大堀ユタカ『花降り宿のやどかり乙女』
花降り宿のやどかり乙女
作者:大堀ユタカ
掲載誌:『まんがタイムきららキャラット』(芳文社)2017年‐
単行本:まんがタイムKRコミックス
温泉街を舞台とした4コマ漫画である。
ちなみに上の引用画像は、きらら単行本お約束のカラーページ。
主人公は「千歳六花」。
さびれた旅館の娘で、高校入学を機に、老舗で仲居の修業をはじめる。
新生活への期待でつぶらな瞳はかがやく。
はじめてお座敷へ上がるときのドキドキ感など、よく描けている。
ヒロインがくせっ毛なところも造形的な魅力がある。
大堀ユタカは、前に『re:teen』を当ブログでとりあげた。
メカやアクションもいける画力の高い作家だが、それはそれとして、
ぴちぴちと弾ける様な女の子のかわいさが印象的。
着物だけでなく、学校制服でも目をたのしませる。
電撃コミックスの『re:teen』ではロリータエロスが炸裂していたが、
きらら系の本作ではレーベルカラーを反映し、そちら方面はおとなしめ。
せっかくの題材をいかせてないのは正直不満だ。
初の4コマ連載だとかで、読んでいて窮屈さは否めない。
現役トップクラスの画力の無駄遣いと言えなくもない。
そして掟破りの見開きページで、作者はフラストレーションを解消するが、
下にエクスキューズ的な4コマがあり、いかにも2018年的な作品だとおもう。
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仲谷鳰『やがて君になる』5巻 水族館デート
やがて君になる
作者:仲谷鳰
掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2015年-
単行本:電撃コミックスNEXT
5巻所収の第24話は、あなめづらしや、侑が燈子を誘っての水族館デート。
人間関係では冷めてるくせに、クラゲをみると目をかがやかす。
ラブコメや百合において、デートシーンは最大の見せ場。
アカデミックな要素のある水族館は、世界観をどことなくハイブラウに演出する。
クラゲとメンダコをまちがえた燈子に怒ったり、
ふだん可愛げのない侑がやけに可愛らしい。
さいきんダイオウグソクムシとか、海洋生物が女子の人気をあつめている。
『スプラトゥーン』がウケてるのもその一環だろう。
ウェットな海洋生物は、性的な匂いをただよわす。
イルカショーの最前列でふたりがびしょ濡れになる場面は、
仲谷の淡白で乾いた絵柄においては、もっともエロティックなもの。
トンネル型水槽の描写は圧巻。
仲谷はカラーが非常にうまいが、モノクロでも深い「色彩」をほどこす。
閉塞感と開放感、不安と希望がからみあい、消失点にすいこまれる。
すでに本作は、ストーリーをたのしむ作品ではなくなっている。
葛藤がはっきりしないし、成功や挫折や、主人公の成長はえがかれない。
セリフつきの画集みたいなものだ。
それでもこの水族館デートは、可憐で繊細なのに、やけにひんやりとした、
仲谷の作風にぴったりで、読んでてため息が出てしまう。
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鬼八頭かかし『たとえ灰になっても』4巻
たとえ灰になっても
作者:鬼八頭かかし
掲載誌:『ヤングガンガン』(スクウェア・エニックス)2016年-
単行本:ガンガンコミックス
「思考型鬼ごっこ」篇も佳境である。
プレイヤーは、がむしゃらに追いつ追われつを繰り広げるのではなく、
辯舌を駆使し、命懸けのゲームでのサバイバルをはかる。
「麗奈」と「姫蘭」の激突が、4巻のおたのしみ。
特に後者の壊れっぷりは見ものだ。
しかし、主人公「ユキ」が傍観者の立場におかれたせいで、
丁半ダウト篇とくらべ、感情移入しづらくなったのは否めない。
主人公をはっきりさせるのがストーリーの要だ。
たとえば僕は、さいきん『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』をみたが、
有象無象があっちこっちでウロチョロする、ダメな脚本の典型だった。
むろんスターウォーズは、40年の歴史と、世界規模のファンのコミュニティと、
たっぷりの時間と予算がある、一種のお祭りだからあれで許されるのだろうが。
ただし、サブプロットそれ自体はあじわいぶかい。
