小説4 「奥義」

『フリーダム・シスター』


登場人物とあらすじ


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 暁ジュンと葦切コタカ、同級生ふたりが昼休みに校長室で会食。部屋の主はトラブルつづきによる心労で休職中、当のトラブルメイカーの隠れ家となっていた。どうせ退学なら、存分に楽しんでやる。

「明日は」コタカが顔色をうかがう。「ボクひとりで学食行っていい? 予想ではゴッドガール陛下がくるんだ」

 ジュンの目が吊り上がる。あんなロリババアのなにがいいのか。恋人そっちのけで読書にふけるのも不愉快。表紙にアニメ調の幼女がえがかれたロクでもないラノベだ。題名は『フリーダム・シスター』。

 バカにした口調でジュンがゆう。「自由な修道女の話?」

「村雨れいん先生の人気シリーズだよ」コタカが栞をはさんで本をよこす。「アニメの三期もはじまるんだ。十四巻ではメインキャラがついに結ばれて、ネットでは賛否両論だけどボクは感動した!」

 パラパラめくると、小学生のヒロインが主人公である兄と結婚式を挙げる、巻末のイラストが目にはいった。ジュンは怖気をふるう。性根を叩き直さねば。

「幻想を壊す様だけど」ジュンの視線は軽蔑にみちる。「妹が兄を好きになるとかありえないから。絶対に。あたしを見りゃわかんでしょ」

「純粋に兄を慕う女の子がいても良いじゃない。だいいち暁さんって、基準にするには特殊だし」

「あたしがビッチだと言いたいのかよ。ふざけんな!」

 恋愛感情は相手の理想視からはじまるもので、現実的な日常生活をともにする家族は対象にならないとジュンは切々と説くが、じゃあ自分のコタカへの好意も幻想かと不安に。なにごとにも関心のうすい恋人が、近親相姦についてはムキになり反論するのも興ざめ。

 ジュンは文庫本をゴミ箱へ放りこんだ。あっとおどろくコタカのファスナーをさげて中身を取り出し、ギャツビーのボディペーパーでくるんでこすり上げる。いろいろためした結果、男物が大きさも刺激も適してるとわかった。

 コタカは一度もジュンの体をもとめないが、奉仕を拒絶したこともない。男の行動原理は性的快感が最優先事項であり、それをエサにすれば自在にあやつれると、ジュンは経験からまなんだ。射精だけでハッピーになる奇妙な生き物で、むしろその単純さが愛おしい。女同士のベタベタした、サイコパスじみた関係よりずっとマシ。

 されるがままの華奢な体を左腕で抱く。はげしく上下すると声のもれる口を、自分の口でふさぐ。精をうけとめたあと、もう一枚でキレイにふいた。事後数時間ヒリヒリするらしいが、コタカは病みつきになっていた。性器を露出したまま、目をふせ身悶えする。

 ジュンが武道から足をあらった理由は一言であらわせないが、セックスのたのしさを知ったのが大きい。創意工夫でたがいを幸せにできるのにやりがいを感じた。男を棒で殴るより、男の棒であそんだ方が平和で生産的だった。

