鈴木恵美『エジプト革命』

2011年2月8日のタハリール広場(撮影:Mona)

 

 

エジプト革命

 

著者:鈴木恵美

発行:中央公論新社 2013年

レーベル:中公新書

 

 

 

2011年1月25日の大規模な反政府デモとその拡大をおそれ、

ムバーラク政権はインターネットや携帯電話の通信を遮断した。

 

民主化運動の中核はわかい大卒者で、

そのおおくはエジプトではまだ高価なPCをもち、扶養家族がいない。

かれらは組織化されず、リベラルで、信仰において穏健だつた。

 

 

「1月25日 エジプト民衆蜂起の日」としるされたホームページのバナー

 

 

小説のためアメリカ革命(独立戦争)を参照しておもつたのは、

おこるべくしておきた革命はないこと。

悪辣な為政者ほど権力維持に躍起となり、すぐ叛乱の芽はつまれる。

 

なぜエジプト革命は成功したか?

アラブにめづらしく、「エジプト人」とゆうアイデンティティをもつから。

地域にむすびついた軍閥もあらわれない。

 

 

テレビ出演する軍最高評議会メンバー

 

 

軍部はエリート集団としてあおがれ、国民をまもる存在とみなされてきた。

警察の様に弾圧の道具につかわれなかつた。

 

だが1.25を「クーボリューション」とよぶものもいる。

クーデターの側面がつよいから。

軍は法的根拠なく憲法停止、文民統制を否定する体制を死守した。

 

 

炎上する軍用車両(撮影:Jonathan Rashad)

 

 

軍部は、ムバーラクの次男ガマールへの世襲をきらつたらしい。

取り巻きによる経済的利権の切り崩しにあつていた。

 

エリートを自認する軍人は名声をおもんずる。

政治家以上に輿論に敏感で、デモにふりまわされた。

青年将校の組織的離反がおこるなど、軍内部もゆれる。

 

 

ウルトラスの応援手法をとりいれたムスリム同胞団に対するデモ

 

 

カイロのサッカーチーム、アハリーのサポーター組織であるウルトラスが、

革命をになつたのはおもしろい。

ひごろ治安部隊と対峙するのになれてるため、たよりがいがある。

かれらを鎮圧するには実弾が必要だつたとか。

 

大太鼓をたたくなどサッカーの応援手法は、デモをもりあげるのに有効。

 

 

軍の式典に出席するムルシー大統領

 

 

ムルシーが新大統領に就任する際、軍人は革命への貢献をほこつた。

われらこそキングメーカーとゆう自負があつた。

イスラエルの脅威や、戦略的拠点のスエズ運河の存在が、

軍の特権を国民にゆるさせる土壌をうむ。

 

ムルシー政権下で知事職は、軍部と与党・ムスリム同胞団のあいだで等分される。

権力と利益の分割、それが革命の成果。

 

 

ヌール党の選挙横断幕。女性候補者はベールで顔をおおう

 

 

ムバーラクの国民民主党は利権うしない自然消滅。

一方で過激なサラフ主義者が政界進出するも、

法案審議中にコーランをよみだすなど議会を混乱させる。

 

新大統領は支持層である農民を対象に、負債を免除した。

末期の鎌倉幕府みたいなポピュリズム。

ムスリム同胞団は「多数派」の驕慢があつた。

 

 

エジプト軍のフェイスブック。社会の二極分化をうれうメッセージをおくる

 

 

「革命で血をながしたのはわれわれだ!」

不満つのらせる青年勢力。

 

軍はフェイスブックで広報をおこない、新憲法についてアンケートをとるなど、

あきらかに国防以上の役割をはたしだす。

民意を口実に政治介入をつよめ、ついに今年7月3日、

今度はまぎれもないクーデターをおこした。

「民主的政権」は一年しかもたなかつた。

 

 

タハリール広場上空をアクロバット飛行する空軍機

 

 

クーデターとその後の報復の連鎖で、膨大な血がながれている。

青年勢力は誘惑にまけ、もともと敵だつた軍と手をむすぶ。

ロクに字もよめない農民がえらんだ政治家を排除するため。

民主化運動が民主主義を否定する矛盾。

 

文民統制を憲法で保障する思想は、人類のもつとも偉大な発明のひとつ。

「ナショナリズム」と「法の支配」、これがあるべき革命の両輪だろう。




エジプト革命 - 軍とムスリム同胞団、そして若者たち (中公新書)エジプト革命 - 軍とムスリム同胞団、そして若者たち (中公新書)
(2013/10/22)
鈴木恵美

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