『群狼のプリンセス』 第12章「指名手配」


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 ジュンは中野駅北口につながるアーケード、中野サンモール商店街を歩く。天井に張られたアーチ型のガラスから、午後の陽光がさしこむ。ヲタとミカはほかの隊員と合流するよう、千駄ヶ谷の本部へむかわせた。

 ジュンの半歩後を、細身の白いワイシャツを着た教授がしたがう。会社以外で話したいと言われたので、ジュンが店を指定した。執事喫茶を訪問できなかった憂さを晴らす目的もある。

 複合施設の中野ブロードウェイに入ってすぐに、目当てのメイドカフェ「ねこまたかふぇ」がある。身長百五十センチ弱のメイドが、看板を持って立つ。吊り目で、猫耳をつけている。

 一番人気のメイドであるヒミコだ。ジュンに気づき満面の笑みをみせ、手を振る。細い目がさらに細まり、八重歯が光る。

 ヒミコは先に教授だけ店に入れ、通路でジュンに言う。

「じゅんじゅん! ついに彼氏できたにゃ!?」

 ジュンが答える。「ちげーよ。会社の同僚だよ」

「でも男子と一緒に来るのはじめてにゃ」

「前にチャンコやヲタをつれてきたろ」

「あの人たちはなんか違うにゃ」

「教授だって全然好みじゃねーよ」

「じゅんじゅんは理想が高すぎるにゃ」




 ねこまたかふぇは照明がほの暗く、床は板張りでシックな内装だ。二十あるテーブルの六つが埋まっている。客の男女比は半々くらい。それぞれの卓にメイドがつき、会話をたのしむ。

 ジュンは教授の向かいに座る。宇治抹茶ラテを注文する。短いスカートのメイドがもってきたのを、ストローで音をたてて啜る。

 あたりを見回し、教授が言う。

「お嬢はよく来るのか」

「たまに」

「マジメな話をしたいんだが、ここじゃ落ち着かない。秘密も守れるかどうか」

「こうゆう店だからいいのさ。客にスパイが紛れてても、メイドカフェに不慣れなのがわかる。女の子もちゃんとしてるから安心して」

 有名店でトップに立つには、高度な接客能力が必要だ。ルックスだけじゃ務まらない。さっきヒミコは、ジュンがニュースに出たことにあえて触れなかった。仕事の話を好まないのを知ってるので、空気を読んだ。この業界で言う「神対応」ってやつだ。

 ジュンが続ける。

「で、会社はどうなってんの」

 教授がスマートフォンの画面をみせる。東京都区部の地図が映る。移動する数十の点の隣に、隊員の氏名が表示される。三色の点は千駄ヶ谷へ集結している。隊員の動向をモニターできるシステムがあるとは、ジュンも知らなかった。

「池袋でのテロ発生をうけて、全隊員に召集がかかった。三十分後には行動可能だろう」

「警視庁から要請は?」

「さあ。俺は把握してない」

「副社長でしょ」

「そのことでお嬢に話がある」

 教授は見慣れないロゴが印刷された名刺を、ジュンにむけてテーブルの上をすべらせる。「石田隼一」とゆう教授の実名の上下に、「代表取締役CEO」「トーキョー・ネットワーク・セキュリティ」と記されている。

 鼻に皺をよせ、ジュンが尋ねる。

「なにこれ」

「俺は昨日付けでアカツキを退社した。いまは新しく興した会社のCEOだ。お嬢にも一応挨拶しておこうと思ってな」

「全然聞いてない」

「そうなのか。社長には前から言ってるが」

 教授の話しぶりは単調で、緊張感がない。嘘をついてる様にみえない。

 ジュンの脳内のサイレンが耐えがたいボリュームになる。頭が割れそうだ。

「新会社は、サイバー戦に特化した組織になる。四番隊と五番隊が行動をともにする。これから歩む道は別々になるが、お嬢もがんばってくれ」

「なに言ってんの。それって裏切りでしょ」

「笑顔で送り出されるとは思ってない」

 ジュンは抹茶ラテのタンブラーをおく。また握り潰してケガする恐れがある。

 教授の意図が読めない。いまだに彼が黒幕とは思えない。だれかに操られてるはずだ。

 顔を醜く歪め、ジュンが言う。

「会社をふたつに割れば、戦争になる。パパとあたしにケンカを売って、ただで済むと思ってるのか」

「俺を粛清するんだろう。山咲みたいに」

「…………」

「状況をわかってないのはお嬢の方だ。社長と連絡とれないんじゃ?」

「パパになにかしたら許さない。その場で殺す」

「そう怖い顔をするな。俺も社長の行方は知らない。逃げ足が速い人だからな。おおかたフィリピンにでも飛んだんじゃないか」

 ジュンの体が火照り、口のなかが乾く。防衛本能がはたらいている。

 守らないと。

 自分と、一番隊の部下たちを。

 ヒミコが隣のテーブルを拭いている。ジュンと教授の会話が険悪なのを心配し、聞き耳を立ててるのがわかる。

 ジュンは軽くウィンクする。ヒミコは例の神対応で、トレーの上の食器をテーブルへ落とす。

 背後の騒音に教授が気をとられた隙に、ジュンはスマートフォンをタンブラーへぶちこむ。人差し指で抹茶ラテをかき混ぜる。

 教授が叫ぶ。「あっ!」

「なんでアカツキを辞めた人間が、機密情報にアクセスしてんだ。なめんじゃねえ」

「くだらん小細工は時間稼ぎにならないぞ」

「そのわりに慌ててたけどな」

 ジュンは鼻を鳴らし、腰を上げる。ヒミコが立っているレジへむかう。吊り目を細め、イタズラな笑みをうかべている。

 小柄なヒミコの頭を撫で、ジュンが言う。

「ひみたん、ナイスアシスト」

「お安い御用にゃ」

「あたしは先に出るけど、お会計済ませとく。あのテーブルにコーヒーのおかわり持ってって」

「かしこまりにゃん」

「ついでに毒を盛ってくれると助かる」

「さすがに当店に毒物は置いてないにゃ」

「今度作り方をおしえるよ」




 ジュンは早足でサンモールを引き返し、駅へむかう。池袋でのテロのせいか、普段とくらべ人通りはすくない。それでも市民は暴力に屈せず、生活や仕事や娯楽にいそしむ。

 見知った顔の男が、改札口の手前の柱に寄りかかってスポーツ新聞を読んでいる。黒のスーツにノーネクタイ。血色は悪い。三番隊隊長の藤田一だ。元警視庁の刑事で、アカツキでは捜査方面で活躍している。

 藤田は新聞紙を折りたたみ、団扇の様に自分をあおぐ。監視のないところで情報交換したいので、ついてこいとゆう合図だ。ジュンと目を合わせることなく、藤田は狭い路地へはいる。

 ジュンはアイフォンのスリープを解除し、だれかから呼び出しを受けたふりをする。距離をおいて藤田を追う。藤田に尾行がついてないか確認する。自分たちは監視されている、とゆう前提で行動するのが鉄則だ。

 庶民的な飲食店が立ち並ぶ、曲がりくねった横丁をぬけ、ふたりは立ち飲み屋にはいる。日は暮れてないが、年配の男たちが安酒を飲んでいる。奥のカウンターで藤田はハイボールを、ジュンはノンアルコールビールと焼鳥を注文する。

