小説13 「兄妹対決」

『フリーダム・シスター』


登場人物とあらすじ


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 ジョージとジュン、四歳ちがいの暁兄妹が、真剣をふるい斬り結ぶ。

 幕張にある高校の剣道場での訓練にあたり、司令官のジョージは妹に助太刀をたのんだ。自分が知る一番の遣い手だからだが、結局後悔した。

 雪風流でならった型どおりの組太刀は、家族同士の気安さからか徐々に加速。ジョージは気迫におされ、道場の隅へ追い詰められる。兄である手前、スピードを落とせとも言えない。ジュンはギャラリーに心配げな本城フランをみつけウィンクした。余裕綽々の態度が、一層焦りをさそう。

 そのとき喉元への突きを、妹は躱しそこなった。あやうく頸動脈を切断しかけた。

「馬鹿野郎!」めづらしくジョージが激昂。「真剣をもって余所見をするな!」

「はあ?」冷笑するジュン。「わざとだっつうの。アニキが咄嗟に止められるか試したんだよ。お父さまがいつもやってたろ」

 驚愕の事実だった。毎日横で稽古しながら、父と妹が半分命を捨てる様な真似をしていたと知らなかった。

「もうやめた。アニキと立ち合ってると、ヘタクソがうつる」

 緑のジャージを着たジュンは指導にもどり、職業軍人だろうとおかまいなく叱咤。「踏み込みは床を踏み抜くつもりで!」などと言い、実演する。爆発音が道場にひびく。

 薙刀をもつフランに抱きつき、手取り足取り動きをおしえる。すっかり彼女になついており、過剰なスキンシップをもとめる。

 ジョージの人生設計は狂ったが、この争乱を生きのびれたら、妹と流派を再興するのもいいと思った。ジュンは短気で依怙贔屓もひどいが、弱点を一瞬でみぬく観察眼がある。教え方の部分は、温厚な自分がおぎなえばいい。繁盛するのではないか。




「まさにぐうかわ!」

 デジタル迷彩の戦闘服を着た大井スルガが、幕張メッセの会議室でiPadをスワイプしている。向かいには呆れ顔の羽生アリアが。稽古の途中で呼び出されたジョージは、隻眼の女剣士の隣にすわる。

「なにを見てるんですか?」ジョージが尋ねる。

「司令官からいただいた」元陸軍大尉が答える。「じゅんじゅんの画像です。ほら、これなんか百万リツイートされましたよ」

 バーバリーでおめかしした幼いジュンが、よそ行きの笑顔を見せている。親戚の結婚式での写真だ。年は十歳ぐらい、本人のゆう「あたしの全盛期」だ。

「それにしても」スルガが驚嘆する。「お母さん美人だなあ。じゅんじゅんにそっくりだけど、娘よりキレイじゃないですか?」

 兄妹と和服の母のほかに、陸軍の礼服を着た父も写っている。バラバラになった家族をおもうとジョージの胸は痛む。

「ウチは兄妹がそれぞれ別に、父母の外見を受け継いだので」

「暁中佐は、笑顔の写真が皆無なのがすごい」

「父は陸軍でも厳しいですか?」

「ほとんど面識ないですが、噂はよく聞きます。部下が精神を病んで入院したとか」

「ありえますね」ジョージは苦笑した。

 テーブルに編制表と大井の情報カードが散らばっている。

 師団長の「転落死」のあと、近衛師団の三分の一をしめる三千人と、学生剣士百人が合流、革命の旗を堂々かかげた。クーデタに失敗した以上、民兵を募らねば政府軍に対抗できない。

 それでも「暁兄妹起てり」のニュースは反響をよび、軍の規模は一万八千人に達した。早急に組織をつくり、訓練をほどこす必要がある。

「僭越ながら」アリアが本題にもどす。「わたしが副官をつとめる。君の右腕として使ってくれ。大井さんが参謀長だ」

「異存はない」ジョージはうなづく。

 しかし、参謀部の枠に記された名前に虚をつかれた。「先任参謀:本城フラン」「参謀:暁ジュン」とある。

 ジョージは声を荒げた。「これを書いたのはだれだ?」

「僕ですけど」参謀が訝る。「ふたりの希望ですし、司令官の許可を得たと言ってたので」

「そんなバカな。大井さん、妹まで戦争に巻きこまないでくれ!」

 先日言われて思い出したが、ジョージはイザナミ作戦より先に、この二十六歳の参謀将校と顔をあわせていた。ネトウヨ兼ネットアイドル「じゅんじゅん」の最初期からのファンで、自宅を訪問したこともある。

 だがそんな軽いノリで、妹を危険にさらすのは許せない。




 夕方、ジョージが道場にもどると稽古はおわり、いるのはジュンとフランだけ。壁に背をもたせて座り、汗だくの体を密着させ談笑する。ジュンはポカリスエットの二リットルのボトルをがぶ飲み。

