犬江しんすけ『少女騎士団×ナイトテイル』

 

 

少女騎士団×ナイトテイル

 

作者:犬江しんすけ

掲載誌:『電撃G'sコミック』(KADOKAWA)2016年-

単行本:電撃コミックスNEXT

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冒頭で女子高生が痴漢にあう漫画は、

たぶん100以上読んでるが、なかでも本作は見応えあり。

お尻だけでなく、たわわな胸まで直に触るサービス精神。

カラーページなのもうれしい。

 

 

 

 

貞操の危機にみまわれた「しのぶ」に、救いの手がさしのべられる。

甲冑を着こみ、騎士を名乗る不審人物だが。

そりゃまあ、騎士はレディを敬うものだけど。

 

 

 

 

兜をぬぐと、うつくしい銀髪と碧眼をもった美少女があらわれる。

彼女の名は「奏(かなで)」、女子高生である。

 

甲冑や鎖帷子の描き込みと、キラキラした女の子を両立させた、

きわめてクオリティのたかい第1話だ。

 

 

 

 

奏が四六時中鎧を着てるのは、「ヘヴィファイト」の選手だから。

西洋甲冑で殴り合う、実在する競技だ。

戦車道やスクールアイドルと一緒にしちゃダメ。

作者も2013年からスクールにかよってるらしい。

 

 

 

 

こちらは高校チャンピオンの「エミリア」。

音もないあざやかな踏み込みで、奏との腕の違いをみせつける。

 

 

 

 

忠誠の誓いとか、とにかく絵になる。

プロットは「めざせ全国!」的な部活モノでちょっとベタで、

たとえばアーサー王伝説を下敷きにするなどのギミックがあってもいいが、

「JK×騎士道」がおいしい題材なのはまちがいない。

 

 

 

 

ギャップ萌えを通りこしたシュールさも魅力。

甲冑もセーラー服もおっぱいもフル装備の、要注目作だ。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

ひみつ『担当編集ボツ子さん』

 

 

担当編集ボツ子さん

 

作者:ひみつ

掲載誌:『まんがタイムきらら』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

ためし読み/同作者の『ぺたがーる』の記事

 

 

 

うだつの上がらない漫画家「田中一人」に、あらたな担当編集がついた。

新人の女性編集者である「刺子愛(さしこ あい)」。

SMの女王様みたいな恰好で度肝を抜く。

 

 

 

 

打ち合わせのときの言動も女王様風で、容赦なく責める。

作品や技術だけでなく、人間性まで否定。

仕事とゆうより趣味でやってそうでこわい。

 

 

 

 

一方で、いきなり嫉妬心を露わにしたり。

なにを考えてるのか、ますますわからない。

 

 

 

 

プライベートの服装はフツウで、物腰もおしとやか。

作家に「ムチを入れる」ため、仕事ではキャラをつくってるらしい。

 

刺子さんが編集業に入れこむ様になった、幼少時のきっかけも語られる。

おっかなくて憎たらしいけど、かわいくってしかたない。

 

 

 

 

こちらはライバル出版社の編集者「犬井夢子」。

なぜか田中の読み切りを気に入り、コンタクトしてきた。

 

中学生にしか見えない外見、だぶだぶのスーツ。

髪型を工夫してシルエットで識別しやすくするなど、キャラデザがたくみ。

 

 

 

 

田中の妹・刺子・犬井の3人での女子トークは、萌え4コマの楽しさがつまってる。

『ぺたがーる』で、「おっぱいの大きさ」とゆうあまり上品でないテーマを、

「百合」の世界観に落とし込んだ作者の技が冴えている。

 

 

 

 

4話からは縦位置の扉絵を多用するなど、演出面でアイデア豊富。

ギャグもヴィジュアルもセンス抜群だ。

 

版元を変えても安定のパフォーマンス。

本作でひみつは、自身が萌え4コマのマエストロであると證明した。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ  きらら系コミック 

黒瀬浩介/蝸牛くも『ゴブリンスレイヤー』

 

 

ゴブリンスレイヤー

 

作画:黒瀬浩介

原作:蝸牛くも

キャラクター原案:神奈月昇

掲載誌:『月刊ビッグガンガン』(スクウェア・エニックス)2016年-

単行本:ビッグガンガンコミックス

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主人公は15歳の「女神官」。

冒険者ギルドで新米パーティから、ゴブリン退治にさそわれる。

敵は体力も知力も人間の子供程度だから楽勝だと。

若い娘がさらわれたらしい。

 

 

 

 

しかし話とちがいゴブリンは狡猾で、洞窟でパーティを待ち伏せする。

女魔術師が瀕死の重傷を負う。

短剣には毒が塗られ、女神官の治癒魔法が効かない。

 

 

 

 

リーダーの戦士は狭くて暗い洞窟での戦い方を知らず、自滅した。

冒険者たちを無力化したところで、ゴブリンは女格闘家を陵辱する。

 

 

 

 

反撃の術をもたない女神官は、仲間が嬲りものにされるのを呆然とながめる。

失禁して股間が濡れている。

すさまじい絶望感。

 

過酷な世界観をはっきりつたえる、インパクトのつよい第1話だ。

 

 

 

 

そこに重装備の「ゴブリンスレイヤー」があらわれ、敵を一掃する。

新米冒険者むきのゴブリン退治を専門とする変わり者だ。

女神官は救われるが、女格闘家は生涯消えないであろうダメージをうけた。

 

 

 

 

ゴブリンスレイヤーは目ざとく隠れ場所を発見。

なかにはゴブリンの子供がいた。

女神官の反対に耳を貸さず、罪のない子供を全員殺す。

 

 

 

 

ゴブリンスレイヤーが異様にゴブリンを敵視するに至った経緯もかたられる。

 

ゴブリンは弱く、大物冒険者たちは相手をしないが、

弱いからこそゴブリンは辺境の村を襲い、庶民を泣かせ続ける。

ゴブリンスレイヤーは大金や名誉には目をくれず、

あえて最弱のモンスターのみをターゲットにすると決意した。

「アンチヒーロー」の興味ぶかい人間像が提示されている。

 

 

 

 

黒瀬浩介は、取り扱いの難しい題材に真正面からぶつかっている。

特に背中からお尻の描写がうつくしい。

1話の刺激が強すぎるきらいはあるが、幸福なコミカライズと言えるだろう。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

篤見唯子『スロウスタート』3巻

 

 

スロウスタート

 

作者:篤見唯子

掲載誌:『まんがタイムきらら』(芳文社)2013年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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『スロウスタート』は扉絵でひっぱる漫画だ。

その牽引力は、パグ犬なみでさほど強くないが。

 

 

 

 

繊細で洗練された描線。

ソリッドな構図のなかで息づく女子同士の関係性。

ハッとさせられる。

 

 

 

 

本篇は扉絵以上にスタティック。

事件はおきない。

われわれが経験する日常より平穏なほど。

「日常系」のコンセプトをおしすすめた結果、むしろ特異な世界観となっている。

 

 

 

 

28話は4人で水着を買いに行く。

栄依子はちょっと大胆なビキニ。

事前に「水着を試着するときはパンツは脱がない」と話しており、

きらら定番のネタに重層的な味わいが加わる。

 

 

 

 

花名はかわいい系、たまては何とも言えない系。

ファッションの語彙の豊富さが、本作の中心的なメリットだ。

 

 

 

 

