『竜圏からのグレートエスケープ』 第5章「黒幕」


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 現在の総理大臣官邸は、臨時首都である甲府市に置かれていた。庭の見える一階の和室で、首相の白鳥健吉が座椅子に腰を下ろしていた。薄手のカーディガンにスラックスという、リラックスした格好だ。六十一歳なので顔に深い皺が刻まれてるが、軍人稼業で鍛えた肉体は精気がみなぎり、四十代後半と言っても通りそうな風采だ。

 座敷机には氷の入ったボトルクーラーがあった。白鳥はワイングラスを傾けつつ、銀色の半月が浮かぶ夜空を眺めていた。月に飽きたら、チェス盤で問題を解くのを楽しんだ。

 ドンドン!

 ノックと言うには乱暴な騒音が響いた。

 返事を待たずに引き戸が開いた。白のセーラー服を着たジュンが土足で入ってきた。朱塗りの鞘に収めたクサナギを帯びている。迷彩戦闘服を着た因幡も続いて和室に入った。こちらはサンドベージュ色の拳銃、シグザウエルP320を持っている。

 ジュンの頬は引き締まり、鋭く冷たい眼光を放っていた。恩人を断罪することになるかもしれない。

 どすんと座椅子に尻を落とし、ジュンが言った。

「半年ぶりくらいですかね。オヤジと直接話すのは」

「そうだな」白鳥が言った。「左腕を負傷したと聞いた。どんな具合だ?」

「どうってことありません」

「お前ほどタフなヤツは見たことがない。自衛官時代も含めて」

「頑丈さだけが取り柄なんで」

「こっちにはヒューイで来たのか」

「はい」

「腹が減ったろう。何か作らせよう」

「お気遣いなく。スタッフは全員追っ払いました」

 にこやかだった白鳥の表情が固まった。この国の最高水準の警備体制が敷かれてるのに、諍いの気配を感じなかった。ジュンの技量の評価を上方修正しないといけない。

 アイフォンで写真を見せ、ジュンが言った。

「妙見島にある竜の飼育場です。禁衛府が関わっていました。オヤジの差し金だとサクヤは言ってます」

「お前の意見はどうなんだ」

「オヤジが悪事に手を染めたとは信じたくない」

「それは願望であって、見解ではないな」

「いずれにせよ否定しないんですね」

 贅肉のない白鳥の顔をジュンは観察した。感情は読み取れない。荒んでいた三年前のジュンを目に掛け、問題を起こしても常に味方してくれた、大きな包容力を感じられない。自分自身と取り巻きを守るため黙りこくっている。

