ときわ藍『夜からはじまる私たち』
夜からはじまる私たち
作者:ときわ藍
発行:小学館 2019年
レーベル:ちゃおコミックス
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表題作は、定時制高校に通っている「ユメ」と「ホタル」が、
ダンスに打ち込む青春をえがく、全3話の短篇である。
主人公のユメは、もともと進学校の生徒だったが、
成績不振からくるストレスで不登校となり、定時制に転入した。
ちなみに現役高校生である作者は、昼間は漫画に専念するため、
夜間定時制高校に通っているそうで、自身の体験が反映されてる様だ。
ふたりは、全日制のダンス部の部長に目をつけられる。
彼女らは優勝経験のある強豪で、シロウトが邪魔をするなと怒っていた。
定時制への偏見もあるらしく、バケツで水をかけるなど乱暴を働く。
引っ込み思案のユメが反撥する。
定時制の生徒たちが、それぞれの事情を抱えながら、
精一杯がんばってるのを知っているから。
まっすぐな情熱がほとばしる作風が魅力的だ。
こちらは、ちゃお新人選挙1位を獲得したという『内側のわたし』。
他人の視線を意識しすぎて、つねにマスクを着用してる少女の話。
作者はK-POP好きで、あちらのファッションに影響を受けており、
新しい世代ならではの風景を見せてくれる作品集でもある。
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あづち涼『深沢さん、ありがとう。』
深沢さん、ありがとう。
作者:あづち涼
掲載誌:『少年マガジンエッジ』(講談社)2019年-
単行本:マガジンエッジコミックス
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ショートカットで小柄なフリーター、「深沢さん」を愛でる漫画。
各話ごとに異なる男が彼女に魅了される。
第1話は、不動産の営業マンが登場。
深沢さんを物件に案内するが、大きめのTシャツ1枚で居眠りするので、
営業マンは後部座席が気になってしかたない。
いったい、穿いてるのかどうか。
不動産の内見は、けっこう緊張する場面だ。
本来プライベートな空間で、知らない人間が二人きりになるのだから。
しかし深沢さんは、営業マンの売り込みには大して興味をしめさず、
自身がこだわる押入れの寝心地を確認する。
あまりにマイペースなので、何事も起こらないのだった。
深沢さんは会計事務所でアルバイトしている。
クーラーが壊れてるが、マジメなので上着を着たまま仕事をする。
気を利かせた同僚が脱ぐよう言ったところ、
ブラウス姿の方がむしろホットだったという結果に。
のんびり屋の深沢さんだが、体を鍛えてもいる。
ジョギングすれば、男たちを尻目に颯爽と駆け抜けてゆく。
ただしスタイルが良すぎて、後を追われてしまうが。
己のかわいさに自覚がない深沢さんは、とんでもなく無防備だ。
あちこちで男たちの欲望を向けられるので読者はヒヤヒヤする。
しかし無表情だけど、優しく素直な性格の深沢さんは、
意外なタイミングで気配りをして、相手の毒気を抜いてしまう。
ピュアであることが最大の防御なのだった。
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真鍋譲治『パトラと鉄十字』
パトラと鉄十字
作者:真鍋譲治
掲載誌:『キスカ』(竹書房)2019年-
単行本:バンブーコミックス
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物語は、エジプト女王クレオパトラの最期から始まる。
アクティウムの海戦に勝利したオクタウィアヌスは降伏を求めるが、
クレオパトラは肯んぜず、毒蛇に我が身を咬ませて自殺する。
そこから驚天動地の展開に。
2000年の眠りから覚めたクレオパトラが見たのは、
サハラ砂漠を駆け抜けるドイツ軍戦車の群れだった。
エジプトは、第二次大戦の北アフリカ戦線の一部となっていた。
冥界の神アヌビスに跨り、IV号戦車を追いかける絵面が強烈。
クレオパトラの目的は、エジプト王国の復興。
昔とった杵柄で、軍高官たちを色香でたぶらかし、
ドイツやイタリアを自身の野望に巻き込もうとする。
しかし時は20世紀。
カエサルを落とした「絨毯ぐるぐる」に、相手はドン引き。
空回りするパトラのポンコツぶりが読みどころだ。
それでもパトラは、ローマ帝国と渡り合った女王だ。
領地や軍隊をもたなくとも、威厳があった。
たかが一将軍など、鋭い眼光で服従せしめた。
覇道に生きる人間の凄みを巧みに表現している。
