室井まさね『煉獄女子』

 

 

煉獄女子

 

作者:室井まさね

掲載サイト:『コミックガンマ』(竹書房)

単行本:バンブーコミックス

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すこし百合風味のサスペンスである。

高校入学初日、内気な「浦辺詩音」は期せずして、

ミステリアスな長い髪の美少女と親しくなる。

 

 

 

 

詩音は中高一貫の私立校で、中学時代からイジメにあっていた。

本当はほかの高校へ通いたかったが、親の反対にあい、しかたなく入学。

小便漏らしたとかどうとか、初日から容赦なく攻撃される。

 

 

 

 

だから、外部入学であるため中学時代の詩音を知らず、大人びた雰囲気で、

まわりに流されない「瀬尾霧恵」と仲良くなれたのは、詩音にとって幸運だった。

 

ところが、下校中にちょっとしたトラブルが。

 

 

 

 

内臓も露わなネコの轢死体が、道端にあった。

霧恵は動じる素振りもみせず、靴底の血を地面でぬぐう。

靴が汚れたことしか気にしていない。

 

登場人物の異常さをつたえるエピソードとして秀逸で、

僕はこのシーンをためし読みして購入をきめた。

 

 

 

 

本作はサイコスリラー色が濃い。

どうやら霧恵は連続殺人者であるらしく、詩音をイジメたものたちが犠牲になる。

 

 

 

 

一般に、学園を舞台とするスリラーは荒唐無稽になりがちで、

そうゆう先入観をうちやぶるほどのポテンシャルは、本作に感じない。

 

しかし、ただ怯えるだけだった詩音が翌日にネコの供養をするなど、

女子キャラの対比があざやかで、たとえば『ハッピーシュガーライフ』の様な、

百合サスペンスを愛好するひとびとに推奨できる作品だ。





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神崎かるな/黒神遊夜『武装少女マキャヴェリズム』7巻

 

 

武装少女マキャヴェリズム

 

作画:神崎かるな

原作:黒神遊夜

掲載誌:『月刊少年エース』(KADOKAWA)2014年-

単行本:角川コミックス・エース

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7巻から新章突入。

姉妹校・誇海共生学園の幹部6名が、ノムラを斃すため乗りこんでくる。

 

神崎・黒神作品の醍醐味と言えば、団体戦。

敵である「六王剣」のたたずまいからして、そそられる。

 

 

 

 

すでに前巻で異彩を放っていた「霧崎千鳥」に、さらにスポットライトをあてる。

気合いのはいったゴスロリ系の着こなしと裏腹の、

凶暴で予測不能な言動がたのしい。

 

 

 

 

蝶華との衝突がおきる。

千鳥のエモノは傘。

くりだす技はフランスのステッキ術「ラ・カン」で、

持ち手の部分でフッキングをしかけるなど多彩だ。

 

 

 

 

ののが、ライバルである蝶華に助太刀する。

 

学校の廊下でのバトルを描かせたら、神崎・黒神コンビが世界一。

7巻後半の一戦は、近接格闘術における博覧強記ぶりをいかし、

意外性にとむ作者らしいシーンとなっている。

前作の「龍之介×祥乃」戦にも匹敵。

 

 

 

 

ノムラは月夜に弟子入りし、魔弾の改良につとめる。

「左肱切断」など、お得意の術理解説が細密かつ熱い。

作者にとってジゲン流はもはや哲学で、作品の根幹をなしている。

 

 

 

 

団体戦とはつまり、個人戦と集団戦のいいトコ取り。

一癖ある剣士たちが、ますますキャラ立ちし、学園は修羅場と化してゆく。





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『群狼のプリンセス』 第2章「突入」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 ジュンはBMXから降り、ビルが立ち並ぶ区画の隙間を抜ける。部下が監視所にしている雑居ビルが裏側にある。ころがるゴミ箱をまたぎ、蜘蛛の巣を払いつつ進む。非常階段で雑居ビルの屋上までのぼる。エアコンの室外機がゴンゴンと鳴っている。

 屋上では一番隊所属の大谷良輔、通称「ヲタ」が腹這いになり、向かいの立体駐車場を単眼鏡で監視していた。三階建ての駐車場は改修工事中で、足場と防音シートで全体が覆われている。

 ジュンはヲタの隣に腰を下ろし、尋ねる。

「水もってない?」

「ん」

 ヲタは監視対象から目を離さず、水筒をわたす。

 遠慮なくすべて飲み干し、ジュンが言う。

「ついにあたしは悟ったね。イケメンと警官にロクなのはいないと」

「同意」

「それでもイケメンは好きだけど」

「不同意。男は顔じゃない」

 ジュンはコンクリートの床面に仰向けになる。くすんだ色の青空がひろがる。午後四時だから日没までまだ余裕がある。

「なあ、ヲタ」

「ん」

「あたしってそこそこ可愛いよな?」

「答えづらい質問はやめてくれ。俺は三次元の女に興味ない」

「ガサツな男に囲まれて女子力低下してるけど、素材は悪くないはずなんだ」

 ヲタは今日はじめてジュンの顔を見る。彼は二十一歳の平隊員。身長はジュンと三センチしか変わらない。目が細く、ジュンのかんがえるイケメンの基準から遠い。

「もうマーナを飲んだのか。依存症かよ」

「シラフでもあたしは誰にも負けねえよ。そんなことより状況報告」

「人の出入りはない。でも中からときどき音が聞こえる」

「どんな音」

「笛とか小鼓とか。能を演じてるらしい」

「ノウ?」

「伝統藝能の能楽。歌舞伎みたいなやつ。演目は『葵上』だな」

「よく知ってんね」

「たまたまクイズゲーのイベントで出てきた」

 ヲタは暇さえあれば、大ヒットしたスマートフォンアプリの『アマテラス』で遊んでいる。

 がばっと起きて、ジュンが言う。

「決まりじゃん。般若党だ」

 般若党とは、なんの前触れもなくあらわれたテロ集団の名称。すでに数名の逮捕者が出ているが、警察は既知の組織とのつながりを把握できてない。

 彼らはこの三か月で、丸の内のオフィスビル、上野の東京国立博物館、品川のしながわ水族館の順に爆破テロを実行した。百人以上の死者が出ている。それらは経済・文化・自然のシンボルで、つぎは政治関連の施設が狙われるとの噂がある。

