ゆずチリ『姫乃ちゃんに恋はまだ早い』
姫乃ちゃんに恋はまだ早い
作者:ゆずチリ
掲載サイト:『くらげバンチ』(新潮社)2018年-
単行本:バンチコミックス
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「姫乃ちゃん」は、仕切りたがりの小学4年生。
かわいくおしゃれで女子のリーダー的存在だが、怒りっぽいのが玉に瑕。
口癖はもちろん、「男子ってほんとバカ!」。
おませな姫乃ちゃんは好きな男子がいる。
相手はおなじクラスの「オージくん」。
好意を懸命にアピールするが、鈍感すぎてまったく伝わらない。
恋をするにはやや時期尚早で、周りがついてこれない、
姫乃ちゃんの背伸びっぷりがおかしいラブコメだ。
女子小学生のファッションも存分にたのしめる。
みんなでプールに出かける回は、特に見ごたえあり。
姫乃ちゃんにライバルがあらわれる。
その名は「翼ちゃん」。
どのクラスにもひとりはいる、男子の方が気が合うタイプの女子だ。
翼ちゃん自身はすこしも恋愛に興味ないが、
よくオージくんと一緒に遊ぶので、姫乃ちゃんに嫉妬される。
1巻は「番外編」が4本収録されており、どれも翼ちゃんにスポットをあてる。
とにかく無邪気で天然でかわいい。
おとなびてるけど、なんだかんだで年相応に愛らしい。
JSファンなら絶対見逃せない作品だ。
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白石純『魍魎少女』2巻
魍魎少女
作者:白石純
掲載誌:『月刊コミックゼノン』(徳間書店)2018年-
単行本:ゼノンコミックス
魍魎たちと闘いながら、バラバラになった師匠の体を回収する、
華麗で残酷でノスタルジックな物語の第2巻である。
その出来は、予想以上にいい。
第6話では、大正風の銀座という舞台にふさわしく、
クローシェ帽をかぶるモガの姿のゾンビみたいな敵が登場。
あいかわらずイメージが強烈だ。
2巻の多くを占める回想シーンは、南北朝時代の1349年までさかのぼり、
不死身のヒロイン・林檎丸にまつわる秘密をあかしてゆく。
魍魎第0番「双魚」の不気味さは、名状しがたいほど。
ストーリーにしこまれたギミックはまるでエヴァンゲリオンの様だし、
あまりに遠大で、その存在を認識するだけで狂気におちいりそうな感覚は、
クトゥルー神話を彷彿させると僕はおもった。
1巻時点で僕は、詰めこみすぎの傾向がつよい本作は、
結局うまく風呂敷を畳めないのではと予測し、
それでもヴィジュアルの強度ゆえ推奨した記憶がある。
少々見くびってたかもしれない。
グロいドラゴンボールみたいな筋書きはシンプルでおもしろいし、
世界観はなんだか禍々しくて深遠だし、
なにより金髪ポニテ和装少女のキャラが立ちまくっている。
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『球詠』をディープに語ろう
球詠
作者:マウンテンプクイチ
掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2016年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
『球詠』ファンの方とのツイッターでのやりとりでスイッチが入り、
来月の5巻刊行を前に個人的見どころをあつめた。
第1話を読み直して印象ぶかいのは、「制服で学校を選んだ」というヨミの発言。
いさぎよいくらい野球への情熱をうしなっていた。
珠姫などヨミ以上に淡白で、中学時代に全国出場したガールズのチームも、
近所だからたまたま加入しただけと白状している。
ふたりの再会がすべてのはじまりで、つまり奇跡だった。
かわいい制服のおかげだ。
天才打者・中村希が、本作のもう一枚の看板なのはまちがいない。
初心者である白菊の潜在能力を、ひと目で見抜いたのがすごい。
ウィキペディアに「長打力にコンプレックスのある希」と書いてあるが、
10話での芳乃との会話をふまえて修正してない、不適切な記述だ。
希はホームランを打てないのではなく、フォーム維持のため狙わないだけ。
1回表、1死1・3塁。
4番をまかされる希だが、相手は強豪の梁幽館。
むしろスクイズは合理的といえるが、気配すらない。
チームの信頼をあつめる強打者である証拠だ。
作者はそれをたたずまいで表現する。
看破したキャッチャー小林もさすが。
見逃せないのが、監督の藤井先生。
練習メニューや試合での采配は芳乃におまかせでラクしてるが、
ときおり意味深なことをつぶやき、部員たちをハッとさせる。
影森の攻略にも貢献している。
どうも藤井先生はパワプロの大ファンらしい。
敵味方の能力値を入力してシミュレーションをおこなったり。
ヒマなのかもしれないが、情報が頭に入ってるからこそできる芸当だ。
そんな苦心作を「ゲームはどうでもいい」とあっさり流す芳乃がすてき。
あふれる野球愛ゆえ、芳乃はたまに采配が暴走する。
それが双子の姉・息吹が死球をうけた一因となり、罪悪感で意気消沈してしまう。
