冬目景『空電ノイズの姫君』2巻

 

 

空電ノイズの姫君

 

作者:冬目景

掲載誌:『月刊バーズ』(幻冬舎)2016年-

単行本:バーズコミックス

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やはり冬目景のかすれた様なタッチには独特のものがあり、

自分で描いてるらしい背景も相まって、キャラクターに実在感をあたえる。

やわらかく透明な雰囲気がいい。

 

 

 

 

本作は、くせっ毛のギタリスト・マオと、黒髪の歌い手・夜祈子の、

ダブルヒロインを看板とする青春音楽ものである。

なにげない仕草や表情がすてきだ。

 

 

 

 

ふたりのイチャイチャは、『イエスタデイをうたって』のハルと、

『羊のうた』の千砂の夢のコラボとゆう感じで、初期作のファンにはたまらない。

 

そしてガールズトークのたのしさは、冬目景が時代に先んじてそなえた特質で、

このマイペースな作家をサバイブさせた主要因だろう。

 

 

 

 

ストーリー進行は本作もゆっくり。

夜祈子はいづれマオのバンドに加入するのだろうが、作者は焦らす。

もっと序盤から見せ場をつくればいいのに。

 

ただ、対バンでマオを打ちのめすイケメンガールズバンドなど、

「音楽」とゆうテーマを推し進め、世界観を着実に構築してはいる。

 

 

 

 

「冬目景ルネッサンス」は本物みたいだ。

まぶしい夏服セーラーがそれを物語っている。





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尾崎かおり『金のひつじ』1巻

 

 

金のひつじ

 

作者:尾崎かおり

掲載誌:『月刊アフタヌーン』(講談社)2017年-

単行本:アフタヌーンKC

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寡作で知られる尾崎かおりの新作は、青春もの。

6年ぶりに再会した幼なじみ4人の、すれちがいがテーマだ。

テイストは、かなり苦い。

 

 

 

 

優しいまま、純粋なままであり続けるのを許さない世界に対し、

主人公は不器用なやりかたで抵抗をみせる。

絵柄はときに愛らしく、ときに繊細で、ときに大胆で、

それに瑞々しくかつ老練、まあ達者な画力と言うほかない。

 

舞台は山麓の田舎町。

地元民は方言をつかわない。

制服のない高校が多いと聞く長野県かとおもったが、

上京するのに飛行機に乗ってたので違うかな。

意図して読者の地理的追求をはぐらかす描写もある。

 

 

 

 

本作はいじめのシーンがくりかえし描かれる。

作者の表現力が卓抜すぎ、読んでいて息がつまる。

いじめる側にも共感できるので、やるせないのだ。

 

だから主人公の母親のかわいらしさにホッとする。

 

 

 

 

酔っぱらって帰宅した母が、たいして現実味のない再婚話を口にする。

転校先で問題をかかえる主人公は、つれない態度をとる。

呆けた感じの横顔、冷蔵庫の閉まる音……空気感が圧倒的。

 

 

 

 

家出してやってきた渋谷で、別居中の父と会う。

作者は情報を出し渋りつつ、それでも個性をきわだたせる。

 

 

 

 

1巻時点では、「ギター」とゆうギミックを十分いかせてない印象。

別にバットや竹刀やバイオリンでもいい気がする。

ゆえにもうひとつのギミック、つまり「いじめ」が目立ちすぎ、読後感が重い。

 

尾崎かおりに代わる作家などいないので、

これはこれとして受けとめるしかないけれど。





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『群狼のプリンセス』 第16章「科学技術館」


登場人物・あらすじ(準備中)


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 緑ゆたかな北の丸公園の駐車場に、トヨタ・ハイエースがとまる。日本武道館などの施設がある、皇居に隣接した公園だ。ジュンを先頭に、一番隊の十名が降りる。昼ごろ、信濃町の倉庫で合流した。制服のレザージャケットを全員着ている。

 百五十メートル先に科学技術館がある。科学の啓蒙をおこなう博物館だ。六芒星の打ち抜きがなされた白い外壁が、神秘的な印象をあたえる。イスラエル国旗にあしらわれた模様でもある。

 父・大五郎の過去の行動をしらべたところ、月に一度くらいの頻度で科学技術館をおとづれていた。通常の業務とは考えられない。子供向けの施設が、武闘派のアカツキに警備を依頼するだろうか。

 若い女の声が、どこからともなく響く。

「ようこそ、わらわの城へ」

 音声は全隊員のスマートフォンから発せられた。ジュンは自身のアイフォンをとりだす。唐風の着物をきた少女のイラストが映る。人気のクイズゲーム『アマテラス』のキャラクターだ。

 不可解な点がある。ジュンはこのアプリをインストールしていない。

 天真爛漫な笑顔をふりまき、アマテラスが言う。

「おぬしが暁ジュンじゃな。活躍はわらわの耳にも届いておるぞ」

 ジュンは駐車場を見回す。ほかの隊員たちもスマートフォンを手にきょろきょろする。

 なにものかが遠隔操作してるのか。それともプログラムが自動でしゃべってるのか。

「安心せい」アマテラスが続ける。「わらわはれっきとした神じゃ。『中の人』などおらん」

 ジュンが答える。「信じるよ。黒幕がとんでもないやつなのはわかってた」

「わらわもおぬしに会うのを楽しみにしておった。最上階の五階におる。はやく来るのじゃ」

「首を洗って待ってろ」

「ただし、いくつか『おもてなし』を用意してある。簡単にはたどりつけぬぞ。ひとりだけ仲間を連れてくるのを認めよう。制限時間は三十分」

「りょーかい」

「ではゲームスタートじゃ」

 アイフォンからアマテラスが消え、もとのホーム画面にもどる。

 いつも以上に汗をかくチャンコに、ジュンが言う。

「ついてこい」

「ウッス」

 ジュンは早足で科学技術館へむかう。有無を言わせぬ口調に、チャンコも素直に追随する。ヲタがジュンの左腕をつかむ。

 棘のある声でヲタが言う。

「バカか。罠にきまってる」

「だろうね」

「すこしは後先かんがえろ」

「それはお前の仕事だ。いい策があるなら一分以内におしえてくれ」

「ねえよ。あるわけねえだろ!」

「だったらあたしらは行く。残った隊員をたのむ」

「なぜ俺じゃなくチャンコなんだ。自分で言うのもなんだが、俺の方が頭がキレる」

 ヲタの肩に腕をまわし、ジュンが言う。

「バカだからいいのさ。あたしの分身になれる」

「どうゆう意味だ」

「五十パーセントの確率で死ぬかもしれない命令でも、チャンコは文句を言わずしたがう。だからあいつが副隊長なんだ」

「…………」

「あと、あたしが戻らなかった場合、一番隊を指揮できるのはヲタしかいない」

「わかった。そこまで考えてるなら何も言わない」

「あんがと、ヲタ。愛してるぜ」

「きめえ」




 ジュンは二人分のチケットを買い、科学技術館の中へはいる。五つの建物を放射状に配置した、独特な星型の構造をもつ。校外学習でおとづれた小学生の団体とすれちがう。ただ平日の午後三時すぎであるせいか、入場者はすくない。

 三階へのエスカレーターに乗ろうとすると、照明が消える。館内は闇に閉ざされた。非常口のランプすら見えない。エスカレーターは沈黙する。

 ジュンがつぶやく。

「さっそく来なすった……チャンコ、いるか?」

 返答はない。

 笛や鼓の音が聞こえる。うなる様な謡がそれにつづく。ジュンは文語をよく理解できないが、つれなくされた女の怨みを訴えてるらしい。

 紅の装束をまとった人影が、おぼろげに浮かぶ。般若の面をつけている。摺足で移動し、中央の階段へむかう。

 ジュンは特殊警棒を振って伸ばす。階段を駆け上がる。踊り場でターンし、さらに走る。走りつづける。いつまで経っても三階につかない。

 いや、すでにジュンは別のフロアにいた。

 目の前に金髪の少女がいる。青い洋服を着て、クマのぬいぐるみを抱いている。ジョン・テニエルが描いたアリスの様だ。

 あかんべをしたアリスが歌う。

「鬼さんこちら、手の鳴る方へ」

 ジュンが近寄るとアリスは消える。また左にあらわれる。左を向くと、今度は背後に。振り返ると、前後左右にあらわれる。合わせ鏡の写りこみをふくめると、その像は無限だ。

 ジュンは警棒で鏡を打つ。周りを囲む鏡にヒビがはいり、砕け散る。

 そこは薄暗いホテルの一室だった。ベージュのワンピースを着た女が立っている。四番隊隊長の山咲亮子だ。細い首が線状に赤く腫れている。新宿のシティホテルで、ジュンに絞殺されたときにできた。