世界観としては、北アフリカ戦線を忠実に再現するのではなく、
砂の海を航行する巨大戦艦なども登場。
ぎゅうぎゅう詰め込んでるが、代表作『銀河戦国群雄伝ライ』と同様、
好きな物をぶち込んで強引にまとめ上げる腕力は、作者ならではか。
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『竜圏からのグレートエスケープ』 第6章「花嫁」
拷問は日を跨いで執拗に行われた。サクヤは、口を割らないジュンを捨てると決めた。ただ自分らが手を汚せば争いの火種となるので、竜族に殺させることにした。赤竜神がジュンの身柄を、日本政府に要求していたのは渡りに船だった。不倶戴天の敵だったジュンを妻に迎えるという政略結婚だ。
ジュンの選択肢は二つ。自殺するか、脱走するか。もし逃げたとして、竜圏では武装なしで半日も生きられない。必ず死ぬ。首相に就任予定のサクヤは、そこでジュンの崇高なる「戦死」を発表して国葬を執り行い、万事めでたく解決という算段だ。
憎たらしいほど隙がない。
ジュンはヒューイで竜圏の中心地へ送られた。赤竜神が根城にする旧皇居の、生物研究所のガラス張りの温室がジュンの独房となった。四年前まで天皇が米を栽培していた田が外にあるが、今は荒れ果てただの泥沼と化している。
雑草だらけの温室で、ジュンは地べたに腰を下ろしていた。足首を鎖で繋索されている。乱暴を受け、着替えもできず、セーラー服は汚れきっている。陸上自衛隊から鹵獲した89式小銃を装備する屈強なハーフドラゴン数体が、物珍しそうにジュンを監視していた。
肩を落としたジュンは、己の右手を見つめていた。霊鎖の巻かれたクサナギを抜こうと無理した時の傷が、手当てされないまま化膿していた。もともと火傷を負っていた部位なので、見るも無慚な有様だ。お嫁に行ける体じゃないのに貰ってくれるのだから、感謝すべきかもなと自嘲した。
ガサゴソと雑草から音がした。
全長八十センチくらいの緑竜が、ススキの茂みの中で蠢いた。ジュンはしっしっと手を振るい、追い払おうとした。
緑竜がジュンの意識に声を送り込んできた。
「ひどいケガだね」
「はぁ」
「僕の泡で治すといいよ」
緑竜はジュンの傍らに寄り、口から泡を出した。ジュンはそれを取って右手に塗った。緑竜に軽度の治癒能力があるのを禁衛府の衛士は知っている。なんらかの成分が細胞に働き、破壊された組織を再生するらしい。敵である竜族に頼るのは癪だが、痛みが和らいだのは大助かりだ。
ジュンが無表情で言った。
「ありがとう」
「どう致しまして。これは恩返しだよ。君は僕たちの命を救ってくれたんだから」
「はぁ」
「覚えてるかな。盗賊が卵を盗むのを止めたこと」
「知らん」
「もう。歌舞伎町のシネコンだよ。君は体を張って緑竜の卵を守ってくれた」
「全然覚えてない。いろいろありすぎて」
ジュンは小さな緑竜を熟視した。深いエメラルド色の美しい鱗に、見覚えがないとは言えない。盗賊に蹴飛ばされた竜がいた気もする。あれかもしれない。
妙に馴れ馴れしい緑竜に、ジュンは皮肉な口調で言った。
「でも、あたしほど竜を殺した人間はいないぜ」
「戦争だからね。悲しい現実だけど」
「殊勝な言い草だな。だったら逃してくれよ」
「僕にできることはする」
「ははっ、安請け合いすんな。あんたら緑竜は最弱だって聞くぞ。奴隷みたく扱き使われてるって」
「だからこそ協力する。赤竜神を斃すと約束してくれるなら」
「霊剣がなきゃあたしはただのJKだ」
「クサナギはいま竜圏にある。貢物として赤竜神に献上されたんだ。僕はそれを盗み出して君に渡す」
ジュンは両手で頭を掻きむしった。
生存本能と感情が、矛盾した計算結果を脳裏に表示していた。クサナギさえあれば逆転は可能だ。しかしよりによって、竜と共同作戦を実行するというのが気に食わない。
「あんたは」ジュンが言った。「なぜそこまでしてリスクを冒そうとする」
「竜族も一枚岩じゃない。種族同士の抗争があるんだ」
「らしいね」
「君が黒竜王を斃して以来、赤竜族の専横は歯止めが利かなくなっている。彼らは凶暴で、かつ狡賢い。そもそもこの戦争は、竜族のほとんどが反対してたんだ」
「つまり戦争を終わらせるのが目的か」
「それもあるけど、第一の目的は母親を救出することだよ。母は病気なのに、強引に赤竜神の奴隷にされた」
鼻で笑い、ジュンが辛辣に言い放った。
「あんたらに家族愛なんてあるのか?」
「母は肺病なんだ。もう長くないと思う。安らかに最期の時を迎えさせたい。家族と悲しい別れ方をした君なら、この気持ちがわかるだろう」
「なぜ知ってる」
「竜族同士は記憶を共有してるし、人間の意識も……」
「あたしの頭の中を覗くのはやめろ!」
