室井まさね『煉獄女子』
煉獄女子
作者:室井まさね
掲載サイト:『コミックガンマ』(竹書房)
単行本:バンブーコミックス
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すこし百合風味のサスペンスである。
高校入学初日、内気な「浦辺詩音」は期せずして、
ミステリアスな長い髪の美少女と親しくなる。
詩音は中高一貫の私立校で、中学時代からイジメにあっていた。
本当はほかの高校へ通いたかったが、親の反対にあい、しかたなく入学。
小便漏らしたとかどうとか、初日から容赦なく攻撃される。
だから、外部入学であるため中学時代の詩音を知らず、大人びた雰囲気で、
まわりに流されない「瀬尾霧恵」と仲良くなれたのは、詩音にとって幸運だった。
ところが、下校中にちょっとしたトラブルが。
内臓も露わなネコの轢死体が、道端にあった。
霧恵は動じる素振りもみせず、靴底の血を地面でぬぐう。
靴が汚れたことしか気にしていない。
登場人物の異常さをつたえるエピソードとして秀逸で、
僕はこのシーンをためし読みして購入をきめた。
本作はサイコスリラー色が濃い。
どうやら霧恵は連続殺人者であるらしく、詩音をイジメたものたちが犠牲になる。
一般に、学園を舞台とするスリラーは荒唐無稽になりがちで、
そうゆう先入観をうちやぶるほどのポテンシャルは、本作に感じない。
しかし、ただ怯えるだけだった詩音が翌日にネコの供養をするなど、
女子キャラの対比があざやかで、たとえば『ハッピーシュガーライフ』の様な、
百合サスペンスを愛好するひとびとに推奨できる作品だ。
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神崎かるな/黒神遊夜『武装少女マキャヴェリズム』7巻
武装少女マキャヴェリズム
作画:神崎かるな
原作:黒神遊夜
掲載誌:『月刊少年エース』(KADOKAWA)2014年-
単行本:角川コミックス・エース
7巻から新章突入。
姉妹校・誇海共生学園の幹部6名が、ノムラを斃すため乗りこんでくる。
神崎・黒神作品の醍醐味と言えば、団体戦。
敵である「六王剣」のたたずまいからして、そそられる。
すでに前巻で異彩を放っていた「霧崎千鳥」に、さらにスポットライトをあてる。
気合いのはいったゴスロリ系の着こなしと裏腹の、
凶暴で予測不能な言動がたのしい。
蝶華との衝突がおきる。
千鳥のエモノは傘。
くりだす技はフランスのステッキ術「ラ・カン」で、
持ち手の部分でフッキングをしかけるなど多彩だ。
ののが、ライバルである蝶華に助太刀する。
学校の廊下でのバトルを描かせたら、神崎・黒神コンビが世界一。
7巻後半の一戦は、近接格闘術における博覧強記ぶりをいかし、
意外性にとむ作者らしいシーンとなっている。
前作の「龍之介×祥乃」戦にも匹敵。
ノムラは月夜に弟子入りし、魔弾の改良につとめる。
「左肱切断」など、お得意の術理解説が細密かつ熱い。
作者にとってジゲン流はもはや哲学で、作品の根幹をなしている。
団体戦とはつまり、個人戦と集団戦のいいトコ取り。
一癖ある剣士たちが、ますますキャラ立ちし、学園は修羅場と化してゆく。
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鈴木マサカズ『マトリズム』
マトリズム
作者:鈴木マサカズ
掲載誌:『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)2017年-
単行本:ニチブンコミックス
さいきん力作を連打している鈴木マサカズの新刊は、
違法ドラッグに溺れる人間たちと、それを追う捜査官の物語。
野次馬根性を刺激するテーマなのはたしか。
主人公は、白髪の麻薬取締官「草壁圭五郎」。
厚生労働省の役人だが、拳銃の携行を許可された法執行官でもある。
ドラッグをはげしく憎み、売人には暴力も辞さない。
有名大学に通いながら、そこで大麻を売りさばく男を尋問する。
男はすこしも悪びれることなく、理路整然と抗議してくるが、
「小宇宙(こすも)」とゆう自身のDQNネームを呼ばれた途端に号泣。
ストレスに押し潰され、ママ友にすすめられたMDMAに手を出す主婦など、
われわれの社会の見えざる部分に形成されているネットワークをえがく。
個々のエピソードはやや食い足りない。
作者のスタンスがドラッグに否定的で、野次馬根性がいまいち満たされない。