 ジュンがつぶやく。「これは幻影だ」

「ひさしぶりね。元気そうでなにより」

「集中しろ。現実世界へもどれ」

「現実世界なんて本当に存在するの? もしあるとして、そんなところにもどりたい?」

「耳を貸すな。感覚を研ぎ澄ませ。どこかに脱出の糸口がある」

「真実を知ったんでしょ。大好きな両親の。さぞつらいでしょうね。楽にしてあげる」

 山咲はジュンをダブルベッドに押し倒す。首を絞める。苦しくなったジュンはもがく。バシャバシャと水飛沫があがる。

 水の中にジュンはいた。肩まで漬かっている。五年前に家族旅行で宿泊した、沖縄のホテルの屋内プールだ。夜が更けている。窓ガラスごしに星空がみえる。

 首を締める相手は入れ替わった。母の洋子だ。三十代前半の、うつくしかった当時のまま。身につけているのは、ピンクの花柄のビキニ。切れ長の目の下の泣きぼくろが妖艶な印象をあたえ、子持ちの女だとだれからも信じられなかった。

 ジュンは洋子を無視できない。

「ママ」

「ジュン。ずっと会いたかった」

「あたしこそ」

「大きくなったわね。もう立派なレディね。さぞかしモテるでしょう」

「まったくダメ」

「あらあら」

 はじける様な笑顔を洋子はみせる。

 かわらない。あのころとなにも。

「ママに謝りたかった。守ってあげられなくてごめん。助けてあげられなくてごめん」

「あの人が私にしたこと?」

「うん」

「昔の話よ。いまさらどうでもいい。私はいま、とっても幸せ。嫌なことすべてから解放されて」

「そうなんだ」

「お友達がたくさんいて、好きなだけ食べて飲んで、年も取らないで。ただ、あなただけがいない」

「ママ」

「娘と切り離されて生きるのがこんなに苦しいなんて。あなたを放ったらかしにした報いね」

「あたしもさびしいよ」

「こっちへいらっしゃい。また一緒に暮らしましょう。暴力夫もいないし、ステキな家庭を築けるわ」

 洋子は腕に力をいれ、ジュンをプールに沈める。水が気道をくだり、はげしい拒絶反応をひきおこす。

 ジュンは水中で迷う。自己暗示のおかげか、幻想の世界にいるのは認識している。でも生と死、どちらを選べばよいか解らない。ひょっとしたら死が、解放を意味するのかもしれない。

「お嬢!」

 野太い男の声が、ジュンの耳を聾した。

 汗っかきのチャンコの顔が間近にある。血相を変えている。両手でジュンの腕を抑えている。ジュンは黒い折りたたみナイフを握っている。ブレードがチャンコの右手を貫通した。切先がジュンの喉に触れる。

 おのれの喉を突こうとしたジュンを、チャンコは身を挺して守った。ジュンはナイフから手を放す。チャンコは床にうづくまる。

 次第にジュンは見当識をとりもどす。ここは科学技術館の五階だ。照明は恢復している。

 チャンコは止血帯を右上腕に巻き、締め上げる。出血を最小限にとどめるため、ナイフは刺さったままだ。左手での作業なのでおぼつかない。

 まだ意識が朦朧とするなか、ジュンが言う。

「なにしてんだ。あたしがやるよ」

 ジュンの背後を指差し、チャンコが答える。

「金髪の女の子があの部屋に入っていった。時間がない。急いでくれ」

「ちゃんと処置しないと」

「甘ったれるな!」

 巨体から怒声が轟く。チャンコが感情を剥き出しにするのを、ジュンは初めて見た。

「でも」

「これくらいのケガは覚悟してる。でなけりゃ一番隊の副隊長はつとまらない」

「チャンコ、ごめん」

「名誉の負傷だ。あとで自慢できる」

「なんで」

「悪口も言うけど、なんだかんだでみんなお嬢が好きだからな」

「行ってくる。この戦いにケリをつける」

 ジュンは唇を噛みしめ、ふたたび駆け出す。




 五階F室のテーマは「AI」。スマートフォンアプリの開発会社が提供する、最新の人工知能との会話をたのしめるので人気の展示だ。

 内装は、映画『二〇〇一年宇宙の旅』に出てくる宇宙船ディスカバリー号みたいな、白を基調とする無機質な空間だ。壁に大きなディスプレイが設置されている。タッチパネル式の操作卓の前に六脚の椅子がならぶ。金髪のアリスが座っている。

 ディスプレイと椅子のあいだの空中に、青みがかった人型のホログラムが投影される。猫耳をつけ、メイド服を着ている。吊り目の顔に見覚えがある。中野のメイドカフェの看板娘であるヒミコだ。

 ヒミコがクイズを出題する。

「一八九六年に、放射能を発見した科学者はだーれにゃ?」

 画面に四択が表示される。アリスは「キュリー夫人」をえらぶ。

「ぶっぶー!」ヒミコが言う。「正解はアンリ・ベクレルだにゃ。蛍光物質の実験をしてるときに偶然発見したにゃん」

 頭をかかえてアリスが悔しがる。

 ジュンは操作卓の前で仁王立ちする。ホログラムに語りかける。

「ひみたん、こんなところで何してる」

「バイトだにゃ。ちかごろは神様も忙しいにゃ」

「くそっ、ひみたんが黒幕かよ。メイドのふりして探ってたのか」

「あれは偶然にゃ。メイドは趣味でやってるにゃん」

「神対応のメイドと評判になるわけだ。本物の神様なんだから。チートじゃねえか」

「大目に見てくれにゃん。まあ立ち話もなんだから、とりあえず座るにゃ」

 ジュンは音を立て、白い椅子に座る。隣のアリスが怯え、ぬいぐるみを抱きしめる。

 ホログラムのヒミコが、身振りでジュンの視線をディスプレイへ誘導する。点滅する赤い三角のアイコンが、関東の地図上を南東へすすむ。ちょうど埼玉県と東京都の境にいる。

「五階まで来れた御褒美にゃ。一番知りたい情報を教えるにゃん」

「パパの居場所か」

「じゅんじゅんは到着が早すぎたにゃ。親子が同時にやってくる胸アツ展開を期待してたのに」

 ジュンは首をボキボキ鳴らす。

「お前はいったい何者だ」

「高天原の主神、日の神にゃ。天照大神とも呼ばれるにゃ。ま、好きに呼ぶといいにゃん」

「パパとはどうゆう関係だ。月に一度くらい、ここで密談してたみたいだが」

「八百長の相談にゃ」

「はぁ?」

「ひみたんは般若党を操ってテロをおこす。その情報を事前に大ちゃんに教える。大ちゃんはそれを制圧する。手柄を立てて偉くなる」

「わけがわからん」

「教えないときもあるにゃ。テロが成功すれば民衆は恐怖する。ますます大ちゃんに頼る」

「なぜパパを利用した? ほかにもっと権力のあるやつがいるだろ」

「近代国家は、神でも自由自在に操れないにゃ。民主主義の政治、資本主義の経済、能力主義の官僚制度……どれもこれも気にいらない。神を畏れぬ愚か者にゃん」

「つまり近代国家の破壊が目的か」

「御明察にゃ」

 猫のポーズをしてヒミコが踊る。

 ジュンは脚を組んでのけぞり、爪を噛む。突拍子もない話で、さすがについてゆけない。

「やっぱりおかしい。メイドカフェで働いてるときのひみたんは、生身の人間だった」

「巫女に憑依してるにゃん」

「神なんて存在するはずない。中の人がいないなら、ひみたんの正体はプログラムじゃないか」

「根本的にまちがった認識にゃ」

「どこが」

「プログラムの概念とは神そのものにゃ。頭脳に対する命令を記した、抽象的な論理」

「わかりやすく言ってくれ」

「ふう」ヒミコがため息をつく。「そもそもコンピュータは、神を復活させるため人間につくらせた機械にゃ。たとえば、現代人が肌身離さず持ってるそれ。右のポケットに入ってるやつ」

