戦後最高の首相、鳩山由紀夫
鳩山由紀夫が首相に在任した9か月が、歴史の範疇にふくまれつつある。
孫崎享・植草一秀との鼎談書『「対米従属」という宿痾』(飛鳥新社)で検證しよう。
その濃密な日々は、日本のただしい航路をさだめた。
政権がつづけば、消費増税もTPP参加も尖閣問題もオスプレイ配備も原発再稼働もなかつた。
予算編成では医療費・教育費を大幅にあげ、雇用をうみだす。
「子ども手当」は、利権が発生しないゆえ財務省などの抵抗にあうが、
土建屋と金貸しだけよろこぶアベノミクスより、よほど有効な「バラマキ」だつた。
環境問題においては、「鳩山イニシアチブ」が評価される。
在任中、そしていまも、政策それぞれの具体的内容は議論されない。
マスメディアは激烈に、全人格的な攻撃をおこなう。
「鳩山恐怖症」とでもよぶべきか。
かれのかかげる「友愛精神」を、脅威と感じるのだろう。
1979年5月31日付『読売新聞』社説
友愛の思想は、祖父ゆづり。
鳩山一郎は1956年、領土問題よりシベリア抑留者の生命をおもんじ、
病身おしてモスクワへとび、ソヴィエトと国交回復した。
「二島返還」の方針は、アメリカに妨害されたが(ダレスの恫喝)。
孫の由紀夫は政界引退後のことし1月、支那をおとづれ尖閣問題をかたつた。
むこうは戦争も辞さぬ覚悟で元首相をむかえたところ、
鳩山の「棚上げ論」は鎮静をもたらし、平和解決のため貢献。
かたや安倍政権とマスメディアは、感情的に反撥し醜態さらしたが、
当の読売新聞が1979年の社説で「棚上げ論」を説いたことを、どう説明するのか?
くわしくは上掲書などよんでほしいが、北方・尖閣・竹島の三つの領土問題すべてに、アメリカが関与する。
日本が周辺諸国とよしみをむすぶのは、米国の不利益だから。
ウィキリークスが暴露したアメリカの秘密文書のなかに、カート・キャンベル国務次官補の文書があつた。
「日本の外交窓口を鳩山-小沢ラインから、菅-岡田ラインへきりかえる」とゆうもの。
両国の官僚の密約で、外交はうごいてゆく。
首脳同士の関係はきわめて良好だつた。
バラク・オバマの鳩山への心づかいは、ケネディの原書をおくるなど、意外なほどこまやか。
ともに理想家肌のインテリで気があうらしい。
「トラスト・ミー」発言の報道されなかつた文脈も、鼎談書にある。
裕仁
普天間基地移転をめぐるゴタゴタは、鳩山政権を短命におわらせたが、
いまや基地を沖縄におく意味などないのに、ばかげた話だ。
冷戦期ならともかく、支那を假想敵国とするなら、ちかすぎる。
めあては「思いやり予算」。
米軍が日本にいるのは、軍事的でなく経済的理由から。
すこしばかり昭和史をまなぶと印象にのこるのは、裕仁の存在感。
基本的に頭がよいし、狡猾だ。
戦後日本は、裕仁のつよい意向にもとづき、米軍の駐留をみづからもとめた。
番犬に餌をやり、革命から身をまもる。
わが国の対米追従派を「アメリカの犬」とよぶが、むしろ米軍こそ「天皇の犬」。
共和制によらずして、日本の独立はない。
昨年のイラン訪問についても、国民は情報操作をうけた。
イラン大統領府のサイトに、曲解された鳩山の発言が掲載されるが、
本人の抗議によりすぐ削除され、イラン政府は幾度も謝罪した。
正気を失した日本のメディアは、「プロパガンダに利用された」と大騒ぎ。
イラン国民のあいだで日本の人気はたかく、
中東の原油に依存する日本にとつても、イランは最重要国のひとつ。
だからこそアメリカは、口だしをきらう。
鳩山の行動は「二元外交」と批判されたが、笑止千万。
外交は、国全体のリソースを投じおこなうもので、外務省の専管事項でない。
たとえ外務大臣がおとづれても、カウンターパートの外務大臣が応対するだけだが、
元首相なら大統領を会談の場へひきずりだせる。
米国のカーター元大統領がそうした様に。
ハトヤマ恐怖症の面々には気の毒だが、
世界で友愛を説く「宇宙人」の活躍に、かれらは歯ぎしりをつづけるだろう。
![]() | 「対米従属」という宿痾 (2013/06/08) 鳩山由紀夫、孫崎享、植草一秀 |
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