 手羽先を頬張りつつ、ジュンが尋ねる。

「パパについて何かわかった?」

 藤田はスマートフォンを取り出し、音声を再生する。父・大五郎の低めの声が聞こえる。電話での会話らしい。

 二杯めのハイボールを注文し、藤田が言う。

「秘書の伊東の携帯に、一時間前かかってきた」

「盗聴?」

「社長も承知してることだ。書類を持ってくるよう指示している。部下に尾行させたが、見失った。伊東のやつ、やる。秘書風情がデカを撒くとは」

「あの人は元内調だよ」

「知らなかった」

 ジュンはパーカーの袖で、潤んだ目をぬぐう。

 よかった。

 無事でいてくれた。まったく事情はわからないけど、それだけでいい。

「そうとわかれば」ジュンが言う。「飲み食いしてる場合じゃない。本部でみんなと合流しよう」

「それは無理だ」

「なんで」

「アカツキセキュリティはもう存在しない」

「はぁ?」

「警視庁がアカツキの免許を取り消した。いま本部は強制捜査されている」

「冗談やめて」

 見ず知らずの他人を演じるのを忘れ、ジュンは隣の藤田を凝視する。凶悪犯罪者を相手にしてきた強面の顔に、悲しげな色がうかぶ。同情している。

「お嬢」藤田が言う。「会社より自分の心配をしろ。きょうあすにも逮捕状が発付されるらしい。元同僚から直接聞いた」

「もうやめて。知りたくない」

「いや、知る必要がある。お嬢と社長は、殺人と殺人教唆の罪で指名手配される見込みだ」

 ジュンは不快な汗を流しつつ、カウンターに両手をつく。ほかに気にする者は店にいない。よくある痴話喧嘩とおもわれている。

 なにがどうなってんだ。

 昨日だぞ。

 松平首相が、あたしに泣いて感謝したのは。

 これが政治か。

 これほど醜い世界なのか。

 ジュンは喉の奥から声をしぼりだす。

「帰らなきゃ……パパに会わなきゃ」

「やめておけ。警察がもう動いてるかもしれない。身柄を取られたら一巻の終わりだ」

 藤田はジャケットの内ポケットから、銀行の封筒と中古のアイフォンをだす。

「三十万ある」藤田が言う。「携帯はプリペイドSIMが挿さってる。しばらく潜伏するんだ。部隊は俺と支倉がどうにかする」

「お金なんていらない」

「しっかりしろ。あんたなら切り抜けられる。お嬢まで消えたら、アカツキは空中分解だ」

「おうちへ帰る……きっとパパもいる」

 おぼつかない足取りで、人や壁にぶつかりつつ、ジュンは店の外へ出る。

 藤田は舌打ちする。

 彼はジュンに一目置いていた。十代の女ではあるが、格闘の技術や統率力はずば抜けている。

 しかしジュンが背伸びできたのは、父親の支えがあってこそだった。




 ジュンはタクシーを拾い、世田谷のマンションにたどりつく。

 監視を免れる手順はふまない。そんな余裕はない。視界がぼやけるなか、エントランスホールを通り抜ける。

 管理人室から、白髪の男が声をかける。

「ジュンちゃん!」

 ジュンが振り向くと、管理人はびくっと身構える。般若みたいな顔をしてたらしい。

「大丈夫かい」管理人が続ける。「ひどい顔色をしてるよ」

「すみません、ちょっと急いでるんで」

「さっきお父さんが来られたよ。すぐ出てったが」

「本当ですか!?」

「入院してたらしいけど、すっかり元気そうだった。よかったね、ジュンちゃん」

「なにかあたしに言ってませんでしたか」

「荷物を運び出すのを手伝ったよ。パソコンとか日本刀とか。秘書の人と一緒に」

「え、なんで」

「おじさんにはわからないねえ。とにかく忙しそうだった。商売繁盛でなによりだね」

「ありえない」

「ジュンちゃん、管理人室で休んでいきなさい。女房にお茶を出させるから」

「絶対ありえない」

 よろめいたジュンは、御影石の壁に背をもたせる。ずるずる滑って尻餅をつく。

 父・大五郎はジュンを避けている。いつでもコンタクトできるのに、わざと時間をずらしている。

 朝からジュンの脳裏で反響する、ひとつの仮説が證明された。

 あたしはパパに捨てられた。

 ひとり娘なのに。

 唯一の家族なのに。

 あたしが悪い子だからか。

 心当たりは山ほどある。

 バカだし、わががままだし、いやな仕事はサボるし、部下にはパワハラと批難されるし、コンカフェで無駄遣いしてるし。

 それに人殺しまでしたし。

 でも、パパのためだったのに。

 パパに褒められたくてしただけなのに。

 そうだ。

 パパがあたしを嫌いになるわけない。あの世界一優しいパパが。みんなに呆れられるくらい、仲良しな父娘なんだから。

 でも、人の心は変わる。

 管理人が受話器にまくし立てているのが見える。救急車を呼んでるのだろう。

 公的機関に接触するのはマズい。

 立て。立ち上がれ。

 狩人たちがやってくる。

 いま檻に閉じこめられるわけにいかない。

 逃げろ。

 そして徹底的に抗戦しろ。




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瀬田せた『百合鍵 ~先輩の秘密をのぞいてみた~』

 

 

百合鍵 ~先輩の秘密をのぞいてみた~

 

作者:瀬田せた

発行:KADOKAWA 2018年

レーベル:MFC

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新人OL「麻生」が、きびしいけど美人な先輩を好きになる物語。

ジャンルで言うと社会人百合だ。

 

 

 

 

麻生は先輩とおなじ社員寮に住んでいる。

合鍵をわたされており、ペットの餌やりをたのまれたりする。

麻生はある夜、誕生日に残業した先輩をはげましたくて、

サプライズでプレゼントをあげようと部屋で待ち伏せする。

 

 

 

 

先輩の帰宅が早すぎ、声をかけるタイミングを見失った麻生は、

おもわずベッドのなかに隠れる。

後輩に見られてると知らず、普段クールな先輩は浮かれ騒ぐ。

意外な一面を知ってうれしい様な、知りたくなかった様な。

 

 

 

 

ひと暴れして疲れた先輩は、ベッドに倒れる。

麻生への思いをつぶやく。

きびしく接するのは、愛情ゆえだった。

 

 

 

 

美人でおしゃれで有能なカンペキ人間とおもわせて、

ときどき残念な部分が出る先輩のキャラがいい。

端麗な絵柄と、誇張のきいたギャグのギャップが強烈。

 

 

 

 

こちらは恋敵となる「黒須」。

先輩の大学以来の友人だ。

 

まるでファッション雑誌から飛び出した様な、バリキャリ女子の着こなしが満載。

 

 

 

 

作者はあとがきによると会社員らしい。

そりゃ舞台設定がしっかりしてるわけだ。

 

ちょっと高級なフレグランスの匂いただよう、

セーラー服では表現できない、オトナの百合を堪能できる。





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みもと『コイゴコロクリップ』

 

 

コイゴコロクリップ

 

作者:みもと

発行:一迅社 2018年

レーベル:百合姫コミックス

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百合のオムニバスである。

読後感は『あの娘にキスと白百合を』にちかい。

 

巻頭の「1クリップ」が白眉だろう。

入学初日、黒髪でマジメそうな「蒼海」がクラスの注目をあつめる。

そのとびぬけた美貌ゆえ。

 

 

 

 

しかし、自己紹介で化けの皮が剥がれる。

蒼海はとんでもないポンコツ少女だった。

 

一般に百合漫画の絵柄は、流麗なのや可憐なのが多いが、

本作はちょっとクセがあり、そこがおもしろい。

 

 

 

 

ギャルっぽい容姿の「紅」は世話焼きな性格で、蒼海の面倒をみる。

中庭に弁当を落としたと言うので、一緒にさがしてあげたり。

 

 

 

 

あたえる愛は、もとめる愛でもある。

庇護している様で、依存している。

オセロみたくあざやかに盤面が急転。

心理戦とゆう百合漫画の醍醐味を、本作はたのしめる。

 

 

 

 

こちらはドロドロ病んでいる「クリップ3」。

収録作のストーリーは、ほとんどギミックにたよらない。

少女たちは感情をぶつけあい、原始的な本能をさらけだしてゆく。





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『スロウスタート』第7話

 

 

スロウスタート

 

監督:橋本裕之

7話絵コンテ:舛成孝二

7話演出:篠原正寛

原作:篤見唯子

シリーズ構成・7話脚本:井上美緒

脚本:井上美緒、山下憲一

キャラクターデザイン:安野将人

音楽:藤澤慶昌

アニメーション制作:A-1 Pictures

放送期間:2018年1月‐

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7話は、栄依子が誕生日をむかえる。

トレードマークのヘアピンをみんなから贈られ、頭がにぎやかに。

榎並先生がくれたのは、手持ちのゼムクリップ。

したたかな栄依子は即興でハートマークに変える。

 

 

 

 

Bパートは推理もの風にはじまる。

ある朝先生が自宅で目覚めると、異変がおきていた。

 

 

 

 

教え子である栄依子が、かわいい服を着て床で眠っている。

両手を縛られたまま。

いったいなにがあったのか。

 

 

 

 

栄依子の證言により、真相が判明する。

先生は友人と飲んだ帰りに栄依子と出くわし、マンションまで送ってもらった。

泥酔してたとは言え、教え子に介抱されたとはみっともない。

 

 

 

 

栄依子はブアイソな先生に興味津々で、やたらちょっかいを出し、からかう。

冠もそうだが、「自分」をもっていて、芯の強いタイプが好きらしい。

人当たりがよくて、つい他者の期待に応えすぎ、

流されがちな彼女にとって、うらやましい性格だから。

 

 

 

 

先生は栄依子を嫌いではないが、可愛げがないとおもっている。

高1にしては言動が大人びすぎ、あつかいづらい。

でもそこは亀の甲より年の功、帰りぎわの栄依子に「接触」し、意表をつく。

 

衣擦れの音のエロティシズムは、百合アニメの醍醐味。

 

 

 

 

