森本の仕事は、
狭義の「イラスト」の枠におさまりそうにない。
墨汁の使用も師匠譲り。
歌手のNickeyは、2002-13年にクロッキーモデルを頻繁につとめた。
「理想のモデル」と称されて。
森本は女の子が心底好きな人だったんだろう。
でないと11年もつづかない。
シャネルの香水を描いた作品(『mc Sister』1989年2月号)
するどい観察眼にもとづく、女の身づくろいの様子。
リアルだが、貧乏臭い生活感はない。
ここにあるのはライフスタイル。
『groovy book review』表紙(1999年)
なつかしい。
結構売れたはずの書評集で、立ち読みしたことがあると思う。
中身はまったく記憶にないが、表紙は脳に刻みこまれている。
森本は一枚の絵で、本を読む女の子がオシャレだっておしえてくれた。
ファッションブランド「Spuntino」のための作品
森本は2007年、故郷の岡山県津山市にアトリエをうつした。
海外からの発注がふえたことが、東京にしがみつく意味を薄れさせ、
帰郷をうながした理由のひとつと言われる。
センスの塊みたいな人が、スタイルのない世界に住むのは苦痛だろう。
ヘイト本が平積みされた書店をみれば嘆くだろうし、
女の子のリアルな夢から遠ざかり、
オタクの妄想に寄り添うネット上のイラスト群も、森本にとっては退屈だろう。
2013年10月の、54歳での早すぎる死は、100%不幸な出来事とおもえない。
それでもタイムレスでボーダーレスな女子たちはいまも、
「わたしについてきなさい」と後続ランナーを不敵に、そしてやさしく挑発する。
- 関連記事
-
- クマノイ『女子中・高生のイラストブック』 (2018/09/27)
- 中村佑介『みんなのイラスト教室』 (2015/11/21)
- 『世界観のつくり方 イラストレーション作家の創造力』 (2015/10/19)
- 内田静枝編『森本美由紀 女の子の憧れを描いたファッションイラストレーター』 (2015/07/21)
- 上月さつき『制服嗜好』 (2015/05/12)
テーマ : レディースファッション
ジャンル : ファッション・ブランド