ジュンは緑竜を突き飛ばした。バスケットボールの様に弾んで転がり、温室の窓ガラスに衝突した。ガラスが割れた。騒ぎを聞きつけ、見張り役のハーフドラゴンが集まってきた。脱走の相談どころではない。
緑竜は泡を吐き、ガラスの破片の刺さった己の体を癒やした。犬歯を剥き出して立つジュンを見上げて言った。
「衝動的に行動しないでよ。大事な話をしてるのに」
「うるさい」
「いや、僕の提案が厚かましかったんだ。君は両親を殺した竜族を激しく憎み、敵として戦ってきた。急に気持ちを切り替えるのは無理だよね」
「…………」
「あと、君の内面に踏み込んだのを謝るよ。触れられたくない話題だったんだね。でも命の恩人と話せてよかった。良き来世を君が迎えられるよう祈ってる」
打ち萎れた緑竜は尾を引き摺り、割れた窓から温室の外へ出て行った。
婚礼の日がやって来た。
朽損し壁が崩れた宮内庁庁舎で、ジュンは人間の女の奴隷たちにより花嫁支度をされていた。白い衣の上に領巾を羽織る、日本神話の女神みたいな格好だ。西洋のウェディングドレスに似てると言えば似ている。珍しく化粧の施された顔を鏡で見ると、案外自分もイケると思わなくもなかった。
無論、気分は暗澹としていた。花嫁願望を最悪の形で叶える羽目になった。手癖の悪いジュンは、くすねた剃刀を隠し持っていた。自分の喉を切るつもりだ。
あれから緑竜は何度か姿を見せたが、ジュンと接触しようとはしなかった。完全に孤立無援だ。今日まで粘ったが、竜族の警備も抜かりはない。そろそろ年貢の納め時だ。
竜圏は旧皇居を中心に、半径約十キロの円を描いている。徒歩による突破は不可能ではない。
敵がいなければ。
すぐにワイバーンが組織的な捜索を行うだろう。航空自衛隊のAWACSを凌駕する探知能力を持つ種族だ。逃げようがない。地下鉄や上下水道などは破壊されている。
銃と車輌を奪って遁走すれば、〇・一パーセントくらいの生存確率は見込める。しかし気力が湧かない。親友であるサクヤに裏切られたのが痛手だった。感情豊かなジュンは、精神的な支えを失うと無力に等しい存在となる。
「馬鹿野郎! 前に進まんか!」
坂下門の残骸の方から、ハーフドラゴンの怒鳴り声が聞こえた。光沢を持った甲冑に身を固めた、リーダーのグラウリだ。人間の男を首輪で引っ張っていたが、従順に言うことを聞かないので鞭で責めている。
鞭打たれる人間は、楽天イーグルスの野球帽をかぶっていた。部下である因幡八代だ。
思わずジュンが叫んだ。
「因幡ッ! なぜこんなところに」
因幡が駆け寄ってきた。不意な動きだったので、グラウリは綱を手放した。
古代風の衣装を着たジュンの側で敬礼し、因幡が言った。
「長官、御無事でしたか」
「この格好のどこが無事だよ」
「よかった……」
「報告。手短に」
ジュンは冷徹に言い放った。怒っているのではなく、会話に費やせる時間があと数秒しかないからだ。
「軽装甲機動車で侵入しました。他の三名は戦死です。自分の責任です」
ジュンは目を瞑り、歯軋りした。
因幡は責められない。おそらく彼らはサクヤの命令に逆らい、危険を承知で火中の栗を拾いに来たのだ。また客観的に見て、霊剣遣いで司令官を務めるあたしには戦略的価値があるし、救出作戦は必ずしも無意味じゃない。
それでも仲間の死には、絶対的な重みがある。
やるべきじゃなかった。
ジュンが言った。「ルートは」
「北です」
ジュンは口の端を持ち上げた。
葛飾区に盗賊たちのアジトがある。因幡は彼らに協力を求め、竜圏の深くへ侵入したに違いない。あれほど盗賊を嫌っていたのに、ジュンのために豹変したのがおかしかった。
グラウリが因幡のフリースジャケットの襟を掴み、引き摺っていった。抵抗する因幡を、甲冑を鳴らしつつ虐待した。
ジュンは手にしていた剃刀を投げつけた。甲冑に微かな傷がついた。
「くそったれのトカゲ野郎!」ジュンが叫んだ。「そいつはあたしの部下だ。殴りたいならあたしを殴れ」
グラウリは棒状の鞭の先端で、ジュンの尖った顎を持ち上げた。さすがに花嫁に暴行はできなかった。
「最初は赤竜神様も趣味が悪いと思ったが、化粧すれば多少は見れるツラだな」
「そりゃてめえの鱗だらけの顔よりマシだ」
「赤竜神様のことだ、三日もすれば飽きるだろう。そしたら俺様が味見してやるぜ」
「てめえは殺す。混血であるのがコンプレックスなのか、ハーフドラゴンが過剰に人間を殺傷するのを見てきた。中でもてめえは最悪だ」
「俺様の子供を産みたいか? それとも食われたいか?」
「天に誓って殺す」
憤るジュンの頬を、グラウリは鞭で軽くはたいた。二メートルを超える巨体を揺らして去っていった。
