相川有『人外さんの嫁 宵町の巫女』

 

 

人外さんの嫁 宵町の巫女

 

作者:相川有

原案協力:八坂アキヲ

発行:一迅社 2018年

レーベル:ZERO-SUMコミックス

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現在アニメが放映されている人気作のスピンオフである。

本篇では原作担当の相川有が、作画も受け持っている。

 

相川はベテラン作家だが、最近は原作仕事が多い様だ。

当ブログでは『無関心探偵AGATHA』をとりあげた。

個人的に好みの絵柄だ。

『人外さんの嫁』はよく知らなかったが、ためし読みしたところ、

本作のヒロインの憂いをふくんだ佇まいに惹かれ、購入決定。

 

 

 

 

主人公である15歳の「都」が住む町には、あるしきたりがある。

嫁取りにあらわれた神にえらばれたら、拒否できないという。

そして都は、禍々しい黒龍の花嫁になることに。

 

 

 

 

もちろん都は抵抗する。

それでもそこは乙女の習性で、「結婚」という言葉に心はゆれる。

大切にされることの安心感が距離をちぢめてゆく。

 

 

 

 

1巻完結なので、やや駆け足で関係が進展してゆく。

滝壺のシーンとか、殊更にうつくしい。

特に都の脚が。

 

 

 

 

都には秘められた記憶があり、すでに幼少期に龍神と出会っていた。

 

あと僕は、冒頭の叙述トリックに引っかかった。

ストーリー面でも読みごたえのある作品だ。

 

 

 

 

セーラー服でポニーテールの凛としたヒロインが、

不思議な世界観のなかで、さまざまな表情をみせてくれる。

おすすめだ。





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榎屋克優『高梨さんはライブに夢中』

 

 

高梨さんはライブに夢中

 

作者:榎屋克優

掲載誌:『Dモーニング』(講談社)2018年-

単行本:モーニングKC

[ためし読みはこちら

 

 

 

うだつの上がらないサラリーマン「坪坂」は、ビンゴの景品でもらったチケットで、

生まれてはじめてロックのライブ会場へやってくる。

そこで意外にも、職場の同僚「高梨さん」に出くわす。

 

 

 

 

ライブでは音量のすさまじさや、観客の動きの激しさに度肝をぬかれる。

そしてなにより、ふだんは地味な同僚の変貌ぶりに。

 

ライブ会場あるあるネタと、高梨さんのギャップ萌えをたのしむ漫画だ。

 

 

 

 

フェスで泥まみれになってサークルモッシュとか、おいしい場面を押さえている。

 

正直僕は、会場の後方で腕組んで鑑賞する地蔵タイプだが、

こうやってバカ騒ぎする快感もありかもしれないと思った。

 

 

 

 

高梨さんは守備範囲が広い。

王道ロックもいけるし、デスメタルもいける。

 

 

 

 

アイドルの現場にもいく。

坪坂にリフトされ、推しからレスもらえて大興奮。

 

 

 

 

ちなみに当ブログは、音楽漫画とグルメ漫画に点が辛い。

前者は聴覚、後者は味覚に焦点をさだめた題材であり、

視覚重視のメディアにそぐわないと思うからだ。

 

しかし観客サイドからえがく音楽漫画はめづらしく、本作の価値を高めている。





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ジャンル : アニメ・コミック

『殲滅のシンデレラ』 最終章「ガラスの靴」


全篇を読む(準備中)






 アヤはイオリを引き連れ、無人のゲームセンターを歩む。ビデオゲームやクレーンゲームなどの筐体が、にぎやかな光と音を放つ。

 地上では米兵が襲撃してきたらしい。ユウキがひとりで応戦するあいだ、イオリが支援要請しにシェルターまで降りてきた。

 ブツン!

 明かりが消え、ゲーム筐体の電源が落ちた。

 停電だ。

 ドタンバタンという騒音と、イオリらしき悲鳴が闇に響きわたる。

 じきに給電は復旧し、明かりが灯る。

 左のクレーンゲームの脇で、異変がおきていた。迷彩戦闘服を着た兵士がイオリを抱きかかえる。別の兵士が、FN・SCARアサルトライフルをこめかみへ向ける。目を見開いてイオリは震える。

 正面の出入口付近に、兵士六名が展開している。ヘルメットに装着された暗視ゴーグルを外す。アヤに照準を定めなおす。

 アメリカ海軍特殊部隊SEALSの、チーム5だ。長崎の佐世保基地から派遣された。

 指揮官らしき四十歳くらいの白人が言う。

「勝負ありだ、ブラッディネイル」

 抑揚のない口調だ。ひたすら事務的に任務遂行しようとしている。

 つまり、知りすぎたアヤを問答無用で殺す。

 指揮官が続ける。「その靴を脱げ」

 シャドウがガラスの靴に宿るのを知っている。

 アヤは鼻を鳴らす。

 さすがは米軍というべきか。感心する。混沌とした状況で、よく部隊間で情報共有できるものだ。

 応じるしかない。

 正面の六名は、舞踏術をつかえば斃せる。しかし確実にイオリは撃たれる。逆にイオリの救援を優先すれば、ふたりともやられる。敵の戦術は、これしかないと言えるほど合理的だ。

 アヤは左右のガラスの靴を脱ぐ。

 降伏するつもりはない。それを受諾する気配はあちらにない。交渉の余地はない。

 アヤはガラスの靴をもちあげ、石目調の床へ叩きつける。ばらばらに砕け散る。

 敵の虚をついて左へ走る。イオリの隣に立つ兵士のSCARを、強引に両手でもちあげる。銃床で下顎骨を割る。イオリを羽交い絞めする兵士の脛骨を、黒ソックスを履いた足の裏で折る。

 アヤは優雅な動作でひるがえる。出入口にひろがる六名を、SCARの射界におさめる。

 呆然とする指揮官が、なぜかこちら側へむかって吹き飛ぶ。背後にユウキがいた。指揮官を後ろから蹴った。ユウキは別の兵士を突き倒し、左右のふくらはぎを自分の両脇ではさむ。

 演武術【ジャイアント・スイング】。

 風を切って人体をふりまわし、ハンマーがわりにする。米軍が誇る精鋭を薙ぎ倒してゆく。最後に窓ガラスにむけて放り投げる。哀れな兵士はガラスを突き破り、大通りの歩道へ転がる。

 ウィンクしながらユウキが言う。

「これでおあいこだな。道玄坂で助けてもらった借りは返したぜ」

「自分でどうにかできたけど」

「はいはい」

「ワイズはどうなったの」

「兵隊に連れてかれたわ。まあ、もういいだろ。あんなクズがどうなろうが」

「ありえない」

 アヤは靴下のまま、店の外へ飛びだす。




 久世橋通は戦場になっていた。

 阪神高速道路が炎上している。SEALSが乗ってきたブラックホークを、空自のF-2戦闘機が撃墜した。ほかにもコブラなどの軍用ヘリが飛び交い、火器管制レーダーで敵を追跡する。

