冬目景『空電ノイズの姫君』2巻
空電ノイズの姫君
作者:冬目景
掲載誌:『月刊バーズ』(幻冬舎)2016年-
単行本:バーズコミックス
やはり冬目景のかすれた様なタッチには独特のものがあり、
自分で描いてるらしい背景も相まって、キャラクターに実在感をあたえる。
やわらかく透明な雰囲気がいい。
本作は、くせっ毛のギタリスト・マオと、黒髪の歌い手・夜祈子の、
ダブルヒロインを看板とする青春音楽ものである。
なにげない仕草や表情がすてきだ。
ふたりのイチャイチャは、『イエスタデイをうたって』のハルと、
『羊のうた』の千砂の夢のコラボとゆう感じで、初期作のファンにはたまらない。
そしてガールズトークのたのしさは、冬目景が時代に先んじてそなえた特質で、
このマイペースな作家をサバイブさせた主要因だろう。
ストーリー進行は本作もゆっくり。
夜祈子はいづれマオのバンドに加入するのだろうが、作者は焦らす。
もっと序盤から見せ場をつくればいいのに。
ただ、対バンでマオを打ちのめすイケメンガールズバンドなど、
「音楽」とゆうテーマを推し進め、世界観を着実に構築してはいる。
「冬目景ルネッサンス」は本物みたいだ。
まぶしい夏服セーラーがそれを物語っている。
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尾崎かおり『金のひつじ』1巻
金のひつじ
作者:尾崎かおり
掲載誌:『月刊アフタヌーン』(講談社)2017年-
単行本:アフタヌーンKC
寡作で知られる尾崎かおりの新作は、青春もの。
6年ぶりに再会した幼なじみ4人の、すれちがいがテーマだ。
テイストは、かなり苦い。
優しいまま、純粋なままであり続けるのを許さない世界に対し、
主人公は不器用なやりかたで抵抗をみせる。
絵柄はときに愛らしく、ときに繊細で、ときに大胆で、
それに瑞々しくかつ老練、まあ達者な画力と言うほかない。
舞台は山麓の田舎町。
地元民は方言をつかわない。
制服のない高校が多いと聞く長野県かとおもったが、
上京するのに飛行機に乗ってたので違うかな。
意図して読者の地理的追求をはぐらかす描写もある。
本作はいじめのシーンがくりかえし描かれる。
作者の表現力が卓抜すぎ、読んでいて息がつまる。
いじめる側にも共感できるので、やるせないのだ。
だから主人公の母親のかわいらしさにホッとする。
酔っぱらって帰宅した母が、たいして現実味のない再婚話を口にする。
転校先で問題をかかえる主人公は、つれない態度をとる。
呆けた感じの横顔、冷蔵庫の閉まる音……空気感が圧倒的。
家出してやってきた渋谷で、別居中の父と会う。
作者は情報を出し渋りつつ、それでも個性をきわだたせる。
1巻時点では、「ギター」とゆうギミックを十分いかせてない印象。
別にバットや竹刀やバイオリンでもいい気がする。
ゆえにもうひとつのギミック、つまり「いじめ」が目立ちすぎ、読後感が重い。
尾崎かおりに代わる作家などいないので、
これはこれとして受けとめるしかないけれど。
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鍵空とみやき『ハッピーシュガーライフ』7巻
ハッピーシュガーライフ
作者:鍵空とみやき
掲載誌:『月刊ガンガンJOKER』(スクウェア・エニックス)2015年-
単行本:ガンガンコミックスJOKER
ラッキーセブンの7巻で、ようやく本作は謎をときあかす。
16歳のころの、しおの母親「ゆうな」が登場。
ぼんやりした夢見がちな少女だった。
思い描いたのと真逆の出会いがおとづれる。
少女漫画的なボーイ・ミーツ・ガールの残酷なパロディ。
なすすべなく、ゆうなが顛落してゆくさまを、
セリフや具体的描写を削った省略語法でえがく。
背筋が寒くなる読書体験をもたらす。
そこまで登場人物を追い詰めるのかと、作者に感心したり、怖くなったり。
地獄の日々で、さらに底が抜け、かぎりない絶望が襲う。
浴槽にころがるハサミに象徴される情け容赦なさにふるえる。
それでも、母の心が完全に壊れてしまうのを心配する、
しおの純粋な瞳には甘ったるいやさしさがあって、