『スロウスタート』が、超自然的な時間感覚を呼びさますのは、

主人公の花名が極度に引っこみ思案で、ストーリーが進展しないから。

でもごくまれに、おっかなびっくり足を踏み出し、読者の心をつかむ。

月並な会話のなかの「え」の一言が、あざやかな情景となってせまる。

 

 

 

 

3巻の白眉は32-33話。

自分がつくったネックレスを先生がつけてくれて嬉しいとゆう、

ただそれだけの話を、わざわざ2話にわたって引っぱる。

 

一コマごとに背景を変えるのは本作の特徴だが、

このページは処理が精緻の極みに達していて、ため息がでる。

イレギュラーな「9コマめ」の余韻は、ちょっとした奇跡だ。





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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合  きらら系コミック 

あずま京太郎/日向寺明徳『サクラブリゲイド』6巻

 

 

サクラブリゲイド

 

作画:あずま京太郎

原作:日向寺明徳

掲載誌:『月刊少年シリウス』(講談社)2014年-

単行本:シリウスKC

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5巻が出たのを見逃してたら、この漫画えらいことになってた。

世界の軍事を牛耳る組織「アルカディア」の実態があきらかになる。

ヒトラー・リンカーン・ゲバラ・スターリン……。

古今東西の偉人のクローンが組織をうごかしていた。

 

 

 

 

次巻予告に「すべてにケリをつける」とあるので、7巻で完結らしい。

クライマックスにむけバトルにつぐバトルである。

 

『サクラブリゲイド』の戦術は、ロボット3体で「鼎団」を編制し、

「指揮・近接戦闘・狙撃」の三要素を組み合わせたもの。

ボトムズ的なザラザラした戦闘描写が魅力だ。

ちなみに狙撃手の「恵」は、コックピットでライフルを操作している。

 

 

 

 

恵は、アルカディアのエースによる狙撃で重傷を負う。

6巻時点で明言されないが、「白い死神」ことシモ・ヘイヘのクローンらしい。

 

 

 

 

技術的な理由で、鼎団の男女比は「1:2」となっている。

かわいい女子がいっぱいで華やかなのが嬉しいが、

物語が過酷さを増すにつれ、うつくしくも悲壮な表情をみせる。

 

 

 

 

「幕末の剣聖」こと男谷信友のクローンも参戦。

友人が斬られるのを目撃した「桜」は激昂する。

神経が接続されているロボットに、心身が汚染されてゆく。

 

 

 

 

ヒトとロボットの激烈な相互作用の果てに、暴走がはじまる。

『サクラブリゲイド』には、このジャンルの醍醐味がつまっている。

 

 

 

 

しかし、命をやりとりする深刻なドラマが佳境をむかえるなか、

本作のアイデンティティである、おっぱいやお尻への執着が薄れてきた。

両立の困難さは理解できるが、やはり残念におもう。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

Nintendo Switch 混沌を切り裂く光

 

 

任天堂のあたらしいハードウェアの名称やコンセプトが発表された。

その名は「Nintendo Switch」

携帯機と据置機の両方の性能をそなえており、

これ一台で、自宅のテレビでも外出先でもあそべる。

任天堂は、自身がつくりだした「携帯/据置」のボーダーを、

みづからの手で消去する気だ。

 

 

 

 

「Joy-Con」とゆう着脱可能なコントローラが目を引く特徴となっている。

ボタンやジョイスティックの部分だけスライドし……

 

 

 

 

……「本体」にカチッとはめれば、大型テレビであそんでいたゲームを、

そのまま好きな場所へ持ち出せる。

いかにも現代的なモビリティ。

 

 

 

 

ただ、家でも外でもゲームにのめりこむ様な人間は、

ジョイコンの取り外しすら億劫に感じるだろう。

そんな場合、帰宅したらジョイコンをつけたままの本体をドックにのせ……

 

 

 

 

……別のコントローラでつづきをプレイすれば、手間がひとつ減る。

ゲーマーはストレスを嫌う生き物なのだ。

 

ニンテンドースイッチの中心概念に、決定的なあたらしさはない。

実装されなかったが、PSVitaもHDMI出力機能の搭載を検討していた。

ある意味フツウな、期待どおりのハードと言える。

 

 

 

 

とは言えここから、元玩具メーカーの本領が発揮される。

ジョイコンは単独で、簡易なコントローラとして機能するため、

本体をスタンドで立てると、すぐその場で2人対戦が可能。

ふたつ本体があれば4人対戦!

激アツのマリオカート大会が世界各地でひらかれそう。

 

 

 

 

飛行機などで長時間移動するときは、

切り離したジョイコンだけ握ってプレイすると、目や腕の負担が軽減する。

 

 

 

 

Wiiの「ヌンチャクスタイル」で実證ずみだ。

ケーブルがなくなり、手軽な操作性がさらに進化した。

 

ちまちまっとして親しみやすいオモチャっぽさは、

ウルトラハンドや光線銃シリーズなどの伝統を受け継いでいる。

 

 

 

 

任天堂ハードの象徴である「十字キー」が消えた。

切り離したときボタンが必要なのでしかたない。

 

 

 

 

点対称的なジョイスティックとボタンの配置は、アイコンに採用。

人間工学やデザイン性でなく、「ギミック」として生まれたのが任天堂らしい。

 

 

 

 

単純に配置だけみるとXboxコントローラに似ているが、

あふれる遊び心はむしろワンダースワンにちかい。

縦持ちでもプレイできる独特の対称性。

 

横井軍平がニンテンドースイッチをみたら、きっとよろこぶはず。




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テーマ : 任天堂
ジャンル : ゲーム

タグ: NintendoSwitch 

環望『ソウルリキッドチェインバーズ』

 

 

ソウルリキッドチェインバーズ

 

作者:環望

掲載誌:『アワーズGH』(少年画報社)2016年-

単行本:YKコミックス

[『ウチのムスメに手を出すな!』の記事はこちら

 

 

 

眼下に群がるゾンビ。

幼い少女は義足についた刃で、けだるそうにそれを斬る。

荒廃した22世紀を舞台とする作品だ。

 

 

 

 

少女の名は「ロッテ」。

富豪の娘らしく、ガイドを雇って荒野を探索している。

 

 

 

 

バイオハザード的な災厄にみまわれた世界は、「死者の遊園地」とよばれる。

義足から放たれた砲弾が貫通する描写など、どことなくユーモラス。

 

 

 

 

粗暴な別の人格に支配された少女のアクション。

釣瓶みたいに命綱をつかい、ゾンビの群れの中へガイドを落とす。

 

 

 

 

30年のキャリアがある環望の作品は、密度が濃い。

ちょっとした建物の表現などにうならされる。

 

 

 

 

世界観や物語は、ちょっと詰めこみすぎかも。

ガスマスクをつけたおしゃべりなテディベア「ルイーゼ」や、

思想家アイン・ランドへの言及などについて、ここで簡潔にまとめられそうにない。

漫画ブログ泣かせだ。

僕はくわしくないが、ヴィジュアルで牽引するタイプの作家なのだろう。

 

 

 

 

とにかく「濃い」としか言えない。

『君の名は。』を見て、その通俗性に心底ウンザリしたあなたに、

この漫画らしい漫画を解毒剤として処方しよう。





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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ 

宮部サチ『まめコーデ』

 

 

まめコーデ

 

作者:宮部サチ

掲載誌:『COMICリュウ』(徳間書店)2016年-

単行本:リュウコミックス

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新人モデルの「姫川まめ」が、オーディションをうけている。

