サル山から遠くはなれて ― ジェラルド・カーティス「政治と秋刀魚」

サル山

政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
(ジェラルド・カーティス 著/2008年/日経BP社)

アメリカの政治学者で、日米の政治交流にもおおきな役割をはたした人物による自伝的書物
日本語で書いたらしい
学者ではあるが書斎にこもるのはすきではないそうで、わが国の政治家の逸話もたくさんあっておもしろくよめた
著者がはじめて日本の土をふんだのは、東京オリンピックがひらかれた昭和三十九年
中曽根康弘としりあい、かれの紹介で大分の自民党候補である佐藤文生の選挙運動につきそい、その研究結果を「代議士の誕生」という論文にまとめる
この本が評判になって、その後の自民党の有力者たちと親交をむすぶことになる
あったことがない総理大臣はあの宇野宗佑だけだとか

竹下登からは政治資金の配りかたの極意をおそわる
陣笠代議士が金丸信(床下に金塊をためこんでいた)のところに金をもらいにゆくと、金丸はぽんと三百万円のはいった封筒をわたすだけ
しかし田中角栄の場合、封筒をわたしてもその場ではあけさせない
「よしゃ、よしゃ、あけなくていい。これを使ってがんばってくれ」
代議士が事務所にもどって封筒をのぞくとあらびっくり、中には四百万円の札束が!
こうやって手下の心をつかむわけです
非常に勉強になります
著者は大分での選挙運動では日本政治独特の「お流れ」の洗礼をうけることになる
地元の支持者たちからむりやり酒をのまされるつらい役目だ
よっぱらって目をまわした「ヘンなガイジン」をみて世話人たちはおおよろこび
政治家は酒をのむふりだけをして、盃をあらう器のなかに中身をすてる作法を身につけているのをしらなかったのだ
こうやってどぶ板をふみしめながら地盤をかため、党内では金のやりとりで権力闘争をくりひろげながら、戦後の政治はつくられてきた

著者はそんな「どぶ板選挙」をけっして非難はしていない
そもそもどんな国でも政治なんてかっこいいものではないのだ
カーティスは1969年、日米の政治研究者が会談する「下田会議」にくわわる
いまではかんがえられないが、「革命」がそれなりに本気でかたられていたこの時代では、ちょっとした民間人どうしの会合も政治思想上の反発をまねいたらしい
まずは愛国党総裁・赤尾敏が会場である下田東急ホテルに突撃する
「共産主義とたたかえ」とかなんとかさけぶ赤尾を、あわててかけつけた警察が連行してゆく
お次は労働組合連合会の総評の代表団がやってきて、「アメリカ帝国主義反対!」
右に左にといそがしいことだ
そんな混乱のなか、著者は過激派の演説にまるで熱がこもっていないことに気づく
義務感で共産主義や帝国主義を批判しているだけで、かれらは日本の過去を象徴しているにすぎないと見ぬいたらしい
熱狂の高度経済成長時代をへて、日本の政治も安定期へとむかってゆくのだった

官僚の優秀さに対する信仰はおとろえたとはいえ、すくなくとも日本の経済成長や政治的安定は政治家ではなく、官僚のおかげだったと信じているひとはいまだにすくなくない
しかし重要な外交問題や、官庁間の合意がない国内政策については、政治指導者による決定がおこなわれてきた
そもそもわが国は、国民あたりの国家公務員の数が他国とくらべてすくないとか
そして自民党という政党は、選挙民のニーズに敏感な「党人派政治家」と、政策に通じた「官僚出身者」の二人三脚で政権をにないつづけた
党人派は官尊民卑の態度がぬけない元官僚に我慢がならなかったし、役人あがりの政治家は「どぶ板」政治家に政策はまかせられないとかんじていた
しかしつめたい印象の官僚出身者ばかりでは国民に愛想をつかされる
一方で当時の役人あがりの政治家は事務次官や局長の経験者がおおく、現役の官僚も元上司の声を無視できなかった
自民党というサル山でははげしいボスあらそいがくりひろげられていたが、その一方でことなる経歴をもつものどうしが手をくんでまとまり、政権の独占状態を維持してきたのだ

しかしいまの自民党では地方政界からのしあがる議員は激減し、いわゆる「二世議員」にとってかわられた
かれらはどぶ板選挙や派閥の権力闘争をバカにしているわけだが、ぶっ倒れるまで「お流れ」で苦労した父親のおかげで自分が現在の地位にあることを理解できないのだからわらってしまう
「官僚→政治家」というコースもいまでは様変わりしてきている
六回当選しないと大臣になれない自民党の組織構造では、五十歳をすぎて政界にうってでてたところで大臣になるころには引退の時期をむかえることになる
したがってわかくして政治家に転身する官僚がふえたが、ペーペーではコネも経験もとぼしくて役にたたない
自民党の非公式の調整メカニズムは機能しなくなり、民主党の躍進におびやかされることに
しかし「単一民族」である日本社会における小選挙区制においては、候補者が51%の票をとろうと運動をおこなうため、各党の政策は似たり寄ったりになってしまった
アメリカ流の小選挙区を導入すれば「政策中心」の選挙になるとさんざんいわれていたのにね
結果としていまの政治では党のリーダーに過剰にスポットライトがあたり、選挙は党首の人気投票に堕してしまった
活発だったサル山はいつの間にかさびれ、退屈なサル回しの芸がはじまった
われわれはいつまであくびをかみ殺しながらおつきあいしなくてはならないのだろうか

政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年政治と秋刀魚 日本と暮らして四五年
(2008/04/10)
ジェラルド・カーティス

商品詳細を見る
関連記事

テーマ : 政治・地方自治・選挙
ジャンル : 政治・経済

最近の記事
記事の分類
検索とタグ

著者

苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

Twitter
メール送信

名前
アドレス
件名
本文

カレンダー
02 | 2021/03 | 04
- 1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31 - - -
月別アーカイヴ
04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03  02  01  12  11  10  09  08  07  06  05  04  03