真実はけむりのなか ― 『ワールド・オブ・ライズ』

レオ

ワールド・オブ・ライズ
Body of Lies

出演者:レオナルド・ディカプリオ ラッセル・クロウ マーク・ストロング
監督:リドリー・スコット
制作:アメリカ 二〇〇八年
[ユナイテッド・シネマとしまえんで鑑賞]



映画の後半。
CIA工作員に扮するレオナルドは、荒唐無稽な罠をしかける。
標的をおびきよせるために、架空のテロ組織をでっちあげ、
トルコの米軍基地で自作自演の爆破テロをおこす。
満洲事変みたい。
昭和三年、関東軍は張作霖がのる列車を爆破し、
その罪を国民党になすりつけて満洲支配にふみきる。
むかしのはなしだって?
いや、ちがうね。
航空幕僚長だった田母神俊雄の、世の批判をあびた、
「日本は侵略国家であったのか」なる論文をおもいだそう。
現物をよんだことはないが、張作霖爆殺はコミンテルンのしわざで、
第二次世界大戦がはじまったのは、
ルーズベルトとスターリンの陰謀だ、とかいたとか。
こんな脳のゆるい陰謀説マニアに、
航空自衛隊の軍政をまかせていたことに苦笑を禁じえない。
古今東西、軍や情報機関の人間のあたまは、
たしかでない情報と誇大妄想にくるわされ、
国民の生命と財産を危険にさらす。
映画をある種の教科書としてみるひとは、『ワールド・オブ・ライズ』を、
暴力にみちた現代世界の写し絵とみなすだろう。
でも、あさい見かたじゃないかな。
きょうのニュース、あなたはどういう根拠で信じたの?
全部、うそだったら?



本作は、リドリー・スコットの手によるものだから、
生命、もしくはそれと同等のおもさのなにかをかけるおとこのものがたり。
レオはさほどすきな役者ではないが、その能力はみとめる。
役を咀嚼する消化器官のつよさを感じる。
童顔なのに髭をはやす無茶はゆるしてあげよう。
銃のあつかいも、目をみはるほどうつくしい。
現地の協力者が拉致されそうになるとき、
アサルトライフルでまよわず、かれのあたまをうちぬく。
情報漏洩をふせぐため。
リドリーの弟トニーの『スパイ・ゲーム』では、
ブラッド・ピットは協力者をたすけるべきか、いなか、煩悶する。
少女漫画じみた可憐さ。
トニー。
スコット家のおとこがスパイ映画をつくるなら、
これくらいやらないとだめだぜ。
そんな兄貴の自負心がつたわる。

ラッセル

ラッセル・クロウは、レオを支援する中近東局主任。
ふたりの共演は一九九五年の『クイック&デッド』以来。
十歳ちがいだが、どちらも子役あがりのせいか気があうらしい。
性質はかなりことなるが。
ラッセルは、レオのようながむしゃらさがない。
心臓がぶよぶよした脂肪でおおわれている感じ。
自分本来の人格と、役が、いつのまに同化。
名優とはおそろしいいきものとおもわずにいられないが、
実際このひとは暴力事件をおこしてばかりの問題児だ。
「演技力と人間性は反比例する」という、
オレが提唱する定理にぴたりとはまる。
とっくにカリフォルニアからほされておかしくないが、
リドリー兄貴にかわいがられ失業をまぬがれる。
これがリドリー作品の四作目。

ハニ

CIAを手だすけするヨルダンの情報機関の長、
ハニ・サラームにふれないわけにいかない。
演じるのはマーク・ストロング。
『リボルバー』での、すごうでの殺し屋が記憶にあたらしい。
完璧にしたてたスーツをきこなしつつ、
アメリカとテロ組織の両者を手玉にとる。
確信した。
コイツはものすごい役者だ。
ラッセルとマークが対面して交渉する場面が、全編の山場か。
アメリカの傲慢とアラブの矜持が、しずかにはげしく火花をちらす。
演じるのは、ニュージーランド人とイギリス人だけど。
映画っておもしろいね!



サー・リドリーは二〇〇一年の『ブラックホーク・ダウン』で、
戦争映画の近代化に貢献したが、本作も同等の評価をあたえるべきだ。
上空三千メートルのヘリコプターからHDカメラで撮影し、
現代の情報戦をなまなましく銀幕にうつす。
CIA本部のモニターにうつる砂漠にうごめくちいさな影と、
そのわきの"asset"の文字。
「資産」、すなわちCIA局員であるレオのことをさすが、
工作員などいつでも処分できる「商品」だ、という皮肉にみえる。
終盤、テロリストがレオを隠れ家に連行するとき、
メリーゴーラウンドのように車で砂漠をまわって砂ぼこりをたてて、
空からの監視をまぎらわす。

砂漠

原作にはない、監督自身の発案だそうな。
現在テロリスト業をいとなむみなさまがみたら、
「この手があったか!」とおそれいるのでは。
そしてスモークといえば、『エイリアン』や『ブレードランナー』でみせた、
リドリー兄貴の絵柄の象徴。
ときとして、映画は真実をえぐる。
暗示的に。
七十一歳、おいてますますさかんな、
兄さんへの尊敬の念はたかまるばかり。
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苑田 謙

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