garnet『セレブ漫画家一条さん』

 

 

セレブ漫画家一条さん

 

作者:garnet

掲載サイト:『@vitamin』(KADOKAWA)2017年-

単行本:電撃コミックスNEXT

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液晶タブレットを背にして座る、22歳の「一条茉莉」の職業は漫画家。

しかし洗練された身なりのせいで、そう見えない。

 

 

 

 

実際、一条さんはセレブだ。

英才教育をうけた彼女は、7歳から巨大企業の経営にたづさわり、

各国の要人を相手にタフな交渉をこなす毎日をおくる。

 

 

 

 

一方で、漫画家になるのは幼いころからの夢。

出版社くらい余裕で買収できる財力があるのに、

あえて実力で勝負してるので、編集者の言葉に一喜一憂する。

 

こんな風にギャップ萌えをたのしむ作品だ。

 

 

 

 

打ち合わせ中、編集者がオフレコで話したいと言うので、

一条さんが人払いすると、店から人が一瞬でいなくなる。

 

 

 

 

セレブは取材にも気合いをいれる。

制作中のファンタジー漫画にリアリティをだすため、北極圏をおとづれたり。

いろいろズレてる天然ぶりが可愛い。

 

 

 

 

本作は、ツイッターで発表した作品をもとにしてるそうで、

ストーリーの奥深さでなく、シチュエーションのおもしろさが売り。

そして高い画力により造形された一条さんが、魅力的なキャラなのはたしかだ。




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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

板倉梓『きらきらビームプロダクション』完結

 

 

きらきらビームプロダクション

 

作者:板倉梓

発行:竹書房 2016-7年

レーベル:バンブーコミックス

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アイドルもの4コマ漫画は、完結となる2巻が刊行。

からぁ~ず☆の3人が海で、カレンダーの撮影をおこなう。

2月なので寒くて震える。

 

 

 

 

士気を高めようと、無理な仕事をいれたマネージャーも上着を脱ぐが、

自分たちとおなじく生足になれと、リーダーのあかねが要求。

そんな些細なことでテンションあがる、箸が転んでもおかしい年頃だから。

 

 

 

 

撮影がおわり、温泉であたたまる。

ヌード撮影もこなす女性カメラマンが、「いまこの瞬間を写す意味」を語る。

つい、この人にヌードを撮ってもらいたいと思ったメンバーは、

プロカメラマンのもつ吸引力におどろく。

 

天使の様な無邪気さから、そこはかとないエロスへの落差。

あいかわらず板倉梓は、エピソードの盛りこみ方が巧み。

 

 

 

 

カレンダー発売を記念してのイベント。

ファンから直接「8月のが夏らしく元気でよかった」と言われ、してやったりの表情。

 

うつろう季節のなかで、偶像と実像を表現するアイドルの、

はかなさとしたたかさを描く第24話は、本作の白眉かも。

 

 

 

 

本作は2巻で終了したので、「板倉梓の代表作はなにか」問題は未解決のまま。

僕は比較的萌え4コマを読む方だが、なんでも描ける板倉は、

このジャンルにおいても一流でありつづけてると思う。

 

でもやっぱり、器用なんちゃらなのは否めないかな。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 板倉梓  萌え4コマ 

まつだひかり『まことディストーション』

 

 

まことディストーション

 

作者:まつだひかり

掲載誌:『月刊コミックフラッパー』(KADOKAWA)2017年-

単行本:MFコミックス フラッパーシリーズ

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女子高生のバンドものである。

JK4人が楽器もってれば、とりあえずツカミはOK。

 

 

 

 

主人公「天王寺まこと」の担当はベース。

ギターだとおもって買って、メンバーに見せたら違うと言われ泣き出す。

ベースなんて、地味で存在意義のなさそうな楽器は嫌だから。

 

 

 

 

練習よりおしゃべりに熱心なのは、このテの漫画のお約束。

エロく見えるギターの持ち方を競い合ったり。

 

 

 

 

シャイなまことは、あけすけな会話についてゆけないが、

ちらほらと天然のエロスを発散しており負けてない。

 

 

 

 

せっかくスタジオ借りてるのに、いつまでも終わらないガールズトーク。

しびれを切らしたドラムの「葵」が、貧乏ゆすりでバスドラを叩く。

 

辛辣で容赦ないやりとりがたのしい。

 

 

 

 

作者はバンド活動をしてるらしく、描写は意外と本格的。

キャラの描き分けもたくみで、さほど目新しさはないが充実した作品だ。

 

それにしても、制服女子がギターや銃や刀をもってるだけで、

かわいさがぐんと増幅されるのはいまだに謎。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

室吉隆『永遠の青』

 

