悪をたずねて三千里 ― 『敵こそ、我が友』をみて

バルビー

敵こそ、我が友 戦犯クラウス・バルビーの3つの人生
Mon Meilleur Ennemi
監督:ケヴィン・マクドナルド
(二〇〇七年/フランス/九十分)
[銀座テアトルシネマで鑑賞]


いい男だ。
ととのった知的な顔だちで、ハンサムといっていいだろう。
ナチス・ドイツの親衛隊中尉で、
フランスでの抵抗運動に対する過酷な弾圧ぶりから
「リヨンの屠殺人」とよばれたクラウス・バルビーのことだ。
悪役に魅力がないと映画はつまらない。
『ラストキング・オブ・スコットランド』という劇映画をとっているマクドナルドは、
バルビーの端正な顔にひかれて記録映画に着手したのではないだろうか。
娘もでてきて、インタビューで父親の弁護をする。
「屠殺人」なんて表現は本当の屠殺人に失礼だ、とか。
それはともかく、娘も相当な器量よしなのでおどろいた。


バルビーは三つの顔をもっている。
ひとつは親衛隊時代の「リヨンの屠殺人」。
戦後はアメリカ陸軍情報部隊に協力した工作員。
一九五〇年以降は、名前をかえてにげこんだ
ボリビアの軍事政権に対する助言者。
まえの二つの顔をさぐるために、
ヨーロッパでのバルビーの足跡をしるものに話をきくのだが、
正直にいって映画としてはこの部分がよわい。
でてくるのは歴史家やジャーナリストばかりで、
書物からえた知識をかたっているだけだからつまらない。
ナチスの直接の記憶はうすれつつあり、
記録映画も成立しづらくなっているようだ。
ただ、アメリカが真におそれていたのは共産主義であって、
ナチスなんかは兄弟みたいなものとみなしていたことがわかる。
そして「ソ連とたたかう」というのはあくまで名目で、バルビーの情報や人脈は
ヨーロッパ内における活動家をとりしまるために利用された。


さらにマクドナルドは悪役の影をもとめてアンデスの国にとぶ。
時代がちかいせいか、実際に交流があった人間もおおく登場して迫力がある。
ナチス高官のおおくは南米にのがれたのだが、
バルビーはその残党を組織して「第四帝国」を建設することを夢みていた。
アメリカ政府は南米の共産主義勢力をおさえるため、
各地の野蛮な軍事政権を陰に日向に支援し、
ナチスの残党を教師として独裁政治の手練手管をつたえさせた。
ゲバラよりはヒトラーの方がマシということだ。
マクドナルドがこの映画をつくった意図は、ナチスの告発ではなく、
「テロとのたたかい」の大義名分のもとに拷問を正当化した
近年のアメリカ政府を批判することにあるようだ。
わたしたちの世界の道徳の境界線はあいまいで、
灰色の部分がおおきいことをしらなくてはならない。
なるほど、でも納得できないな。
そんなお利口さんの映画という感じはしない。


映画では、試写会に有名人をまねいてそのコメントを宣伝につかう。
本作でもタダで映画をみた連中があれこれかたっているが、
もっとも取るにたらないのは、漫画家・小林よしのりのものだ。

どこにも正義はない。
だれにも理由がある。
毒をもって毒を制すという現実は、理想を軽く吹き飛ばす。
甘いことは言ってられない世界で、
それでも道義を貫く術があるのかを我々は試されているのだろう。

映画『敵こそ、我が友 ~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~』公式サイト

正義はないけど道義はある?
カッコつけているだけで意味はまったくない。
「正義」と「道義」をいれかえて文を書きなおしてもなにもかわらない。
たしかにこの映画は、「正義はない」的な物わかりのよい主張がある。
でもそれだけじゃない。
そんなことをいうためにだれがわざわざアンデス山脈にゆくだろう。
そこには魅力的な敵役をえがきたいという映画作家の情熱がある。
悪にひかれるのは危険な性向にはちがいないが、
逆にいえば内心に正義が存在することの証明だ。
ファシズムとたたかう、共産主義とたたかう、テロとたたかう、
そのこと自体になんの問題があるというのか。
「なんだかんだいってアメリカも悪なんだよね」としったかぶりし、
目のまえの不正を見のがす心のよわさが、
結局悪党どもにつけこまれる原因となるのだ。
いつの間にかわすれられたウサーマ・ビン=ラーディンも、
どこかの隠れ家でほくそえんでいるにちがいない。
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苑田 謙

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