陰惨な暴力が荒れ狂っても、やはり本作は本質的に百合漫画とおもう。
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冬目景『黒鉄・改』
黒鉄・改
作者:冬目景
掲載誌:『グランドジャンプ』(集英社)2016年‐
単行本:ヤングジャンプ・コミックス
鉄仮面をかぶった異形の渡世人、「鋼の迅鉄」を主人公とする股旅もの。
改題してのシリーズ再始動で、なんと17年ぶりの単行本となる。
さすがは大先生、圧倒的なマイペースっぷり。
迅鉄のライバル、「紅雀の丹(まこと)」。
凛々しいたたずまいと、中身のポンコツさは相変わらず。
それにしても、女子の立ち姿一枚で空気をかえる手並みのあざやかさ。
超マイペースでも人気が落ちないわけだ。
股旅ものゆえチャンバラは多いが、あまり巧くない。
なにせフリーターや美大生のモラトリアムな日常をえがくのが得意な作家だ。
とは言え、森のなかでの縦位置の構図など、感心させられるシーンもある。
オリジナルの記憶がおぼろげなので比較できないが、
迅鉄が狂気にとらわれるときの幻想的な描写などは、
作者の長いキャリアが反映されてるはずで、みごたえあり。
初期作品を髣髴させる『空電ノイズの姫君』もふくめ、
作者はあらたなサイクルへゆるやかに漕ぎ出した。
冬目景ルネッサンスの到来だ。
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みどりわたる『うちの姉ちゃんときたら!』
うちの姉ちゃんときたら!
作者:みどりわたる
掲載サイト:『COMICメテオ』(フレックスコミックス)2017年‐
単行本:メテオコミックス
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高校1年の「賢人」が外で弁当をたべていたら、
背後から美脚のニーハイ少女に空中技をしかけられる。
それは1歳年上の姉である「美姫」だった。
賢人は毎朝、姉の朝食と弁当をつくらされている。
ずる賢い美姫は弟を洗脳し、奴隷に仕立てあげた。
友達からは、美人の姉との生活をうらやましがられるが、
本人の不満は爆発寸前。
いつも賢人は3人組でつるんでるが、ほかの2人にも姉がいる。
ツインテの「茜」は小柄で、小学生にしか見えない。
作者も弟がいる姉なのだとか。
僕は男兄弟なのでくわしくないが、フィクションはともかく現実では、
「姉弟」の方が「兄妹」よりしっくりくるらしい。
暴君にふりまわされつつも、まんざらじゃない日常をえがく。
僕は好みじゃないのでピックアップしなかったが、
おっとり系の「栞」がタイプとゆう読者もいるだろう。
これら3組の姉弟がシャッフルされてくっついたりして、ドラマが進行する。
作者の初単行本だが、絵柄が華やかで視覚的にたのしめる。
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アッチあい『このかけがえのない地獄』
このかけがえのない地獄
作者:アッチあい
発行:KADOKAWA 2018年
レーベル:電撃コミックスNEXT
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新人作家による短篇集。
表題作では、深夜の公園に魔法少女があらわれる。
衣装のクオリティは高いが、動きがぎこちない。
その正体はコスプレ女子高生。
わざわざトイレで着替え、魔法少女になりきる。
量感がありつつ、骨格も感じさせる、身体描写がすばらしい。
「変身」を目撃したクラスメートがおり、話はややこしくなる。
収録作は全体的に、思春期女子の日常の空虚さをえがく作風だ。
「死んでいる君」はオカルトもの。
ニュースで報道されている自殺したばかりのJKが、
血まみれになって、見ず知らずのサラリーマンの部屋にいた。
「空から美少女が降ってくる」系テンプレのパロディみたいで、おもしろい。
「4番目のヒロイン」はメタフィクションもの。
どの短篇もプロットは単純でなく、ヒネリがきいている。
扉絵のキャッチーさと対照的で、でもこのアンバランスが魅力かもしれない。