 

永遠の青

 

作者:室吉隆

発行:日本文芸社 2017年

単行本:ニチブンコミックス

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入れ墨をテーマとする、1巻完結の作品である。

主人公「狩野周心」は女しか彫らない、変わり者の彫師。

 

 

 

 

周心を訪れる女はさまざまで、カタギもいる。

共通してるのはみな虐げられ、食い物にされてること。

 

 

 

 

入れ墨は覚悟をきめた女たちに、過去を断ち切らせる。

蛹が蝶になる様に変身させる。

 

 

 

 

勿論、切った張ったのヤクザものらしいお楽しみもある。

銃を突きつけられても、彫師のプライドを守ったり。

 

 

 

 

姐さんである「美咲」との関係が、本作のメインプロット。

ほかの女が出入りするだけで露骨に嫉妬してかわいい。

 

 

 

 

入れ墨の施術をセックスに見立てる描写は、見ごたえあり。

別名義でいくつか萌え系作品を発表している作者が、

大胆に絵柄を変えて賭けに出た異色作だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

ちると『とっても優しいあまえちゃん!』

 

 

とっても優しいあまえちゃん!

 

作者:ちると

掲載サイト:『ドラドラドラゴンエイジ』(ドワンゴ)2017年-

単行本:ドラゴンコミックスエイジ(KADOKAWA)

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「あまえちゃん」は乳房が発達してるけど、まだ小学生。

マンションの隣に住む漫画家志望の「おにーさん」になついている。

むしろあまえちゃんの方が、おにーさんを小動物みたく可愛がっている。

 

 

 

 

あまえちゃんは恋愛感情に目覚めてないし、おにーさんは性欲を抑制している。

ふたりの仲は進展しそうにない。

巨乳JSが全身から発散する、無邪気なエロスを堪能する作品だ。

 

 

 

 

1巻時点で、あまえちゃんの家庭環境は説明されない(おそらく描き様がない)

ヤンキーっぽい毒舌な友達「まともちゃん」とか、ロリキャラの描き分けは巧みだ。

 

 

 

 

公園であまえちゃんに抱きついてるところを、婦警さんに目撃される。

現行犯逮捕されてもしかたない状況だが、

婦警さんが天然キャラだったため意外な結果に。

 

 

 

 

萌え文化を「甘ったれたマザコン趣味」と腐すのは典型的な論法だが、

批判を逆手にとって、ヒロインの属性にギュッと凝縮したのが本作。

このダメすぎる世界観を受けいれるべきか判断に迷っていたら、

いつの間にか思考停止し、全面降伏している恐るべき踏絵だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ 

尾崎かおり『金のひつじ』

 

 

金のひつじ

 

作者:尾崎かおり

掲載誌:『月刊アフタヌーン』(講談社)2017年-

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河川敷に捨てられた車のなかで練炭自殺しようとした少年を、

ボンネットに乗った明るい髪の少女が、ギターでフロントガラスを割って助ける。

 

 

 

 

少女は涙ぐんでおり、はげしく複雑な感情が内面で渦巻いてるのが解る。

 

寡作で知られる尾崎かおりの新連載が、『アフタヌーン』11月号からはじまった。

繊細かつ洗練された、あいかわらず魅力的な絵だ。

 

 

 

 

自殺未遂とゆう、のっぴきならない状況を説明したあとで、

すこし時間を遡ったところから物語がはじまる。

 

高校生の「三井倉継(みいくら つぐ)」は、小学校まで住んでいた街へもどってきた。

家族は母と姉に、妹がふたり。

父の死が、引っ越しのきっかけらしい。

 

 

 

 

本作は、男ふたり女ふたりの幼なじみの関係を中心にえがく青春もの。

仲良しだった4人は、多感な時期である6年間を経て変わってしまった。

キリキリと胸を締めつける、センシティヴな作風は尾崎かおりならでは。

 

 

 

 

第1話の38ページに、練りこんで磨きあげた物語の実質がつまっている。

上から目線で恐縮だが、本作を読まずに漫画は語れないとさえ言いたい。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 尾崎かおり 

小川亮『私人警察』

 

 

私人警察

 

作者:小川亮

掲載サイト:『マンガボックス』(講談社)2017年-

単行本:講談社コミックス マガジン

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「ストーカー捕まえます」と書かれたオンボロのVWに乗ってるのは、

長髪でイケメンな元警察官の「麻木蓮二」。

 

 

 

 

アイドルの「古都みはる」は麻木に警護を依頼するが、ライブ中に拉致される。

ストーカーたちの手のこんだ陵辱シーンが本作のみどころ。

 

