『エヴァンゲリオン』は庵野秀明の個人作品か

吉成曜

 

 

「サーヴィス精神」が、テレビアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』(1995-96年)の特徴だ。

投じられた情報量やクオリティやテンションは、空前にして絶後。

 

庵野秀明総監督は少数精鋭のスタッフに対し、

初号機みたく暴走しては泣き叫び、ゲンドウみたく強圧的なにらみをきかす。

要するにかれらは、予算以上の仕事をした。

 

 

小峯久美子

 

 

SF・旧約聖書・神秘学・心理学……これらの要素ぬきに本作はかたれないが、

物語である以上、中心にくるのは人間ドラマで、その象徴は「綾波レイ」となる。

 

97年に太田出版からでた『スキゾ・エヴァンゲリオン』『パラノ・エヴァンゲリオン』をよむと、

カントクのレイへの思い入れのなさに愕然とする。

7話では存在すらわすれ、あわてて登場シーンを1カットいれたほど。

 

綾波人気は、デザイナー貞本義行の貢献大なのに十分評価されてない。

打ち合わせでカントクからおそわった企画の内容は、

「ロボットがコードをひきずりビル街でたたかうアニメ」。

「で、どんな話なんです?」ときくと、「それをみんなでかんがえて」といわれた。

庵野はつねに鮮烈なヴィジュアルを優先、人物にとことん無関心。

 

貞本は、当時ハマってたポール・ギャリコの小説や、筋肉少女帯の曲(例1/2から、

もともと夢想していた、はかないが内面の強靭さをもつ包帯少女を提供する。

『エヴァンゲリオン』が、色や匂いや手ざわりをもつ作品となった。

 

 

本田雄。なにげない表情や姿勢にドラマを感じる

 

 

アスカは、前作のヒロイン「ナディア」の髪型をかえたヴァージョン。

いわれてみれば、たしかにそう。

ショートカットのヒロインが斬新だった1995年に、活発なアスカを長髪、

無口なレイを短髪にする「倒置法」は、相当アヴァンギャルドだった。

 

なお「綾波レイは人間か否か」は、本作の主題のひとつだが解答はない。

どちらともいえない。

カントクは否定したがるが、貞本らは「おねがいだから人間にして!」と抵抗しつづけた。

われら視聴者はスタッフに感謝すべき。

 

 

『機動戦士ガンダム』(テレビアニメ/1979-80年)

 

 

シンジの名言「逃げちゃダメだ」も、アニメ史的に重要。

「1話から主人公がロボットにのる」のがお約束であり、

商業作品である『エヴァンゲリオン』もしたがうのが当然だったが、

シンジの女々しい性格と整合性をもたせるのにくるしむ。

 

庵野は『機動戦士ガンダム』1話の全カットをチャート図にかき、秒ごとに分析。

主人公に逡巡する時間をあたえず、エントリープラグへたたきおとす。

監督よりプロデューサーとしての判断がまさったわけだが、結局後悔した。

いまさら70年代のアニメをなぞってどうするのかと。

 

 

設定資料(『ニュータイプ100%コレクション 新世紀エヴァンゲリオン』(角川書店)から)

 

 

庵野は「人間ぎらい」、そもそも「生物ぎらい」を自称する。

ヴェジタリアニズムと無関係に、子供のころから肉や魚をうけつけない。

 

メカの作画なら世界一なのに、人物がまったく描けない。

『風の谷のナウシカ』(1984年)に参加したときは、

戦車や爆発だけ自分で描き、キャラは宮﨑駿監督にまかせた。

宮﨑を「第二原画マン」あつかいしたアニメーターは、アンノくらい。

 

 

設定資料

 

 

『スキゾ』『パラノ』は、カントクの俗物的エピソード満載。

飲み屋で「ボクが『ナウシカ』の巨神兵を描いたんだ~」といって、

しょっちゅう女をひっかけた話は、偶像視されがちな通念と乖離する。

 