 「反人権主義」を掲げる般若党は、「神を畏れよ」とゆうスローガンのもと、罪なき人々を見境なく殺戮しつづけている。犯行の際に、メンバーが恐ろしげな般若の面をかぶることでも知られる。つまるところ彼らの行動は、突然変異的な一種の集団発狂とみなされている。

 だから般若党と無関係の人間が、工事中のビルでこっそり能を演じるなんてありえない。自分たちは怪しい者ですと宣言する様なものだ。

 アカツキの制服のレザージャケットを着た男たちが、非常階段からゾロゾロのぼってくる。全員で八名。率いるのは身長百八十五センチで体重百三十キロ、いかつい顔の巨漢だ。名前は原田恵一。二十五歳。一番隊の副隊長をつとめる。外見にもとづき「チャンコ」と渾名される。

 ふたたびジュンは寝転がり、視線だけ背後のチャンコにむけて言う。

「おせーよ。車が自転車に負けたらダメだろ」

「すまねッス。道路混んでて」

「般若党があそこに潜んでる。突っこむぞ」

「ウッス」

 ヲタが目をぱちくりさせて尋ねる。

「この十人で突入するのか?」

 ジュンが答える。「そうだけど」

「敵の規模や装備が不明なのに? 内部の構造も」

「駐車場なんてどこも同じだろ」

「改修工事中だから、どうなってるかわからない。社長はどんな命令を出したんだ」

「パパは関係ない。指揮官はあたしだ」

「いいから本隊の到着を待とう」

 ジュンは横目で部下の表情を観察する。ジュンに忠実なチャンコ以外の七名に、不安が伝染している。ヲタの意見はもっともだが、作戦開始直前にふさわしいトピックではない。

「ビビったなら帰れ」

「その言い方はない。俺はあくまで戦術的な助言を……」

「うぜえ! あたしは一人でも突入する」

「ちっ」

 アカツキセキュリティの実行部隊は、荒くれ者の集まりだ。もし臆病者のレッテルを貼られたら、居場所はない。隊長を現場にのこして帰投など、できるはずがない。ジュンの論法は、反論を封じる手段としてもっとも卑怯だ。そもそもヲタがアカツキに入社したきっかけは、オタク友達が水族館爆破の犠牲になったこと。臆す理由はない。

 しかし、歯を剥き出しにして吠えるジュンの表情は、まさに飢えた狼。一人で突入すると言い張るのも、ハッタリに見えない。隊員たちはみな慄然とし、ボスに服従する以外の選択肢をもたなかった。




 ジュンと隊員たちは、拳を保護するオープンフィンガーグローブをはめる。マーナガルムをおのおの服用する。アドレナリンが分泌され、五感が研ぎ澄まされる。雑居ビル内部の階段を下り、外へ出る。列をなして向かいの立体駐車場へむかう。

 防音シートに覆われ、中を窺い知れない建物の前で、ジュンは立ち尽くす。

 こまった。

 たしかにヲタの言うとおりだ。どこをどう攻めるべきか見当がつかない。はじめての実戦ってわけじゃないのに。

 ジュンは隣に立つチャンコに尋ねる。

「いまのあたしはどう見える?」

「ウッス」

「表情がいつもと同じかどうか聞いてんの」

「なんか変ッス」

「まじ?」

「ウッス」

「やっぱそうか。ははっ、あたしはビビってるんだ。これが恐怖って感情か。はじめて知った」

「中止するッスか」

「まさか。こうゆうシビれる場面に立ちたくて、あたしらは厳しい訓練を積んできたんだ」

「ウッス」

 入口に守衛が立っている。紺の制服を着た白髪の老人だ。テロリストの一味ではない。いちおう同業者なのでジュンにはわかる。

 社員證を掲げ、ジュンが言う。

「中を調べさせてもらうぞ」

 守衛は背を向け、躓きながら駐車場の中へ駆けこむ。スロープをのぼり、震え声で叫ぶ。

「みなさん、警察です!」

 ジュンはカーボンスチール製の特殊警棒を伸ばし、守衛を追いかける。後頭部を打って昏倒させる。立ち止まらずスロープをのぼりきる。

 駐車場内部は外光が取り入れられず、昼間なのに薄暗い。紅のはいった唐織を着て、般若の面をかぶった人間が舞っている。背後で二名が、笛と小鼓を演奏する。それを二十名ほどの人間がだまって床に座り、鑑賞している。

 異様な光景だ。般若党にとって欠かせない儀式なのか。テロ決行前に士気を高めているのか。それとも、本当に狂っているのか。

 ジュンは疑念を振り払い、叫ぶ。

「警視庁預かり、アカツキセキュリティだ! 特殊警備業法にもとづき強制捜査をおこなう! 抵抗する者は実力をもって制圧する!」

 老いた守衛の声は二階まで届かなかった。みな目を丸くして硬直する。シテ方の面の下の表情はわからないが。能を鑑賞していた三名が立ち上がり、素手でジュンに殴りかかる。

 チャンコの巨体が立ち塞がる。隊員のなかで彼だけは警棒をつかわない。砲丸投げ選手として鍛えた豪腕が、唯一の武器だ。チャンコの右ストレートを食らって、立っていられる人間はいない。嵐の様に三人吹き飛ばす。