 

 

 

バトルも迫力がある。

速乾性の樹脂で窒息させられた麻木は、

ペンを自分の頬に突き刺し、口金だけのこして空気孔にする。

ストーカーへの敵意がすさまじい。

 

 

 

 

傭兵あがりとの一戦もよかった。

意識をうしないながら、自身を介して鉄柵と敵を手錠でつなぐ。

 

妻子を殺された経験のある麻木は警察を辞め、

ストーカーを「私人逮捕」するのに執念を燃やしている。

 

 

 

 

作者の画力は相当高い。

ちなみに小畑健が単行本帯に推薦のコメントを寄せている。

荒木飛呂彦的なケレン味も魅力だ。

 

 

 

 

細いのに出るところは出ている女体の描写に惹かれるが、

本作の女キャラはあくまでターゲットであり、さほど主体的に動かないのが惜しい。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

さんかくやま『概念』

 

 

概念

 

作者:さんかくやま

掲載誌:『月刊ドラゴンエイジ』(KADOKAWA)2016年-

単行本:ドラゴンコミックスエイジ

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女子高生が反復横飛びしたら、枠線をシュンとはみ出した。

そして本来関係ないはずの、となりの4コマのオチに影響をあたえる。

ジャンルの制約を逆手にとったシュール系4コマだ。

 

 

 

 

ブルーベリーを食べるつもりが、イクラじゃないかと疑われ不安に。

たしかに色がついてないから解らない。

 

残酷に突きつけられる記号性や概念性により、もはや読者は、

流行中のグルメ漫画を以前の様にたのしめなくなるだろう。

 

 

 

 

あちこちに罠が仕掛けられている本作は、読者に集中をもとめる。

挙句の果てにコマそのものが迷路に。

僕は解いてみたが、けっこう本格的だった。

 

 

 

 

少女たちは、文字どおり4コマの枠をこえて自由にふるまうが、

いきなりあらわれた警察官に拘束されたりも。

 

 

 

 

以上の枠線藝が本作のウリだが、「やる気を出すためのやる気が出ない」とか、

阿部共実作品などに通底する、イマドキの女子のたたずまいもステキだ。

 

 

 

 

猫も杓子もデジタルな時代なので、自分も倣おうとするが、

友人が実演してくれたのに、かわいくないのでアナログにとどまる。

 

「かわいいは正義」がゼロ年代のイデオロギーだとしたら、

「かわいいしか正義がない」が10年代のそれに当たるだろうか。

 

 

 

 

突発する不条理な暴力性。

刹那性と虚無感。

かわいさの残像だけが、コマのないコマにただよう。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

『ナデシコ女学院諜報部!』 最終章「七星剣」


登場人物・あらすじ(準備中)


全篇を読む(準備中)






 ジェーンはミキに憤慨し、ケーブルが張り巡らされた床をドシンドシンと踏みつける。

 銃と刀だ。絶対的な優位はうごかない。でもあの女は、いちいち予想外の手を打ってくる。自分の立ってる土台が崩れてゆく様な、漠然たる不安。

 ジェーンはファイブセブンの照準を、汗で前髪が貼りついたミキの額にさだめて言う。

「そんな近接武器でどうするつもり? 日本は石器時代から進歩がない」

「石器時代に金属器はないだろ」

「いまだに人が外でタバコを吸っている。文化は差別主義的で、女性を蔑視している」

「お前にだけは言われたくない」

「日本は先進国じゃない。土人の国よ」

「かもね。だからと言って、ボクがお前に劣ってるわけじゃない」

 ミキはかすかに腰を落とし、七星剣を天に突き上げる。

「信じられない」ジェーンが言う。「この期におよんでカミカゼアタック」

「さっさとケリをつけよう」

「刀は日本の魂ってわけ? アルカイダと変わらない野蛮な原理主義」

「ゴチャゴチャうるせえな。お前は嫉妬してる。日本の文化に」

「なんですって」

「アメリカには歴史がないからな。シンデレラ城みたいな単なるハリボテだ」

 ジェーンが手にするファイブセブンが揺れる。深呼吸するが、耳鳴りがやまない。壁一面を覆う巨大な星条旗がぼやけて見える。星条旗こそが正義で、地上の唯一の真実なのに。もともと激しい気性だが、これほどの怒りは経験がない。