31・2話は、自己犠牲的に麗奈をたすける「ルセット」の回想シーンが中心。
カニバリズムが描写される。
これ以上強い刺激はないと言えるテーマだ。
露悪的な表現と、かわいたユーモアと、
可憐な絵柄が渾然一体となった、特異な世界観を堪能できる。
「本名を呼ばれたら即死亡」とゆう風変わりなルールも、ここで効を発する。
寄り道したのも納得できるエピソードの完成度だ。
やはり本作はすばらしい。
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コナリミサト『凪のお暇』3巻
凪のお暇
作者:コナリミサト
掲載誌:『エレガンスイブ』(秋田書店)2016年-
単行本:A.L.C.DX
『凪のお暇』の特色は世界観だ。
レディコミ誌連載だが、恋愛やセックスの比重はひくく、題材に広がりがある。
広すぎるくらい。
3巻では、凪を不幸にした元カレ・慎二の実家を訪問したことが回想される。
お母さんはキレイで天然キャラで、みな仲がよく、
わざとらしさは若干感じるけれど、理想的な家族にみえた。
ほかの登場人物とおなじく慎二の家族も、心に空洞をかかえている。
作者はそこへ容赦なく手をつっこみ、ガリガリかきむしる。
あれほど読者のヘイトをあつめた慎二が、主人公におもえる瞬間すらある。
本作の重要テーマのひとつは家族。
3巻でいよいよ凪の母親が登場する。
北海道のトウモロコシ畑ではたらいているなんて、
ドロップアウト前の凪のイメージからかけ離れており、衝撃的。
凪と母親の外見は、髪質以外は似ている。
外ヅラのよさも同様。
ただ母親は支配欲がつよく、電話で娘をねちっこく責める。
凪が絵に描いた様な優等生となり、結局ポキッと折れたのも納得。
イベントオーガナイザーだかなんだかをしている、
うさんくさいお隣さんのゴンと、レディコミらしくことにおよぶ。
28年の人生で一番の快楽で、凪は身心ともに満たされる。
ところが余韻にひたりつつ振り返ると、ゴンはソシャゲをしていた。
日常と「背中合わせ」の虚無感が、ぱっくり口をあけて主人公と読者をのみこむ。
このあまりに世知辛い世の中をいきぬくための「節約術」も健在。
パーカーを即席のバッグにし、図書館に本を返却後、
着て帰ってくるなんて窮極のテクニックも披露される。
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吉沢雅『クロユリ学園 大奥学科』
クロユリ学園 大奥学科
作者:吉沢雅
掲載誌:『アワーズGH』(少年画報社)2017年-
単行本:YKコミックス
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主人公は新高1の「水無月美雨」。
勉強はできないが、なぜか超名門の「黒百合学園」に合格した。
まわりはお嬢さまばかりで、なじめない。
美雨はストレスをためこみながらも、適応しようと努力する。
ヒロインの過剰な感情表現がみどころ。
美雨は連日、精神的な攻撃をうけつづける。
ただしこれはイジメではない。
なんの変哲もない庶民なのに、スクールカーストの上位12名による、
生き残りをかけてのバトルロイヤルに巻きこまれた。
美雨に特別な能力はない。
育ちが悪いからと自分をみくだす女たちと正面からむきあい、
ひとりひとりの心をひらかせてゆく。
太めのくっきりした描線が魅力的だ。
ライバルにはさまざまなタイプがおり、上級生の「葉月梢」などは、
指と道具で絶頂へみちびくテクニックをもちい、じわじわ美雨にせまる。
本作が初単行本だそうで、あちこち荒い部分はあるけれど、
表情や動きや構図など、絵面のはなやかさは注目に値する。
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2018年冬アニメ(OPを中心に)
『citrus』はサブロウタの百合漫画が原作で、アニメ自体がひとつの事件だ。
義理の姉妹の、複雑ではげしい恋愛感情をえがく。
闊達な竹達彩奈と、なぜか百合姫作品に縁がある津田美波の、
緊迫感と親和性を両立させたやりとりが水際立っている。
親の再婚がどうとか、ストーリーは荒唐無稽だが、
アニメ版はいまのところ忠実に原作をなぞっている。
カメラワークや声優の演技により、『citrus』の時空が現出するのに感動した。