 ジュンはワイングラスに手を伸ばし、赤い液体に指を浸した。指先を軽く舐めると、不快な苦みが口に広がった。

 涙がジュンの頬をつたった。

 それは黒竜の血液だった。白鳥が首謀者なのは間違いない。しかも違法取引に関わるだけでなく、竜の血を啜って寿命を延ばそうとしていた。

 嗚咽をこらえながらジュンが言った。

「なぜ、こんな真似を」

「政治の世界は、必ずしも白黒つけられないんだ」

「こんなの悪に決まってる!」

 ジュンは座敷机を叩いた。グラスが倒れ、チェス盤のキングが血の海に沈んだ。

「あたしの両親は」ジュンが言った。「黒竜王に殺された。中学の同級生は人身御供に取られて、いまだに安否が判らない。竜は全人類の敵だ。絶対滅ぼさなきゃいけないんだ」

「竜には利用価値がある」

「だとしても人肉を食わせて養うなんておかしい。死んだ仲間にどう顔向けしろと」

「兵たちの死は無意味ではない。有利な講和条件を引き出すには、できるだけ奮闘しないとな」

「講和? 何を言ってるんですか」

「日本政府は竜族と休戦協定を結んだ。明日発表する」

 ジュンは言葉を失った。想像すらしないことだった。背もたれに仰け反り、呆然とした。

 ジュンが力なくつぶやいた。

「誰に何を吹き込まれたか知りませんが、この戦争は勝てます。あたしの頭にはっきりした道筋があるんです。今から詳しく説明します」

「若いお前には解らぬだろうが、ことは政治なんだ」

「腐った政治屋連中は、まとめてあたしがぶった斬る。その後あたしを死刑でも何でもすりゃいいでしょう」

「お前を死刑になどできるものか」

 白鳥は優しげに愛弟子を見つめた。もともと痩身だが、頬の辺りがげっそりと窶れてるのにジュンは気づいた。

「オヤジ……ひょっとして体が」

「よくわかったな。ステージ3の胃癌だ。女房からは早く引退しろと毎日せっつかれて閉口している」

 政権の上層部で何が起きてるのかジュンは知らないが、白鳥の考えの一部を理解した。

 厭戦気分に傾いた国民から疎まれ、政治的に孤立したジュンを庇うため、白鳥は泥を被ろうとしている。竜族に膝を屈した売国奴という汚名を着て。

 卓上に身を乗り出し、ジュンが言った。

「戦況は有利なんです。竜族は焦ってます。講和するにしても、赤竜神をおびき出して斬るとか」

「お前はそればかりだな」

「これがあたしの仕事ですから」

「俺とて軍人だ。お前が思いつく程度の作戦はすべて検討した」

「諦めるなんてオヤジらしくない」

「まったくだ。政治家になどなるものではなかった」

 白鳥は衰えた足腰で立ち上がった。座敷の隅にあるワインセラーの扉を開けた。振り返ったとき、白鳥の右手に黒いシグザウエルP220があった。

 砂色のP320を構え、唾を飛ばして因幡が叫んだ。

「銃を捨てろッ!」

 ジュンは白鳥から目を離さず、背後の因幡に言った。

「いいんだ」

 因幡が言った。「しかし」

「銃口を下げろ。何も問題ない」

 白鳥がこの期に及んで、技量に優る二人と撃ち合って見苦しい死に様を晒すとは、ジュンには思えなかった。

 自決するつもりだ。

 汚職への関与を知られた以上、白鳥に逃げ道はない。ジュンが和睦を支持するなら交渉の余地がある。だがその条件だけは飲む訳にいかない。

 唇を震わせてジュンが言った。

「あたしはどうしたら」

「何もしてやれなくて申し訳なく思ってるよ」

「は?」

「苦難の道がお前を待ち受けている。竜族は恐ろしい敵だ。味方は一人もいないと覚悟しろ」

「全員が敵ってことはないでしょう」

「神に戦いを挑んだのが間違いだった」

「どういうことですか」

「ジュン、日本を頼む」

 白鳥は、こめかみに当てたP220のトリガーを引いた。




 ジュンは早足に官邸の玄関を出た。チェス盤から拾ったポーンを弄んでいた。恩人を死に追いやったことへの自責の念と、政権が崩壊する予感を覚えていた。

 内乱が起きるのか?

 それとも竜族の大規模な侵攻?

 自殺現場の後始末は因幡に任せた。ジュンは一刻も早く浦安の基地へ帰還しないといけない。禁衛府の手綱さえ掴んでいれば、竜や政治家や自衛隊や活動家が策動しても対処できる。

 茅葺きの門のところに、禁衛府の一個小隊約三十名がたむろしていた。ジュンの部下ではない。その内の十名が、白い玉砂利を踏み散らして近づいてきた。率いているのは、頬に絆創膏をしたサクヤだ。基地の留守を守る約束だったのに話が違う。

 バチバチと、ジュンの手許で異音がした。霊鎖がクサナギの鍔に巻きついた。抜刀を封じられた。

 悪寒がジュンの背筋を走った。

 ハメられた。

 虚勢を張り、あえて高圧的にジュンが言った。

「どういうことだ。説明しろ」

「暁ジュン」サクヤが言った。「白鳥健吉首相の殺害、および叛乱の容疑で逮捕する。禁衛府刑法に基づき、あなたは弁護士を呼ぶ権利も、裁判を受ける権利も認められない。抵抗すれば即射殺よ」

