アトランタオリンピックの内紛

 

 

1996年アトランタ五輪、グループD第2試合・対ナイジェリア戦で、

日本代表は「0-0」でハーフタイムをむかえる。

カヌ、オコチャ、ババンギダ、ヴェスト、アモカチ……結局この大会で優勝するメンバー。

2日前のいわゆる「マイアミの奇跡」の相手、ブラジルに遜色ない。

以下、キャプテンをつとめたMF前園真聖の著書、『12年目の真実』(ぴあ)にもとづき書く。

 

ロッカールームで中田英寿が、左WB路木龍次に声をかける。

最年少19歳は、いつもどおり冷静。

「もつと上がつてくれ、攻撃陣をサポートしてくれ」ともとめた。

それにきづいた西野朗監督が、会話にくわわる。

血相かえて。

「おいヒデ、チーム全体をかんがえろ! みんな頑張つてるんだ!」

 

路木の位置どりは戦術の要、ヘタにいじるとバランス崩壊しかねない。

中田の発言は、わるくいえば越権行為。

監督の許可がいる内容だし、直接いいづらいなら主将をとおすべき。

 

 

 

 

無論ヒデは承知のうえ。

監督と議論しても詮ないし、周囲に気をつかいがちなゾノに負担をかけたくない。

アタッカーとしてゾノは、ヒデと同意見だが、

攻撃陣は城彰二ふくめ3人の少数派、チームの総意として主張するのは心ぐるしい。

かわりに弟分のヒデが、輿論操作をこころみた。

 

野性的な印象のつよい前園は、実はどちらかというと、やさしい性格。

個性派ぞろいで、だれかに支配されたくない、五輪代表のキャプテンにふさわしい。

鹿児島実業高時代も、ひそかに「蹴つて走るサッカー」を嫌つていたが、

戦術変更をうつたえるなど思いもよらない。

だがシトラスボウルの15分だけは、私情をすて、合意を形成すべき時間だつた。

 

しこりを内心のこしたまま、チームは後半にのぞむ。

72分、スイーパーの田中誠が負傷、秋葉忠宏投入。

その秋葉が10分後にオウンゴール、さらに不可解なPKをとられ「0-2」で敗戦。

ブラジルを倒した英雄たちが、決勝トーナメントへすすめなかつた。

 

 

 

 

のちの前園の失墜は、語り尽くされた感がある。

4年後、シドニー五輪がひらかれるころ、自費でポルトガルやギリシャを転々とし、

練習に参加すれども居場所なく、ただの失業者になりかけた。

 

日本のプロ第一世代のゾノは、先駆者でありすぎた。

お手本がいない。

契約交渉の場に代理人をともなうだけで、猛烈に批判される。

ボスマン判決以降の、ヨーロッパ内の移籍ルールすら整備されてないのに、

日本人選手をいくらで売買すればよいか、だれもわからなかつた。

 

サッカーはカネぢやない、かもしれない。

でも、あせらずもう一年フリューゲルスに所属すれば、

よりふさわしい条件での移籍を検討できた、かもしれない。

彼は純粋すぎた。

直線的に、遠くを目指しすぎた。

 

 

 

 

アトランタ五輪登録メンバー18名のうち、川口能活・服部年宏・伊東輝悦がまだ現役。

城はゾノ同様、スペイン移籍がこじれたことによる落胆から、最後まで恢復できなかつたという。

ヒデは、青二才の雰囲気をただよわせたまま、サッカー史上もつとも美しくない引退劇のひとつを演じた。

松田直樹は、心臓がとまつてしまつた。

 

おそらく五輪代表のキャプテンマークは、服部がつける方がよかつた。

不器用なエゴイストたちを、ひとつの旗のもと戦わせるため。





12年目の真実 マイアミの奇跡を演出した男12年目の真実 マイアミの奇跡を演出した男
(2008/08/09)
前園真聖 戸塚啓

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