まつだこうた『骸積みのボルテ』
骸積みのボルテ
作者:まつだこうた
掲載サイト:『デンシバーズ』(幻冬舎)2017年‐
単行本:バーズコミックス
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憎悪と暴力が陰鬱に垂れこめる、ダークファンタジーである。
その少女は、不死身の肉体と、復讐に燃える執念から、
「骸積みのボルテ」と呼ばれ、おそれられている。
主人公の「コア・ボルテ」は遊牧民族の一員。
服装もモンゴルっぽい。
作品世界では、ヨーロッパ風の帝国が勢力をほこる。
その容姿はイヌまたはオオカミの様だ。
コアは、家族や同胞を殺した帝国軍と、その司令官「イリア」を恨んでいる。
化物じみた戦いぶりで、血祭りにあげてゆく。
コアは単なる殺戮機械ではなく、ときおり年頃の少女らしい面をみせる。
なまなましい戦闘シーンの合間にえがかれる、
コロコロかわいらしい絵柄による日常芝居でホッとする。
コアの武器は剣だが、敵は近代的な銃を装備している。
本作はガンアクションとしても魅力的だ。
評論っぽく客観的に言うと、詰めこみすぎとはおもう。
じっさいこのレビューも、世界観の説明に相当分量をとられた。
読者はじっくりストーリーに浸るまえに、膨大な情報を処理する必要がある。
でも僕は、こうゆう攻めてる作品は好きだ。
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瀬田せた『百合鍵 ~先輩の秘密をのぞいてみた~』
百合鍵 ~先輩の秘密をのぞいてみた~
作者:瀬田せた
発行:KADOKAWA 2018年
レーベル:MFC
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新人OL「麻生」が、きびしいけど美人な先輩を好きになる物語。
ジャンルで言うと社会人百合だ。
麻生は先輩とおなじ社員寮に住んでいる。
合鍵をわたされており、ペットの餌やりをたのまれたりする。
麻生はある夜、誕生日に残業した先輩をはげましたくて、
サプライズでプレゼントをあげようと部屋で待ち伏せする。
先輩の帰宅が早すぎ、声をかけるタイミングを見失った麻生は、
おもわずベッドのなかに隠れる。
後輩に見られてると知らず、普段クールな先輩は浮かれ騒ぐ。
意外な一面を知ってうれしい様な、知りたくなかった様な。
ひと暴れして疲れた先輩は、ベッドに倒れる。
麻生への思いをつぶやく。
きびしく接するのは、愛情ゆえだった。
美人でおしゃれで有能なカンペキ人間とおもわせて、
ときどき残念な部分が出る先輩のキャラがいい。
端麗な絵柄と、誇張のきいたギャグのギャップが強烈。
こちらは恋敵となる「黒須」。
先輩の大学以来の友人だ。
まるでファッション雑誌から飛び出した様な、バリキャリ女子の着こなしが満載。
作者はあとがきによると会社員らしい。
そりゃ舞台設定がしっかりしてるわけだ。
ちょっと高級なフレグランスの匂いただよう、
セーラー服では表現できない、オトナの百合を堪能できる。
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みもと『コイゴコロクリップ』
コイゴコロクリップ
作者:みもと
発行:一迅社 2018年
レーベル:百合姫コミックス
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百合のオムニバスである。
読後感は『あの娘にキスと白百合を』にちかい。
巻頭の「1クリップ」が白眉だろう。
入学初日、黒髪でマジメそうな「蒼海」がクラスの注目をあつめる。
そのとびぬけた美貌ゆえ。
しかし、自己紹介で化けの皮が剥がれる。
蒼海はとんでもないポンコツ少女だった。
一般に百合漫画の絵柄は、流麗なのや可憐なのが多いが、
本作はちょっとクセがあり、そこがおもしろい。
ギャルっぽい容姿の「紅」は世話焼きな性格で、蒼海の面倒をみる。
中庭に弁当を落としたと言うので、一緒にさがしてあげたり。
あたえる愛は、もとめる愛でもある。
庇護している様で、依存している。
オセロみたくあざやかに盤面が急転。
心理戦とゆう百合漫画の醍醐味を、本作はたのしめる。
こちらはドロドロ病んでいる「クリップ3」。
収録作のストーリーは、ほとんどギミックにたよらない。
少女たちは感情をぶつけあい、原始的な本能をさらけだしてゆく。
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『スロウスタート』第7話
スロウスタート
監督:橋本裕之
7話絵コンテ:舛成孝二
7話演出:篠原正寛
原作:篤見唯子
シリーズ構成・7話脚本:井上美緒
脚本:井上美緒、山下憲一
キャラクターデザイン:安野将人
音楽:藤澤慶昌
