相川有『人外さんの嫁 宵町の巫女』
人外さんの嫁 宵町の巫女
作者:相川有
原案協力:八坂アキヲ
発行:一迅社 2018年
レーベル:ZERO-SUMコミックス
現在アニメが放映されている人気作のスピンオフである。
本篇では原作担当の相川有が、作画も受け持っている。
相川はベテラン作家だが、最近は原作仕事が多い様だ。
当ブログでは『無関心探偵AGATHA』をとりあげた。
個人的に好みの絵柄だ。
『人外さんの嫁』はよく知らなかったが、ためし読みしたところ、
本作のヒロインの憂いをふくんだ佇まいに惹かれ、購入決定。
主人公である15歳の「都」が住む町には、あるしきたりがある。
嫁取りにあらわれた神にえらばれたら、拒否できないという。
そして都は、禍々しい黒龍の花嫁になることに。
もちろん都は抵抗する。
それでもそこは乙女の習性で、「結婚」という言葉に心はゆれる。
大切にされることの安心感が距離をちぢめてゆく。
1巻完結なので、やや駆け足で関係が進展してゆく。
滝壺のシーンとか、殊更にうつくしい。
特に都の脚が。
都には秘められた記憶があり、すでに幼少期に龍神と出会っていた。
あと僕は、冒頭の叙述トリックに引っかかった。
ストーリー面でも読みごたえのある作品だ。
セーラー服でポニーテールの凛としたヒロインが、
不思議な世界観のなかで、さまざまな表情をみせてくれる。
おすすめだ。
- 関連記事
榎屋克優『高梨さんはライブに夢中』
高梨さんはライブに夢中
作者:榎屋克優
掲載誌:『Dモーニング』(講談社)2018年-
単行本:モーニングKC
[ためし読みはこちら]
うだつの上がらないサラリーマン「坪坂」は、ビンゴの景品でもらったチケットで、
生まれてはじめてロックのライブ会場へやってくる。
そこで意外にも、職場の同僚「高梨さん」に出くわす。
ライブでは音量のすさまじさや、観客の動きの激しさに度肝をぬかれる。
そしてなにより、ふだんは地味な同僚の変貌ぶりに。
ライブ会場あるあるネタと、高梨さんのギャップ萌えをたのしむ漫画だ。
フェスで泥まみれになってサークルモッシュとか、おいしい場面を押さえている。
正直僕は、会場の後方で腕組んで鑑賞する地蔵タイプだが、
こうやってバカ騒ぎする快感もありかもしれないと思った。
高梨さんは守備範囲が広い。
王道ロックもいけるし、デスメタルもいける。
アイドルの現場にもいく。
坪坂にリフトされ、推しからレスもらえて大興奮。
ちなみに当ブログは、音楽漫画とグルメ漫画に点が辛い。
前者は聴覚、後者は味覚に焦点をさだめた題材であり、
視覚重視のメディアにそぐわないと思うからだ。
しかし観客サイドからえがく音楽漫画はめづらしく、本作の価値を高めている。
- 関連記事
『殲滅のシンデレラ』 最終章「ガラスの靴」
アヤはイオリを引き連れ、無人のゲームセンターを歩む。ビデオゲームやクレーンゲームなどの筐体が、にぎやかな光と音を放つ。
地上では米兵が襲撃してきたらしい。ユウキがひとりで応戦するあいだ、イオリが支援要請しにシェルターまで降りてきた。
ブツン!
明かりが消え、ゲーム筐体の電源が落ちた。
停電だ。
ドタンバタンという騒音と、イオリらしき悲鳴が闇に響きわたる。
じきに給電は復旧し、明かりが灯る。
左のクレーンゲームの脇で、異変がおきていた。迷彩戦闘服を着た兵士がイオリを抱きかかえる。別の兵士が、FN・SCARアサルトライフルをこめかみへ向ける。目を見開いてイオリは震える。
正面の出入口付近に、兵士六名が展開している。ヘルメットに装着された暗視ゴーグルを外す。アヤに照準を定めなおす。
アメリカ海軍特殊部隊SEALSの、チーム5だ。長崎の佐世保基地から派遣された。
指揮官らしき四十歳くらいの白人が言う。
「勝負ありだ、ブラッディネイル」
抑揚のない口調だ。ひたすら事務的に任務遂行しようとしている。
つまり、知りすぎたアヤを問答無用で殺す。
指揮官が続ける。「その靴を脱げ」
シャドウがガラスの靴に宿るのを知っている。
アヤは鼻を鳴らす。
さすがは米軍というべきか。感心する。混沌とした状況で、よく部隊間で情報共有できるものだ。
応じるしかない。
正面の六名は、舞踏術をつかえば斃せる。しかし確実にイオリは撃たれる。逆にイオリの救援を優先すれば、ふたりともやられる。敵の戦術は、これしかないと言えるほど合理的だ。
アヤは左右のガラスの靴を脱ぐ。
降伏するつもりはない。それを受諾する気配はあちらにない。交渉の余地はない。
アヤはガラスの靴をもちあげ、石目調の床へ叩きつける。ばらばらに砕け散る。
敵の虚をついて左へ走る。イオリの隣に立つ兵士のSCARを、強引に両手でもちあげる。銃床で下顎骨を割る。イオリを羽交い絞めする兵士の脛骨を、黒ソックスを履いた足の裏で折る。
アヤは優雅な動作でひるがえる。出入口にひろがる六名を、SCARの射界におさめる。
呆然とする指揮官が、なぜかこちら側へむかって吹き飛ぶ。背後にユウキがいた。指揮官を後ろから蹴った。ユウキは別の兵士を突き倒し、左右のふくらはぎを自分の両脇ではさむ。
演武術【ジャイアント・スイング】。
風を切って人体をふりまわし、ハンマーがわりにする。米軍が誇る精鋭を薙ぎ倒してゆく。最後に窓ガラスにむけて放り投げる。哀れな兵士はガラスを突き破り、大通りの歩道へ転がる。
ウィンクしながらユウキが言う。
「これでおあいこだな。道玄坂で助けてもらった借りは返したぜ」
「自分でどうにかできたけど」
「はいはい」
「ワイズはどうなったの」
「兵隊に連れてかれたわ。まあ、もういいだろ。あんなクズがどうなろうが」
「ありえない」
アヤは靴下のまま、店の外へ飛びだす。
久世橋通は戦場になっていた。
阪神高速道路が炎上している。SEALSが乗ってきたブラックホークを、空自のF-2戦闘機が撃墜した。ほかにもコブラなどの軍用ヘリが飛び交い、火器管制レーダーで敵を追跡する。
日本の政府高官は一部が死傷し、のこりは雲隠れした。それでも国防・情報・治安維持関連の組織は連携し、おのおのの義務を果たしている。
アヤは、回転翼による突風でなびく髪をおさえる。周囲をみまわすが、ワイズは見当たらない。夜間の探索は困難をきわめる。