小学生みたいなダサい服を着てるが、一応事務所に所属するプロだ。

スカウトされてこの仕事をはじめるも、オーディションは連戦連敗。

 

水彩インクをつかってるらしい、ふわりとしたカラーページがすてき。

 

 

 

 

まめは鳥取の高校を出たばかりで、訛りも抜けてない。

地元でもパッとしないどころか、周囲からバカにされる存在だった。

なのでカメラを向けられるとつい萎縮する。

これじゃ華やかなモデルの世界で成功できるはずない。

 

 

 

 

新卒のマネージャー「如月」が、まめの担当になる。

親睦を深めるため飲みに行った席で、身体検査をおこなう。

 

これに性的な意味はなく、モデルとしての適性を確かめてるのだが、

『満腹百合』の作者ならではの百合の香りを、そこはかとなく漂わす。

 

 

 

 

ファッションに精通する如月による、猛特訓が開始。

ウォーキングをさせると、生まれたての仔鹿みたく頼りない。

 

 

 

 

それでも素材自体はずば抜けている。

磨けば磨くほどかがやく原石の様。

こんなにプロデュースしがいのあるモデルはいない。

 

 

 

 

せっかく服を買ってあげたのに、プライベートでのダサさは相変わらず。

ただ、この「小5コーデ」で表参道をあるくと、なまじっかルックスがいいため、

「個性的」とか言われて女の子たちの注目の的になる。

釈然としない敏腕マネージャー。

 

作者の両親が鳥取出身だそうで、そんな個人的事情を反映しつつ、

応援したくなるキャラと、ファッションモデルとゆう興味をそそる題材と、

辛辣なギャグで読者をひっぱる佳作だ。





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テーマ : 漫画
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タグ: 百合 

みやびあきの『なでしこドレミソラ』

 

 

なでしこドレミソラ

 

作者:みやびあきの

掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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わたしと一緒に和楽器、しませんか?

小柄でおかっぱ頭の「陽夜(ひよ)」が、校内で仲間をあつめる。

和楽器のバンドをつくりたいらしい。

 

 

 

 

陽夜が憧れるのは「AWAYUKI」とゆうバンド。

主人公の「美弥」を強引にライブへ誘い、布教する。

 

 

 

 

三味線奏者の「淡路雪菜」は、弾いてみた動画で人気に火がついた。

このインターネット時代、なにが古くてなにが新しいかは断定できない。

和楽器だから地味でダサいなんて思ってたら、取り残されるかも。

 

 

 

 

金髪にして高校デビューをねらっていた美弥は、

思いがけない縁で和楽器の世界へ飛びこむ。

津軽三味線をかき鳴らすと、まるで着物の柄みたいな文様が、

あざやかに、そしてたおやかに空間をいろどる。

 

非常にキャッチーな表現だ。

『はぢがーる』などで11巻の単行本を出しているみやびあきのは、

やや地味なイメージの作家だが、ついに「自分の声」を見つけたらしい。

 

 

 

 

とはいえ、はじめて三味線を手にした美弥が、おそるおそる爪弾くシーンもいい。

おなじ興味をもつ者同士、他愛ないことをおしゃべりしながら、

ちょっとづつ何かをつくりあげてゆく、贅沢な時の流れ。

 

それにしても「JK×三味線」が、こんなに絵になるなんて!

 

 

 

 

題材のおもしろさ、定番のストーリー、上質なヴィジュアル。

ゆたかなハーモニーを堪能できる漫画だ。





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如意自在『はるかなレシーブ』2巻

 

 

はるかなレシーブ

 

作者:如意自在

掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

ためし読み/1巻の記事

 

 

 

照りつける沖縄の太陽。

それよりまぶしい、水着の女の子たち。

いま一番熱いスポーツ漫画だ。

 

 

 

 

『はるかなレシーブ』の特色は、題材と絵柄のマッチング。

女子ののびやかな手足が、ビーチバレーのコートで映える。

これほど「絵になる」スポーツ漫画がほかにあるだろうか?

 

 

 

 

9話では、遥とかなたがお揃いの水着を買う。

遥はかわいいモノ好きだが、マジメなかなたに合わせシンプルなのをえらぶ。

沖縄らしくミンサー柄がはいっている。

かつて女たちは求愛の意味をこめ、この文様の帯をおくった。

無意識だけど、これは百合の水着。

 

 

 

 

遥は初心者だが、172cmの長身と運動神経をいかしブロックを担当。

一方のかなたはレシーブの名手。

試合を重ねるごとに戦術が熟成してゆく。

 

 

 

 

ただ守るだけじゃない、攻撃的なブロックに開眼。

コンビとしても個人としても、成長をみせる。

 

 

 

 

ビーチバレーの人間関係は濃厚で、息苦しいくらい。

ジュニアトーナメントで初勝利をおさめた「はるかな」が、よろこびを分かち合う。

遥の腿がかなたの股に食いこんでいる。

 

ある意味卑猥だが、爽やかでもある。

漫画における藝術性の極北ではないか。

 

 

 

 

週刊少年ジャンプの名物編集者・鳥嶋和彦がインタビューで、

有名な「友情・努力・勝利」のモットーを否定していた。

そんなのはバカが言うことだと。

 

百合・水着・お尻。

至高の三原則で、少女たちは神々しく輝く。





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テーマ : 漫画
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タチバナロク『可愛い上司を困らせたい』

 

 

可愛い上司を困らせたい

 

作者:タチバナロク

掲載誌:『まんがタイムスペシャル』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムコミックス

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大事件が発生した。

現場は、主人公である31歳のOL「井羅恵(いら めぐみ)」の自室。

朝めざめたら、チャラい新入社員の男が隣に寝てた。

ふたりとも裸で。

 

 

 

 

めぐみは、大手食品メーカーの商品開発部で次長をつとめる。

人生を仕事に捧げたせいで、恋愛経験ゼロ。

後輩の男とゆきずりで一夜をともにするなんて、ありえない。

 

いったいなにが起きたのか。

 

 

 

 

なんと4話にわたり、めぐみの「過ち」が検證される。

新人歓迎会で「青木俊」とサシで飲んでたら酔いつぶれ、

自宅で介抱されながら「野球拳がしたい」と駄々をこね、

疲れ果てて二人ともそのまま眠りこんだ、とゆうのが真相だった。

 

とりあえず無罪。

 

 

 

 

ふたりは交際をはじめる。

初デートは水族館。

 

タチバナロクは、『恋愛しませんか?』と『犬神さんと猿飛くんは仲が悪い。』で、

それぞれ3巻の単行本を出しているが、4コマは本作がはじめて。

「8ページ15本」のフォーマットの中間である5ページめで、

あざやかな大ゴマをもちいるのは、4コマ作品ではめづらしい。

 

 

 

 

水槽の内側と外側を交互にえがき、31歳OLの無邪気さを際立たす。

なんとも言えない間合いに惹きこまれる。

 

 

 

 

めぐみは仕事はともかく、恋愛は不器用で無神経。

男のプライドをわかってない。

ローアングルで無音の3コマめがいい。

 

 

 

 

青木の復讐は、「元カノ」を会社へ呼びつけ、めぐみに嫉妬させること。

正体はイトコなのだが。

 

タチバナロクの女性描写は肉感的で、4コマではややクドく感じられるが、

ぶち抜きのコマは印象ぶかいものが多く、抗しがたい魅力がある。

 

