鈴木宗男『政治の修羅場』

それは危険な稼業

 

 

 

 

政治の修羅場

 

著者:鈴木宗男

発行:文藝春秋 2012年

[文春新書]

 

 

 

 

「北海のヒグマ」の異名をとる政治家・中川一郎は、

ロッキード事件で田中角栄が逮捕されたとき言つた。

 

「オレは角さんの様にはならん。

なにかあれば秘書の鈴木宗男が捕まつてくれるから心配ない」

 

田中事務所はオーベルシュタイン主義で運営されていた。

つまり「ナンバー2」がいない。

だれより頭の切れる角栄に、分身なぞ不要。

だから火の粉をあびた。

 

1982年、後援会幹部から推された著者・鈴木は、

参議院出馬の意志があることをボスにつたえる。

 

「お前が五分いなくなれば両手をもがれる様なものだ。オレは代議士を辞める」

 

キルヒアイスが長生きすれば、こんな場面もあつたか。

忠臣は立候補を撤回した。

 

 

 

その年、中川は自民党総裁選で敗れていた。

勉強会でおとづれた豊見城で旧海軍の電文をよみ、

落涙しながら総理大臣への野望をもつ。

右翼仲間の石原慎太郎がそれを煽る。

直情的な中川は、国民の人気があつた。

だが予備選の結果は最下位だつた。

 

総裁選をおえた挨拶のため、福田赳夫の自宅へゆく。

主は不在で、酒を御馳走になる。

飲みすぎた中川は、帰宅した福田に、長年の鬱憤をぶつけた。

ちなみにこの酒乱癖は、長男・昭一に受け継がれた。

 

翌年三月、大食漢の中川は夜十時すぎ、

ホテルのルームサーヴィスで味噌ラーメンを二杯たべたあと、自殺。

周囲がみな敵におもえ、絶望していたらしい。

 

 

 

一方で中川の妻・貞子は、鈴木の追放を画策していた。

次男の英二を後継者として、秘書に据えるため。

「鈴木のクビを切らないなら、別れます」と夫を脅す。

 

この夫婦の仲の悪さは有名だつた。

喧嘩ばかりし、貞子はよく病院へ駆けこんだ。

鈴木はそのたび見舞いにゆき、仲をとりもつた。

おのれの恥部をしる秘書を逆恨みしたか。

生活費を自宅にとどけるのも、分身たる鈴木の仕事。

これもおもしろくない。

 

初七日法要、旧知の政治家が顔をそろえる前で、貞子は鈴木を糾弾した。

秘書の裏切りが中川の死の原因だと。

鈴木は反論しようとするも、ほかの秘書にとめられた。

 

 

 

家督は長男が継ぐべしということで、昭一が十二月の総選挙に立候補、

無所属でたつた鈴木と争う形となり、両者ともに当選をはたす。

 

 

 

 

 

 

鈴木宗男といえば、ロシア外交。

橋本龍太郎首相につかえた当時の話がおもしろい。

クラスノヤルスクでの日露首脳会談を、内閣の一員としていくつか振りつけた。

 

「総理、手土産にはカメラがいいですね」

「ならオレのカメラをわたそう」

橋龍はカメラの趣味があつた。

「バカ言つたらいけません。エリツィンがいちいちピントや露出をあわせて撮りますか。

誰でも撮れるのがいいです。特にズームが出たり入つたりするのがいい」

「ズームねえ」

「ロシア人は下ネタが大好きです。

ズームは男のモノが出入りするのにそつくりだから喜びます」

「そうか。外務省の説明はまつたく参考にならないけど、

ムネちやんの話は琴線にふれるなあ」

 

エリツィンと一緒にサウナにはいる予定もくんだので、こうおしえた。

「エリツィンは総理のモノを握つてきます。信頼感をしめすロシアの伝統です。

だから握られても、嬉しいつて顔しなさい」

「いやムネちやん、それは気持ち悪いよ」

「総理、国益のためだ!」

 

橋龍は諜報の世界に関心があり、モサド長官としげく非公式の会見の場をもつたとか、

小渕時代にキルギスで日本人の鉱山技師四人の誘拐事件がおきたとき、

プーチンから情報提供を打診されるも小渕はそれを拒絶し、

鈴木の決裁のもとキルギスに三億円支払つたとか、おそろしいことが平然と書いてある本だ。

 

 

 

中央省庁再編のとき、外務省は「外政省」になるはずだつたが、

著者の働きかけもあつて組織も名称も維持できた。

外務省幹部は土下座で感謝した。

そして知りすぎた男は、また逆恨みの対象となる。

 

2001年、天才政治家の娘・田中眞紀子が外務大臣に。

不勉強な眞紀子と小泉純一郎が、機が熟しかけた北方領土返還を雲散霧消させた経緯は、

くわしい検證が必要だろうが、国民はしつておくべきだろう。

 

そしてムネオは、マキコの巻き添えをくう形で、霞が関に潰される。

ズームつきカメラを大層気にいつたエリツィンに提示した、「川奈提案」という成果をのこして。






政治の修羅場 (文春新書)政治の修羅場 (文春新書)
(2012/06/20)
鈴木 宗男

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