 日本の政府高官は一部が死傷し、のこりは雲隠れした。それでも国防・情報・治安維持関連の組織は連携し、おのおのの義務を果たしている。

 アヤは、回転翼による突風でなびく髪をおさえる。周囲をみまわすが、ワイズは見当たらない。夜間の探索は困難をきわめる。

 脳裏の閃きにしたがい、アヤは西へむかう。ちょうど念天堂の社屋がある方向だ。

 三叉路の真ん中に、迷彩戦闘服を着た約十名の集団を発見する。ふたりがアヤへSCARをむける。暗視装置をそなえる分、主導権は敵にある。

 アヤはかんがえる。

 SEALSの目的はなんだろう。どんな命令が出ているのか。

 彼らは人間だ。心をもたない機械ではない。無意味な任務は拒否することもある。

 自衛隊の防空警戒網をすり抜けて浸透するのは、米軍にとっても危険な作戦だ。実際ブラックホーク二機が撃墜された。

 彼らの目的は大統領救出じゃない。

 端から死ぬ気の人間を、助ける意味はない。

 アヤの胸が疼く。あの兵士たちが命を懸けた理由がわかった気がする。

 口封じだ。

 世界にアメリカを断罪させないために。

 SEALS隊員が、SCARをワイズへむけて構える。最高指揮官を永遠に沈黙させようとする。

 舞踏術【リエゾン・ド・ピルエット】。

 チャイコフスキー風の躍動的なリズムにのり、アヤは爪先立ちで連続回転する。

 ガラスの靴を割ったので、もう超人的な身体能力を発揮できない。しかし心は自由になった。敵を殲滅するまで止まらないロボットではない。

 これでいい。

 だって闘いは即興だから。

 SEALS隊員が発砲する。あたらない。いくら百戦錬磨の彼らでも、流麗なステップをふむダンサーと対峙した経験はない。

 アヤはハンマーフィストと踵で、敵八名の防護されてない部位を打つ。

 南区の三叉路は、兵士たちの眠るベッドとなった。

 虚ろな目のワイズが、アスファルトに膝をつく。

 爪を黒く塗った指を突きつけ、アヤが言う。

「おしまいよ。あなたの卑劣な計画は」




 二時間あまりが経過した。

 アメリカ海軍の原子力潜水艦アラバマから、トライデントミサイルが一分おきに発射され、零時ちょうどに京都市の四か所で爆発した。

 衝撃波で、ほぼすべての建造物が崩壊した。京都タワーも清水寺も金閣も京都御所も、なにもかもが。熱線は自動車さえ飴の様に溶かし、うつくしい山並みを焦土に変えた。鴨川の水が沸騰し、泳いでいたアユは煮魚となって浮かんだ。

 官民協働の避難活動により、人的被害は最小限にとどまった。だが全員は救えなかった。ペットなどの喪失も、ひとびとの心に傷をのこすだろう。




 アヤはエレベーターに乗る。

 死の灰などの放射能は恐ろしいが、シェルターに閉じ籠もっていられない。

 地上は一面、底なしの闇だった。

 ただ燃えのこる木造建築が、無残に破壊された古都のシルエットを浮かび上がらせる。

 まさに焼け野原だ。

 冷気がアヤの背筋を駆け上る。暴力のすさまじさに震える。

 瓦礫と化したゲームセンターの跡から、ユウキがあらわれる。ワイズの髪をつかんで引っぱる。

 ワイズの耳許でユウキが叫ぶ。

「どう責任とるつもりだ、あぁ!?」

 ワイズは返答しない。月明かりに照らされた表情は、少女たちより血色が悪い。死相というやつだ。ワイズは現実を受け容れられない。ひとりで背負うには重すぎる罪だから。

 もしトルーマンが、原爆投下直後の広島と長崎をおとづれたら、おなじ反応をしたろう。

 ユウキはワイズを突き倒す。横たわるワイズの腹部を蹴る。サンドバックより手応えがない。怒りはおさまらず、馬乗りになって顔面を打つ。ユウキは半狂乱となり、なにごとか叫びつづける。

 ユウキの肩に手をおき、アヤがやさしく言う。

「それくらいにして」

「うるせえ」

「ワイズを殺しちゃいけない」

「はぁ!?」

「東京へ連行して、裁判をうけさせる。この人の狂気と愚行を、公的記録にのこす必要があるの」

「知るかよ」

 アヤは両膝をつき、ユウキと目をあわせる。

「私はここに残って、避難と復興を手伝う。ユウキはワイズを護送して」

「なんであたしが」

「アメリカ政府はきっとまた妨碍してくる。あなた以外に頼める人はいない」

 ユウキは首を振りつつ立ち上がる。

 深呼吸する。

 ユウキは内心、アヤの冷静さに舌を巻いていた。この絶望的な光景を目の当たりにして、裁判の心配をするとは。癪なので口に出して言わないが、天性のリーダシップを感じた。

 一方アヤは、唾を飲みこむ。

 ユウキに対し、ひとつ言わねばならないことがある。でもアヤは、だれかに謝罪した経験がない。他人に負い目を感じたくないから、つねに完璧であろうとつとめてきた。

 上目遣いでアヤが言う。

「あの、私」

「なんだよ」

「四条駅でのこと、ユウキに謝らなきゃ」

「いまさらだな」

「本当にごめんなさい。友達に裏切られたと知って、あなたは深く傷ついたはず」

 この世の終わりみたいに思いつめた表情で、アヤは言葉をしぼりだした。

 ユウキは苦笑いする。

 このお嬢さまは、人に頭を下げるのが嫌でしょうがないらしい。どんだけプライドが高いのか。

 まったく、おかしなやつだ。

 ユウキはアヤを完全には許してない。化学兵器の攻撃に友人を巻きこむなど、まったく理解できない。とはいえユウキは物事にこだわらない性格なので、この件をしつこく追及する気もなかった。

 一度ケンカしたら、あとは水に流すだけ。

「考えあってしたことだろ」

「でも」

「お前のまっすぐなところ、嫌いじゃないぜ」

「ユウキ」

 アヤは目を潤ませ、笑顔をみせる。こんな可愛げのある表情ができたのかと、ユウキは驚く。




 背後で、だれかのすすり泣く声がした。

 アヤがふりむくと、黒のセーラー服を着たイオリが、両手で目をこすっている。イオリは感受性がするどく、甚大な被害に動揺している。息切れをおこし、ふらつく。いまにも失神しそうだ。