脳裏の閃きにしたがい、アヤは西へむかう。ちょうど念天堂の社屋がある方向だ。
三叉路の真ん中に、迷彩戦闘服を着た約十名の集団を発見する。ふたりがアヤへSCARをむける。暗視装置をそなえる分、主導権は敵にある。
アヤはかんがえる。
SEALSの目的はなんだろう。どんな命令が出ているのか。
彼らは人間だ。心をもたない機械ではない。無意味な任務は拒否することもある。
自衛隊の防空警戒網をすり抜けて浸透するのは、米軍にとっても危険な作戦だ。実際ブラックホーク二機が撃墜された。
彼らの目的は大統領救出じゃない。
端から死ぬ気の人間を、助ける意味はない。
アヤの胸が疼く。あの兵士たちが命を懸けた理由がわかった気がする。
口封じだ。
世界にアメリカを断罪させないために。
SEALS隊員が、SCARをワイズへむけて構える。最高指揮官を永遠に沈黙させようとする。
舞踏術【リエゾン・ド・ピルエット】。
チャイコフスキー風の躍動的なリズムにのり、アヤは爪先立ちで連続回転する。
ガラスの靴を割ったので、もう超人的な身体能力を発揮できない。しかし心は自由になった。敵を殲滅するまで止まらないロボットではない。
これでいい。
だって闘いは即興だから。
SEALS隊員が発砲する。あたらない。いくら百戦錬磨の彼らでも、流麗なステップをふむダンサーと対峙した経験はない。
アヤはハンマーフィストと踵で、敵八名の防護されてない部位を打つ。
南区の三叉路は、兵士たちの眠るベッドとなった。
虚ろな目のワイズが、アスファルトに膝をつく。
爪を黒く塗った指を突きつけ、アヤが言う。
「おしまいよ。あなたの卑劣な計画は」
二時間あまりが経過した。
アメリカ海軍の原子力潜水艦アラバマから、トライデントミサイルが一分おきに発射され、零時ちょうどに京都市の四か所で爆発した。
衝撃波で、ほぼすべての建造物が崩壊した。京都タワーも清水寺も金閣も京都御所も、なにもかもが。熱線は自動車さえ飴の様に溶かし、うつくしい山並みを焦土に変えた。鴨川の水が沸騰し、泳いでいたアユは煮魚となって浮かんだ。
官民協働の避難活動により、人的被害は最小限にとどまった。だが全員は救えなかった。ペットなどの喪失も、ひとびとの心に傷をのこすだろう。
アヤはエレベーターに乗る。
死の灰などの放射能は恐ろしいが、シェルターに閉じ籠もっていられない。
地上は一面、底なしの闇だった。
ただ燃えのこる木造建築が、無残に破壊された古都のシルエットを浮かび上がらせる。
まさに焼け野原だ。
冷気がアヤの背筋を駆け上る。暴力のすさまじさに震える。
瓦礫と化したゲームセンターの跡から、ユウキがあらわれる。ワイズの髪をつかんで引っぱる。
ワイズの耳許でユウキが叫ぶ。
「どう責任とるつもりだ、あぁ!?」
ワイズは返答しない。月明かりに照らされた表情は、少女たちより血色が悪い。死相というやつだ。ワイズは現実を受け容れられない。ひとりで背負うには重すぎる罪だから。
もしトルーマンが、原爆投下直後の広島と長崎をおとづれたら、おなじ反応をしたろう。
ユウキはワイズを突き倒す。横たわるワイズの腹部を蹴る。サンドバックより手応えがない。怒りはおさまらず、馬乗りになって顔面を打つ。ユウキは半狂乱となり、なにごとか叫びつづける。
ユウキの肩に手をおき、アヤがやさしく言う。
「それくらいにして」
「うるせえ」
「ワイズを殺しちゃいけない」
「はぁ!?」
「東京へ連行して、裁判をうけさせる。この人の狂気と愚行を、公的記録にのこす必要があるの」
「知るかよ」
アヤは両膝をつき、ユウキと目をあわせる。
「私はここに残って、避難と復興を手伝う。ユウキはワイズを護送して」
「なんであたしが」
「アメリカ政府はきっとまた妨碍してくる。あなた以外に頼める人はいない」
ユウキは首を振りつつ立ち上がる。
深呼吸する。
ユウキは内心、アヤの冷静さに舌を巻いていた。この絶望的な光景を目の当たりにして、裁判の心配をするとは。癪なので口に出して言わないが、天性のリーダシップを感じた。
一方アヤは、唾を飲みこむ。
ユウキに対し、ひとつ言わねばならないことがある。でもアヤは、だれかに謝罪した経験がない。他人に負い目を感じたくないから、つねに完璧であろうとつとめてきた。
上目遣いでアヤが言う。
「あの、私」
「なんだよ」
「四条駅でのこと、ユウキに謝らなきゃ」
「いまさらだな」
「本当にごめんなさい。友達に裏切られたと知って、あなたは深く傷ついたはず」
この世の終わりみたいに思いつめた表情で、アヤは言葉をしぼりだした。
ユウキは苦笑いする。
このお嬢さまは、人に頭を下げるのが嫌でしょうがないらしい。どんだけプライドが高いのか。
まったく、おかしなやつだ。
ユウキはアヤを完全には許してない。化学兵器の攻撃に友人を巻きこむなど、まったく理解できない。とはいえユウキは物事にこだわらない性格なので、この件をしつこく追及する気もなかった。
一度ケンカしたら、あとは水に流すだけ。
「考えあってしたことだろ」
「でも」
「お前のまっすぐなところ、嫌いじゃないぜ」
「ユウキ」
アヤは目を潤ませ、笑顔をみせる。こんな可愛げのある表情ができたのかと、ユウキは驚く。
背後で、だれかのすすり泣く声がした。
アヤがふりむくと、黒のセーラー服を着たイオリが、両手で目をこすっている。イオリは感受性がするどく、甚大な被害に動揺している。息切れをおこし、ふらつく。いまにも失神しそうだ。
アヤはイオリの細い肩を抱く。頬が触れるほど密着し、ささやく。
「イオリ、気を強くもって」
「ボクたちの努力はムダだった」
「そんなことない」
「ひどすぎるよ。カオリさんの最期の姿が思い浮かんでつらくて……」
カオリとは、嵯峨野での戦闘で散った京娘セブンのリーダーのこと。イオリは彼女に思い入れがあるらしい。アヤの胸は嫉妬でちくりと痛む。
「やるべきことは、まだたくさんある。私に力を貸して。一緒にこの街を復興させましょう」
「なに言ってるの。見渡すかぎり焼け野原なのに」
「私にはあなたが必要なの」
「ボクにはできない」
ますますイオリは声高く泣く。アヤのきわどい発言には無関心のまま。