栄依子役の嶺内ともみはド新人だが、達者な演技に舌を巻く。

沼倉愛美との心理戦は、見ごたえ聞きごたえたっぷり。

ぬーさんは、『ハナヤマタ』で豊口めぐみとぶつかり合った様に、

今度は新人に胸を貸している。

アニメっていいなとおもわされる。

 

 

 

 

情動はさらに昂まってゆく。

栄依子は、先生がつけているネックレスに目をとめる。

 

 

 

 

それは、アクセサリー制作が趣味の栄依子がつくったもの。

母が経営する雑貨店で、たまたま先生は買ったらしい。

 

 

 

 

こんな偶然って、あるんだな。

とにかく、めちゃくちゃうれしい。

 

 

 

 

栄依子の感情がどっと心に流れこみ、花名はおもわず泣き出す。

全然大事件じゃないし、自分は直接関係ないのに。

だからこそ、この涙はうつくしい。

 

 

 

 

自信家ぽくて、話が上手で、だれとでも仲良くなれる栄依子だが、

本当に自分が好きなものを人に知られるのは恥づかしかった。

隠してたつもりはないが、言えなかった。

でも、花名には言えた。

正反対とおもわれたふたりは、実は似たもの同士だった。

 

 

 

 

こちらは若手声優の、瑞々しいアンサンブルをたのしめる。

名作『ハナヤマタ』に匹敵する、心洗われるエピソードだ。





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『群狼のプリンセス』 第11章「サンシャイン60」


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 午前十時。自宅のリビングルーム。

 ジュンは白い革張りのソファに身を沈め、テーブルへ両足を投げ出す。あたりに紙が散らばる。般若党について分析するレポートを書いた。そろそろ武闘派でなく、知性派として認められたくて。

 品川埠頭での戦闘は致命的打撃となったはずだが、用心に如くはない。ジュンは独自の観点にもとづき、次にテロを警戒すべき地域として、四谷・池袋・練馬の三か所を挙げた。

 あえて書かなかった情報もある。警視庁は品川のアマゾンの倉庫から、二トンもの違法ドラッグを押収した。気になる噂がある。その成分がマーナガルムとおなじだと。ジュンは、自身が服用するマーナが違法なのは薄々察していたが、テロ組織と関係があるなら感心しない。父に直接たしかめたい。

 でも、父がいない。きょう帰宅予定の父が。

 短文の「帰りが遅くなる。すまない」とゆうメールだけとどいた。

 ありえない。

 ジュンは右親指の爪を噛む。

 いつも過剰なほど、こちらが申し訳なくなるほど、娘への気配りを欠かさない父だ。勿論多忙だから、予定のキャンセルは珍しくない。でも、かならず丁寧なフォローがはいる。メールでひとこと謝って、それでおしまいなんて記憶にない。

 きょうは大切な日なのに。

 あたしの誕生日なのに。

 パパにかぎって、こんなのはありえない。

 ジュンは社内専用アプリやラインや電話で、手当たり次第に問い合わせたが、父の居場所はつかめない。アイフォンの電源が十パーセントを切ったので、モバイルバッテリーで充電している。

 壁掛けテレビの真向かいの、普段父がつかうソファに、アイフォンとバッテリーを投げる。

 ジュンが叫ぶ。「ああもう! どうなってんだ!」

 『ゲルニカ』の模写にある狂った馬が、苦悩するジュンをを見下ろしている。




 いたたまれなくなったジュンは外出する。

 池袋のサンシャイン60通りの五叉路に、今はいる。街路樹のそばで、黒いBMXを人力で立てている。いつもの様に通りは賑わう。買い食いする女子高生の笑顔がまぶしい。

 池袋は好きな街だ。新宿や渋谷は大きすぎ、原宿はオシャレすぎ、秋葉原はオタクすぎる。ここはバランスがいい。

 駅前方面から、待ち合わせしていたヲタがあらわれる。紺の無地のトレーナーを着ている。ひと目でユニクロとわかるダサさだ。

 ジュンはグレーのパーカーに、黒のプリーツスカート。きょうはニューバランスでなく、パンプスを穿いている。実はジュンもGUだが、パーカーの紐を抜いたり、ダブルジッパーの下を開けたり、下半身をきれいめにまとめたり、着こなしを多少工夫している。

 ブタゴリラと陰口を言われもするが、ジュンはつねにスカートを着用する。暁家はパンツルック禁止なのだ。格闘技にのめりこむ娘の将来を憂い、亡き母が家訓をさだめた。

 ジュンはヲタに同行者がいるのに気づき、目を丸くする。仲睦まじげにミカと腕を組んでいる。

「いったいぜんたい」ジュンがつぶやく。「なにがどうしたのか」

 ヲタが答える。「見ての通りだ」

「お前らつきあってるのか。三次元の女に興味ないとか言ってたくせに」

「からかわれるのは覚悟の上だ」

 歯切れの悪いヲタを押しのけ、ミカがジュンの正面に立つ。黒のスキニーデニムに白いTシャツと、超シンプルな装い。でもきまってる。スタイルがよくてうらやましい。

 形のよい胸を突き出し、ミカが言う。

「ミカたちは恋人同士」

「なんでまた、こんな冴えないやつと」

「ヲタさんはやさしい。それにアニメやゲームのことなんでも知ってる」

「ミカならもっとイケメンゲットできるだろ」

「ヲタさんはイケメン。失礼なこと言うな。そんなだから暁ジュンは恋人できない」

「むかつく」

「暁ジュンもミカたちを祝福しろ」

「はいはい。よかったな、ヲタ。これでようやく童貞卒業だな」

 ミカが背中から木製のスティックを抜く。したたかにジュンの左手を打つ。

 ジュンが叫ぶ。「いってえ!」

「無礼者! カトリックは結婚まで貞節を守る」

「ええーっ。それでいいのかよ、ヲタ」

 ヲタがつぶやく。「こんな可愛い子が俺とつきあってくれるのが奇跡みたいなもんだし……」

「アカツキにバカップル誕生か」




 サンシャイン60通りへむかい、三人は五叉路を渡る。ジュンはBMXを手で押す。

 目的地は、ジュンの行きつけの執事喫茶。職場で野蛮な男に囲まれて心が荒むため、週に一度はイケメン執事とおしゃべりし、自分のなかの乙女を保護する様にしている。

 ミカに腕を引かれるヲタが尋ねる。

「結局、社長の居場所はわかったのか」

 ジュンが答える。「いや」

「マメな社長らしくない。心配だな」

「どうせ彼女のとこでも行ってんだろ。あたしもパーッと気晴らしするさ」

 強がってジュンは笑う。頭のなかでは、朝からずっと警報が鳴りっぱなしだが。

「それはそうと、世田谷から自転車で来たのか」

「無理無理。チャンコのプジョーに乗せてもらった。池袋でBMXのメンテしてるんだ」

「チャンコはどこにいる?」

「しばらくソープで遊ぶってさ」

「みんな自分に御褒美をあげてるな」

「いいことだ」

 あどけなく首を傾げ、ミカが尋ねる。

「ソープって?」

「夢の国さ」ジュンが答える。「あたしは行ったことないけど」

「ミカも行きたい!」

「まづは執事喫茶を満喫しよう。おごってやるけど、注文しすぎるなよ。結構高いんだ」

「執事喫茶たのしみ。フィリピンにいたころから憧れてた。日本は楽園」

「ミカはなんで日本に興味もったんだ」

「アニメ!」

「なるほど」

「コードギアス! タイバニ! ミカは声優さんも大好き。みんな演技うまくてカッコいい。ミカは声優さんと結婚したくて日本に来た。いまはヲタさんがいるから、ヲタさんと結婚するのが夢」

 ヲタがうつむいて赤くなる。ミカはヲタに抱きつき、頬にキスする。

 ジュンは深いため息をつく。

 日本に来たのはダンを監視するためと、ミカは前に言ってた気がする。フィリピン人はフィリピン人同士で結婚すべきとも。都合がいいとゆうか、発言がおそろしく適当だ。理屈でなく、自分の感情に正直に生きてるのだろう。

 くらべてあたしは、だれかを本気で好きになったことがあるのか。パパ以外のだれかを。

 多分ない。

 十九歳にもなって、それってどうなの。

 はやく推しの芹沢君に会って、いっぱい愚痴を聞いてもらおう。

 通行人はチラチラとジュンの顔をみる。上ずった声で噂する。時の人を目撃したのだから仕方ない。記者会見は会社のいい宣伝になった。ただツイッターのワールドトレンドで、「Akatsuki Jun」がトップを維持しつづけてるのは、予想を超えていた。

 首にスカーフを巻いた、ロングスカートの女とすれちがう。どこかで見覚えがある。だれかに似ている。ジュンは記憶をたどる。

 ああ、あれだ。

 オードリーだ。『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーン。父が昔の白黒映画をよく見るので、年のわりにジュンはくわしい。

 ジュンは立ち止まって振り返る。

 サンシャイン60通りの真ん中で、オードリーがロングスカートをたくし上げる。スカートのなかから黒い物体があらわれる。サブマシンガンのウジ・プロだ。この二十日間でジュンは、イスラエルの銃器に精通した。

 オードリーは折りたたみ式のストックを伸ばし、右肩にあてる。ピカティニーレールに装着されたドットサイトで、ジュンに照準をあわせる。

 もう手遅れだ。

 敵は百パーセント外さない。

 ジュンはBMXを持ち上げる。

 ガガガガガガッ!

