小説20 「シャドウプレイ」

『フリーダム・シスター』


登場人物とあらすじ


全篇を縦書きで読む








 一年ぶりに公の場にでたゴッドガールが陽気に飛び跳ねる。薄紅梅の小袖がはだけ、また中身が見えないか心配する近習におさえられた。

 みづから企画したテレビアニメ『魔法少女アマテラス』先行上映会のため、シネコンの新宿バルト9にいる。五杯めのマルガリータを飲み干した。

「わらわをモデルにしたこのアニメで」現人神は上機嫌で演説。「国民の心はまたひとつになる。もう心配いらないぞよ!」

 花澤香菜などキャストやスタッフ、そして観客から喝采あびた。監督の宮﨑駿がいないのは残念だが、引退したのを懇願し現場に立ってもらったので仕方ない。

 期待にちいさな胸はふくらむ。平和をねがうのは偽らざる気持ち。国民をおもえばこそ、趣味のファミコンを我慢し公務にはげんでいる。

 照明がおちオープニングがはじまった。

 広大な山脈や森をみおろし、一羽の鷹がとぶ。鳥肌たつほどうつくしいファンタジー世界。

「さすがはジブリ、神作画じゃな! 神であるわらわが言うのもおかしいが」

 主人公風の少年が、ドラゴン相手に剣をふるうシーンがつづく。和装のゴッドガールが一瞬うつった。曲が終わりへちかづき、「監督 宮﨑吾朗」とクレジットが。

「なあっ、息子が監督!?」

 最後に『ゲド戦記2』とタイトルが表示される。現人神の手からグラスがすべり落ち、粉々にくだけた。

 だれのどんな手違いがあったか、企画とまるで別物。『アマテラス』の上映会として各界の著名人をよんだのに。

 無言で震えるゴッドガールの周囲から、怒りをおそれ招待客がはなれてゆく。




 北方軍が接収した宇都宮市のホテルのスイートで、羽生アリアと斯波トモコがくつろぐ。元蒼龍学園理事長の行政手腕を買い、司令官のアリアが招聘した。

 連戦連勝の彼女は北関東を制圧。船橋防衛に失敗した本隊を積極的に支援せず、守りの手薄な地域を奪取しつづける。

 総司令部は黙認。黙認せざるをえない。すでに人員や物資を「アリア軍」に依存しており、敵側に走らないだけで満足するしかない。すくなくとも、そのフリをするしかない。

「知事がさっき置いてった」アリアが箸を動かす。「餃子うまいぞ。トモコさんも食べたらどうだ」

「あの爺さんはクビよ」トモコは眉をひそめる。「女子へのおみやげが餃子とか、ありえない。普通はイチゴでしょ。わたしの秘書を栃木総督に任命していい?」

「どの総督も若い女ばかりじゃないか……まあいい、まかせる」

 CNNにセーラー服をきた暁ジュンがうつった。習近平と硬い表情で握手する。背後で本城フランがにこやかに拍手している。

 自由日本と中国が軍事同盟をむすんだ。

「ついに世界史がうごきだした」

 爪楊枝を咥えて独眼龍がつぶやく。




 ホテルの玄関をでると、赤いシャツの男たちに出迎えられた。サポーターは浦和レッズのオーナーへ「お嬢! お嬢!」とコールをささげる。トモコの泣きぼくろのある目が微笑で細まり、気品が匂いたつ。

 女子中学生ふたりにプレゼントをもらったお返しにハグすると、彼女らは歓喜の声をあげた。

「恥づかしいわ」車にのりこんだトモコが言う。「藝能人じゃあるまいし」

「彼らは感謝してるのさ」アリアは分析。「重税から自分たちを解放したことに」

 北方軍が三十パーセントの消費税の廃止を発表すると、支配地域はよろこんで追従。お墨つきがあれば、だれも間接税など支払わない。いまは旧政府の社会保障を踏襲しているが、トモコ総監は大学で研究したベーシック・インカム制度の導入をいそぐ。