藤井先生は代わってサインをおくる。
的確に状況を把握してないと、このさりげない動きはできない。
4強時代の新越谷OGだから、言いたいことはいくらでもあるはずだが、
優秀な参謀である芳乃に自由にやらせるため、あえて黙ってるのだろう。
ベンチにおける名コンビである。
さて、そろそろ僕の個人的思い入れを書いていこう。
一番好きなキャラは理沙先輩だ。
初戦のマウンドにのぼるときの後ろ姿は、本作最高のカットのひとつ。
3巻のおまけ漫画から。
理沙先輩の魅力は、そのやさしさ。
急造ピッチャーとして登板するにあたり、緊張しないわけないのに、
出番を奪われたヨミがふてくされてないかと、自分のことより心配する。
ヨミの不満は、実は打順に対してだったが。
それにしても、初心者なのにヨミより打順が上になった白菊と息吹は大したもの。
マウンテンプクイチは、百合姫コミックスから2冊単行本をだしている。
百合作家としても、150キロくらいの速球を投げられる本格派だ。
しかし、『球詠』に恋愛要素はない。
部内での恋愛は、トラブルの種でしかないからだろう。
匂わせもしない。
ただひとり、理沙先輩をのぞいては。
つねにチームのことをかんがえ、親友である怜を献身的に支える人格者が、
片思いの悩みをかかえるガチ百合として、作家性を担っている。
かわいい女の子たちのわちゃわちゃ。
一球一打にかける熱い思い。
戦略性のおもしろみ。
そしてときおり炸裂する、思春期らしい切ない胸中。
『球詠』には、僕らが漫画に求めるほぼすべてがあるし、
逆に『球詠』にないものは、世界に存在する価値がないとさえおもえる。
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村岡ユウ『もういっぽん!』
もういっぽん!
作者:村岡ユウ
掲載誌:『週刊少年チャンピオン』(秋田書店)2018年-
単行本:少年チャンピオン・コミックス
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女子高生の柔道漫画である。
作者は、すでに柔道ものを何作か発表しているが、
女の子に焦点をあわせたのが新境地である様だ。
主人公は高校1年生の「未知」。
中学時代に柔道にうちこむも、あまり芽が出ず、
高校では帰宅部で自由を満喫するつもりだったが、
「一本」の快感を忘れられずに結局再開。
本作は全体的に、ムチムチした身体描写に特徴がある。
「日常系のスポ根漫画」とでも言うべきジャンルを開拓している。
主人公に特別な才能はなく、全国優勝などの壮大な目標もない。
淡々としたストーリーだ。
たとえばきらら系コミックで、スポーツを題材にした作品は多いが、
あのキャピキャピした「スポ根的な日常系」と比べると、リアルな作風だ。
こちらは柔道部顧問の「夏目紫乃」。
キリッとした風貌で、クールな言動の女性教諭である。
同僚のパワハラをたしなめるなど、教育者としての見識をそなえる。
流行(=かわいい女の子)を取り入れつつも、時流には飲みこまれない。
強い意志を感じさせる作品である。
入念のトーンワークによって構築された空間表現が、それを証明している。
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オカザキトシノリ/瀬川はじめ『電撃トラベラーズ』2巻
電撃トラベラーズ
作者:オカザキトシノリ
原案:瀬川はじめ
配信サイト:『コミックニュータイプ』(KADOKAWA)2017年-
単行本:角川コミックス・エース
まだ1巻を読んでない人にはネタバレになってしまうが、
ヒロインである「薙原さん」がロボットであることが判明した。
自分たちは暴走したAIと戦ってるはずだったのに。
あまりに精巧なため、薙原さん自身さえ秘密を知らなかった。
動揺するふたりを慰めようと、仲間が深夜の遊園地デートを企画する。
2巻は、戦闘の合間の掘り下げ回という位置づけかな。
オカザキトシノリのとぼけた画風が利いている。
ほのぼのデートにみえる一方で、薙原さんが右腕を失ってるのが複雑な味わい。
紆余曲折あり、「切春」は戦場である四国から、東京へもどる。
なにくれと兄を心配する妹「小夏」からもデートにさそわれる。
オカザキは、さほど描き分けがうまい方ではないが、
しぐさなどで各キャラクターの個性を強調している。
徐々に明かされてゆく世界観。
不穏な事件と、おだやかな日常。
作者ふたりの関係がうまく機能しているのか、
見どころたっぷりの傑作に仕上がっている。
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ルッチーフ『奥さまは新妻ちゃん』
奥様は新妻ちゃん
作者:ルッチーフ
掲載誌:『まんがタイムきらら』(芳文社)2017年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