庵野はエヴァ制作の苦悩で自殺をかんがえたと、あちこちで吹聴するが、

ちかしいものほど真にうけず、「おまえが死んだら拍手してやる」とあしらった。

 

 

26話

 

 

25-6話はなんだったか。

ひとことでゆうと、18-9話制作時にスケジュールが破綻した結果。

大がかりなアクションをみせるのは、もはや不可能だった。

 

25話Aパートはプロデューサー大月俊倫、26話Bパートは貞本義行のアイディアを、

彼らがおどろくほど未加工の状態でたれながした。

 

 

企画書

 

 

企画書は全26話のあらすじが具体的にかかれてるし、最終話の構成案も存在する。

ラストシーンは父が「生きろ」といいのこし犠牲となり、セリフまで『ナディア』そっくり。

 

「父子の葛藤」にこだわりながら、脇道へそれるのが庵野作品のパターン。

エヴァも企画がうごきだしたころは、『セーラームーン』や『ああっ女神さまっ』など、

萌えが流行しだしたアニメ界に残酷なアンチテーゼをぶつけるため、

村上龍『愛と幻想のファシズム』を下敷きに、「男の戰い」を展開するつもりだった。

 

 

平松禎史

 

 

ではなぜ庵野はいつも、「父子の葛藤」を描けずにおわるのか?

実人生で抑圧がなかったから。

事故で片足うしなった父は、息子にとって障碍どころか、当人が障碍者だった。

反撥どころか、同情の対象だった。

 

18話でのトウジの負傷に、カントクの魂の座をみてとれるが、「脇道」にすぎない。

本作の敵役は「ゼーレ」がつとめた。

テレビ局や広告代理店への怨恨が投影され、ゼーレの描写自体はおもしろいけれど、

『新世紀エヴァンゲリオン』のライトモチーフが放棄されたのは事実。

 

 

平松禎史

 

 

『エヴァ』の面白いところって、あの作品を見た感想というのが、

その人の本質的な部分なんですよ。

その人が持っているいちばん強い部分が『エヴァ』の評価で出てくる。

カッコよさだけが、って言う人は、自分がそういう人間だってことなんです。

心理学的にその人の本質が見えてくる。

 

『スキゾ・エヴァンゲリオン』での庵野秀明の発言

 

庵野は「エヴァ占い」で、元上司・岡田斗司夫を斬って捨てる。

 

ボクにあてはめてみよう。

『エヴァ』のどこが好きかって、アスカがけなげで、攻撃的なところ。

……あたってるかも。

 

 

『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』(日本映画/2012年)

 

 

カントクは制作中も猛勉強し(24話に顕著)、神話的形式のアニメをしあげたが、

そこで「庵野秀明の神話」を描くことができなかった。

父を恨んでないのに、「父殺し」をかたりたがるのだから、おかしなひとだ。

男子ならだれでもグワーッとくる勇壮なイメージに、無邪気に惹かれたのだろう。

 

そして優秀なスタッフの意見に耳をかたむけ、『エヴァ』をひらかれた作品とした。

永遠に未完成だからこそ、愛される。

ボクとアナタとアノヒトの、おわらないフェスティヴァル。

「私小説」だけが藝術じゃない。

庵野を音楽家にたとえるなら、ダニー・ハサウェイやカート・コベインでなく、マイケル・ジャクソン。




庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン
(2014/11/20)
庵野秀明

新世紀エヴァンゲリオン (ニュータイプ100%コレクション)新世紀エヴァンゲリオン (ニュータイプ100%コレクション)
(1997/02)

関連記事

テーマ : 新世紀エヴァンゲリオン
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: エヴァンゲリオン 
最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 健

苑田 健

掲示板『岩渕真奈 閃光の天使』
も運営しています。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
05 | 2017/06 | 07
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 -
月別アーカイヴ
06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03