 数発の九ミリ弾の衝撃が、ジュンを突き倒す。ビルに挟まれて窮屈な空が目にうつる。群衆が逃げ惑うのが、震動として後頭部につたわる。

 パパより先に、あたしがママと再会するとはね。親不孝って怒られるかな。

 ヲタは穴のあいたBMXをどかし、かがんでジュンに叫ぶ。

「お嬢、大丈夫か!?」

「パパにつたえて」ジュンが答える。「愛してるって。短い人生だけど幸せだったって」

「なに雰囲気出してんだ。当たってねえよ!」

「嘘だろ」

 ジュンは上体をおこす。たしかにグレーのパーカーは無傷だ。

 ミカがスティックを手に、鋭い目つきで前後左右を警戒する。通りにオードリーの姿はない。サンシャインシティの方から流れる人の波に飲みこまれたらしい。




 ジュンは己の愚かさを呪う。

 けさレポートを仕上げたばかりじゃないか。池袋で次のテロがおこるかもと。のこのこ遊びに来るなんて、どんだけバカなのか。

 般若党による連続爆破テロの意図について、ジュンはオカルト的な解釈をこころみた。風水とか、その手のやつだ。彼らの攻撃目標は人間でなく、霊的な何かではないかと推論した。

 丸の内には、平将門の首塚があった。上野には、僧・天海が造営した寛永寺。品川には、八百屋お七などが処刑された鈴ヶ森刑場跡。長い歴史のなかで、ひとびとの恨みが籠められてきた場所だ。

 そしてサンシャインシティは、巣鴨プリズンの跡地に建てられた。そこで五十九名の絞首刑が執行された。戦犯たちは自らの信じた正義が、「人道に対する罪」であるとして裁かれた。

 般若党は、東京に封じられた怨念を解き放とうとしている。

 これがバカげた意見なのは、ジュンはわかっている。人に言えば絶対笑われる。だから最初に父にみせたかった。

 ジュンはオカルトマニアではない。じかに般若党の狂気に接して、たどりついた結論だ。

 そして憶測は、確信にかわった。

 ジュンは勢いをつけ、跳ね起きる。人の洪水を掻き分け、東へむかう。

 背後からジュンの手をつかみ、ヲタが尋ねる。

「どこへ行く気だ」

 ジュンが答える。「サンシャインが次のターゲットだ。できれば止めたい」

「テロはもう始まってる。この人の流れを見りゃわかるだろ」

「この目で確かめなきゃ」

 ジュンとヲタは、はじめに地響きを感知した。ついで轟音を。

 音がする三百メートル先をみる。六十階建てのサンシャイン60が豊島区を睥睨している。

 いまのところは。

 ビルの中程から爆煙が吹き出る。熱した飴みたいに全体がグニャリと曲がる。粉塵が大空を覆う。

 サンシャイン60は、一瞬で消滅した。

 般若党はこれで首都の東西南北、四つの鎮魂碑を破壊するのに成功した。

 怨霊たちの復讐がはじまる。




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馬あぐり『純情乙男マコちゃん』

 

 

純情乙男マコちゃん

 

作者:馬あぐり

掲載サイト:『Hugピクシブ』(ピクシブ)2017年‐

単行本:リラクトコミックス(フロンティアワークス)

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主人公は24歳の「鎌田まこと」。

男だがかわいいものが好き。

子供服のデザイナーになりたくアパレル企業に就職したのに、

趣味とかけ離れたセクシー系ブランドでディストリビューターをつとめる。

女らしさのかけらもない先輩にイビられる毎日だ。

 

 

 

 

たまったストレスは仕事帰りに発散する。

鎌田の趣味は女装。

男子トイレでロリータファッションに着替え、美少女「マコちゃん」に変身する。

 

 

 

 

マコちゃんの出没先はライブハウス。

とあるバンドのベーシストを熱心に追いかけている。

「女装バンギャ」とゆう珍しい題材をあつかう作品だ。

 

 

 

 

本作は、馬あぐりの初連載で初単行本。

画力が高く、描き分けは男女ともにうまいし、また世界観の面でも、

アパレル業界やライブハウスなどをリアルに表現している。

さらに、追っかけられる「ダイちゃん」側の事情をコミカルに描くあたり、

ギャグも得意とするオールラウンドプレイヤーである様だ。

 

 

 

 

マコは幼いころから、かわいい女子に憧れていた。

なのでメンズファッションにとことん疎い。

「あたしのブランドの価値を下げるな」と、デザイナーの「リカ」になじられる。

 

主人公に共感できるし、脇役もキャラが立っている。

力のある作家なのはまちがいない。

 

 

 

 

以上のレビューを読むと、マコの恋愛観を知りたくなるのではないか。

つまり、この主人公は性的に男が好きなのかどうか。

1巻時点では、はっきりしない。

新人にありがちな、好物を詰めこんで曖昧化したプロットなのは否定できない。

 

だがそれでもマコが、性別とか性愛とか関係なく、

ひたすら可愛さを追求するとゆう、自身の哲学をかたる場面は感動的。





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『三ツ星カラーズ』 リーダー大勝利!

 

 

三ツ星カラーズ

 

監督:河村智之

原作:カツヲ

シリーズ構成:ヤスカワショウゴ

キャラクターデザイン:横田拓己

音楽:未知瑠

アニメーション制作:SILVER LINK.

放送期間:2018年1月‐

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カラーズの三人はOPで、それぞれ13着の衣装を着る。

結衣は赤で、リボンやフリルがついた可愛い系。

さっちゃんは黄で、キュロットなどのボーイッシュ系。

琴葉は青で、帽子やワンピを好むクール系。

 

39着のデザインをおこす作業を想像すると、気が遠くなる。

 

 

 

 

第6話でカラーズは、人類が滅びたあとでも生き残れるよう、

食べられる雑草をもとめ上野公園をさがしまわる。

細密に描かれた背景が見どころだ。

 

 

 

 

本作の主人公は結衣となっているが、パワーバランスは押されぎみ。

天衣無縫で傍若無人なさっちゃんと、

3DSを手にしながら毒舌と暴力をくりだす琴葉が相手では、

どうしても結衣の優等生キャラは見劣りする。

 

 

 

 

6話のハイライトは「弱点探し会議」。

メンバーがおたがいの弱点を指摘しあうことを通じて、

暇つぶし……じゃなかった、成長の糧とする。

 

琴葉の弱点の番になった。

らしくもなく、さっちゃんが遠慮しており、不穏な空気に。

言ってはいけない弱点があるらしい。

 

 

 

 

それは、実は琴葉はゲームが下手なこと。

いつもゲームばっかりやってるのに。

しかも下手である自覚がない。

 

 

 

 

天使の笑顔で、まるで悪意なく、友人のプライドを粉砕する。

結衣は、1クールの折り返し地点となる6話で、

本作がだれの物語なのかをはっきりさせた。

 

 

 

 

6話の演出は、ベテランの川畑えるきん

『この美術部には問題がある!』『ガヴリールドロップアウト』など、

電撃コミックスが原作のアニメは質が高い印象がある。

なぜかは見当もつかない。

むしろおしえてほしい。

 

僕にできるのは、「アニメ化」とゆう過小評価されがちな、

ひとつのクリエイティビティを、ひたすらたのしむことだけ。





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『群狼のプリンセス』 第10章「品川埠頭」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 ダークブルーの十人乗りのトヨタ・ハイエースが、品川コンテナ埠頭に駐まる。一番隊がファミリーマートの駐車場に降りる。潮の匂いが鼻孔にながれこむ。

 ジュンの指示にしたがい、隊員はコンビニの棚を外へ出す。即席のバリケードだ。ミカがこっそりチョコレートをくすねるのを見つけ、ジュンは尻を蹴飛ばす。

 警視庁の特型警備車が二台、立て続けに到着する。装甲が青と白に塗装されている。ヘルメットをかぶった三十名のSAT隊員が降り立つ。サブマシンガンのMP5を装備している。ファミマに長机と椅子をもちこみ、ノートPCや無線機や地図などを設置する。コンビニはなんでも揃う。立派な前線基地となった。

 陸自の林も、一番隊にまじって荷物をはこぶ。

 ジュンが林に言う。

「雑用はウチがやりますから」

 林が答える。「俺はじっとしてるのが嫌いなんだ」

「じゃあお願いします」

「あと自衛隊では、これを雑用と言わない。ただしくは後方支援だ」

 一番隊は戦闘に参加しない。敵は火器を装備すると予測されるからだ。ただし武装解除後は、現場に呼ばれるかもしれない。

 ガラス越しにジュンは、防弾ベストを着こんだSAT隊員に目をとめる。こちらへ向かってくる。MP5のストックが伸びている。セレクターはフルオートに入ってる様にみえる。ヘルメットはバイザーが下りており、表情がわからない。

 ジュンの鼓動が速まる。

 直感が敵だと告げる。味方に警告すべきだ。でも間違いだったら、大恥をかく。

 かまわない。損するわけじゃない。

 ジュンが叫ぶ。「敵襲! 伏せろッ!」

 ズダダダダダッ!

