小説8 「ゴッドガール」

『フリーダム・シスター』


登場人物とあらすじ


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 蒼龍学園生徒会長・本城フランは地下鉄半蔵門駅でおり、警官につきそわれ訪問先へむかう。生物学者であるゴッドガールにより森林が保存された吹上御苑はすずしく、厚手の上着にすべきだった。水色のカーディガンごしに腕撫す。

 御所の玄関から家主がとびだし、「本城!」とさけび抱きついてきた。学園一小柄なフランの胸にやっととどく背丈のゴッドガールは仔犬みたい。ふたりは文藝部の名誉顧問と部員の関係。古今新古今といった勅撰和歌集にかかわるなど、こう見えゴッドガールは文学史上の重要人物だった。

 フランはドーナツの箱をもちあげる。「ちょっと陛下、おみやげが潰れます」

 ミスドを愛する現人神はますます尻尾をふりまわした。




 二階の遊び部屋にとおされたフランは、ゲームセンターなみの設備に圧倒された。ふるいピンボール台から最新の音ゲーまでそろう。大型テレビで青い髪の少女の目がパチパチまたたく。自分がくる前から遊んでたらしい。

「なんてゆうゲームですか?」フランがたづねる。「プレステのアドベンチャーかな。おもしろそうですね」

「これは『メタルスレイダーグローリー』、1991年のファミコンソフトじゃ」

「えっ、ファミコン!? こんなアニメみたいに動くのに?」

「ふふふ」薄笑いするゴッドガール。「なにをかくそう、わらわは任天堂ファンなのじゃ。こないだまで京都に住んでおったしな。よし、きょうはファミコン三昧としゃれこむぞ!」

 彼女のゆう「こないだ」は1868年をさす。フランはお茶を飲みおしゃべりしたかったが、おとなしく『スパイvsスパイ』のルールについて説明うけた。




 ゴッドガールが癇癪おこし、コントローラを対戦相手へなげつける。これで十連敗。

「腹黒いプレイじゃな! 君主に対し無礼であろう!」

「いまのは陛下が自分でしかけた罠です……」

 現人神は「もう飽きた」とつぶやき、フランの膝をかりて寝そべった。猫にも似ている。その格好でフレンチクルーラーにかぶりつく。萌黄色の小袖におちる食べかすをフランがひろった。

 テレビに安倍首相の記者会見の様子がうつる。日本全国にひろまる「反消費税」を名目とする暴動は中国政府の陰謀だと批難し、軍事行動をふくむ断固とした措置をとると宣言。

 安倍の主張は一片の真実をふくむ。CIAが提供した情報どおり、北京の息がかかる人間も騒動にまぎれこんでいる。だがすべてを他国の謀略に帰するのは強引すぎた。

 震源地のお台場にいたフランが探りをいれる。「首相は内政を外交にすりかえてる気がします。陛下はどうお考えですか?」

「わらわは政治について関知しないが」ゴッドガールは寝たまま返事。「バカ騒ぎは国民に浸透すまい。なんのための民主主義か。もし税制が不公平だとしても、選挙で変革できる」

「でも希望をもてないまま、くるしい生活をおくる人が大勢います」

「ドーナツがなければ、クッキーを食べればよい」

 上体をおこしたゴッドガールが手を打ち鳴らす。内舎人が空き箱をかたづけ、お茶菓子と書類をおいていった。フランは『魔法少女アマテラス』とゆう題のアニメの企画書をよむ。放映局はNHK、監修は宮内庁、監督は宮﨑駿、シリーズ構成・脚本が村雨れいん。どっかで聞いた名前……わたしのペンネームだ。

「へ、陛下、これって!?」

「おちつけ」紅茶をすする日本国の象徴。「のう本城、この世でもっとも価値ある財産はなんだとおもう?」

「え……家族とか友達とか」

「よい答えじゃ。人脈に課税できる政府はないからな。ぬしはオタク相手の商売を卒業すべき頃合いだと、わらわは思うておる」




 日が西の濠にしづむころ、フランは御所をあとにした。入れ違いでヤマハのVMXがとまり、漆黒のレーシングスーツをきた女がヘルメットをぬぐ。普段は赤坂で起居するシャドウガールだ。

