フェルナン・クノップフと妹マルグリット

『マルグリット・クノップフの肖像』(1887年)

 

 

フェルナン・クノップフはベルギーの画家。

弟と妹がひとりづついた。

 

これは6歳下の妹マルグリットの肖像。

父が司法官だつたクノップフ家は裕福なブルジョワ家庭だが、

純白のドレスは、やや身分不相応な貴族風。

不自然にまわされる左腕は、別人のものにみえる。

描き手が内面的にふれているのか。

 

 

『メモリーズ』(1889年)

 

 

イギリス贔屓のクノップフは、本作に英語の題をつけた。

 

テニスコートでたたずむ七人の女は、まるでうちとけない。

それもそのはず、みなマルグリットの写真にもとづき描かれた。

記憶を独占する妹。

妹地獄。

 

 

『沈黙』(1890年)

 

 

妹が結婚する年の作品。

画家の心情をさぐりたくなるが、妹は沈黙を強制する。

兄妹のあいだでおきることは、いえないし、いうまでもない。

 

 

『わたしはわたし自身に扉をとざす』(1891年)

 

 

ブリュッセル在住の英国人マクェット家の三姉妹が、孤独をなぐさめる。

あかい百合のむこうで頬杖つく長女エルシー。

 

クリスティーナ・ロセッティの詩に霊感えた。

 

わたしはわたし自身に扉をとざす

そして閂をかける、けれどもだれが

わたしをまもつてくれるだろう、いちばん嫌いなわたし自身から

 

クリスティーナはダンテ・ガブリエル・ロセッティの妹で、

ラファエル前派の画家たちのモデルでもあつた。

妹はネットワーク。

人類みな兄妹。

 

 

『愛撫』(1896年)

 

 

かれはマルグリットを描きつづけた。

何年たつてもおとろえぬ容姿のまま。

ここではスフィンクスとなり若者を誘惑する。

謎解きをこのむ生物だけあり、作品自体も難解。

兄妹愛とおなじくらい。

 

クノップフは、肖像画家として上流社会で人気を博すだけでなく、

ウィーン分離派やラファエル前派などと交流、

前衛絵画の分野でも国際的に評価されたが、50歳まで独身だつた。

ふたりの子連れの未亡人マルト・ウォルムスとは、3年後にわかれる。

幸福な結婚生活とはおもえない。

 

 

『ブリュージュにて 正面玄関』(1904年)

 

 

かれが育つたころのブリュージュは、貿易や金融が衰退、

だれもよりつかない「死都」とよばれた。

運河の再生により近代化をはたすが、クノップフはこの変化をきらい、

街をとおるときは濃いサングラスをかけ、目隠しした。

 

ノートルダム教会をえがく本作に、「死都ブリュージュ」の残像が。

想像でくみあわせたふたつの建造物は、袋小路の印象をあたえる。

 

幼少時の心象風景が、ひとの生涯をすべて規定する。

愛も、絶望も。






 

【参考文献】

『夢人館5 フェルナン・クノップフ』(岩崎美術社)



フェルナン・クノップフ (夢人館5)フェルナン・クノップフ (夢人館5)
(1990/06)

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