「この銃は二十発装弾できる。予備弾倉が四つ。全弾ぶちこんでやる」

「超音速の刃で、そのキレイなお顔を真っ二つにするのが先だ」

「お前たちは弱すぎる。原爆二発であっさり降伏するなんて。私が大統領なら千発落とした」

「それは典型的なプロパガンダだ。日本が降伏した直接的原因はソ連参戦だ」

「ファッキンジャップ!」

 ジェーンはファイブセブンを発砲する。彼女はさほど優秀な射手ではない。激情に駆られての射撃では、命中率は五割を切っていたろう。

 ミキは五メートルを全力疾走し、右足を最大限に踏み出し、袈裟懸けに斬る。巨匠による彫刻の様な顔は傷つけるに忍びなく、相手の左肩から右腰にかけて振り下ろす。心臓を両断し、蘇生不可能なダメージを負わせた。

 ジェーン・カラミティは死んだ。

 ミキは七星剣にまとわりついた血を振り払う。怯えながら決闘を見守っていた三人の技術者はミキに睨まれ、なだれをうって逃げ散る。

 ミキは嘔吐をもよおしていた。氷雨が部室棟の屋上から飛び降りて以来、ずっと煮え滾っていた復讐の念願を果たしたが、気分は晴れない。

 後悔はしていない。しかしこの罪悪感は、死ぬまで自分を苦しめるだろう。




 ゴトンとゆう重い物が落ちた音が、出入口から聞こえる。ミキが視線をむけると、両手で口を覆うおかっぱ頭のアルテミシアがそこにいた。足許に木工用ドリルが転がっている。

 アルテミシアが叫ぶ。「ジェーン!」

 嗚咽を漏らしながらジェーンの上半身を抱き上げる。頬を血糊で染め、目を極限までひらいてミキを凝視する。アルテミシアはこれまでジェーンの陰に隠れがちだったが、壮絶なうつくしさだ。

「ひどい」アルテミシアが言う。「これほど崇高な美を破壊するなんて」

「…………」

 ミキは返す言葉もない。

 アルテミシアは口づけできるほど顔を寄せ、ジェーンに語りかける。

「ごめんなさい。いつかこうなると解っていた。身を挺して止めるべきだった。でも勇気がなかった」

 アルテミシアは、ミキに視線をもどして言う。

「あなたは私の最愛の人を殺した。決して許すことはできない」

「…………」

「でもジェーンは誇り高い。彼女の名誉を守らなきゃいけない。この場は私が収めるから、あなたは今すぐどこかへ消えて」

 ミキは整った右眉をもちあげる。

「あんた中国政府のスパイだろ」

「……侮辱する気?」

「警報がガンガン鳴ってるのに、いまごろになって部屋に戻ってきた。そのくせ事後処理を任せろって? 漁夫の利を得ようとする魂胆ミエミエだ」

 アルテミシアは腕のなかの遺骸を取り落とす。ジェーンの十字架が血の海に沈む。

 立ち上がったアルテミシアが三歩近づく。武装してるかは不明だが、彼女はマーシャルアーツの心得があり、数十分前にミキをねじ伏せたばかり。七星剣をもった今でも、格闘ではミキの不利だろう。

「憶測の真偽はともかく、この愁嘆場で動揺しないのは大したものね」

「コミュ障だから感情に流されない」

「ふふ。あなたには驚かされ続けた。諜報の世界は狭い。きっとまたどこかで会うでしょう」

「一緒にすんな。ボクはゲーム漬けの毎日にもどる」

「わかってないわね。諜報の世界の方が、あなたを放っておかないの」

 アルテミシアはすれ違いざま、ミキのなめらかな頬にキスする。まったく信用できない女だが、同性愛者だとゆう情報だけは本当だったかもしれない。




 狂騒の日々から一か月経った。

 ミキは手にした色紙をながめつつ、高等部校舎の階段を下りている。きょうで学院を退学するので、クラスメートから寄せ書きをもらった。辞めるよう圧力を受けてはいないが、ケジメをつけるべきと自ら判断した。

 転校するつもりはない。どうやら自分にはゲームの才能があるらしいと解った。家業の蕎麦屋を手伝いながら、本気でプロゲーマーをめざそうと考えている。

 下駄箱で厚底のレザーブーツに履き替える。ほかのクラスの生徒たちとすれ違い、昇降口から出る。女子校の賑やかさの中にいるのも最後と思うと、柄にもなく感傷的になる。

 秘密の抜け穴をつくった校舎裏のフェンスへたどりつく。もう一度色紙を見る。「かわいい」とか「おしゃれ」とか「かっこいい」とか、褒め言葉が書き連ねられている。クラスメートとあまり交流は持てなかったが、それでもうれしい。なにかと言うと女子が寄せ書きを書きたがるわけだ。ただし、まだ入院中の氷雨からのメッセージはない。