 ジュンはあえて動かない。戦況を多角的に分析している。格闘の技術や敏捷性なら自分が優る。ただチャンコの圧倒的な体格と声量自体が、敵を威圧する。序盤は好きなだけ暴れさせた方がいい。

 敵は二十四名。ジュンは数学が苦手だが、不思議に交戦区域だと頭が冴え、俯瞰で局面を認識できる。五人が倒れ、七人が逃げ道を探し、ちょうど半数の十二名がまだ戸惑っている。

 小鼓方が楽器を放り投げ、かわりに足許の武器を拾う。イスラエルのIMI社のアサルトライフル、ガリルARM。

 ジュンが叫ぶ。「ライフルだッ!」

 叫ぶと同時にジュンは走り出している。小鼓方がフルオートでガリルを発砲。ジュンは走り続ける。止まらないとゆうことは、銃弾は当たっていない。小鼓方に肉薄し、前頭骨を警棒で粉砕する。

 アカツキセキュリティの実行部隊は、小火器程度では怯まない。怪しいドラッグをキメた貪欲なモンスターであり、たぶんテロリストより恐ろしい。

 噂が真実だと知った般若党は、秩序が完全に崩壊する。七名がすでに行動不能、十二名が奥のスロープから階下へ逃げた。つまり、二階にのこっているのはこちらと同数の五名。

 ジュンは手勢を二手に分け、ヲタが率いる別働隊を一階に待機させた。わざと二階で挟み撃ちにせず、敵のための退路をつくった。窮鼠猫を噛むと言う。追い詰められた敵が死兵とならないよう、さりげなく罠へみちびいた。

 般若党のひとりが、拳銃を自らのこめかみに当てて叫ぶ。

「神を畏れよ!」

 発砲した。これで五対四。勝利は目前だ。

 ドガーン!

 意表を突き、轟音が響く。

 フロアに煙が充満する。自爆攻撃か。ジュンは屈んで比較的清浄な空気を確保し、射撃の標的になるのを避ける。視野が徐々にクリアになる。爆弾ではなかった様だ。床に瓦礫が散らばる。見上げると天井の一部が崩落している。もともと老朽化していた部分が、今回の騒ぎで崩れたのだろう。

 これまで二階にいなかった、ポロシャツの男が瓦礫の上に倒れている。脛骨を折ったらしく、脚がおかしな方向へ曲がっている。脅威ではない。

 崩れた天井の穴から、マッシュルームカットの男が階下をのぞいている。ジュンと目が合い、あわてて隠れる。

 即座にジュンは駆け出し、奥のスロープを回って上へむかう。




 三階に人影はない。セメント袋や台車など、建築の資材や器具が点在し、見通しが悪い。

 剥き出しになっている鉄骨の陰から、筋骨隆々の丸刈りの男が飛び出す。ジュンの左側から、太い鉄筋を振りかざし襲いかかる。頭に当たれば即死だろう。ジュンは警棒で鉄筋を受け流すと同時に、左手で敵の右腕を押してパリイングする。すっぽ抜けた鉄筋がスロープを転げ落ちる。

 ジュンは痺れた右手の代わりに、右足をもちあげる。身長は敵の方が十センチ以上高い。自らの上体を傾け、左足は爪先立ちとなり、ピンクのニューバランスで丸刈り男の側頭部を打つ。

 ジュンのハイキックは、チャンコの右ストレートより強い。日本刀の斬撃の様に意識を断つ。重力に捕らわれた丸刈り男は、無慙な肉塊と化した。

 これが暁大五郎が編み出した、棒術を主体とする汎用格闘術「アームズ」だ。アカツキセキュリティの実行部隊は、薬物の力も借りつつ、一切の火器をもたずに重武装の敵を制圧する。元警察官である大五郎は、自分の部隊を警察より臨機応変で、より強靭な組織にしようと目論んだ。誇大妄想だと嘲笑する者たちを、骸の山を築くことで黙らせた。

 そして一人娘である暁ジュンは、大五郎の理想の体現者、この戦闘システムの完成形だった。

 フラミンゴさながらに片足立ちのまま、ジュンはフロアを睥睨する。マッシュルームカットの男が姿をあらわす。積み重なった木製パレットの背後に隠れていた。ジュンを制止する様に、左の手のひらを向けて言う。

「話がちがう。お前たちは聞いてないのか?」

 ジュンはマッシュルームの発言内容より、右手の拳銃に関心があった。IMIのジェリコ941。銃口は下を向いているが撃鉄が起き、セフティも解除されている。

 五・一五事件に遭難した犬養毅が、自分を殺しにきた海軍将校のグループに対し、「話せばわかる」と説得をこころみたのは有名だ。しかし、一国の宰相の言動としてはあまりに愚かではないか。話してもわかり合えないから、銃器が存在するのだ。

 ジュンは咆哮する。そしてその叫びを追い越す様に突進する。




 戦闘は四十分ほどで収束した。

 本隊を今回構成する二・三・五番隊の三十三名が到着し、駐車場を包囲した。潜伏していた般若党のメンバー二十七名のうち、十九名の身柄を拘束。会社設立以来のすべての実績を、一日で上回るほどの戦果だ。般若党とゆう組織に対する大打撃であり、全滅もそう遠くないと期待できる。