 

 

 

ダシにされた従姉の「しおり」が、「密会現場」から去る。

 

ファミレスの正面のロングショット、膝から上のミディアムロングショット、

溜息をとらえるクロースアップ、そしてブーツを履いた足許。

流麗なカメラワークに、見ているこちらが溜息をつく。

彼女はただのイトコじゃない、このままじゃ終わらないと、絵で訴えている。





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『高天原ラグナロク』 最終章「神々の黄昏」


登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む







 ジュンはレクサスから降り、高天原城外苑まで徒歩約十分の距離にある日比谷図書文化館へむかう。四階建てで三角形の施設だ。詰襟の制服の下にM1911を携行するが、鬼切は佩いてない。一日一回かぎりの神術をすでにつかった。一緒に降車した与一は図書館に入らず、歩哨の役をつとめる。

 二階のカウンターで、ジュンはベテランの男の司書にたずねる。

「あのう、ちょっと調べものをしてるんですが」

「はい。なにをお調べでしょう」

「宇宙の成り立ちです」

「学校のレポートとかですか」

「世界そのものを敵に回して戦って、勝つ方法を知りたいんです」

「……少々お待ちください」

 司書は四百五十ページもあるピーター・アトキンス『ガリレオの指』を差し出す。ジュンは、玉依が読んでいたジョアオ・マゲイジョ『光速より速い光』も三階の棚に見つけ、長机で読みはじめる。普段読書などしないが集中してページをめくり、役立ちそうな記述をさがす。

 『ガリレオの指』は進化・DNA・エネルギー・エントロピー・原子・対称性・量子・宇宙論・時空・算術の十章からなり、現代科学の全貌を描き出そうとする名著だ。特に量子・宇宙論・時空の章にジュンは興味をひかれる。時空とは、因果関係をもつ事象の連続体でなく、泡の様なものだとか、高次元の幾何学の研究者は、三次元にない四次元の関係を知覚できるとか。こんな話を玉依としたら楽しかったろうと悔やむ。

 マゲイジョは「光速変動理論」を提唱し、科学の世界で決定的な相対性理論を覆そうとした若い理論物理学者。頭の固い関係者をメッタ斬りにするユーモアがおもしろい。ジュンは「科学=つまらない」と思いこんでいたが、科学者は一種の革命家でもあるとわかった。

 人間は時間や空間といった枠組みさえ、改めることができる。たかが光や闇をつかさどるだけの神々など、恐れる意味があるだろうか。

 障子越しに西日が差しこみ、長机を赤く染める。ほかの利用客はみな帰ったらしく、物音ひとつしない。そう、静かすぎる。

 ジュンが顔を上げると、向かいの席でツクヨミが退屈そうに頬杖をついていた。黒のドレープワンピースを着ている。

「あなたは」ツクヨミが言う。「試験の前日に一夜漬けするタイプでしょ」

「勘だけはいいんでね」

「人生の卒業證書をあげるわ。まづUSBメモリを渡しなさい。頑固なクソババアから受け取った」

 ジュンは上着の裾を撥ね退け、ホルスターからM1911を抜く。

 空の両拳だけ眼前にある。

 ツクヨミがいつとも知れず右脇に立ち、M1911の銃口をジュンのこめかみへ乱暴に押しつける。

「さすが」ツクヨミが言う。「紅梅学院設立以来、最悪の劣等生。まるで学習しない」

「メモリを何につかう。世界を破滅させる気か」

「『夫婦関係』は悩みが多いものなの。小娘にはわからないわ」

 ジュンがポケットから取り出したチェーンつきのUSBメモリを、ツクヨミは首にかける。

 それは起爆装置だった。宇宙の樹の根元にある天の岩戸の奥に、巨樹を倒壊させられるほどの爆薬が仕掛けられており、服部家代々の当主が管理をまかされている。

 ツクヨミはM1911で下り階段を指し示し、ジュンに言う。

「道案内しなさい。天の岩戸に行ったことないのよ。土とか虫とか嫌いなの」




 ジュンとツクヨミは日比谷公園の並木道を歩く。夕方のやわらかい木漏れ日のなか、恋人たちとすれ違う。世界が破滅しかけてるのでなければ、いい気分に浸れたろう。

 ツクヨミは黒漆塗の刀を提げている。ヤマタノオロチを斬ったと神話で語られる「十握剣《とつかのつるぎ》」だ。

 喉の渇きと疲労を感じたジュンは、自動販売機に百五十円を投入し、ペットボトル入りのC1000レモンウォーターを購入する。

 ボタンを押しても反応がない。返却レバーを下げるとポキリと折れる。しゃがんで硬貨返却口を確かめると、あるべき位置に穴が空いていない。ジュンは癇癪をおこし自販機を蹴る。

「うふっ」ツクヨミが笑う。「おかしい」

「幻術か。くだらねえ」

「百五十円って端金よね。なのに人間は、おカネがからむとすぐ感情的になる」

 ジュンはツクヨミを睨みつけるが、神の観察は正しいとも思う。なけなしの小遣いを奪われ、無性に腹が立ってしかたない。きょう世界が滅びるかもしれないのに。

「おカネと神は似てるわ」ツクヨミが続ける。「大富豪もいれば、貧乏人もいる。おカネが好きな人もいれば、そうでもない人もいる。でも通貨の概念が存在しない世界は想像できない。どう、ちがう?」

「まあね」

「なぜかわかる?」

「知るか」

「有用だからよ。神もおなじ」

 微笑するツクヨミはヒールの音を立て、早足で吹上御苑へいそぐ。




 吹上の叢林をジュンが先導して通り抜け、天の岩戸の入口へたどり着く。もう三度めで慣れたもの。

 ジュンがタッチパネルを操作し、岩の扉を開けようとすると、ツクヨミは木陰に隠れて叫ぶ。

「姉上から聞いたわ! いっぱい虫が出るそうね。私が入る前に退治してちょうだい!」

 ジュンは懇願を無視して画面をフリックする。トラックが出入りできるくらいの大扉がひらく。アイフォンのライトで照らしながら、洞窟を進む。

 照明と人の声が奥からとどく。バスケットコートくらいの広さの部屋にコンピュータが数十台ならび、スーツを着た男女が慌ただしく働いている。ジュンの侵入に気づいた者もいるが、騒ぎ立てない。

 両側の壁は全面がディスプレイになっており、分割された画面に映像を流している。アマテラスを濠へ放りこむジュン。ジュンと土蜘蛛のキス。F-35Aの爆撃。養育院での銃撃戦。玉依の最期。凌雲閣からの飛び降り。ベッドでツクヨミに組み敷かれるアマテラスまで映っている。