 革のリュックサックに色紙をしまう。中に隠してあるMP7を撫でる。この相棒との別れだけは耐えられず、早朝に部室へ忍びこみ、実弾三百発と一緒にいただいてきた。公安が交換した錠前を、テンションレンチとレークピックでこじ開けた。学院でまなんだもっとも有益な技能だ。将来食うに困っても、空き巣で稼げるだろう。

 背後から声がした。

「あいかわらず手癖が悪いな」

 振り向くと、ボマージャケットを着た千鳥が苦笑いを浮かべている。思えば彼女とはじめて話したのも校舎裏だった。

 ミキが答える。「えっと、これはその」

「まあ銃のことはともかく、きょうが最後なら先輩に一言挨拶しなきゃダメだろう」

「別に縁を切るわけじゃないですし」

「どうだか。学院辞めてなにして過ごすんだ? 朝から晩までゲーム三昧か?」

「ボクなりに夢ができたんです」

「ふうん。ならこうゆうのはどうだ?」

 千鳥がスマートフォンの画面を見せる。どこかのホームページらしい。モデル風に端正な顔立ちの女子高生が、銃を構える写真が載っている。

「なんですか、これ」

「スパイゲームが復活するんだ。文科省が絡まない形で。あたしの親父は顔が広いから、スポンサーを集めてくれてる。ただひとつ条件をつけられて……」

「ボクが参加するってことですか」

「話が早いのもあいかわらずだな」

 ミキは唇を噛み、首を回す。

 心は揺れる。

 斜めに刀傷を負ったジェーンの姿が、いまだに毎晩夢に出て悩まされている。許されざる罪だ。スパイゲームは封印したい過去なのだ。

 一方で、こっそりMP7を盗み出したくらい、自分にとってもっとも充実した日々でもある。

 キーキーとゆう金属音とともに、校舎の陰から車椅子があらわれた。座るのは氷雨で、きららが背後から押している。

「氷雨ちゃん!」ミキが叫ぶ。「退院したの」

「きょうからね。驚かせたくて内緒にしてた」

「車椅子だと学校生活大変でしょ。手伝ってあげたいけど、ボクはもう……」

「リハビリも順調だから大丈夫。スパイゲームの実行委員としても、みんなでがんばるつもり」

「そうなんだ」

 氷雨の優しい笑顔に、ミキは胸をしめつけられる。飛び降り自殺をこころみるほど追い詰められてたのに、また前向きな姿勢を見せている。

 やっぱり一緒にいたい。またチームを組みたい。

「あの」ミキが言う。「退学届って、いまからでも撤回できるかな……」

 千鳥が飛び跳ねながら叫ぶ。

「よっしゃ来たあ! きららの作戦どおりだ。頑固なミキも、氷雨の説得なら耳を貸すって」

「ボクは頑固じゃないですよ」

「なに言ってんだか。あたしがどんだけ苦労したか」

 諜報部の四人は、声をあわせて笑う。いますぐ試合に出れそうなくらい、息はぴったりだ。

 いたづらっぽく右目を細め、ミキが言う。

「ところで新しいスパイゲームですけど、実弾射撃ありにするのってどうです?」




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

栗山ミヅキ『保安官エヴァンスの嘘』

 

 

保安官エヴァンスの嘘

 

作者:栗山ミヅキ

掲載誌:『週刊少年サンデー』(小学館)2017年-

単行本:少年サンデーコミックス

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「エルモア・エヴァンス」は、西部の街をまもる保安官。

銃のあつかいも凄腕だ。

しかし頭の中ではつねに女の子のことを考えている。

モテたいため保安官になったから。

 

 

 

 

富豪令嬢の警護をまかされるなど、毎話美少女が登場する。

その都度いい雰囲気になるが、1話14ページではさしたる進展もなく終わる。

『男はつらいよ』的な寸止めエピソードの連続は、日本人好みかもしれない。

 

 

 

 

孤高のガンマンをきどるエヴァンスは、結局のところモテない。

ウェイトレスのスカートの中をのぞいたりする、

職業柄にそぐわないムッツリスケベぶりが本作のみどころ。

 

 

 

 

西部劇の世界観は、20世紀以降の自由恋愛主義とは趣きが異なる。

たとえば氏素性さだかならぬ女を助けたら、

相手はお礼をカラダで支払おうと服を脱ぎはじめる。

こうゆうことに慣れてるらしい。

独特の味つけとして利いている。

 

 

 

 

本作のヒロインは、賞金稼ぎの「フィービー・オークレイ」。

ウサ耳風のリボンが、アメリカンな感じでかわいい。

 

 

 

 