「アイフォン?」

「そこからマイクロ波が出てるのは知ってるかにゃ。脳に神経膠腫ができる様に仕組まれてる。あのハゲのアメリカ人、名前を何と言ったかにゃ……」

「スティーヴ・ジョブズ」

「そうにゃ。あいつにやらせたにゃ。自分の体で実験しすぎて早死にした。可哀想なことをしたにゃん」

「まじか」

 おもわずジュンは立ち上がり、アイフォンを手に取る。脅されても捨てる気になれない。これなしの生活はかんがえられない。すでに洗脳されてるのか。

「にゃははっ。近代文明が崩壊するまであと一歩にゃん。苦節二百年、ついに神の時代の再来にゃ」

「くそが」

 ジュンはホログラムにむかって特殊警棒を構える。猫顔のヒミコ以上に両目が吊り上がる。

「神に歯向かうつもりかにゃ。人間の分際で」

「なめんなよ」

「んじゃ、神通力を見せつけてやろうかにゃ。大ちゃんが乗ってるヘリを落とすとか」

「やれるもんならやってみろ」

「妙に強気だにゃ」

「お前、実はびびってるだろ」

 ヒミコのトレードマークである笑顔が消える。

「生意気だにゃん」

「なぜパパがわざわざ科学技術館まで、何度も足をのばしたのか。ネット経由でもひみたんに接触できるだろうに」

「…………」

「勿論、通信傍受を避けるためだ。逆に言うと、ひみたんには実体がある。生身の体が」

「父親が死んでもいいのかにゃ」

「勝手にしろ。なあ、アリスちゃん」

 ジュンは警棒の先端で、アリスの側頭部を小突く。ホログラムのヒミコが静止する。アリスはつぶらな碧眼を潤ませ、ジュンの腰にすがりつく。

「お姉ちゃん、痛いよ。いじめないで」

「キャラ変更か。器用なこった」

「私はなんにも知らないわ」

「あたしを見くびったな。アカツキはサイバー戦でも日本一なんだ。この程度の仕掛け、すぐ見抜ける」

「だましてごめんなさい。お姉ちゃんの欲しいものを何でもあげます。お金でも、名声でも、男の子でも。神の助けがあれば不可能はないわ」

「やっぱりお前が本体か」

「心から謝ります」

 ジュンは、アリスが抱くクマのぬいぐるみを引ったくる。

 沈黙していたホログラムのヒミコが叫ぶ。

「あっ」

 今度はアリスが力なくうなだれる。

「ばーか」ジュンが言う。「ハッタリだよ。お前らみたいな悪党が、つねに保険をかけてるのは百も承知だっちゅうの」

 ヒミコが答える。「神を悪党呼ばわりするか」

「まさに悪党だろうが。何人死んだと思ってんだ。あたしの大事な人もふくめて」

「平伏せよ、暁ジュン。祟りが怖くないのか」

「語尾の『にゃ』はどうした。キャラぶれてるぞ」

「神を畏れよ!」

「てめえ何様だ。あ、神様か」

 冷笑をうかべるジュンは、クマの首を引きちぎる。

 ホログラムが消滅する。金髪の少女が真っ白な床に転がる。

 ジュンはディスプレイに目をやる。父の乗るヘリコプターが、科学技術館についたらしい。

 なるほど、たしかに胸アツ展開だ。




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鍵空とみやき『ハッピーシュガーライフ』7巻

 

 

ハッピーシュガーライフ

 

作者:鍵空とみやき

掲載誌:『月刊ガンガンJOKER』(スクウェア・エニックス)2015年-

単行本:ガンガンコミックスJOKER

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ラッキーセブンの7巻で、ようやく本作は謎をときあかす。

16歳のころの、しおの母親「ゆうな」が登場。

ぼんやりした夢見がちな少女だった。

 

 

 

 

思い描いたのと真逆の出会いがおとづれる。

少女漫画的なボーイ・ミーツ・ガールの残酷なパロディ。

 

 

 

 

なすすべなく、ゆうなが顛落してゆくさまを、

セリフや具体的描写を削った省略語法でえがく。

背筋が寒くなる読書体験をもたらす。

 

 

 

 

そこまで登場人物を追い詰めるのかと、作者に感心したり、怖くなったり。

地獄の日々で、さらに底が抜け、かぎりない絶望が襲う。

浴槽にころがるハサミに象徴される情け容赦なさにふるえる。

 

 

 

 

それでも、母の心が完全に壊れてしまうのを心配する、

しおの純粋な瞳には甘ったるいやさしさがあって、

陰惨な暴力が荒れ狂っても、やはり本作は本質的に百合漫画とおもう。





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冬目景『黒鉄・改』

 

 

黒鉄・改

 

作者:冬目景

掲載誌:『グランドジャンプ』(集英社)2016年‐

単行本:ヤングジャンプ・コミックス

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鉄仮面をかぶった異形の渡世人、「鋼の迅鉄」を主人公とする股旅もの。

改題してのシリーズ再始動で、なんと17年ぶりの単行本となる。

さすがは大先生、圧倒的なマイペースっぷり。

 

 

 

 

迅鉄のライバル、「紅雀の丹(まこと)」。

凛々しいたたずまいと、中身のポンコツさは相変わらず。

 

それにしても、女子の立ち姿一枚で空気をかえる手並みのあざやかさ。

超マイペースでも人気が落ちないわけだ。

 

 

 

 

股旅ものゆえチャンバラは多いが、あまり巧くない。

なにせフリーターや美大生のモラトリアムな日常をえがくのが得意な作家だ。

 

とは言え、森のなかでの縦位置の構図など、感心させられるシーンもある。

 

 

 

 

オリジナルの記憶がおぼろげなので比較できないが、

迅鉄が狂気にとらわれるときの幻想的な描写などは、

作者の長いキャリアが反映されてるはずで、みごたえあり。

 

 

 

 

初期作品を髣髴させる『空電ノイズの姫君』もふくめ、

作者はあらたなサイクルへゆるやかに漕ぎ出した。

冬目景ルネッサンスの到来だ。





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みどりわたる『うちの姉ちゃんときたら!』

 

 

うちの姉ちゃんときたら!

 

作者:みどりわたる

掲載サイト:『COMICメテオ』(フレックスコミックス)2017年‐

単行本:メテオコミックス

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高校1年の「賢人」が外で弁当をたべていたら、

背後から美脚のニーハイ少女に空中技をしかけられる。

それは1歳年上の姉である「美姫」だった。

 

 

 

 

賢人は毎朝、姉の朝食と弁当をつくらされている。

ずる賢い美姫は弟を洗脳し、奴隷に仕立てあげた。

友達からは、美人の姉との生活をうらやましがられるが、

本人の不満は爆発寸前。

 

 

 

 

いつも賢人は3人組でつるんでるが、ほかの2人にも姉がいる。

ツインテの「茜」は小柄で、小学生にしか見えない。

 

 

 

 

作者も弟がいる姉なのだとか。

僕は男兄弟なのでくわしくないが、フィクションはともかく現実では、

「姉弟」の方が「兄妹」よりしっくりくるらしい。

暴君にふりまわされつつも、まんざらじゃない日常をえがく。

 

 

 

 

僕は好みじゃないのでピックアップしなかったが、

おっとり系の「栞」がタイプとゆう読者もいるだろう。

 

これら3組の姉弟がシャッフルされてくっついたりして、ドラマが進行する。

作者の初単行本だが、絵柄が華やかで視覚的にたのしめる。





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『群狼のプリンセス』 第15章「倉庫」


登場人物・あらすじ(準備中)


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 パーカーのフードをかぶったジュンが、地下駐車場を歩いている。ポケットに手をいれ、前屈みだ。昨晩はネットカフェに泊まりシャワーも浴びたが、疲労は抜けてない。

 ここは教授が部屋を借りている、汐留にあるマンションだ。人影はないが、車のドアが閉まる音やエンジン音が、死角から天井の低い空間に響く。

 ジュンは教授のトヨタ・レクサスを見つける。アカツキにいたころは運転手つきだったが、いまは自分で運転しているはず。壁に貼りついてカニ歩きし、監視カメラの真下に立つ。土足でレクサスのトランクへ登る。