 コンピュータの陰にいたアマテラスが立ち上がり、満面の笑みでジュンを迎える。

「ジュンよ。勝負はわらわの勝ちじゃな!」

「意味わからん」

「処女を捨てる競争をしたではないか」

 ツクヨミが口を開けたまま、出入口で立ち尽くしている。

「姉上さま」ツクヨミがつぶやく。「これは一体なんなの」

「神話を編集するための設備、通称『ライブラリー』じゃ」

「聞いたことないわ」

「二千七百年隠してたからのう」

「なぜ私たちが愛し合うところまで映像になってるの」

「愛し合う? 片思いの間違いであろう」

「答えて! なぜこんな映像が!?」

「わらわが録画した。当然ではないか」

「私は本気で姉上さまを……」

「そう思う様に、わらわが仕向けた。監督兼脚本家なのでな。一度セックスをしてみたかったのじゃ。そこのジュンにアテられてな」

「私を弄んだのね。私の気持ちはどうなるの」

「辛抱せよ。神話をつくるのが神の務めじゃ。しかしセックスとゆうのも、案外つまらんものじゃな。ヨミちゃんがヘタなのかもしれんが」

 ツクヨミは俯きながら震える。黒く塗った爪を両腕に突き立てる。

「私を怒らせたらどうなるかわかってないわね」

「USBメモリのことか。はやくよこせ」

「まさか、これも姉上のたくらみ!?」

「知力が違いすぎて、姉妹ゲンカにもならぬな」

 コンピュータで作業していた黒縁メガネの女が、ツクヨミの背後に忍び寄り、拳銃のベレッタPx4を後頭部へむける。女はツクヨミの肩越しに、ジュンにウィンクする。半蔵の部下だったくの一だ。服部軍団が「ライブラリー」を運営していることは、ジュンは千代から聞かされていた。ジュンがアマテラスを奪還してから、再稼働をはじめたらしい。

 ツクヨミは腰を沈め、十握剣の柄をにぎる。かすれ声でアマテラスに言う。

「実の妹に対し、なんて非情なふるまい」

「なるほど、妹か」

「それも嘘だと言うの」

「嘘ではない。でもヨミちゃんはおかしいと思わなかったか? 記紀で自分の記述があまりに少ないことに。太陽神と月神で、本来わらわと対になるべき存在なのに」

「なによ……いまさらなによ」

「ヨミちゃんのエピソードは、わらわがスサノヲの話に書き換えた。ここライブラリーで、太安万侶たちと。事実上の抹殺じゃな」

 ツクヨミは床に両手をつき、すすり泣く。

「私たちは最高の姉妹でしょ!」

「新作が完成しないとわからぬ。出来が悪ければ、またスサノヲに交代じゃ」

「いや……私を消さないで……おねがい」

「ふふ、熱演じゃのう」

 くの一がPx4を二発撃ち、ツクヨミを殺す。血溜まりからUSBメモリをとり、アマテラスにわたす。アマテラスは満足げに首にかける。

 ジュンはツクヨミの遺体から十握剣をうばい、上段に構える。

「なんじゃ」アマテラスが言う。「わらわを斬るのか。かまわんぞ。そんな結末も悪くない」

「アマテラス。お前は一体なんなんだ」

「言ったはずじゃ。そちには理解できぬと」

 ジュンは袈裟斬りに、十握剣を振り下ろす。アマテラスは目をつむり、平然と受け止める。

 USBメモリだけ切断され、破片がワックスのかかった床で跳ねる。ジュンはそれを拾い、切断面をアマテラスに見せる。中身は空洞だった。

 アマテラスが言う。「偽物とは小癪な」

「ちがう。もともと起爆装置なんてない」

「なに」

「二代目服部半蔵は四百年前、あんたの命令で爆薬を設置したが、起爆装置はダミーにした。神の気まぐれで世界を破滅させない様に。服部家の本当の秘密は、あんたを騙してたことだ」

「嘘じゃ」

「神様も大したことねえな。まあ神話がどうちゃらはスケールがデカすぎて、あたしにはわからない。ただひとつだけ聞きたい。あたしの仲間の死に、あんたはどれだけ関わってる」

 部屋が大きく揺れるのをジュンは感じる。

 アマテラスは振動を気にとめず、ジュンの発言を鼻で笑う。

「愚問じゃな」

「いいから答えろ」

「そちの仲間の死は、そちの責任にきまっておる。適切に行動すれば回避できた。単なるミスじゃ」

「お前は悪くないのか」

「わらわはプレイヤーではない」

「人生をゲームにたとえるな!」

 地下室は振動にくわえ、轟音にもつつまれる。逃げ出すオペレーターもいる。

「中臣ジュン。そちは神に説教するか」

「だれも言わないなら、あたしが言う」

「ほう、おもしろい。最高傑作になりそうじゃ。リセットの後も、そちを起用してやろう」

「リセットって、本気で信じてるのか。動揺してるだろ。ツクヨミが言ってたぞ。神は有用だから存在するって。つまり無用になれば、お前だけが消滅するんだ」

 地震は立ってられないほど激しくなる。ジュンは机につかまる。セーラーワンピースを着た、金髪のアマテラスひとり仁王立ちする。無数のカラスが侵入し、鳴きながら飛び交う。

「わらわは神じゃ。ほかに生き方がない」

「人間を見習って生きればいい」

「神が人間を見習うのか」

「お母さんもたまちゃんも、みんな一回だけの人生を必死に生きていた。五歳のスミレでさえそうだった。あんたなんてあぶく、屁みたいなもんだ」

「ふん、生意気な」

「あんたも知ってるはずだ。人間のうつくしさを。心の底では羨ましがってるんだ」

 アマテラスは無言で背を向け、部屋の奥へつながるドアまで歩く。ノブに手をかけたとき、振り向いてジュンに大声で言う。

「濠に落とされて以来、そちの凶暴さには煩わされてきた」

「あれはケッサクだったね」

「でもいまの会話は興味深いものじゃった。礼を言っておく」

「どういたしまして」

「この世界も捨てたものではないかもしれん」

「そりゃそうでしょ」

「あと、アニメを一緒に見たかったな」

 ドアが閉じる。

 天の岩戸はいまにも天井が崩落しそうだ。ジュンは出口の洞窟へ走る。




 ジュンは洞窟を駆け抜け、岩の扉から飛び出す。

 吹上御苑は焼け野原と化していた。木々は倒れ、くすぶる炭になっている。まだあちこちで火の手が上がるが、消火活動をする者はない。

 夜空を見上げると、宇宙の樹まで炎上している。縦に亀裂がはいり、甲高い音を立てつつ真二つに裂け、左右に割れて倒れる。さっきの地震より荒々しく大地が揺れた。

 あたりに充満する煙を越え、聞き慣れた与一の低い叫びがひびく。

「おかしら、どこ!?」

 ジュンが答える前に、与一は捜索対象を見つけて飛びつく。ジュンの胸に顔をこすりつけ、泣き声を殺す。チーム・ミョルニルのほかの五名もあらわれる。

「なにやってんの」与一が言う。「勝手に図書館からいなくなるとかバカなの?」

「ごめん。いろいろあって。なんか神々が滅びちゃったみたい」

「どうでもいい。おかしらバカすぎ」

 チームは半蔵門から市街へ出る。遠くから消防車のサイレンが聞こえるが、高天原城ほど深刻な被害は生じてない様だ。ジュンは振り返り、かつて城だった場所をながめる。そこにはもうなにもない。廃墟ですらない。