 ジュンは、夕陽に染まりはじめた通りへ出る。ベルクロを剥がし、オープンフィンガーグローブを外す。鉄筋を受けたときの影響か、右人差指に爪下血腫ができていた。

 ほとぼりが冷めた頃を見計らってきた、パトカーが数台並ぶのが見える。アカツキの副社長で、本隊を率いていた石田隼一が、私服の警察官に引き継ぎをおこなっている。

 救急車も駐まっている。ストレッチャーに横たわる一番隊の奥沢英介が、搬送されようとしている。ガリルの五・五六ミリ弾が左上腕に当たった。

 奥沢は上体を起こし、ジュンにむけて弱々しい笑みをうかべる。

「お嬢、すまねえ」

 ジュンは唇を噛み、涙が溢れるのをこらえる。ストレッチャーへ駆け寄り、奥沢を抱きしめる。

「ありがとう。あたしのムチャな作戦につきあってくれて」

「ドジ踏んじまった」

「作戦成功したのは、オクが体を張ってくれたおかげだよ。一番隊のみんなにボーナス出るだろうけど、あたしの分は全額オクに回す」

「いらねえよ」

「ウチの隊で彼女持ちはお前だけなんだ。プレゼントでも買ってあげな」

「ならもらっとくわ」

 奥沢を乗せた救急車が病院へ急行する。貫通したとは言え、ライフル弾は人体組織を深刻に傷つける。後遺症に苦しむかもしれない。もしそうなったら会社として奥沢を支援するよう、父親に頼むつもりだ。

 隣で救急車を見送っていた副隊長のチャンコに、ジュンが尋ねる。

「ほかに負傷者は」

「いねッス」

「嘘つけ。お前、拳を痛めたろ。途中から右ストレートを使わなくなった」

「バレてたッスか」

「折れてんの?」

「わかんねッス。唾つけときゃ治るッスよ」

「ったく。本部で松本先生に見てもらえよ。疲れたんであたしは直帰する。報告は家でパパに直接するから、いろいろ任せた」

「ウッス」




 ジュンは部下がもってきたBMXに跨がる。世田谷まで二三十分は漕がねばならず、つらい。これからは作戦計画に、帰宅手段もちゃんと盛りこもうと固く誓った。

 警察への引き継ぎを終えた副社長の石田が、こちらへ近づいてくる。ジュンは気づかなかったフリをして発進しようとするが、呼び止められる。

「お嬢、今回は御苦労だった」

「どうも」

 ジュンは、ペダルに足をかけたまま答える。

 石田は三十六歳。アカツキセキュリティの副社長兼COOをつとめる。制服のレザージャケットを着用し、身長も百八十センチ近くあるが、実行部隊の屈強な男たちとくらべて体格は見劣りする。八年前、暁大五郎に誘われて新会社に加わる前は、慶應大学で数学の研究をしていた。その異色のキャリアゆえについた渾名が「教授」。陣頭指揮より、資産運用など経営面で会社に貢献している。

 ずっと教授に付き添っていたパンツスーツの女が、腰に両手を添えながらジュンに言う。

「ジュンさん」

「なに」

「副社長と話すのに、自転車に乗りながらって態度はおかしいでしょう」

「…………」

 ジュンは教授を一瞥する。教授は無言で黒縁メガネをいじる。不快に感じていたらしい。

 口をへの字に曲げたジュンは、BMXから降りて傍らに立つ。自立しないのでハンドルを握ったまま。

 腸が煮えくり返る。

 たしかにあたしは親の七光りを笠に着て、最年少なのに会社でデカい面をしてるのは否定できない。同族経営の弊害の典型と言われたこともある。

 でも、テロ集団を一網打尽にしたばかりなんだから、大目に見てくれてもいいじゃないか。

 パンツスーツの女が尋ねる。

「なぜ副社長の許可なく突入したの」

「質問の意味がわからない」

「あなたもブリーフィングにいた。一番隊の役割は後詰めだったはず」

「そうだね」

「これは査問にかけるべき問題よ」

「パパ、いや社長に指示された」

「なんて言われたの」

「さあ。わすれた」

「とぼけないで!」

 パンツスーツの女が、真っ赤になって叫ぶ。

 彼女の名は山咲亮子。二十六歳。四番隊の隊長をつとめるが、秘書みたく教授に随伴することが多い。五年前にミス慶應に選ばれたとかで、社内で露骨な慶應閥を形成している。

 ミスコン優勝者であるくらいだから、知的な美人だ。制服は着ていない。グレーのパンツスーツは地味だが、フリルつきのブラウスは可憐で、俗に言う女子アナコーデに分類できる。ゲーム会社に就職し、スマートフォンアプリの開発に携わっていたが、去年アカツキに入社した。四番隊だけは格闘術でなく、サイバー戦の専門家で構成されている。