EDでは、サブロウタのイラストをつかっている。
原作のタッチを活かすとゆう宣言だろう。
キャラデザなどでアニメに最適化した変更をほどこすのはよくあるし、
決して間違いではないが、本作はその道をえらばない。
芽衣の憂いをふくんだうつくしさは、見ていてため息がでるほど。
OPテーマはnano.RIPEが担当。
ナイフの様にするどく、それでいてエモーショナルな楽曲を提供している。
尖っていて取り扱いは要注意だけど、時代の先端にふれられるアニメだ。
『三ツ星カラーズ』は、カツヲが『コミック電撃大王』に連載する漫画のアニメ化。
女子小学生3人からなるグループが、わちゃわちゃ大騒ぎしながら、
地元である上野の街におこる事件を解決する。
本記事でとりあげる4作品のOPでは、楽曲の質が一番高いかもしれない。
サビの部分のコーラスなどヘッドホンで聞いていると、
畑亜貴による歌詞もあいまって、かるくトリップできる。
僕の好みから言うと、話のテンポがやや物足りない(シリーズ構成:ヤスカワショウゴ)。
でも、丹念にロケハンしたであろう上野の風景などはアニメむきの題材で、
見ていてたのしい作品にはちがいない。
『まんがタイムきらら』連載の4コマ漫画だ。
OPテーマの作詞はベテランの岩里祐穂。
「ポップコーンみたいにね めざめてく細胞」なんて、
キラーフレーズがとびだす冒頭からゴキゲン。
主要キャストは、近藤玲奈・伊藤彩沙・嶺内ともみ・長縄まりあと若手をそろえる。
近藤は18歳だし、嶺内は新人にちかい。
しかしこれがまあ、ぴったしの配役なのだ!
原作を読むとき脳内再生されていた音声が、テレビから流れてきて仰天。
音響監督は明田川仁だが、いったいどうゆう秘術を駆使してるのか。
きらら系アニメはOPがすべて、みたいなところがある。
パワーポップ的なイントロに、流麗なストリングが重なり、画面に桜吹雪が舞い、
そしてサビの「ne!ne!ne!」でキャスティングの妙を存分にしめす。
本篇もよいが、このOPはまさしく「きららポップ」の完成形だ。
『刀使ノ巫女』は、Studio五組制作のオリジナルアニメ。
刀をふるって戦う少女たちの物語だ。
Studio五組はゴンゾから独立した会社で、
かつて『ストライクウィッチーズ』に関わっていたそうだ。
ストパンファンの心をくすぐるOPになってるし、
チャンバラの動きのよさは『織田信奈の野望』を髣髴させる。
女の子の横並びとか、「日本刀×JK」とかの絵に、僕はよわい。
先鋭的だったり誘惑的だったり、革新的だったり迎合的だったりする、
深夜アニメのもののふたちが、あらたな時代へ斬りこんでゆく。
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ボマーン『魔法少女は笑わない』
魔法少女は笑わない
作者:ボマーン
発行:双葉社 2018年
レーベル:アクションコミックス
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魔法少女を題材とする、1巻完結の4コマ漫画である。
美少女たちは超常的なパワーで妖獣とたたかう。
主人公はポニーテールの「鬼道イオリ」。
彼女の魔力は、ふだん笑顔をつくることで充填される。
しかし人前で笑うのが苦手で、活動に支障をきたしている。
お約束のマスコットキャラは、フクロウと自称する「ホー助」。
イオリの相棒である「エミ」もまじえ、ドタバタの日常がえがかれる。
ボマーンは4コマを中心に12冊の単行本がある。
どちらかと言えばギャグよりの作風らしいが、萌え4コマとしても十分機能する。
マイペースなお嬢さま「ノドカ」もいいキャラだ。
一方で『魔法少女まどか☆マギカ』に作者はいれこんでるらしく、
本作はまどマギへの真剣なオマージュでもある。
4コマとしてはストーリードリブン傾向がつよく、非日常が日常を侵蝕してゆく。
ストーリーは終盤に加速する。
イオリが笑うのが苦手だった理由があきらかに。
記憶をめぐるどんでん返しに胸をゆすぶられる。
紙幅こそ130ページにすぎないが、1クールのアニメにひとしい読み応え。
これは傑作だ。
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マウンテンプクイチ『球詠』3巻