この美少年のセンサーは、男女のことがらについてはまるで機能しない。
アヤは覚悟をきめる。ユウキがそばで聞き耳を立ててるが、恥づかしがってる場合じゃない。
大きく息を吸い、アヤが言う。
「ちゃんと話を聞いて」
「なに」
「私の目をみて」
「みてるよ」
イオリのつぶらな瞳が、満天の星の光をうけてきらめく。呼吸がとまるほどうつくしい。
「私はイオリのことが好き」
「ボクも好きだよ」
「愛してるの」
「えっ」
「私の恋人になって」
「どうしたの。ボクはこんなだし、とてもアヤちゃんに釣り合う人間じゃ」
そう言ってイオリは、スカートの裾をつまんではにかむ。その仕草が可憐で、アヤは飛びつくのをこらえるのに苦労する。
「イオリ。これは私のはじめての告白なの。フッてもいいけど、真剣にうけとめて」
「そんな。アヤちゃんをフルなんて」
「じゃあ恋人になってくれる?」
「困るよ。ボクたちはまだ高二なのに」
イオリは指先をもてあそび、身をよじる。
埒があかない。
アヤは、イオリのなめらかな頬を両手ではさむ。わづかに背伸びし、口づけする。
苦しくなって息継ぎのため、ようやく唇を離す。
イオリがもたれ掛かる。アヤはきつく抱きしめる。
アヤはひとりごつ。
おもわず衝動的に告白してしまった。いきなりキスまでした。私らしくない。
いや、そうでもないかも。
私はうつくしいものが好きだ。だから文学作品を愛好し、美術館へかよっている。
顔がいいから男子を好きになって、なにが悪い。
たしかに自分の過去の発言と矛盾している。恋愛はおたがいを高め合う関係であるべきと、数時間前に旅館でユウキに豪語したばかりだ。
何年も昔におもえるけれど。
まあ、イオリの善良さとか尊敬してるし、きっとつき合ってるうち、いい感じになるとおもう。
闇のなかで薔薇色に頬を輝かせ、イオリが言う。
「あの、ボク」
「なあに」
「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」
アヤは星空を見上げる。
思い描いてた恋愛の形とちがうけど、こんなハッピーエンドがあってもいいんじゃないかな。
ねえ、デレちゃん。
- 関連記事
東西/新堂冬樹『ASKアスク』
ASKアスク
作画:東西
原作:新堂冬樹
掲載誌:『グランドジャンプめちゃ』(集英社)2017年-
単行本:ヤングジャンプコミックス
人気絶頂のグラビアアイドル「堀口優奈」を主人公とする物語だ。
あるスキャンダルのあと、優奈は半年ほど芸能界から消えている。
現在優奈は2億円の借金を背負わされ、高級デリヘル嬢として働く。
店は会員制なので、この秘密を知るものは一握りだけ。
以上のショッキングなプロローグのあと、
トップアイドルが風俗嬢に身を落とすまでの経緯をえがく。
優奈は傲慢な性格だった。
些細なことで、マネージャーにホテルのロビーで土下座させたり。
所属事務所は大きくないが、後輩の「ゆらぎ」が最近力をつけている。
人当たりがいいが、実は腹黒く、優奈を陥れようとする。
優奈は契約をめぐるトラブルに巻きこまれる。
そしてそれは、事務所社長がしかけた罠だった。
本作のストーリーに、荒唐無稽な面があるのは否めないが、
移籍したタレントが干されるなんてのは、実際よく聞く話だ。
東西は、いわゆる成人向け漫画で活躍する作家。
女体の描写が生々しい。
あまりにエロいので、これでもおとなしめなのを引用した。
小説が原作ということで、心理描写や情報量もそれなりに充実しており、
総合的にみてモトがとれる1冊なのはたしかだ。
- 関連記事
中山敦支『ゆるっとハンター☆ワンタンちゃん』
ゆるっとハンター☆ワンタンちゃん
作者:中山敦支
発行:講談社 2018年
レーベル:アフタヌーンKC
クレーンゲームの天才「雲呑ちゃん」を主人公とする、1巻完結の作品。
不遇な時期にブログに掲載した連作のリメイクでもある。
この世界でクレーンゲームは、生きるか死ぬかの大勝負だ。
作者お得意の肉弾戦もあり。
百円玉をつかった攻撃など、アイデアが冴えている。
雲呑ちゃんは、かわいいものが大好き。
ゆるキャラを収集するため、危ない橋をわたる。
ゲットしたときの幸せそうな笑顔がまぶしい。
中山ファンとしては、この不敵でピュアなたたずまいに、
やはりカギューを連想せざるをえない。
唐突で理不尽な暴力。
そしてそれを置き去りにしてゆくスピード感。
ネット配信された小品だが、むしろ近作より中山らしさの濃度が高い。
作者はツイッターで、本作をほぼひとりで描き上げたと語っている。
『ねじまきカギュー』完結後に彼は2年以上沈黙しており、
おそらくアシスタントはいれかわり、一から体制を立て直してると想像される。
その苦労のなか、ひとりでさらっと描いたら、カギューに似てしまったのだろう。
彼女が作者のペルソナなのだ。
このまっすぐ激烈な眼光をみれば、そうかんがえずにいられない。
- 関連記事
『殲滅のシンデレラ』 第17章「シェルター」
アヤは仲間と一緒に、夜の国道24号を歩く。ゼンフォンを片手にイオリが先導する。めざすのは、京都駅で羽多野が言っていたシェルターだ。三時間後にSLBMが着弾する。もはや一般市民を救うのは、現実的なプランではない。罪悪感を抑圧し、自分たちだけでも避難するしかない。
ほかに選択肢があるだろうか。
ユウキがワイズを後ろから見張る。ワイズは挫いた左足を引きずっている。ユウキは尻を蹴飛ばす。殺してもよかったが、交渉材料に使えるかもしれないので生かしている。
アヤは勧進橋から鴨川を見下ろす。街の灯りが水面でゆらめく。源氏物語の登場人物である浮舟をおもいだす。ふたりの男のあいだで板挟みとなった浮舟は、おなじ流域の宇治川へ入水した。
京都の風景は、人を感傷的にさせる。東国出身の浮舟が感じた孤独を、アヤは共有している。
橋の上でアヤは立ち止まる。真上から電灯に照らされ、幽霊さながらに見える。
ユウキがふりかえり、アヤに尋ねる。
「なにしてんだ」
「べつに」
「おかしなこと考えてないだろうな」
「すこしシャドウと話したいの。先に行ってて」
ユウキは眉根を寄せるが、また歩を進める。一刻を争う状況であり、心配ばかりしてられない。
