小説14-2 司令官

『自由か、隷属か』


登場人物表


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潮風が、浜辺にすわるアリアの金髪をたなびかす。

文庫本を手にしている。

 

「なによんでる?」

「『老子道徳経』さ。『水より柔らかでしなやかなものはない。

しかし堅くてつよいものを攻めるには水に勝るものはない。

水本来の性質を変えるものなどないからである』」

「アリアは読書家だな」

「肉体は稽古できたえられるが、精神は書物によるしかない」

 

ぶあつい紙のファイルをわたされる。

 

「新編制の草案だ。確認しておいてくれ」

「これを3日でつくったのか」

「いつなにがおこるかわからない。はやい方がいい。

200の兵員からなる大隊を基準に編んでみた。

問題は正規軍あがりが承服するかどうか」

「身内でかたまり、特権階級化してるからなあ」

「われわれもそう思われてるけどね。とりあえず元将校を位打ちにし、ばらけさせた。

編制の重要性は『孫子』勢篇にもかいてある。断行しよう」

 

確認もなにも、見ず知らずの人名の羅列に頭痛がする。

アリアにわらわれる。

 

「あっはっは……はてしなきデスクワーク、それが軍隊さ。

だから本当は、来島みたいな専門家にまかすべきなんだ」

「自分がおいだしたくせに。この参謀長の『中田ユージ』とゆうのは?」

「いつもクリップボードもってる元中尉。陸大次席卒業らしい」

「超エリートじゃないか。なんでまた叛乱軍に」

「さあ? かれはナンバー2として全軍を総攬してもらう。

ほかにフランとジュン君が参謀部スタッフとなる」

 

ジュンが参謀!

生まれてこのかた、団体行動できたためしがないのに。

 

「アリア自身はどんな役割なんだ」

「『軍監』。ナンバー3だが、直接指揮権をにぎる。土方歳三と山南敬助の関係さ」

「『燃えよ剣』か。さすが司馬遼太郎マニア」

「濫読がものをゆう。あと車輌が圧倒的に不足している。

台所事情はしってるが、どうにかしてほしい」

 

波打ち際から、わかい夫婦と幼女がのぼってきた。

まだ千葉は平和だ。

ちいさな指で、アリアの眼帯をさす。

 

「お姉ちゃん、その黒いやつの下みせて?」

 

恐縮する母親が、あわてて娘をつれさった。

アリアの細面に皮肉な笑みがうかぶ。

 

「……この世で一番残酷なのは、おさない子供だな。

戦争ごっこに興じるわれわれにゆう資格ないが」

 

M65系のジャケットの肩をだく。

上着ごしでも、おどろくほどほそい。

 

「気づかってくれるのか、ジョージ。ありがとう、でも大丈夫だ。

たしかにすこし動揺したが、こんなことで心を痛めてる場合じゃない」

「なんでもいってくれ。できるだけのことはする」

「おたがいにね。この戦争はながく、きびしいものになるだろう。

われわれのどちらか、いや両方が死ぬ可能性は否定できない」

「縁起でもない」

「どんなことがあっても、わたしは後悔しない。ただ最善をつくす」

「オレがいいたいのは……」

「わかってる。痛いほどわかってる。でもこれは摂理なんだ」

 

三つの瞳でしばらくみつめあい、口づけをかわした。

 

「愛してる、アリア」

「わたしもだ。いつも失礼なことをいってるが、最初から惹かれていた。

キミはほかの男とちがう。そうゆう相手から愛されるのは幸福だ」

 

 

 

 

 

基地の司令官室にもどる。

ハーフリムの眼鏡をかけた男が、クリップボードたづさえはいってきた。

ええと……そう、中田ユージ。元中尉。

 

「司令官閣下、編制案を検討しました。いくつか修正しましたが、おおむね原案どおりです」

「あのう、『閣下』は勘弁してください」

「もちろん冗談です。ボクは真顔でふざけるタイプなんで」

「…………」

 

修正ずみのファイルをわたされる。

 

「原案を作成したのは、眼帯の羽生さんですか?」

「そうですよ」

「仕事がはやくて感心しました。いづれボクがやるつもりだったのに。

優秀なひとですね。美人だし。こいつクソうらやましい……」

「はい?」

「いえ、ひとりごとです」

 

まったく表情がよめない。

 

「中尉、エリート軍人が高校生のしたで働くのは不本意でしょうが……」

「全然不満じゃないですよ。あなたは革命の象徴的存在だし」

「でもさっきの態度は……」

「気にいらないのは、あんな天使みたく純情可憐な妹がいるくせ、

中二病女戦士とか、ロリ軍師とか、美人社長とか、モテモテなところです。

どんだけテンプレなハーレムラブコメなのか。すこしは幸せをわけろよ!」

「…………」

 

まるで顔色かえずに、舌が高速回転する。

わかった、こいつはジュンの同類だ。

 

「カワイイ妹に毎朝おこしてもらって、一緒にお風呂はいってるんでしょ?

なにかってゆうとチュッチュしてるんでしょ?

実は士官連中と、『朱星ジョージ暗殺計画』をたてたことがあって」

「暗殺!?」

「革命さわぎで流れちゃいましたけどね。

なにをかくそう、陸軍のじゅんじゅんブームに火をつけたのは、このボクです!

ちなみに『じゅんじゅんブログ』の全記事にコメントしてますから。

要するに司令官への感情は、『羨望5割・殺意5割』ってとこです」

「そ、そうですか」

 

これからこの変態とつきあわなきゃいけないのか……。

 

「あ、プロだから仕事はきちんとやるんで御心配なく。軍務はまかせてください」

「よろしくおねがいします」

「ただ、ひとつ質問あるんですけど」

「なんですか」

「じゅんじゅんとあの教師、本当はどんな関係だったんですか」

 

もう何人にきかれたろう。

答えはいつもおなじ。

 

「兄妹は、近いようで遠いんです。わかっていても、オレの口からはいえません」



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苑田 謙

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