重要な更新があります? ― 「攻殻機動隊2.0」をみて

更新

GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊2.0
出演:田中敦子 大塚明夫 山寺宏一
監督:押井守
(2008年/日本/85分)
[新宿ミラノ1で鑑賞]

となりでやっているウォシャウスキー兄弟の「スピード・レーサー」とどちらをみるか迷っていたが、ひろい劇場のミラノ1にはいることにした
オリジナル版はすでにみていたのだけれども
そうささやくのよ、わたしのゴーストが
攻殻機動隊(オリジナル版1995年公開)のパクリ映画で富と名声をきずいたチャウチャウ兄弟だが、新作ではずっこけてキャメロン・ディアスのロマコメにもまけてしまったとか
人生ってきびしいわね
映画がはじまって三十分くらいして気づいたのだけれど、おれはじつはこの映画は未見だった
たしかDVDをかりてみた記憶があったのだが…
いつゴーストハックされていたのだろう

「2.0」では、3Dのカットをいれたり音声を大幅に変更するなどしているらしい
とくに銃声はなまなましくきこえた
CGによる人物の造形はつまらないし、出来もよくなかった
おれはアニメ自体もすきではなく、スクリーンでは生身の役者による演技をみたい
押井守作品だったら実写の「アヴァロン」がいちばんよいとおもう
新規アフレコにより、田中敦子の非情でありながらもかすかに官能のほのおがゆらめく声を堪能することができた
草薙素子という役をそれこそゴーストのように完全に自分のものとしているのがすばらしい
どっちがどっちのゴーストなのかはわからないが
荒巻大輔は、TVアニメ版の飄々とした阪脩のほうがふさわしいとかんじた
それはともかく、タイトルの小数点と小数第一位は意味不明瞭ではずかしい
とはいえこまかい修正点を更新した上で、ふたたびこの2008年の劇場にかける価値のある作品にはちがいない
十年や二十年でふるびたりはしない傑作だ
いまの押井自身も「アニメーションのピークの時代に作られた作品」だとかたっている
現役の作家がそういったところでなんの得もないので、たぶん本当なのだろう

士郎正宗による原作の漫画はごちゃごちゃしたコマ割りとだいぶかたよった政治的姿勢が特徴だが、映画では禁欲的な美意識につらぬかれた様式がとられている
登場人物はみな無表情で人形のようであり、雨、海、川が画面のおおくを占めて、水が視覚上のモチーフとなっている
そして原作の主題がよりきわだってつたわる
政治、経済、文化、道徳…ありとあらゆるものがウソくさくニセモノじみた現代社会
おのれの肉体ですら何者かに管理されており、本物であるとはいえない
それでも「自分」は存在する
しているはず
そんな世界の中ですくなくとも自分にだけは通用する正義をもとめて、公安9課の面々は生命(とよばれているもの)を賭けてたたかう
草薙素子は光学迷彩で水のように姿をくらましてネットの海をおよぎ、魚のような目をにぶくひからせながら犯罪者にくらいつく

敵役である「人形使い」は、単純にいってしまえば宗教の比喩だ
素子は最上位概念である人形使い=神と融合することで、よりひろい世界にアクセスすることができるようになる
すべてが「偽物」だというのならば、どこかに「真実」が存在しなければならない
それが神であり、宗教のネットワークなのだ
結果論ではあるのだが、この映画は二十一世紀初頭の国際情勢を予見していた
イスラム教とキリスト/ユダヤ教のネットワークが不正規戦争をたたかう世界
9.11やイラク戦争をイメージしていただきたい
第二次世界大戦や冷戦の時代には建前だけでものこっていた社会正義がわすれられるなか、今日もネットワークの支配をめぐって顔のみえない兵士どうしが不毛な殺しあいをくりひろげている
国家の正義ではなく、自分のゴーストのため、神のために
シカゴうまれのチャウチャウ兄弟はこの主題を無視して映像のかっこよさだけを剽窃したため、「マトリックス」シリーズは凡庸なできとなってしまった
淘汰を生きのびる映画と、そうでない映画があるようだ

おれは押井守にあったことがある
五反田駅の改札口で背のひくい犬のような顔の中年男とすれちがったのだが、あとでそれが押井であることに気づいた
もちろん声をかけたりはしていないから、それが本物の押井であるかどうかは保證のかぎりではないけれども
むしろおれのゴーストがみせた幻影であったほうが押井守的というか攻殻機動隊的というか
われわれの世界ではなにがおきてもおかしくないし、なにもおきていないかもしれない
そもそも読者であるあなたが、わたしが真実を書いているとしんじるべき理由はない
それにこのブログを実在する人間が書いているという根拠はありますか?
ネットは広大だわ…
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苑田 謙

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