 アヤはイオリの細い肩を抱く。頬が触れるほど密着し、ささやく。

「イオリ、気を強くもって」

「ボクたちの努力はムダだった」

「そんなことない」

「ひどすぎるよ。カオリさんの最期の姿が思い浮かんでつらくて……」

 カオリとは、嵯峨野での戦闘で散った京娘セブンのリーダーのこと。イオリは彼女に思い入れがあるらしい。アヤの胸は嫉妬でちくりと痛む。

「やるべきことは、まだたくさんある。私に力を貸して。一緒にこの街を復興させましょう」

「なに言ってるの。見渡すかぎり焼け野原なのに」

「私にはあなたが必要なの」

「ボクにはできない」

 ますますイオリは声高く泣く。アヤのきわどい発言には無関心のまま。

 この美少年のセンサーは、男女のことがらについてはまるで機能しない。

 アヤは覚悟をきめる。ユウキがそばで聞き耳を立ててるが、恥づかしがってる場合じゃない。

 大きく息を吸い、アヤが言う。

「ちゃんと話を聞いて」

「なに」

「私の目をみて」

「みてるよ」

 イオリのつぶらな瞳が、満天の星の光をうけてきらめく。呼吸がとまるほどうつくしい。

「私はイオリのことが好き」

「ボクも好きだよ」

「愛してるの」

「えっ」

「私の恋人になって」

「どうしたの。ボクはこんなだし、とてもアヤちゃんに釣り合う人間じゃ」

 そう言ってイオリは、スカートの裾をつまんではにかむ。その仕草が可憐で、アヤは飛びつくのをこらえるのに苦労する。

「イオリ。これは私のはじめての告白なの。フッてもいいけど、真剣にうけとめて」

「そんな。アヤちゃんをフルなんて」

「じゃあ恋人になってくれる?」

「困るよ。ボクたちはまだ高二なのに」

 イオリは指先をもてあそび、身をよじる。

 埒があかない。

 アヤは、イオリのなめらかな頬を両手ではさむ。わづかに背伸びし、口づけする。

 苦しくなって息継ぎのため、ようやく唇を離す。

 イオリがもたれ掛かる。アヤはきつく抱きしめる。

 アヤはひとりごつ。

 おもわず衝動的に告白してしまった。いきなりキスまでした。私らしくない。

 いや、そうでもないかも。

 私はうつくしいものが好きだ。だから文学作品を愛好し、美術館へかよっている。

 顔がいいから男子を好きになって、なにが悪い。

 たしかに自分の過去の発言と矛盾している。恋愛はおたがいを高め合う関係であるべきと、数時間前に旅館でユウキに豪語したばかりだ。

 何年も昔におもえるけれど。

 まあ、イオリの善良さとか尊敬してるし、きっとつき合ってるうち、いい感じになるとおもう。

 闇のなかで薔薇色に頬を輝かせ、イオリが言う。

「あの、ボク」

「なあに」

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

 アヤは星空を見上げる。

 思い描いてた恋愛の形とちがうけど、こんなハッピーエンドがあってもいいんじゃないかな。

 ねえ、デレちゃん。




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ジャンル : 小説・文学

東西/新堂冬樹『ASKアスク』

 

 

ASKアスク

 

作画:東西

原作:新堂冬樹

掲載誌:『グランドジャンプめちゃ』(集英社)2017年-

単行本:ヤングジャンプコミックス

 

 

 

人気絶頂のグラビアアイドル「堀口優奈」を主人公とする物語だ。

あるスキャンダルのあと、優奈は半年ほど芸能界から消えている。

 

 

 

 

現在優奈は2億円の借金を背負わされ、高級デリヘル嬢として働く。

店は会員制なので、この秘密を知るものは一握りだけ。

 

 

 

 

以上のショッキングなプロローグのあと、

トップアイドルが風俗嬢に身を落とすまでの経緯をえがく。

 

優奈は傲慢な性格だった。

些細なことで、マネージャーにホテルのロビーで土下座させたり。

 

 

 

 

所属事務所は大きくないが、後輩の「ゆらぎ」が最近力をつけている。

人当たりがいいが、実は腹黒く、優奈を陥れようとする。

 

 

 

 

優奈は契約をめぐるトラブルに巻きこまれる。

そしてそれは、事務所社長がしかけた罠だった。

 

本作のストーリーに、荒唐無稽な面があるのは否めないが、

移籍したタレントが干されるなんてのは、実際よく聞く話だ。

 

 

 

 

東西は、いわゆる成人向け漫画で活躍する作家。

女体の描写が生々しい。

あまりにエロいので、これでもおとなしめなのを引用した。

 

小説が原作ということで、心理描写や情報量もそれなりに充実しており、

総合的にみてモトがとれる1冊なのはたしかだ。





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中山敦支『ゆるっとハンター☆ワンタンちゃん』

 

 

ゆるっとハンター☆ワンタンちゃん

 

作者:中山敦支

発行:講談社 2018年

レーベル:アフタヌーンKC

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クレーンゲームの天才「雲呑ちゃん」を主人公とする、1巻完結の作品。

不遇な時期にブログに掲載した連作のリメイクでもある。

この世界でクレーンゲームは、生きるか死ぬかの大勝負だ。

 

 

 

 

作者お得意の肉弾戦もあり。

百円玉をつかった攻撃など、アイデアが冴えている。

 

 

 

 

雲呑ちゃんは、かわいいものが大好き。

ゆるキャラを収集するため、危ない橋をわたる。

ゲットしたときの幸せそうな笑顔がまぶしい。

 

中山ファンとしては、この不敵でピュアなたたずまいに、

やはりカギューを連想せざるをえない。

 

 

 

 

唐突で理不尽な暴力。

そしてそれを置き去りにしてゆくスピード感。

ネット配信された小品だが、むしろ近作より中山らしさの濃度が高い。

 

作者はツイッターで、本作をほぼひとりで描き上げたと語っている。

『ねじまきカギュー』完結後に彼は2年以上沈黙しており、

おそらくアシスタントはいれかわり、一から体制を立て直してると想像される。

 

 

 

 

その苦労のなか、ひとりでさらっと描いたら、カギューに似てしまったのだろう。

彼女が作者のペルソナなのだ。

このまっすぐ激烈な眼光をみれば、そうかんがえずにいられない。





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『殲滅のシンデレラ』 第17章「シェルター」


全篇を読む(準備中)






 アヤは仲間と一緒に、夜の国道24号を歩く。ゼンフォンを片手にイオリが先導する。めざすのは、京都駅で羽多野が言っていたシェルターだ。三時間後にSLBMが着弾する。もはや一般市民を救うのは、現実的なプランではない。罪悪感を抑圧し、自分たちだけでも避難するしかない。

 ほかに選択肢があるだろうか。

 ユウキがワイズを後ろから見張る。ワイズは挫いた左足を引きずっている。ユウキは尻を蹴飛ばす。殺してもよかったが、交渉材料に使えるかもしれないので生かしている。

 アヤは勧進橋から鴨川を見下ろす。街の灯りが水面でゆらめく。源氏物語の登場人物である浮舟をおもいだす。ふたりの男のあいだで板挟みとなった浮舟は、おなじ流域の宇治川へ入水した。

 京都の風景は、人を感傷的にさせる。東国出身の浮舟が感じた孤独を、アヤは共有している。

 橋の上でアヤは立ち止まる。真上から電灯に照らされ、幽霊さながらに見える。

 ユウキがふりかえり、アヤに尋ねる。

「なにしてんだ」

「べつに」

「おかしなこと考えてないだろうな」

「すこしシャドウと話したいの。先に行ってて」

 ユウキは眉根を寄せるが、また歩を進める。一刻を争う状況であり、心配ばかりしてられない。

 アヤは欄干に手をかけ、闇の底の川面をみつめる。シンデレラの姿はない。視界のほとんどは、どす黒く塗りつぶされている。

 アヤは唇を噛む。涙がながれる。

 神経ガスを散布したのは間違いだった。命令でやったからというのは、言い訳にならない。トワみたいに拒否もできた。けっきょく私は、京都市民を救えなかった。責任をとるべきだ。四条駅で苦しんだ人々に対し、せめてもの償いを。