 コンビニで買ったカミソリで、監視カメラのケーブルの被覆物を切る。刃がケーブルの銅伝導体に達したところで止める。こうすると静電気が発生し、映像が乱れる。潜入の技術は三番隊の専門分野だが、スパイに憧れるジュンは率先して身につけた。

 視界が真っ白に一変する。

 背後から何者かが懐中電灯を照らしたのだろう。手際よく作業したつもりだが、見つかるときは見つかる。なんとかの法則ってやつだ。

 男の声が聞こえる。

「そこで何をしてるんだ」

 ジュンはトランクから飛び降りる。右手をひろげ、顔の前に出す。まぶしい光から視力を守るためであり、師匠が得意とした構えでもある。

 あかるい声色でジュンが答える。

「どーもぉ、電気屋ですぅ。さっき修理の御依頼があって来たんですがぁ……」

 しゃべりながらジュンは距離をちぢめる。警備員が右手をつかむ。操り人形みたいに予測どおりに反応する。ジュンが右腕をかるく回すと、警備員はコンクリートの床にころがる。

 師匠は言った。

 ゴルフボールを全力で打ったところで、だれもが三百ヤード飛ばせはしない。必要なのは筋力でなく、技術だ。まして格闘は、相手が勝手に力を入れてくれる。それを利用するだけでいい。

 ジュンは蛇の様に、背後から警備員に巻きつく。首に右腕をまわし、レクサスの陰へ引きずりこむ。頸動脈をきつく締めたので数秒で失神した。ビニール紐で後手に縛る。横たわる白髪の男は、顔が引き攣っている。

 ジュンは目をつむる。

 善意の第三者を傷つけてしまった。付随被害とは言え、許されることではない。

 きょう、すべての決着をつける。

 アイフォンで警備員の身分證を撮影する。シャッター音がしない様にビデオで撮る。ほとぼりが冷めたら謝りにいきたい。

 ジュンはレクサスの後ろにしゃがむ。耳をすませる。足音が聞こえる。革靴だ。履いているのは体重七十キロくらいの男。重心が踵に寄っており、猫背なのがわかる。

 教授が来た。

 自分でも異常におもえるほど、ジュンの感覚は鋭敏になっている。

 さらに足音がちかづく。カードキーに反応し、ドアミラーのライトが点灯する。スーツを着た教授があらわれ、ドアノブに手をかける。

 立ち上がったジュンは、レクサスとアウディのあいだを通り、教授に肉薄する。

 教授が叫ぶ。「うわああっ」

 狼狽する姿は見苦しいが、それでも教授は右腰のホルスターから拳銃のバラクを抜く。まったくの腰抜けではなかったらしい。だがバラクをレクサスの窓ガラスにぶつけ、落としかける。

 ジュンは肝を冷やす。銃を見て驚いたのではない。衝撃でバラクが暴発するのを恐れた。

 中野のねこまたかふぇで話したとき、教授が武装しているのは察知していた。そうでなければ、臆病な教授はサシで会わないだろう。

 一呼吸おき、ジュンは教授の手首をひねってバラクを奪う。弾倉を抜き取り、スライドを引いて弾薬を排出させる。まとめて後ろへ放り投げる。

 口の端をもちあげ、ジュンが言う。

「あたしとドライブしようか」




 ジュンは教授の運転で、信濃町にあるアカツキセキュリティの倉庫に来た。ほとんど使われておらず、空気は埃っぽい。制服やマーナガルムなど入った段ボール箱や古い機材が、棚に詰めこまれている。

 社内でもこの倉庫を知るものはすくなく、緊急時の一番隊の集合場所に指定していた。だが、いまのところ部下の姿はない。

 ジュンは、キャスターつきのオフィスチェアに教授を座らせる。ビニール紐で両腕を肘掛けに括りつける。両脚も縛る。教授の顎が震えている。黒縁メガネが斜めに傾く。

 デスクの上に教授のノートPCを置き、電源を入れる。隊員の位置をモニターするプログラムを立ち上げると、パスワードを要求された。

 ジュンは振り返り、教授に言う。

「パスワードを言え」

 顔を真っ赤にした教授が、上ずった声で答える。

「俺は敵じゃない。ほどいてくれ」

「はやく言え」

「俺には警察がついてる。お嬢の罪を揉み消せる。一緒にやらないか」

「はぁ?」

「お嬢に部隊の指揮を任せる。給料は倍にする」

「あたしが? てめえの会社で働くって?」

「社長……いや元社長だが、あの人も信用できないだろう」

「ママのことを知ってるのか」

「家庭の事情は知らない。でも警察から社長の悪い噂をいろいろ聞いた。お嬢も驚くぞ」

 教授の鼻息が荒い。主導権を握ったつもりになっている。

 ジュンはため息をつく。

 伯母の圭子の話より衝撃的な情報など、ありはしない。バックに警察がいると自慢するのもくだらない。おそらく教授は、般若党とオカルトの関係を知らない。無知なくせに、ジュンを見下している。

 慶應大学を出ても、バカはバカなのだ。自分がバカだと気づかないので、なおさらタチが悪い。

 実力でわからせよう。

 ジュンは足許のリュックサックから、早朝にコンビニで買った本を出す。題名は『世界の拷問・処刑事典』。五百円だった。ドラキュラのモデルとされるヴラド三世の肖像が表紙に描かれている。

 パラパラとページをめくり、指を挟んで止める。

 見出しに「凌遅刑」と書かれている。読み方がわからない。字がたくさんで頭痛がする。

 開いた本を教授に渡し、ジュンが言う。

「声に出して読め」

「凌遅刑は死刑囚の肉を……なぜこんなものを読ませる」

「つづけろ」

「小刀ですこしづつ切り落としていく処刑法だ」

「ふーん」

 ジュンは折りたたみナイフを取り出す。黒光りするブレードをロックする。拷問事典を取り上げ、具体的な作法をたしかめる。

「まづ最初に」ジュンがつぶやく。「手足の肉が削がれていく。規定の回数が行われると手足は切断される。次に胸や腹の肉が削がれていく」

「やめろ」

「中国の拷問こえーな」

「お嬢、やめてくれ。たのむ」

「でも三日もかかるのか。めんどくせーから違うのにしよ」

 ふたたびパラパラめくり、止める。

 「電気ショック」。

 ジュンはにんまりする。これならお手軽だ。

 機材の山から、自動車用バッテリーを引っぱり出す。端子にケーブルを二本つなぐ。ハサミ同士を接触させると火花が散る。まだ使える。

 椅子に縛りつけられた教授が暴れる。キャスターがガタガタ鳴る。

 ジュンは教授のこめかみを素手で殴る。

「うるせえ。じっとしてろ」

「こんなことをして何になる!?」

「てめえに自分の立場をわからせる」

「俺の全財産をやる。知ってることは洗いざらい話す。これからはお嬢の命令にしたがう」

「だまれ」

「裏切ってすまなかった。許してくれ!」

「はいはい」

 ジュンは教授の手の甲に、ケーブルのハサミをあてる。全身が痙攣する。がくりと首をうなだれる。顔をちかづけると、かすかに呼吸するのがわかる。失禁したのか、悪臭がただよう。

 よかった。

 死んでないらしい。こんな雑魚を殺したら、あたしの名がすたるってもんだ。

 ジュンは教授の頬を平手打ちし、尋ねる。

「パスワードを言え」

「や……やりやがったな」

「そんなに気にいった? もっかいいく?」

「やめろ!」

「パスワード」

「……ゼロだ」

「なに」

「八桁のゼロだ」

「しょぼすぎ。拷問いらなかったな」

 ジュンはノートPCの前へもどり、キーボードを叩く。都区部の地図が画面に映る。社員リストの「暁大五郎」をクリックする。表示された点や線が厖大で、役立つ情報を抽出できない。

 ジュンが言う。「パパの居場所を知りたい」

「わからない。社長は携帯を捨てたらしい」

「手がかりだけでもいい」

「お嬢には無理だ。サイバー戦の専門家である四番隊でも足跡をたどれない」

「過去のデータも検索できるんだよね。特定の地域を調べるとか」

「虫眼鏡アイコンのところに地名を入力する」

「パパはよく竹橋へ行くと言ってた」

「あちこち回ってるだろう。なぜ竹橋が特別だとおもうんだ」

「女の勘だよ」




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

アッチあい『このかけがえのない地獄』

 

 

このかけがえのない地獄

 