 ジュンは深呼吸する。ようやくあたしの戦いが終わったのか。

 ずっとしがみついている与一が、真剣な表情でつぶやく。

「おかしら、言わなきゃいけないことが」

「なに」

「あした那須の山に帰る」

「よいっちゃん、がんばったもんね。たっぷり休んできなよ」

「ううん、そうじゃなくて。ずっと田舎にいたい」

「え?」

 煤まみれのジュンの顔が歪む。

「おかしらには悪いけど、もう疲れた」

「ちょっと待って。よいっちゃんはあたしの相棒でしょ」

「神術もつかえない一般人の私が、おかしらについてくのは正直きつかった」

「でもやっと戦争が終わったのに」

「わかってないなあ。おかしらが平穏な人生を送れると思ってるの?」

 ジュンは立ち止まり、両手で顔を覆う。

 また大切な人が、あたしの前からいなくなる。

 よいっちゃんのせいじゃない。射撃の天才だからって、酷使し続けたあたしが悪い。

 なぜあたしはこんなにバカなんだろう。

「おかしら、泣かないで」

「ごめんね。自己中な先輩で本当にごめんね」

「自己中は私だよ。後輩なのに、いつもタメ口でごめんなさい」

「なら一緒にいてよ! 言葉遣いとかいいから、あたしの相棒でいてよ!」

「おかしらのことは田舎からずっと見てるよ。もしなにかあったら助けに来る。相棒だから」

 大通りの反対側でガラスが割れる音がした。

 暴漢が混乱に乗じて宝石店を襲っている。ジュンは自分の体をまさぐる。武器がない。

 与一は軽く溜息をつきながら、拳銃のグロック22を差し出す。

 それを受け取ったジュンは、ガードレールをひらりと飛び越え、騒動の渦中へ一直線に疾走する。




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はまじあき『きらりブックス迷走中!』

 

 

きらりブックス迷走中!

 

作者:はまじあき

掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

「鳴草書房」とゆう店名のとおり、ここは本屋なのに、

歌って踊れる店員さんのアイドルライブがはじまる。

サービスの一環らしい。

 

 

 

 

店が迷走する原因は、小学生の「えりぃ」が店長になったから。

11歳でアメリカの大学を卒業した天才だが、

出版不況のせいか経営はおもわしくない。

 

 

 

 

主人公は、大財閥の娘である「桐生院きらり」。

天然ボケがひどすぎるため、母親の指図で、

いとこのえりぃが経営する店へ、アルバイトとして修行に出された。

 

エロ同人誌の表紙を見て、相撲漫画と勘違いするなど、世事に疎い。

 

 

 

 

いとこ同士の関係がかわいい。

コミケ会場で年下のえりぃが、刺激が強すぎると、きらりに目隠し。

 

 

 

 

作者は『ドージンワーク』以来のきららファン。

芳文社への持ち込みをへて、連載を獲得した。

虫眼鏡をつかって粗探しする主人公から、4コマ愛があふれ出る。

 

 

 

 

「部活物にすれば大体いける」なんてメタ発言に、

きららファンはニヤリとせずにいられない。

 

本作はコテコテのきらら風味の4コマである一方で、

すでに完成し模倣されまくるきららメソッドに対し、批評的に接する。

 

 

 

 

メニューは豊富だけど、なにをオーダーしても安定のきららアイデンティティ。

可憐な絵柄でマイルドに中和される、スパイシーなあじわい。

このレーベル、しばらく繁盛はつづきそう。





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せきはん『のーどうでいず』

 

 

のーどうでいず

 

作者:せきはん

掲載サイト:『コミックアース☆スター』(アース・スターエンターテイメント)2016年-

単行本:アース・スターコミックス

 

 

 

埼玉の田園を背景に、少女たちの夏休みを描くフルカラーコミック。

いたってのんびり、でもたまに冒険もあり。

 

 

 

 

東京育ちの美人姉妹が引っ越してきて、地元っ子は浮き立つ。

特に長女の「さとみ」は、垢抜けており大人っぽい。

 

 

 

 

ところがさとみは大の生物オタク。

タナゴを捕まえようと用水路を漁るのが趣味だった。

 

 

 

 

「女子の田舎暮らし」は『のんのんびより』などで人気のテーマだが、

本作の強みはやわらかい色彩にある。

7月の雨がしとしと降るなか、ネコとパンダの傘をさして歩く女子中学生。

なんて絵になる情景だろう。

 

 

 

 

車で荒川へ出かけ、水遊び。

都会育ちの姉妹は、水着に着替えるときちょっとドギマギ。

 

 

 

 

地元の「純」と「はなこ」は、それこそ水を得た魚のよう。

自然とふれあうよろこびを、全身で表現する。

 

 

 

 

さとみの妹の「ともえ」。

小学5年生だが、オタクをこじらせる姉よりしっかり者。

 

 

 

 

みんなで買い物に行ったイオンで、アイドルのステージに心奪われる。

やっぱり華やかなものに憧れるのが、女の子。

 

 

 

 

ひたすら丁寧に、色彩ゆたかに、それでいてさりげなく、

どこにでもありそうで、どこにもない、郊外のたのしい日常をえがく。

読み返すたび発見と感動がありそうな作品だ。





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得能正太郎『NEW GAME!画集 FAIRIES STORY』

『まんがタイムきららキャラット』2015年12月号カラーページイラスト

 

 

NEW GAME!画集 FAIRIES STORY

 

作者:得能正太郎

発行:芳文社 2016年

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上掲画像は、アニメ化を告知するもの。

2014年、降って湧いた様に「がんばるぞいブーム」がおこるが、

その波に乗ってあらたなステージへいどむ作者の決意が、

リボンをつまむ指先や、胸を張る姿勢にみなぎる。

「ポストぞい期」の傑作だろう。

 

 

コミックス第2巻カバーイラスト

 

 

作者がベストにあげる一点。

ラフを描くのに1週間かけた。

発売は2015年3月27日、ブームが萎むか定着するか誰もわからない時期。

 

コウは徹夜の作業のあと、床で寝ていた様だ。

先輩の精勤ぶりを青葉は尊敬しつつも、やや困惑している。

『NEW GAME!』はただ可愛いだけじゃない、

人間関係の機微もあじわうべき作品だと主張し、それは読者に受けいれられた。

 

 

『まんがタイムきららキャラット』2016年6月号表紙イラスト

 

 

トランプの絵札みたいな構図は、作者の十八番。

描画ソフトを変更してからは、さらに逆さまの描写を多用する様になった。

ここではねねっちを回転させる変奏を聞かせる。

 

 

ツイッターへの投稿イラスト

 

 

ツイッターでアニメ化を発表する瞬間にも、ねねっち登場。

主人公より喜んでいる。

 

きららキャラットのアニメ化発表号(2015年12月号)の表紙イラストは、

ねねっちを中心に配したラフがボツで、

青葉・コウ・ひふみを前面に出した無難な構図となった。

残念だけど、雑誌からSNSへ飛び出すのが、むしろねねっちらしい。

 

 

コミックス第2巻販促イラスト・メロンブックス

 

 

『NEW GAME!』の本質を簡単にまとめると、

まんがタイム系の「お仕事4コマ」と、きらら系の「キャッキャウフフ」の融合だ。

そこで描かれる日常はあくまでお仕事なので、服装もすこしダサくしている。

 

イラストで着せる服は、可愛く描けるので楽しいですね。

でもねねは大学生ということもありおしゃれ設定でいるので、

わりといつも通りな感じがします。

 

作者コメント

 

つまり桜ねねは本作のきららファクターを、小柄な一身に担う。

 

 

SHIBUYA TSUTAYAサイン会MPイラスト

 

 

サイン会用の和服シリーズの1点。

 

これはなんていうんだろう……モダンというか、ねねらしく、

枠にとらわれず和洋混ぜてしまう感じを意識しました。

 

自由に枠を飛び越えてゆく、ボーダレスねねっち。

存在そのものがクリエイティヴ。

 