奴隷の女たちがジュンを囲み、乱れた衣装を大慌てで直した。月桂冠みたいな真拆の蔓を頭に乗せた。年嵩の女が竜族への無礼なふるまいをたしなめた。ジュンは黙殺した。女たちの竜圏への順応ぶりに感心するが、見習いたくはない。
瓦礫の陰から遠巻きに、緑竜がこちらを見つめていた。視線が合うと隠れるが、しばらくするとまた顔を出した。ジュンのことが気掛かりらしい。
ジュンは拳を握りしめた。
緑トカゲの力を借りよう。四の五の言ってられない。仲間がいるのだから。因幡が盗賊と手を結んだらしいのも好材料だ。ホムラあたりと竜圏で接触できれば、ざっと見積もって生存確率は約三パーセントに跳ね上がる。
三十三回に一回なら十分だ。
あたしは命を懸けられる。
ジュンは足許の石を拾って投げた。緑竜に躱されたが、二個めが命中した。
小さな翼を広げて飛んできた緑竜が言った。
「やめてよ! 痛いじゃないか」
ジュンが言った。「例の計画、乗った。よろしく頼む」
「悪いけど、なかったことにして。僕はあれから目を付けられて、散々いじめられたんだ」
緑竜の翡翠色の瞳が、落ち着かなく泳いでいた。気が咎めている様だ。お人好しの種族なのだ。
「あんたの母親は肺病だと言ったな」
「そうだよ」
「あたしのお母さんは喘息持ちだった。発作が起きそうになるとステロイドを吸入していた。良く効く薬なんだ」
「へえ」
「あんたらの泡の治癒能力はすごいけど、人間は知恵を絞って医学を発展させた。人間と竜はきっと助け合える」
緑竜は話を聞きながら尻尾を振った。
ジュンはほくそ笑んだ。
ちょろいな、こいつ。
ジュンが言った。「ひとつ聞きたいことがある」
「なに」
「あんたの名前を教えてくれ」
緑竜は前肢で顔を隠した。空中でもじもじと丸まった。
「そんな……まだ早いよ……僕たちはまだお互いをよく知らないのに」
どうやら照れているらしい。
竜族にとって名前には神聖な意義があり、ごく親しい者にしか本名を明かさないと、ジュンも伝え聞いていた。赤竜神や黒竜王なども通称にすぎない。
「あだ名とかないの」
「特にないよ。『そこの奴隷』とか呼ばれてる」
「あたしが付けてあげようか」
「うーん」
「『バブルン』。泡を吐くから。どうよ」
「わあ、可愛い名前だね! 気に入ったよ!」
バブルンと名付けられた緑竜は、万歳しながら宙を舞った。
こんなお気楽な生き物とコンビを組んで、本当に命懸けの作戦を遂行できるのか、ジュンは不安になった。
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渡邉ポポ『埼玉の女子高生ってどう思いますか?』3巻
埼玉の女子高生ってどう思いますか?
作者:渡邉ポポ
掲載誌:『ゴーゴーバンチ』『月刊コミックバンチ』(新潮社)2017年-
単行本:バンチコミックス
第23話。
埼玉JK3人組が湘南新宿ラインに乗り、池袋にやってきた。
しかし改札口を抜けてすぐ、地下街で迷子になる。
「西武なのに東口」とか巧妙な罠にはまり、地上へ出られない。
どうにか東口から突破に成功。
初めての池袋の雄大な光景が目に飛び込んでくる。
「ダンジョン攻略」の達成感に浸れる名場面だ。
風景描写の巧みさは相変わらずだが、ここではモブも丁寧に描き込む。
池袋は埼玉県からのアクセスがいい。
事実上、埼玉県の植民地みたいなものだ。
小鳩たちも我が物顔で、この巨大な繁華街を征服する。
こちらは第19話。
庶民の味方であるしまむらをこよなく愛す小鳩だが、
池袋に行っても恥ずかしくない服を買うため、浦和に来た。
大宮はおしゃれシティすぎるので浦和、というのがミソである。
しかし、ショッピングセンターにテナントとして入っている伊勢丹を、
埼玉ローカルのデパートだと勘違いして痛い目にあう。
本作のファッション回は抜群に楽しい。
もちろん、古代蓮の里でホタルを観察するなど、
地元行田の緑と土の匂いが漂う回もある。
小鳩と妹のズケズケトークがない以外、文句なしの第3巻だ。
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『竜圏からのグレートエスケープ』 第5章「黒幕」
現在の総理大臣官邸は、臨時首都である甲府市に置かれていた。庭の見える一階の和室で、首相の白鳥健吉が座椅子に腰を下ろしていた。薄手のカーディガンにスラックスという、リラックスした格好だ。六十一歳なので顔に深い皺が刻まれてるが、軍人稼業で鍛えた肉体は精気がみなぎり、四十代後半と言っても通りそうな風采だ。
座敷机には氷の入ったボトルクーラーがあった。白鳥はワイングラスを傾けつつ、銀色の半月が浮かぶ夜空を眺めていた。月に飽きたら、チェス盤で問題を解くのを楽しんだ。
ドンドン!