「黙れニート」は、作者の知人をモデルにしたニート讃歌。
罪悪感に苛まれつつ、おのれの道を模索する主人公が印象的で、
社会風刺と言ってよい深みがある。
収録5作すべてにとびきりの美少女が登場するけれど、
キラキラまぶしい面でなく、孤独な影が強調されている。
才能ゆたかな作家なのは、この一冊で十分つたわる。
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永野梨花/小山力也『くぅが上から失礼します』
くぅが上から失礼します
作画:永野梨花
原作:小山力也
掲載誌:『月刊少年チャンピオン』(秋田書店)2017年‐
単行本:少年チャンピオン・コミックス
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牛乳を飲みすぎて電柱より背が高くなってしまった「くぅ」の、
田舎でのほのぼの女子校生ライフをえがく漫画。
新人コンビによる初単行本だ。
ちなみに原作担当の小山力也は、同姓同名の声優とは無関係とか。
校舎に入れないくぅは、外に机と椅子をおいて授業をうける。
からかわれはするが、普通に学校になじんでいる。
くぅは、同級生の佐々木君に片思い中。
こいつがかなりの天然たらしで、いいキャラしている。
身長差を物ともせず、まっしぐらにラブコメ路線を突っ走る。
原作つきであるせいか、各エピソードはこなれており、人情味にとむオチがつく。
ただ、くぅの体格のインパクトが大きすぎなのは否定できない。
ガールズトークが一瞬でおわったり。
JKものの定番、お弁当回。
自称少食のくぅの弁当箱は、丸焼きのブタが4頭はいっていた。
やはりラブコメ漫画と言うより、ギャグ漫画かな。
たとえ背景とのバランスがちょっとおかしくても、
制服JKがそこにいれば絵になると痛感させられる作品だ。
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くりもとぴんこ『あたしの家庭教師がショタなんだけど』
あたしの家庭教師がショタなんだけど
作者:くりもとぴんこ
掲載誌:『ヤングエースUP』(KADOKAWA)2017年‐
単行本:角川コミックス・エース
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20歳の派手めのギャル「水緒」が、片思いの相手に気に入られたくて、
隣にすむ男子小学生「要」に受験勉強を助けてもらうとゆうコメディ。
タイトルが基本設定を言い尽くしている。
水緒は9歳年上だが、要はIQ200。
シーソーみたく上下関係がコロコロいれかわる。
緊張感をはらんだやりとりが見どころ。
あかるく素直な水緒は、愛嬌のあるキャラだ。
ご近所さんにも積極的に話しかけるが、外見が目立つので敬遠されることも。
後書きによると、これまで作者はおもに4コマ漫画を発表してきたが、
投稿時代はずっと少女漫画を描いていた。
急に泣き出すなど、水緒の情緒不安定な様子をうまく表現している。
本作は「ザッピング」とゆう手法を採用している。
水緒と要のあいだで1話ごとに視点をいれかえ、おなじエピソードを語る。
諸刃の剣と言えるだろう。
立場がかわるたび新発見があり、ストーリーの深みは増すが、
だれが主人公か明確でないので、感情移入しづらくなる。
要がみせる憂いのある表情は、ショタ好きを満足させるだろう。
あと小学校のシーンに登場する、クラスメートの女子たちがやたら可愛い。
おねショタもロリもいける、めづらしい作家だ。
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藤沢カミヤ『みのりと100人のお嬢様』
みのりと100人のお嬢様
作者:藤沢カミヤ
掲載誌:『月刊まんがくらぶ』(竹書房)2017年‐
単行本:バンブーコミックス
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主人公「佐倉みのり」は猛勉強の末、名門女子高に合格した。
ただ、お嬢さまとゆう存在への憧れが強すぎ、