「スポーツドリンクは太るぞ」

 兄の忠告に妹は舌をだす。

 ジョージは気をひきしめる。なんとか日本一のワガママ娘を説得しなくては。

「本城さん」ジョージが言う。「妹と話があるから、ちょっと外して……」

「ここにいてね」ジュンが兄の発言を遮る。「フランちゃんに聞かれて困ることなんて、あたしには何一つない」

 板挟みとなり狼狽するフランの、明るい色の髪をなぜた。

「どうせ」ジュンが続ける。「革命軍にはいるなって話だろ。自分の彼女を副官にしたくせに」

「お前はまだ十五歳だ」

「剣術であたしに勝ったことないアニキがそれを言う?」

 フランがくすくす笑う。目にジュンへの崇拝心がやどる。

 ふたりは熱に浮かされている。戦争は野蛮で醜怪で邪悪だ。思春期の突発的な感情にうごかされ踏みいるべき世界じゃない。

 ジョージは木刀を二本つかみ、片方を妹にむかい滑らせた。

「そうきたか」ジュンが立ち上がる。「まあ、わかりやすくて良いんじゃね。で、奥義の使用はあり? ほとんど使えないアニキは瞬殺されるけど」

「そのくらいのハンデはくれてやる」

「トラッシュトークかよ。はあ、めんどくさ」

 嘆息をもらしつつ、ジュンは木刀を後ろへ振り上げていた。予備動作がはじまっている。

 雪風流【脱兎】。

 瞬きの何万分の一の速さで、時空をねじまげる斬撃が襲った。かろうじて受けたジョージの木刀が床で跳ねる。

「やるじゃん!」ジュンは素直に感心。「【脱兎】を受けられる様になったんだ。受けたところで無意味とはいえ」

 二百の骨が砕かれる様な衝撃で、ジョージは突っ伏した。全身が麻痺し、声もでない。自分の技量が倍増した一方で、妹は四倍強くなっていた。

「あたしの勝ちでいい? それともトドメ刺す? あ、しゃべれないのか。ゴメンゴメン」

 ジュンは峰で自分の右肩をたたく。勝利を確信したときの癖だ。

「随分甘くなったな」ジョージは余力をふりしぼり顎をうごかす。「下半身がだらしないのは知ってたが、頭にまで回ったか」

 ジュンは犬歯を剥き出しに。この表情を人間以外に喩えるなら、悪魔しかない。

「心底うぜえ。挑発すれば、あたしが隙をさらすと思ってるらしいのが」

 剣をはなさず器用にジャージの上着をぬぎ、Tシャツ一枚となる。『ダンガンロンパ』のモノクマが不敵に笑う。

 雪風流【千仞】。

 観戦するフランが怯えるほど床を踏み鳴らし跳躍。天井をかすめた切先が急降下する。床板を叩き割った木刀は、真中で折れた。

 怒っているジュンは【千仞】を使いたがる。予測があたったジョージは転がって回避。急所に当たれば絶対死んでいた。

 ジュンは折れた剣を兄へ投げつけ、立てかけた愛刀にむかい駆ける。朱塗りの鞘を捨て、壁を蹴り反転し、猿みたく叫びながら肉親へ本身の刃をむけ突進。

 完全に頭に血がのぼっている。スピードは光速にちかづいたが、動きが直線的になり読みやすい。

 雪風流【無声】。

 暁ジョージが唯一会得した奥義は、カウンター戦術だった。敵の剣筋と呼吸を見切り、前のめりで木刀を平正眼にかまえ待つ。

 ジュンは真剣を床に突きたて静止した。

「アニキ、とうとう狂ったか」顎を柄にのせジュンが言う。「【無声】はよくて相撃ちで、実戦じゃ使えないって、お父さまに教わったろう」

「何を言う、リーチの分だけ俺が有利だ。これぞ最強奥義」

「ざけんな、こんなの剣術じゃねえ!」

 観客のフランはおもわず拍手する。練習か殺し合いかはわからないが、同門対決ならではの高純度の攻防なのはつたわった。

 ホウホウと鳥の鳴き声が玄関から聞こえる。白いミミズクがよたよた歩いている。

「あっフランちゃん、『くもたん』来たよ!」

 ジュンは刀を放置して走った。

 おとめ山公園で出会ったミミズクはジュンを気にいったのか、わざわざ幕張までついてきて、時折顔をだす。「白雲」の名で可愛がられていた。

 フランはジョージに会釈し、ジュンの刀や荷物をもち去っていった。

 ジョージの思いは乱れる。幼いころの妹は従順だが、まるでロボットだった。思春期をむかえ自我が目覚めるが、心身のバランスを崩していた。

 いまが一番イキイキしている。家族として、どう支えればよいのだろう。



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