『ジュリアン・アサンジ自伝 ウィキリークス創設者の告白』

ヒュドラは靴を一足しかもたない

 

 

「付随的殺人」より

 

 

ジュリアン・アサンジ自伝 ウィキリークス創設者の告白

Julian Assange: The Unauthorised Autobiography

 

著者:ジュリアン・アサンジ

訳者:片桐晶

発行:学研パブリッシング 2012年

原書発行:2011年

 

 

 

 

教養あるものだけが、智的業績をなしうる。

ウィキリークス設立者ジュリアン・アサンジもそのひとり。

 

たとえば強姦容疑でぶちこまれたウォンズワース刑務所を、

ロベール・ブレッソンの『抵抗』にみたてる。

あの映画の本当のすごさは、

スプーンで煉瓦をたたく音がオーケストラにきこえる音響技術にあるとか。

自分がまきこまれた訴訟は、『荒涼館』の「ジャーンディス対ジャーンディス裁判」。

 

プルーストじみた表現を許してもらうと、僕のなかにいる官能主義者は

母によって育まれたもののようで、心の目のどこかに、

母が干した柄模様のスカーフが乳母車の上ではためく情景が焼き付いている。

スカーフの生地を貫く光が、僕の手や脚にさまざまな色や形を映し出している。

 

母クリスティーンは舞台女優で、まづしい放浪生活を息子に強いたが、

かけがえない影響をその精神にきざんだ。

 

 

 

 

十六歳でついにコンピュータにであつたアサンジは、名うてのハッカーとなり、

警察につかまり、2003年、年少者にまじりメルボルン大学で数学と物理学をまなぶ。

 

量子力学に没頭した。

ものごとがどう構築されているかに目をこらし、真の算定基準をみつけることで、

人間主導による世界の変化の理論がみちびかれる。

その応用として情報を物体としてとらえ、市民のあいだをかけめぐる情報が、

社会をかえる可能性について熟考をはじめた。

 

史上初の、民衆にとつての諜報機関の誕生だ。

 

 

 

 

 

ギュスターヴ・モロー『ヘーラクレースとレルネーのヒュドラー』(1869~76年)

 

 

旧メディアは、アサンジの哲学に無関心。

そして銀色の髪とか、だれがガールフレンドだとか、猫を愛でるタイプの変態とか書く。

 

だが1980年代後半以降に成人した世代は、「人格」なぞアテにしないと彼はいう。

コンピュータが話題になると、

部屋にとじこもり世間とつながろうとしないオタク、と結論はきまつている。

実際は、つながつてないのはテレビに釘づけになつてる連中だ。

 

個人的なことをいうと、ボクはコードひとついじれぬ藝無しだが、

一日でもつとも充実感をおぼえるのは大抵、自分のPCとむきあうとき。

 

アサンジはウィキリークスを、ギリシア神話のヒュドラにたとえる。

彼らを活動停止させようと数あまたの訴訟がおこされたが、

ウィキリークスの頭をひとつ斬り落しても、また別のがあらわれる。

 

 

 

 

 

 

 

2010年に公表された「付随的殺人(コラテラル・マーダー)」

米軍のアパッチが、イラク民間人を映像におさめる。

ロイター記者のもつカメラをRPGと勘違いする。

正確にいうと、殺す理由がほしくて、積極的に錯誤をおこした。

 

 

 

 

火をふく30ミリ機関砲。

 

 

 

 

上空の兵士らは卑屈にわらう。

 

 

 

 

引き裂かれた丸腰の市民たち。

このあとふたりの子供も負傷した。

 

二千人の名がしるされたリストの順に暗殺する「タスクフォース373」や、

一万五千の市民の死に光をあてる『イラク戦争報告書』などの情報を公開。

 

現代の戦争は、最新テクノロジーがもたらす魔法でなく、

むかしながらの流血と悲劇と不正義が渦まく泥沼だ。

 

鼻をあかされた国防総省は、百二十人体制で報復にでる。

 

 

 

 

世界の支配者からおわれる男が、女の体にやすらぎをもとめても無理ない。

ただ彼は、スウェーデンのジャーナリストから「ハニートラップに気をつけろ」と警告されていた。

それでもハメをはづす。

銃をもてば撃ちたくなるのとおなじ。

 

スウェーデンはいろいろススンだ国で、過激なフェミニズム国家でもある。

政府にちかい辯護士クレス・ボルグストロムが、ヒュドラに下半身からとどめを刺す。

アサンジによると、スウェーデンのアフガン派兵は、フェミニズムの原則にのつとりおこなわれた。

ターリバーンの性差別をとめるべく、爆撃せよと。

 

 

 

 

「アサンジ」は耳なれぬ姓だが、彼の曽祖父の父の父は、台湾から木曜島へながれついた海賊。

ミステリアスな風貌にも、量子力学的な因果性がある。

 

車も家もなく、靴は一足しかもたない。

所有物は、数冊の本と髭剃りとノートPC二台。

髪は、作業中に友人にきつてもらう。

 

それでも男は、空爆よりましな仕事ができる。






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(2012/09/25)
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