球詠
作者:マウンテンプクイチ
掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2016年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
僕は『球詠』を傑作とおもうが、ふだん野球を全然みないし、
野球漫画にもくわしくないので、比較考量できないのが恨めしい。
たとえばこうゆうまとめ記事を参考にすれば、
リアリティや理論をおもんずる『おおきく振りかぶって』系統に、
百合とゆうファンタジーを融合させた作品と推定できるが、
われながら知ったかぶりをしている感が否めない。
ただ逆に、きららや百合姫を愛好する野球漫画ファンもそういないはずで、
的外れな内容にならないよう留意しつつ、3巻について語ってみよう。
ついに埼玉県大会が開幕する。
初戦のマウンドにたつのはヨミでなく、急造ピッチャーの理沙先輩。
強豪とおなじブロックにはいったのでエースを温存した。
それはともかく後ろ姿がキマってる。
新越谷最大の武器はおそらく、データを駆使するマネージャー芳乃の頭脳。
しかし、初戦の相手である影森はまったく情報がない。
「鎖国」的なチームプレーで翻弄してくる影森を攻略するさまを、
あいかわらず緻密に、そして爽快にえがく。
4回1死二塁で、初心者の息吹に投手交代。
双子の妹のオモチャとして野球をやらされており、度胸もないが、
ここにきて仲間の信頼にこたえたいとゆう気持ちにめざめる。
息吹がはじめてみせる引き締まった表情は、本巻のハイライト。
なんてかわいいんだろう。
本作の特色は「絵になる」につきる。
たあいない日常や、まじめな技術や戦術の描写をつみかさねても、
素材がJKなので地味になるどころか、すべてのページにぱっと花が咲く。
僕が画期的な傑作とよぶ所以である。
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山崎零『恋せよキモノ乙女』
恋せよキモノ乙女
作者:山崎零
掲載誌:『月刊コミック@バンチ』(新潮社)2017年-
単行本:バンチコミックス
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和服がテーマの漫画である。
ふだん受付嬢として働く「野々村もも」は、祖母の影響で着物がだいすき。
休日のたのしみは、行き先や季節にあわせ、
丹念にかんがえたコーディネートでお出かけすること。
ももには現在、恋人はいない。
ただ、老舗の喫茶店でみかけた美青年が気になっている。
ゆっくり進展してゆく恋模様も、本作のエッセンスだ。
公式サイトによると作者は日本画をまなび、和服も着こなすらしい。
細部の描写は確かなのだろう。
ももは、いかにも着物が似合いそうな寸胴体型なのがほほえましい。
着物に興味のない姉のため、古風な妹が浴衣をみつくろい、
一緒に奈良のおふさ観音へ足をのばす。
姉はツバメ、妹はアサガオの柄で、さわやかな装い。
ここでえがかれるエピソードは、姉妹らしくてジンとくる。
あと関西弁も心地よい。
ちょっとした知識や投資や手間暇は必要だが、身にまとうだけで、
あでやかではんなりとした異世界へ人をいざなう魔法の服。
それが着物。
主人公の不器用な恋にやきもきしながら、いつのまにか読者は、
お気にいりの画集のなかに迷いこんだ様な心地になるはず。
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糸川一成『空男 ソラダン』
空男 ソラダン
作者:糸川一成
掲載誌:『モーニング』(講談社)2017年-
単行本:モーニングKC
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高校3年の「空賀(くが)カケル」は飛行機で、修学旅行先の長崎へむかっていた。
厚い雲につっこんだ機体がはげしく揺れる。
自分にやさしくしてくれたCAの「妃さん」をみると、絶望的な表情で首を横にふる。
カケルは恐怖のあまり絶叫する。
飛行機はなんともなかった。
妃さんの態度は、離陸前に「別にきょう死んでもいい」とうそぶいていた、
生意気なカケルをからかっただけ。
母子家庭で生活がくるしく、将来に希望をもてなかったカケルは、