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このポニーテールのヒロインは、「琴吹新妻(にいづま)」。
名前があらわすとおり新婚ホヤホヤである。
たわわな胸は見せびらかすというより、窮屈すぎて上着からはみ出てる感じ。
ネーミングはちょっと風変わりだが、これはSNSで人気のある、
テーマにそった連作イラストみたいなものと考えるべきだろう。
マンションでの、甘々でみずみずしいふたり暮らしをえがく4コマだ。
男に好まれる要素をギュッと凝縮した、新妻ちゃんの造形がすべてと言える。
素直で、頑張り屋さんで、恥ずかしがりな性格もふくめて。
ご近所さんも若くてかわいい奥さんばかり。
隣室に住む「なごみ」はロリだが、言動は妙に大人びている。
「文さん」は和服がにあう美人。
夫が官能小説家だからか、意図せずエロスを発散している。
掲載誌のカラーゆえ、直接的描写はない。
キスすらしない。
そして性生活の不在についてのエクスキューズは特にない。
かわりに新妻ちゃんは夫をよろこばせようと、「水着エプロン」でお出迎え。
定番の裸エプロンじゃないのは、恥ずかしすぎるから。
新妻ちゃんは大きな胸がコンプレックスだった。
回想シーンは共感をよぶ出来。
ご都合主義をかわいさの方向へ突き詰めつつ、でもそれだけでは終わらない、
きららが提供するファンタジー世界の典型がここにある。
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神江ちず『ねこ神様はふわふわのお布団がお好き』
ねこ神様はふわふわのお布団がお好き
作者:神江ちず
掲載サイト:『ヤングエースUP』(KADOKAWA)2018年-
単行本:角川コミックス・エース
ネコ耳、和服、幼女、神社。
キャッチーな要素てんこ盛りの作品だ。
主人公は、ゲーム会社でデザイナーとして働く「彩夏」。
ある日、酔っぱらって迷いこんだ神社で仕事の愚痴を言ったら、
「永遠に眠りたい」という願いを文字どおり解釈した、猫神様に殺されかける。
神江ちずは以前、『しかばね少女と描かない画家』を紹介した。
人物描写が巧みな作家だ。
上司やクライアントとの微妙にこじれたやりとりは、
たとえば『NEW GAME!』などよりリアルに感じられる。
新人の「御法川さん」は美人で優秀だが、
悩みをためこむタイプで、彩夏はいまいち使いこなせない。
状況と人間関係を丁寧にえがくので、読みごたえがある。
そしてなにより、女子がかわいく、うつくしい。
あとギャグセンスもいい。
本作のテーマは、ずばり「健康」。
睡眠健康指導士の資格をもつらしい作者は、その知識をいかし、
彩夏にさまざまな健康法を試させ、仕事のストレスを解消してゆく。
せちがらい現代社会に生きる女性を応援する佳作だ。
ただ、欠点はなくもない。
主人公が自力で問題解決できるので、猫神様の存在価値がうすいこと。
ファンタジー表現が作者の持ち味だし、実際「ちよ」は最高にかわいいが、
『しかばね少女』同様、本作もストーリーをさらに練るべき余地があったかも。
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金田一蓮十郎『ゆうべはお楽しみでしたね』6巻
ゆうべはお楽しみでしたね
作者:金田一蓮十郎
掲載誌:『ヤングガンガン』(スクウェア・エニックス)2014年-
単行本:ヤングガンガンコミックス
結婚をきめたふたりは、それぞれの両親に報告する。
しかし厄介なのは、ネトゲを通じて知り合ったという事実。
世代によっては受け入れられないかもしれない。
ただし上のゴローさんの父の反応は、半分冗談。
式や指輪や旅行など、結婚にまつわるアレコレを処置してゆく。
サバサバした性格のゴローさんは、結婚式を挙げるくらいなら、
その分のお金を新婚旅行へまわし、ふたりの思い出をつくりたいという考え。
いまどきの女子の人生観をわかってないパウの方が、
相手を気遣うあまり、保守的な提案をしがち。
ネトゲのコミュニティから発生したカップルなので、
最初に相談する相手もネトゲ仲間をえらぶ。
チーム内でゴローさんは男と認識されており、パウの説明不足もあいまって、
ふたりをゲイのカップルとおもいこんだメンバーたちは動揺する。
ゴローさんと母親のやりとりがよく描けている。
さすがは女性作家という感じ。
離婚して雑貨店をいとなむ母は、ゴローさん以上に淡白なところがあるが、
ルームシェアの相手が実は男だったと知って、いまさらながら驚く。
ここに本作の真のテーマがある。
「ネトゲでのつながりは、ときにリアルより深い」とゴローさんは信じ、
そしてそれは一面の真理であるが、とはいえ母が心配するのも当然だ。
なにかのきっかけで豹変する男もいる。
そういう意味でゴローさんは幸運だった。
ネトゲという題材で、いかにも現代的でカジュアルな男女のあり方をえがく一方で、
表面からはみえない奥底で、燃える様にロマンチックな愛が脈打っている。
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