あおのなち『きみが死ぬまで恋をしたい』
きみが死ぬまで恋をしたい
作者:あおのなち
掲載誌:『コミック百合姫』(一迅社)2018年-
単行本:百合姫コミックス
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ルームメイトの死からはじまる百合漫画だ。
それを聞かされても主人公「シーナ」は淡々としている。
シーナは、孤児をあつめた魔法学校で寮生活をおくる。
学校は彼女らを訓練し、戦場へ派遣する。
つまり本作は「ファンタジー」や「戦争」が題材であり、
百合姫作品としてはギミックが大掛かりだ。
シーナは、天才的な能力をもつ「ミミ」と出会う。
めざましい戦果をあげたばかりで、全身血まみれだった。
小柄で無邪気で幼く見えるミミだが、実はシーナと同い年。
あたらしいルームメイトとして共同で生活することに。
制服はセーラーワンピース風。
ただしリボンなどはなく、ラインも1本だけとシンプルで、
セーラー要素の主張がひかえめな、ぎりぎりのバランスだ。
少女たちは何者と戦っているのか、その戦争目的はなにか。
主人公は内面にどんな闇をかかえていて、それをどう解決するのか。
あえて言うとジブリやまどマギみたく、大作っぽいムードの本作は、
当然生じるこういった読者の疑問に答えなくてはならない。
しかし僕がおもうに、百合姫連載作にストーリー性を要求するのは野暮だろう。
たとえば本作では、唇をかさねることで治癒魔法が発動される。
ふわっとやわらかい絵柄でえがかれる少女たちと、
シリアスなテーマが緊張をはらみながら共存する、
独特の空気感がなによりも貴重に感じられる。
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冬目景『空電ノイズの姫君』3巻
空電ノイズの姫君
作者:冬目景
掲載誌:『月刊バーズ』(幻冬舎)2016年-
単行本:バーズコミックス
『空電ノイズの姫君』は幸福な作品だとおもう。
デビューから27年のベテラン作家が、たのしんで描いてるのがつたわる。
絵が「歌って」いる。
よくもわるくも淡々とした作風の冬目景が、
ロックを題材にして心機一転するとは意外だ。
まあ、代表作のタイトルが『イエスタデイをうたって』だし、
彼女の内面でずっとロックは奏でられていたのだろう。
3巻は、初ライブが大失敗におわったマオたちが、
打ちひしがれて迷いの日々をおくる様子をえがく。
なにげない会話がいい。
文字がやたら多く、特別に見せ方を工夫してるわけでもないが、
女の子の表情が時間と空間の感覚をかもしだす。
これぞ冬目景ワールドだ。
「才能とはなにか」について熱く議論する。
冬目は美大出身で、どちらかと言えばマニアックな作風で、
作品発表のペースは途轍もなく悠長でありながら、
傍から見ると浮き沈みのない安定したキャリアを築いている。
「売れないアーティストの鬱屈」なんてとっくに忘れてるはずだが、
それでもけっこう読ませるのが不思議だ。
『空電ノイズの姫君』は、幻冬舎から講談社に掲載誌が変わった。
あとがきによると『コミックバーズ』休刊に際し、ウェブ連載を打診されたが、
冬目は紙媒体へのこだわりを訴え、それが認められたらしい。
おだやかな作風の背後にある、アーティスト魂を感じさせるエピソードだ。
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中山敦支/小高和剛『ギャンブラーズパレード』1巻
ギャンブラーズパレード
作画:中山敦支
原作:小高和剛
掲載誌:『週刊少年マガジン』(講談社)2018年-
単行本:KCDX 週刊少年マガジン
中山敦支作品には、よく瓦礫がでてくる。
建物はとりあえずぶっ壊せ、みたいなところがある。
本作でもそれは踏襲され、全4話を収録するこの第1巻は、
第1話で2度、第2話で1度、ドカンと破壊するシーンをえがく。
キャラクターやストーリーに関しては、「らしくなさ」が目立つ。
いわゆる超サイヤ人的な描写はめづらしい。
少年漫画では、読者の成長願望にそった「能力インフレ」が好まれる。
しかし中山作品のバトルは概して、限定的なリソースを投じての潰し合いだった。
こちらは『トラウマイスタ』最終5巻からの引用。
ソウマとゲルニカが敵の本拠地へのりこみ、高層ビルを破壊して死体の山を築く。
猛獣の牙の様にするどい暴力性、濃厚な死の匂い。
中山作品のド派手なアクションは少年漫画的だが、
精神面においては真逆ですらあり、そのアンビバレンスに読者は戦慄する。
ヒロインが内気でウジウジしてるのも、いつもとちがう。
明るく、やさしく、強く、前向きな、これまでの女性像から逸脱している。
とはいえ、中山ヒロインらしさがスパークする瞬間もあり、
この作家が瓦礫の上にどんなキャリアを確立するのか、僕には予測できない。
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三ノ咲コノリ『春夏冬さんに呪われるっ!?』
春夏冬さんに呪われるっ!?