アヤは欄干に手をかけ、闇の底の川面をみつめる。シンデレラの姿はない。視界のほとんどは、どす黒く塗りつぶされている。
アヤは唇を噛む。涙がながれる。
神経ガスを散布したのは間違いだった。命令でやったからというのは、言い訳にならない。トワみたいに拒否もできた。けっきょく私は、京都市民を救えなかった。責任をとるべきだ。四条駅で苦しんだ人々に対し、せめてもの償いを。
それに私が死ねば、イオリの罪は軽くなる。
アヤの足が震える。欄干にすがりつく。
死ぬのが恐ろしい。水の冷たさや、窒息の苦しみも。自業自得と理解しているが。
嗚咽まじりにアヤがつぶやく。
「デレちゃん……最後に会いたいよ」
反応はない。
アヤは大声をあげて泣く。
つまらない十六年の生涯だった。
したのは勉強と習い事だけ。一度も恋を知らないまま死ぬなんて。私はだれより努力した。でもだれより不幸だった。報われないにもほどがある。
アヤは地団駄をふむ。
どうかんがえても不公平だ。
だいたいなんだ、あのシンデレラとかいう女は。私を訳のわからない世界に引きずりこんでおいて、顔も見せないなんて。無責任じゃないか。
あの世で会ったら、ぶん殴ってやる。
トントン。
ひとりごとを言うアヤの肩を、何者かが後ろから叩いた。
「なによ」アヤが言う。「邪魔しないで」
ふりかえると、水色のドレスを着たシンデレラが歩道に立っていた。おだやかな微笑をうかべる。
のけぞってアヤが言う。
「デレちゃん。なんでこんなところに。鏡にしか現れないんじゃないの」
「お別れを言いにきたヨ」
「あなたもアリスみたいに消えちゃうのね」
「そうだネ。そろそろフィナーレだネ」
「いかないで」
シンデレラはアヤの頬にそっと口づけする。
「自信をもって。これからはキミだけのストーリーがはじまるんだヨ」
「だめ。私は弱いの。勇敢に闘えたのはデレちゃんのおかげなの」
「ぱどぅすーし。心配いらないヨ。アヤはもう、シンデレラになったんだから」
とぼとぼとアヤは久世橋通を進む。ユウキたちが、ほかの集団と言い争うのが目にはいる。京都に店舗を展開するゲームセンター「ファンタジア」の前だ。この店の地下にシェルターがあるらしい。
口論する相手は、揃いの地味なジャンパーを着ている。ゲームセンターの制服ではない。胸に「Nentendo」のロゴがはいっている。京都に本社をおく、世界的なゲーム会社である念天堂の社員だ。
アヤはユウキの横に立ち、尋ねる。
「どうしたの」
「こいつらが妨碍するんだ。それどころじゃないのに、取りつく島もねえ」
ある意味当然の反応ではある。もうじき核弾頭を積んだ弾道ミサイルが落ちると聞かされ、はいはいと信じる方がめづらしい。
問題はワイズだった。いまは街路樹に寄りかかっておとなしくしているが、正体がばれたら騒ぎになる。京都は外国人観光客が多いし、この混乱では負傷も驚くにあたいしないので、目立ってないが。
ところがアヤは感づく。念天堂社員のなかに、ワイズをじっと観察する人間がいる。ひとりだけ黒のジャケットを着ている。年回りは六十歳前後で、細い目が吊り上がった独特の風貌だ。
「あの人」アヤが言う。「どこかで見たことある」
「うわっ、宮口繁じゃねえか」
「だれ」
「知らねえのかよ。『マリアシスターズ』や『スプラッシュート』をつくった人だよ」
「へえ。私全然ゲームしないから」
「お前、知識偏りすぎだろ」
宮口がアヤのそばへ近寄る。飄々とした口調で尋ねる。
「木のところにいる人、ワイズ大統領ですよね」
「…………」
「実は以前、仕事で会ったことあるんで。あ、僕は念天堂の宮口と言います」
「もし仮に彼が大統領だとして、あなたに関係あるんですか」
「そないに警戒せんでも」
宮口は顔をくしゃくしゃにして笑う。
アヤは腕を組み、身じろぎする。
警戒するに決まってる。
これまでCIAに襲撃されたり、学校のクラス担任が公安のスパイだったりした。うかつに他人を信用すれば身の破滅だ。
「ええと」宮口が続ける。「お嬢さん、よかったらお名前を」
「佐倉アヤです。東京から修学旅行できました」
「アヤさんはソリストなんですよね」
アヤは平静を装うが、視線がさまよう。
いくら有名人とはいえ、なぜゲーム会社の人間がソリストのことを知ってるんだ。
まだ私の闘争はおわらないのか。
アヤは宮口に導かれ、ゲームセンターの店内へ踏みこむ。ユウキたちは、ワイズを監視するため路上にのこった。
ふるい筐体がならぶ地下倉庫を通り抜ける。宮口は指紋認証で奥のドアをあける。鉄骨の階段を降りてゆくと、そこは打ちっぱなしのコンクリートにかこまれた、広大なシェルターだった。五千人くらい収容できそうだ。
「すごい」アヤがつぶやく。「想像よりずっと規模が大きい。これならたくさん避難できる」
「これが市内に二百ほどあるんですわ」
「国や自治体は、シェルターの存在を知ってるんですか」
「知らんでしょうね」
「どうして。失礼ですけど、あなたがた民間企業が手を出すべきことじゃない」
宮口はくすくす笑う。非現実的な状況をたのしんでるらしい。
「僕もそうおもいますよ。この施設、元社長の山科が私財を投げ売ってつくったんですわ。最初に聞いたとき、正直ボケたんちゃうかなって」
「いや、さすがに個人の資産では無理でしょう」
「各国の大富豪が支援してくれはったらしいですよ。僕も一度だけ会いました。グループを仕切ってる金髪の女の子に」
「まさか、アリス」
「そうそう。アリスって子。不思議の国のアリスにそっくりやったなあ」
「ふふ。あの子は本物です」
シェルターを見渡しながら、アヤは胸が熱くなるのを感じる。
【おかしなお茶会】は、理不尽な暴力と戦うための秘密結社だった。アリスは世界中を飛び回り、良識のある要人を説得して、懸命に人々を守ろうと活動した。そして決してそれを誇らなかった。いつもあどけない少女としてふるまっていた。
入水をかんがえた自分の弱さが恥づかしい。
アリスの一途な思いを受け継がないと。
だが明敏なアヤは、問題点に気づく。
どうやって百五十万人を、たった三時間でシェルターへ案内するのか。
途轍もない難事業だろう。
ガオーッ!