 それに私が死ねば、イオリの罪は軽くなる。

 アヤの足が震える。欄干にすがりつく。

 死ぬのが恐ろしい。水の冷たさや、窒息の苦しみも。自業自得と理解しているが。

 嗚咽まじりにアヤがつぶやく。

「デレちゃん……最後に会いたいよ」

 反応はない。

 アヤは大声をあげて泣く。

 つまらない十六年の生涯だった。

 したのは勉強と習い事だけ。一度も恋を知らないまま死ぬなんて。私はだれより努力した。でもだれより不幸だった。報われないにもほどがある。

 アヤは地団駄をふむ。

 どうかんがえても不公平だ。

 だいたいなんだ、あのシンデレラとかいう女は。私を訳のわからない世界に引きずりこんでおいて、顔も見せないなんて。無責任じゃないか。

 あの世で会ったら、ぶん殴ってやる。

 トントン。

 ひとりごとを言うアヤの肩を、何者かが後ろから叩いた。

「なによ」アヤが言う。「邪魔しないで」

 ふりかえると、水色のドレスを着たシンデレラが歩道に立っていた。おだやかな微笑をうかべる。

 のけぞってアヤが言う。

「デレちゃん。なんでこんなところに。鏡にしか現れないんじゃないの」

「お別れを言いにきたヨ」

「あなたもアリスみたいに消えちゃうのね」

「そうだネ。そろそろフィナーレだネ」

「いかないで」

 シンデレラはアヤの頬にそっと口づけする。

「自信をもって。これからはキミだけのストーリーがはじまるんだヨ」

「だめ。私は弱いの。勇敢に闘えたのはデレちゃんのおかげなの」

「ぱどぅすーし。心配いらないヨ。アヤはもう、シンデレラになったんだから」




 とぼとぼとアヤは久世橋通を進む。ユウキたちが、ほかの集団と言い争うのが目にはいる。京都に店舗を展開するゲームセンター「ファンタジア」の前だ。この店の地下にシェルターがあるらしい。

 口論する相手は、揃いの地味なジャンパーを着ている。ゲームセンターの制服ではない。胸に「Nentendo」のロゴがはいっている。京都に本社をおく、世界的なゲーム会社である念天堂の社員だ。

 アヤはユウキの横に立ち、尋ねる。

「どうしたの」

「こいつらが妨碍するんだ。それどころじゃないのに、取りつく島もねえ」

 ある意味当然の反応ではある。もうじき核弾頭を積んだ弾道ミサイルが落ちると聞かされ、はいはいと信じる方がめづらしい。

 問題はワイズだった。いまは街路樹に寄りかかっておとなしくしているが、正体がばれたら騒ぎになる。京都は外国人観光客が多いし、この混乱では負傷も驚くにあたいしないので、目立ってないが。

 ところがアヤは感づく。念天堂社員のなかに、ワイズをじっと観察する人間がいる。ひとりだけ黒のジャケットを着ている。年回りは六十歳前後で、細い目が吊り上がった独特の風貌だ。

「あの人」アヤが言う。「どこかで見たことある」

「うわっ、宮口繁じゃねえか」

「だれ」

「知らねえのかよ。『マリアシスターズ』や『スプラッシュート』をつくった人だよ」

「へえ。私全然ゲームしないから」

「お前、知識偏りすぎだろ」

 宮口がアヤのそばへ近寄る。飄々とした口調で尋ねる。

「木のところにいる人、ワイズ大統領ですよね」

「…………」

「実は以前、仕事で会ったことあるんで。あ、僕は念天堂の宮口と言います」

「もし仮に彼が大統領だとして、あなたに関係あるんですか」

「そないに警戒せんでも」

 宮口は顔をくしゃくしゃにして笑う。

 アヤは腕を組み、身じろぎする。

 警戒するに決まってる。

 これまでCIAに襲撃されたり、学校のクラス担任が公安のスパイだったりした。うかつに他人を信用すれば身の破滅だ。

「ええと」宮口が続ける。「お嬢さん、よかったらお名前を」

「佐倉アヤです。東京から修学旅行できました」

「アヤさんはソリストなんですよね」

 アヤは平静を装うが、視線がさまよう。

 いくら有名人とはいえ、なぜゲーム会社の人間がソリストのことを知ってるんだ。

 まだ私の闘争はおわらないのか。




 アヤは宮口に導かれ、ゲームセンターの店内へ踏みこむ。ユウキたちは、ワイズを監視するため路上にのこった。

 ふるい筐体がならぶ地下倉庫を通り抜ける。宮口は指紋認証で奥のドアをあける。鉄骨の階段を降りてゆくと、そこは打ちっぱなしのコンクリートにかこまれた、広大なシェルターだった。五千人くらい収容できそうだ。

「すごい」アヤがつぶやく。「想像よりずっと規模が大きい。これならたくさん避難できる」

「これが市内に二百ほどあるんですわ」

「国や自治体は、シェルターの存在を知ってるんですか」

「知らんでしょうね」

「どうして。失礼ですけど、あなたがた民間企業が手を出すべきことじゃない」

 宮口はくすくす笑う。非現実的な状況をたのしんでるらしい。

「僕もそうおもいますよ。この施設、元社長の山科が私財を投げ売ってつくったんですわ。最初に聞いたとき、正直ボケたんちゃうかなって」

「いや、さすがに個人の資産では無理でしょう」

「各国の大富豪が支援してくれはったらしいですよ。僕も一度だけ会いました。グループを仕切ってる金髪の女の子に」

「まさか、アリス」

「そうそう。アリスって子。不思議の国のアリスにそっくりやったなあ」

「ふふ。あの子は本物です」

 シェルターを見渡しながら、アヤは胸が熱くなるのを感じる。

 【おかしなお茶会】は、理不尽な暴力と戦うための秘密結社だった。アリスは世界中を飛び回り、良識のある要人を説得して、懸命に人々を守ろうと活動した。そして決してそれを誇らなかった。いつもあどけない少女としてふるまっていた。

 入水をかんがえた自分の弱さが恥づかしい。

 アリスの一途な思いを受け継がないと。

 だが明敏なアヤは、問題点に気づく。

 どうやって百五十万人を、たった三時間でシェルターへ案内するのか。

 途轍もない難事業だろう。

 ガオーッ!

 宮口のアイフォンが、猛獣の叫びの様な音をたてた。宮口はジャケットからアイフォンをとりだす。画面を見てちいさくガッツポーズする。

 首をかしげ、アヤが尋ねる。

「どうしたんですか」

「アヤさんは、スマホに『モンスターGO』をインストールしてはります?」

「いえ」

「はあ、そうですか」

 宮口はあからさまに肩を落とす。

 『モンスターGO』は、GPSの位置情報をつかった念天堂のゲームアプリで、遊んでない人間の方がすくないと言える大ヒット作だ。

 事情を察したアヤが、目を丸くして言う。

「ひょっとして、そのアプリに」

「ええ。市民を誘導するためのコードを仕込んだんですわ。不具合なさそうでよかった」




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

吉谷光平『恋するふくらはぎ』

 

 

恋するふくらはぎ

 

作者:吉谷光平

掲載サイト:『日刊月チャン』(秋田書店)2018年-

単行本:少年チャンピオン・コミックス エクストラ

[ためし読みはこちら

 

 

 

27歳の男と、25歳の女の関係をえがく、社会人ラブコメである。

タイトルは「背伸び」を意味する。

男はクールぶってるが実は童貞で、女は清純ぶってるが実は元ビッチ。

 

 

 

 

なんとなくいい雰囲気になったふたりは、仕事のあと食事にでかける。

しかし、「見栄晴彦」がえらんだ店はファミレス。

戦略を練りすぎて、かえってズレてしまう。

「表うらら」の方は、「どっかバーにでも誘えよ」と内心不満だった。

 

 

 

 

うららが見栄を好きになったのは、新人時代の出来事がきっかけ。

良くも悪くも、空気をよまず正論を吐くタイプなので、

セクハラの被害をうけていたうららを助けた。

ちゃらんぽらんに生きてきたうららは、そろそろ自分もマジメになろうと改心。

 

 

 

 

休日にショッピングモールで初デート。

Vネックのセーターがすてきだ。

 

 

 

 