ノックと言うには乱暴な騒音が響いた。
返事を待たずに引き戸が開いた。白のセーラー服を着たジュンが土足で入ってきた。朱塗りの鞘に収めたクサナギを帯びている。迷彩戦闘服を着た因幡も続いて和室に入った。こちらはサンドベージュ色の拳銃、シグザウエルP320を持っている。
ジュンの頬は引き締まり、鋭く冷たい眼光を放っていた。恩人を断罪することになるかもしれない。
どすんと座椅子に尻を落とし、ジュンが言った。
「半年ぶりくらいですかね。オヤジと直接話すのは」
「そうだな」白鳥が言った。「左腕を負傷したと聞いた。どんな具合だ?」
「どうってことありません」
「お前ほどタフなヤツは見たことがない。自衛官時代も含めて」
「頑丈さだけが取り柄なんで」
「こっちにはヒューイで来たのか」
「はい」
「腹が減ったろう。何か作らせよう」
「お気遣いなく。スタッフは全員追っ払いました」
にこやかだった白鳥の表情が固まった。この国の最高水準の警備体制が敷かれてるのに、諍いの気配を感じなかった。ジュンの技量の評価を上方修正しないといけない。
アイフォンで写真を見せ、ジュンが言った。
「妙見島にある竜の飼育場です。禁衛府が関わっていました。オヤジの差し金だとサクヤは言ってます」
「お前の意見はどうなんだ」
「オヤジが悪事に手を染めたとは信じたくない」
「それは願望であって、見解ではないな」
「いずれにせよ否定しないんですね」
贅肉のない白鳥の顔をジュンは観察した。感情は読み取れない。荒んでいた三年前のジュンを目に掛け、問題を起こしても常に味方してくれた、大きな包容力を感じられない。自分自身と取り巻きを守るため黙りこくっている。
ジュンはワイングラスに手を伸ばし、赤い液体に指を浸した。指先を軽く舐めると、不快な苦みが口に広がった。
涙がジュンの頬をつたった。
それは黒竜の血液だった。白鳥が首謀者なのは間違いない。しかも違法取引に関わるだけでなく、竜の血を啜って寿命を延ばそうとしていた。
嗚咽をこらえながらジュンが言った。
「なぜ、こんな真似を」
「政治の世界は、必ずしも白黒つけられないんだ」
「こんなの悪に決まってる!」
ジュンは座敷机を叩いた。グラスが倒れ、チェス盤のキングが血の海に沈んだ。
「あたしの両親は」ジュンが言った。「黒竜王に殺された。中学の同級生は人身御供に取られて、いまだに安否が判らない。竜は全人類の敵だ。絶対滅ぼさなきゃいけないんだ」
「竜には利用価値がある」
「だとしても人肉を食わせて養うなんておかしい。死んだ仲間にどう顔向けしろと」
「兵たちの死は無意味ではない。有利な講和条件を引き出すには、できるだけ奮闘しないとな」
「講和? 何を言ってるんですか」
「日本政府は竜族と休戦協定を結んだ。明日発表する」
ジュンは言葉を失った。想像すらしないことだった。背もたれに仰け反り、呆然とした。
ジュンが力なくつぶやいた。
「誰に何を吹き込まれたか知りませんが、この戦争は勝てます。あたしの頭にはっきりした道筋があるんです。今から詳しく説明します」
「若いお前には解らぬだろうが、ことは政治なんだ」
「腐った政治屋連中は、まとめてあたしがぶった斬る。その後あたしを死刑でも何でもすりゃいいでしょう」
「お前を死刑になどできるものか」
白鳥は優しげに愛弟子を見つめた。もともと痩身だが、頬の辺りがげっそりと窶れてるのにジュンは気づいた。
「オヤジ……ひょっとして体が」
「よくわかったな。ステージ3の胃癌だ。女房からは早く引退しろと毎日せっつかれて閉口している」
政権の上層部で何が起きてるのかジュンは知らないが、白鳥の考えの一部を理解した。
厭戦気分に傾いた国民から疎まれ、政治的に孤立したジュンを庇うため、白鳥は泥を被ろうとしている。竜族に膝を屈した売国奴という汚名を着て。
卓上に身を乗り出し、ジュンが言った。
「戦況は有利なんです。竜族は焦ってます。講和するにしても、赤竜神をおびき出して斬るとか」
「お前はそればかりだな」
「これがあたしの仕事ですから」
「俺とて軍人だ。お前が思いつく程度の作戦はすべて検討した」
「諦めるなんてオヤジらしくない」
「まったくだ。政治家になどなるものではなかった」
白鳥は衰えた足腰で立ち上がった。座敷の隅にあるワインセラーの扉を開けた。振り返ったとき、白鳥の右手に黒いシグザウエルP220があった。
砂色のP320を構え、唾を飛ばして因幡が叫んだ。
「銃を捨てろッ!」
ジュンは白鳥から目を離さず、背後の因幡に言った。
「いいんだ」
因幡が言った。「しかし」
「銃口を下げろ。何も問題ない」
白鳥がこの期に及んで、技量に優る二人と撃ち合って見苦しい死に様を晒すとは、ジュンには思えなかった。
自決するつもりだ。
汚職への関与を知られた以上、白鳥に逃げ道はない。ジュンが和睦を支持するなら交渉の余地がある。だがその条件だけは飲む訳にいかない。
唇を震わせてジュンが言った。
「あたしはどうしたら」
「何もしてやれなくて申し訳なく思ってるよ」
「は?」
「苦難の道がお前を待ち受けている。竜族は恐ろしい敵だ。味方は一人もいないと覚悟しろ」
「全員が敵ってことはないでしょう」
「神に戦いを挑んだのが間違いだった」
「どういうことですか」
「ジュン、日本を頼む」
白鳥は、こめかみに当てたP220のトリガーを引いた。
ジュンは早足に官邸の玄関を出た。チェス盤から拾ったポーンを弄んでいた。恩人を死に追いやったことへの自責の念と、政権が崩壊する予感を覚えていた。
内乱が起きるのか?
