イーサンのオートウォーク ― 『その土曜日、7時58分』をみて

オートウォーク

その土曜日、7時58分
Before the Devil Knows You're Dead

出演者:フィリップ・シーモア・ホフマン イーサン・ホーク マリサ・トメイ
監督:シドニー・ルメット
制作:アメリカ 二〇〇七年
[恵比寿ガーデンシネマで鑑賞]

※注意!このエントリはネタバレをふくみます!


山手線恵比寿駅で下車し、うごく歩道にのる。
子どものころからこのオートウォークがすきで、
いまだにちょっとわくわくする。
のっているときの近未来的な浮遊感がたまらない。
ガーデンプレイスに到着。

HNI_0001.jpg

きのう手にいれたニンテンドーDSiで、写真をとり加工した。
もちろんビールをのみにきたのではなく、映画が目的。
ここからさらにあるかなければ。
こんな僻地にある劇場のくせに、結構よい作品をかけるから腹がたつ。
場内が飲食禁止なのも納得できない。
オレは缶コーヒーなしでは映像に集中できないたちだが、
というかカフェインの力をかりても意識は散漫なのだが、
コーヒーくらいでまわりの客に迷惑はかからない。
それでも、いわゆる「ミニシアター系」は大抵この禁則があるけれど、
おそらく掃除の手間をはぶくのが理由なのだろう。
二時間のまずくわずでじっとしていろ、
と強制することが不自然だとおもわないのか。
むしろ場所柄をいかして、売り子を場内にまわらせて、
ヱビスビールを格安で販売してもらいたい。
しかしミニシアターの従業員はスカした手合いがおおく、
「ゲージュツをみせてやってんだよ」という態度が鼻につく。
あんたらは切符をきるのがしごとで、
そのあとはこっちの勝手にさせてくれ。
たかが映画なんだから、まわりの邪魔にならない範囲で、
すきなようにたのしまなくては。


なんと御年八十四、シドニー・ルメット監督の八年ぶりの新作は、
ポップコーンをつまみながら気軽にたのしむ風情ではない。
姿勢をただして、しかめっ面でスクリーンにむかうことを要求する。
藝達者なフィリップ・シーモア・ホフマンを主役にすえ、
アメリカの中流家庭の退廃をねばりづよくえがきだす。
「これがオレの遺言だ!」といわんばかりのすごみに気おされる。
しらふではつらいなあ。
二時間ホフマンの演技につきあうのも苦行だ。
愛嬌のない奥目でうすわらいをうかべ、しゃくれた顎、髪はうすい。
例によって腹はぽんぽこりんで、
ピンクとオレンジの中間みたいな色のシャツに、
パズルみたいな変な柄のネクタイをあわせ、
不快とまではいわないが、まあ視覚的にたのしい役者ではない。
このひと、声質もよくないとおもう。
ハスキーななかに、ザラザラと耳を刺激する攻撃的なひびきがあって、
ききぐるしく感じることがある。
一方、ホフマンの妻役で、ぬぎっぷりがすばらしいマリサ・トメイが、
うつくしいからだと、あだっぽいしぐさで眼福をあたえてくれる。

マリサ

四十三歳とはおもえぬかわいさで、ホフマンにはもったいないのだが、
オヤジごのみの女優という印象が。
どれだけ体あたりの演技でも、観客の想定の範囲からはずれることはなく、
結局ホフマンにくわれていた。


イーサン・ホークがホフマンの弟を演じる。

兄弟

だれかさんとちがって細身で、さっぱりと清潔感がただよう。
とても兄弟にみえないふたりだが、なんと実年齢の差はわずかに四歳。
こんな三十七歳になりたいよ。
それはともかくイーサン、やはりよい役者だ。
本作では、別居中の娘にまで「ダメ男」といわれるまけ犬だが、
まもってあげないとこわれてしまいそうな、
庇護心をくすぐるよわさがにじみでている。
顔だちに、少年ぽさをのこしているからだろうか。
最初はおさだまりの犯罪映画とおもわせる本作だが、
ものがたりは次第に収束し、家族同士の葛藤を濃密にえがく。
ルメット監督は冥土のみやげに、普遍的な主題に挑戦したかったのか。
宝石店強盗に手をそめた兄弟のうち、
役たたずの弟イーサンより、頭がきれる兄ホフマンのほうが、
はげしいいきおいでこころがこわれてゆく。
オレは長男だから。
オレは弟とくらべて、みた目がよくないから。
子どものころのコンプレックスが自我の表面にふきだし、
無意味な殺人をかさねて自滅する。
さすがのオレも、名演と評価せざるをえない。
声が耳ざわりとかいてしまったが、
それも、前半で成功した会計士としてのおごりたかぶりをみせて、
終盤の転落をきわだたせようという目論見だったようだ。
ところが、ベテラン監督ににらまれながら、主役としての重圧とたかかい、
壮絶な演技をみせるホフマンをよそに、
作中のイーサンは大金をかかえてあっさり逃亡。
甲斐性なしだけどなぜか応援したくなるし、さわやかな後味をのこす。
飄々として、地のままの芝居にみえるが、
アクのつよい共演者にくわれることもない。
かれがいなかったら、ひたすらおもい映画になっていただろうな。
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