読者の期待どおり(?)、デートは大失敗におわる。

言わなくてもいいことを言って、うららを泣かせてしまう。

そしてようやく見栄は、恋愛において何が大事なのかを悟る。

 

 

 

 

うららの先輩もいいキャラだったり。

 

あまりラブコメに向かないとおもわれる、社会人同士の関係を、

葛藤や成長を描きながらうまく料理している。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

市丸いろは/左藤真通『将棋指す獣』

 

 

将棋指す獣

 

作画:市丸いろは

原作:左藤真通

掲載誌:『月刊コミックバンチ』(新潮社)2018年-

単行本:バンチコミックス

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女子初のプロ棋士をめざす22歳、「弾塚光」の物語である。

ちなみに上に引用した場面は、クライマックスを暗示する冒頭のフックで、

いまのところ光はアマチュアとして活動する。

 

 

 

 

さて、本作の特色はキャラデザだ。

将棋漫画の弱みである「絵面の地味さ」をカバーしている。

棋士たちの外見は、かなり露骨にモデルをなぞっており、

この「加賀見廉」の場合は、新右翼の活動家で作家の見沢知廉だろう。

突飛だが、なにしろ小林秀雄まで出てくる漫画なので。

 

 

 

 

「峰田省三」九段の面構えも相当だ。

顔のインパクトが強烈すぎ、ストーリーに集中できないくらい。

 

 

 

 

左藤真通は、単独で『アイアンバディ』などを発表している漫画家だが、

原作担当の本作ではよく取材し、こまかいエピソードで読者の関心を刺激する。

たとえば、時間切れになりかけたときの対処法とか。

 

 

 

 

駒を打つ力が強すぎ、光は飛車を真っ二つに割る。

しかし駒が割れたのに気づかぬまま、思考の世界へ沈潜する。

 

 

 

 

プロ入り間近だった光が、16歳でいったん将棋を捨てた理由が謎で、

それをちょっとづつ明かして読者をひきつけるストーリーとなっている。

 

僕はくわしくないので、将棋部分の良し悪しを評価できないが、

魅力的なヒロインが創造されたことは保証できる。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『殲滅のシンデレラ』 第16章「千本鳥居」


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 アヤとユウキが、稲荷山の石段を駆け下りる。獣人と化した羽多野がそれを追う。立っていると枝が顔にあたるので四本脚だ。

 ユウキが立ち止まって振り返る。二十メートル離れた羽多野に、拳銃のファイブセブンを発砲する。全弾命中した。的が大きいとはいえ、見様見真似で当てるのだからセンスがいい。

 羽多野は一瞬ひるむが、また急追してくる。

 上擦った声で、ユウキがアヤに叫ぶ。

「どうすんだよ、あれ!」

「逃げてばかりもいられないわね」

 ふたりは伏見稲荷大社の境内にはいりこんでいた。あざやかな朱色の鳥居が無数にならぶ、有名な千本鳥居だ。提灯の薄明かりに照らされた赤い回廊は、この世のものとおもえない。

 アヤは急停止し、身をひるがえす。羽多野にむかい突進する。だが、巨大化した羽多野が間合いをつめるのが速い。岩みたいな右の拳が直撃する。吹き飛ばされたアヤは、高さ二メートルの鳥居にぶつかる。鳥居が衝撃で傾く。

 ユウキが叫ぶ。「アヤ!」

「あなたは逃げて」アヤが言う。「ここは私がどうにかする」

「無理だろ。あんなバケモノ」

 羽多野はアヤの全身を片手でつかむ。渾身の力で握る。アヤは吐血する。ガラスの靴で強化されていてもダメージは深刻だ。

 つかんだアヤを振り回す。三千本以上ある鳥居がドミノ倒しとなる。退路がふさがれた。

 ユウキが両手で折れた柱を持ちあげる。「クソがっ!」と叫んで羽多野の脛を打つ。アヤが石畳へ落ちる。さらに血を吐く。

 アヤの肩を抱き、ユウキが言う。

「大丈夫か」

「あ……あれをやるわよ」

「あぁ?」

「ジムでの練習のあと、いつも私をプロレス技につきあわせるじゃない」

「遊んでる場合かよ」

「あなたならできる。ユウキの即興性を見習えと、会長がよく言ってたわ」

 ユウキはうなづく。ふたりは同時に羽多野の左脚に組みつく。びくともしない。ユウキが絶叫する。毛むくじゃらの体がすこしづつ持ち上がる。

 演武術【ツープラトン】。

 少女たちは、リフトした巨体を釣瓶落としする。鳥居の台座にぶつけて脳天をかち割った。




 アヤとユウキは本殿の前に出る。ライトアップされた日本最大の楼門が、夜空を背景に朱塗りの威容を誇る。狐の妖怪でも出てきそうな荘厳さだ。

 紺のスーツを着たワイズが、大鳥居に背をもたせて腰をおろしている。ほかに人影はない。化野念仏寺では頭に包帯を巻いてたが、いまは取れていた。顔とワイシャツの襟が血で汚れる。目を開けているが、アヤたちに感づいた気配はない。

 バサバサと、鳥かなにかが上空をすぎる音が聞こえる。フックではない。展望台でアリスとイオリが斃してくれた。

 アヤは目を凝らし、かすかな明かりを頼りに飛行物体を観察する。オスプレイよりずっと大きく、ずんぐりした形をしている。ヘリコプターではないし、鳥などの動物でもない。

 たとえるなら、ダンボに似たマシーンだ。

 ドォーンッ!

 重要文化財に指定された本殿が、爆風で四散した。ダンボ型ドローンが、アヤとユウキをねらい爆撃している。

 アヤは、光と闇が交錯する空間を見回す。ワイズが這いながら、この地獄から逃れようとしている。世界一の金持ちで、世界一の権力者の、みじめな有り様だ。自国の大統領などお構いなしで、AIが暴走しているらしい。

 ユウキの手を引き、アヤは外拝殿の下にはいる。踊りを奉納する舞台として使われる建物だ。ダンボは自由落下式の爆弾を際限なく落としつづける。外拝殿の屋根が崩れ、柱が折れる。シェルターの役にたたない。しかし境内には木造建築しかない。

 引いてもユウキがうごかない。足腰が立たなくなっている。瞬きもせず、うつむいたままだ。

 アヤは意を決し、参道へ飛び出る。夜空を旋回していたダンボが、ターゲットを発見して猛進する。アヤは火のついた木材をつかむ。

 ダンボに搭載されたセンサーは赤外線だろう。アヤはダンボを引きつけて走り、石段の下にむかって木材を投げる。自分は楼門の陰に隠れる。軍用機が敵ミサイルの欺瞞につかう、フレアの要領だ。

 だまされたダンボは、ころがる木材を追って飛んでゆく。石段につぎつぎと爆弾を落とす。その爆炎の合間から、ふたりの人影があらわれる。黒のセーラー服を着たイオリと、ジャージ姿の東山だ。東山が着替えたのは川に飛びこんだからだ。

「イオリ!」アヤが叫ぶ。「無事だったのね」

 小倉山でアリスを支援したイオリは、核融合反応に巻きこまれたはずだ。しかし多少衣服が乱れたくらいで、涼しげな美少女の姿でたたずむ。

 イオリはアヤに目配せしたあと、ゼンフォンを操作しはじめる。上空のダンボをにらむ。ダンボは高度を徐々に下げ、稲荷山の中腹に激突する。火柱があがる。轟音と地響きがアヤたちを襲う。