作者:アッチあい

発行:KADOKAWA 2018年

レーベル:電撃コミックスNEXT

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新人作家による短篇集。

表題作では、深夜の公園に魔法少女があらわれる。

衣装のクオリティは高いが、動きがぎこちない。

 

 

 

 

その正体はコスプレ女子高生。

わざわざトイレで着替え、魔法少女になりきる。

 

量感がありつつ、骨格も感じさせる、身体描写がすばらしい。

 

 

 

 

「変身」を目撃したクラスメートがおり、話はややこしくなる。

収録作は全体的に、思春期女子の日常の空虚さをえがく作風だ。

 

 

 

 

「死んでいる君」はオカルトもの。

ニュースで報道されている自殺したばかりのJKが、

血まみれになって、見ず知らずのサラリーマンの部屋にいた。

 

「空から美少女が降ってくる」系テンプレのパロディみたいで、おもしろい。

 

 

 

 

「4番目のヒロイン」はメタフィクションもの。

どの短篇もプロットは単純でなく、ヒネリがきいている。

扉絵のキャッチーさと対照的で、でもこのアンバランスが魅力かもしれない。

 

 

 

 

「黙れニート」は、作者の知人をモデルにしたニート讃歌。

罪悪感に苛まれつつ、おのれの道を模索する主人公が印象的で、

社会風刺と言ってよい深みがある。

 

収録5作すべてにとびきりの美少女が登場するけれど、

キラキラまぶしい面でなく、孤独な影が強調されている。

才能ゆたかな作家なのは、この一冊で十分つたわる。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

永野梨花/小山力也『くぅが上から失礼します』

 

 

くぅが上から失礼します

 

作画:永野梨花

原作:小山力也

掲載誌:『月刊少年チャンピオン』(秋田書店)2017年‐

単行本:少年チャンピオン・コミックス

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牛乳を飲みすぎて電柱より背が高くなってしまった「くぅ」の、

田舎でのほのぼの女子校生ライフをえがく漫画。

新人コンビによる初単行本だ。

ちなみに原作担当の小山力也は、同姓同名の声優とは無関係とか。

 

 

 

 

校舎に入れないくぅは、外に机と椅子をおいて授業をうける。

からかわれはするが、普通に学校になじんでいる。

 

 

 

 

くぅは、同級生の佐々木君に片思い中。

こいつがかなりの天然たらしで、いいキャラしている。

身長差を物ともせず、まっしぐらにラブコメ路線を突っ走る。

 

 

 

 

原作つきであるせいか、各エピソードはこなれており、人情味にとむオチがつく。

ただ、くぅの体格のインパクトが大きすぎなのは否定できない。

ガールズトークが一瞬でおわったり。

 

 

 

 

JKものの定番、お弁当回。

自称少食のくぅの弁当箱は、丸焼きのブタが4頭はいっていた。

やはりラブコメ漫画と言うより、ギャグ漫画かな。

 

 

 

 

たとえ背景とのバランスがちょっとおかしくても、

制服JKがそこにいれば絵になると痛感させられる作品だ。




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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

くりもとぴんこ『あたしの家庭教師がショタなんだけど』

 

 

あたしの家庭教師がショタなんだけど

 

作者:くりもとぴんこ

掲載誌:『ヤングエースUP』(KADOKAWA)2017年‐

単行本:角川コミックス・エース

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20歳の派手めのギャル「水緒」が、片思いの相手に気に入られたくて、

隣にすむ男子小学生「要」に受験勉強を助けてもらうとゆうコメディ。

タイトルが基本設定を言い尽くしている。

 

 

 

 

水緒は9歳年上だが、要はIQ200。

シーソーみたく上下関係がコロコロいれかわる。

緊張感をはらんだやりとりが見どころ。

 

 

 

 

あかるく素直な水緒は、愛嬌のあるキャラだ。

ご近所さんにも積極的に話しかけるが、外見が目立つので敬遠されることも。

 

 

 

 

後書きによると、これまで作者はおもに4コマ漫画を発表してきたが、

投稿時代はずっと少女漫画を描いていた。

急に泣き出すなど、水緒の情緒不安定な様子をうまく表現している。

 

 

 

 

本作は「ザッピング」とゆう手法を採用している。

水緒と要のあいだで1話ごとに視点をいれかえ、おなじエピソードを語る。

 

諸刃の剣と言えるだろう。

立場がかわるたび新発見があり、ストーリーの深みは増すが、

だれが主人公か明確でないので、感情移入しづらくなる。

 

 

 

 

要がみせる憂いのある表情は、ショタ好きを満足させるだろう。

あと小学校のシーンに登場する、クラスメートの女子たちがやたら可愛い。

おねショタもロリもいける、めづらしい作家だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『群狼のプリンセス』 第14章「伯母」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 ジュンは五反田の小料理屋「さんだんか」にタクシーで乗りつける。存在を知らされたばかりの伯母が経営する店らしい。二階建ての家屋の一階にあり、外観からも手狭だとわかる。

