最後の権力 ― アンジェラ・デイヴィス『監獄ビジネス』

テミス

監獄ビジネス グローバリズムと産獄複合体
Are Prisons Obsolete?

著者:アンジェラ・デイヴィス
翻訳者:上杉忍
発行:岩波書店 二〇〇八年


この本をかいたデイヴィスは、
一九七〇年代には国際的にしられた活動家だったらしい。

アンジェラ
当時の著者の勇姿。

その後も少数者の立場から、
社会科学者として研究や政治活動をおこない、
一貫して戦闘的でありつづけている。
ただ、ながい闘争の日々をへて、
かれら、かの女らの要求は正当だとみとめられ、
オレのしるかぎり、すくなくとも建前では、
人種や性にもとづく差別は影をひそめたようにおもえる。
しかし、かの女の拳がおろされることはない。
つぎなる標的は「監獄」。
本書は、社会的不正義の源泉となる監獄制度の廃止をうったえる。
要するに、「犯罪者を牢屋にいれるな」という主張。
不勉強なので、こんな論争があることさえしらなかった。


アメリカの司法制度の闇はふかい。
現在、全世界で合計九百万人が刑務所や留置所、
少年院、移民収容施設に収容されているが、
合衆国には、そのうちの二百万人以上がいる。
おどろくべき密度だ。
貧困にくるしむ有色人種が地域社会からつれだされ、
極端に劣悪な環境にさらされ、
出所後も政治における発言権を半永久的にうばわれる。
社会の不平等を、監獄という制度がささえている。
監獄人口の膨張がはじまったのは八十年代、いわゆるレーガン時代。
やはりこの男がかかわるのか。
「社会を犯罪からまもる」ことを目的とし、
監獄建設と大量収監がかつてないいきおいではじまる。
監獄の建設とその運営は、建設業から食品、
保険医療設備にいたる巨額の資本を鉄格子のまえにあつめ、
著者たちはこれを「産獄複合体」とよぶ。
たとえばカリフォルニア州は、過去二十年間で監獄の天下となり、
三十三の州立監獄をかかえるにいたる。
研究者によれば、監獄建設ブームがはじまったころには、
公的な統計でも犯罪発生件数はへりはじめていた。
あせる司法・立法機関は空室をうめるため努力し、
麻薬取りしまりを厳格にするなど、おおくの「犯罪」をつくりあげた。


人種差別とたたかい、実際に成果をあげてきたデイヴィスなら、
社会運動に不可能などないと確信できるかもしれないが、
本当に社会から監獄をなくすことができるのだろうか。
もちろん著者も、現行の収監制度にとってかわるような、
単一の対案を構想するわけではない。
人種差別主義、男性支配、同性愛嫌悪、階級的偏見といった、
ひとつひとつの問題にたちむかう一連の対案をくりだすなかで、
社会の様相を根本からかえるべき、とといている。
たとえば、かの女は「麻薬使用の非犯罪化」を、
戦略の重要な構成要素と位置づける。
こういった個々の課題は国によって処方箋がことなるだろうが、
オレとしては、全体として著者の主張に説得力を感じた。
司法制度のおさむい事情は日本もおなじ、もしくはそれ以上であり、
たとえば刑事裁判における起訴有罪率は九十九・九%だという。
わが政府は事実上、無謬にして無敵というわけだ。
地球規模で国家というものが希薄化し、かろんじられる昨今だが、
国が最後まで手ばなさなかった権力、
いまや唯一にして最大の武器、それが司法制度だ。
わたしたちはもっとおそれ、
そして、挑戦しなければならない。


監獄ビジネス―グローバリズムと産獄複合体監獄ビジネス―グローバリズムと産獄複合体
(2008/09)
アンジェラ・デイヴィス

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