『大奥スパイミッション』 第2章「亡国の姫君」


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 ハナは新宿駅を出たあと街を不規則に歩き、追跡されてないのを確認した。タクシーを拾い、立川の自宅マンションへ帰った。立川は、勤務地のある代々木から電車で三十分。愛するアニメ、レールガンの聖地でもある。

 マンション一階は携帯ショップの「オーブ」が入居している。閉店時間を過ぎてるが、まだシャッターは下りてない。忍びの集団・久留里衆の残党が、仕えていた里見家が滅んだあと、機械をあつかう技能を活かして始めた店だ。それなりに繁盛し、都内に八店舗を展開している。

 ショップの自動ドアが開いた。スーツを着た痩身の男が、両手にゴミ袋をもって出てきた。店長である犬塚信乃だ。

 ハナが言った。「信乃、おつかれ」

「お帰りなさい、おひいさま。今日は遅かったですね」

「いろいろあってさ。いま掃除中? 手伝おっか」

「もう終わりました。ありがとうございます」

 信乃は透き通った微笑を見せた。任務とあらば、化粧なしで女に変装できるほどの美形だった。いまでこそ携帯ショップ店員に身をやつすが、かつては久留里衆でダントツの使い手と称された忍びだ。ハナに忍技を仕込んだのも信乃だった。年齢はハナより五つ上の二十六歳。

 ハナは店内へ入った。二階にある信乃の部屋に居候中なので、お返しという訳ではないが、たまに店を手伝う。たしかに床やソファはきれいに磨かれていた。新宿で嫌な汗をかいたのを思い出し、ハナは給湯室で顔を洗った。まだ不快感が残るので、濡らしたタオルをもってソファへ戻る。グレーのパーカーを脱ぎ、重ね着していたキャミソールと長袖のTシャツもするすると脱いだ。上半身に身につけるのはクリーム色の下着だけ。

 ゴミ捨て場から帰った信乃が、ハナを見て硬直した。

 壁の方に顔を背け、信乃が叫んだ。

「おひいさま、なんて格好ですか!」

「なにをいまさら。あたしの裸なんて訓練のとき散々見てるじゃん」

「だれが入ってくるかわからないのに」

「あたしのペチャパイ見てもなんとも思わないでしょ」

「おひいさま!」

「あはは、ウケる」

 ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべ、ハナは服を着直した。信乃は眉をひそめる。長年の従臣という気安さで、ハナは信乃をからかってストレスを発散しがちだ。

 ハナはかつて南総を領有した大名である、里見氏の末裔だった。しかし、父の正堯が関ヶ原の戦いで西軍についたため、里見家は改易された。久留里城へ攻め寄せた四万の徳川軍を、十分の一の軍勢で撃退したのにこの結果だから、悔しさは倍増だ。それもこれも石田三成とかいうバカが、わづか一日で関ヶ原での決戦に敗れたせいだった。

 ただ正堯の長女、つまりハナの姉であるお雪が、家康の三男秀忠に嫁いでいたため、一族の死罪は免れた。お雪による懸命の説得があったと言われる。

 ハナは七歳のとき、流罪となった父に付き添い、高尾山で蟄居生活を送るはめになった。つねに役人に監視され、学校にも通えなかった。三年前に入院した父は病床で、忍びである信乃をハナの傅役に任命した。忍びは武士とちがい所領をもたず、無足人などと呼ばれ軽侮される身分だ。大名だった時期ならありえない人事だが、ほかに頼める家臣はいなかった。要するに信乃はハナのボディガードだった。そして昨年、父正堯は胃癌で他界した。

 ハナは、戦国の世の運命に翻弄された娘だった。姉からの金銭的支援はあるが、嫁ぎ先の徳川氏は二度も干戈を交えた相手であり、頻繁に連絡をとるのは憚られた。身寄りと言える人間は信乃しかいない。