射撃の練習にかまけたエヴァンスとオークレイは、ともに恋愛はからっきし。

おたがいを憎からず思ってるのに、いがみ合ってばかり。

西部劇映画でよく見る、あのじれったい恋模様が、

ラブコメのフォーマットとの意外な相性のよさを発揮している。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

くろたま『社畜に死神が憑く案件』

 

 

社畜に死神が憑く案件

 

作者:くろたま

掲載サイト:『ジーンピクシブ』(ピクシブ)2016年-

単行本:MFCジーンピクシブシリーズ(KADOKAWA)

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27歳のOL「有本栞」が深夜に帰宅すると、玄関口に死神がいた。

過労のあまり死期が迫ってると伝えにきたらしい。

 

 

 

 

栞は動揺するどころか、正確な死亡日時を知りたがる。

たくさん仕事を抱えてるので、スケジュール調整しないといけないから。

付箋だらけの手帳とか、ヒロインの社畜っぷりが見どころ。

 

 

 

 

死神の世界では、人間それぞれの寿命を守らせる義務があり、

過労死寸前の栞を諌めるため人間界へやってきた。

しかしお説教中に睡眠不足の栞は眠りだす。

死神はしかたなく部屋に住み着き、家事を受け持つことに。

 

 

 

 

栞はなかなかのスーパーウーマンとして描かれる。

マジメで有能であるがゆえ、膨大な仕事量を背負いこむとゆうジレンマもあるが。

 

 

 

 

寝る暇もない毎日のなかで、ときおり見せる可愛らしい笑顔。

魅力的なヒロインを提示するのに成功している。

 

 

 

 

イケメン同期との食事中、恋人ができたのではと疑われる。

死神との同居生活で、心身ともに変化が生じたらしい。

三角関係の発生が匂わされ、変則的なラブコメとしても楽しめそう。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

水谷ふみ/瀬戸内ワタリ『浜咲さんなら引いている』

 

 

浜咲さんなら引いている

 

作画:水谷ふみ

原作:瀬戸内ワタリ

掲載誌:『ビッグコミックスペリオール』(小学館)2017年-

単行本:ビッグコミックス

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「浜咲さん」は、長い黒髪がトレードマークの女子高生。

こう見えて釣りが大好きで、放課後に都会の真ん中で竿をふる。

つまり本作は、JK版『釣りバカ日誌』だ。

 

 

 

 

腕前は名人級。

穴場を日々調査し、魚がいなさそうなところでもヒットさせる。

ぎゅんと釣り上げるときの紅潮した顔は、これまでの釣り漫画にない可愛さ。

 

 

 

 

研究熱心なあまり、学校でバケツに顔をつっこんで道具を調整。

まわりには心配されてしまうが。

 

 

 

 

糸を切るとき口にくわえたりとか、地味な題材にも「萌えポイント」がある。

きらら系に載ってそうな絵柄だが、掲載誌は『スペリオール』。

 

 

 

 

浜咲さんは、釣ったものはおいしくいただくタイプ。

本作はグルメ漫画の側面もある。

エプロン姿がまた似合っている。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『ナデシコ女学院諜報部!』 第13章「スティンガー」


登場人物・あらすじ(準備中)


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 炎上し崩壊するシンデレラ城を、ミキは呆然と見上げる。来場者や従業員が悲鳴を上げながら衝突し、蜂の巣をつついた様な混乱だ。笑顔のくまのプーさんが、赤ん坊を抱いて走る母親を突き飛ばす。

 ミキは人混みを掻き分けながら考える。

 随分と雑な戦術だ。セミアクティブレーダーで誘導されるヘルファイアの命中精度は、こんなものじゃない。八キロ離れた地点から、トイレの窓を狙えるくらいなのに。

 敵は混乱している。

 勿論それがミキの行動方針だ。神出鬼没の機動で敵を引きずり回し、有利な状況をつくって決戦をいどむ。いつものプレイスタイルだ。

 レストランから、SCARを構えたSADオペレーター四名があらわれる。ファンタジーランドの雰囲気をぶち壊す無粋な男ども。

 千鳥やきららとは、しばらく合流できそうにない。無事を祈るしかない。自分がこの四人を引きつけて打開したい。

 ミキは遮蔽物をもとめ、鉄柵を飛び越えて「アリスのティーパーティー」へ踏みこむ。にぎやかな音楽が流れるなか、床とカップが高速回転しはじめる。ライフル弾がカップに当たり、リズミカルな伴奏をつける。

 ミキは駆け寄るSADに対し、MP7を発砲する。弾は見当ちがいの方向へ飛ぶ。だが百戦錬磨の射手である敵も、ライドの不規則な動きに手こずる。

 ミキはライドから降りて逃げる。敵の気配がない。追手を撒いたとはおもえない。SADはおもに軍の特殊部隊出身者で構成されている。無能なはずない。深追いしないのは理由がある。

