覇王のなかの覇王 唐太宗・李世民

 

 

 

支那の歴史4700年。

二十代のうち天下をとつたのは、楚の項羽と唐の李世民のふたり。

楚は一代でほろび、唐は300年つづいたから、

唐太宗の覇業は空前にして絶後。

 

 

 

李密らの叛乱でカオスにおちいつた隋末。

まだ十代の李世民は、北方モンゴル族に対する前線基地にいた。

父李淵に旗揚げをうながすが、のちの高祖は偽善者で、

立つ、いや立たぬと、フニャフニャ言を左右するばかり。

 

しかたないので罠にはめる。

父を酒宴へまねき、その席に煬帝の行幸用の宮女をこつそりはべらせた。

「これが帝にしれたら、ただで済みますまい」と脅迫。

 

世民はすでに、突厥など遊牧民族の騎兵戦術をもちい、自軍をきたえていた。

すみやかに南下し長安を占領、代王楊侑を天子の位につけ、傀儡政権をしたてる。

ゆたかな物資や文武の人材が、動員可能となつた。

 

 

 

大業14年、煬帝が江都でくびり殺される。

李淵は「臣下としてもうしわけない」と、偽善的に号泣した。

ほとぼり冷めると、煬帝の孫を処刑し、皇帝に即位。

 

新国家の脅威は、薛仁杲ひきいる西隣の秦。

唐が中原へ経営の手をのばすなら、まづ背後を討平せねばならない。

 

李世民は敵城ちかくに要塞をきづき、持久戦の意向をしめす。

余談だが、第二次大戦をあつかうリジー・コリンガム『戦争と飢餓』(河出書房新社)をよみ、

『孫子』の時代もいまも、歴史は食糧の争奪戦を意味するとおそわつた。

60日ほど対峙すると、城中は飢え餓える。

 

時期よしとみて、先鋒の将軍に陣をむすばせると、ジリ貧の敵はありたけの軍勢で攻めにでた。

攻めざるをえなかつた。

李世民は親衛隊とともに突撃、薛仁杲を精兵万余ごと降伏させる。

かれの戦略は、軍事というより政治だ。

 

 

 

つぎの相手は、山西を支配し、皇帝を称する劉武周。

李家の三男・元吉は防戦にやぶれ、家族だけつれ逃げかえつた。

 

次男坊の出番だ。

世民はまた要塞をかまえる。

そして騎兵をはなち、地域人民に浸透、後方を攪乱した。

 

補給線を絶たれた敵は決戦をいどむが、応じるはずもない。

やむをえず退却をはじめたところを、全軍をもつて急進、

息をつがせず一昼夜追いつづけ、数十回の勝利をえた。

劉武周は突厥に逃げこむが、やがて謀反の廉で殺される。

 

 

 

北征からかえり席のあたたまる暇もなく、河南の洛陽へむかう。

これまた帝位につき、国を鄭と号した王世充が、夏王を名のる竇建徳と同盟した。

いわば李世民包囲網。

 

だが世民は、河南と河北を一挙に平定する好機とみた。

洛陽城に対し塁をきづき突出にそなえ、みづからは本隊をひきい竇建徳の正面に陣をしく。

幾月も睨みあう。

例により食料不足で退陣しかけたところを追撃、

世民は騎兵の先頭にたち、敵陣の背後にぬけ前後から攻めたてる。

そうして捕虜とした竇建徳に縄をうち、洛陽城下をひきまわすと、

観念した王世充も城門をひらき降参した。

 

これで華北中原地方はほぼ統一。

 

 

どんなに用心していても、相手の十八番にはだれしもつい引っかかるのか、

あるいは戦術の最高はここにとどまって、ほかに考えようがないのか。

とにかく李世民ほどいつも同じやり方でいつも同じように敵に勝っている大将はほかにない。

 

宮崎市定『大唐帝国 中国の中世』(中公文庫)

 

 

 

『温泉銘』 太宗は歴代帝王中、第一の能書といわれる。よく学問するヒマがあつたものだ

 

 

 

問題は世民が次男であること。

すでに兄李建成が皇太子にたてられていた。

名分からいえば跡継ぎが跡を継ぐべきだが、弟は幾度とない戦役で、

軍と親密な関係をむすんでおり、へたに手をだせば国がふたつに割れる。

宮廷は緊迫する。

 

オヤジの高祖は、みてみぬふり。

兄弟喧嘩はこまるが、仲裁も肩入れもしない。

 

ついに世民がうごく。

日和見主義の父を説得し、建成と元吉を参内させる。

尉遅敬徳が親衛隊をひきい、玄武門で待ち伏せる。

警戒をものとせず、世民が長男坊を、敬徳が三男坊を射殺。

 

どつちつかずのオヤジは譲位をしいられた。

息子が優秀すぎると、男は歴史につまらぬ名をのこす。






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