週末論の女神 ― ドゥンエン『4』

フリッグ

4
ドゥンエン (Dungen)

制作:スウェーデン 二〇〇八年


日曜日にとりあげたスウェーデン映画『愛おしき隣人』につづいて、
偶然ながら、きょうは同国のロックを。
北欧といえば、古代の神話がいまもいきづく土地。
うそです。
もしスウェーデン人が、
日本のロックを「記紀神話」になぞらえるのをきいたら、
オレもふきだすだろう。
ただ北欧の神話は、ふるくはワーグナーの楽劇や、
トールキンの『指輪物語』などに題材をあたえ、
当世でも日本のサブカルチャー、『ヴァルキリープロファイル』とか、
特にゲームに頻繁に顔をだす国際的な文化だ。
神話に著作権はないから。
まあ、そんな大陸の反対がわのいやしい民が、
ひきあいにだすのももっともということで、神々にゆるしをこう次第。
そして、すこし舌たらずにきこえるスウェーデン語のひびきが、
神秘的な連想に拍車をかける。


ことばは通じないが、決してむずかしい音楽ではない。
よどみのない旋律と、ピアノ、ヴァイオリン、フルートなどをまじえた、
おくゆかしい編曲が耳にやさしい。
中心人物であり、複数の楽器を演奏するグスタヴ・エイステスは、
ヴァイオリニストで音楽教師でもある父の指導をうけ、
古典音楽の素養を身につけたとか。
前作の"To Bitar"はバンド的ないきおいを感じさせたが、
"4"でグスタヴは作曲、演奏ともにピアノをおおきくとりいれ、
より繊細な世界をえがく。
特に最初の三曲は、ゆったりながれる時間がここちよい。

僕が何かを表現するにはスウェーデン語が一番簡単で、
僕にとってスウェーデン語での歌はサウンドでもあり、
全体に加える楽器のようなものなんだ。
歌詞は重要な意味を持っているけど、
別に聞き手にその内容を理解してもらわなくてもいいとも思っている。

インタビューでの発言
『ミュージックマガジン』十一月号、大鷹俊一の記事より

もし、このアルバムの曲が英語でうたわれたら、
夢幻劇の舞台をささえる重要な柱が犠牲になる。
それに我流の音楽だからこそ、国外で注目されているともいえる。
四曲目の"Samtidigt 1"(みじかい時間)では、
レイネ・フィスケのファズギターがほえる。
端正にぬったキャンバスが唐突にやぶかれるのが、ドゥンエンのおもしろさ。
レイネは発想ゆたかで、魅力的なギタリストだとおもう。


もっともこころにのこるのが、六曲目の"Fredag"。
「金曜日」という意味らしい。
ピアノの和音がリズムをきざむなか、
レイネのギターが、スカンディナヴィアの空に薄明の風景をえがく。
おもくるしい平日から解放される安堵と、
孤独で退屈な週末をまえにした憂鬱が交錯する、せつないしらべ。
ところで英語で金曜日のことを"Friday"というが、
この名称は愛と結婚、そして豊穣の女神である「フリッグ」に由来する。
未来を予知する力をもつが、それを決して口にださない。
そして世界のおわりのたたかい(ラグナロク)において、
息子のバルドルと夫のオーディンをうしなう。
なにげない日常語にも、神のいぶきがのこっている。
それにしてもこの神話は、巨人族との全面戦争をおこしたあげく、
神さまも世界も破滅するのだから過激だ。
おさきまっ暗じゃないですか。
たぶんこのくらく悲観的な色調が、世界的な人気の秘密ではないか。
というわけでドゥンエン、
能天気な音楽にあきた人間界のみなさまにおすすめです。


44
(2008/09/30)
Dungen

商品詳細を見る
関連記事

テーマ : 洋楽
ジャンル : 音楽

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
01 | 2024/02 | 03
- - - - 1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 - -
月別アーカイヴ
04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03