 ヘルファイアだ。

 ミキは空を見上げる。上空の黒点が空対地ミサイルだと判断する。ヘルファイアの速度は秒速四百二十五メートル。甘く見積もって命中まで十秒。

 ミキは運行開始間際の「空飛ぶダンボ」に飛び乗る。レバーを倒すとダンボがふわりと舞い上がり、ヘルファイアの直撃を躱す。しかし爆風で土台ごとライドが揺れる。指揮棒を振るティモシーマウスが立つ中央の柱が、根元から折れる。

 ミキは前転しながら着地する。両手で全身をまさぐる。骨折などの重傷はない。ツイてる。まだまだイケる。

 ディズニーってあんま好きじゃなかったけど、思ってたより刺激的だな。




 きららはAWライフルを両手で持ったまま、シンデレラ城前の広場で立ち尽くす。お城が焼け落ちたのを信じられない。いくらなんでもやりすぎだと思う。夢の国で戦争するなんて。

 目眩がして、ベンチに腰を下ろす。自然と涙がこぼれる。自分がいかにディズニーランドを愛していたのかに気づく。

 なにかと気苦労の多い女子にとって、現実逃避できる場所は必要だ。無邪気な子供に戻ってはしゃいで、ストレス発散しなきゃやってけない。

 つくづく自分は損な性格だとおもう。それなりに気配りが上手で、頼まれると断れないのをいいことに、いつの間に諜報部部長や生徒会長にならされていた。教師に苦情を言われ、OGに振り回され、自分勝手な下級生に悩まされる毎日。多事多忙で、恋愛にも縁がないまま十八歳になった。そこそこ美人だと自負してるのだけど。

 それはそれでいい。人の役に立つのは嫌いじゃない。でもこんな私から、たまの楽しみを奪うことないじゃない。

 冗談じゃないわよ。

 きららは怒りに震えつつ立ち上がる。ゴミ箱の横側をひらき、照準器のついたミサイル発射装置をとりだす。諜報部OGの白井が隠匿しておいた、携帯式防空ミサイルシステムのスティンガーだ。

 きららは照準器を覗きながら、ユニットの開放スイッチを押す。発射可能であると知らせるブザーが鳴る。

 これは父の仇討ちでもある。きららの父親は特殊作戦群の指揮官で、テスラシステムを奪うため六年前に米軍と交戦した。優秀な自衛官だったが、命令違反と部下に多数の死傷者を出した責任をとらされ、左遷同然に防衛駐在官として外国へ赴任した。飛び立つ前に娘に、公安ですらその存在を知らない、天才ハッカーである氷雨の保護を託した。

 きららはトリガーを引く。

 白い航跡を残しながらミサイルが突進する。赤外線センサーをもちいた自動追尾機能により、高度三千メートルを旋回するリーパーを撃墜した。




 敵航空戦力を排除したことで、諜報部の三人はどうにか合流する。千鳥のお気にいりのレザージャケットは、背中が大きく破けている。

 三人は『ふしぎの国のアリス』をモチーフにしたレストラン、「クイーン・オブ・ハートのバンケットホール」へ向かう。トランプの兵士に見守られながら店内に入ると、人の姿はなく、チェス盤を模した床にテーブルと椅子が転がっている。店の周囲で何度もミサイルが爆発してるのだから当然か。

 三人は足音をしのばせて厨房をすすむ。火がついたままのコンロの上でスープが煮えている。ミキはつまみ食いしたい欲望と戦う。

 ドアを開けて廊下へ出る。千鳥は角の前で立ち止まり、小火器用のアダプターであるコーナーショットを構える。先端にグロック19が装着され、手前に小さなモニターがある。先端部を右に九十度折り曲げ、自身を敵の射線にさらさずに奥を観察する。

 デニムシャツを着たSADオペレーターが、モニターに映る。地下基地へつながるエレベーターの番をしている。オペレーターは即反応し、SCARを発砲する。千鳥は落ち着いて敵を赤い十字にとらえ、四回トリガーを引く。アダプターと連動したグロックが九ミリ弾を放つ。オペレーターは斃れた。