 ため息混じりに信乃が言った。

「大殿様や御前様が見たら嘆かれます」

「はいはい」

「そもそも里見氏と言えば……」

「里見氏と言えば、源氏の血を引く名流。徳川ごときとは比べものにならない。聞き飽きたよ。でも血筋じゃ飯は食えないんだ。居候してるあたしが言うのもなんだけどさ」

 ハナは急に押し黙り、タオルで首周りを拭った。信乃の横を通り過ぎ、タオルを洗いに給湯室へ向かう。その横顔が翳っているのに、信乃は気づいた。

 また小言を言いすぎたと、信乃は反省した。

 むしろおひいさまは立派だ。強大な権力に人生を踏みにじられたのに、毎日明るく振る舞っている。自分の様に分限の卑しい者に対しても、基本的に優しい。情緒不安定になりやすいのが心配だが。

 支えないといけない。どんな犠牲を払っても。

 信乃は胸に手を当てた。鼓動が速まってるのがわかる。ハナのことを考えるとこうなる。これは恋愛感情などではない。崇拝的な忠誠心だ。

 給湯室から出たハナが、頬を紅潮させた信乃を見て首をかしげた。

 ハナが尋ねた。「どうしたの」

「いえ、別に。ちょっと考えごとを」

「めっちゃお腹すいた。回転寿司でも行かない?」

「すみません、伝えるのを忘れてました。正木大膳どのが部屋に来ておられます」

「まじか。あたしは遅くなると言って帰しちゃって」

「数々の武勲を立てた筆頭家老でしょう。そんな義理を欠いた態度ではいけません」

「あれは父上の家臣だから。あたしじゃない」

「里見家の家臣ですよ」

「とっくに滅んだんだよ、里見家は。どうして皆それがわからないんだろう」

 ハナは気怠そうに、窓の外の往来を眺めた。




 ハナは合鍵をつかい、マンション二階の信乃の部屋へ入った。信乃とはもう三年間、共同生活をしている。父が多額の負債を遺したせいで余裕がなく、ハナは家賃や光熱費を払っていない。信乃は家族みたいな存在ではあるが、主君が家臣に寄生するのは筋違いであり、これも頭痛の種だった。

 リビングではイームズの赤いソファに座り、里見家旧臣の正木大膳がスポーツニュースを見ていた。ワイヤーベースのテーブルにビールの空き缶が並んでいる。信乃は服や家具などに凝るタチで、インテリアはミッドセンチュリーとかいうスタイルが好みらしい。ハナは休日におしゃれなカフェへ連れていかれることもあった。

 大膳は着席したまま、ハナの方を向き丁重に頭をさげた。身長百九十センチの禿頭の巨漢だ。北条氏との戦いで「槍大膳」の異名をとった猛将で、その名は関東中に轟いた。

「おひいさま」大膳が言った。「暫くぶりでございます。御機嫌をうかがいに参りました」

「わざわざ来てくれてありがとう。変わりはない?」

「牢人への取り締まりが一層厳しくなりましたな」

「やっぱそうか」

「保証人がいないと、下宿を探すのすら難儀します」

「苦労をかけるね」

「なあに、三河の田舎侍が束になって掛かってこようが、物の数ではござらん」

 大膳は豪快に笑った。あちこち擦り切れた紺のスウェットの上下を着ている。まるで乞食だが、実際に乞食をしていた時期もある。かつて数万石の所領をもち、大名並みの権勢を誇った男が、いまや落ちぶれて見る影もない。

 ハナは白いダイニングテーブルに、ワコムの液晶ペンタブレットを置いた。新人のイラストレーターである彼女の仕事道具だ。明日がライトノベルの表紙の締め切りだが、だいぶ帰宅が遅くなった。徹夜の作業になりそうだ。