アニメーション制作:A-1 Pictures
放送期間:2018年1月‐
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7話は、栄依子が誕生日をむかえる。
トレードマークのヘアピンをみんなから贈られ、頭がにぎやかに。
榎並先生がくれたのは、手持ちのゼムクリップ。
したたかな栄依子は即興でハートマークに変える。
Bパートは推理もの風にはじまる。
ある朝先生が自宅で目覚めると、異変がおきていた。
教え子である栄依子が、かわいい服を着て床で眠っている。
両手を縛られたまま。
いったいなにがあったのか。
栄依子の證言により、真相が判明する。
先生は友人と飲んだ帰りに栄依子と出くわし、マンションまで送ってもらった。
泥酔してたとは言え、教え子に介抱されたとはみっともない。
栄依子はブアイソな先生に興味津々で、やたらちょっかいを出し、からかう。
冠もそうだが、「自分」をもっていて、芯の強いタイプが好きらしい。
人当たりがよくて、つい他者の期待に応えすぎ、
流されがちな彼女にとって、うらやましい性格だから。
先生は栄依子を嫌いではないが、可愛げがないとおもっている。
高1にしては言動が大人びすぎ、あつかいづらい。
でもそこは亀の甲より年の功、帰りぎわの栄依子に「接触」し、意表をつく。
衣擦れの音のエロティシズムは、百合アニメの醍醐味。
栄依子役の嶺内ともみはド新人だが、達者な演技に舌を巻く。
沼倉愛美との心理戦は、見ごたえ聞きごたえたっぷり。
ぬーさんは、『ハナヤマタ』で豊口めぐみとぶつかり合った様に、
今度は新人に胸を貸している。
アニメっていいなとおもわされる。
情動はさらに昂まってゆく。
栄依子は、先生がつけているネックレスに目をとめる。
それは、アクセサリー制作が趣味の栄依子がつくったもの。
母が経営する雑貨店で、たまたま先生は買ったらしい。
こんな偶然って、あるんだな。
とにかく、めちゃくちゃうれしい。
栄依子の感情がどっと心に流れこみ、花名はおもわず泣き出す。
全然大事件じゃないし、自分は直接関係ないのに。
だからこそ、この涙はうつくしい。
自信家ぽくて、話が上手で、だれとでも仲良くなれる栄依子だが、
本当に自分が好きなものを人に知られるのは恥づかしかった。
隠してたつもりはないが、言えなかった。
でも、花名には言えた。
正反対とおもわれたふたりは、実は似たもの同士だった。
こちらは若手声優の、瑞々しいアンサンブルをたのしめる。
名作『ハナヤマタ』に匹敵する、心洗われるエピソードだ。
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馬あぐり『純情乙男マコちゃん』
純情乙男マコちゃん
作者:馬あぐり
掲載サイト:『Hugピクシブ』(ピクシブ)2017年‐
単行本:リラクトコミックス(フロンティアワークス)
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主人公は24歳の「鎌田まこと」。
男だがかわいいものが好き。
子供服のデザイナーになりたくアパレル企業に就職したのに、
趣味とかけ離れたセクシー系ブランドでディストリビューターをつとめる。
女らしさのかけらもない先輩にイビられる毎日だ。
たまったストレスは仕事帰りに発散する。
鎌田の趣味は女装。
男子トイレでロリータファッションに着替え、美少女「マコちゃん」に変身する。
マコちゃんの出没先はライブハウス。
とあるバンドのベーシストを熱心に追いかけている。
「女装バンギャ」とゆう珍しい題材をあつかう作品だ。
本作は、馬あぐりの初連載で初単行本。
画力が高く、描き分けは男女ともにうまいし、また世界観の面でも、
アパレル業界やライブハウスなどをリアルに表現している。
さらに、追っかけられる「ダイちゃん」側の事情をコミカルに描くあたり、
ギャグも得意とするオールラウンドプレイヤーである様だ。
マコは幼いころから、かわいい女子に憧れていた。
なのでメンズファッションにとことん疎い。
「あたしのブランドの価値を下げるな」と、デザイナーの「リカ」になじられる。
主人公に共感できるし、脇役もキャラが立っている。
力のある作家なのはまちがいない。
以上のレビューを読むと、マコの恋愛観を知りたくなるのではないか。
つまり、この主人公は性的に男が好きなのかどうか。
1巻時点では、はっきりしない。
新人にありがちな、好物を詰めこんで曖昧化したプロットなのは否定できない。
だがそれでもマコが、性別とか性愛とか関係なく、
ひたすら可愛さを追求するとゆう、自身の哲学をかたる場面は感動的。
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『三ツ星カラーズ』 リーダー大勝利!