 ジュンはアイフォンを取り出し、社員専用のアプリを起動する。開発したのは山咲だ。

 画面を見せながらジュンが言う。

「言いたかないけどさ。あんたの情報、大外れだろ。なにが『敵は四谷にいる』だよ」

「私を責めてるの?」

「別に。現場に迷惑かけといて、文句ばっか言うのが理解できないだけ」

「あなたがなんと言おうが……」

「いまの稼ぎ頭は四番隊。聞き飽きたよ」

 絶句した山咲は、眼球が飛び出そうなほど目を見開き、地響きを立てて去ってゆく。教授がそれを慌てて追う。

 ジュンは社内政治に興味はない。この会社で地位がほしいとか、これっぽっちも思わない。敵愾心の対象になったり、気苦労しかない。

 でも父の夢の実現のためなら、なんだってできる。




 疲労が極みに達したジュンは、深くため息をつく。顎をBMXのハンドルバーに乗せ、体をささえる。

 帰り支度をすませたヲタが、ジュンに話しかける。

「まーた山咲さんとケンカしたのか」

「あいつが一方的に噛みついてくるんだよ!」

「実行部隊で女はふたりだけなんだから、仲良くすりゃいいのに」

「だから、こっちに恨みはないんだって」

「むこうにとっちゃ、お嬢が目の上のたんこぶなんだろうな」

「社長の娘だから? でもパパはいつも実力主義と言ってるじゃんか」

「なにかとお嬢は目立つからなあ」

「『女の敵は女』ってやつか。クソめんどくせえ」

 ジュンはBMXの前輪をもちあげ、歩道に幾度も叩きつける。

「お嬢が頭を下げて、山咲さんから女子力を授けてもらえばいい。これで丸くおさまる」

「なんで」

「ウィンウィンの関係だよ。むこうは上に立てて満足するし、お嬢もすこしはモテる」

 ジュンは、山咲に似たふわっとした服装や髪型をした自分を想像し、吹き出しそうになる。

「二十一歳で童貞のお前に言われたくねえよ。ところで、あいつと教授って付き合ってんの?」

「よく駅前の店でふたりでランチしてるな」

「不倫女って最悪」

「まあ、噂はあれこれ耳に入る」

「どんな」

 ヲタはうーんと唸ったあと、にやりと笑う。

「言わないでおくわ。モテない男の僻みになるし」

「おたがい苦労するよな」




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鈴木マサカズ『マトリズム』

 

 

マトリズム

 

作者:鈴木マサカズ

掲載誌:『週刊漫画ゴラク』(日本文芸社)2017年-

単行本:ニチブンコミックス

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さいきん力作を連打している鈴木マサカズの新刊は、

違法ドラッグに溺れる人間たちと、それを追う捜査官の物語。

野次馬根性を刺激するテーマなのはたしか。

 

 

 

 

 

主人公は、白髪の麻薬取締官「草壁圭五郎」。

厚生労働省の役人だが、拳銃の携行を許可された法執行官でもある。

ドラッグをはげしく憎み、売人には暴力も辞さない。

 

 

 

 

有名大学に通いながら、そこで大麻を売りさばく男を尋問する。

男はすこしも悪びれることなく、理路整然と抗議してくるが、

「小宇宙(こすも)」とゆう自身のDQNネームを呼ばれた途端に号泣。

 

 

 

 

ストレスに押し潰され、ママ友にすすめられたMDMAに手を出す主婦など、

われわれの社会の見えざる部分に形成されているネットワークをえがく。

 

 

 

 

個々のエピソードはやや食い足りない。

作者のスタンスがドラッグに否定的で、野次馬根性がいまいち満たされない。

どれくらいキモチイイのかとか、フツウ知りたいでしょう。

 

でも、カラカラに乾いた筆致は作者ならではのもので、

本作もその空気感をじっくり堪能できる。





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中山敦支『うらたろう』完結

 

 

うらたろう

 

作者:中山敦支

掲載誌:『週刊ヤングジャンプ』(集英社)2016年-

単行本:ヤングジャンプコミックス

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あっけなく完結である。

中山敦支はSNSでピーチクパーチクおしゃべりするタイプではないが、

それでも本作について沈黙しているのは異様だ。

 

 

 

 

尻切れトンボ的な連載終了で、本作の缺点が浮き彫りに。

ひとことで言うと「自己模倣」。

たとえば、あまりに唐突で理不尽な暴力。

 

 

 

 

そしてカウンターとして炸裂する、主人公側のプランB。

これらを見開きで、象徴的に表現する。

本作においても、絵そのものはみごとだ。

だれも中山にかなわない。

 

でも、既視感がある。

 

なお本項の以下の段落は、軽いネタバレとグロテスクな描写をふくむので注意。

 

 

 

 

黄泉の国から帰還したちよは、まるでイザナミの様な変わり果てた姿に。

ここでも中山は、ヴィジュアル面でアクセルペダルを床まで踏みこむ。

 

 

 

 

じわじわひたひた、なおかつ性急に、せまりくる圧倒的な「死」。

それをやさしく受け止める主人公。

『ねじまきカギュー』とくらべ外面的に上達しているが、精神的な成長は感じない。

 

長い時間をかけ弓をひきしぼったが、肝心の矢が折れていたとゆう印象。

中山敦支は、自身の代表作との戦いに敗れた。





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藤田かくじ『放課後少女バウト』2巻

 

 

放課後少女バウト

 

作者:藤田かくじ

掲載誌:『月刊キスカ』(竹書房)2016年-

単行本:バンブーコミックス

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女子高生の総合格闘技もの、第2巻が登場。

可憐な少女らのガチバトルがさらに白熱する。

 

 

 

 

試合コスチュームの華やかさが、本作のウリだ。

それどころか「文野みゃこ」の本職はアイドル。

顔を殴らせないよう、お尻をつきだす大胆なポジションをとる。

 

 

 

 

2巻のハイライトは「墨田文花」戦だろう。

コスチュームの長い裾をディフェンスや絞め技にもちいる、独特のスタイルだ。

 

 

 

 

ヒロイン「辰乃」は裾で拘束され、間合いをコントロールできない。

くりかえし痛烈な打撃をあびる。

目をそむけたくなる光景。

 

 

 

 

しかし辰乃はもう片方の裾をつかい、ベースボールチョークをきめて逆転。

恍惚の表情をうかべながら、文花は眠りの世界へ落ちてゆく。

 