半分遊んでいるので、わりと自由度が高いです。

そうするとねねが描きやすいんですが……。

ねねばかりになるのもいけないので、

単行本の内容を見て、振り分けています。

 

コミックス第1-5巻カバーイラストについてのコメント

 

ねねが本作のマスコットキャラだと、ついに作者が公認した。

描きたい欲求を抑えなくてはいけないほどの。

 

 

コミックス第2巻販促イラスト・とらのあな

 

 

どちらかと言うと上品な作風の得能だが、水着を描くのは好きらしい。

理由は、速く描けるから。

おまけに人目を引いてくれて、サービスにもなるし、いいことしかない。

オタク系ショップの特典は、特に露出多めに。

そんなとき頼りになるのが、トランジスタグラマー(再流行させたい言葉)のねねっち。

 

ねねっちは、連載開始時には設定すら存在しなかった。

「青葉が愚痴を言う相手」とゆう位置づけで登場させたら、

八方美人の主人公が全然愚痴らないので行き場をうしない、

勝手にバイトとしてイーグルジャンプへ入社、物語を引っかき回す。

 

まったく、どれだけ人を困らせたら気がすむのか。

一瞬たりとも目が離せない。





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『高天原ラグナロク』 第11章「浅草凌雲閣」


登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む







 眠れぬ夜をすごしたジュンは、拠点にしている養育院の四階にある部屋のベッドから下り、詰襟とショートパンツの制服を身につける。武具一式を装着し、リュックサックを背負ってから階段を下りる。与一と武術科六年の牛島が、玄関で待ち構えていた。親友を失ったジュンが意気沮喪してないか懸念してるらしい。

 ジュンが言う。「おはよう」

「うす」与一が答える。「おかしらにしては早起き」

「ずっと考えごとしてた。そうそう。急で申し訳ないけど、チーム・ミョルニルはきょうで解散」

「は?」

「これ以上みんなを巻き込みたくない。神様と戦うのが正しいかどうかもわかんないし」

「なに言ってんの」

「よいっちゃん、今までありがとう」

 与一は口を固く結び、ナイフ式銃剣を抜く。

「自己中バカ女」

「ひどいな」

「私がいなかったらオムツの交換もできないくせに」

「さすがにそれはない」

「おかしらの面倒は最後まで見る。嫌と言うなら刺す」

「歪んだ愛情だなあ。でもうれしいよ」

 長身で精悍な顔立ちの牛島は、ふたりを見て肩をすくめる。学院卒業後は陸軍での出世が約束されていたが、なにかの間違いで反政府集団の副リーダーとなった。しかし女の後輩が体を張ってるのに逃げたら、男がすたる。

 牛島はレクサスがとまる駐車場へ走る。




 ジュンと与一は、牛島が運転するレクサスの後部座席から降り、押上駅前にある浅草凌雲閣の入口へむかう。地上百六十階、高さ六百三十四メートル。世界一高い電波塔だ。普段は物見遊山の客でにぎわうが、89式小銃をもって警備する陸軍兵のせいで閑古鳥が鳴いている。

 スロープを上ってくるのがジュンとその相棒だと気づいた兵士の間に、動揺が走る。落ち着きなく味方同士で視線を交わすが、射撃姿勢はとらない。中臣ジュンが難敵と知っている。服部半蔵の妻を救出するためジュンが凌雲閣を襲うのは想定内だが、赤坂御用地での騒動の翌日にひょっこり姿を現すとは予想できなかった。

 自動ドアの脇に立つ中尉の階級章をつけた男に、ジュンは尋ねる。

「ここのチケットって、たしか高いんだよね。二千円以上すんだっけ」

「叛逆者め。調子にのるなよ」

「よくわかんないけど、タダでいいのかな」

 ジュンと与一はエレベーターを乗り継ぎ、最上部にあるコンクリートが打ちっぱなしの部屋へたどりつく。部屋にはベッド・椅子・テーブルなど最低限の調度しかない。奥は嵌め殺しの大きな窓で、昨日までと打って変わり雲一つない青天の下、ビル街を縫って運河の流れる出雲市のパノラマがひろがる。

 来客を予期していたかの様に、半蔵の妻である千代が立って出迎える。萌黄色の和服を着ている。

 ジュンは深く頭を下げて言う。

「奥さんは知ってるかわかりませんが……」

「主人のことね」

「はい。責任を感じてます。あたしのせいで半蔵先生は……」

「顔を上げなさい。あの日の夜、主人が枕元に立ったの。『ジュンをよろしく頼む』と言ってたわ」

「え……」

「五十年も連れ添えば、それくらい普通よ」

 未亡人は目を細め、ジュンに椅子をすすめる。

「あいにく」千代が続ける。「お茶菓子のひとつも出せないけれど」

「いえ、おかまいなく」

「ふふ……しゃべり方が大人っぽくなった」

「ありがとうございます」

「で、きょうは何の用? 私を助けに来たんじゃないわよね。七十歳のお婆ちゃんを連れて逃げ回るわけにいかない」

「なんでもお見通しですね」

「これでも服部半蔵の妻ですから」

「奥さんに保険をかけてあると、半蔵先生は言ってました。それが何なのか知りたいんです」

 千代の顔から笑みが消える。テーブルの反対側の椅子で居住まいを正す。

「それは服部家の秘中の秘です」

「わかってます」

 千代は衿から短刀の柄をみせる。

「痩せても枯れても、私は武家の女。もし秘密を漏らすことになれば、この場で自害いたします」

「そんな」

「命を惜しんで言うのではありませんよ。まだ若いあなたを、後で動揺させたくないだけ」

 ジュンは千代の瞳に射抜かれる。両親・半蔵・玉依……価値ある何かのため我が身を捧げる人々をジュンは見てきた。千代もためらいなく正義に殉じるだろう。あたしは甘ったれだ。頼めばどうにかなると、都合よく考えていた。

 ジュンは背筋をのばして言う。

「半蔵先生は、家庭を放ったらかしの人だったと思います」

「……いきなりなんですか」

「奥さんもさぞかし苦労されたのではないですか」

「否定できないわね」

「だからのんびりと幸せな余生を送ってほしいと、あたしは思ってます」

「そうね。もう家族はいないから、友達と旅行とかしたいわ」

「あたしと行きましょう」

「ええ、ぜひ。年寄りと一緒でよければ」

「いまは家に殉じる時代じゃないと思うんです」

 千代は左胸に忍ばせた短刀に触れる。迷っている。服部夫妻には陸軍士官だった二人の息子がいたが、三十年ほど前に東北でどちらも戦死した。自分以外の家族全員を失ったのはジュンも同じ。十六歳の娘にとって、どれほどの痛手か。その傷口をさらに抉るのは罪ではないか。