 引き戸をひらき、暖簾をくぐる。

 L字のカウンターに椅子が七つならぶ。奥の席でひとりの男性客がビールを飲んでいる。

 割烹着をきた女将が、包丁をにぎったまま言う。

「いらっしゃいませ……あら」

 女将の手がとまる。ジュンの顔に見覚えがあるらしい。テレビに出る前から。

「失礼ですが」ジュンが言う。「仲村圭子さんでいらっしゃいますか」

「そうよ」

「あたしは暁ジュンと言います。日野源三さんの紹介で来ました。話をうかがいに」

「水臭い態度はやめて。私はあなたのおばさんよ。血がつながってるの」

「えっと」

「おどろいたわ。まさに生き写しね。親子でこんなに似るものなのね」

「仲村さんはあたしの母のお姉さんですか」

「当然よね」

「一度も聞いたことがないんです」

「はあ……かわいそうな子」

 圭子は首を振り、煙草に火をつける。仕草が母にそっくりだ。圭子が肉親だとジュンも確信する。

 奥の客に圭子が言う。

「坂本さん。悪いんだけど、そのビール飲み終わったら店を閉めていいかな」

 客が答える。「親戚の子かい」

「積もる話がありそうなんでね」

 圭子はジュンに席をすすめ、メニューをわたす。小料理屋は初めてなのでジュンは戸惑う。

 圭子が言う。「御馳走するから、好きなのを頼みなさい」

「ありがとうございます。なにかお薦めがあれば」

「だし巻き卵が人気かな」

 圭子は氷のはいったグラスをふたつ並べ、片方になみなみとウィスキーを注ぐ。

 圭子が尋ねる。「あなたはいけるクチかしら?」

「ほとんど飲めないんです」

「嘘でしょ。洋子は大酒飲みだったのに」

「朝から飲んでましたね」

「有り体に言って、アル中だったわね。あれが母親じゃ、あなたも苦労したでしょう。まあ私も遠慮なくいただくけど。そうゆう家系なのよ」

「どうぞ」

「素面で話せることじゃないもの」




 だし巻き卵が配膳される。ジュンは箸でつまむ。

 左手で口許をおさえ、つぶやく。

「なにこれ」

 圭子が尋ねる。「お口に合わなかったかしら」

「ケーキみたい。甘くて柔らかくて」

「砂糖は使ってないけどね」

「すごくおいしい」

「よかった」

 ジュンは卵焼きを夢中でほおばる。母親がまったく台所に立たなかったのもあり、手料理的なものに飢えていたのかもしれない。

 できたてのゴーヤーチャンプルーをカウンターにおき、圭子が尋ねる。

「で、なにを話せばいい?」

「両親がおばさんの存在すら教えてくれなかったのが理解できないんです」

「そりゃ、隠したいからよ」

「なぜですか」

 圭子は天井にむけ煙を吐く。両目を閉じている。

「すこしは遠慮してほしいわ。四十三のオバサンでも、触れられたくない過去があるの」

「すみません」

「ま、あんまりにも哀れだから教えたげるわよ。そうね、私と洋子が沖縄から上京したとき……」

「沖縄?」

「渡嘉敷島。沖縄の慶良間諸島にある」

「ママの実家は山梨です。何度か遊びに行きました」

「それは偽の実家。結婚前に養子縁組したの。過去を消すために」

「そんなバカな」

「ねえ。バカげた結婚。暁大五郎の差し金よ。ほんとに嫌な男。ただ洋子も乗り気だったけど」

「なぜ」

「薄々察してるでしょ。私たちはウリをしてたの」

「え」

「売春って意味よ。体を売ってお金を稼ぐ仕事。知り合った当時、暁大五郎は警官だった。ミイラ取りがミイラになった様なものね」

「…………」

 ジュンの手から箸が落ちる。食べかけのゴーヤーチャンプルーの皿をひたすら見つめる。

 深くため息をつき、圭子が言う。

「両親を愛してるのね。嘘つきのろくでなしでも」

「…………」

「タクシーを呼ぶから、きょうは帰りなさい。あなたの心はきっと真実に耐えられない」

 ジュンは歯を食いしばり、顔を上げる。表情筋をこわばらせ、泣くのをこらえる。

「大丈夫です」

「断言できる。知らない方が幸せよ」

「あたしは明日まで生きられないかもしれない。知らないまま死ぬのはいやです」




 大五郎と洋子の結婚生活は不幸だった。

 一年後にジュンが生まれても、和解へむかう兆しは微塵もなかった。

 おそらく洋子は孤独だったのだ。過去を否定して生きるのは、現在に否定されるより辛い。

 洋子は酒に溺れた。朝昼晩、のべつ幕なしに飲んだ。みづからの義務を果たさず、家庭が荒んでゆくにまかせた。

 大五郎は日本人男性の平均より、寛容なところがあった。家事はすべて自分でした。しかし育児をないがしろにするのは許容できなかった。ふたりは猛烈にケンカした。不毛な毎日だった。

 浪費とゆう、あらたな悪癖が洋子の生活にくわわった。服、アクセサリー、食べ歩き、そして男。

 洋子はまだ二十代で、とびきりうつくしかった。夫があたえてくれない愛情を、肩代わりする人間は街にいくらでもいた。せっかく売春稼業から足を洗ったのに、もっとひどい淫蕩に耽った。

 大五郎と洋子は離婚すべきだった。一日も早く。しかし警察官である大五郎は、経歴に傷をつけたくなかった。偽装のため妻に養子縁組までさせた。躊躇するのも無理はなかった。

 大五郎は暴力によって鬱憤を晴らした。のちに新種の格闘技を開発したほどの男だ。陰湿に効果的に痛めつけた。ケンカはおもに家でふたりだけのときに発生したが、ジュンの眼前でおこなわれる場合もあった。娘に深刻なトラウマをあたえた。

 ジュンは洋子より大五郎に親しみを感じていた。大五郎はある意味理想の父親であり、洋子はある意味最悪の母親だった。両親がケンカするとき、きっかけはかならず洋子だった。洋子が訴える不平不満は、まるで筋が通ってなかった。父が怒るのも当然だと、子供ながらにジュンはかんがえた。

 勿論、暴力は解決にならない。でも幼いジュンにできることはなかった。止められるなら止めたかったが、なにをすればよいのかわからなかった。

 八年前、ジュンが十歳のとき、大五郎はアカツキセキュリティを設立した。会社は成功し、暁家に富をもたらした。だが夫婦の不和はますます高じた。

 事件は五年前におきた。

 洋子は大五郎に内緒で、仲人である日野源三と会った。姉の圭子とは絶縁状態にちかく、相談相手になるまっとうな人間は日野しか知らなかった。洋子は日野に、家庭内暴力の被害を訴えた。夫に離婚を承諾させる手立てはないか尋ねた。

 日野は驚愕した。嫉妬をおぼえるほど幸福そうな家族の、悲惨な内情に。

 日野は親身になって洋子を助けた。傷ついた女に感情移入した。しすぎたとも言える。日野は四十九歳で独身だった。洋子の魅力に抵抗できなかった。日野と洋子は男女の関係になった。

 すぐに大五郎は、この目に余る不倫を知った。部下に身辺調査させてたのかもしれない。妻が仲人と寝るのは、あきらかに人倫に背いている。大五郎は元上司の日野を脅迫した。日野はまだ警察にいた。バラされたらキャリアは終わる。さらに大五郎はある提案をした。

 妻を殺してくれ。あの女は、関わるものすべてを不幸にする。俺がバカだった。日野さんの忠告にしたがい、結婚などしなければよかった。たしかに娼婦は、死ぬまで娼婦なのだ。

 やってくれたら、あなたをアカツキセキュリティに迎え入れる。異例の待遇で。日野さんはこの会社で、格闘技の研究だけしてくれればいい。俺と日野さんが組めば、最強の部隊をつくれる。

 一緒に天下を取ろう。

 日野に選択肢はなかった。すくなくともそのときはそう思えた。

 暁一家が旅行で訪れた沖縄のホテルのプールで、日野は洋子を殺した。

 赤子の手をひねる様なものだった。




 ジュンは話を聞きながら脇腹をかかえ、笑いをこらえていた。

 なかなかケッサクなストーリーだ。家庭内暴力などの実話もまじえ、それなりに説得力がある。でもメインプロットが荒唐無稽すぎる。

 あのやさしいパパが、ママを殺すなんて。

 こんな場末の店で酔客の相手をしていると、与太話が上手になるんだろう。わざわざ五反田くんだりまで来たが、とんだ無駄足だった。

 自分のグラスにウィスキーを注ぎ足しつつ、圭子が言う。

「信じてないのね」

「そうゆうわけではないですが」

「日野さんが私に直接言ったことよ。もしこれが嘘だとして、だれが得をするの」

「話に無理がありすぎます。證拠がないかぎり信じられません」

「あなた、本当に洋子が溺死したと信じてる? 知ってるでしょ。魚より泳ぎが得意なのよ」

「お酒を飲んでたし、事故の可能性が高いのでは」

「慶良間の女はプールで溺れたりしない。絶対にね。海人の血がながれてるの」

 圭子はジュンをじっと見つめる。かすかにほほ笑んでいる。ジュンは目をそらす。

 やめてくれ。

 同情なんていらない。

 ジュンは両肱をカウンターにつく。視界が暗転する。思考だけが意識を支配する。

 師匠は言った。

 お嬢は俺を恨むだろう。暁のことも。

 そうだ。恨むに決まってる。

 母を殺した人間を恨まずにいられるか。

 でもそれが、最愛の人の罪だとしたら。

 あたしはどの立場にたてばいいんだ。




 ジュンは自分の背中が擦られるのを感じる。

 いつの間にか圭子が隣に座っている。割烹着を脱いでいる。

「わかるわ」圭子が囁く。「真実を受け容れられなくて、心が悲鳴をあげてるのね」

「悲しいことなのに、悲しくないんです」

「いいのよ。それでいいの」

「父を恨めないんです。どうしても憎しみの感情をもてない。そんな自分が許せない」

 圭子はジュンの両手をにぎる。はらはらと涙をこぼしている。

「私が上京したのは、父の借金を返すためだったの。最低の父親だった。働きもせず酒浸りで、家族に暴力をふるった。そんな人間のために、体を売ってお金を稼いだの。でね、ようやく去年死んでくれた。電話で聞いて、飛び上がって喜んだわ」

「ひどい」

「でもひさしぶりに里帰りして、父の死に顔を見たら、私号泣しちゃったのよ。自分でもびっくり」

「…………」

「あなたと私は同類ね。血筋かしら。それとも女って皆こうなのかな。まったく損な役回りよね」

 ジュンは首を横に振る。途切れがちな声で、弱々しくつぶやく。

「あたしは強くなりたかった。ママを守れるくらい強く。でも力をつけたとき、ママはいなかった」

「自分を責めないで」

「でも」

「悔やんでるのは洋子の方よ。疎遠になってたけど、電話するといつもあなたのことを話してた」

「なんて」

「お母さんらしいことをしてやれなくて、申し訳ないって。母親失格だったけど、あの子なりに苦しんでいた。わかってあげて」

「…………」

「いいところもあったでしょう。飲んでなければ陽気だし」

「はい……美人でおしゃれで、友達を家に呼ぶと羨ましがられました」

「外ヅラだけはいいからね」

 ジュンは胸をおさえる。息切れして喘ぐ。

「すみません。あたし帰ります」

「泣いていいのよ」

「ママ」

「好きなだけお泣きなさいな」

「ママ……ママぁ」

 ジュンは浅葱色の着物をきた圭子にしがみつく。初対面の相手なのに、取り乱して号泣した。




 ひとしきり涙をながしたジュンは立ち上がり、身支度をととのえる。パーカーのファスナーを、ぐっと首元まで上げる。体に力がみなぎるのを感じる。

 後片づけの手をとめ、圭子が尋ねる。

「もう帰る?」

「はい」

「私は二階にも部屋を借りてて、そこに住んでるの。狭いけど、ひとりくらい泊まれるわ」

「これ以上長居できないんです」

「警察に追われてるのね」

「知ってたんですか」

「においでわかる。むかし似た様な境遇だったから。お金はあるの?」

「大丈夫です」

 圭子はレジの引き出しをあけ、一万円札を十枚ほど取る。

「もってきなさい」

「ありがとうございます。かならず返しにきます」

「性格は洋子に似ず、律儀なのね」

「へへっ」

「あなたはまだ若いから、母親が恋しいときもあるでしょう。いつでもいらっしゃい。私でよければ話し相手になるわ」

「はい。またお邪魔するとおもいます。ひょっとしたらおばさんが、あたしの唯一の家族になるかもしれないので」

 圭子はいぶかしげに片眉を上げる。発言の真意は、ジュンの引き締まった表情から読み取れなかった。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