 とりあえず命拾いした様だ。

 アヤは穴だらけの石段にへたりこむ。東山は隣に腰をおろし、アヤに肩に手をおく。

 東山が言う。「よくがんばったわね」

「なにがおきたんですか」

「空自が電子戦機を飛ばしてくれたのよ。水瀬くんが座標をおしえて誘導した」

「先生が作戦を指揮してるんですか」

「まあそうね。私もいろいろ迷惑をかけたから、せめてもの罪滅ぼしよ」

「いま政府はどういう状況ですか」

「さあ、なにがなにやら。現場の私たちが一致団結して、対処するしかないわね」

 気力をふりしぼり、アヤは立ち上がる。

 ワイズを捕まえないといけない。さすがにもう、丸裸になったろう。

 決着をつけるときだ。




 アヤは片足を引きずって逃げるワイズを追い、神楽殿の裏のお茶屋にたどりつく。創建は十七世紀だが、格式たかい書院造の趣きがある。悠揚さが感じられる、京都らしい和風建築だ。

 緑ゆたかな庭園にワイズがうずくまる。両腕に爪をたてて唸り声をあげる。あたりの草木を引きちぎって投げる。錯乱して泣き叫んでいる。

 脳に損傷を負ったのだろうか。でも成功した起業家はサイコパスが多いと聞くから、もともとおかしいのかもしれない。

 アヤはワイズの血まみれの金髪をつかみ、茶室の畳の上にころがす。通話アプリを起動したアイフォンを、ワイズの顔へちかづける。アメリカ大使館の番号が表示されている。適切な窓口かどうか怪しいが、まったくの見当違いではないだろう。

 ガラスの靴で畳を踏みしめ、アヤが言う。

「ミサイルの発射を中止して」

「無理だ」

 ワイズはアヤをじっと見据えて答えた。

 錯乱状態にみえたワイズだが、思考は整序をたもっている。ハリウッドスターのクリス・クロフォードもそうだった。一瞬も油断できない。彼らは根っからの捕食者だ。

「あなたは軍の最高指揮官でしょう」

「作戦行動中の潜水艦は、解き放たれた猟犬みたいなものだ。呼び戻せない。海中は電波が減衰するから、通信も届かない」

「電波の種類によっては届くはず」

「撃沈する方がはやい。対潜ヘリでも飛ばしたらどうだ。まあ、俺ですら居場所を知らないが」

 ワイズは皮肉っぽく笑う。

 アヤの右手がそろばんの動きをする。米軍の兵器や戦略について、大統領と議論するのは骨が折れる。物知りなアヤも軍事はくわしくない。

 アヤの気がゆるんだ刹那、ワイズは風炉に刺さっていた鉄の火箸をつかむ。まっすぐにおのれの喉を突こうとする。アヤは虚を衝かれるが、かろうじてワイズの腕をおさえる。

 目を白黒させてアヤが言う。

「なにをするの」

「俺の死をもって、レッドクリフ作戦は完了する」

「やはりいまのアメリカは、暴走したAIに支配されてるのね」

「ははっ、ロボットの叛乱か。ばかばかしい。『ターミネーター』じゃあるまいし」

「フックと羽多野から直接聞いた。作戦はAIが立案したもので、あなたは餌として利用されたと」

「人工知能だとフックが自称したのか?」

「具体的な言い回しまでは覚えてない」

「そんな発言はありえない。俺にはわかる」

「どうして」

「あれは機械じかけのテクノロジーじゃない。人間の知能の完璧なコピーだ。脳機能をプログラム上で再現している」

「だれの頭脳のコピーなの」

「言うまでもない。世界最高の頭脳だ」

 ワイズは襖にもたれ掛かり、頭を反らせる。

 アヤは呆然と立ちつくす。

 ロボットであるフックを制御していたのは、人工知能ではなく、ワイズの頭脳のコピーだった。さっきワイズが自殺を図った理由もわかる。永遠の生を手にいれたので、もはや死を恐れないのだ。

 つまりワイズは神になった。

 アヤがつぶやく。「なんて傲慢な」

「そんなことはない。俺がやらなかったら、必ずほかの誰かがやる。だから先行者利益をいただいた」

「あなたの会社みたいに」

「ああ。フレンドリーは、マイスペースとくらべて特別すぐれたサイトじゃなかった。だが生存競争に勝利することによって、すべてを独占した」

 アヤはワイズの演説に聞き入る。将来事業をおこしたいアヤにとって、ワイズは尊敬する人物のひとりだった。こんな出会いでなければ、いくらでも質問したいことがある。

 でも、それどころじゃない。解決の糸口をさぐらないといけない。

「知性が生き残っても、肉体は滅ぶのよね。あなたの意識と一緒に。怖くないの」

「死ぬほど退屈なんだよ」

「え?」

「あんたには理解できないさ。二十代で栄耀栄華をきわめた人間が背負う、たえがたい苦悩を」

「会社の経営をがんばればいい」

「フレンドリーをこえるサービスの開発は不可能だ。フレンドリー自体が日々進化している。だから俺は、別分野である政界へ進出した」

「億万長者になったのに、なにが不満なの」

「世間は俺をバカにしている。フレンドリーの成功は運がよかっただけだと。たしかに真の偉人は、みな二度成功している。アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論。ルーズベルトはニューディールと第二次世界大戦。ジョブズはアップルコンピュータとアイフォンだ」

「話についていけない」

「ニーズだよ。ハーバードでフレンドリーを開発したときと同じだ。俺はニーズしか考慮しない。現代の世界における最大の課題は、中国の軍事的膨張だ。二十一世紀を戦争でなく、平和の世紀にするのが俺の目的だ」

「京都市民を虐殺して?」

「人は忘れやすい。広島と長崎への原爆投下から七十年以上経過した。アメリカの強大さを知らしめるデモンストレーションが必要だ。シミュレーションによると、この作戦が犠牲者数を最少化できる」

 アヤは、ワイズのよく回る舌をぼんやりながめていた。どこかで聞いた論理だとおもった。百五十万人の京都市民を救うためなら、神経ガスを散布するのもやむをえない。そう言ってアヤは、自身とトワを説得した。

 ワイズと私は同類かもしれない。

「だからって」アヤが言う。「あなたが死ぬ意味はないでしょう」

「作戦名の元となった赤壁の戦いを知ってるか」

「三国志の?」

「そうだ。あの戦いの前に呉の武将である黄蓋は、曹操を欺くためみづからを鞭打たせた。レッドクリフ作戦は、『苦肉の計』の二十一世紀版なのさ」

 アヤの視界がぼやけ、意識が遠のく。

 あきらかにワイズは正気ではない。妄想と現実の区別がつかないパラノイアだし、おのれの賢明さに酔うナルシシストでもある。

 アヤは首を横にふる。

 いまさらプロファイリングしても仕方ない。

 ワイズが仕掛けてるのは、戦略核兵器をつかった自爆テロだ。歴史上もっとも強力で、もっとも野蛮で、もっとも有効な攻撃だ。

 脅しても無意味だ。端から死ぬ気なのだから。

 阻止する手立ては、神ですら思いつきそうにない。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

友野ヒロ『銀色のジェンダーズ』

 

 

銀色のジェンダーズ

 

作者:友野ヒロ

掲載誌:『ヤングキング』(少年画報社)2018年-

単行本:YKコミックス

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主人公は「藤ヶ谷銀」、ひとり暮らしの大学1年生だ。

趣味は女装。

自宅でこっそり女に化け、自撮りをSNSへ投稿する。

 

 

 

 