 遊び部屋へあがると、姉がファミコンの『不如帰』で島津家をひきい、織田信長と戦っていた。妹は鼻を鳴らす。

「またガラクタがふえましたね。ロクに稼働もできないのが」

 セガ「R-360」の宇宙船みたいな筐体をコツコツたたく。縦横に360度回転する体感ゲームだ。

 姉の目はテレビに釘づけ。「それはマイケルの形見じゃ。絶対手放さないぞ」

 いまは亡き「キング・オブ・ポップ」マイケル・ジャクソンはゴッドガールと仲がよく、御所をお忍びでたづねたこともある。永遠の幼女に、ピーター・パン的理想を見たのかもしれない。たがいに恋愛感情にちかいものを抱いてたのではと、シャドウは疑っている。

「姉上様、ゲームはおやめになって。きょうはプレゼントをもってきたんです」

 シャドウは包装をとりのぞき、エッチングのほどこされたグラスを二つとりだす。

「ほう」手をとめるゴッドガール。「バカラではないか。高価なもののはず」

「経団連理事たちとのゴルフ大会の賞品です。わたしがもらうより、お酒のすきな姉上様に差し上げたくて」

 食堂へ移動した姉妹は、ワインとチーズでふたりだけの宴会をひらく。あどけない顔で鯨飲するゴッドガールが、シャドウはわが姉ながらいじらしい。

「姉上様もすこし運動なさったら?」

「わらわは蹴鞠しかできぬ」現人神が肩をすぼめる。「ゴルフか……あんな小さな球をよく打てるのう。優勝するとはさすがじゃ」

「いえ、大変なのは夜の部です。長野で泊りでしたから」

「トランプ? それともウノか? だったらわらわも得意じゃ!」

 シャドウはふきだす。「日本のトップリーダーたちとトランプって……。あのね、年配の殿方と実のある関係をむすぶのは簡単じゃないの。薬学や生理学に頼らなきゃいけないんだから」

 ゴッドガールは目を白黒させている。数千年きよらかに身をたもち、神事に専念してきた彼女は世間しらずのまま。

 酔いがまわりソファにうつってウトウトしだした姉の隣にすわり、シャドウはやさしく髪をなぜる。この人が無垢でいられるためなら、汚れ仕事だって苦にならない。

「ねえ、姉上様」シャドウが小声でゆう。「さっき本城フランが来てたでしょう。あの子は近づけないで。例の暁ジュンの友人なの」

「遠ざけてどうする」妹の腕のなかでゴッドガールが目をさます。「いつになったら暁は逮捕されるのじゃ。わらわの秘所を晒しものにした大逆人は。ヌイちゃんの料簡はとっくに読めておるぞ」

 「不知火」とゆう皇室名をもつシャドウの脊髄が凍結する。姉のちいさな頭に秘めたる聡明さがどれほどか忘れていた。

 食卓へもどったゴッドガールは、ボトルに口をつけ残りを飲み干す。赤ワインをたらしながら話をつづける。

「暁を利用してるつもりじゃろう。あえて泳がせ、平地に乱をおこそうと。目的はなんじゃ。ぬしがゴッドガールになる気か」

 シャドウは平伏する。「滅相もない! わたしはいつだって姉上様に忠誠を……」

「足利義満をおもいだせ」冷酷な姉の口調。

「やめて!」震える妹。「あの男の話は聞きたくない!」

「ヌイちゃんが三種の神器を盗んで吉野へ逃げたせいで朝廷はおとろえ、義満のごとき逆臣の跳梁跋扈をまねいた。あれから五百年にわたり、わらわたちは衣食にさえ事缺いた。またあんな恥辱をうけたいのか?」

 室町幕府三代将軍・足利義満は、南北朝合一をもって権力基盤を強固にし、日明貿易の利益を独占、僭越にも「日本国王」を名乗った。皇位簒奪の意図があったとさえ言われる。

「わらわは昼の国の王」日本国の象徴が伏したままの妹にゆう。「ぬしは夜の国の王。たがいの領分をまもっておれば道理にはづれることはなく、神州日本は不滅であろう。表の世界は安倍にまかせておけ」

 バルチック艦隊や太平洋艦隊を撃滅したシャドウガールは、姉とのケンカに勝ったことがない。号泣しながら縋りつく。六百年ぶりの涙だった。

「姉上様、愚かな妹を許してくださいまし! かならずやわたくしの手で、暁の首をもってまいります!」

 ゴッドガールはよしよしと妹をさすりつつ、長女はつらいよと独りごちた。



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