柊裕一『履いてください、鷹峰さん』
履いてください、鷹峰さん
作者:柊裕一
掲載誌:『月刊ガンガンJOKER』(スクウェア・エニックス)2019年-
単行本:ガンガンコミックスJOKER
美貌の生徒会長「鷹峰高嶺」が、授業中にパンツを脱ぎはじめた。
周りの生徒は仰天する。
しかしこの行為は、時間を巻き戻す能力を発動させるためだった。
会長は常に完璧でいるため、巻き戻し能力を用いる。
代償はパンツが消滅することだが、ノーパン程度のリスクは恐れない。
突飛すぎる設定だと言われれば否定できない気もするが、
小5の時のおもらしエピソードをドヤ顔で語る、変人っぽさで押し切る。
主人公の「孝志」は、会長の着替えを見たのをきっかけに、
能力を使うたびに予備のパンツを穿かせる役割を任された。
授業中にこっそりと、共犯行為がおこなわれる。
本作の特色は、ヒロインの「向上心」だ。
古今和歌集の音読を完璧にこなした会長は、それでもやり直す。
窓から風が吹き込み、花弁が舞うタイミングに合わせるために。
水泳では男子の水泳部エースに勝利するが、またやり直し。
自分をうつくしく見せるには、背泳ぎがふさわしいと考えて。
会長は巻き戻しなどしなくとも、だれよりも優秀で尊敬されてるが、
ありきたりの評価に満足しない、セルフプロデュース能力が光っている。
そしてそれは、ヒロインの可愛さを追求する作者の表現力でもある。
たとえばランニングのときのポーズは、自撮り文化が興隆するなかで、
書き換えられてゆく可愛さの定義にキャッチアップしている。
なめらかな曲線と、ふくよかさを際立たせる光と影。
黒髪ロングのアクセントとなるリボン。
涼しげだが、女らしいウェットな感情も秘めた面持ち。
息を呑むほどうつくしい漫画があるとすれば、本作がそれだ。
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