 ハナはリビングに向かって言った。

「締め切りが迫っててさ、ここで作業させてもらうね。でもゆっくりしてってよ」

「どうぞお構いなく」

 そう言って大膳はヱビスの缶を開けた。信乃が自分用に買ったものだが遠慮はない。ハナがつかう冷蔵庫にあるものは、家臣の共有財産だとおもっている。

 父正堯は自分の死後も臣下に厚く報いるよう、今際のときにハナに命じた。里見の家があるのは、戦場で命を散らした彼らのおかげだからと。

 しかし大名家としての里見氏は、もう存在しない。なのに旧臣にタカられ続け、姉からの仕送りはすぐ底をつく。こんな非生産的な関係は、そろそろ精算すべきではないか。

 テレビを見ながら大膳がつぶやいた。

「また白龍が優勝しましたな」

「だれ」

「横綱ですよ。三場所連続優勝です」

「ふうん」

 これっぽっちもハナは相撲に興味がない。

「おひいさまが小さかったころ、よくこの大膳と相撲を取りましたなあ」

「そうだっけ」

「どうです、ひさしぶりにやりますか」

「また今度」

 家臣の前で主君はどうふるまうべきかを、ハナは父から学んだ。いまも感情をコントロールしてるつもりだ。でもどうしても、苛立ちが声に滲み出る。

 正直、もう帰ってほしい。

 大膳はテレビを消し、ヱビスの缶をもって食卓へ近づいた。

 大膳が尋ねた。「座ってもよろしいですかな」

「どうぞ」

「お話があるのですが」

「なんでも言ってよ」

 ハナは作り笑顔を浮かべた。用件はわかっている。百パーセント、金の無心だ。

 向かいに腰を下ろし、大膳が言った。

「実はそれがし、会社を興す計画があります」

「へえ。なんの会社」

「警備会社です。すでに家臣一同には声をかけました。彼らがこのまま離散してしまうのは、あまりに惜しい」

「その資金が必要ってことかな」

「将来への投資と思ってくだされ。いづれ我々の手でお家の再興を果たしますゆえ」

 スタイラスペンがコツコツと音を立てた。

 ハナは内心で毒づいた。

 また例の与太話がはじまった。これでもあたしは頑張ってるんだ。邪魔しないでくれ。

「いくら要るの」

「とりあえず五百万」

「そんなのポンと払えないよ」

「今回ばかりは決死の覚悟でお願いしております。大殿様の御無念がいかばかりか、おひいさまが誰より御存じでしょう」

「ほんとに無理だって。借金が八千万もあるから、遺産相続で家財道具を差し押さえられたんだ」

 ハナは廊下に積まれた段ボール箱を指差した。甲冑や刀剣など、里見家に伝わる財物を放り込んである。大膳は箱へ駆け寄り、中身を漁った。鞘に入った小ぶりの刀を取り出した。

 目を血走らせて大膳が叫んだ。

「村雨ではござらぬか。まさかこれを手放すのですか!?」

「しょうがないじゃん」

「抜けば玉散る、摩訶不思議な霊刀ですぞ。里見家代々の御先祖にどう申し開きするおつもりか!?」

 ハナの手が震え、ますますペンが騒いだ。

 誰のせいでこっちは借金を背負ったと思ってやがる。

 逆上した大膳は、断りなくハナの自室のドアを開けた。散らかり放題の汚部屋だった。

 桐の衣装箪笥を引き出し、大膳が続けた。

「御前様の形見の小袖ですな」

「勝手に触んないで」

「これも売るつもりですか」

「できれば手放したくない」

「由緒あるものだそうです。売るならこっちにしなされ」

 花車文の黄色の小袖を、脂ぎった手で大膳が掴むのを見て、ハナは眩暈に襲われた。怒りで血圧が上昇していた。

 遺品の小袖を見ると、「南総の名花」と讃えられた母のかんばせが思い浮かぶ。十四年前、母は戦火に見舞われて亡くなった。

 あの日は、忘れ様がない。

 関ヶ原の戦いで西軍に加わった父正堯に対し、徳川家康は三男秀忠率いる四万の大軍を派遣した。正堯は久留里城に籠もってそれを迎え撃つ一方で、妻子を後方の館山城に置いた。守備兵はわづか百名だった。そして徳川軍は正堯を揺さぶろうと、五十名からなる別働隊で館山城を攻めた。