どれくらいキモチイイのかとか、フツウ知りたいでしょう。
でも、カラカラに乾いた筆致は作者ならではのもので、
本作もその空気感をじっくり堪能できる。
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中山敦支『うらたろう』完結
うらたろう
作者:中山敦支
掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2016年-
単行本:ヤングジャンプコミックス
あっけなく完結である。
中山敦支はSNSでピーチクパーチクおしゃべりするタイプではないが、
それでも本作について沈黙しているのは異様だ。
尻切れトンボ的な連載終了で、本作の缺点が浮き彫りに。
ひとことで言うと「自己模倣」。
たとえば、あまりに唐突で理不尽な暴力。
そしてカウンターとして炸裂する、主人公側のプランB。
これらを見開きで、象徴的に表現する。
本作においても、絵そのものはみごとだ。
だれも中山にかなわない。
でも、既視感がある。
なお本項の以下の段落は、軽いネタバレとグロテスクな描写をふくむので注意。
黄泉の国から帰還したちよは、まるでイザナミの様な変わり果てた姿に。
ここでも中山は、ヴィジュアル面でアクセルペダルを床まで踏みこむ。
じわじわひたひた、なおかつ性急に、せまりくる圧倒的な「死」。
それをやさしく受け止める主人公。
『ねじまきカギュー』とくらべ外面的に上達しているが、精神的な成長は感じない。
長い時間をかけ弓をひきしぼったが、肝心の矢が折れていたとゆう印象。
中山敦支は、自身の代表作との戦いに敗れた。
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藤田かくじ『放課後少女バウト』2巻
放課後少女バウト
作者:藤田かくじ
掲載誌:『月刊キスカ』(竹書房)2016年-
単行本:バンブーコミックス
女子高生の総合格闘技もの、第2巻が登場。
可憐な少女らのガチバトルがさらに白熱する。
試合コスチュームの華やかさが、本作のウリだ。
それどころか「文野みゃこ」の本職はアイドル。
顔を殴らせないよう、お尻をつきだす大胆なポジションをとる。
2巻のハイライトは「墨田文花」戦だろう。
コスチュームの長い裾をディフェンスや絞め技にもちいる、独特のスタイルだ。
ヒロイン「辰乃」は裾で拘束され、間合いをコントロールできない。
くりかえし痛烈な打撃をあびる。
目をそむけたくなる光景。
しかし辰乃はもう片方の裾をつかい、ベースボールチョークをきめて逆転。
恍惚の表情をうかべながら、文花は眠りの世界へ落ちてゆく。
実は辰乃の大ファンだった文花は、激戦のあとに記念撮影。
本作はちょっとストーリー面が弱いけれど、
血まみれ痣だらけの百合として稀少価値がある。
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コナリミサト『凪のお暇』2巻
凪のお暇
作者:コナリミサト
掲載誌:『エレガンスイブ』(秋田書店)2016年-
単行本:A.L.C.DX
空気を読みすぎてメンタル崩壊し、ドロップアウトしたが、
そこからの再生をめざす28歳の元OL「凪」の物語。
2巻では、凪を都合よく利用して追いつめた主犯である、
元カレ「慎二」の価値観がくわしく説明される。
営業マンとしての非凡さや、凪が必死に隠していた弱点「くせ毛」を知っていて、
それでも付き合っていた事実などが明かされる。
ただその優しさを恋人につたえられず、ふたりの心はすれちがっていた。
新居であるボロアパートで、突然はじまったトランプ大会。
凪は本当の自分をとりもどすため、慎二に勝負をいどむ。
しかし慎二にも共感している読者は歯がゆく、複雑な気持ちになる。
隣に住む母子家庭の、女子小学生「うらら」にもスポットライトがあたる。
一ひねりも二ひねりも利いた、印象的なエピソードだ。
地球に74億の人口がいるなら、価値観も74億通り存在する。
それらは重層的な構成になったり、反発しあったり、溶けあったりする。
人はその総体を「世界」と称しているわけだが、
本作ではそうゆう濃密な世界の一端を触感できる。
2巻で確信した。
これは傑作だ。
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餡蜜『高嶺の蘭さん』
高嶺の蘭さん
作者:餡蜜
掲載誌:『別冊フレンド』(講談社)2017年-
単行本:講談社コミックス別冊フレンド