藤沢カミヤ『みのりと100人のお嬢様』

 

 

みのりと100人のお嬢様

 

作者:藤沢カミヤ

掲載誌:『月刊まんがくらぶ』(竹書房)2017年‐

単行本:バンブーコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

主人公「佐倉みのり」は猛勉強の末、名門女子高に合格した。

ただ、お嬢さまとゆう存在への憧れが強すぎ、

はじめてリアルごきげんようを聞いただけで卒倒する。

 

 

 

 

みのりにとって夢の国だが、通ってみると勝手がちがう。

お嬢さまから見ると庶民がめづらしいのか、たちまち学内の人気者に。

 

 

 

 

放課後、同級生をつれてハンバーガーショップへ。

店員さんもお嬢さまの魅力に恍惚となる。

 

 

 

 

本作のキャラクターは、外見はともかく、性格はテンプレから逸脱。

たとえば幼なじみの「まほ」はムッツリ系で、

顔には出さないがみのりに性的に執着する。

 

親友なのにその思いに気づかない、みのりの天然ぶりがおかしい。

 

 

 

 

ハズしのテクニックがところどころで炸裂する。

球技大会のドッジボールでのコスチュームとか。

きららや電撃とはことなる、竹書房の4コマらしさをアピール。

 

 

 

 

猫耳幼女の『ねこのこはな』や、料理の『なぎさ食堂』など、

ギミックをもちいた過去作とくらべて設定はベタだが、

それがむしろ、クセのない絵柄なのにどことなく変な、

作者の個性を際立たせており、強くおすすめできる。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ  百合 

今井大輔『こちら、あたためますか?』

 

 

こちら、あたためますか?

 

作者:今井大輔

発行:実業之日本社 2018年

レーベル:リュエルコミックス

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なぜかコラボに積極的な、コンビニのローソンを舞台とするオムニバス。

店員がスムージーをおごったりとか、ちょっとした事件がおこる。

 

 

 

 

本作の特徴は、各話ごとの視点移動。

店員と客、または客同士、ことなる立場から共通のストーリーをかたる。

 

スムージーをおごられたOLが、そっけない態度だったのは、

彼氏にフラれたばかりで、親切心を素直に受け容れられなかったから。

 

 

 

 

各話は、狭い店舗の中だけでほぼ完結する。

手法的にミニマリズムの極限にちかい。

ただ、時間をさかのぼるエピソードもある。

 

 

 

 

ぐるぐると視点や時間がめぐるなか、人間関係が変容してゆく。

ブアイソOLが最終話でみせる笑顔がチャーミング。

表情の切り取り方にうならされる。

 

 

 

 

当ブログでは以前、フランス人JKが活躍する『クロエの流儀』をとりあげた。

『古都こと』の評判もいいし、今井大輔がユニークな作家なのはあきらか。

アートっぽいけど、サブカルに寄りすぎない、折衷的な作風が興味ぶかい。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『群狼のプリンセス』 第13章「ハチ公前」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 ジュンはマンションの外へ出る。嫌な汗をかいたので暑苦しい。パーカーのファスナーをおろす。

 真向かいにローソンがある。店の前にミニバンのトヨタ・アルファードが駐まっている。スーツを着たふたりの男がガードパイプに寄り掛かり、ジュンが出てくるのを待っていた。運転席で望遠レンズつきのカメラをのぞく者もいる。

 ふたりのうち茶髪の方が、車道をわたりジュンにちかづく。トレンチコートを着た方は、アルファードのそばで煙草をくわえ、形勢をうかがう。

 わざとらしく両手を広げ、茶髪が言う。

「暁ジュンさん。いくつか質問がある」

 ジュンは無視して世田谷駅へむかう。

 茶髪は所属機関を明かさない。逮捕権をもたない公安調査庁あたりか。いまアカツキの本部を突っついている警視庁を出し抜いたのだろう。

 ターゲットが手負いになった途端、様子見してた連中が殺到する。分け前にあづかろうと。

 先回りしたトレンチコートが、横断歩道の前で行く手をふさぐ。

 鋭い口調でジュンが尋ねる。

「なにか」

 トレンチが答える。「山咲亮子とゆう人が君の会社にいるね」

「それで」

「知ってることがあれば教えてくれ」

「山咲さんは死んだ。あたしが殺した」

「おい」

「別に隠してないし。その日に自分で通報したから、警視庁に記録が残ってるはず」

「大胆な発言だ。つづきは場所をかえて聞こう」

「ことわる」

 脇をすり抜けようとしたジュンを、トレンチは抱きかかえる。ビルの壁へ押しつける。ヤニ臭い口許に冷笑がうかぶ。いかに難癖をつけてターゲットを足留めするかが、調査官の腕の見せどころだ。

 身じろぎもせず、ジュンが言う。

「あたしが誰かわかってるのか」

「犯罪者だ」

「泣く子も黙る一番隊隊長」

「御大層な名乗りだな」

「あたしとやる気なら結構だが、あとで泣きごとを言うなよ。ここでも、地獄でも」

 反射的にトレンチが身を離す。公安関係者のあいだで、品川埠頭での死闘は語り草になっている。

 暁ジュンは、もはや狼士などではない。

 鬼だと。

 この女は、男ふたりくらい平気で殺す。

 ジュンは顔色を変えず、ふたりの調査官に背をむけ、駅へいそぐ。




 東急線に乗り、ジュンは渋谷駅にきた。教授が設立したと言う新会社のオフィスがある。

 凝った照明がおちる構内は、近未来的な印象がただよう。改札口周辺の混雑に揉みくちゃにされる。身を隠すのには好都合だ。しかしジュンは悪寒に襲われ、柱にもたれてうづくまる。

 津波の様に邪念が押し寄せる。

 狩人でなく、同類の。

 黒のレザージャケットを着たふたりの男が通りすぎる。アカツキの制服だ。ジュンを探していたらしく、振り返って目ざとく発見する。ふたりとも五番隊所属の隊員だ。いや、元五番隊と言うべきか。

 ジュンは唇を噛む。

 五番隊か……きついな。

 ジャキン!

