うつくしき妥協の産物 ― 『アイアンマン』をみて

パルトロウ

アイアンマン
Iron Man

出演者:ロバート・ダウニー・Jr グウィネス・パルトロウ ジェフ・ブリッジス
監督:ジョン・ファヴロー
(2008年/アメリカ/125分)


冒頭の場面。
…って、オレはいつも映画の導入部から話をはじめてるな。
まあ作り手が一番力をいれるところだし、
すぐれたファーストシーンは、あとにつづくすべての場面を予感させるような、
その映画の象徴になることがおおい。
アフガンで軍高官に対する新兵器のプレゼンテーションをおえた帰りの、
軍需企業CEOのトニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)が、
ハンヴィー(軍用の四輪駆動車両)のなかでわかい兵士たちと会話をかわす。

ハンヴィー
M1114ハンヴィー。

自虐ネタ、下ネタ、自慢、(女兵士に対しての)お世辞やらが、
若社長の口から自社のミサイルよりすばやくとびだして、
戦地にある若者の緊張をやわらげる。
兵器のプレゼンをする姿はカリスマ的で、
アップルCEOのスティーブ・ジョブズさながらだ。
ついに大企業の社長がヒーローになる時代がきてしまった。
わかくて、大富豪で、天才発明家で、見た目がよくて女にもてる。
しかもスーパーヒーロー。
まあ男の夢ですな。
運動能力に若干の不安をいだいてしまうが、
その辺は自作の戦闘用スーツでうめあわせる。
隙がない。
普通、映画の主人公は弱点をかかえていたり、
逆境におかれることで観客の共感をかちとるのだが、
トニー・スタークにその手の可愛げはまったくない。
しかし、演ずるロバート・ダウニー・Jrは饒舌なタイプの役者なので、
あふれだすセリフの洪水で、
反発心をもたれるまえに観客をまるめこむ。
うまいとはおもうけれど、あやうい綱わたりだ。
「トニー死ぬな!がんばれ!」と素直に応援しづらいオレがそこにいる。
くだんのハンヴィーはアフガンのゲリラに襲撃されるが、
兵器屋をまもるために応戦した兵士たちはどうだろう、
心のなかで疑問を感じながら死んでいったのではないか。


企業経営者に知りあいがいないので偏見かもしれないが、
かれらはたったひとりで悪とたたかうために命をかけたりしないとおもう。
このあつかいづらいヒーローを世話するためにやとわれたのが、
社長秘書ペッパー・ポッツに扮するグウィネス・パルトロウ。
うつくしくかつ有能で、通常業務の補佐以外にも、
おそらくトニーの自宅に同居し、私生活の管理までまかされている。
トニーがつれこんだ女を翌朝においだすのもかの女のしごと。
女に「ゴミすてもわたしの役目ですから」と嫌味をいったりして。
嫉妬心をほのかにのぞかせるグウィネスに、ひさしぶりにドキリとした。
ところで「グウィネス」って名前は日本語になじまないので、
これからは「パルさん」とよぶことにします。
そんなパルさんの、上司のまえでは女の顔は一切みせない、
マジメな勤務態度に好感をおぼえた。
ところがとびいり参加したパーティ会場で、
青いドレスをきた秘書のすがたにトニーは色めきだち、
かの女を強引にダンスにさそう。
「こんなドレスをきて、汗どめもつけずに上司とおどるなんて…。
同僚に絶対誤解されます、困ります」とあわてるパルさんがかわいい。
トニーが正義にめざめるにしたがって、
パルさんの衣装と態度がすこしずつ大胆になる。
あくまですこしずつ。
はじめは髪はアップにしたり後ろでたばねて、
かっちりしたスーツで身をつつんでいたのが、
次第に体の曲線がみえる服になり、ラストではノースリーブ。
綺麗なブロンドもみせてくれるように。
たたかう男にひかれて女が奔放になるのか、
男をその気にさせようとして女が誘惑するのか。
両方かな。
いずれにせよ、寸どめのロマンスがエンジンとなって、
物語がじわじわと高潮してゆく。
極端にはしらない大人のムードに、あか抜けた趣味を感じる。


映画をみるかぎり、
トニーは経営上の雑務は幹部のオバダイアと秘書にまかせきりで、
自分は地下室で大すきな機械いじりに没頭。
そして地下室には秘書しかはいれないので、
実質的に経営者としての窓口はパルさんだけということになる。
だから、会社がオバダイアに支配されていたこともしらず、
痛い目にあうのもあたりまえだ。
それに女あそびの後始末を女秘書にさせるなんて趣味がわるいよね。
あまったれのダメ男という気がする。
パルさんもパルさんで、重用されるのをいいことに、
ダメ社長に意見ひとついわず忠節をつくしたのは問題だ。
出世のためにわりきっていたのかもしれないけれど。
パルさんはわすれがたい『セブン』のヒットと、
共演者であるブラッド・ピットとの婚約およびその解消の話題で、
一躍セレブの仲間いりをはたした。
その後は大女優を意識したような発言と作品えらび、
さらには本人の中途半端な演技力が原因で、
生ぬるい職歴をつんでいるようにおもえる。
「アクション映画のおバカなヒロインなんてやってらんないわ」
とおもっていそうなパルさんの最新作は、典型的なアメコミ超大作。
子どもがうまれて職業観がかわったのだろうか。
でもかの女のぬきがたく地味なひととなりは、
アクション映画の脇役のほうが映えるような気がする。
そんな年相応の妥協のおかげで、
大人のロマンスと派手なアクションが一度にあじわえる傑作がうまれた。
男も女も、そして発明家もCEOも兵士もハリウッド女優も、
毎日妥協をくりかえしながら人生をいき、
恋をしたり人をころしたり世界をすくったりする。
そう、大人だから。
なんてすばらしいことだろう。
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苑田 謙

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