アジア的奇襲攻撃

孫子の兵法書(撮影:vlasta2)

 

 

「兵は詭道なり」と『孫子』にある。

クラウゼヴィッツなどの戦争論は、こんなに欺瞞を重視しない。

『史記』にいたっては、荊軻など暗殺者を礼讃する「刺客列伝」まで立てる。

支那人は奇襲をこのむ。

 

孫子のいた春秋時代の支那は、クラウゼヴィッツのドイツより、

マキャヴェッリのいたルネサンス期イタリアにちかい。

同一文化内で離合集散をくりかえし、裏切りは日常茶飯事だったが、

おなじ民族間で戦争がおこなわれたので、憎悪は蓄積されない。

戦闘は、ある種の儀式として共有された。

 

異文化間の外交は、恐怖や怨恨や不信がはたらくのを、支那人は理解できない。

友を敵にするのは簡単だが、敵を友にするのは困難なのをしらない。

世界は自分たち同様、実利のみでうごくと信じる。

 

 

清軍に投稿したジュンガルの叛乱軍

 

 

劉暁波に2010年度のノーベル平和賞があたえられたとき、

中国政府はノルウェーに対しきびしい報復措置をとった。

ノルウェー政府は対処しようがなく、ひたすら困惑した。

 

領土問題で各国に脅迫的戦術をしかけるのは、開戦へもちこむためではない。

支那人ほど戦争をきらう民族はない。

それは、春秋戦国時代以来つづく儀式だ。

 

現在の中国の国境線は、清帝国の最盛時のものとなっている。

異民族に征服されてできた王朝なのは都合よく無視し、

「新疆ウイグル自治区」などの領有を正当化。

なら、インドとスリランカはおなじく英国に支配されてたから、

インドはスリランカの領有を主張できるのでは、と疑問がわく。

満洲族は中華文明にすみやかに同化されたから、

「実質的に漢民族の勝利」とゆうのが、かれらの論法。

 

いまだ孔子や孫子の世界にいきる支那人を反省へみちびくのは、

ノーベル平和賞でもみあわぬほどの難事業だ。

 

 

林羅山

 

 

戦国時代までの、現実社会に対するイキイキした知的関心を、

漢武帝による儒家国教化以降の支那はうしなった。

学問は、漢代以前の典籍に注釈をつけることを意味する様に。

 

それで安定した皇帝専制国家をつくりあげたのは評価できるが、

滑稽なのは、もろこしの聖人をありがたがる日本の儒者たち。

支那人が書をよむのは「官」になり、一族を裕福にする目的がある。

かたや日本では、いくら勉強しても官になれないし、その学問は社会でまるで応用きかない。

なのに、わが国で「学者」といえば儒者をさした。

 

 

狩野芳崖『悲母観音』(1888年)

 

 

明治期の日本は、「アジア」とゆう概念をヨーロッパからまなぶ。

福沢諭吉的な「脱亜入欧」でもよいし、岡倉天心的な「東洋の理想」でもよい、

いづれにせよ日本人の世界観は、ついに中華思想から解放された。

 

なぜ西洋人は広大で、文化的に多様な地域を「アジア」と一括りにしたか。

自分たちより下等な人間のすむ場所を定義するため。

いや、人間とすらみなさない。

20世紀でもイギリス軍の女性捕虜は、日本人の男の目の前で平気で着がえた。

猫や虫とおなじく、羞恥心の対象じゃなかった。

 

 

真珠湾で魚雷攻撃をうけるアメリカ戦艦群

 

 

江戸時代のなかば、本居宣長など「国学者」といわれる連中があらわれ、

死んだ学問を珍重しつづける日本の儒者を批判。

しかし儒学は役立たずな分、人畜無害だったが、

支那を全面侵略していた昭和前半にもてはやされた国学は、

天皇制を拡張せんとする侵略国家をみちびいた有害な流派となる。

 

ただ皮肉にも、「兵は詭道なり」に忠実に真珠湾を奇襲攻撃するあたり、

看板をかえても、身にしみついた戦略は孫子のままだった。







【参考文献】

エドワード・ルトワック『自滅する中国 なぜ世界帝国になれないのか』(芙蓉書房出版)

高島俊男『お言葉ですが… 別巻6 司馬さんの見た中国』(連合出版)




自滅する中国自滅する中国
(2013/07/24)
エドワード・ルトワック

お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国お言葉ですが…〈別巻6〉司馬さんの見た中国
(2014/06)
高島俊男

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