神崎かるな/黒神遊夜『しなこいっ』『竹刀短し恋せよ乙女』
しなこいっ/竹刀短し恋せよ乙女
作画:神崎かるな
原作:黒神遊夜
発行:角川書店 2011-13年
レーベル:角川コミックス・エース
[同作者の『武装少女マキャベリズム』の記事はこちら]
ボクのしるかぎり、もっともゴシック的な漫画だ。
えがかれるものごとに象徴的意味があり、連結して世界の秩序をなす。
ゴスロリ女子がかわいいとか、そうゆう次元のはなしじゃない。
「武道」を通じ、作者らは中世の精神へ回帰。
形代は女子高生だったり、忍者だったり。
作品世界は法律が支配しており、闘争は竹刀や木刀でおこなわれる。
ただ埒外のもの、たとえば忍者は本身をぬくことも。
ガチガチと奥歯ならすヒロイン「遠山桜」。
「失礼だよ!!!!」
悲鳴がわりに決めゼリフをさけび、自己催眠かける。
魂の底からせりあがる実存的不安の一方で、
のびやかな描線による女子の可憐さに釣りこまれる。
表面的なかわいさをもとめてページを繰ると反撃くらうことも。
本作をみくびってはいけない。
全篇に陰鬱な通奏低音がながれる。
近親交配をくりかえし、剣の帝国をうちたてるとゆう野望。
病んだ思想の象徴が「鳴神虎春(なるかみ こはる)」。
薬丸自顕流の使い手で、魔剣「雲耀【迅雷】」の継承者。
剣速は人間の知覚の限界をはるかにこえ、理論上敵なし。
禍々しい笑みと電撃的な攻めは、中山敦支『ねじまきカギュー』の並走者だった證明。
本作は実質的に、下書きまで準備する原作者・黒神遊夜の作品だろうが、
スリーヴレスの服で剣尖を天に突きあげる、自称「絵になる女」の姿勢がエレガント。
流派の大胆さが強調され、紙面がピリピリ帯電。
示現流の「榊龍之介」は「雲耀【疾風】」をつかう。
復讐のため、ただ虎春を斃すためだけに、自流の剣質をすてたうえで、
全篇ついやし必殺の一撃をくみあげてゆく過程が、本作の主題。
推理小説に匹敵する論理性で、ゴシック的世界観が屹立している。
『武装少女マキャベリズム』(角川コミックス・エース)
短剣道とコマンドサンボを融合させた桜のオリジナル剣法は、
次作『武装少女マキャベリズム』で「無刀の剣」へ発展。
アディショナルタイムのみ出場した「因幡月夜(いなば つくよ)」も返り咲き。
大傑作なのに二度も打ち切られた『しなこいっ』は、
漫画史上もっとも不幸な作品のひとつだが、その志はまだ息づいている。
『竹刀短し恋せよ乙女』
立ち合いのあと、ジゲン流の作法にのっとり足跡をけす龍之介。
「残心」の本質を、ここまでうつくしく視覚化した例がほかにあるだろうか。
![]() | 完全版 しなこいっ (上) (角川コミックス・エース 353-1) (2011/11/23) 神崎かるな |
- 関連記事