小説19-2 大宮の戦い

『自由か、隷属か』


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三週間がすぎた。

暑さと、出口のみえない連戦で、心身は消耗してゆく。

 

もともと北部戦線は目的が不明瞭だ。

発端はサッカー。

埼玉県知事が非常事態宣言を発し、県内での大規模イベントを禁止したところ、

浦和レッドダイヤモンズのサポーターが暴徒化、数千人で県庁を襲撃した。

知事は警察をうごかし弾圧にのりだすが、はげしい抵抗にあう。

浦和駅前のフラッグを撤去しようとした警官は袋叩きにされた。

しまいには赤い服をきてるだけで逮捕されるとゆう騒乱におちいり、軍が出動。

 

そんなわけでレッズサポーターが北方軍の中核をなす。

赤い服はやたら目立つし、なにかとゆうと「ウィーアーレッズ! ウィーアーレッズ!」とさわぐ。

カモフラージュもなにもあったものではない。

さっきもある兵にユニフォームを脱ぐよう指示したが、黙殺された。

 

「あれはあれでいいじゃない」と、トモコ会長が肩をもつ。

「そうか?」

「2011年のエジプト革命でも、サッカーのサポーターが大きな役割を担ったのよ。

かれらの行動力、組織力、鼓舞する力は、敵にとり脅威となる」

 

テントに赤服がはいってきて、「姐さん、よかったらどうぞ」と、かき氷をさしだした。

会長への貢物だ。

 

「『姐さん』? 会長はずいぶん慕われてるんだな」

「いってなかったっけ。わたしは去年からレッズのオーナーよ。本社がこっちだし」

「へぇ、サッカーにくわしいなんて意外だ」

「いや全然。オフサイドとかわけわかんない。

ただ女子チームに猶本光ちゃんてゆう、すごくカワイイ子がいてね。

彼女を支えてあげたいっていうか、直に会ってみたい、なんて……」

 

スプーンくわえて顔をあからめる。

戦争は、さまざまなプレイヤーの思惑が錯綜する、複雑怪奇なゲーム。

 

 

 

 

 

「兵は拙速をたっとぶ! 敵の意図はあきらかだ!」

 

たちあがって机をたたき、北方軍司令官の門田をどなりつけた。

きょうも作戦会議は紛糾する。

椅子から見上げるポロシャツの代議士は何くわぬ顔。

軍のナンバー3であるわたしと、どちらが上位かはっきりしない。

名目はこちらだが、国会議員が女子高生の風下にたつのは癪だから。

 

北部戦線はわが軍が優勢。

政府軍は東京で主力と合流したいらしく、強引に南へ突出をくりかえし、

そのたび側背をつかれ、じわじわ傷をひろげていた。

現在の兵力は6000、志願兵をふやしている自由軍の半分までへった。

出血に耐えかねてか、二三日まえから大宮の台地にあつまり、陣地を構築しはじめた。

いますぐ攻撃しなくてはならない。

 

門田は達者な口で自重論を説くが、要はおびえている。

大規模な衝突がもたらす結果に。

保身をはかる者との議論は無益だ。

スキャンダルをつきつけるか、それともたたっ斬るか。

 

「アーレオー、アーレオー、俺たちの浦和レッズ!」と、野太い歌声が外からひびく。

あわてて駆けでると、赤い群衆が太鼓にあわせ飛び跳ねている。

「大宮ぶっつぶせ」などと絶叫しながら。

そして指揮統制そっちのけで北東へ突撃をはじめた。

 

テントへもどると、とりのこされた北方軍幹部が虚ろな表情でたちつくす。

 

「あなたがたは出陣しないのですか? 兵が危険をおかしてるのに」

「低能のサッカー気違いどもが……」と、血の気のうせた門田がもらす。

「『善く戦う者は、これを勢に求めて人に責めず』」

「なに?」

「戦巧者は人材にたよらず、勢いにより勝利するって意味です。『孫子』勢篇」

「…………」

「では司令官、千仞の山をころがる様に戦ってきます」

 

 

 

おそらく敵が合流をいそぐのは、補給がとどこおっているから。

国道17号を北上すると、情報どおり政府軍のトラックが渋滞にまきこまれていた。

会長ひきいる弓隊の射撃のあと、斬りこんで糧食をうばう。

食いしん坊のジュンがよろこぶはず。

 

手勢を半分のこし、大宮公園へむかう。

ここが桜の名所の評判をとりもどすのに、あと何年かかるだろうか。

青葉は真紅の炎にのまれ、灰となり地面へかえってゆく。

氷川神社の祭神の怒りがおそろしい。

命からがら逃げ散る敵兵は、ひとりづつ血祭りにあげられる。

すでに勝敗は決した。

いい気になったレッズサポーターは、NACK5スタジアムまで放火。

翌日、将官6名ふくむ政府軍5500名が降伏をもうしでた。

 

 

 

 

 

戦いがおわり、川沿いの基地まであるく。

なまくら刀の血糊を拭きとる。

今回斬ったのは、トラックの三人。

ほとんど抵抗うけずに、突き刺し、薙ぎ払い、首を刎ねた。

アドレナリンの高揚がさり、殺人者としての苦悩だけのこる。

となりのトモコ会長と目があう。

多分おなじことをかんがえている。

二日でげっそり痩せ、美人女子大生の看板が台無しだ。

 

「わたしは荒事に向いてないわぁ……。ズルいけど、後方支援に専念するわ」

 

わたしだって向いてない。

殺せば殺すほど、痛感する。

そう宣言する勇気がないだけ。

 

「会長、こないだはありがとう」

「なんのこと?」

「例の患者を斬るのを止めてくれたこと」

「ああ、あれね。お安い御用よ。どうせ手を挙げるだろうと思ってたし。

刀で斬りつけたのはビックリだけど。あなたも止められるの想定してたでしょ?」

「そんなことはない。わたしはカッとなると見境なくなるから……」

「じゃあ無意識の計算か。いづれにせよ、士気をたかめる意図を感じたわ」

 

表情はつかれてるが、声にこちらを批判する調子はない。

会長はつづける。

 

「あなたは、わたしや本城さんの側の人間よ。理性にしたがう。

朱星兄妹はちがうわね。感情のまま生きる。血筋かしら」

「ジュンはわかるが、ジョージもか?」

「あらあら、灯台もと暗しで気づかないのかな。かんがえてみなさいよ。

妹が可愛くてしかたなくて、革命までおこしたのよ、あのお兄ちゃんは」

 

そういわれれば、そうかもしれない。

とにかく、感情ゆたかな兄妹のいるメッセへかえることが、いまのわたしの唯一の希望。


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苑田 謙

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