それとも竜族の大規模な侵攻?
自殺現場の後始末は因幡に任せた。ジュンは一刻も早く浦安の基地へ帰還しないといけない。禁衛府の手綱さえ掴んでいれば、竜や政治家や自衛隊や活動家が策動しても対処できる。
茅葺きの門のところに、禁衛府の一個小隊約三十名がたむろしていた。ジュンの部下ではない。その内の十名が、白い玉砂利を踏み散らして近づいてきた。率いているのは、頬に絆創膏をしたサクヤだ。基地の留守を守る約束だったのに話が違う。
バチバチと、ジュンの手許で異音がした。霊鎖がクサナギの鍔に巻きついた。抜刀を封じられた。
悪寒がジュンの背筋を走った。
ハメられた。
虚勢を張り、あえて高圧的にジュンが言った。
「どういうことだ。説明しろ」
「暁ジュン」サクヤが言った。「白鳥健吉首相の殺害、および叛乱の容疑で逮捕する。禁衛府刑法に基づき、あなたは弁護士を呼ぶ権利も、裁判を受ける権利も認められない。抵抗すれば即射殺よ」
「お前が黒幕だったのか。裏で和平工作をしてやがったな」
「剣帯ごとクサナギを捨てなさい」
「ざけんな」
ジュンは力任せに刀を引き抜こうとした。青白い火花が散り、両手の皮膚を焼いた。絶叫しながらジュンは粘った。鈍色の刀身が五センチほど姿を見せた。
サクヤは肩をすくめ、真っ赤な唇に冷笑を浮かべた。
「これだから野蛮人は」
「くそが……真っ二つにしてやる……」
「ゴリラは檻に入れなきゃダメね」
サクヤは白く滑らかな右手の掌を向けた。その刹那、ジュンは衝撃波を受けて後方へ吹き飛んだ。サクヤがこれほど派手な霊力を使えるとは知らなかった。
ジュンは後頭部をしたたかに石灯籠にぶつけた。脳震盪を起こして気絶した。
ジュンは官邸の厨房へ連れ込まれた。サクヤの部下によって身ぐるみ剥がれ、身体検査された。相手は全員男だった。彼らはジュンが携帯しているはずのアルミ製のピルケースを探していた。そこには両親の遺骨が入っていた。
赤竜神は「常世の焔」なる霊力を使えると言われる。体の一部から死者を蘇らせる呪術だ。先輩の霊剣遣いから教わった伝説を信じ、ジュンは浦安の官舎に遺骨の一部を保管していた。そして竜圏に侵入するときは必ず持ち運んだ。
サクヤはジュンの部屋に監視カメラを設置していた。今回の出動にあたり、ジュンがピルケースをリュックに入れる様子が撮影されていた。遺骨は人質としての価値がある。奪えばジュンはサクヤの言いなりになるはずだ。
衛士たちはジュンに再び服を着せ、作業台に寝かせた。両手両足を蛇口に結びつけた。顔にタオルをかぶせ、その上から水を掛けた。ジュンは実はカナヅチだった。意識を失いかけるほど恐怖した。
水責めに疲れた衛士たちは、ジュンをパイプ椅子に座らせ、両手両足をパイプに縛りつけた。もう少し手荒な拷問を試すことにした。
目の前に迷彩戦闘服を着たサクヤが座っていた。細い脚を組み、文庫本を読んでいた。ニーチェの『ツァラトゥストラはかく語りき』だった。
やかんの湯が沸いたので、サクヤはティーパックの入ったカップに注いだ。不機嫌そうに言った。
「もっといい紅茶を飲みたいわね。探せばあるんでしょうけど、あなたが料理人を追い返したから困るわ」
ジュンが言った。「調子こいてんじゃねえ、ビッチ」
「忙しい時こそ、食にはこだわりたいもの」
「てめえの良く回る舌をいつか引っこ抜いてやる」
サクヤはやかんをジュンの腿に置いた。ジュンはあっと叫んだ。紺のスカートが焼け焦げた。
大量に涙をこぼしながら、ジュンがつぶやいた。
「くそ……この裏切り者が……ぜってえ許さねえ」
「許しを請うた覚えはないし、その必要もないわ」
「なぜ裏切った。いろいろあったにせよ、あたしらは親友だろう。中学以来の」
「あなたに友情を語る資格があるのかしら」
「ヨリが人身御供にされると決まった日……」
「中学の同級生のヨリちゃんのこと?」
「そう。あたしらはヨリの家に行って、一晩中泣いた。サクヤはあたしと正反対の性格だけど、信じられると思った。一生の友達になれると」
「懐かしいわね」
「これは昔話じゃない。ヨリは竜圏のどこかにいる。あたしらの力で解放してやるんだ」
「バカみたい。とっくに死んでるわよ」
ジュンは愕然とした。石灯籠に頭をぶつけたとき以上に衝撃を受けた。人形みたく可憐な少女の、あまりに冷酷な発言に絶望した。