フォロワーが1万人をこえた記念に、女の姿で街へでる。

小柄で華奢な銀が男だと、だれも気づかない。

むしろバツグンの美少女として注目の的に。

 

 

 

 

調子にのりすぎた銀は、大学の先輩に女装趣味がバレてしまう。

しかし男装バーではたらく先輩は理解があり、メイクの仕方などを指南する。

 

マスカラが大事とか、男性読者は勉強になるだろう。

 

 

 

 

銀は学内でも女装しだす。

ダンスサークルに勧誘され、そのまま加入してしまう。

いろいろ危険な橋をわたっている。

 

 

 

 

運動音痴の銀は、ダンスはからっきし。

しかしルックスのよさと、女っぽくない立ち居振る舞いのおかげで、

サークルの仲間からはそれなりに歓迎される。

油断しすぎて、やらかしてしまうが。

 

 

 

 

ストーリーは、ややとっ散らかっている。

LやGやBやTが入り乱れ、どこがスタートでどこがゴールかわかりづらい。

でもこのカオスが作者の意図なら、ありだとはおもう。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

袁藤沖人『乙姫ダイバー』

 

 

乙姫ダイバー

 

作者:袁藤沖人

掲載誌:『COMIC E×E』(ジーオーティー)2017年-

単行本:MeDu COMICS

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やはりセーラー服は海がにあう。

一方で、海底に沈む電車もみえる。

この世界は、陸地のほとんどが水没している。

 

 

 

 

本作は、セーラー服の少女たちによる海洋ファンタジーだが、

「海は死です。舟は棺桶です」と述べるなど、陰鬱な世界観をもつ。

 

作者はLittlewitchのグラフィッカー出身であり、

絵柄だけでなく、頽廃的な美意識にも影響をうかがわせる。

 

 

 

 

主人公は「江ノ島女子海洋学校」へ入学する。

船乗りをそだてるエリート校らしい。

専科などのこまかい設定もほどこされている。

 

 

 

 

とはいえ本作は、うつくしい海と、ほろびゆく文明と、独特の骨格の少女たちが、

ひとつの画面にあつまる鮮烈な風景描写が、最大の魅力だろう。

 

 

 

 

7話で海洋女子たちは、ガラの悪い若者の集団にからまれる。

しかし彼らのうちのひとりが溺れたとき、まよわず海にとびこんで救出し、

懸命な人工呼吸と心臓マッサージで蘇生させる。

 

本作は、ここ最近でもっともおもしろい漫画とは言えないが、

見たことのない情景を見せてくれるという点で、推奨したい。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『殲滅のシンデレラ』 第15章「三本指」


全篇を読む(準備中)






 アヤは、下京区にある梅小路小学校の校門前にいる。旅館「眠れる森」のちかくだ。トマホークミサイルや海兵隊による被害に遭った、紅梅学院の生徒たちが避難している。

 日は暮れかかり、街灯が青白く光る。アヤはLINEでユウキを呼び出した。父とは桂駐屯地で別れて以来、連絡がとれない。

 半袖のブラウス一枚のユウキが、校門からあらわれる。スカートは短く、長い脚が映える。いつもとちがい表情は冴えない。

 黒髪をいじりながら、アヤが言う。

「無事でよかった。ほかの子たちはどう?」

「麻倉と夏川は病院じゃねーかな」

「どこにいるかわからないの?」

「ここに避難できたのは半分もいない」

「そう……心配ね」

 詰問する口調でユウキが尋ねる。

「お前はなにしてたんだよ」

「薄々察してるでしょ。今回の騒動に私が関わってると、父に告げ口したのは知ってる」

「良かれと思ってやっただけだ」

「そうなんでしょうね。感謝はしないけど」

「むかつく言い方だな。で、用件はなんだ? 世間話をしに来たんじゃないだろ」

「ユウキ。あなたもソリストなのね」

「…………」

 口籠ったユウキは、腕を組む。

「京都に来てからのユウキは、妙に物分かりがいい。普段はもっとワガママなのに」

「お前ほどじゃねえよ」

「昨晩ジムでユウキが拉致されたとき、私は人違いだとおもった。でもそうじゃない。CIAは最初からあなたを狙っていた」

「お前の嫌いなところ、もうひとつあったわ。察しが良すぎるところ」

「どうもありがとう」

 アヤは無感動に言い、アイフォンの画面をユウキへみせる。

 京都市南東部に墜落した、オスプレイの画像だ。機体は大破し、バラバラになった。山林に火の手があがる。オスプレイは市街上空を横切って墜落した。アリスの攻撃で損傷してコントロールをうしない、人目にさらされた。報道機関や市民によって撮影され、情報が拡散されている。

「私たちは」アヤが続ける。「ワイズ大統領を追ってるの。京都を守るために。ユウキも手を貸して」

「知るかよ」

「格闘の天才であるユウキの力が必要なの」

「あたしは関係ない。ほかをあたれよ」

「どうして。あなたもソリストなんでしょう。憑依してるシャドウはなに」

「プーさんだけど」

 アヤは噴き出すのをこらえる。

 もともとユウキはくまのプーさんのグッズをあつめてたし、意外ではない。でもおかしくて仕方ない。

 口を尖らせてユウキが言う。

「なんで笑うんだよ」

「……別に笑ってないわ。マイペースなあなたにぴったりね」

「バカにしてるだろ。プーさんかわいいじゃんか」

「ええ、でもそれどころじゃない。京都が灰になるかもしれないの。お願いだから協力して」

「どの面下げて言ってやがる」

「私たち友達でしょう」

「トモダチ? あたしが地下鉄に乗ってるのを知ってて、神経ガスをつかったお前が?」

 アヤは咄嗟に視線を逸らす。

 一番知られたくないことを、一番知られたくない相手に知られていた。

 口の達者なアヤでも、弁解できない。

 うごかせない事実だから。

 私は、親友を見殺しにした。

「お前さ」ユウキが続ける。「プライベートでも付き合いのある友達って、あたしだけだろ。よくあっさり切り捨てられたな。逆に感心するよ」

 反論したいアヤだが、舌と下顎がうごかない。

 なにを言っても虚しい。

 ユウキがため息をつく。会話を終わらせようとしている。

「普通に絶交だわ。だれでもそうするだろ。人間として最低だもん」

 背のたかいユウキは、刺す様な目で見下ろす。腹の底から軽蔑している。

 アヤはまだ視線を合わせられない。

 私に裏切られたと知って、どれだけユウキは傷ついたろう。

 嫌われて当然だ。私は最低の人間だ。

 でも。

 それでもやっぱり、私はまちがってない。

 いや、まちがっててもかまわない。

 とにかくこんなところでリタイアできない。

 私はアリスからバトンをうけとったんだ。

 アヤは左手を突き出す。指を三本立てている。

 ユウキは目を丸くする。それはふたりのあいだで通じるサインだった。

 新日本プロレスのルールに関係している。相手の指をつかんで逆に曲げる場合、三本以上でないといけない。指一本か二本を曲げたら反則。

 つまり、かかってこいとアヤは言っている。

 ユウキは口の端をあげる。

 新日を愛するあたしは、興味のないアヤにいつもプロレスの話をしていた。アヤはつきあわされて迷惑そうだったのに、こまかい話をおぼえている。

 単に記憶力がいいだけかもしれない。

 でもアヤが、あたしの適当なおしゃべりをちゃんと聞いてたのは確かだ。

「おい」ユウキが言う。「あたしを挑発してんのか」

「だって私の方が強くなったもの」

「生意気言ってんじゃねえ」

 ユウキは右手でアヤの三本指をつかむ。




 アヤとユウキは、オスプレイが墜落した稲荷山に来た。京娘セブンのマネージャーが運転するステップワゴンでの移動だ。

 闇が降りる山の中腹が、火の海となっている。応仁の乱では、東軍がこのあたりでゲリラ戦をおこなった。「足軽」という軽装歩兵戦力が組織された端緒と言われる。きっと室町時代の京都人も、おなじ風景をみたろう。