「お前が黒幕だったのか。裏で和平工作をしてやがったな」

「剣帯ごとクサナギを捨てなさい」

「ざけんな」

 ジュンは力任せに刀を引き抜こうとした。青白い火花が散り、両手の皮膚を焼いた。絶叫しながらジュンは粘った。鈍色の刀身が五センチほど姿を見せた。

 サクヤは肩をすくめ、真っ赤な唇に冷笑を浮かべた。

「これだから野蛮人は」

「くそが……真っ二つにしてやる……」

「ゴリラは檻に入れなきゃダメね」

 サクヤは白く滑らかな右手の掌を向けた。その刹那、ジュンは衝撃波を受けて後方へ吹き飛んだ。サクヤがこれほど派手な霊力を使えるとは知らなかった。

 ジュンは後頭部をしたたかに石灯籠にぶつけた。脳震盪を起こして気絶した。




 ジュンは官邸の厨房へ連れ込まれた。サクヤの部下によって身ぐるみ剥がれ、身体検査された。相手は全員男だった。彼らはジュンが携帯しているはずのアルミ製のピルケースを探していた。そこには両親の遺骨が入っていた。

 赤竜神は「常世の焔」なる霊力を使えると言われる。体の一部から死者を蘇らせる呪術だ。先輩の霊剣遣いから教わった伝説を信じ、ジュンは浦安の官舎に遺骨の一部を保管していた。そして竜圏に侵入するときは必ず持ち運んだ。

 サクヤはジュンの部屋に監視カメラを設置していた。今回の出動にあたり、ジュンがピルケースをリュックに入れる様子が撮影されていた。遺骨は人質としての価値がある。奪えばジュンはサクヤの言いなりになるはずだ。

 衛士たちはジュンに再び服を着せ、作業台に寝かせた。両手両足を蛇口に結びつけた。顔にタオルをかぶせ、その上から水を掛けた。ジュンは実はカナヅチだった。意識を失いかけるほど恐怖した。

 水責めに疲れた衛士たちは、ジュンをパイプ椅子に座らせ、両手両足をパイプに縛りつけた。もう少し手荒な拷問を試すことにした。

 目の前に迷彩戦闘服を着たサクヤが座っていた。細い脚を組み、文庫本を読んでいた。ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』だった。