 SAT隊員が九ミリ弾を連射する。すぐ三十発を撃ち尽くし、コッキングレバーを引いて弾倉を交換する。交換中も歩行を止めない。ふたたび発砲する。

 ズダダダダダッ!

 ガラスの雨が降り注ぐ。ジュンは床を這いつつ、店内を見回す。豆鉄砲をくらった鳩の様だが、一番隊に負傷者はいなさそうだ。ガラス片が脛と膝に刺さったジュン以外。

 林が拳銃のSIG220を抜いている。マガジンラックの陰から応射する。遮蔽物を利用せず、仁王立ちのSAT隊員が斃れる。

 まだ銃声は止まない。数十メートル先で、SATと般若党が交戦開始した。

 SAT指揮官であるくせっ毛の警部は、椅子から転げ落ち、リノリウムの床で硬直している。

 スパイが潜んでいた以上、こちらの情報は筒抜けにちがいない。SAT隊員は身辺調査を経て選抜されるから、信じがたい事態だ。

 今回の強襲作戦は、二手に分かれて挟撃するシンプルなもの。別の三十名からなるBチームが、敵の背後をとるため迂回した。いまごろあちらも、待ち伏せ攻撃を受けてると想像される。

 ジュンは腰を上げる。座ってブツブツつぶやく、ヲタの手を引いて立たせる。

 はやく陣容を立て直したい。下手したら、ウチらまで包囲される。

 ドリンクが陳列する冷蔵庫の方から、男が泣きわめく声が聞こえる。チャラ男が寝転がり、もがいている。端正な顔が吐瀉物で汚れている。

 ジュンはチャラ男の花柄のシャツをつかみ、強引に立たせる。冷蔵庫のガラス扉にへ押しつける。銀のピアスがゆれる。

 チャラ男が叫ぶ。「ひいっ!」

 怯えるのは当然だ。警備員の業務に銃撃戦はふくまれない。クビにしておくのがチャラ男のためだった。無理させたら、あとでPTSDが発症する恐れもある。

 でも放置はできない。

「チャラ男!」ジュンが叫ぶ。「こんなとこで泣いてる場合か!」

「ママ! ママ!」

 ジュンは頬を平手打ちする。

「うるせえ! ママは助けてくんねえよ!」

「ママーッ!」

「お前はなんのためアカツキに入ったんだ。軟弱な自分を変えたいんじゃないのか」

「いやだ。俺は家に帰る」

「無事に帰るためにしっかりしろ。男らしさを見せろ。そしたらあたしが彼女になってやる」

「ブタゴリラとは死んでもつきあわない」

「そうゆうときだけ強気だな」




 バリンッ!

 出入口でガラスの割れる音がする。SAT隊員がMP5のストックで、故障した自動ドアを破っている。ヘルメットに弾痕がある。

 カーリーヘアの指揮官はまだ、弁当売り場でうづくまる。部下であるSAT隊員が駆け寄る。

 無線機の受話器を突きつけ、SAT隊員がカーリーヘアに言う。

「われわれは立ち往生してます。御命令を!」

 カーリーが叫ぶ。「Bチームはどうした!?」

「わかりません」

「無線でBチームを呼び出せ。敵の後背を突けと指示しろ」

「すでに彼らはそうしてます。それより、われわれはどうするんですか」

「はやくBチームを呼び出せ!」

 ジュンは、ピンクのニューバランスでガラスの破片を踏みしめ、店外へ飛び出そうとする。チャンコに腕をつかまれる。日野に教わった体捌きで振りほどく。

 銃弾に身を晒すのは怖い。でも、周囲の状況がわからないままでいる方が、もっと怖い。

 ジュンは特型警備車の陰から、通りの様子をうかがう。SAT隊員が三名倒れている。手当てする者はいない。死亡したのかもしれない。のこりの二十数名が応戦するが、火力で押されて劣勢だ。

 ジュンは、クリップ式望遠鏡を装着したアイフォンで観察する。般若党が、ネゲヴ軽機関銃でライフル弾をばら撒く。IWI社製の分隊支援火器だ。サブマシンガンで対抗せざるをえないSAT隊員は、単なる射撃訓練の的だ。

 数百メートル先で爆発音が轟く。敵が迫撃砲かなにかを使用してるらしい。

 般若党は、全国各地のアマゾンの無人倉庫をアジトにしている様だ。重火器を入手できるなら、ほかにも違法な物資を密輸入してるだろう。

 どうやらあたしは糞壺にはまった。

 ジュンは肩を落とし、ファミリーマートへ戻る。部下をつれて逃げることしか考えてない。警察と心中する気はない。

 林が、うづくまるカーリーを睨みつける。毛穴から血が吹き出そうなほど紅潮している。自分が指揮を取りたいのだろう。しかしそれは重大な越権行為だ。憲法違反かもしれない。ハラキリ程度ではすまないトラブルをひきおこす。

 ジュンが林に言う。

「シロウト考えですが」

 林が答える。「なんだ」

「あそこのクレーンにスナイパーを置いたらどうでしょう」

 ジュンが指差す先に、コンテナの積み下ろしをおこなうガントリークレーンがある。高さは約五十メートル。吹きさらしの階段が機械室までつづく。ネゲヴの射手を排除できるし、腕のよい狙撃手ならBチームの支援も可能だ。

「名案だ」林が言う。「なぜだれも思いつかなかったのか」

 林は断りなく、SATの備品であるレミントンM24狙撃銃をつかむ。予備弾倉をジーンズのポケットに詰められるだけ詰めこむ。

 急にスイッチが入ったカーリーが起き上がる。

 カーリーが林に尋ねる。

「まさか、御自身が前線に出るんじゃないでしょうね」

 林が答える。「見なかったことにしてくれ」

「あなたはあくまでアドバイザーだ」

「私は元狙撃手だ。いまも訓練を欠かさない。適任だろう」

「自重してください。マスコミや野党が知ったら何と言うか」

 カチャ、カチャッ!

 林はボルトハンドルを操作し、・300ウィンチェスターマグナム弾を薬室へ送りこむ。両手でM24をもつ。五十歳前後だが、わりとサマになる。

「だまれ。それ以上の妄言は、利敵行為とみなす」

「一佐。あなたひとりの問題ではない」

「私はいまからクレーンへむかう。止めたいなら背中を撃て。貴官にできるとは思えないが」




 ファミマには、カーリーと一番隊の十名だけのこっている。カーリーの部下は隊長を見捨て、忽然と消えた。

 カーリーは、力づくで林を制止すべきだった。SATの指揮系統は崩壊した。作戦が成功しようがしまいが、カーリーは責任をとらされる。彼の近くにいて、部下にはなんの得もない。