作者:三ノ咲コノリ
配信アプリ:『Palcy』(講談社)2018年-
単行本:シリウスKC
学園に、うつくしい髪の転校生がやってきた。
その名は「春夏冬(あきなし)いろは」。
ミステリアスな雰囲気を発散しており、まるで魔女みたいだが、
中身はいたって温厚な性格の優等生である。
こちらはオカルト部の「萩好 環」。
モテそうなルックスなのに中二病をこじらせ、リア充をはげしく憎む。
ちなみに、撫でているカラスは剥製である。
そして放課後の教室で、春夏冬さんと環が出会う。
春夏冬さんの目つきが悪くて怖いのは、単に人見知りが原因だが、
環はそれを見て、自分が魔法で召喚した魔女と思いこんでしまう。
春夏冬さんの方にも問題はあり、ブードゥー人形をかわいいと思うなど、
いささかズレてる言動が、周囲からの誤解をまねく原因となっている。
こんな風にオカルトをネタにしつつも、怪異現象は特におきない学園コメディだ。
本作では春夏冬さんの暴走を「ワルプルってる」と称する。
さて、ストーリーはどちらかと言えば環の視点ですすむが、
彼女は最初からオカルトにどっぷりなので、読者を置いてきぼりな傾向がある。
感情移入すべき主人公がだれか、いまいちはっきりしない。
しかし、環の片思いが空回りする様子などはかわいい。
これをメインプロットに絡めたらもっとよかったろう。
たとえば、好きな男子が一か月後に転校することになっていて、
それまでに告白したいのに、三角関係に足を引っぱられるとか。
批判めいたことを述べたのは、この作家を応援してるから。
ちょっとわかりづらくても、手に取る価値があると言いたい。
『アルクアイネ』は北欧を舞台とするファンタジーだったが、
本作は卓抜なセンスを、いわゆる日常系に落とし込んでいる。
作者なりに工夫してるのがわかる。
とにかく、とびぬけて可憐で繊細なこの絵柄は、えがたいものだ。
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オカザキトシノリ/瀬川はじめ『電撃トラベラーズ』
電撃トラベラーズ
作者:オカザキトシノリ
原案:瀬川はじめ
配信サイト:『コミックニュータイプ』(KADOKAWA)2017年-
単行本:角川コミックス・エース
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「JK×メカ×バトル」の、単語の並びに反応する人におすすめの作品だ。
オカザキトシノリはこれが初連載らしいが、
『喰霊』『東京ESP』などの瀬川はじめが原案でサポートしている。
舞台は、無政府状態となった四国。
「帯電体質」の少年少女らが世界を救うため、叛乱をおこした「AI」と戦う。
片方だけ横縞のニーソックスを履かせるなど、
ヒロインである「薙原さん」の造形が凝っている。
薙原さんはクールだが、天然キャラでもある。
主人公である「切春」をスカウトするため彼女に立候補するなど、
ぐいぐいアピールしてくる。
切春の特徴は、体内に蓄える電力量の多さ。
戦いのなかで放電し、消耗した薙原さんと手をつなぐと、電力を供給できる。
キャラ同士のロマンチックな関係も見どころだ。
四国4県で、同時並行的に戦闘が繰り広げられてるらしい。
1巻では眼鏡のスナイパー「千華子」が登場する。
引用画像をえらんだら、意識せず、すべて見開きとなった。
コマ割りに独特のリズムと勢いを感じさせる、新鋭の作家なのは明らかだろう。
女の子とメカの描写が、ハイレベルで両立している。
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山崎零『恋せよキモノ乙女』3巻
恋せよキモノ乙女
作者:山崎零
掲載誌:『月刊コミック@バンチ』(新潮社)2017年-
単行本:バンチコミックス
和服を愛する女性「もも」の日常をえがく漫画の第3巻は、
あっけない失恋から幕を切って落とす。
舞台は神戸の喫茶店で、あいかわらず店のチョイスがいい。