宮口のアイフォンが、猛獣の叫びの様な音をたてた。宮口はジャケットからアイフォンをとりだす。画面を見てちいさくガッツポーズする。
首をかしげ、アヤが尋ねる。
「どうしたんですか」
「アヤさんは、スマホに『モンスターGO』をインストールしてはります?」
「いえ」
「はあ、そうですか」
宮口はあからさまに肩を落とす。
『モンスターGO』は、GPSの位置情報をつかった念天堂のゲームアプリで、遊んでない人間の方がすくないと言える大ヒット作だ。
事情を察したアヤが、目を丸くして言う。
「ひょっとして、そのアプリに」
「ええ。市民を誘導するためのコードを仕込んだんですわ。不具合なさそうでよかった」
- 関連記事
吉谷光平『恋するふくらはぎ』
恋するふくらはぎ
作者:吉谷光平
掲載サイト:『日刊月チャン』(秋田書店)2018年-
単行本:少年チャンピオン・コミックス エクストラ
[ためし読みはこちら]
27歳の男と、25歳の女の関係をえがく、社会人ラブコメである。
タイトルは「背伸び」を意味する。
男はクールぶってるが実は童貞で、女は清純ぶってるが実は元ビッチ。
なんとなくいい雰囲気になったふたりは、仕事のあと食事にでかける。
しかし、「見栄晴彦」がえらんだ店はファミレス。
戦略を練りすぎて、かえってズレてしまう。
「表うらら」の方は、「どっかバーにでも誘えよ」と内心不満だった。
うららが見栄を好きになったのは、新人時代の出来事がきっかけ。
良くも悪くも、空気をよまず正論を吐くタイプなので、
セクハラの被害をうけていたうららを助けた。
ちゃらんぽらんに生きてきたうららは、そろそろ自分もマジメになろうと改心。
休日にショッピングモールで初デート。
Vネックのセーターがすてきだ。
読者の期待どおり(?)、デートは大失敗におわる。
言わなくてもいいことを言って、うららを泣かせてしまう。
そしてようやく見栄は、恋愛において何が大事なのかを悟る。
うららの先輩もいいキャラだったり。
あまりラブコメに向かないとおもわれる、社会人同士の関係を、
葛藤や成長を描きながらうまく料理している。
- 関連記事
市丸いろは/左藤真通『将棋指す獣』
将棋指す獣
作画:市丸いろは
原作:左藤真通
掲載誌:『月刊コミックバンチ』(新潮社)2018年-
単行本:バンチコミックス
[ためし読みはこちら]
女子初のプロ棋士をめざす22歳、「弾塚光」の物語である。
ちなみに上に引用した場面は、クライマックスを暗示する冒頭のフックで、
いまのところ光はアマチュアとして活動する。
さて、本作の特色はキャラデザだ。
将棋漫画の弱みである「絵面の地味さ」をカバーしている。
棋士たちの外見は、かなり露骨にモデルをなぞっており、
この「加賀見廉」の場合は、新右翼の活動家で作家の見沢知廉だろう。
突飛だが、なにしろ小林秀雄まで出てくる漫画なので。
「峰田省三」九段の面構えも相当だ。
顔のインパクトが強烈すぎ、ストーリーに集中できないくらい。
左藤真通は、単独で『アイアンバディ』などを発表している漫画家だが、
原作担当の本作ではよく取材し、こまかいエピソードで読者の関心を刺激する。
たとえば、時間切れになりかけたときの対処法とか。
駒を打つ力が強すぎ、光は飛車を真っ二つに割る。
しかし駒が割れたのに気づかぬまま、思考の世界へ沈潜する。
プロ入り間近だった光が、16歳でいったん将棋を捨てた理由が謎で、
それをちょっとづつ明かして読者をひきつけるストーリーとなっている。
僕はくわしくないので、将棋部分の良し悪しを評価できないが、
魅力的なヒロインが創造されたことは保証できる。
- 関連記事
『殲滅のシンデレラ』 第16章「千本鳥居」
アヤとユウキが、稲荷山の石段を駆け下りる。獣人と化した羽多野がそれを追う。立っていると枝が顔にあたるので四本脚だ。
ユウキが立ち止まって振り返る。二十メートル離れた羽多野に、拳銃のファイブセブンを発砲する。全弾命中した。的が大きいとはいえ、見様見真似で当てるのだからセンスがいい。
羽多野は一瞬ひるむが、また急追してくる。
上擦った声で、ユウキがアヤに叫ぶ。
「どうすんだよ、あれ!」
「逃げてばかりもいられないわね」
ふたりは伏見稲荷大社の境内にはいりこんでいた。あざやかな朱色の鳥居が無数にならぶ、有名な千本鳥居だ。提灯の薄明かりに照らされた赤い回廊は、この世のものとおもえない。
アヤは急停止し、身をひるがえす。羽多野にむかい突進する。だが、巨大化した羽多野が間合いをつめるのが速い。岩みたいな右の拳が直撃する。吹き飛ばされたアヤは、高さ二メートルの鳥居にぶつかる。鳥居が衝撃で傾く。
ユウキが叫ぶ。「アヤ!」
「あなたは逃げて」アヤが言う。「ここは私がどうにかする」
「無理だろ。あんなバケモノ」
羽多野はアヤの全身を片手でつかむ。渾身の力で握る。アヤは吐血する。ガラスの靴で強化されていてもダメージは深刻だ。
つかんだアヤを振り回す。三千本以上ある鳥居がドミノ倒しとなる。退路がふさがれた。
ユウキが両手で折れた柱を持ちあげる。「クソがっ!」と叫んで羽多野の脛を打つ。アヤが石畳へ落ちる。さらに血を吐く。
アヤの肩を抱き、ユウキが言う。
「大丈夫か」
「あ……あれをやるわよ」
「あぁ?」
「ジムでの練習のあと、いつも私をプロレス技につきあわせるじゃない」
「遊んでる場合かよ」
「あなたならできる。ユウキの即興性を見習えと、会長がよく言ってたわ」
ユウキはうなづく。ふたりは同時に羽多野の左脚に組みつく。びくともしない。ユウキが絶叫する。毛むくじゃらの体がすこしづつ持ち上がる。
演武術【ツープラトン】。
少女たちは、リフトした巨体を釣瓶落としする。鳥居の台座にぶつけて脳天をかち割った。
アヤとユウキは本殿の前に出る。ライトアップされた日本最大の楼門が、夜空を背景に朱塗りの威容を誇る。狐の妖怪でも出てきそうな荘厳さだ。
紺のスーツを着たワイズが、大鳥居に背をもたせて腰をおろしている。ほかに人影はない。化野念仏寺では頭に包帯を巻いてたが、いまは取れていた。顔とワイシャツの襟が血で汚れる。目を開けているが、アヤたちに感づいた気配はない。
バサバサと、鳥かなにかが上空をすぎる音が聞こえる。フックではない。展望台でアリスとイオリが斃してくれた。
アヤは目を凝らし、かすかな明かりを頼りに飛行物体を観察する。オスプレイよりずっと大きく、ずんぐりした形をしている。ヘリコプターではないし、鳥などの動物でもない。
たとえるなら、ダンボに似たマシーンだ。
ドォーンッ!
重要文化財に指定された本殿が、爆風で四散した。ダンボ型ドローンが、アヤとユウキをねらい爆撃している。
アヤは、光と闇が交錯する空間を見回す。ワイズが這いながら、この地獄から逃れようとしている。世界一の金持ちで、世界一の権力者の、みじめな有り様だ。自国の大統領などお構いなしで、AIが暴走しているらしい。
ユウキの手を引き、アヤは外拝殿の下にはいる。踊りを奉納する舞台として使われる建物だ。ダンボは自由落下式の爆弾を際限なく落としつづける。外拝殿の屋根が崩れ、柱が折れる。シェルターの役にたたない。しかし境内には木造建築しかない。