「何なんだ。お前はいったい何なんだ」
「私の将来の夢を覚えてる?」
「知るか」
「デリカシーのない人間って嫌いよ。私の夢は外交官になること。だから外交手段で戦争を終わらせるの」
「ふざけんな。竜族は滅ぼせる。勝利は間近なんだ」
「地底界まで下りて行って、竜族を根絶やしにできるの?」
「ムチャ言うな」
「どこかで手を打たねばならないでしょう。それが私の役割。人類と竜族はこれから共存共栄していくの」
ジュンは口をつぐんだ。どちらかと言えばジュンは弁が立つ方だが、サクヤを言い負かせられる気がしない。
早口でしゃべり続けるサクヤの口許を眺めていた。くねくねとうねる真っ赤な舌が、何かに似ていると思った。ついさっき、舞浜駅の上空で見たばかりだ。
赤竜神の舌だ。
上擦った声でジュンが言った。
「お前、人間じゃないだろう」
「突然何を言うの」
「竜の血が混じってるんだ。そうだ、それなら説明がつく。お前は竜族が開戦前に潜り込ませたスパイなんだ」
「私のどこが竜なのよ」
「ハーフドラゴンは体が大きいし、鱗だらけで人間に見えない。でも四分の一や八分の一の混血なら、人間に変装できるかもしれない。これまで発見されなかっただけで」
「前からおかしかったけど、ついに発狂したのね」
「竜族は日本政府をコントロールするため、あたしを利用した。でもあたしが勝ちすぎたから、切り捨てようとしている」
サクヤは岩波文庫を作業台に置き、おろし金を手に取った。刃の突き出た面を向け、ジュンに近づいた。
「あなたの嫌いなところ、もう一つあったわ。勘が良すぎるところ」
「あたしを大根おろしにする気か」
「ええ、整形手術してあげる」
「これ以上美人になり様がないけどな」
「冗談は顔だけにして頂戴。ほら、ピルケースの隠し場所を言いなさいよ」
サクヤはおろし金を持って近づいた。頬が薔薇色に輝いている。興奮している。
ジュンは歯を食いしばった。
多少の負傷は受け容れないといけない。死ぬよりはマシだ。顔を削られたくらいで服従などしない。
ズダダダッ!
換気扇を通じて、屋外からのアサルトライフルの連射音が聞こえた。ジュンとサクヤは沈黙し、腹を探り合う様にお互いの表情を凝視した。
口火を切ってジュンが言った。
「ナミが来たんだろう。あたしがここにいるのは教えてある。連絡が途絶えたから心配して来たんだ」
「あなたに憧れて志願した、変わった子ね」
「マジメなやつだから、キレると怖えぞ。甲府が火の海になる」
「脅してるつもり? 私が霊剣遣いを恐れるとでも」
「改良した十握剣はクサナギより高性能だ。お前でも封じられるかどうか」
「十握剣は未完成でしょう」
「昨日まではな」
小馬鹿にする様にジュンは片眉を上げた。
サクヤはジュンが持ち出したポーンを握りしめた。
葛藤していた。
ジュンはまだ殺せない。禁衛府の戦闘部隊は忠誠心が強く、彼らを抑えるにはジュンを生かす必要がある。なので「人質」を取ってジュンを操る。自らの意思で講和すると見せかけて批判の矢面に立たせ、部下と共食いさせるのが上策だ。
サクヤは外見に似合わぬ怪力で、木製のポーンを割った。断面を調べた。悪知恵の働くジュンのことだ、どうせ予想外なところに遺骨を隠したはずだ。
優男風の部下にサクヤが言った。
「もう一度徹底的に身体検査しなさい」
「はっ」
「女だからって遠慮はいらないわ。中身は女じゃないもの」
「先程は直腸や膣まで調べました。生理中でした」
「へえ」
パイプ椅子に縛られたジュンを見下ろし、サクヤは赤い唇を歪めた。愉快そうに優男に言った。
「せっかくだから、もっと可愛がってあげて。性的な意味で」
「それは……」
優男は身じろぎした。戦場でのジュンの鬼神のごとき働きを知ってるので、さすがにレイプするのは躊躇われた。
「ゴリラ相手じゃ気が進まないでしょうけど、拷問の手段としては一番効果的なの。これは命令よ」
「了解しました」
屈辱で顔を伏せたジュンを見て目を細め、サクヤは厨房から出た。外での衝突を解決しに行った。
一方でジュンは、緑の樹脂が塗られた床を見つめながら、笑いを噛み殺していた。
バーカ。
その膣に遺骨は隠してあんだよ。
陸上自衛隊の特殊部隊に伝わる秘匿のテクニックを、ジュンは白鳥から教わった。タンポンのアプリケーターに道具を入れて直腸へ突っ込む。ジュンは女なので、もうちょっとリアルに擬装した。