「ジュンさん、私はあなたの力になりたい。でもダメ。古い人間なの。主人がそうだった様に」

「苦しませてごめんなさい。あと昨晩寝ながら考えたことがあるんです。唐突に聞こえるでしょうが」

「なに」

「あたしを養女にもらってくれませんか」

「本当に唐突ね」

「あたし自分ちにいるのが苦手で、いつも家出みたいに半蔵先生のお家にお邪魔してて、いまは家族もいなくなっちゃったし……」

「冷静になりなさい。私とあなたでは年が離れすぎてるし、家柄も違う」

「そうですよね。ははっ、あたしバカみたい」

 千代は立ち上がり、ジュンに駆け寄って抱きしめる。これ以上ジュンが悲しむ顔を見るのが耐えられなかった。

「ジュンさん。養子だとかは関係なく、あなたを我が子の様に思っています」

「うれしいです。あたしも奥さんが大好き」

「あなたが死ぬなと言うなら、私は生きましょう。自分の信じる道をお行きなさい」




 鉄の扉をひらき、与一が顔を出して言う。

「牛島パイセンから連絡。下に追手が来た。特戦群十名。指揮官は夜刀神」

 ジュンは左腕の白いベビーGを見る。午前十時半。予想より十五分早い。

 与一はエレベーターへむかうが、ジュンは部屋にとどまり頭を掻きむしる。

 自分が指揮官なら、まづ凌雲閣の守備兵約三十名を突入させる。そこで中臣ジュンにミカヅチを使わせてから、精鋭の特戦群を投じる。いまのあたしはカゴの中の鳥だ。

 ならカゴを食い破れ。

 リュックサックからP90を取り出し、嵌め殺しの大きな窓へ歩み寄りながら、五十発全弾発砲する。装弾数を十発に増やしたM1911の四十五口径弾も撃ちこむ。千代は椅子にすわり、涼しい顔をしている。

 窓に亀裂が縦に走る。ジュンは鬼切を抜き、ヒビにそって振り下ろす。強化ガラスが粉々に砕け、風に乗り出雲市街へ散らばる。

 銃声を聞き、あわてて部屋へもどった与一に手を差し伸ばし、ジュンは叫ぶ。

「よいっちゃん、飛び降りるよ!」

「キ、キチガイ」

「ミカヅチを使えば死なない」

「冗談は顔だけにして」

「いいから先輩を信じろ」

「うっさい。こんなときだけ先輩ヅラすんな」

「イジメられてたのを助けたのは誰? あたしに恩があんでしょ」

「もうやだ。紅梅学院なんて入らなきゃよかった。那須の山に帰りたい」

「愚痴はあの世で聞く」

 自分でも信じてないじゃんと言いかけた与一の腰を、力任せに左腕で抱き、ジュンは地上六百三十四メートルの空中へ飛び出す。

 ふたりはパラシュート降下の訓練を積んでおり、自由落下中もある程度は姿勢を制御できるが、抱き合ったままでは錐揉み回転しかねない。降下速度は時速二百キロ。つまり着地まで十一・四秒。だが与一をかかえてるので左腕のベビーGを見れない。

「よいっちゃん!」ジュンが叫ぶ。「時計!」

「なに!? 風圧で聞こえない!」

「時間! 時間計らなきゃ!」

「だから聞こえないって!」

 時計に頼る必要はなかった。十一・四秒は一瞬を意味した。

 ジュンはパスワードをつぶやく。

「さりともと待ちし月日ぞうつりゆく心の花の色にまかせて」

 神術【ミカヅチ】。

 石の彫刻が設置された広場に、ジュンは片膝をついている。右手に鬼切をもち、左脇に与一をかかえている。目をつむる与一の頬を叩く。

「起きろ」ジュンが言う。「まだ死んでないぞ」

「……うそ」

「あっはっは。ミカヅチまじ最強」

「もう無理。おかしらについてくのは、もう無理」

「悪いけど、あと一仕事してもらうよ」

 路上に96式装輪装甲車がとまっている。夜刀神との決着をつけねばならない。

 ジュンと与一はレクサスで待機していた牛島と合流し、狙撃銃のレミントンMSRを入れたケースをトランクから出す。敵が凌雲閣から出てくるのを待ち伏せするため、三階建ての商業施設「出雲クモマチ」の屋上へ急ぐ。




 ジュンは弾倉を交換したP90を構え、クモマチの階段から屋上へ踏みこむ。芝生や木立が植えられた庭園だが、利用客はいない。鉄柵を乗り越え、地面を見下ろす。ピンク髪の夜刀神が、周囲を警戒する特戦群に護られながら、装甲車の後部ハッチをくぐる。ジュンはP90のドットサイトを合わせ発砲するが、間に合わない。装甲車は発進した。

 与一は右膝をつき、五十センチくらいの高さの縁にMSRのバイポッドを乗せる。338ラプア弾を二発放ち、左右のタイヤに命中させる。

 ジュンは双眼鏡で観察する。96式はコンバットタイヤを八輪そなえており、びくともしない。

 与一は交通信号を壊す。後続する一般車両を足止めし、射界を確保した。装甲車は三ブロックほど進んだが、角を曲がろうとしない。上部ハッチがひらき、赤いゴスロリ衣装を着たカブロが天井に立つ。『くるみ割り人形』かなにかを、優雅に踊りはじめる。

 メレルの靴底で縁を蹴り、ジュンがつぶやく。

「おちょくってやがる」

「撃つ?」

「無視して。うちらは快楽殺人者じゃない」

 距離は千メートルちかく離れる。ジュンは焦る。ツクヨミと対峙する前に、できるだけ戦力を削ぎたい。いまが夜刀神を斃す最後のチャンスだ。

「よいっちゃん」ジュンが続ける。「どうにか弱点を探そう」

「わかってる」

「FPSだったら赤いドラム缶を撃てばいいけど」

「ゲーム脳は黙ってて」

 与一の中で笑いがこみ上げ、照準がぶれる。

 まったく、この先輩は。

 気まぐれで、こちらは振り回されてばかりだけど、絶体絶命の窮地に陥ってもトボケていて、一緒にいる私まで楽観的になってしまう。

 出会えてよかった。

 与一は、対向車線から来るガソリンを積んだタンクローリーのタイヤを撃ち、横転させる。装輪装甲車は急ハンドルを切るが、タンクローリーと衝突し、仲良く転倒する。バレエを踊っていたカブロが投げ出される。おそらく即死だろう。

 ガソリンが交叉点に流れ出す。タンクローリーのドライバーは運転席から這い出し、事故現場から逃げ去る。分厚い装甲に護られている夜刀神と特戦群は、まだ閉じ籠もっている。姿を見せた瞬間に狙撃されるから。

 与一はMSRの弾倉を外して焼夷弾を二発込め、ボルトを前後し給弾する。そっけなくつぶやく。

「タンクローリーを吹っ飛ばそう」

「ダメだ。市街地のど真ん中で爆発させるなんて危険すぎる」

「私の責任でやる」

「リーダーはあたしだ」

「仇を取りたくないの?」

 ジュンは双眼鏡をコンクリートに叩きつける。

 五歳のスミレの泣き顔が目に浮かぶ。夜刀神は無邪気な妹の首を切り、映像を全世界に公開して晒し者にした。悲痛な叫びを思い出さない夜はない。

 ジュンはつぶやく。「よいっちゃん、お願い」

「らじゃざっと」

 一キロ先の交叉点で、ビルの谷間に紅蓮の火柱が立ちのぼる。爆音と悲鳴が轟く。

 MSRのスコープを覗きながら、与一が言う。

「装甲車から夜刀神が出てきた」

「どんな様子?」

「つらそう。キレイな衣装と髪が燃えてる」

 憐れな女。二度も全身を焼かれるなんて。

「おかしら」与一が尋ねる。「譲ろうか」

「撃てッ」

「いーけーあいえー」

 ジュンはよろめき、縁にしがみつく。朦朧とした意識のなかで口走る。

「お母さん……スミレ……やっと仇を取れたよ……よいっちゃんのおかげで……」




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苑田 謙

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