 別働隊は傭兵が主体だったと言われる。寡兵で城攻めを任された彼らは、悪辣な誘致戦術を採用した。つまり城周辺の村落を焼き、住民を虐殺した。ハナの母は敵の意図を看破した上で、あえて守備兵に住民の救援を命じた。しめたとばかりに徳川軍は、空き城同然となった館山城へ火をかけた。そのとき負ったやけどが原因で母は死去した。

 当時ハナは七歳だった。いまでも毎晩、城内の火災に巻きこまれる悪夢を見る。襷をかけ鉢巻をしめた、凛々しい母の姿も。ハナをはじめとする子供たちを土蔵へ匿い、重い鉄扉を閉める直前、母はこう言った。

「強くなりなさい、ハナ。平和な時代をつくり、守ってゆくのはあなたたちの役目です」

 決して侵されたくない心の領分がハナにあるとしたら、それは母の記憶だった。大膳は土足でそこへ踏み込んできた。ふたたび乱を起こし、家康に復讐するのが目的で。

 正気の沙汰ではない。

 いまさら徳川に叛旗を翻してどうする。関ヶ原以降急増した牢人を一掃したい幕府にとっては、むしろ思う壺だ。それに万が一徳川を倒せたとして、その後どうする。里見幕府をひらくのか。そんな能力があたしらにあるとでも?