 やかんの湯が沸いたので、サクヤはティーパックの入ったカップに注いだ。不機嫌そうに言った。

「もっといい紅茶を飲みたいわね。探せばあるんでしょうけど、あなたが料理人を追い返したから困るわ」

 ジュンが言った。「調子こいてんじゃねえ、ビッチ」

「忙しい時こそ、食にはこだわりたいもの」

「てめえの良く回る舌をいつか引っこ抜いてやる」

 サクヤはやかんをジュンの腿に置いた。ジュンはあっと叫んだ。紺のスカートが焼け焦げた。

 大量に涙をこぼしながら、ジュンがつぶやいた。

「くそ……この裏切り者が……ぜってえ許さねえ」

「許しを請うた覚えはないし、その必要もないわ」

「なぜ裏切った。いろいろあったにせよ、あたしらは親友だろう。中学以来の」

「あなたに友情を語る資格があるのかしら」

「ヨリが人身御供にされると決まった日……」

「中学の同級生のヨリちゃんのこと?」

「そう。あたしらはヨリの家に行って、一晩中泣いた。サクヤはあたしと正反対の性格だけど、信じられると思った。一生の友達になれると」

「懐かしいわね」

「これは昔話じゃない。ヨリは竜圏のどこかにいる。あたしらの力で解放してやるんだ」

「バカみたい。とっくに死んでるわよ」

 ジュンは愕然とした。石灯籠に頭をぶつけたとき以上に衝撃を受けた。人形みたく可憐な少女の、あまりに冷酷な発言に絶望した。

「何なんだ。お前はいったい何なんだ」

「私の将来の夢を覚えてる?」

「知るか」

「デリカシーのない人間って嫌いよ。私の夢は外交官になること。だから外交手段で戦争を終わらせるの」

「ふざけんな。竜族は滅ぼせる。勝利は間近なんだ」

「地底界まで下りて行って、竜族を根絶やしにできるの?」

「ムチャ言うな」

「どこかで手を打たねばならないでしょう。それが私の役割。人類と竜族はこれから共存共栄していくの」

 ジュンは口をつぐんだ。どちらかと言えばジュンは弁が立つ方だが、サクヤを言い負かせられる気がしない。

 早口でしゃべり続けるサクヤの口許を眺めていた。くねくねとうねる真っ赤な舌が、何かに似ていると思った。ついさっき、舞浜駅の上空で見たばかりだ。

 赤竜神の舌だ。

 上擦った声でジュンが言った。

「お前、人間じゃないだろう」

「突然何を言うの」

「竜の血が混じってるんだ。そうだ、それなら説明がつく。お前は竜族が開戦前に潜り込ませたスパイなんだ」

「私のどこが竜なのよ」

「ハーフドラゴンは体が大きいし、鱗だらけで人間に見えない。でも四分の一や八分の一の混血なら、人間に変装できるかもしれない。これまで発見されなかっただけで」

「前からおかしかったけど、ついに発狂したのね」

「竜族は日本政府をコントロールするため、あたしを利用した。でもあたしが勝ちすぎたから、切り捨てようとしている」

 サクヤは岩波文庫を作業台に置き、おろし金を手に取った。刃の突き出た面を向け、ジュンに近づいた。

「あなたの嫌いなところ、もう一つあったわ。勘が良すぎるところ」

「あたしを大根おろしにする気か」

「ええ、整形手術してあげる」

「これ以上美人になり様がないけどな」

「冗談は顔だけにして頂戴。ほら、ピルケースの隠し場所を言いなさいよ」

 サクヤはおろし金を持って近づいた。頬が薔薇色に輝いている。興奮している。

 ジュンは歯を食いしばった。

 多少の負傷は受け容れないといけない。死ぬよりはマシだ。顔を削られたくらいで服従などしない。

 ズダダダッ!

 換気扇を通じて、屋外からのアサルトライフルの連射音が聞こえた。ジュンとサクヤは沈黙し、腹を探り合う様にお互いの表情を凝視した。

 口火を切ってジュンが言った。

「ナミが来たんだろう。あたしがここにいるのは教えてある。連絡が途絶えたから心配して来たんだ」

「あなたに憧れて志願した、変わった子ね」

「マジメなやつだから、キレると怖えぞ。甲府が火の海になる」

「脅してるつもり? 私が霊剣遣いを恐れるとでも」

「改良した十握剣はクサナギより高性能だ。お前でも封じられるかどうか」

「十握剣は未完成でしょう」

「昨日まではな」

 小馬鹿にする様にジュンは片眉を上げた。

 サクヤはジュンが持ち出したポーンを握りしめた。

 葛藤していた。

 ジュンはまだ殺せない。禁衛府の戦闘部隊は忠誠心が強く、彼らを抑えるにはジュンを生かす必要がある。なので「人質」を取ってジュンを操る。自らの意思で講和すると見せかけて批判の矢面に立たせ、部下と共食いさせるのが上策だ。

 サクヤは外見に似合わぬ怪力で、木製のポーンを割った。断面を調べた。悪知恵の働くジュンのことだ、どうせ予想外なところに遺骨を隠したはずだ。

 優男風の部下にサクヤが言った。

「もう一度徹底的に身体検査しなさい」

「はっ」

「女だからって遠慮はいらないわ。中身は女じゃないもの」

「先程は直腸や膣まで調べました。生理中でした」

「へえ」

 パイプ椅子に縛られたジュンを見下ろし、サクヤは赤い唇を歪めた。愉快そうに優男に言った。

「せっかくだから、もっと可愛がってあげて。性的な意味で」

「それは……」

 優男は身じろぎした。戦場でのジュンの鬼神のごとき働きを知ってるので、さすがにレイプするのは躊躇われた。

「ゴリラ相手じゃ気が進まないでしょうけど、拷問の手段としては一番効果的なの。これは命令よ」

「了解しました」

 屈辱で顔を伏せたジュンを見て目を細め、サクヤは厨房から出た。外での衝突を解決しに行った。

 一方でジュンは、緑の樹脂が塗られた床を見つめながら、笑いを噛み殺していた。

 バーカ。

 その膣に遺骨は隠してあんだよ。

 陸上自衛隊の特殊部隊に伝わる秘匿のテクニックを、ジュンは白鳥から教わった。タンポンのアプリケーターに道具を入れて直腸へ突っ込む。ジュンは女なので、もうちょっとリアルに擬装した。