 

 

 

実は辰乃の大ファンだった文花は、激戦のあとに記念撮影。

本作はちょっとストーリー面が弱いけれど、

血まみれ痣だらけの百合として稀少価値がある。





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『群狼のプリンセス』 第1章「BMX」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 駒沢オリンピック公園のスケートパークは、水曜の午後三時だがスケーターがあつまっている。立地のよさと、設備が充実するわりに無料であるおかげだろう。初心者はミニランプで、プロをふくむ上級者は大きなセクションで技をみがく。

 近所に住む十八歳の暁ジュンが、練習の合間に一休みしている。彼女の専門はスケートボードでなくBMX。後ろ向きに小さな自転車に乗り、足は前輪のペグにおき、サドルをつかんで一輪車の様にバランスをとる。休憩中なのにトリックを決めてるわけだが、さらにサドルをつかむ右手でアイフォンを操作している。BMX歴十年のなせる業だ。

 髪をツーブロックにしたスケーターが、ジュンに話しかける。VネックのTシャツから見える、ジュンの胸の谷間を気にしている。

「器用だね」

 ジュンは振り向きもしない。こう見え彼女は会社員であり、いまは勤務中で、社用でこれから人と会う予定だった。その相手は父親だが。

 車道にメルセデスが駐まり、運転手をのこしてグレースーツの男が降りる。

 暁大五郎。三十九歳。ジュンの父親で、警備会社「アカツキセキュリティ」のCEOをつとめる。顎鬚を薄くたくわえた精悍な顔立ちで、いかにも男盛りとゆう印象をあたえる。五年前に妻と死別し、世田谷のマンションで娘と二人暮らしをしている。

「パパ!」

 ジュンは愛車を乗り捨て、パークへはいってきた大五郎に飛びつく。

「あの男の子はいいのか」大五郎が言う。「友達なんだろう」

「ただのナンパ野郎だって。そんなことより来るの遅い! 一週間ぶりだから早く会いたかった」

「すまん。でも四日ぶりだぞ」

「そうだっけ。とにかく寂しかった」

「現場はどうなってる」

 ジュンは大五郎から体を離し、腕を組む。ビジネスの顔だ。アカツキセキュリティ最年少の社員だが、一番隊の隊長を任されている。

「立体駐車場はヲタが監視してる。まだ敵に動きはない。あとチャンコが隊員を乗せて本部を出たって。二十分くらいで着くとおもう」

「わかった。俺は情報提供者に会いに行く。しばらくお前の判断で行動しろ」

「え、嘘でしょ。一緒にいてよ」

「お前を信頼している。どんな結果になろうと俺が全責任を負うから心配するな」

「やだ」

 ジュンは目を吊り上げて大五郎をにらむ。

 実行部隊の指揮を一任され、不安に苛まれてるのではない。むしろいますぐ突入したくてウズウズしてるくらいだ。実際は、自身の活躍を父にじかに見てもらいたいので駄々をこねている。

 ジュンは続ける。「人に会うのは後回しにして」

「わがままを言うな」

「誰とどこで会うの。いつもの竹橋?」

「親子のあいだでも機密保持の原則は守らなきゃいけない。わかってるだろう」

「相手は女?」

「しつこい」

「はいはい。いい年してファザコンの娘より、仕事の方が大事だよね。じゃ、『彼女』によろしく」

 ジュンは身を翻し、スタンドがないので転がしてあるBMXを取りにもどる。さすがに指揮官のメンタリティが幼稚園児なみでは心許ない。大五郎は、背後から肩をつかんで引き留めようとする。

 ジュンが右肩を前にずらしたため、大五郎はよろける。立って歩ける様になったころから、ジュンは父に格闘術を仕込まれている。動きを予測していたのか、それとも背中に目がついてるのか。

 膝を折り曲げた大五郎を見下ろし、ジュンが言う。

「悪い奴らを片っ端から叩きのめして、ウチらの価値を国に認めさせる。そうして正式に警察機関の一部になる。これがパパの夢だよね」

「そうだ」

「パパの夢は、あたしの夢でもある。パパがどこにいようが全力を尽くす」

「ありがとう。キツいことを言って悪かった」

「ううん、パパはいつでも優しいよ。あたしがわがままなだけ。でも作戦がうまくいったら、いっぱい褒めてね」




 父はメルセデスに乗り、公園から去った。ジュンは現場で仲間と合流するため、傷だらけのBMXを拾う。

 ツーブロックのスケーターがまた声をかける。

「彼氏、行っちゃったね」

 ジュンは目を輝かせ、軽く飛び跳ねる。

「パパがあたしの彼氏に見えた?」

 ツーブロックがニヤリと笑う。適当に口走った話題だが、食いついてきた。

「へえ、若いお父さんだ」

「年の差は二十一歳だから若い方かな。友達のお父さん見るとオッサンだなあって思う」

「ウチの親父なんてすっかりハゲてるよ」

「あはは」

 ジュンはあらためてツーブロックを観察する。痩せていて顔が小さい。ロックバンドかなにかのTシャツもセンスがいい。たしかにナンパ野郎は女性への敬意が足りず、全然好きじゃない。

 ただし、イケメンはのぞく。

 ジュンは自動販売機にちらりと視線を投げ、つぶやく。

「喉かわいたなあ」

「俺も」

「あたしいま財布持ってないから、お茶でも買ってくれたら嬉しいな。ベンチで十分くらい話そ」

「オッケー」

 ツーブロックはジュンの脚を盗み見ていた。黒のミニスカートの下にレギンスを穿いている。顔もスタイルも悪くない。百五十円で連絡先を聞き出せるなら儲けものだ。いそいそと自販機へむかう。