引いてもユウキがうごかない。足腰が立たなくなっている。瞬きもせず、うつむいたままだ。
アヤは意を決し、参道へ飛び出る。夜空を旋回していたダンボが、ターゲットを発見して猛進する。アヤは火のついた木材をつかむ。
ダンボに搭載されたセンサーは赤外線だろう。アヤはダンボを引きつけて走り、石段の下にむかって木材を投げる。自分は楼門の陰に隠れる。軍用機が敵ミサイルの欺瞞につかう、フレアの要領だ。
だまされたダンボは、ころがる木材を追って飛んでゆく。石段につぎつぎと爆弾を落とす。その爆炎の合間から、ふたりの人影があらわれる。黒のセーラー服を着たイオリと、ジャージ姿の東山だ。東山が着替えたのは川に飛びこんだからだ。
「イオリ!」アヤが叫ぶ。「無事だったのね」
小倉山でアリスを支援したイオリは、核融合反応に巻きこまれたはずだ。しかし多少衣服が乱れたくらいで、涼しげな美少女の姿でたたずむ。
イオリはアヤに目配せしたあと、ゼンフォンを操作しはじめる。上空のダンボをにらむ。ダンボは高度を徐々に下げ、稲荷山の中腹に激突する。火柱があがる。轟音と地響きがアヤたちを襲う。
とりあえず命拾いした様だ。
アヤは穴だらけの石段にへたりこむ。東山は隣に腰をおろし、アヤに肩に手をおく。
東山が言う。「よくがんばったわね」
「なにがおきたんですか」
「空自が電子戦機を飛ばしてくれたのよ。水瀬くんが座標をおしえて誘導した」
「先生が作戦を指揮してるんですか」
「まあそうね。私もいろいろ迷惑をかけたから、せめてもの罪滅ぼしよ」
「いま政府はどういう状況ですか」
「さあ、なにがなにやら。現場の私たちが一致団結して、対処するしかないわね」
気力をふりしぼり、アヤは立ち上がる。
ワイズを捕まえないといけない。さすがにもう、丸裸になったろう。
決着をつけるときだ。
アヤは片足を引きずって逃げるワイズを追い、神楽殿の裏のお茶屋にたどりつく。創建は十七世紀だが、格式たかい書院造の趣きがある。悠揚さが感じられる、京都らしい和風建築だ。
緑ゆたかな庭園にワイズがうずくまる。両腕に爪をたてて唸り声をあげる。あたりの草木を引きちぎって投げる。錯乱して泣き叫んでいる。
脳に損傷を負ったのだろうか。でも成功した起業家はサイコパスが多いと聞くから、もともとおかしいのかもしれない。
アヤはワイズの血まみれの金髪をつかみ、茶室の畳の上にころがす。通話アプリを起動したアイフォンを、ワイズの顔へちかづける。アメリカ大使館の番号が表示されている。適切な窓口かどうか怪しいが、まったくの見当違いではないだろう。
ガラスの靴で畳を踏みしめ、アヤが言う。
「ミサイルの発射を中止して」
「無理だ」
ワイズはアヤをじっと見据えて答えた。
錯乱状態にみえたワイズだが、思考は整序をたもっている。ハリウッドスターのクリス・クロフォードもそうだった。一瞬も油断できない。彼らは根っからの捕食者だ。
「あなたは軍の最高指揮官でしょう」
「作戦行動中の潜水艦は、解き放たれた猟犬みたいなものだ。呼び戻せない。海中は電波が減衰するから、通信も届かない」
「電波の種類によっては届くはず」
「撃沈する方がはやい。対潜ヘリでも飛ばしたらどうだ。まあ、俺ですら居場所を知らないが」
ワイズは皮肉っぽく笑う。
アヤの右手がそろばんの動きをする。米軍の兵器や戦略について、大統領と議論するのは骨が折れる。物知りなアヤも軍事はくわしくない。
アヤの気がゆるんだ刹那、ワイズは風炉に刺さっていた鉄の火箸をつかむ。まっすぐにおのれの喉を突こうとする。アヤは虚を衝かれるが、かろうじてワイズの腕をおさえる。
目を白黒させてアヤが言う。
「なにをするの」
「俺の死をもって、レッドクリフ作戦は完了する」
「やはりいまのアメリカは、暴走したAIに支配されてるのね」
「ははっ、ロボットの叛乱か。ばかばかしい。『ターミネーター』じゃあるまいし」
「フックと羽多野から直接聞いた。作戦はAIが立案したもので、あなたは餌として利用されたと」
「人工知能だとフックが自称したのか?」
「具体的な言い回しまでは覚えてない」
「そんな発言はありえない。俺にはわかる」
「どうして」
「あれは機械じかけのテクノロジーじゃない。人間の知能の完璧なコピーだ。脳機能をプログラム上で再現している」
「だれの頭脳のコピーなの」
「言うまでもない。世界最高の頭脳だ」
ワイズは襖にもたれ掛かり、頭を反らせる。
アヤは呆然と立ちつくす。
ロボットであるフックを制御していたのは、人工知能ではなく、ワイズの頭脳のコピーだった。さっきワイズが自殺を図った理由もわかる。永遠の生を手にいれたので、もはや死を恐れないのだ。
つまりワイズは神になった。
アヤがつぶやく。「なんて傲慢な」
「そんなことはない。俺がやらなかったら、必ずほかの誰かがやる。だから先行者利益をいただいた」
「あなたの会社みたいに」
「ああ。フレンドリーは、マイスペースとくらべて特別すぐれたサイトじゃなかった。だが生存競争に勝利することによって、すべてを独占した」
アヤはワイズの演説に聞き入る。将来事業をおこしたいアヤにとって、ワイズは尊敬する人物のひとりだった。こんな出会いでなければ、いくらでも質問したいことがある。
でも、それどころじゃない。解決の糸口をさぐらないといけない。
「知性が生き残っても、肉体は滅ぶのよね。あなたの意識と一緒に。怖くないの」
「死ぬほど退屈なんだよ」
「え?」
「あんたには理解できないさ。二十代で栄耀栄華をきわめた人間が背負う、たえがたい苦悩を」
「会社の経営をがんばればいい」
「フレンドリーをこえるサービスの開発は不可能だ。フレンドリー自体が日々進化している。だから俺は、別分野である政界へ進出した」
「億万長者になったのに、なにが不満なの」
「世間は俺をバカにしている。フレンドリーの成功は運がよかっただけだと。たしかに真の偉人は、みな二度成功している。アインシュタインは特殊相対性理論と一般相対性理論。ルーズベルトはニューディールと第二次世界大戦。ジョブズはアップルコンピュータとアイフォンだ」
「話についていけない」
「ニーズだよ。ハーバードでフレンドリーを開発したときと同じだ。俺はニーズしか考慮しない。現代の世界における最大の課題は、中国の軍事的膨張だ。二十一世紀を戦争でなく、平和の世紀にするのが俺の目的だ」
「京都市民を虐殺して?」
「人は忘れやすい。広島と長崎への原爆投下から七十年以上経過した。アメリカの強大さを知らしめるデモンストレーションが必要だ。シミュレーションによると、この作戦が犠牲者数を最少化できる」
アヤは、ワイズのよく回る舌をぼんやりながめていた。どこかで聞いた論理だとおもった。百五十万人の京都市民を救うためなら、神経ガスを散布するのもやむをえない。そう言ってアヤは、自身とトワを説得した。
ワイズと私は同類かもしれない。
「だからって」アヤが言う。「あなたが死ぬ意味はないでしょう」
「作戦名の元となった赤壁の戦いを知ってるか」
「三国志の?」
「そうだ。あの戦いの前に呉の武将である黄蓋は、曹操を欺くためみづからを鞭打たせた。レッドクリフ作戦は、『苦肉の計』の二十一世紀版なのさ」
