小説23(完) 「それから」

『フリーダム・シスター』


登場人物とあらすじ


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 カワセミが青い羽をはばたかせ、暁ジョージの眼前をよこぎる。橙色の羽毛もあざやかだった。初夏の日差しをやわらげる森をぬけ、御所へたどりつく。

 鈍色の衣をまとうゴッドガールは、いつになく大人びてみえる。

「征服者に相まみえるのは」現人神が言う。「マッカーサー以来じゃな。本城フランから連絡あった。電話口では気丈にふるまってたが、どうしておる? あれはぬしの妹と仲が良かった」

「仕事にはげむことで気を張ってる様です。彼女はこの戦争の最大の功労者とおもっています」

「戦争はまことに忌まわしい。先の大戦と比較にならぬが、それでも五万人死んだとか」

「申し遅れましたが、シャドウガール殿下のことは……」

「よいよい。すべてお互いさまであろう。二千七百年も生きれば、人の死など慣れっこじゃ」

 ゴッドガールは心にもないことを言った。いや、なかば本心でもあった。シャドウとゆう半身をうしない、虚無感にとらわれていた。

「暁よ」現人神はCDケースを手にする。「マイケル・ジャクソンを知っておるか?」

「ええ。アメリカの歌手ですよね。御友人だったと聞いています」

「友人か……求婚されたこともあるのじゃが」

「えっ!?」

「バカな男じゃよ。わらわに『永遠の子供』の理想を見おって。ゴッドガールが国を捨てられるはずなかろう?」

「…………」

「でも……わらわが傍にいてやれば、あんな不幸な死に方は……」

 ジョージはハンカチをさしだし、小柄な君主の肩をさすった。

「すまぬ」ゴッドガールは呼吸を整える。「ついセンチメンタルになった。そうだ、わらわの処分はどうなる?」

 ジョージは封筒をとりだした。

「アメリカ政府が発行した、亡命を認める書類です。陛下が望まれるなら、ですが」

「亡命? 死刑ではないのか。これは革命であろう」

「いま準備中の憲法では、死刑を廃止します。新政府が陛下のお命を奪うことはありえません」

「いってよいのか、自由の国アメリカへ? マイケルの生まれ故郷へ? おお、なんとゆうことだ……」

 ゴッドガールは中身が折れ曲がるのもかまわず、封筒をだきしめた。幼女の外見にふさわしい無邪気な笑顔だった。




 本城フランは蒼龍学園大学病院の病室にノックしてはいった。ショルダーバッグから小さな箱をだす。

「はい、プレゼント。はやく元気になってね」

「キターッ!」

 暁ジュンは猛獣が獲物に食らいつく様に開封、左手でiPhoneの設定をはじめた。肩にのったミミズクの白雲が画面をのぞく。

 神経系への毒と自刎のダメージは深刻で、恢復がおくれている。後遺症がのこるかもしれない。

 もうしそうなれば、フランは自分が支えるつもり。親友を一生養うだけの蓄えはある。

「おっ」ジュンがつぶやく。「アイシェンさんからメールきた。軍をやめて、中国でアニメ制作会社つくったんだって。あたしを誘ってる」

「行動がはやくて驚きますね。ジュンさんはどうします?」

「めっちゃ興味あるよ。でも大学にも行きたいしな。アニキの政治の仕事を手伝うのもおもしろいだろうし、道場を再興するって話もある。やりたいこと多すぎ!」

「あせらないで。体を治すのが先ですよ」

 ジュンが自刎に失敗したのは、脇差がぽっきり折れたから。フェン・アイシェンの馬鹿力が、間接的に命をすくった。

 結局、暁ジュンが斃せなかった相手は、暁ジュンだけだった。

「なんかあたし」ジュンは手をとめる。「もらってばかりだな。ほしいものない?」

 「あなたの生還以上のプレゼントなんてない」とは、さすがのフランも照れくさくて言えなかった。

「おそろいのリボンがいいです」

 幸運と、ふたりの友情のシンボルにしたい。

「えー」ジュンは後ろ髪をいじる。「こんなの安物でしょ。もっとマシなリクエストしてよ」

 わかってない。全然わかってない。

 フランは察しのわるい妹分を押し倒し、頬にキスした。

「ちょ、やめろよ」ジュンは抵抗する。「弱ってるからってセクハラすんな! くすぐったいって……くもたん、たすけて!」

 すわ旧政府軍残党の襲撃かと護衛兵がとんでくるまで、三者はベッドで組んずほぐれつの格闘をくりひろげた。




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苑田 健

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