 ふたりは即座に特殊警棒を抜いた。

 ジュンは座ったまま反応しない。防禦姿勢も取らない。

 身内で争いたくない。父や日野が苦心して育てた部隊が、内紛で崩壊するのは見るに忍びない。

 それに、おたがい手の内を知り尽くしている。戦闘は陰惨になるだろう。

 右の男が、ジュンのパーカーのフードをつかむ。力づくで引っぱり上げる。その動きに合わせてジュンは立つ。よろけた男の喉を押し、後頭部を床へ打ちつける。

 ジュンは反転する。軸足を踏みこみ、右足を浮かせる。敵は左腕をあげる。ジュンの代名詞であるハイキックを防ごうとして。

 それはフェイントだった。大技に頼るなと言う、師匠である日野の教示にしたがった。

 顎を引いたジュンは、髪の生え際の部分を敵の鼻にめり込ませる。

 わづか三秒。

 地下二階に変化はない。男ふたりが昏倒している以外は。通行人は、目にも留まらぬジュンの攻撃に気づかない。

 プリーツスカートの埃をはらい、ジュンはつぶやく。

 頭つかえよ。

 ハイキックなんて出すわけねーだろ。きょうはレギンス穿いてないんだから。あたしのパンツは彼氏にしか見せないっての。




 階段を駆け上がり、ハチ公前広場にでる。

 夕日が道玄坂のむこうに落ちようとしている。スクランブル交叉点は血の色に染まる。

 ざわめきが徐々に引いてゆく。群衆は異変を察知した。前から四人、左右からそれぞれ三人、五番隊の隊員がせまる。特殊警棒をかまえている。隊長である日野の姿も見える。白髪頭のてっぺんが禿げ上がっている。ひとりだけコーデュロイのジャケットを着て、腕を組む。

 交番には警官が詰めてるはずだが、動きはない。

 ジュンは虚ろな目で夕空を見上げる。

 さすがに終わった。

 師匠もいるなら、あきらめるしかない。一対一でさえ、手も足も出ないのだから。せめて、さっき警棒を奪っておけばよかった。

 ジュンはパーカーのポケットから、黒い折りたたみナイフを出して握る。ブレードは閉じたまま。戦闘でもちいると、ブレードが勝手に閉じて指を切る恐れがある。柄についたガラスブレイカーで、打撃武器として使う。

 ジュンは深呼吸する。

 流れろ。水の様に。流れつづけろ。

 正面へ突進する。ジュンは完全に包囲されてはいない。階段を引き返せば逃げられるが、訓練どおりに体が動く。動物的な本能かもしれない。

 ナイフの柄で打つ。左右に払う。ナイフを握った拳でストレートを突き出す。

 ジュンは顔をしかめる。拳への負担が重い。昼間に池袋でも戦った。疲労が全身をつつむ。

 カチッ。

 親指でナイフのブレードを出す。指が切断されるリスクを避けるより、殺傷力を優先する。

 右側の三人が襲いかかる。

 ジュンは水平に、上向きに突く。フォアハンドで、バックハンドで切り裂く。額を切って視界不良にし、腿を切って行動不能にする。ミカにおそわったテクニックを応用した。

 のこりは左の三名と日野だけ。

 三名は新人だ。あっけなく斃れた味方をみて恐怖し、後ずさる。瞬きもせず震える。

 ジュンはひとりひとりに視線を合わせ、いたづらっぽくほほ笑む。

 三名はバラバラの方向へ逃げ散った。




 ハチ公前広場に拍手が響く。

 うなづきながら日野が言う。

「すばらしい」

 ジュンはハンカチで血糊をぬぐい、ナイフをポケットにしまう。警戒は解いてない。道具をつかったところで、どうにかなる相手ではない。

 髪をかき上げ、ジュンが答える。

「師匠はあたしとやらないんですか」

「俺は転職してない」

「なら助けてくださいよ」

「必要だったのか」

「あたりまえでしょ。一対十とか無理ゲーだし」

「お嬢がやりすぎたら止めるつもりだった。だがよく力をコントロールした。上達したな」

 んなわけねーだろ!

 ジュンは内心で叫ぶ。

 師匠にまで裏切られたと思ったとき、どれほど悲しかったか。

 なにが、やりすぎたら止めるだ。冗談じゃない。ちょっとはこっちの気持ちもかんがえろ。

 もうつきあいきれない。

 ジュンは、闘争の世界から引退する腹を決めた。

 監獄へぶちこまれそうな身の上だが、運よく切り抜けられたら、大学に通いたい。もともと看護師に興味があったし、そのための貯金もある。

 やるかやられるかの日々はうんざりだ。

 完全に心が折れた。




 ジュンと日野が、交番の方をむく。

 それは同時だった。濁った気の流れを感じた。

 二十メートル先で、ひとりの制服警官が右膝をつく。左膝で左腕を支え、S&Wのリボルバーを構える。ふつう交番勤務の警官は、警告なしに精密射撃の姿勢など取らない。般若党だろう。遅れてさらに二名がS&Wを抜く。

 ジュンの体は鉛みたく重い。

 逃げるべきなのはわかるが、生存本能がはたらかない。渋谷の街で武装したテロリストに追われたら、巻きこまれる一般市民は数十名に達するはず。

 そこまでして生きる意味はあるのか。

 日野が疾駆する。

 ジュンは、五十四歳の日野が走る姿をはじめて見た。鷲の様に跳躍した日野は、警官の顔面頭蓋を右膝で砕く。

 目を丸くしてジュンはつぶやく。

 飛び膝蹴りかよ。

 大技に頼るなと口を酸っぱくして言うくせに。

 別の警官がS&Wを、日野の背中へ突きつける。ジュンは加勢しようと駆け出す。

 日野は振り向きざま、敵の右腕を左腋で挟む。右手をVの字にして両目を突く。容赦なくえぐる。警官が悲鳴をあげる。

 眼球を潰された警官を、日野はのこったひとりに向けて押し出す。ふたりの警官がもつれあう。倒れた瞬間、S&Wが暴発する。

 ズダーン!

 日野はうつむき、腹をおさえる。

 ジュンが叫ぶ。「師匠!」

「お嬢は離れてろッ!」

 そう叫んだ日野は、警官に馬乗りになる。警官は寝たままジュンに発砲する。外れた。日野は咆哮し、警官の顔を殴る。警官が日野を撃つ。一発、二発、三発。日野は銃撃を黙殺し、いっそう激しく殴りつづける。警官の顔面が醜く変形する。

 合気道に励んでいたとは思えない、気違いじみた攻撃性だ。

 ジュンは小柄な日野を引き剥がす。仰向けに寝かせる。銃創は胸部に三つ、腹部に一つ。

 自力の手当ては不可能だ。ジュンは借り物のアイフォンを操作する。逮捕されるのは仕方ない。師匠の命には代えられない。

 ジュンの腕をつかみ、喘ぎながら日野が言う。

「五反田に『さんだんか』とゆう小料理屋がある」

 ジュンが答える。「しゃべらないで」

「そこに仲村圭子とゆう女がいる」

「女の話は後にして」

「お嬢の伯母にあたる。会いに行け」

「は? あたしにおばさんなんていない」

 ジュンは日野と目を合わせる。皺だらけの日野の顔が苦痛でゆがむ。その痛みは肉体的なものか、心理的なものか。

「すまない」日野が言う。「罪を告白する勇気がなかった。謝ってすむ問題ではないが、心から申し訳なくおもう」

「なに言ってるの。変だよ」

「お嬢は俺を恨むだろう。暁のことも。ただただ申し訳ない。後悔しかない」

「師匠、しっかりして! 師匠!」

 武術を極めようと生きた男は、最後の弟子に看取られて死んだ。その死に顔は険しかった。




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ヨゲンメ『稲川さんの恋と怪談』

 

 

稲川さんの恋と怪談

 

作者:ヨゲンメ

掲載誌:『電撃マオウ』(KADOKAWA)2017年‐

単行本:電撃コミックスNEXT

[ためし読みはこちら

 

 

 

ベレー帽は漫画家のエムブレム。

「稲川マツ」はまだ16歳だが、プロとして活躍している。

うしろの「内未(うつみ)一」は漫画家志望で、編集部に持ち込みをしたら、

同い年の稲川さんをアシスタント先として紹介された。

 

 

 

 

稲川さんは取材をおもんじるタイプの作家。

ジャンルはホラー。

そして天才なので、作画の手助けは必要ない。

 

つまりアシスタントの仕事は、心霊スポットを調査すること。

 

 

 

 

稲川さんはメカクレで無表情だが、怪奇現象を目にするとハイになる。

クーデレやヤンデレ好きは陥落必至のキャラだ。

 

 

 

 

作者ヨゲンメは、電撃系では『GOD EATER』のコミカライズを担当している。

キャラ造形のクオリティが高い。

たとえば栗羊羹が大好物で、天然で巨乳な編集者とか。

 

 

 

 

4話に登場する、JK霊感アイドル「月野真璃」もいい。

にぎやかで華やかな作風だ。

 

 

 

 

ホラー要素はちょっとした味つけで、ラブコメの比重が高い。

稲川さんがこんなに可愛いんだから、しかたない。

あまり怖くないが、別の意味でドキドキする。

 

 

 

 

主人公が、オカルト方面への動機づけが不十分だったり、

能力的に平凡なのでアクションの見せ場がなかったり、

題材を活かしきれてない気はするけれど、

それはレーベルカラーでもあって、要するにかわいいは正義。





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