 それにしても京都は山の多い町だ。正直アヤは見飽きてきた。三方を山岳にかこまれた鍋の底みたいな地形が、ながく政治と文化の中心だったのは不思議におもえる。ただ近代以降は、急増する人口を支えられなくなったかもしれない。

 ふたりは農園に沿った坂道をのぼる。

 炎上する稲荷山を見上げ、ユウキがつぶやく。

「あの火事やべーだろ。おさまりそうにない」

「そうね」

「逃げた方がいい」

「いざとなったら舞踏術で突破するから大丈夫。ユウキを脇にかかえて」

「ぞっとしねえな」

 ユウキは顔をしかめる。総合格闘技の年代別チャンピオンだが、殺し合いの経験はない。

「この山のどこかに」アヤが言う。「ワイズがいる。私が先頭にたって探す。待ち伏せに合うかもしれないから、そのときはユウキが掩護して」

「ワイズさんを見つけたらどうすんの」

「状況次第ね。抵抗するなら殺す」

「おーこわ」




 人ふたり通るのがやっとの石段の途中に、紫のスーツを着た羽多野が座っていた。拳銃のFNファイブセブンを、先頭でのぼるアヤへむける。

 意に介さず、アヤは歩きつづける。銃口が揺れており、命中しそうにない。後ろ回し蹴りでファイブセブンを吹き飛ばす。ユウキがあわててそれを拾う。興味津々でいじくる。

 羽多野がよろけて手をつく。石段が大量の出血で濡れている。アヤが黒いシャツをはだけると、腹部に負傷していた。おそらく銃創だ。

 つとめて冷静な口調で、アヤが尋ねる。

「父がどうなったか教えて」

「知るか」

 アヤはガラスの靴で腹を蹴る。羽多野が低くうめく。手負いの獣みたく哀れっぽい声が、山林にひろがる。

「時間がないの。質問にはちゃんと答えて」

「……職務室で撃ち合いになった。あいつも無事ではないだろう」

 アヤは目をつむる。

 父を失うことも覚悟しておこう。ただし悲しむのは、闘いが終わったあとだ。

「ワイズの居場所を言いなさい」

「聞いてどうする」

「なぜ私たちソリストを売ったの? あなたは最初からワイズのために動いてたわけ?」

「そうだ」

「この国を売ったも同然じゃない」

「なんとでも言え」

「理由を知りたい」

「長い話だ。お前みたいな小娘に理解できない」

「中国人の奥さんに関係あるのね」

「…………」

 羽多野の妻だったロン・メイシンは、イスラエル系企業につとめるソフトウェア開発者だが、その正体は中国政府の産業スパイだった。しかしメイシンは機密を盗む行為に疲れ、北京との関係を絶った。日本で職をもとめ、結婚もした。

 四年前、中国政府は報復にでる。東京にいる中国系マフィアをうごかし、メイシンを殺害した。警視庁はそれを黙認し、まともに捜査しなかった。中国を怒らせたくなかった。そもそも二重スパイでもないかぎり、雇い主を裏切った元スパイなど、どの国にとっても唾棄すべき存在だ。

 二十歳だった羽多野は、準暴力団に属していた。もともと中国系マフィアと抗争をくりひろげていた。怒りに衝き動かされた羽多野は、復讐の鬼となる。仲間を率いてマフィアを殲滅した。自分ひとりだけでも三人殺した。

 警視庁は、羽多野のあつかいに困り果てる。裁判をおこなえば、秘密が明るみに出て国際問題になるし、無罪放免にするには凶悪すぎる事件だ。

 そういうとき、民自党議員は頼りになる。あまりに獰猛で野に放てない獣を、飼い慣らしてくれる。

 羽多野は佐倉惣吾の配下となった。

「あなたは」アヤが言う。「日本政府のために働きながら、ずっと恨みに思っていた。奥さんが殺されたとき、政府はなにもしなかったから」

「メイシンはただ殺されたんじゃない。やつらはひどいことをした」

「四年間ずっと、復讐の念に捕われてるのね。ことの正邪はともかく、すごい愛情とはおもう」

「わかった様なことを」

「暗殺計画は、ワイズ本人が仕組んだ茶番なんでしょう。核ミサイルによる報復を正当化するための」

「そのとおりだ。だがお前はやりすぎた。あの金髪のクソガキ……」

「アリスのこと?」

「やつがお前に靡いたのも誤算だ。おかげで世界を牛耳る【おかしなお茶会】の全貌は……」

 息を切らせた羽多野が喘ぐ。会話をつづけられそうにない。横向きに倒れる。

 アヤは羽多野にまたがる。妻に再会させてやるのが情けだろう。しかしアヤは、足許にころがる注射器に目をとめる。最初はモルヒネなどの鎮痛剤かとおもったが、よくかんがえると不自然だ。

 なぜ羽多野はわざわざ、こんな鬱蒼とした森で薬剤を注入したのか?

 アヤはちいさな注射器を手にとる。数滴のこっている液体は透明だ。鼻にちかづけて嗅ぐ。記憶にある、かすかな刺激臭がする。昨晩自宅で食べたリンゴとおなじ。

 羽多野は、みづから毒リンゴを食べたのだ。

 アヤは数段下へ飛び退く。羽多野に異変がおきている。シャツのボタンが弾け飛び、スーツが破れる。体が膨張している。体毛が全身を覆う。ここまで毛深い男ではなかった。

 十倍に巨大化した羽多野が立ち上がる。牙のはえた口を大きくあけ、夜空へむかって咆哮する。

 美女と野獣だ。

 魔女に呪いをかけられた、あの野獣が吠えている。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

米田和佐『だんちがい』7巻

 

 

だんちがい

 

作者:米田和佐

掲載誌:『まんが4コマぱれっと』(一迅社)2011年-

単行本:4コマKINGSぱれっとコミックス

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総扉を飾るのは、通り雨にあったらしい、びしょ濡れの姉妹たち。

弥生のブラウスが透けている。

セクシー担当の夢月に対抗。

 

 

 

 

すっきりした描線と、四姉妹のかわいさのバランスが、本作の魅力。

ただし7巻は、咲月が目立っている。

団地の自治会長さんと会話するなど、成長をみせる。

 

 

 

 

第88話は、アニメ大好きな咲月の妄想ネタ。

小学3年生のダークなエロスがファンタジックだ。

 

 

 

 

つづく89話で、夜の団地を冒険。

晴輝に甘えるときの表情は、われわれ読者の知らない咲月だ。

 

 

 

 

ついに咲月まで完全にデレてしまい、ツンデレ担当の弥生が最後の砦に。

90話では晴輝と映画館デート。

あやうい姉妹間バランスをたもつ。

 

 

 

 

本巻は羽月の活躍がたりない気はするけれど、

ちょっとづつ変化してるのにかわらない、きょうだいの日常は、

やはり一種の奇跡だなあとおもう。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ    ロリ  米田和佐 
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苑田 謙

苑田 謙
漫画の記事が多め。
たまにオリジナル小説。

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