三ツ星カラーズ
監督:河村智之
原作:カツヲ
シリーズ構成:ヤスカワショウゴ
キャラクターデザイン:横田拓己
音楽:未知瑠
アニメーション制作:SILVER LINK.
放送期間:2018年1月‐
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カラーズの三人はOPで、それぞれ13着の衣装を着る。
結衣は赤で、リボンやフリルがついた可愛い系。
さっちゃんは黄で、キュロットなどのボーイッシュ系。
琴葉は青で、帽子やワンピを好むクール系。
39着のデザインをおこす作業を想像すると、気が遠くなる。
第6話でカラーズは、人類が滅びたあとでも生き残れるよう、
食べられる雑草をもとめ上野公園をさがしまわる。
細密に描かれた背景が見どころだ。
本作の主人公は結衣となっているが、パワーバランスは押されぎみ。
天衣無縫で傍若無人なさっちゃんと、
3DSを手にしながら毒舌と暴力をくりだす琴葉が相手では、
どうしても結衣の優等生キャラは見劣りする。
6話のハイライトは「弱点探し会議」。
メンバーがおたがいの弱点を指摘しあうことを通じて、
暇つぶし……じゃなかった、成長の糧とする。
琴葉の弱点の番になった。
らしくもなく、さっちゃんが遠慮しており、不穏な空気に。
言ってはいけない弱点があるらしい。
それは、実は琴葉はゲームが下手なこと。
いつもゲームばっかりやってるのに。
しかも下手である自覚がない。
天使の笑顔で、まるで悪意なく、友人のプライドを粉砕する。
結衣は、1クールの折り返し地点となる6話で、
本作がだれの物語なのかをはっきりさせた。
6話の演出は、ベテランの川畑えるきん。
『この美術部には問題がある!』や『ガヴリールドロップアウト』など、
電撃コミックスが原作のアニメは質が高い印象がある。
なぜかは見当もつかない。
むしろおしえてほしい。
僕にできるのは、「アニメ化」とゆう過小評価されがちな、
ひとつのクリエイティビティを、ひたすらたのしむことだけ。
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ハトポポコ『みなクズ with 男子校系男子』
みなクズ with 男子校系男子
作者:ハトポポコ
発行:KADOKAWA 2018年
レーベル:電撃コミックスEX
なんだかんだでハトポポコは社会派だとおもう。
単に奇を衒ったシュールギャグを提示するだけでなく、
シンプルな絵柄のむこうで、現実的問題が蠢いている。
『みなクズ』のテーマは「クズ」である。
JKたちは何がクズかを理解し、自分の内面にあるクズを発見し、
そしてそれと向き合い、大切に育ててゆこうとする。
彼女らは別にクズな行為はしない。
いつもとおなじく教室でダベるだけ。
それでも黒々とした怖さが読者をとらえる。
1巻完結である本書は、『男子校系男子』を併載している。
キャラクターの性別はちがえど、こちらもクズ道を追求する。
たとえば、校則違反にならない程度に過激なファッション。
ハトポポコの作品は、当たり障りが「ある」。
読者を抑圧から解放するとゆう、ギャグ漫画本来の使命を果たしている。
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川浪いずみ『籠の少女は恋をする』
籠の少女は恋をする
作者:川浪いずみ
掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2017年‐
単行本:電撃コミックスNEXT
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全寮制の女子高を舞台とする百合漫画だ。
