にがい生活 ― 『愛おしき隣人』をみて

愛おしき隣人
Du Levande
出演者:ジェシカ・ランバーグ エリック・ベックマン エリザベート・ヘランダー
監督:ロイ・アンダーソン
制作:スウェーデン、ドイツ、フランス、デンマーク、ノルウェー 二〇〇七年
[早稲田松竹で鑑賞]
はたち前後のオレは、映画はゲージュツだと信じていた。
銀幕にうつる影を神のことばとおもい、必死に目でおった。
アート志向というか、ちょっとした文学青年だったんです。
地下鉄をのりつぎながら一日三軒、映画館をハシゴするのも余裕だった。
いまではかんがえられない。
高田馬場の「早稲田松竹」は、千三百円で映画が二本みれるけれど、
いつも六百五十円分で力つき、そそくさと家路につく。
きにいらない映画なら、半分もみおわらないで席をたつことも。
スウェーデンでつくられたこの『愛おしき隣人』でも、そうなりかけた。
とりあえず三十分我慢したが、あいかわらず筋だてはまるでなく、
不気味な白ぬりの、名もわからぬ人物がぶつぶつと愚痴をつぶやくだけ。
作品の調子はかわりそうにないと確信した。
つぎの場面になったらかえろうとこころにきめて、
しばらくするうちに九十四分がすぎた。
あれ?
ゆったりしたリズムに身をまかせているうちに時間の感覚がくるい、
拷問のように感じられた空気が快楽にかわる。
カンヌ国際広告祭で八度もグランプリを獲得したアンダーソン監督は、
CFの世界ではしらぬもののない大物らしい。
べつに広告屋をあなどるつもりはないが、たしかに本作は、
三十秒のCFを百八十八本連続でみせられるようなつらさがある。
セット、役者のつらがまえ、構図、音楽、どれもセンスがよいが、
作品をつらぬくものがたりが存在しないので、
みるものの興味もながつづきしない。
各国の企業からせしめた金でつくったスタジオでの、
わがまま放題のわるふざけ。
これは北欧版のフェリーニだね。
ただし、豊満な美女と、オリーブ油がかおる料理と、
ワインと、ニーノ・ロータの音楽がないフェリーニ。
妙に禁欲的だから、つまらない。
ただ、なんとか最後までみおわった感想としては、
ここには人生の知恵がかくされているのかな、と。
家具と女は北欧産が一番うつくしいというけれど、
この映画では、しょぼくれた男女が「だれからも愛されない」と、
人生のつらさをなげいてばかり。
でも多分、かれらはさびしいふりをしている。
いまの自分は不幸だと宣言しておけば、これ以上つらくなることはない。
欲望の量がほどほどならば、些細なことでも満足できる。
作中で、豆かなにかを鍋でぐつぐつ煮ているだけの料理をみて、
女が「まあ、なんておいしそうなごちそうなの」とよろこぶ場面がある。
美食にこだわる日本人には理解できないけれど、
ちょっとうらやましかったりもする。
むかしは、場内にあかりがともるまで席にすわっていたオレだが、
いまではスタッフロールがはじまった瞬間に脱走する。
おかげできょうは傘をわすれかけた。
あくせくと欲ばりな日常をおくっていると、おもわぬ憂き目にあうのだ。

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