 ジュンはトイレへ行くふりをしつつ、チャンコとヲタに目配せする。コピー機の置かれた小部屋で、ついて来たふたりに囁く。

「ネゲヴの連射音が聞こえなくなった。いまが逃げるチャンスだ」

 ヲタが答える。「やっとか。おせえよ」

「ハイエースは目立つから、ここに乗り捨てる」

「さすがに職務放棄はヤバいもんな」

「隊を三つに分ける。あたしがダンとミカをつれてく。あとの五人をまかせた。天王洲アイルで再集合」

「ルートは?」

「知らん」

「なんなら泳いで帰るか」

 ジュンは目眩に襲われる。ピルケースにある向精神薬のマーナガルムを、手のひらに全部のせる。十錠以上ある。冷えたレッドブルで流しこむ。

「おいおい」ヲタが言う。「飲みすぎだろ」

「お前が泳ぐとか言うから」

「ひょっとしてカナヅチか?」

「まあね」

「ははっ。お嬢にも怖いものがあるとは」

「昔は泳げたよ。けどママがプールで溺れてから、水が怖くなった。湯船にも入れない」

「……いつもすまん。口が悪くて」

「いいんだ。ヲタはあたしの参謀だから、厳しい意見は歓迎だ。たいてい従わないけどね」

「意外と考えてるんだな」

「中間管理職は気苦労ばかりさ」




 男ふたりの口論する声が、店内に反響する。

 M24を肩にかけた林が、カーリーを怒鳴りつける。その弱腰を批難し、前線で隊員を指揮しろと求める。カーリーは、Bチームがどうのこうのと反論する。埒があかない。

 林がどうと倒れる。長机や無線機が転がる。

 ジュンは林に駆け寄る。折りたたみナイフのブレードをロックする。林を仰向けにし、黒のギンガムチェックのシャツを切り裂く。左胸から大量出血している。

 ジュンが叫ぶ。「チャンコ、止血の用意!」

「ウッス」

 林がジュンの腕をつかむ。

「君らは民間人だ」林が言う。「すぐ撤退しろ」

 ジュンが答える。「わかってます。林さんの手当てをしたら逃げます」

「私は助からない。職業柄、ケガにくわしいんだ」

「しゃべらないで」

「十歳若ければ、こんなヘマはしなかった。テロリストを根絶やしにできたのに……」

 林はとめどなく話しつづける。譫妄状態だ。チャンコが、店の白いタオルを銃創に押しつける。一瞬で真っ赤に染まる。

 林が続ける。「……私は二十七年、国家に奉仕した」

「お願いだから安静にして」

「退官した者もふくめ、多くの部下を育てた。三人の子供にも恵まれた。人生になんの悔いもない。ただひとつをのぞいて」

「お願い」

「心配なのは日本の行く末だ。この国はどこかおかしい。タガが外れている。そう思わないか」

「思います」

「君の様な若者は生き延びてくれ。この国の狂気と戦ってくれ」

「わかりました。息子さんにも会います。結婚するかはともかく、林さんのことを伝えます」

「ありがとう。君は心のうつくしい人だ。私は希望をもって死ねる」

 林の呼吸が止まった。

 ジュンは立ち上がる。なめらかな頬が涙で濡れている。狼の様に唸り、わななく。

 ヲタが立ち塞がる。身長はほとんど変わらない。正面からジュンと目をあわせる。

 血に飢えた、壮絶な顔つきだ。

 食われる。

 ヲタは恐怖した。

 ジュンの性格は熟知している。林の自己犠牲に刺激されただけでなく、マーナガルムを過剰摂取している。単騎で突撃するつもりだ。体を張って止めるのが自分の義務だ。

 ジャキンッ!

 特殊警棒をジュンが振って伸ばした。

 つかみかかるヲタを、左のボディブローでノックアウトする。激戦がつづく通りへ飛び出す。

 のこされた隊員は呆然とする。血染めのタオルをにぎるチャンコに視線があつまる。

 チャンコが震えている。ひたすらジュンに忠実で、どんな任務も愚直に耐えてきた男なのに。

 用賀の立体駐車場で、たしかに一番隊は銃撃戦に巻きこまれた経験がある。でもあれは、こちらの奇襲攻撃だった。武装した敵も少数だった。いまジュンが向かったのは、本物の戦場だ。

 正気の沙汰じゃない。

 そこまで忠義立てしなきゃいけないのか。

 ジャキンッ!

 隊員たちは驚愕する。軟弱だとバカにしていたチャラ男が、特殊警棒を構える姿に。

 運命は決した。

 もう逃げられない。チャラ男より臆病だなんてレッテルを貼られたら終わりだ。

 ジャキジャキジャキジャキンッ!

 隊員たちが口々に叫ぶ。

「ウッス!」

「死んでやるよ! 死ねばいいんだろ!」

「あのブタゴリラ!」

「くそブラック企業!」

「パワハラ女!」

「畜生!」

「やってられるか!」

「ファック!」

「ダン、ウォッチ・ユア・マウス!」

 九人の隊員は、二十秒遅れでジュンを追った。




 三時間後。

 グレーの日産スカイラインが、都道三〇一号線を北上する。警視庁の車両だ。夕空を背景にそびえ立つ東京タワーがうつくしい。

 ジュンは後部座席にひとりで座る。額にガーゼがテープで留められている。ガリルの五・五六ミリ弾で負傷した。嫁入り前の顔を疵物にされて残念だが、むしろ幸運に感謝すべきなのだろう。

 目的地は永田町の総理大臣官邸。松平賢保首相じきじきの要望で呼びつけられた。

 品川埠頭での作戦終了後、ジュンは怒り狂った部下に取り囲まれ、散々苦情を言われた。無謀だのなんだのと。

 あいつらは全然わかってない。あたしには勝算があった。

 敵はまったく予想しなかったはず。しばらく互角の銃撃戦をくりひろげたあと、棒を振りかざした集団が突進してくるなんて。実際、般若党による発砲はほとんどなかった。一番隊の行動を、咄嗟に理解できなかったのだ。

 そう説明しても、結果論だとか言われ、火に油ををそそぐだけだった。

 あたしだって戦略にもとづいて行動してるのに、だれにも認められないのが悲しい。

 まあ、もう一回やれと言われたら、絶対やらないけど。

 政治家に会うなんて億劫だが、部下による吊し上げから逃れるため承諾した。それに、首相に直接頼みたい用件がひとつある。




 スカイラインが官邸に到着した。全面ガラス張りの正面玄関で、女性警務官によるボディチェックをうける。乾いた血がこびりついた特殊警棒に、警務官が目をとめる。

 上目遣いで警務官が言う。

「あのう、その警棒を……」

 ジュンが答える。「この警棒がなにか?」

「……いえ、結構です」

 五階の総理執務室へ通される。緊張はしない。銃弾の嵐へ飛びこむのとくらべたら、物の数ではない。

 執務室の内装は質素だった。なんて言うか、昭和のセンスだ。読めない漢字の書が、額に飾られている。大五郎はかつて、ジュンを総理大臣にする計画があると語っていた。つまりジュンは、この部屋の主になる可能性がある。

 もしあたしが総理大臣になったら、もっとオシャレな部屋に模様替えしよう。別に、そんなものになりたいとは思わないが。

 顔色の悪い、極端にやせ細った男がデスクにむかい座っている。ジュンを見て不審げな表情をうかべる。首相の松平賢保だ。まだ四十四歳と若い。マスクをしており、ときおり咳きこんでいる。

 眉をひそめ、松平が尋ねる。

「君は?」

「暁ジュンです。案内されてお邪魔しました」

「申し訳ないが、私はいまから人に会う予定だ。般若党との戦いで活躍したヒーローに」

「それは多分あたしです。アカツキセキリティ一番隊の隊長をつとめてます」

「ふふっ」

「いや、本当に」

「銃をもたずにテロリストを蹴散らした猛者と聞いてるぞ」

「大袈裟ですよ。最後においしいところを持ってっただけです。一番奮闘したのはSATです」

 松平はよろよろ立ち上がる。咳をしながら、ドアのそばのジュンへ歩み寄る。目が潤んでいる。

「もしかして、君が暁さんか」

「ええ。さっきから言ってますけど」

「なんてことだ。わが政府は、君みたいな可憐な少女に、危険な真似をさせたのか」

「仕事ですから。可憐なのは否定しませんが」

「許してくれ! リーダーである私が、安全な場所でのうのうとしていたことを!」

 松平はひざまづき、傷だらけのジュンの両手をとる。はげしく嗚咽をもらす。

 ジュンは苦笑いする。

 またオジサンにモテてしまった。同世代のイケメンには可愛いと言ってもらえないのに。

「約束しよう」松平が続ける。「次からは私も現場に出ると」

「むしろ迷惑じゃないですかね」

「そうゆうものか」

「それより、首相にお願いがあります」

「なんでも言ってくれ」

「殉職された陸上自衛隊の林一佐のことです」

 だらしなく泣いていた松平の表情が一変する。冷徹な政治家の顔だ。

「その情報は知らないことはない。しかし、建前上は知らない」

「公にできないのはわかります。でも一佐は名誉を重んじる方でした。一佐や御遺族への配慮を忘れないでいただけると」

「そこまで考えが及ばなかった。秘書官に伝える」

「ありがとうございます」

「こちらこそ礼を言わねばならない」

 松平は電話で秘書官を部屋に呼び、言伝てする。秘書官が耳打ちする。忙しそうだ。

 ハンカチで顔を拭きつつ、松平が言う。

「十分後、一階で記者会見をおこなう」

「そうですか」

「よかったら、暁さんも出席してくれないか」

「えっ」

「政治利用する様で、正直心苦しい。でも国民はヒーローをもとめている。彼らを勇気づけたい」

 ジュンはボサボサの頭を掻く。

 目立つのは嫌いじゃない。でもさすがのあたしも、すっぴんでテレビに出るのはキツい。

 パパだったらどう答えるだろう。

「わかりました。出ます」

「本当か! ありがとう!」

「晴れの舞台に立つのは、父の夢でもあるので」

 ジュンは微笑しながらつぶやく。

 パパ。

 一秒もはやく、あなたに会いたい。

 いつもあたしを褒めてくれるパパ。きょうあたしは頑張ったから、いっぱいわがままを聞いてくれるだろう。いっぱい甘えさせてくれるだろう。




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ハトポポコ『みなクズ with 男子校系男子』

 

