関谷あさみ『千と万』
千と万
作者:関谷あさみ
掲載誌:『コミックハイ!』(双葉社)2012年-
単行本:アクションコミックスコミックハイブランド
思春期女子なら、関谷あさみが一番かな。
本作は、中学一年の「詩万」と父のおきふしをえがく、毎話12ページの連載。
比較的仲のよい父子家庭で、重大な事件や深刻な葛藤はない。
「よかったなーおめでとう、明日はごちそうにしよう か……」
娘の初潮をよろこぶ無神経がゆるせない。
母親ならともかく。
「おめでとう」も、発言者によつては侮辱となる。
二コマめの背景に「マインスイーパ」が。
ヒントにもとづき論理的に地雷除去をこころみるも、男には無理ゲー。
日曜に友だちとあそびにゆく予定をたてる。
「遊ぶお金はちゃんと自分の使うけど」(←俺がやったこづかい……)
「電車代だけ貸してくれない?」(←返さない)
数百円をめぐる会話さえ、かみあわない。
お笑い番組の下ネタで爆笑。
なにをどこまでしつてるんだ?
無論、聞いてたしかめはしない。
デパートではたらく父の妹が、ケーキを四つもつてきた。
詩万は反射的にふたつとる。
注意されると、「大人なんだからひとつしか食べないでしょ」と非論理的に抗辯。
一個半たべて満足し、自室へもどる。
たべきれなかつたのでなく、のこしただけ。
あとでたべるつもり。
そのつもりだから、いいんだもん!
10話は、詩万以外の人物の頭上にハートがうかぶ。
プレイヤーキャラクターからの好意をしめすパラメータで、デフォルトは「♥♥♥」。
ドーナツ買つてきたら急上昇。
叔母の「那由」は、母がわりに詩万を世話したこともあつて、三人の関係がここちよい。
妹キャラはあらゆる物語素子をつなぐという、ボクの「妹=USB」説のただしさを再認。
神聖なるドーナツの箱へ手を突つこみ、ガサガサするのが不快。
妙にはしやいでるのも。
ヘイト値アップ!
なぜ娘に舌打ちされたか、父は見当もつかない。
あさみ先生の思春期女子がステキなのは、卒業生として内と外をえがくから。
共感したり、つきはなしたり、いづれにせよ真情こもつた、生身のオンナノコがいる。
乙女は内弁慶。
ピザの注文もできない。
半径1メートルの秩序を絶対視する。
家庭崩壊の危機。
ゲームしようと勝手にPCを起動したら、父のブログを発見。
「部屋を掃除しろと言ったら逆ギレされた(;´Д`)」とか、
顔だけかくした写真つきで「いつもジャージです(´A`;)」とか、内緒に娘をネタにして。
だれがなんといおうが、地上最強生物は思春期女子。
詩万が手にするのは、東京書籍の『NEW HORIZON』。
ボクは学園ものをよく読むが、テキスト名が明記されるのはめづらしい。
あさみ先生ならではの、マイクロリアリズム。
本作自体が、不偏不党の観点から記述された、オンナノコの教科書でもある。
![]() | 千と万(1) (アクションコミックス コミックハイ) (2013/06/12) 関谷あさみ |
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