「たしかにやりがいを感じる」書類を揃えながらトモコが言う。「こうゆう仕事をしたかったのよ。親から受け継ぐんじゃなく、ゼロからなにかを建設する仕事を」

 アリアは、トモコの描いた「設計図」をパラパラと総覧。「同性結婚法案」と題されたページに目をとめた。顔色がやや曇る。

「やりすぎだった?」

 トモコが探りをいれる。助手席の女性秘書が不安げにふりむく。

「わたしは保守的だから」アリアは紙の束を返す。「本音は反対だ。だが任せると言った以上、トモコさんに任せる。『民衆を食わせる』とゆう方針さえ守ればいい」

 秘書の顔がぱっと輝いた。

「あなたは年下だけど」トモコが安堵する。「人の使い方をわかってるわね。最初から総司令官だったら……」

 不適切な発言と気づき、言い淀んだ。アリアの胎内にジョージとの間の子供がいる。

「人生はいろいろある」独眼龍は葛藤を見せない。「でも、自分の才能をためせる時間はみじかい。いまは前を向くときだ」

 彼女は留守をトモコにまかせ、西日本を攻略する作戦をたてていた。

 わたしは良妻賢母と言えないなとつぶやき、腹部を撫でた。




 吹上御所のゲーム部屋にもどったゴッドガールは、メガドライブの『マイケル・ジャクソンズ・ムーンウォーカー』であそぶ。

 マイケル自身の企画による作品で、「僕は人を殺したくない」といった意見をセガが採用、ダンスで敵を斃す個性的なアクションが光る。

 旧友を懐かしむゴッドガールが涙をこぼす。ひたすら純粋な、理想をおいもとめる男だった。マイケル、ぬしがいなくなってから世界は悪くなるばかりじゃ。

 乱暴にドアがひらかれ、妹のシャドウガールが入室。安倍晋三首相の首根っこをつかんで引きずる。ゴッドガールの足元へころがした。

「姉上様」シャドウは憔悴の面持ち。「アニメの件はごめんなさい。戦争指導にいそがしくて目が届かなかったの。ほら、安倍! さっさと釈明なさい」

 黒衣の姫君が宰相の尻を蹴りあげる。相手は卑屈な笑みをうかべるのみ。

「わらわたちが」ゴッドガールは慌てる。「いくら神の眷属といえど、一国の総理大臣に暴力はいかん」

「はあ、総理大臣? この操り人形が?」

 シャドウは鼻で笑い、袖にしこんだ短刀で安倍の首を斬り落とした。

「ヌイちゃん、なんてことを!」

「御心配なく、これは替え玉です。本人は2007年に大腸癌で死にました」

「まさか、懲りずにまたやったのか……東條英機を殺して開戦した様に」

 窓の外から剣戟の音がひびく。武装親衛隊が皇宮護衛官を数で圧倒。のんきな姉もようやく、妹が簒奪者となったのを理解した。

 すでに日本政府は戒厳令を宣言。それは憲法停止と、シャドウによる独裁体制のはじまりを意味する。

 月姫が固定電話をつかう。「例の件、最優先で取り掛かりなさい」

「なにをする気じゃ」

「『艦隊これくしょん』の運営スタッフを全員殺します。あいつらだけは許せない。わたしの大切なお舟を慰み物にするなんて」

 夜をつかさどる神、月讀命はもともと精神に狂気をやどしており、過度に陰謀をこのむ。無邪気な姉、天照大御神とバランスがとれてこそ日本の秩序はたもたれてきた。しかし今日、すべては崩壊した。

「要するに」月姫が続ける。「政治はシャドウプレイ、影絵にすぎない。慾望とゆう糸でわたしが操ってきた。でも裏方はもうウンザリ。主役交代よ」

「ヌイちゃん、民のことを考えろ」

 説教する姉の顎を、シャドウは右手でもちあげた。

「姉上様のことは愛してるから、殺しはしない。ゲーム三昧ですごすといいわ。これからは、わたしの影になってもらうけど……うふふっ」

「なにがおかしい」

「ネンネの姉上様に、代わりが務まるのかしら。見ものだわ」





関連記事

テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 健

苑田 健

掲示板『岩渕真奈 閃光の天使』
も運営しています。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
月別アーカイヴ
06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03