 

みなクズ with 男子校系男子

 

作者:ハトポポコ

発行:KADOKAWA 2018年

レーベル:電撃コミックスEX

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なんだかんだでハトポポコは社会派だとおもう。

単に奇を衒ったシュールギャグを提示するだけでなく、

シンプルな絵柄のむこうで、現実的問題が蠢いている。

 

 

 

 

『みなクズ』のテーマは「クズ」である。

JKたちは何がクズかを理解し、自分の内面にあるクズを発見し、

そしてそれと向き合い、大切に育ててゆこうとする。

 

 

 

 

彼女らは別にクズな行為はしない。

いつもとおなじく教室でダベるだけ。

それでも黒々とした怖さが読者をとらえる。

 

 

 

 

1巻完結である本書は、『男子校系男子』を併載している。

キャラクターの性別はちがえど、こちらもクズ道を追求する。

たとえば、校則違反にならない程度に過激なファッション。

 

 

 

 

ハトポポコの作品は、当たり障りが「ある」。

読者を抑圧から解放するとゆう、ギャグ漫画本来の使命を果たしている。





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テーマ : 漫画
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川浪いずみ『籠の少女は恋をする』

 

 

籠の少女は恋をする

 

作者:川浪いずみ

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2017年‐

単行本:電撃コミックスNEXT

[ためし読みはこちら

 

 

 

全寮制の女子高を舞台とする百合漫画だ。

僕の分類で言えば「クラシック百合」に相当するだろうか。

お姉さまがいて、挨拶はごきげんよう、みたいなアレだ。

 

作者の初単行本らしい。

背景描写が特別に巧みとゆうわけではないが、

むしろスカスカな感じが、漠然とした不安をかきたてる。

 

 

 

 

主人公の千鶴は、転校初日に身体検査をうける。

膣鏡をつっこまれ、処女であるかどうか確かめられる。

 

そこは特殊な学園だった。

少女たちは、裕福な男に「高値で売れる」よう教育されている。

 

 

 

 

「実技」の授業もある。

買われたあと役立つスキルを、女同士でみがく。

でも、ただの勉強では終わらないかもしれない。

 

 

 

 

同室の「冬子」に買い手がつき、卒業式がおこなわれる。

ウェディングドレスみたいな衣装を着せて、おくりだす。

悪趣味だと眉をひそめる生徒もいる。

 

いささか型破りな世界観の作品にちがいない。

 

 

 

 

やや理論的に本作を分析してみよう。

 

物語にはかならず「嘘」がある。

むしろ嘘があった方がおもしろいが、その数はひとつであるべき。

本作は「娼婦を育成する教育機関」と「百合」とゆう、二つの嘘をついている。

こんな学校があってもいいけど、でもそこで百合なんてあるかな?

読者はそう疑問におもう。

プロットに負荷がかかりすぎ、ギシギシ悲鳴をあげている。

 

ただ上掲画像からわかる様に、はっと息をのむ瞬間が本作にはいくつかある。

そのページをひろいあつめ、脳裏でつなぎあわせつつ読む作品だろう。

百合漫画は本来、そうゆうものではないか。





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『群狼のプリンセス』 第9章「特別捜査本部」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 アカツキセキュリティの実行部隊が、本部の駐車場に整列している。総勢六十名。みな制服の黒のレザージャケットを着ており、壮観だ。四番隊と五番隊は、それぞれ五名増強された。教授の息のかかった構成員が、これで半数を占めた。

 ジュンは垣根を背に、駐車場の隅に立つ。隣の父・大五郎と腕を組む。大五郎はこれまで本部で二週間療養していたが、あす帰宅する予定だ。長時間立つのは負担なので、ジュンがささえている。結束の強さを社員にアピールする意味もある。

 教授が演説をぶつ。大袈裟なジェスチャーで鼓舞する。元数学者で、社内で一番弱いくせに。

 警視庁はきょう、とどめを刺すべく般若党を強襲する。ジュンが習志野駐屯地に駆り出されてから、二日しか経ってない。警察による例の「クーデター」は、敵の妄動を誘うエサだった。

 ジュンは足許の小石を蹴飛ばす。列の最後尾に立つミカの踵に当たり、くりっとした瞳で睨まれる。

 状況をコントロールできてないのが、ジュンの苛立ちの理由だ。すでにアカツキは、国内でもっとも対テロ作戦の経験が豊富な組織とみなされている。今回も警察はアカツキを外せなかった。勿論、それ自体は名誉だ。

 でも、進展が急激すぎるのが気にいらない。本来鈍重なはずの警察が、必要以上にテキパキしている。

 いったい、どこのどいつが絵を描いてやがる?

 右隣の大五郎が小声で言う。

「行儀が悪いぞ」

「むかつく。教授のやつ、いい気になって」

「あいつはよくやってる」

「パパをいたわる言葉もない」

「経営はあいつに任せてある。問題ない」

「まあね。あたしにも教授とゆう人間がわかってきた。でかい顔できて満足って、それだけ」

「どうゆう意味だ」

「単純ってこと。教授は陰謀の黒幕じゃない。パパの相手はつとまらない」

「俺は単純じゃないのか」

「つねに二手三手先を読んでるでしょ。パパをハメたのは、もっとこう、とんでもないやつだ。絶対見つけ出して、復讐してやる」

 大五郎は、自分をささえるジュンの横顔をみる。鼻が高く、顎が尖っている。猛禽類に似ている。娘の資質は見抜いていたつもりだが、予想をこえる勢いで成長している。

 大五郎は背広のポケットから小物を取り出し、後ろ手にジュンにわたす。ジュンが何食わぬ顔で右手をのぞくと、それはUSBメモリだった。

 ジュンが尋ねる。「これは?」

「般若党の居場所だ。品川埠頭にいる」

「なぜあたしに。それこそ教授にわたせば」

「警察の小賢しさを俺はよく知っている。容易に動かせる連中ではない」

「あたしはまだ十八歳だよ。しかも女だし。まあ、明日誕生日だけど」

「俺の戦略と、お前の勇気があれば、不可能はない」

 今度はジュンが大五郎の横顔をみる。だいぶ血色がよくなった。いつもの頬髯は、弱ってるときはみすぼらしく見えたが、いまは精悍さを際立たせている。スティーヴ・ジョブズにたとえられるのが嫌いなくせに、髯はジョブズを意識する様にみえる。肉親だが、複雑な人間だとおもう。

 父の企図のすべては判然としない。しかし今回は、一九七二年のあさま山荘事件をはるかに超える、戦後最大規模の対テロ作戦だ。そこにアカツキセキュリティが参加する意味は、ジュンにもわかる。父の夢が娘に託されたのだ。

 ジュンは心のなかで叫ぶ。

 あたしは、この日のために生まれてきた!




 午前十一時。

 ジュンは、江東区にある東京湾岸警察署にいる。特別捜査本部が設置された会議室は、長机にノートPCやプリンタやファックスつきの電話がならぶ。男女の職員があわただしく行き来する。

 比較的年嵩の警察官が、喧々諤々の議論を戦わせている。ジュンは末席でおとなしく座る。左隣の教授は、話にあわせて卑屈に何度もうなづく。民間人がここにいられるだけで幸せと言わんばかり。

 警視庁幹部は、特殊強襲部隊SATをどこに派遣すべきかについて協議している。午後に作戦開始予定だったが、潜伏先に関する情報がデタラメだと数十分前に判明した。

 女性職員がファックス用紙をもってゆく。幹部たちが頭をかかえる。那覇市に般若党のアジトを発見したと、沖縄県警が報告してきた。SATの指揮官である、くせ毛で三十歳前後の警部があくびをする。どうやらきょうの出番はなさそうだ。

 ジュンは会議室の混乱に関心をしめさない。窓の外の東京湾をながめ、心を落ち着かせる。

 こうなるのは想定していた。般若党はいまだ謎につつまれている。組織としての実体があるかどうかさえ解らない。逮捕者を調査しても、犯行以前のつながりを證明できない。たとえばクーデターで標的にされた、陸自の林剣介一佐が所属していたグループ1905も、結局テロと無関係と認定された。