はじめてリアルごきげんようを聞いただけで卒倒する。
みのりにとって夢の国だが、通ってみると勝手がちがう。
お嬢さまから見ると庶民がめづらしいのか、たちまち学内の人気者に。
放課後、同級生をつれてハンバーガーショップへ。
店員さんもお嬢さまの魅力に恍惚となる。
本作のキャラクターは、外見はともかく、性格はテンプレから逸脱。
たとえば幼なじみの「まほ」はムッツリ系で、
顔には出さないがみのりに性的に執着する。
親友なのにその思いに気づかない、みのりの天然ぶりがおかしい。
ハズしのテクニックがところどころで炸裂する。
球技大会のドッジボールでのコスチュームとか。
きららや電撃とはことなる、竹書房の4コマらしさをアピール。
猫耳幼女の『ねこのこはな』や、料理の『なぎさ食堂』など、
ギミックをもちいた過去作とくらべて設定はベタだが、
それがむしろ、クセのない絵柄なのにどことなく変な、
作者の個性を際立たせており、強くおすすめできる。
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今井大輔『こちら、あたためますか?』
こちら、あたためますか?
作者:今井大輔
発行:実業之日本社 2018年
レーベル:リュエルコミックス
なぜかコラボに積極的な、コンビニのローソンを舞台とするオムニバス。
店員がスムージーをおごったりとか、ちょっとした事件がおこる。
本作の特徴は、各話ごとの視点移動。
店員と客、または客同士、ことなる立場から共通のストーリーをかたる。
スムージーをおごられたOLが、そっけない態度だったのは、
彼氏にフラれたばかりで、親切心を素直に受け容れられなかったから。
各話は、狭い店舗の中だけでほぼ完結する。
手法的にミニマリズムの極限にちかい。
ただ、時間をさかのぼるエピソードもある。
ぐるぐると視点や時間がめぐるなか、人間関係が変容してゆく。
ブアイソOLが最終話でみせる笑顔がチャーミング。
表情の切り取り方にうならされる。
当ブログでは以前、フランス人JKが活躍する『クロエの流儀』をとりあげた。
『古都こと』の評判もいいし、今井大輔がユニークな作家なのはあきらか。
アートっぽいけど、サブカルに寄りすぎない、折衷的な作風が興味ぶかい。
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ヨゲンメ『稲川さんの恋と怪談』
稲川さんの恋と怪談
作者:ヨゲンメ
掲載誌:『電撃マオウ』(KADOKAWA)2017年‐
単行本:電撃コミックスNEXT
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ベレー帽は漫画家のエムブレム。
「稲川マツ」はまだ16歳だが、プロとして活躍している。
うしろの「内未(うつみ)一」は漫画家志望で、編集部に持ち込みをしたら、
同い年の稲川さんをアシスタント先として紹介された。
稲川さんは取材をおもんじるタイプの作家。
ジャンルはホラー。
そして天才なので、作画の手助けは必要ない。
つまりアシスタントの仕事は、心霊スポットを調査すること。
稲川さんはメカクレで無表情だが、怪奇現象を目にするとハイになる。
クーデレやヤンデレ好きは陥落必至のキャラだ。
作者ヨゲンメは、電撃系では『GOD EATER』のコミカライズを担当している。
キャラ造形のクオリティが高い。
たとえば栗羊羹が大好物で、天然で巨乳な編集者とか。
4話に登場する、JK霊感アイドル「月野真璃」もいい。
にぎやかで華やかな作風だ。
ホラー要素はちょっとした味つけで、ラブコメの比重が高い。
稲川さんがこんなに可愛いんだから、しかたない。
あまり怖くないが、別の意味でドキドキする。
主人公が、オカルト方面への動機づけが不十分だったり、
能力的に平凡なのでアクションの見せ場がなかったり、
題材を活かしきれてない気はするけれど、
それはレーベルカラーでもあって、要するにかわいいは正義。
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