アヤの視界がぼやけ、意識が遠のく。
あきらかにワイズは正気ではない。妄想と現実の区別がつかないパラノイアだし、おのれの賢明さに酔うナルシシストでもある。
アヤは首を横にふる。
いまさらプロファイリングしても仕方ない。
ワイズが仕掛けてるのは、戦略核兵器をつかった自爆テロだ。歴史上もっとも強力で、もっとも野蛮で、もっとも有効な攻撃だ。
脅しても無意味だ。端から死ぬ気なのだから。
阻止する手立ては、神ですら思いつきそうにない。
- 関連記事
友野ヒロ『銀色のジェンダーズ』
銀色のジェンダーズ
作者:友野ヒロ
掲載誌:『ヤングキング』(少年画報社)2018年-
単行本:YKコミックス
[ためし読みはこちら]
主人公は「藤ヶ谷銀」、ひとり暮らしの大学1年生だ。
趣味は女装。
自宅でこっそり女に化け、自撮りをSNSへ投稿する。
フォロワーが1万人をこえた記念に、女の姿で街へでる。
小柄で華奢な銀が男だと、だれも気づかない。
むしろバツグンの美少女として注目の的に。
調子にのりすぎた銀は、大学の先輩に女装趣味がバレてしまう。
しかし男装バーではたらく先輩は理解があり、メイクの仕方などを指南する。
マスカラが大事とか、男性読者は勉強になるだろう。
銀は学内でも女装しだす。
ダンスサークルに勧誘され、そのまま加入してしまう。
いろいろ危険な橋をわたっている。
運動音痴の銀は、ダンスはからっきし。
しかしルックスのよさと、女っぽくない立ち居振る舞いのおかげで、
サークルの仲間からはそれなりに歓迎される。
油断しすぎて、やらかしてしまうが。
ストーリーは、ややとっ散らかっている。
LやGやBやTが入り乱れ、どこがスタートでどこがゴールかわかりづらい。
でもこのカオスが作者の意図なら、ありだとはおもう。
- 関連記事
袁藤沖人『乙姫ダイバー』
乙姫ダイバー
作者:袁藤沖人
掲載誌:『COMIC E×E』(ジーオーティー)2017年-
単行本:MeDu COMICS
[ためし読みはこちら]
やはりセーラー服は海がにあう。
一方で、海底に沈む電車もみえる。
この世界は、陸地のほとんどが水没している。
本作は、セーラー服の少女たちによる海洋ファンタジーだが、
「海は死です。舟は棺桶です」と述べるなど、陰鬱な世界観をもつ。
作者はLittlewitchのグラフィッカー出身であり、
絵柄だけでなく、頽廃的な美意識にも影響をうかがわせる。
主人公は「江ノ島女子海洋学校」へ入学する。
船乗りをそだてるエリート校らしい。
専科などのこまかい設定もほどこされている。
とはいえ本作は、うつくしい海と、ほろびゆく文明と、独特の骨格の少女たちが、
ひとつの画面にあつまる鮮烈な風景描写が、最大の魅力だろう。
7話で海洋女子たちは、ガラの悪い若者の集団にからまれる。
しかし彼らのうちのひとりが溺れたとき、まよわず海にとびこんで救出し、
懸命な人工呼吸と心臓マッサージで蘇生させる。
本作は、ここ最近でもっともおもしろい漫画とは言えないが、
見たことのない情景を見せてくれるという点で、推奨したい。
- 関連記事
『殲滅のシンデレラ』 第15章「三本指」
アヤは、下京区にある梅小路小学校の校門前にいる。旅館「眠れる森」のちかくだ。トマホークミサイルや海兵隊による被害に遭った、紅梅学院の生徒たちが避難している。
日は暮れかかり、街灯が青白く光る。アヤはLINEでユウキを呼び出した。父とは桂駐屯地で別れて以来、連絡がとれない。
半袖のブラウス一枚のユウキが、校門からあらわれる。スカートは短く、長い脚が映える。いつもとちがい表情は冴えない。
黒髪をいじりながら、アヤが言う。
「無事でよかった。ほかの子たちはどう?」
「麻倉と夏川は病院じゃねーかな」
「どこにいるかわからないの?」
「ここに避難できたのは半分もいない」
「そう……心配ね」
詰問する口調でユウキが尋ねる。
「お前はなにしてたんだよ」
「薄々察してるでしょ。今回の騒動に私が関わってると、父に告げ口したのは知ってる」
「良かれと思ってやっただけだ」
「そうなんでしょうね。感謝はしないけど」
「むかつく言い方だな。で、用件はなんだ? 世間話をしに来たんじゃないだろ」
「ユウキ。あなたもソリストなのね」
「…………」
口籠ったユウキは、腕を組む。
「京都に来てからのユウキは、妙に物分かりがいい。普段はもっとワガママなのに」
「お前ほどじゃねえよ」
「昨晩ジムでユウキが拉致されたとき、私は人違いだとおもった。でもそうじゃない。CIAは最初からあなたを狙っていた」
「お前の嫌いなところ、もうひとつあったわ。察しが良すぎるところ」
「どうもありがとう」
アヤは無感動に言い、アイフォンの画面をユウキへみせる。
京都市南東部に墜落した、オスプレイの画像だ。機体は大破し、バラバラになった。山林に火の手があがる。オスプレイは市街上空を横切って墜落した。アリスの攻撃で損傷してコントロールをうしない、人目にさらされた。報道機関や市民によって撮影され、情報が拡散されている。
「私たちは」アヤが続ける。「ワイズ大統領を追ってるの。京都を守るために。ユウキも手を貸して」
「知るかよ」
「格闘の天才であるユウキの力が必要なの」
「あたしは関係ない。ほかをあたれよ」
「どうして。あなたもソリストなんでしょう。憑依してるシャドウはなに」
「プーさんだけど」
アヤは噴き出すのをこらえる。
もともとユウキはくまのプーさんのグッズをあつめてたし、意外ではない。でもおかしくて仕方ない。
口を尖らせてユウキが言う。
「なんで笑うんだよ」
「……別に笑ってないわ。マイペースなあなたにぴったりね」
「バカにしてるだろ。プーさんかわいいじゃんか」
「ええ、でもそれどころじゃない。京都が灰になるかもしれないの。お願いだから協力して」
「どの面下げて言ってやがる」
「私たち友達でしょう」
「トモダチ? あたしが地下鉄に乗ってるのを知ってて、神経ガスをつかったお前が?」
アヤは咄嗟に視線を逸らす。
一番知られたくないことを、一番知られたくない相手に知られていた。
口の達者なアヤでも、弁解できない。
うごかせない事実だから。
私は、親友を見殺しにした。
「お前さ」ユウキが続ける。「プライベートでも付き合いのある友達って、あたしだけだろ。よくあっさり切り捨てられたな。逆に感心するよ」
反論したいアヤだが、舌と下顎がうごかない。
なにを言っても虚しい。
ユウキがため息をつく。会話を終わらせようとしている。
「普通に絶交だわ。だれでもそうするだろ。人間として最低だもん」
背のたかいユウキは、刺す様な目で見下ろす。腹の底から軽蔑している。
アヤはまだ視線を合わせられない。
私に裏切られたと知って、どれだけユウキは傷ついたろう。
嫌われて当然だ。私は最低の人間だ。
でも。
それでもやっぱり、私はまちがってない。
いや、まちがっててもかまわない。
とにかくこんなところでリタイアできない。
私はアリスからバトンをうけとったんだ。
アヤは左手を突き出す。指を三本立てている。
ユウキは目を丸くする。それはふたりのあいだで通じるサインだった。