 ミキは間髪いれずエレベーターへ走り、MP7の銃口をオペレーターに向ける。その必要はなかった。さすがはフリーキックの名手、全弾頭部に命中している。

 ミキはボタンを押してエレベーターに乗りこみ、ドアが閉まらないよう手で止める。

 ミキが言う。「卑怯な武器だなあ。ロマンがない。でも使ってみたい。ちょっと交換しましょう」

「いや」千鳥が答える。「あたしらはここに残る」

 千鳥はグロックをアダプターから分離し、両手で握る。アサルトライフルのHK416を持つきららと一緒に、ミキに背を向けている。

「へ?」ミキが言う。「なに言ってんですか」

「じきにSADが殺到する。あたしら二人で食い止める。テスラシステムの方は任せた」

「嫌ですよ。いままで散々チームワークが大事と言ってたくせに、そりゃないでしょ」

「お前にそんなもの期待してねえよ。なあ、メッシとかロナウドとか知ってるか」

「サッカー選手ですか」

「あいつらは守備をしないんだ。ほかの十人が汗をかいてるあいだ、ずっとサボってる。その代わり、絶対に点を取ることを要求される」

「それがボクだと」

「諜報部のエースはお前だろ」

 千鳥はニヤリと笑う。

 ミキの細い両腕に鳥肌が立つ。ここに残るのと、テスラシステムへ向かうのと、どちらが危険かはわからない。

 とにかく期待に応えたい。

 ミキと千鳥は、おたがいの拳をぶつけ合った。




 ミキは、おかっぱ頭のアルテミシアに背中を小突かれ、管制室に入る。エレベーターを降りたあと、SAD二名と交戦し無力化したが、アルテミシアに武装解除された。

 約四十名がいた管制室は、ジェーンとアルテミシアのほか、三名の技術者しか残ってない。ウォーターサーバーのゴボゴボとゆう気泡の音が、静寂の空間に響く。

 無人航空機が不慮の攻撃をしかけたことにより、指揮権はCIAから国防総省へ委譲された。三十分以内に、待機していた三千人規模の兵員が浦安に展開される。「第二次トモダチ作戦」発動だ。作戦目標は六年前と同様、テスラシステムの確保。名実ともに日米両国は武力紛争状態におちいった。

 逃げ足の速さで知られるCIA高官たちは、自分に責任がないと立證する書類をつくりに、執務室のあるフロント企業へもどった。

 ジェーンは尖った顎を傲然と突き出し、腕を組む。彼女はいつも腕組みしている。

「ボディチェックはしたの」

 アルテミシアが答える。「ええ」

「具体的に報告して」

「膣や直腸まで調べたわ。生理中だった」

「甘いわね」

 ジェーンは左手でミキの顎をつかみ、無理やり口を開かせる。右手に拳銃のファイブセブンを持っている。ミキの奥歯を観察しながら言う。

「たとえば歯に毒物を仕込んでるかもしれない。私ならもっと徹底的にやる。ペンチとかドリルとか、使えそうなのを持ってきて」

 どんよりした目でうなづき、アルテミシアは管制室から出る。

 ジェーンは顎から手を離す。ミキの左目に紫色の炎がゆらめく。

 拷問が怖くてスパイはつとまらない。歯の一本や二本、くれてやる。

「バカな女」ジェーンが言う。「東京から離れろと忠告してやったのに。そんなに命を捨てたいなら、手伝ってあげるわ」

「死ぬときは刺し違えて死ぬ」

 ジェーンは十字架をいじりながら、くぐもった声で笑う。いまの状況が楽しくて仕方ないらしい。

「悲劇じゃなく喜劇で終幕ね。カミカゼガール、お前は最高の道化だったわ」

 いましかない。

 ミキは脱兎の様に走り出す。ジェーンとの十メートルの間隔を一気にちぢめる。

 ジェーンは当然、反撃を予期していた。眉ひとつ動かさずにファイブセブンの銃口をむける。

 ミキは機敏に方向を変え、ジェーンの脇をすり抜ける。コアシステムにつながれたノートPCへ駆け寄る。USBメモリをポートに挿す。血で濡れてるのは、生理用タンポンに擬した容器に隠していたから。氷雨の自宅から拝借したスパイ道具だ。幸か不幸かちょうど月経が来たので、いい偽装になった。生理が軽いタチで助かった。

 USBメモリには、氷雨から受け取ったプログラムを保存してある。六年前にテスラシステムの防壁を書き換えた当人だから、突破するのはたやすい。地震発生を停止すると同時に、電圧を急上昇させてシステムを内部から破壊する。非常ランプとサイレンで、管制室は途端に騒がしくなる。

 ファイブセブンを構えるジェーンが、ゆっくり近づく。平静を装うが、口の端が痙攣している。

「で?」ジェーンが言う。「そんなガラクタを壊されたところで、痛くも痒くもない」

「これを見てもそう言えるかな」

 ミキはコアシステムの操作卓のスロットから、日本刀を引き抜く。

 国宝・七星剣だ。




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苑田 謙

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