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主人公の「高嶺 蘭」は高校1年生。
才色兼備なハイスペック女子だが、やや表情がとぼしく、
特に男子からは、文字どおり「高嶺の花」とおもわれがち。
母にたのまれ、塾帰りに花屋へ立ち寄る。
小さいが、おしゃれな店構えだ。
花だけでなく、ワンピースやハンドバッグなどの描写も手が込んでいる。
そこで同級生の「佐伯 晃」に出くわす。
親の仕事を手伝ってるらしい。
男が花をいじるのは恥づかしくて、学校では秘密にしていた。
秘密を共有したふたりは、徐々に親しくなってゆく。
梅雨空の下、相合傘であじさいを見に行ったり。
花とゆう本作の題材は、季節感を出すのにぴったりだ。
少女漫画にしては恋愛要素が控えめで、さっぱりとした読後感。
初デートを前に大混乱におちいる家族など、ほのぼのムードをたのしみたい。
黒髪ロングの無表情なヒロインとゆう点で、
眉月じゅん『恋は雨上がりのように』を連想させもする。
ただ花の描写などヴィジュアルの魅力においては、こちらの方が上だ。
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町田とし子『おくることば』
おくることば
作者:町田とし子
掲載誌:『月刊少年シリウス』(講談社)2017年-
単行本:シリウスKC
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高校周辺を舞台とするサスペンスである。
のびやかな手足の美少女に、刻々と危険がせまる。
男子高校生の「佐原」が主人公らしい。
ジャージ姿に裸足で教室を歩きまわる。
女子のスカートの中をのぞいたり、机にのったり。
自分の机の上には花瓶がある。
佐原はすでに死んでいた。
幼なじみの「千秋」が佐原を道路で突き飛ばし、殺したらしい。
だが、恨みを買った覚えはまったくない。
千秋はほかにも人を殺してるらしく、
これ以上の犠牲を出さない様に、佐原は幽霊として現世にとどまる。
本作は群像劇である。
たとえば、性格最悪なギャル系キャラとして登場した「メイ」は、
実は霊媒師の娘で、霊視能力によって物語をうごかす。
けれどもこの複数視点が、サスペンスのハラハラドキドキ感を弱めている。
だれに感情移入すべきか、読者を迷わせる。
表情ゆたかで、よくうごくキャラクター。
服や小物や背景の丁寧な描きこみ。
大胆で絵になる構図をみせる表現力。
本作のヴィジュアル面はトップクラスだ。
しかし、作者の単行本は10冊以上あるが、
原作付きでないオリジナルは初めてで、プロットの冗漫さが惜しい。
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榛名まお『のけもの少女同盟』
のけもの少女同盟
作者:榛名まお
掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2016年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
真新しい制服に袖をとおし、みんなの前で自己紹介。
きららファンは慣れっこだが、やはりワクワクする場面だ。
主人公の「桐原霞」はいきなり吐血して倒れるけど。
霞は病弱すぎるせいで「保健室登校」を余儀なくされる。
以前、急病で『すずなあたっく!』最終回を描けなかったと明かしてたから、
作者の境遇が投影されてるかもしれない。
霞は学校生活を満喫するため、保健室で部活を創設。
クラスになじめない生徒たちを仲間に引き入れる。
ポニーテール・ヘッドホン・吊り目の「すずめ」は、
ストロングスタイルのツンデレキャラで、さすがの造形だ。
養護教諭の「もも」は、いつも学校制服を着ている。
このテの作品でよくある「生徒にしか見えない先生」ってやつだが、
定型を逆手にとったオチがおもしろい。
ももちゃんはかなり変人で、バレーボールの特訓のため、わざわざブルマを穿く。
ブルマのエロさを最大限にひきだす、3コマめの煽りがすばらしい。
SF色の濃かった『こずみっしょん!』とくらべ、本作はだいぶ「日常」寄り。
それでも時折フッと現実から離陸する瞬間があって、
きららではベテランの部類にはいる榛名まおの実力を見せつける。
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