ディエゴ・トーレス『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』
(撮影:apasciuto)
モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」
明かされなかったロッカールームの証言
Preparense Para Perder
著者:ディエゴ・トーレス
訳者:木村浩嗣
発行:ソル・メディア 2014年
原書発行:2013年
2010年、レアル・マドリー監督となったジョゼ・モウリーニョが着手したのは情報統制。
クラブ一丸となり、バルセロナと審判とUEFAの「陰謀」を糾弾する体制をととのえた。
ソリのあわないクリスティアーノ・ロナウドに、得点後に抱きつくよう間接的にうながしたり。
つかえる手段はすべてつかう、本物の策士だ。
どれだけメディアを支配しようが、ロッカールームの情報はもれる。
選手の携帯電話の通信記録をしらべ、ホテルでは盗聴器をさがさせた。
サンティアゴ・ベルナベウでのマドリーダービー(撮影:Elemaki)
そんなどちらかといえば陰性で、参謀むきの男が、
サッカー界の主役になろうとしたのが、モウリーニョ現象のいびつさの主因。
ある選手は「自分をジョージ・クルーニーだとおもっている」と悪口をゆうが、
本人が尊敬する俳優はアンソニー・ホプキンス。
かれの言動が本気か演技か、だれもわからない。
2011年4月27日、バルセロナに「0-2」でやぶれたチャンピオンズリーグ準決勝第1レグ、
監督が退場処分になったのは、あとで負けたときのアリバイづくりでは、と選手はうたがった。
芝生の色や料理にケチをつけ、すぐ担当者をクビにする。
スネ肉は土鍋煮こみ、ヒレは鉄板焼き、肩肉はオーブン焼きにしろ……。
食通きどりでこまかく指示をだす。
肝心の選手たちは、さっぱりちがいを理解できなかった。
エスパニョール戦のロナウド(撮影:Twentyfivephoto)
インテル時代にスカラ座でオペラをたしなんだのが自慢のモウだが、
サッカー選手の息子であり、あまり知的な環境でそだったといえない。
プロになれなかった挫折感が、かれに過剰なインテリ的ふるまいをさせる。
リスボンの体育学校でまなんでいたころ、「自分は天才だ」とゆう霊感をえたらしい。
レアルの選手たちは、ボスの(肉の焼きかた以外の)知識がたりないことに不満をもつ。
守備は緻密だが、攻撃のアイディアをもっておらず、ロクに指示もださなくなった。
自由放任のくせ、ミスしたら責めるので、次第に「蹴るだけ」のサッカーに。
カシージャスやシャビ・アロンソらは、消極的戦術が我慢ならない。
バルサの面々とは代表の同僚であり、すくなくとも監督より弱点をしっていた。
そして敵の最終ラインにプレスをかけないのは自殺行為だとも。
フロレンティーノ・ペレス(撮影:FDV)
モウの代理人であるホルヘ・メンデスがのさばるのも、内紛の火種に。
メンデスと契約するのをことわったマルセロは突然冷遇されたし、
父親を代理人とするエジルも信用されなかった。
ペレス会長は、どっちつかずの態度でにげきる。
監督を切れば自分の責任問題となるから、それが賢明だった。
(撮影:Alfonso Jimenez)
火中の栗をひろうのは、主将のイケル・カシージャスしかいない。
本来、無口でおっとりした性格で、論争をさけたがり、チームメイトに批判されていたが、
モウのプロパガンダがあまりに悪辣で、スペイン代表の団結まで傷ついたため、
ついに「レアルの利益は、あなたの利益と一致しない!」とミーティングで叛乱おこす。
選手同士で相談し戦術変更、布陣をコンパクトにし、サイド攻撃に人数をかけることに。
ボスはそれをうけいれた。
うけいれるしかなかった。
11-12シーズンの優勝は、この不服従のおかげと関係者はみる。
優勝パレードで、モウはずっと7本指をたてた。
ポルトガルで2回、イングランドで2回、イタリアで2回、スペインで1回。
オレは各国で7度も優勝したすごい監督なんだぞ!
選手たちは鼻でわらった。
本書をよんでおもうのは、やはりジョゼ・モウリーニョは「すごい」ってこと。
監督に愛想つかし、移籍をのぞんでいたラッサナ・ディアラとの会話が、
名声にとりつかれた男の鬼気せまる横顔をつたえる。
「オレの人生から出ていけ。ほっといてくれ」
「しってのとおり、オマエを2000万ユーロ以下で売るつもりはない。
プレシーズンに合流すれば、プレーさせてやる」
「てめえの母親をつれてけよ」
「カスティージャ(Bチーム)送りにされたいのか?」
「勝手にしろ。そこで自由契約になるのをまつ」
毛虫の様にきらわれようが、頑丈でよく走るMFを手放さない。
ジダンは、「30年のサッカー生活で、あれほど狡猾な人間はみたことがない」とかたった。
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