 ジュンはコインロッカーを開き、レザージャケットを取り出して袖を通す。肩にエンブレムがあしらわれている。Sを横にした様なルーン文字で、「ヴェアヴォルフ」つまり「人狼」を意味する。特殊警棒が挿してあるベルトを腰に巻く。

 両手にペットボトルをもったツーブロックが、青褪めた表情で言う。

「そのジャケット……」

「実はアカツキセキュリティの社員なんだ」

「ひょっとして『狼士』?」

「うん」

「女なのに?」

「泣く子も黙る一番隊隊長、暁ジュンとはあたしのことさ」

 会社の評判は良くない。最悪かもしれない。

 民間の警備会社でありながら、犯罪捜査・逮捕・尋問などの警察活動をおこない、その超法規的な暴力性が恐れられている。しかも豊富な資金力と人脈で政財界をうごかし、三年前に「特殊警備業法」を成立させ、警視庁と連携して活動するまでに成長。いまや自らが先頭に立ち、テロリズムとの戦いを展開している。

 だれがつけたか、アカツキの実行部隊のニックネームは「狼士」。オオカミみたく凶暴な連中で、何をされるかわからないから、見かけたら逃げろとゆう意味だ。

 上ずった声でツーブロックが言う。

「そうだ。帰らないと。テロ予告もあったし」

「ちょ、お茶」

 二本のペットボトルとスケートボードを抱え、ツーブロックは尻尾を巻いて逃げ出した。




 しかめ面のジュンはピルケースを開け、「マーナガルム」と呼ばれる灰色の錠剤を三つ頬張る。古ノルド語で「月の狼」を意味するらしい。一種のデザイナードラッグで、気分を昂揚させ、疲れや痛みをおさえる効果がある。しかたなく唾液で飲みこむ。

 ジュンはボディバッグを背負い、黒いBMXを駆る。サドルが極端に低いので立ち漕ぎだ。しかし大通りに出たところで、制服警官に呼び止められる。クラウンパトカーが路肩に駐まっている。

 警官が尋ねる。「キミ、どこへ行くんだ」

「仕事です」

「アルバイトか? テロ警戒の通告があったのを知ってるだろう。今日は家にいなさい」

 自分は立派な社会人のつもりでいるジュンだが、童顔のせいか子供あつかいされがち。身分をあかして交渉する時間が惜しいし、違法ドラッグを服用したばかりなのも都合が悪い。あたりを見回し、逃走経路をかんがえる。

 警官が続ける。「この自転車、反射板がないな」

 一グラムでも軽くしたいので、リフレクタもベルもつけてない。さすがは優秀な日本の警察、こうゆうことだけは鋭い。防犯登録もしてないし、いろいろ面倒なことになる。

 ジュンはBMXを肩に担ぎ、ひらりとガードパイプを飛び越える。ペダルを懸命に漕ぎ、首都高の下の玉川通りに入る。変速機のないBMXはスピードが出ない。右折して用賀へむかう。

 背後でパトカーのサイレンが鳴る。振り返ると二台の警光灯が光っている。一台がジュンを追い越し、通せんぼする様に停止する。

 ジュンはハンドルを切り、歩道へ乗り上げる。ベルがないので「すいません!」と叫び、震動を抑えて歩道橋の階段を走る。ジグザグに人をかわしながら階段を登りきると、反対車線にあらたなパトカーが来たのに気づく。

 なんなんだ。あたしは正義の味方だっつの。

 ハンドルに体重を乗せてから、一気に引き上げる。重心を後ろにかたむけウィリー走行し、さらに加速して鉄柵を乗り越える。運よく貨物トラックのコンテナに着地する。目的地の用賀に着くまで待機したあと、道路へ降りる。

 ふたたびサイレンが響く。公園で誰何してきた警官が、執念で追いかけてきた様だ。漕ぎ疲れたジュンはBMXをガードパイプに立てかけ、路肩の段差に腰を下ろす。

 ジュンは腹を抱えて笑う。

「あっははは」

 パトカーを降りた警官が叫ぶ。

「なんてやつだ! 署まで来てもらうぞ」

「いや、それどころじゃないんで。あたしはこうゆうモンです」

 ジュンは定期入れの中の社員證を見せる。警官は帽子を脱ぎ、頭を掻く。

「狼士か。クソッ」

「クソとはなんだよ」

「今日のところは見逃してやる。さっさと仕事とやらに行け」

「いまからウチら、般若党の潜伏先へ突入するんだけどさ。人手が足りないんで、あんたも来ない?」

 高圧的だった警官が、急にアイコンタクトを避ける。かぶり直した帽子の鍔をいじりだす。

「俺は交通執行係だから……」

「おたがい治安を守る仲間でしょ」

 警官は咳払いし、わざとらしく無線機を耳にあてる。

「緊急連絡が入った。失礼する」

「はあ、御苦労さまです」

 走り去るクラウンパトカーを、ジュンは冷笑をうかべながら眺めた。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

コナリミサト『凪のお暇』2巻

 

 

凪のお暇

 

作者:コナリミサト

掲載誌:『エレガンスイブ』(秋田書店)2016年-

単行本:A.L.C.DX

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空気を読みすぎてメンタル崩壊し、ドロップアウトしたが、

そこからの再生をめざす28歳の元OL「凪」の物語。

2巻では、凪を都合よく利用して追いつめた主犯である、

元カレ「慎二」の価値観がくわしく説明される。

 

 

 

 

