鶏肉と背筋 ― 『デス・レース』をみて

背筋

デス・レース
Death Race

出演:ジェイソン・ステイサム タイリース・ギブソン ジョーン・アレン
監督:ポール・W・S・アンダーソン
制作:アメリカ 二〇〇八年
[京成ローザ10で鑑賞]


ふたり分のなまえをもつ映画作家、
ポール・ウィリアム・スコット・アンダーソン。
期待をうらぎらない男だ。
そもそも、過度に期待をあおる作品をつくらないから、
うらぎりようがない。
アメコミCG大作とか、歴史スペクタクルものとか。
配役も地味。
ジェイソン・ステイサムはいい男だけど、ハリウッドスターじゃないし。
頭つるつるだし。
このイギリス人監督、
自分の手にあまる「大作」はつくりたくないようだ。
ジェイソンを起用したのは、マックイーン、ブロンソン、イーストウッドら、
「真のブルーカラー」の役者が奮闘する七十年代を意識したとか。

もしチャールズ・ブロンソンにケンカをふっかけたら、ぶっとばされるだろう。
ジェイソン・ステイサムにケンカをしかけても同じ。
ジェイソンも、本物のブルーカラーだ。
そんな俳優は、意外にも、あまりいないものなんだよ。

プログラム「ポール・W・S・アンダーソン監督インタビュー」
(取材・文/猿渡由紀)


ちゃらちゃらしたセレブリティはきらいで、
階級意識を配役にもちこむのが、英国流か。
ひとりで脚本をかいた本作は、社会批判ととれる面もあるが、
それは表にあらわれず、アクションの釣瓶うちがつづく。


映画は、説明不足なくらいが丁度よい。
ジェイソン扮する主人公は、妻ごろしの罪をきせられ、
あれよというまに殺人レースに参加させられるが、
家族をうしなうかなしみや、
本職のレーサーだった前歴について、なにもかたられない。
一方かれは、ぶあつい装甲に機関銃や対戦車ミサイルをそなえた、
フォード・マスタングGT車内のボタンに目をとめ、
なににつかわれるのかたずねる。
「これか? 車で一番大事な機能さ」といって、
それでタバコに火をつけるメカニック。
このシガーライターが、あとで武器としてしっかり活躍するのがうれしい。
ひきしまって無駄のない、筋のはこびがきもちよく、
これぞ映画だ、と陶酔にひたる。
粗野な印象もあるジェイソンだが、実はひたすら摂生の毎日。

―撮影中はどんな食事を摂っていたのですか?
ジェイソン:たっぷりのタンパク質と野菜。
それにナッツや果物を少し。
あとほんの少し乳製品も食べる。
パスタ、パン、砂糖はいっさいだめだ。
ジェースもだめだよ。
―そんな食生活は辛いですか?
ジェイソン:とても惨めだ(笑)。
でも役作りのためだからしかたがない。
理由があってやっていることだし、これも仕事の一部。
そうやってひとつのことに集中するのは、いいことでもある。

プログラム「ジェイソン・ステイサム インタビュー」
(取材・文/猿渡由紀)


毎朝五時におきて、トレーニングしてから撮影にはいる。
そして二時間ごと、まったく味つけがない鶏肉をのどにながしこむ。
囚人よりわびしい生活が、上掲の背筋をつくる。
は~、オレのからだがしまらないわけだよな。

でもイギリスのスタジオシステムは、あまり良くないんだ。
とくにアクション映画は事実上存在しないも同然。
だから、仕事があるところに行かないと。
つまり、カリフォルニアさ。

同インタビュー

映画俳優というよりは、でかせぎ労働者にちかい職業意識。


筋肉こそすくないが、それ以上に贅肉が皆無なのが、
レースの舞台となる刑務所の所長を演じるジョーン・アレン。
でも、あまりよい写真がみつからなかった。

331508view008.jpg

未使用の鉛筆ほどのヒールをたからかにならし、
細身に包帯のようにまきつくタイトスカートで、早足であるく。
ピサの斜塔にみならわせたい姿勢のよさ。
かわいげを母の胎内におきわすれたまま、五十二歳になりました。
本作では髪型や化粧がやや下品だが、
何着かのスーツすがたがながめられたから満足。
全世界の女もののスーツが、
ジョーン・アレン専用ユニフォームのレプリカにおもえるほど、よくにあう。
むしろスーツが皮膚。
アイロンいらず。
ジョーン・アレンといえば、「できる女」。
本作でももちろん、まわりの男を奴隷あつかい。
たまらん。
レースで、おきにいりの怪物車両をジェイソンに破壊されて、
"Damn It !!!!!"
ゾクゾク。
ジョーンが上司なら、よろこんで深夜まで残業するのに。
いや、おそろしくて絶対さきにはかえれない。
『ボーン・スプレマシー』『アルティメイタム』での好演で、
出演料はあがっていそうだが、よくでてくれたなあ。
格安の役者をそろえつつ、鍵になる役に大物をよぶ。
これは完璧な一作だ。
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