 ジュンはUSBメモリを差し出し、教授にささやく。

「これを提出しきて。ウチが独自にあつめたデータだって」




 警察官たちは驚愕した。メモリのなかの文書と写真と動画に。約四十名の不審者が、品川埠頭にある無人倉庫にあつまる様子が記録されていた。ECサイトのアマゾンジャパンが所有する倉庫だ。

 内容以上に、情報の入手経路が問題だった。警視庁が設置した監視カメラの映像がつかわれている。警察以外にアクセスできるのは、せいぜいアメリカやロシアや中国などの諜報機関くらいだ。

 警備部長をつとめる警視長が、憤然として立ち上がる。グレーのちょび髭を生やしている。

 ちょび髭が、教授を指差して叫ぶ。

「お前らはいったい何者だ!? なぜこんなデータをもっている!?」

 全身縮み上がって沈黙する教授に代わり、ジュンが答える。

「どこから入手したかなんて、どうでもいいじゃないですか。大事なのは中身でしょ」

「質問に答えろ!」

「あたしは知りません。父に聞いてください」

「暁大五郎の娘か。おい、こいつらをここに入れたのは誰だ!?」

 返答するものはいない。なぜ警察はこうまで、たかが一警備会社に依存するのか。よくかんがえると、般若党以上に不気味な存在ではないか。

 ジュンが答える。「あたしたちは依頼されたから協力してるだけです。市民の義務ですよ」

「お前たち民間人は信用できない。情報漏洩の原因である疑いがある」

 ジュンは自分が民間人であることに、なんの引け目もおぼえない。だが立場によっては、「ミンカンジン」とゆう言葉に最大限の蔑みを込められるのだと痛感する。日本語はおもしろい。あとでミカに教えてあげないと。

「じゃあ聞きますけど、ここにいるなかで実際に般若党と戦った人います? ちなみにあたしはガリルをぶっ放されました。五メートル先から」

「われわれを侮辱するか」

「侮辱してるのはそっちです。あたしの部下は撃たれて重傷を負いました。彼の苦労を無にする様な言い草は許さない」

「……この部屋から出て行け。しばらく別室で待機していろ。用があればまた呼ぶ」




 茫然自失する教授の手を引き、ジュンは会議室から出る。

 ちょび髭の言動は気にしていない。提出したデータが、彼らの面子を傷つけたのは事実だから。とりあえずアカツキの言い分をぶつければ、それで十分だ。どうせどこかのタイミングで、むこうから泣きついてくる。

 廊下の奥の階段で騒ぎが起きている。若い女の金切り声がひびく。聞き慣れた外国訛りがある。

 黒のレザージャケットを着たミカが、両腕を制服警官に拘束されて現れる。右側の男が木製のスティックを手にもっている。警官は二人ともしこたま打たれたらしく、顔面は血まみれだ。

 現場を見ずとも、ジュンは想像がつく。おそらくミカは、人種差別的な暴言でも吐かれたのだろう。

 ミカが警官の首に噛みつき、床にねじ伏せられる。教授が口ごもりながら、ミカはアカツキの社員だと説明する。警官は納得しない。東南アジア人を犯罪者予備軍とみなす習慣が染みついている。

 ジュンは人だかりを素通りする。何から何まで面倒はみきれない。自動販売機でペットボトルのお茶を買い、ベンチに腰を下ろす。

 一番隊のメンバー八名が姿をみせる。ダンは缶コーヒーを買って、ジュンの隣に座る。

 ため息まじりでジュンが言う。

「ダンの妹だから悪口言いたくないけど」

 ダンが答える。「ミカのこと?」

「あいつ短気すぎじゃね? あたしが言うのもなんだけどさ。フィリピンだって、警察署で警官ぶん殴ったらアウトだろ」

「そうだね。即銃殺刑かも」

「お前がどうにかしろよ。兄貴だろ」

「フィリピンは女がすごく強い。男はみんな尻に敷かれてる」

「へえ」

「だからオジョウに会ったとき、懐かしい気分になった。オジョウはフィリピンの女みたい」

「それって褒められてる?」

「全然褒めてないよ」

 ジュンとダンはため息のコーラスを漏らす。

 高らかに足音を鳴らし、長身で痩せっぽちの男が階段から現れる。陸上自衛隊の林剣介一佐だ。戦闘服でなく、私服のギンガムチェックのシャツを着ている。ジュンに気づいて軽く敬礼した。




 ジュンは林一佐に連れられ、会議室にもどる。

 林はデスクに拳を何度も叩きつけ、警視庁幹部にまくし立てる。こめかみに血管がくっきり浮かぶ。ジュンを締め出したのを怒っている。

 ちょび髭の警視長が咳払いし、反論する。

「機密保持のため、民間人の同室を遠慮してもらっただけです。自衛隊だってそうするでしょう」

「私も民間人としてここにいる」

「それはあくまで体裁で……。自衛隊の治安出動は首相の命令と、国会の承認が必要ですから」

「釈迦に説法はやめていただこう。この暁ジュン氏はまだ若く、女性でもあるが、サムライの心をもつ人物だと私はみている」

「はあ」

「彼女を軽侮するなら、この林剣介がただではおかないと言っておく」

 林はどかんと音を立て着席する。

 ジュンは人差し指で頬を掻く。

 買いかぶりだ。

 サムライとか言われても、ちっともうれしくない。ファザコンだからなのか、オジサンにモテてしまうのは困りもの。むしろ自分としては、年下の彼氏がほしいくらいなのに。

 品川埠頭への接近手段や戦術について、打ち合わせが進行する。専門的すぎてジュンはついてゆけない。銃なんて触ったこともない。

 脚を組んで背もたれに寄りかかるジュンに、林が無表情に尋ねる。

「すこしプライベートなことを聞いてかまわないか」

「はい」

「暁さんにいま恋人はいるか」

 うわ、来たよ。

 ジュンは内心で舌をだす。

 作戦会議中にナンパかよ。あと、ちょっとは年の差をかんがえてくれ。

「いえ、いませんが」

「私には息子がいる。二十四歳で、三菱重工に勤めている。親バカと笑われるだろうが、それなりに将来有望とおもう」

「そうですか」

「見合いをする気はないか」

「えーっ」

 ジュンは椅子からずり落ちる。

 勘弁してくれ。あたしはまだ十代だ。ほしいのはエリートの婚約者じゃなくて、イケメンの彼氏だ。もっと青春をたのしみたいんだ。

 てゆうか、それより先にテロリストをやっつけなきゃいけないけど。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

柳原満月『クレオパトラな日々』

 

 

クレオパトラな日々

 

作者:柳原満月

掲載誌:『月刊まんがライフオリジナル』(竹書房)2016年‐

単行本:バンブーコミックス

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「上杉謙信女性説」をあつかう『軍神ちゃんとよばないで』は単行本4巻をかぞえ、

スピンオフ『ここから風林火山』も発表するなど歴史系萌え4コマを得意とする、

柳原満月の新作の題材は、古代エジプトの女王クレオパトラ。

 

このジャンルにぴったりの人選なのはたしか。

18歳で王位につき、「絶世の美女」の代名詞として知られるから。

 

 

 

 

重野なおき『信長の忍び』は4月からアニメ3期がはじまるし、

すでに歴史系萌え4コマは根強い人気を獲得している。

ただこれまでは、日本が舞台のものが多かったとおもう。

文化に隔たりがある海外は、「日常」をえがくのが困難だからか。

 

柳原は、たとえばクレオパトラをファッションリーダーとみなし、

バステト女神にならった「人類最古のネコ耳女子」とするなど、

神話と政治がごっちゃになった古代エジプトをうまく捌いている。

 

 

 

 

ぐうたらな虎千代と対照的に、クレオパトラはしっかり者。

血を分けたきょうだいとの衝突をもおそれず、王朝を守ろうとする。

知的で凛々しく、うつくしい。

 

 

 

 

妹のアルシノエは、性格に裏表あるツインテキャラ。

生涯にわたってクレオパトラと骨肉の争いをくりひろげる。

 

 

 

 

クレオパトラは弟と結婚した。

プトレマイオス朝では普通だが、実際に性交渉をおこなったかは不明らしい。

近親婚が遺伝病をひこおこすのは常識であり、

跡継ぎは婚姻外から調達したとかんがえるのが妥当な様だ。

 

もちろん当事者としては、いろいろ思うところがあったろう。

弟マグスは、クレオパトラに恋い焦がれている。

姉はそれを知ってか知らずか、思わせぶりな態度で翻弄する。

 

 

 

 

なにせ舞台がエジプトなので、衣装は露出多め。

お得意の女体描写がさえわたる。

まだあたらしい「世界史系萌え4コマ」とゆうジャンルにおいて、

世界観は早くも決定版と言える完成度をほこっている。





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