 たまたま生理中なのも幸いした。使用済みの生理用品に触るのを、男は忌避する。親の遺骨をあそこに入れるのは不謹慎かもしれないが、もともと母親の子宮から生まれた訳だし、許してくれるだろう。

 クサナギを奪われたジュンは無力だった。わずかな時間を稼ぐことしかできない。口の達者なサクヤは、今頃若いナミをたやすく煙に巻いてるだろう。何もかもどうでも良くなってきた。

 戦いに疲れたジュンはつぶやいた。

 会いたいな。

 お父さんとお母さんに。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

細川雅巳『逃亡者エリオ』

 

 

逃亡者エリオ

 

作者:細川雅巳

掲載誌:『週刊少年チャンピオン』2019年-

単行本:少年チャンピオン・コミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

14世紀のスペインを舞台とするアクションものである。

主人公の「エリオ」は、弟を殺した罪で収監されている18歳。

決闘において1000の囚人に勝利し、釈放を認めさせた。

 

 

 

 

貴族階級の娘「ララ・レズモンド」が濡れ衣を着せられ、

引き回されるのをエリオが目撃したとき、物語はうごきだす。

 

政情不安定で黒死病が蔓延した、暗い時代背景をうまく描いている。

 

 

 

 

エリオはララを救出すると決意し、素手で警吏に殴りかかる。

骨太な格闘描写は、『拳闘暗黒伝セスタス』を彷彿させる。

 

 

 

 

ララは出自に秘密があり、抹殺するため刺客が送られる。

王家の血を引いてるので生かしておけないらしい。

可憐な殺し屋「デボラ」は特に印象的。

なにせ舞台は中世ヨーロッパなので、ゴスロリキャラに説得力がある。

 

 

 

 

16歳で国王に即位した「正義王」ペドロ1世なども躍動し、

エリオとララの逃亡劇と、大規模な動乱が絡んでゆく様だ。

週刊誌連載作品としては、かなり読み応えが感じられた。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

ラーメンを音を立てて啜るのは文化じゃない

珈琲『のぼる小寺さん』(アフタヌーンKC)

 

 

 

ラーメンは真の国民食だと言える。

きわめてシンプルなので安価かつ短時間で提供されるが、

スープには手が掛けられ、料理の醍醐味みたいなものを堪能できる。

トッピングや調味料で自由に変化を楽しめるのも、人気の理由だろう。

 

僕も週に一度はラーメン屋にいくが、悩まされるのはマナーの問題だ。

なぜ人は、あんなに堂々と音を立てて啜るのだろう。

「そういう文化なのだ」と擁護する向きに対し、以下で反論したい。

 

 

 

まずは、音を立てるのに文化的正統性があるかどうかだ。

勿論ない。

落語家が扇子をもってズーズーやるからって、伝統を名乗る資格は与えられない。

話芸におけるただの強調表現だ。

 

ルイス・フロイスが、日本人は音を立てて食べると書いてるから、

これは伝統なのだ日本の文化なのだ、と笠に着る者もいる。

だがフロイスは、貞操観念のなさや嬰児殺しの残虐さなどを批判するが、

あなたはこれらも日本の伝統として肯定するのか?

 

 

 

プラグマティックな擁護の仕方もある。

空気を取り込んで香りを引き立たせてる、というやつだ。

音立て野郎どもにそんな繊細な味覚があるとは信じられないが、

ワインのテイスティングと同じと言われると騙されそうになる。

じゃあ聞くが、あんたらはラーメンをテイスティングしてるのか?

口に含んだあと吐き出すのか?

食事とテイスティングは別種の行為だ。

そもそもソムリエは、お前らみたいに下品な音は立てない。

 

 

 

ラーメンを音を立てて啜るのは文化じゃない、が僕の結論だ。

なぜか?

観察上、音を立てるのは100%男だったからだ。

つまりズーズーやるのは男性性の誇示だ。

一方で女は、静かにラーメンを食べる。

 

そして後者こそが文化だ。

長年続く伝統、化学や生理学の裏付け、そんなのは無意味だ。

自分の行為が人に迷惑をかけてるかもしれないと思うと、

せっかくの食事がマズくなってしまう。

多くの女は、そう考える。

そう訓練されている。

このふるまいの方が、ずっと日本人らしいと思うのだがどうか。




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苑田 謙

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