 叛乱が無意味どころか有害なのは、大膳ら旧臣が一番わかっている。でも彼らは死に場所を求めている。みじめに老いさらばえるのでなく、戦場で華々しく散りたいのだ。

 ハナは液タブの電源を切った。食卓に置かれた伝家の宝刀が目に入った。主君には家臣を裁く権限がある。こちらの裁量で切腹を命じることもできる。

 そんなに死にたいなら勝手に死ね。

 あたしや母上を巻きこむな。

 ガチャッ。

 マンションのドアが開き、黒のスーツを着た信乃が部屋に入ってきた。

 リビングで仁王立ちする大膳が、高圧的な口調で言った。

「信乃、お前は下がっておれ。おひいさまと大事な話をしている最中だ」

「わかっております。渡すものを渡したら出ますので」

 信乃は平気な顔で食卓へ近づいた。ハナは申し訳なさと恥づかしさでうつむいた。ここは信乃の自宅ではないか。大膳は、十数年前の身分差をいつまで引きずっているのか。

「ごめん」ハナがつぶやいた。「あの言い方はない」

「慣れっこだから大丈夫ですよ」

 信乃はハナに封筒を手渡した。

「これは?」

「店にあったビール券です。二十万円分あります。大膳どのも納得してくれるのではないでしょうか」

「いつもいつもありがとう。あたし、信乃に頼りすぎだ」

「水臭いことを言わないでください。おひいさまのお役に立つ以上の喜びはありません」




 酒浸りの大膳はビール券を握りしめ、上機嫌で帰っていった。お家再興云々は口実で、当座の生活費が入ればとりあえず満足なのだろう。

 ハナは仕事を再開しようと液タブに向き直るが、まるで手が動かない。散文的な現実がのしかかり、異世界ファンタジーのイラストを描く心理状態にならない。

 信乃が食卓にグラスを置いた。琥珀色の液体から湯気が立ち、甘くまろやかな香りが漂った。かすかにアルコール臭もする。ただしハナはめったに飲酒しない。

 怪訝そうにハナが尋ねた。

「なにこれ」

「ホット・バタード・ラムです。お酒を飲みたい御気分じゃないかと思いまして」

「まあね……ん、おいしい。体の芯があったまる感じ。徹夜仕事をがんばる気力が湧いてきたわ」

「無理をなさらないでくださいね」

「相変わらず信乃って女子力高いなあ。あたしよりいいお嫁さんになれるよ」

「ありがとうございます」

 冗談を平然と受け止め、信乃はほほ笑んだ。女装して街を歩いても誰にも気づかれない容貌なので、洒落にならない。

 食卓の向かいで同じカクテルを飲み、信乃が続けた。

「御前様の血を受け継いでらっしゃるのだから、おひいさまもいづれは立派な奥方におなりあそばします」

「どうだか。母上の遺伝情報は全部姉上に行ったもん。あたしはちっちゃい頃から、久留里衆に交じってヤンチャしてたし」

「懐かしいですね」

「いま思えば、母上は放任主義だったなあ。とにかく優しかった。あたしって、わがままなクソガキだったじゃん?」

「ええ、そうですね」

「少しは否定しろよ。でも母上はいつもあたしの味方だった。死に別れたのは七歳だから、記憶はおぼろげだけど」

「忍びにも親切にしてくださる、すばらしいお方でした」

「だよねえ。そういや聞いたことなかったけど、信乃のご両親は健在なの?」

「わかりません」

「え」

「両親は五歳だった私を、久留里衆へ売りました。それ以来会ってません。地元の目端の利きそうな子供を、久留里衆はスカウトしていたんです」

 信乃は穏やかな表情で、穏やかでない過去を語った。

 頬を引き攣らせてハナが言った。

「ごめん。余計なこと聞いたかも」

「とんでもない。忍びに家族など不要です。もし任務より大切なものが自分にあったら、差し障りが出ます。敵は必ずそこを突いてくるので」

 信乃の唯一の弱点は、アルコールに弱いことだった。普段より舌が滑らかになっている。

 そして彼の表情は、内面のプライベートな領域をハナに侵犯されて傷ついたというより、忍びとしての誇りをひけらかしている風だった。




 時計は夜十時を回った。

 信乃は、東久留米にできる新店舗の準備をしに出掛けた。ハナはぬるくなったホット・バタード・ラムをすすりつつ、出しなに信乃が口にした話を思い返していた。

 携帯ショップのオーブは、空席となる立川店の店長をハナに任せたいらしい。ちょくちょく店を手伝っていたから、適性は問題ない。忍びが主君を雇う形になるが、将来的にはハナを会社の幹部に据える考えがあるそうだ。

 イラストの仕事との両立はおそらく不可能だ。しかし優先すべきは収入の安定だろう。絵は趣味で描くこともできる。電撃文庫の様な大手ならともかく、ハナが寄稿している出版社はライトノベル一冊で十五万円。合い間に専門学校で講師をつとめているが、自活するには不十分だ。

 ハナが居候しているのは別に負担でなく、むしろ信乃にとっては光栄だが、それでもやはり経済的な自立こそがハナの幸福につながるのではないか。

 そんな風に信乃は語った。

 いよいよ首が絞まってきたなと、ハナは思った。やはり絵の仕事で食べていくのは厳しいのかもしれない。

 そもそもあたしは、どれくらい本気でイラストレーターになりたかったんだっけ。

 高尾山での蟄居生活では、父上から学問を、信乃から忍技を教わった。それ以外の時間はひたすらアニメを見たり、お絵かきをしていた。同世代の友達がひとりもいないから、妄想の中でずっと架空の女の子と遊んでいた。

 年月が経ち、戦乱の時代は終わった。父上の軍略や信乃の忍技は、無用の長物となった。あたしが持ってるスキルは、ほかに絵しかなかった。なので十九歳で漫画家としてデビューした。びっくりするほど売れなかったし、原作者とケンカして某出版社を出入り禁止になった。

 いまの仕事は楽しい。できれば続けたい。でも自分に特別な才能がないのはわかっている。あたしよりずっと巧い人たちでさえ、大して稼げてないという現実も。

 だからって、携帯ショップの店長かあ。

 亡国の姫君からの華麗なる転身。

 そして普通に恋愛したり、結婚したり。

 あははと、ハナは声に出して笑った。

 脳裏に信乃が浮かんだからだった。信乃を恋愛対象に考えたことは一度もなかった。美男子で誠実で、パートナーの候補としては申し分ないのに。

 ハナは首を振った。

 ないない。それだけはない。

 あたしは男性アレルギーだし、だいたい信乃の方が断るだろう。恋人がいるのかどうか全然知らないけど。




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苑田 謙

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