小説2 「ディアンドル」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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「口のなかで肉汁がほとばしる!」ヒロヒトが絶叫。「本場のソーセージの味がこれほどとは! ほら、爺もいただきなさい」

「姫様」東條英機は小声でたしなめる。「食べてばかりいないで、ナデシコを代表する自覚を持ちなされ」

 ふたりは軽井沢にあるエイダ・ヒトラー所有の別荘に来ている。中部地方を統治する企業「アイゼン」の有力者がつどい、ヒロヒトの歓迎会をひらいた。

「グーテンアペティート!」エイダが六個のビールジョッキを手にやってきた。「ヒロ、たのしんでるか?」

「ダンケ、たのしいパーティをありがとうございます。それ、すてきな衣装ですね」

 エイダは袖なしの赤い胴衣を着て、下は長めのスカートにエプロン。

「ディアンドルってゆうんだ。じゃ、なにかあれば遠慮なく言ってくれよな」

 東條にジョッキを渡し去っていった。

「エイダちゃん、かわいいなあ」ヒロヒトは溜息をつく。「若いのに気配りできるし、ほんと魅力的なひと」

「彼女が〈マネージャー〉に就任したのは」東條がジョッキを手に言う。「いまの姫様とおなじ十歳です。そこから破竹の勢いで経済を復興させ、領土を恢復しました……もしもし、話を聞いてますか?」

 和服の少女の視線は、お目付役の手元のビールに釘づけ。

「お酒は絶対だめですよ! 姫様はハメを外しすぎです! あ、あそこにマンシュタイン氏がいます。いろいろ教わりましょう」




 十四歳のエイダ・ヒトラーはアイゼン全体を切り盛りする〈マネージャー〉で、十八歳のエーリッヒ・フォン・マンシュタインは戦闘の専門家である〈トレーダー〉だ。

 銀髪の青年が【シュトック】を起動すると、しなやかに湾曲した輝くサーベルとなる。

「わたしの『九七式』とは」ヒロヒトが言う。「すこし形がちがいますね」

「これは『Ⅳ号』だ」マンシュタインは無表情。「攻撃・防禦・機動力ともにすぐれている。索敵や通信の機能もそなえるこの【パンツァー】が、現代の戦術の中心だ。東方のテクノロジーは未熟だから、学んでゆくといい」

「よろしくお願いします」

 露骨に見下され腹がたったが、ヒロヒトは愛想よくした。はやく豚肉の煮込みのアイスバインを食べに戻りたい。

「ところで」姫君が話題を変える。「昼間に現れたミノタウロスは何だったのですか? アイゼンはあんな恐ろしい怪物が出没するんでしょうか」

「ガイスト鉱を採集しに迷宮に潜ってたんだが、バッテリー切れだってのに、ウチのバカなじゃじゃ馬娘が……」

 気配を感じて振り向くと、エイダがビールジョッキを傾けていた。

「だれがバカなじゃじゃ馬娘だって?」




「えいらちゃん!」ヒロヒトが凭れ掛かる。「わたひはねえ、〈マネージャー〉とかそうゆうのがイヤなんれす! もっと自由がほひい! フツウの女の子みたく、オシャレとか恋愛とかひたい……」

 どうしてもとせがまれ、一口だけビールを嘗めさせたら撃沈した。

「いまのままでいいよ」エイダは姫をソファへ引き摺った。「みんな噂してるぞ。ヒロの黒髪と着物がうつくしいって」

「わたひはえいらちゃんみたく金髪にしたいんれす! でも爺がはんらいするの! えいらちゃん細いし、足長いし、うらやましくてうらやましくて……」

 エイダはブラウスの胸元をおさえつつ、広間の中央をながめた。東條がディアンドル姿のアイゼン美女にかこまれている。コルセットで絞って強調された巨乳に鼻の下をのばす。

 行儀にうるさいくせに、自分はナデシコ男児の恥をさらすのだから世話ない。

「男って」エイダが言う。「やっぱああゆうスタイルが好きなんだろ。こんなガリガリじゃモテないよ」

「別にモテたくなんかないれす! えいらちゃんみたいになりたいの!」

「酔ってるとはいえ、可愛いこと言うなあ。よし、明日は長野市内を案内してやろうか」

「本当!?」ヒロヒトの目が輝く。「うれしい、ぜひ!」

 エイダは、女子の会話に関心しめさないマンシュタインに話題をふる。

「あ、兄者も一緒にいくか? え、えい、映画をみるとか……」

「ふん」マンシュタインは鼻で笑う。「どうせゲッベルスが作った、くだらんプロパガンダ映画だろう。だったら家で私のブルーレイを見るといい。戦術の勉強にもなる」

 ゲッベルス本人がこの場にいるのに平気で悪態つくから、彼は人望が薄いのだった。

 憤慨したエイダはエプロンを床に投げ捨て、庭へ出ていった。マンシュタインはきょとんとして肩をすくめる。

「マンシュタインさん」ヒロヒトが言う。「エイダちゃんの衣装、褒めてあげました?」

「いや」

「似合ってたよと、あとで言ってくださいね。約束ですよ」




 広大な森の上にひろがる夜空を、星がケーキのトッピングの様に飾りたてている。

 十四歳の〈マネージャー〉はプールサイドで、ブラウスの袖で鼻を拭いた。

「エイダちゃんとマンシュタインさんは」ヒロヒトが背後から声をかける。「実の兄妹なんですか?」

「兄者は甲州の名門貴族の生まれなんだ。身分違いだよ。五年前に養成校で、あたいの指導係になって以来の腐れ縁さ。当時から兄者は天才の誉れ高かった」

「エイダちゃんは、マンシュタインさんのことが大好きなんですね」

「そ、そんなわけないにゃあ!」

 いきなり突き飛ばされ、ヒロヒトはあやうく水を張ってないプールに落ちかけた。

「だ、だれがあんな軍事オタクを!」エイダは両手の人差し指をつける仕草。「でもまあ、大事なビジネスパートナーとは思うけど……」

 ヒロヒトにとり、世襲の〈マネージャー〉の家系に生まれたことは重荷だったが、似た年恰好の娘がその職を務めつつ、自分の気持ちに正直に生きる姿に胸が熱くなった。

「わたしアイゼンに来てよかった。ここでなら、ずっと探してたものが見つかりそう」




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苑田 健

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