たまたま生理中なのも幸いした。使用済みの生理用品に触るのを、男は忌避する。親の遺骨をあそこに入れるのは不謹慎かもしれないが、もともと母親の子宮から生まれた訳だし、許してくれるだろう。
クサナギを奪われたジュンは無力だった。わずかな時間を稼ぐことしかできない。口の達者なサクヤは、今頃若いナミをたやすく煙に巻いてるだろう。何もかもどうでも良くなってきた。
戦いに疲れたジュンはつぶやいた。
会いたいな。
お父さんとお母さんに。
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細川雅巳『逃亡者エリオ』
逃亡者エリオ
作者:細川雅巳
掲載誌:『週刊少年チャンピオン』2019年-
単行本:少年チャンピオン・コミックス
[ためし読みはこちら]
14世紀のスペインを舞台とするアクションものである。
主人公の「エリオ」は、弟を殺した罪で収監されている18歳。
決闘において1000の囚人に勝利し、釈放を認めさせた。
貴族階級の娘「ララ・レズモンド」が濡れ衣を着せられ、
引き回されるのをエリオが目撃したとき、物語はうごきだす。
政情不安定で黒死病が蔓延した、暗い時代背景をうまく描いている。
エリオはララを救出すると決意し、素手で警吏に殴りかかる。
骨太な格闘描写は、『拳闘暗黒伝セスタス』を彷彿させる。
ララは出自に秘密があり、抹殺するため刺客が送られる。
王家の血を引いてるので生かしておけないらしい。
可憐な殺し屋「デボラ」は特に印象的。
なにせ舞台は中世ヨーロッパなので、ゴスロリキャラに説得力がある。
16歳で国王に即位した「正義王」ペドロ1世なども躍動し、
エリオとララの逃亡劇と、大規模な動乱が絡んでゆく様だ。
週刊誌連載作品としては、かなり読み応えが感じられた。
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ラーメンを音を立てて啜るのは文化じゃない
珈琲『のぼる小寺さん』(アフタヌーンKC)
ラーメンは真の国民食だと言える。
きわめてシンプルなので安価かつ短時間で提供されるが、
スープには手が掛けられ、料理の醍醐味みたいなものを堪能できる。
トッピングや調味料で自由に変化を楽しめるのも、人気の理由だろう。
僕も週に一度はラーメン屋にいくが、悩まされるのはマナーの問題だ。
なぜ人は、あんなに堂々と音を立てて啜るのだろう。
「そういう文化なのだ」と擁護する向きに対し、以下で反論したい。
まずは、音を立てるのに文化的正統性があるかどうかだ。
勿論ない。
落語家が扇子をもってズーズーやるからって、伝統を名乗る資格は与えられない。
話芸におけるただの強調表現だ。
ルイス・フロイスが、日本人は音を立てて食べると書いてるから、
これは伝統なのだ日本の文化なのだ、と笠に着る者もいる。
だがフロイスは、貞操観念のなさや嬰児殺しの残虐さなどを批判するが、
あなたはこれらも日本の伝統として肯定するのか?
プラグマティックな擁護の仕方もある。
空気を取り込んで香りを引き立たせてる、というやつだ。
音立て野郎どもにそんな繊細な味覚があるとは信じられないが、
ワインのテイスティングと同じと言われると騙されそうになる。
じゃあ聞くが、あんたらはラーメンをテイスティングしてるのか?
口に含んだあと吐き出すのか?
食事とテイスティングは別種の行為だ。
そもそもソムリエは、お前らみたいに下品な音は立てない。
ラーメンを音を立てて啜るのは文化じゃない、が僕の結論だ。
なぜか?
観察上、音を立てるのは100%男だったからだ。
つまりズーズーやるのは男性性の誇示だ。
一方で女は、静かにラーメンを食べる。
そして後者こそが文化だ。
長年続く伝統、化学や生理学の裏付け、そんなのは無意味だ。
自分の行為が人に迷惑をかけてるかもしれないと思うと、
せっかくの食事がマズくなってしまう。
多くの女は、そう考える。
そう訓練されている。
このふるまいの方が、ずっと日本人らしいと思うのだがどうか。
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