僕の分類で言えば「クラシック百合」に相当するだろうか。
お姉さまがいて、挨拶はごきげんよう、みたいなアレだ。
作者の初単行本らしい。
背景描写が特別に巧みとゆうわけではないが、
むしろスカスカな感じが、漠然とした不安をかきたてる。
主人公の千鶴は、転校初日に身体検査をうける。
膣鏡をつっこまれ、処女であるかどうか確かめられる。
そこは特殊な学園だった。
少女たちは、裕福な男に「高値で売れる」よう教育されている。
「実技」の授業もある。
買われたあと役立つスキルを、女同士でみがく。
でも、ただの勉強では終わらないかもしれない。
同室の「冬子」に買い手がつき、卒業式がおこなわれる。
ウェディングドレスみたいな衣装を着せて、おくりだす。
悪趣味だと眉をひそめる生徒もいる。
いささか型破りな世界観の作品にちがいない。
やや理論的に本作を分析してみよう。
物語にはかならず「嘘」がある。
むしろ嘘があった方がおもしろいが、その数はひとつであるべき。
本作は「娼婦を育成する教育機関」と「百合」とゆう、二つの嘘をついている。
こんな学校があってもいいけど、でもそこで百合なんてあるかな?
読者はそう疑問におもう。
プロットに負荷がかかりすぎ、ギシギシ悲鳴をあげている。
ただ上掲画像からわかる様に、はっと息をのむ瞬間が本作にはいくつかある。
そのページをひろいあつめ、脳裏でつなぎあわせつつ読む作品だろう。
百合漫画は本来、そうゆうものではないか。
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柳原満月『クレオパトラな日々』
クレオパトラな日々
作者:柳原満月
掲載誌:『月刊まんがライフオリジナル』(竹書房)2016年‐
単行本:バンブーコミックス
「上杉謙信女性説」をあつかう『軍神ちゃんとよばないで』は単行本4巻をかぞえ、
スピンオフ『ここから風林火山』も発表するなど歴史系萌え4コマを得意とする、
柳原満月の新作の題材は、古代エジプトの女王クレオパトラ。
このジャンルにぴったりの人選なのはたしか。
18歳で王位につき、「絶世の美女」の代名詞として知られるから。
重野なおき『信長の忍び』は4月からアニメ3期がはじまるし、
すでに歴史系萌え4コマは根強い人気を獲得している。
ただこれまでは、日本が舞台のものが多かったとおもう。
文化に隔たりがある海外は、「日常」をえがくのが困難だからか。
柳原は、たとえばクレオパトラをファッションリーダーとみなし、
バステト女神にならった「人類最古のネコ耳女子」とするなど、
神話と政治がごっちゃになった古代エジプトをうまく捌いている。
ぐうたらな虎千代と対照的に、クレオパトラはしっかり者。
血を分けたきょうだいとの衝突をもおそれず、王朝を守ろうとする。
知的で凛々しく、うつくしい。
妹のアルシノエは、性格に裏表あるツインテキャラ。
生涯にわたってクレオパトラと骨肉の争いをくりひろげる。
クレオパトラは弟と結婚した。
プトレマイオス朝では普通だが、実際に性交渉をおこなったかは不明らしい。
近親婚が遺伝病をひこおこすのは常識であり、
跡継ぎは婚姻外から調達したとかんがえるのが妥当な様だ。
もちろん当事者としては、いろいろ思うところがあったろう。
弟マグスは、クレオパトラに恋い焦がれている。
姉はそれを知ってか知らずか、思わせぶりな態度で翻弄する。
なにせ舞台がエジプトなので、衣装は露出多め。
お得意の女体描写がさえわたる。
まだあたらしい「世界史系萌え4コマ」とゆうジャンルにおいて、
世界観は早くも決定版と言える完成度をほこっている。
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