新日本プロレスのルールに関係している。相手の指をつかんで逆に曲げる場合、三本以上でないといけない。指一本か二本を曲げたら反則。
つまり、かかってこいとアヤは言っている。
ユウキは口の端をあげる。
新日を愛するあたしは、興味のないアヤにいつもプロレスの話をしていた。アヤはつきあわされて迷惑そうだったのに、こまかい話をおぼえている。
単に記憶力がいいだけかもしれない。
でもアヤが、あたしの適当なおしゃべりをちゃんと聞いてたのは確かだ。
「おい」ユウキが言う。「あたしを挑発してんのか」
「だって私の方が強くなったもの」
「生意気言ってんじゃねえ」
ユウキは右手でアヤの三本指をつかむ。
アヤとユウキは、オスプレイが墜落した稲荷山に来た。京娘セブンのマネージャーが運転するステップワゴンでの移動だ。
闇が降りる山の中腹が、火の海となっている。応仁の乱では、東軍がこのあたりでゲリラ戦をおこなった。「足軽」という軽装歩兵戦力が組織された端緒と言われる。きっと室町時代の京都人も、おなじ風景をみたろう。
それにしても京都は山の多い町だ。正直アヤは見飽きてきた。三方を山岳にかこまれた鍋の底みたいな地形が、ながく政治と文化の中心だったのは不思議におもえる。ただ近代以降は、急増する人口を支えられなくなったかもしれない。
ふたりは農園に沿った坂道をのぼる。
炎上する稲荷山を見上げ、ユウキがつぶやく。
「あの火事やべーだろ。おさまりそうにない」
「そうね」
「逃げた方がいい」
「いざとなったら舞踏術で突破するから大丈夫。ユウキを脇にかかえて」
「ぞっとしねえな」
ユウキは顔をしかめる。総合格闘技の年代別チャンピオンだが、殺し合いの経験はない。
「この山のどこかに」アヤが言う。「ワイズがいる。私が先頭にたって探す。待ち伏せに合うかもしれないから、そのときはユウキが掩護して」
「ワイズさんを見つけたらどうすんの」
「状況次第ね。抵抗するなら殺す」
「おーこわ」
人ふたり通るのがやっとの石段の途中に、紫のスーツを着た羽多野が座っていた。拳銃のFNファイブセブンを、先頭でのぼるアヤへむける。
意に介さず、アヤは歩きつづける。銃口が揺れており、命中しそうにない。後ろ回し蹴りでファイブセブンを吹き飛ばす。ユウキがあわててそれを拾う。興味津々でいじくる。
羽多野がよろけて手をつく。石段が大量の出血で濡れている。アヤが黒いシャツをはだけると、腹部に負傷していた。おそらく銃創だ。
つとめて冷静な口調で、アヤが尋ねる。
「父がどうなったか教えて」
「知るか」
アヤはガラスの靴で腹を蹴る。羽多野が低くうめく。手負いの獣みたく哀れっぽい声が、山林にひろがる。
「時間がないの。質問にはちゃんと答えて」
「……職務室で撃ち合いになった。あいつも無事ではないだろう」
アヤは目をつむる。
父を失うことも覚悟しておこう。ただし悲しむのは、闘いが終わったあとだ。
「ワイズの居場所を言いなさい」
「聞いてどうする」
「なぜ私たちソリストを売ったの? あなたは最初からワイズのために動いてたわけ?」
「そうだ」
「この国を売ったも同然じゃない」
「なんとでも言え」
「理由を知りたい」
「長い話だ。お前みたいな小娘に理解できない」
「中国人の奥さんに関係あるのね」
「…………」
羽多野の妻だったロン・メイシンは、イスラエル系企業につとめるソフトウェア開発者だが、その正体は中国政府の産業スパイだった。しかしメイシンは機密を盗む行為に疲れ、北京との関係を絶った。日本で職をもとめ、結婚もした。
四年前、中国政府は報復にでる。東京にいる中国系マフィアをうごかし、メイシンを殺害した。警視庁はそれを黙認し、まともに捜査しなかった。中国を怒らせたくなかった。そもそも二重スパイでもないかぎり、雇い主を裏切った元スパイなど、どの国にとっても唾棄すべき存在だ。
二十歳だった羽多野は、準暴力団に属していた。もともと中国系マフィアと抗争をくりひろげていた。怒りに衝き動かされた羽多野は、復讐の鬼となる。仲間を率いてマフィアを殲滅した。自分ひとりだけでも三人殺した。
警視庁は、羽多野のあつかいに困り果てる。裁判をおこなえば、秘密が明るみに出て国際問題になるし、無罪放免にするには凶悪すぎる事件だ。
そういうとき、民自党議員は頼りになる。あまりに獰猛で野に放てない獣を、飼い慣らしてくれる。
羽多野は佐倉惣吾の配下となった。
「あなたは」アヤが言う。「日本政府のために働きながら、ずっと恨みに思っていた。奥さんが殺されたとき、政府はなにもしなかったから」
「メイシンはただ殺されたんじゃない。やつらはひどいことをした」
「四年間ずっと、復讐の念に捕われてるのね。ことの正邪はともかく、すごい愛情とはおもう」
「わかった様なことを」
「暗殺計画は、ワイズ本人が仕組んだ茶番なんでしょう。核ミサイルによる報復を正当化するための」
「そのとおりだ。だがお前はやりすぎた。あの金髪のクソガキ……」
「アリスのこと?」
「やつがお前に靡いたのも誤算だ。おかげで世界を牛耳る【おかしなお茶会】の全貌は……」
息を切らせた羽多野が喘ぐ。会話をつづけられそうにない。横向きに倒れる。
アヤは羽多野にまたがる。妻に再会させてやるのが情けだろう。しかしアヤは、足許にころがる注射器に目をとめる。最初はモルヒネなどの鎮痛剤かとおもったが、よくかんがえると不自然だ。
なぜ羽多野はわざわざ、こんな鬱蒼とした森で薬剤を注入したのか?
アヤはちいさな注射器を手にとる。数滴のこっている液体は透明だ。鼻にちかづけて嗅ぐ。記憶にある、かすかな刺激臭がする。昨晩自宅で食べたリンゴとおなじ。
羽多野は、みづから毒リンゴを食べたのだ。
アヤは数段下へ飛び退く。羽多野に異変がおきている。シャツのボタンが弾け飛び、スーツが破れる。体が膨張している。体毛が全身を覆う。ここまで毛深い男ではなかった。
十倍に巨大化した羽多野が立ち上がる。牙のはえた口を大きくあけ、夜空へむかって咆哮する。
美女と野獣だ。
魔女に呪いをかけられた、あの野獣が吠えている。
- 関連記事
米田和佐『だんちがい』7巻
だんちがい
作者:米田和佐
掲載誌:『まんが4コマぱれっと』(一迅社)2011年-
単行本:4コマKINGSぱれっとコミックス
総扉を飾るのは、通り雨にあったらしい、びしょ濡れの姉妹たち。
弥生のブラウスが透けている。
セクシー担当の夢月に対抗。
すっきりした描線と、四姉妹のかわいさのバランスが、本作の魅力。
ただし7巻は、咲月が目立っている。
団地の自治会長さんと会話するなど、成長をみせる。
第88話は、アニメ大好きな咲月の妄想ネタ。
小学3年生のダークなエロスがファンタジックだ。
つづく89話で、夜の団地を冒険。
晴輝に甘えるときの表情は、われわれ読者の知らない咲月だ。
ついに咲月まで完全にデレてしまい、ツンデレ担当の弥生が最後の砦に。
90話では晴輝と映画館デート。
あやうい姉妹間バランスをたもつ。
本巻は羽月の活躍がたりない気はするけれど、
ちょっとづつ変化してるのにかわらない、きょうだいの日常は、
やはり一種の奇跡だなあとおもう。
- 関連記事