 このオモチャは、もう手放せない。




 地上から集団で唱和するのが聞こえたので、ジュンは二階の窓からみおろす。ショートボブで短躯の生徒会長・本城フランと十名ほどがビラをくばっている。

 ジュンはあきれる。「休み時間に熱心だこと」

「あれは」コタカが横にたつ。「学費を払えなくて除籍されるのに反対する活動だよ」

 おなじく追放寸前の問題児の脳裏に、ある戦術が電撃的にひらめいた。

 武道をおさめたせいか、生まれつきの性格か、敵が一番まもりたいものを嗅ぎとる習性を、ジュンは身につけていた。

 あとは一思いに叩くだけ。




 二十三時間後、ジュンは高校生ふくむ十名を指揮し、カフェテリアを占拠。入口にならべたテーブルを紐でつなぎバリケードにする。内側に食用油をまいた。

 交渉の結果、生徒会メンバーは実力行使に反対で不参加。だが心配らしく、遠くから観察するフランがみえる。

 チャイムが鳴り生徒があつまりだす。折衝は高校生にまかせてあるが騒ぎはひろがり、複数の教員に撤去をもとめられた。

 ジュンは防壁の内側で、剣道部の模擬刀をさし、マットに仁王立ちする。となりのコタカがiPhoneで撮影。白いBABY-Gをみると十二時四十五分。もってあと十分か。

「そこをのけ!」

 耳をつんざく甲高い声が、ノイズを沈黙にかえた。真っ二つにわかれた人混みから、薄紫の小袖を羽織った幼女があらわれる。

「この騒動はなにごとじゃ!?」ゴッドガールは頬をふくらます。「だれでもよい、わらわに説明せよ!」

 不法占拠者も教員も、あえて口をひらこうとしない。ヘタすれば責任とらされる。

 ゴッドガールはつけ麺食べたさで苛立っていた。副校長を見つけ事情をきく。

「あいわかった」上の空で相槌うつゴッドガール。「生徒たちにも言い分はあろう。この件はわらわがしかるべく処置しておく。だから今日のところは解散するがよい」

 占拠者のあいだに動揺がはしるが、ジュンに目で制される。

 空腹が限界をこえたゴッドガールは「これだからゆとりは!」と一喝、よじのぼったテーブルから飛び降りた。油ですべってはげしく尾骨をうち、「ギャー」と泣き声あげる。着物の裾がはだけ、無毛の大陰唇があらわに。

 間髪いれず、黒のワンピースの女が幼女を抱きおこしていた。服の乱れをなおし、頭をなでてあやす。「ごめんなさい、目を離したばっかりに」とささやく。

 ジュンは総毛だち、反射的に左手を鞘にそえた。ゴッドガールの妹、シャドウガールの運足は、物理法則にあてはまらない様にみえた。一体いつ、バリケードを越えたのか。忍術や幻術のたぐいか。

「いますぐ録画をやめなさい」

 自分よりずっと小柄な姉を抱き、片膝ついたままシャドウが要求する。コタカは素直にしたがい、ジュンも抵抗しない。やけに従順だった。

「まさか」蒼白となるシャドウ。「一部始終を生で配信していたの!?」

 セイキの大事件だった。ユーチューブがアクセス過多でサーバダウンするほどの。全大陸のPCやスマートフォンに、ゴッドガールの恥部の映像が伝播していた。手遅れだった。

 シャドウがゆらゆら歩みよる。ジュンが首謀者だと見抜いている。感情のない顔が逆説的に、怒りのすさまじさ、つまり殺意を意味している。おそらく武器を隠し持っている。でないと刀の前でこんな無防備でいられない。

 殺らなければ、殺られる。敵がだれであろうと。ジュンは腹をくくった。

 雪風流【象水】。

 呼吸を相手のそれにあわせる。瞬きさえも。視線をさげ、腰をおとし背をまげ、目をうすめ口を半開きに。自身を背景にとけこませ、ついに「無形」にいたるとき抜刀。

 だがジュンは「ぐう」と唸り、斬り上げる寸前でとめた。抜かなかったことが、「開祖以来の居合の天才」と称される所以だった。シャドウが武器をとろうと背中に手をまわすのがフェイクと察知した。

 シャドウガールは無腰の自分を斬らせようとした。模擬刀でも当たりどころによっては死ぬのに。ジュンを社会的に抹殺するつもりだった。撮影の罪だけでは「陛下が勝手に転んだだけ」と言い逃れできた。

「……妖怪ババア」ジュンは震えていた。

「ステキなニックネームね」シャドウが頬に口づけする。「わたしはあなたが好きよ。『こちら側』に置いときたい人材ね。でもいかんせん若すぎる。こうゆうのってタイミングが大事なの。恋愛とおなじ」

「くたばれ」

「ふふ、いい表情」今度は唇に。「あと五年待ってくれればスカウトにゆくけど、あなたは我慢できないでしょう。そう顔に書いてあるわ。だから潰すの」

 呪術めいた心理操作で、ジュンの体は麻痺状態だったが、それはどうでもよかった。無敵と信ずる雪風流の奥義が見切られたことに絶望していた。天才とおだてられ、うぬぼれ、怠惰な生活をおくったツケだった。ちぎれるほど唇をかんだ。

 シャドウガールはベソをかく姉をつれ、ちいさな叛乱の現場を去る。血の味のキスを反芻していた。これから忙しくなるわ、とほくそ笑んだ。




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苑田 健

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