内気なももにとって、自分から告白するのは難事業だった。
なのでフラれたダメージは大きく、しばらく引きこもり生活となる。
心配する姉が連れ出した先は、大衆的な居酒屋。
一生懸命はげます姿がじんとくる。
このときももが着たのは、インディゴブルーのデニム生地。
そうこうするうち、ももは元気をとりもどしてゆく。
逆に親友の試験勉強を応援したり。
大事件はおきず、恋愛方面もうまくゆかないが、あんがい充実した生活。
本作のもうひとりの主人公である「着物」に関しても、まだネタ切れしてない。
母と一緒に和歌山の海岸をドライブするとき選んだのは、
波と雲をイメージした絽の小紋と、貝殻をあしらった帯。
モノクロの作品なのに、あざやかな青を感じる。
やはりこれは秀作だ。
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さぎり和紗『尼なので逆ハーレム王国は築きません』
尼なので逆ハーレム王国は築きません
作者:さぎり和紗
発行:宙出版 2018年
レーベル:NextcomicsF
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尼さんになるため現代日本で修行していた「ミユウ」が、
異世界に転生し、そこで美形の王様に壁ドンされたりする物語である。
ミユウは剣や魔法などをあやつれない。
なので「説法シーン」が見せ場となる。
普段は民衆の立場にやさしく寄り添うが、いざというときは、
たとえ相手が王侯貴族だろうと、舌鋒するどく正しい道を説く。
全3話120ページで短篇にカテゴライズされる作品だが、
各エピソードに仕掛けがほどこされており、読みごたえあり。
奴隷制がテーマの2話の出来がいいかな。
イケメンに愛されたい願望が炸裂する少女漫画っぽさと、
なろう系異世界転生ものと、尼さんのお説教という三つの素材を、
強引に融合させつつも世界観が破綻してないのに感心。
作者の祖父は住職だったらしい。
説法シーンにおける、ミユウの凛としたたたずまいと説得力は、
なるほどこれは実体験にもとづいてるのかなと思わせる。
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ハナツカシオリ『ストーカーズ』
ストーカーズ
作者:ハナツカシオリ
掲載誌:『コミック電撃だいおうじ』(KADOKAWA)2018年-
単行本:電撃コミックスNEXT
ストーキングを題材とする連作。
なので主人公は毎話ことなる。
この長い髪の少女は、ルックスはいかにも深窓の令嬢風だが、
毎日早朝にゴミを漁るなど、重度のストーカーである。
こちらは、SNSに過度に依存する大学生。
趣味や交友関係など、相手の情報をとことん集めておかないと、
安心して人付き合いができないタイプ。
犯罪というほどでないが、これも一種のストーカーだろう。
女子小学生のストーカーまで登場。
可憐な絵柄にピッタリなこの4話でわかるとおり、
本作は題材のわりに殺伐としていない。
おそらく狩りをしていた時代以来、人間が本能的にそなえる、
「ターゲットに対し優位に立ちたい」という欲求のあらわれが、ストーキングなのだ。
全否定されるべきものではない。
手口の描写はなかなか本格的。
ある漫画家を病的に崇拝する少女は、検索を工夫して日常アカウントを発見。
不用意にばら撒かれる情報をつなぎ合わせ、住所まで特定する。
スパイものみたいな読みごたえだ。
当ブログはすでに2作のハナツカ作品を紹介した。
この作家は、かわいくて繊細な絵柄が売りである一方で、
読者を突き放す様な、辛辣でドライな作風の持ち主でもある。
うまく魅力を伝えづらいとおもっていた。
でもストーカーをストーキングする6話をみると、
作者のこんがらがった個性がいい方向にあらわれてるのを感じる。
ようこそ、ハナツカワールドへ。
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