小説13-2 開戦
『自由か、隷属か』
海浜幕張駅につくと、「きがえてくる」といってジュン君がトイレへゆく。
入口の見張りはジョージにまかせ、わたしがつきそう。
内側のたかいところに窓がある。
尻をおしあげれば、襲撃されても逃がせるだろう。
おなじみのセーラー服で、悲劇のヒロインが個室からでた。
「……朱星ジュンだ……」
ざわめきだす改札口。
時計は6時すぎ。
本身をさげたふたりで両脇かためる。
武装が理由で逮捕されかねないが、丸腰のリスクの方がこわい。
無遠慮にカメラのレンズが集中。
好奇心からでなく、するどく警戒する視線も目にはいる。
もしあいつらが政府の手のものだとして、
黙認されるのは、ここが叛乱軍の勢力下だから。
緒戦にやぶれた叛乱軍だが、むしろ士気はたかまり、
千葉市の「幕張メッセ」を基地として接収、全国から兵をつのっていた。
おどろくことに、その数1万をこえたとか。
付近にマリンスタジアムや稲毛海浜公園などあり、収容は可能。
ロッテは今季のペナントレースの参加資格をうしなうが、
不人気のせいか、市民から特に不満の声はあがらない。
「……ようこそ、自由の震源地へ」
改札機ぬけたら、迷彩戦闘服の大柄な男に握手をもとめられた。
背丈はジョージとかわらないが、胸板あつく首もふとい。
おなじ格好の兵士を7人つれる。
「失礼ですが、あなたは?」
「来島ゲン。先月に不名誉除隊となるまで陸軍中尉。
キミは拉致事件で有名な羽生女史だね。お目にかかれ光栄だ」
「尾ひれつけて宣伝に利用されただけです、あれは。
あなたは叛乱ぐ……いや、メッセの勢力のかたですか?」
「内部では『自由日本軍』とゆう呼称が定着してるよ。
ちなみにわたしは秋葉原の戦いで指揮をとったものだ」
くちゃくちゃガムをかむ横柄なやつ。
あの混戦で、叛乱軍に指揮統制などあったはずない。
最初にわたしに話しかけた魂胆もみえすいている。
ジュン君やジョージを後回しにして主導権をにぎりたい。
乱世は、こうゆう野心家の背をおす。
南口のロータリーにレンジローバーが2台とまり、10人ほど男がおりた。
「蒼月学園のみなさん、お迎えにきました!」と笑顔でまねく。
「……徒歩数分なんだけどなあ。まあ乗るとしよう」と来島。
脊髄を電流がかけおりる。
出迎えに10人も必要なものか。
ジョージに「時間かせげ」とささやく。
かすかに会長(いまだそう呼ばれる)へ目くばせ。
自販機へむかうふりし、射界を確保しにゆく大学1年生。
矢筒の蓋があいている。
牛丼屋の社長にしておくにはおしい女。
探知しろ。
敵もおなじことをかんがえるはず。
どこかに別働隊がいる。
視野の右の限界に人影を感じた。
通行人がジュン君へ焚いたフラッシュでうかびあがった。
ククリ刀を二階建ての屋上へ投擲。
殺傷力など期待できないが、ほかに投げるものもない。
「敵襲っ!! 4時方向、屋上、射手2人!」
射手ひとりにククリが命中、もうひとりに矢がつきささる。
わたしのは偶然だが、会長の的中率はたのもしい。
抜刀したジョージが妹の手をひくも、まごついている。
さっきフランのタブレットで地図みたとき、脱出ルートをきめればよかった。
「直進! メッセへむかえ!」
わたしの叫びに反応し、かけだす兄妹。
来島たちがレンジローバーのまわりでチャンバラする。
「キサマら何者だ!?」とさけびながら剣をふるう元中尉。
「来島、撤退しろ!」
逆上してるらしく、馬の耳に念仏。
会長の矢が、またひとりつらぬいた。
敵の攻撃はよわまっている。
「……フラン、会長、われわれもゆくぞ!」
朱星兄妹を掩護するため、血のにおいのする闇のなかを疾走した。
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