営業マンとしての非凡さや、凪が必死に隠していた弱点「くせ毛」を知っていて、

それでも付き合っていた事実などが明かされる。

ただその優しさを恋人につたえられず、ふたりの心はすれちがっていた。

 

 

 

 

新居であるボロアパートで、突然はじまったトランプ大会。

凪は本当の自分をとりもどすため、慎二に勝負をいどむ。

 

しかし慎二にも共感している読者は歯がゆく、複雑な気持ちになる。

 

 

 

 

隣に住む母子家庭の、女子小学生「うらら」にもスポットライトがあたる。

一ひねりも二ひねりも利いた、印象的なエピソードだ。

 

 

 

 

地球に74億の人口がいるなら、価値観も74億通り存在する。

それらは重層的な構成になったり、反発しあったり、溶けあったりする。

人はその総体を「世界」と称しているわけだが、

本作ではそうゆう濃密な世界の一端を触感できる。

 

2巻で確信した。

これは傑作だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

餡蜜『高嶺の蘭さん』

 

 

高嶺の蘭さん

 

作者:餡蜜

掲載誌:『別冊フレンド』(講談社)2017年-

単行本:講談社コミックス別冊フレンド

[ためし読みはこちら

 

 

 

主人公の「高嶺 蘭」は高校1年生。

才色兼備なハイスペック女子だが、やや表情がとぼしく、

特に男子からは、文字どおり「高嶺の花」とおもわれがち。

 

 

 

 

母にたのまれ、塾帰りに花屋へ立ち寄る。

小さいが、おしゃれな店構えだ。

 

花だけでなく、ワンピースやハンドバッグなどの描写も手が込んでいる。

 

 

 

 

そこで同級生の「佐伯 晃」に出くわす。

親の仕事を手伝ってるらしい。

男が花をいじるのは恥づかしくて、学校では秘密にしていた。

 

 

 

 

秘密を共有したふたりは、徐々に親しくなってゆく。

梅雨空の下、相合傘であじさいを見に行ったり。

 

花とゆう本作の題材は、季節感を出すのにぴったりだ。

 

 

 

 

少女漫画にしては恋愛要素が控えめで、さっぱりとした読後感。

初デートを前に大混乱におちいる家族など、ほのぼのムードをたのしみたい。

 

 

 

 

黒髪ロングの無表情なヒロインとゆう点で、

眉月じゅん『恋は雨上がりのように』を連想させもする。

ただ花の描写などヴィジュアルの魅力においては、こちらの方が上だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

町田とし子『おくることば』

 

 

おくることば

 

作者:町田とし子

掲載誌:『月刊少年シリウス』(講談社)2017年-

単行本:シリウスKC

[ためし読みはこちら

 

 

 

高校周辺を舞台とするサスペンスである。

のびやかな手足の美少女に、刻々と危険がせまる。

 

 

 

 

男子高校生の「佐原」が主人公らしい。

ジャージ姿に裸足で教室を歩きまわる。

女子のスカートの中をのぞいたり、机にのったり。

 

 

 

 

自分の机の上には花瓶がある。

佐原はすでに死んでいた。

 

 

 

 

幼なじみの「千秋」が佐原を道路で突き飛ばし、殺したらしい。

だが、恨みを買った覚えはまったくない。

千秋はほかにも人を殺してるらしく、

これ以上の犠牲を出さない様に、佐原は幽霊として現世にとどまる。

 

 

 

 

本作は群像劇である。

たとえば、性格最悪なギャル系キャラとして登場した「メイ」は、

実は霊媒師の娘で、霊視能力によって物語をうごかす。

 

けれどもこの複数視点が、サスペンスのハラハラドキドキ感を弱めている。

だれに感情移入すべきか、読者を迷わせる。

 

 

 

 

表情ゆたかで、よくうごくキャラクター。

服や小物や背景の丁寧な描きこみ。

大胆で絵になる構図をみせる表現力。

本作のヴィジュアル面はトップクラスだ。

 

しかし、作者の単行本は10冊以上あるが、

原作付きでないオリジナルは初めてで、プロットの冗漫さが惜しい。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

榛名まお『のけもの少女同盟』

 

 

のけもの少女同盟

 

作者:榛名まお

掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2016年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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真新しい制服に袖をとおし、みんなの前で自己紹介。

きららファンは慣れっこだが、やはりワクワクする場面だ。

主人公の「桐原霞」はいきなり吐血して倒れるけど。

 

 

 

 

霞は病弱すぎるせいで「保健室登校」を余儀なくされる。

以前、急病で『すずなあたっく!』最終回を描けなかったと明かしてたから、

作者の境遇が投影されてるかもしれない。

 

 

 

 

霞は学校生活を満喫するため、保健室で部活を創設。

クラスになじめない生徒たちを仲間に引き入れる。

 

ポニーテール・ヘッドホン・吊り目の「すずめ」は、

ストロングスタイルのツンデレキャラで、さすがの造形だ。

 

 

 

 

養護教諭の「もも」は、いつも学校制服を着ている。

このテの作品でよくある「生徒にしか見えない先生」ってやつだが、

定型を逆手にとったオチがおもしろい。

 

 

 

 

ももちゃんはかなり変人で、バレーボールの特訓のため、わざわざブルマを穿く。

ブルマのエロさを最大限にひきだす、3コマめの煽りがすばらしい。

 

 

 

 

SF色の濃かった『こずみっしょん!』とくらべ、本作はだいぶ「日常」寄り。

それでも時折フッと現実から離陸する瞬間があって、

きららではベテランの部類にはいる榛名まおの実力を見せつける。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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苑田 謙

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