雲の世界をながめながら妃さんと話したのが動機となり、進路をきめる。
つまり男性CAとして「日本アイランド航空」へ就職する。
単行本折り返しのコメントによると、作者の母親がCAで、
自宅は同僚のCAたちがよく出入りしていたらしい。
おそらくそれが理由で本作は、われわれ一般人がいだきがちな、
CAにまつわるステレオタイプを避けるのに成功している。
キャピキャピしておらず、職業人としてのリスペクトがある。
勿論、みなうつくしいのだが。
カケルの同期となった「八雲はな」。
美人で優秀で、大手にも余裕で就職できそうなのに、
消滅寸前のいまの会社につよくこだわる。
親会社から出向した教官に食ってかかるほど。
はなの思い入れのきっかけをえがくエピソードは短いが、心あたたまる内容。
華やかで、だれもが気になる存在であろうCAの世界の、
簡単に踏みこめない舞台裏をのぞけて興味ぶかい。
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成家慎一郎『まなかの杜』
まなかの杜
作者:成家慎一郎
掲載誌:『コミックヘヴン』(日本文芸社)2017年-
単行本:ニチブンコミックス
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杜の都・仙台にある神社を舞台とする物語。
主人公である女子高生「日下まなか」は、雪降る夜にたまたま通りかかる。
そこで、ある出会いを経験する。
まなかは母子家庭のひとり娘。
病弱な母にかわり、バイトで家計をささえている。
正直、放課後にはたらく毎日はつらいし、もっと遊んだり恋をしたりしたい。
でも根がマジメで優しいので、ついがんばってしまう。
神社で出会った相手は、雪の様に白い髪をした美青年「近臣(ちかおみ)」。
その正体は、仙台を守護する神様。
ファンタジー色のつよい作品である。
まなかは近臣の、浮世離れした雰囲気にひかれてゆく。
正体は知らないまま。
不器用で健気なツインテール女子。
これほど心をつかむヒロインは稀だ。
魅力的な脇役たちが、メインプロットにからむ。
たとえば、おっちょこちょいな母親との関係性のたのしさ。
もしくは「伊達政宗」を名乗る中二病男子。
まなかは知らないが、ホンモノである。
ラブコメ・恋愛もの・青春もの・御当地もの・ファンタジー……。
いくつかのジャンルにまたがる本作は、ひとことで特徴を言い尽くせない。
ただヒロインの、思春期女子らしく繊細でピュアなたたずまいに、
多くの読者を支持をあつめるポテンシャルを感じる。
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渡邉嘘海『エデンの処女』
エデンの処女
作者:渡邉嘘海
掲載サイト:『COMICリュエル』(実業之日本社)
単行本:リュエルコミックス
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生物兵器によって男が死滅した世界をえがく、SF要素のある百合漫画だ。
作者の初連載で初単行本らしい。
舞台は「白咲耶学園」。
園藝部の處女たちは、百花繚乱の庭園をつくりあげている。
ジャンル的には、マリみて系のクラシック百合に分類できるか。
1巻で印象的なキャラクターは、長い黒髪がうつくしい「藍宮葵」。
スカートの下にいくつも鋏をしのばせている。
無口で、ときに攻撃的。
園藝部をひっかきまわす主人公に、葵はつらく当たる。
言葉で責めても折れないので、肉体を征服しようとする。
作品世界で生殖は、女同士でおこなう。
そのいとなみを「恋」とよぶ風習はのこっているが、まがい物の匂いもただよう。
双子の様にそっくりなふたりが実は双子じゃなく、表面的には仲よしだが、
せつない運命をうけいれた上であかるくふるまっていたりする。
草花や少女などキレイキレイなもので画面をうめつくしつつ、
その影の部分も濃密に描写するのが本作の特色だ。
いかにも新人らしく、好きなものを目一杯つめこんだ作品となっている。
主人公の動機づけが弱かったり、世界観を供覧する手際がよくなかったり、
そこかしこに拙さは感じるものの、この熱量は貴重なものだ。
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