ツンデレとハイデガー実存主義

中山敦支『ねじまきカギュー』(ヤングジャンプ・コミックス)

 

 

「きょうここから世界史のあたらしい時代がはじまった」と評されたのは、

マルティン・ハイデガーが1927年に発表した『存在と時間』。

第一次世界大戦後にドイツは破局をむかえたが、

1945年とちがい物質的にはほとんど無傷で、国家の枠組みは存続しており、

シュペングラー『西洋の没落』やダダの不吉な鐘がひびくなか、精神面で過去との断絶をもとめた。

 

 

ウロ『ぱわーおぶすまいる。』(まんがタイムKRコミックス)

 

 

人間であるとは、話をすること。

それがかれらを草木や動物から区別し、また神々から分けへだてる。

存在への真摯な探究は、言語の考察を出発点としなければならない。

 

 

勇人『シスプラス』(ビッグガンガンコミックス)

 

 

人間存在の意味に、最終的な解答はない。

モーツァルトのソナタに意味がない様に。

ただ問いと応答のくりかえしが、問う人を高貴ならしめる。

 

ハイデガーの修辞法は、語彙や文法をからみあわせ結び目をつくり、

アクションペインティングみたく荒ぶり、乱雑で、不透明な論述をしるすことで、

「みること」や「観察」を重視する、パルメニデス以来の形而上学の伝統に対抗。

 

 

みよしふるまち『ゆりかごの乙女たち』(マッグガーデンコミックス Beat'sシリーズ)

 

 

言語とは、ある民族が存在をかたる原初の詩。

たとえばギリシア人はホメーロスによって、みづからの現存在に、

存在するものを開示する布置・形状である言語を経験した。

 

 

「なによ、言われなくてもがんばるにきまってるじゃない!」 『ハナヤマタ』(テレビアニメ/2014年)

 

 

有限性なしに真理はありえない。

実存的終点を不安とともにわが身にひきうけ、日常をさわやかに認識し元気づける。

散る花の美に、プラトンと対極の地平をみいだす。

 

 

「うーん、わたしがよく食べるのはレーションのサンプルとか」 『ご注文はうさぎですか?』(テレビアニメ/2014年)

 

 

フライブルク大学総長時代のハイデガーによるテクストや発言は、

疑問の余地なく、本人の慣用語と、ヒトラーの誇大で野獣的な隠語が、

しっくりと催眠術的にまざりあっている。

「民族は存在への意志、現存在の意志の真理をかちとった」

「ヒトラーの天才は、国民を根なし草的な思考からすくいあげた」

……などなど。

 

すべてがおわり、かれはヒトラー主義や大量虐殺について沈黙。

なにくわぬ顔で世界政治をネタに床屋政談しながら。

諸事件にすくなくとも部分的にまきこまれた人間にとり、

アウシュヴィッツやベルゼンを一言もかたらないのは、悪事に加担するにひとしい。

そもそも「問いと応答」がハイデガー哲学の核心ではなかったか。

 

 

佐々木ミノル『中卒労働者から始める高校生活』(ニチブンコミックス)

 

 

後期のハイデガーは、ヴァン・ゴッホの絵などに〈存在〉が現前するとした。

『存在と時間』のくわだては頓挫し、その思索は詩や藝術へ転回。

つまり生涯と活動のもっとも重大な段階で、言語をみすてた。

 

 

「最後にバカヤローって言ってやろうとおもって……」 『ハナヤマタ』

 

 

後期ハイデガー的世界にいきるわれらの言語は、視覚藝術への敗北が運命づけられる。

辯舌は無意味で、せいぜい感情と裏腹な態度をしめす、嘘としての機能しかみとめられない。

それでもなお、ボクら虚空に言葉とゆう絵具をまきちらす。







【参考文献】

ジョージ・スタイナー『マルティン・ハイデガー』(岩波現代文庫)



マルティン・ハイデガー (岩波現代文庫)マルティン・ハイデガー (岩波現代文庫)
(2000/09/14)
ジョージ・スタイナー

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