飴色みそ『カラフル・マキアート! -魔法少女は戦わない。-』

 

 

カラフル・マキアート! -魔法少女は戦わない。-

 

作者:飴色みそ

掲載誌:『まんがタイムきららミラク』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

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ふつう魔法少女は、物語冒頭でその能力に目覚める。

ピンチがおとづれたときとか。

本作の高校1年「桃瀬みのり」は、歩道橋から転落したらウサ耳魔法少女に。

 

 

 

 

でも「世界を救う」などの使命は、ヒロインにあたえられない。

同級生の「栞」をはじめ、周囲は美少女ばかりで十分満たされている。

 

 

 

 

2年生の「理子」も魔法少女で、みのりをスカウトする。

そして「カラフル・マキアート」とゆう部を結成。

 

テーマを文化部のフォーマットに落とし込めばとりあえずOKな、きららメソッド。

 

 

 

 

使い魔的ポジションのマスコットキャラもいる。

謎の生き物で、名前は「トコ」。

2年の「千波」に甘やかされ、丸々と太っておいしそう。

 

 

 

 

強いて言えば、生徒会が敵対者の役割かな。

マイペースな会長と、クールだけど頼りになる副会長。

勿論こちらも百合である。

 

 

 

 

第1巻に女の子は7人登場。

みんなかわいい。

でも平和の尊さを語るときのみのりの笑顔が、いちばんステキ。

 

 

 

 

かわいこちゃんのデパート状態のきらら系コミックだが、

本作の女子たちは、まばゆい銀河のなかで、たしかな存在感をしめす。






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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: きらら系コミック  萌え4コマ 

堀尾省太『ゴールデンゴールド』

 

 

ゴールデンゴールド

 

作者:堀尾省太

掲載誌:『月刊モーニングtwo』(講談社)2015年-

単行本:モーニングKC

[ためし読みはこちら

 

 

 

ツインテの主人公は「早坂琉花(るか)」、中学2年生だ。

広島県のちいさな島で、祖母と暮らしている。

 

 

 

 

生まれは福山だが人間関係がうまくゆかず、ここ寧島の中学へ転校した。

性格は繊細で、やや情緒不安定。

ただ海の生き物が好きで、祖母がいとなむ民宿のため食材を獲ったりする。

 

 

 

 

岩場でブキミな置物をひろったとき、物語がうごきだす。

琉花をふくむ、内地生まれの人間には地蔵か何かにしか見えないが、

島生まれの人間はなんの疑いもなく仲間として受け容れる。

 

 

 

 

それは「福の神」だった。

祖母の店は突然大繁盛し、周囲のひとびとの人生が狂いはじめる。

島の不幸な歴史とも関係あるらしい。

 

 

 

 

以上のメインプロットに、ラブコメの波動が覆いかぶさる。

琉花は同級生の「及川」に片思い中で、積極的にアプローチするが実りはない。

中学生らしい不器用な恋模様がたのしい。

 

 

 

 

及川は中学卒業後、大阪へ引っ越す予定。

「アニメイト大阪日本橋店が近くてすごくね?」などと言っており、

説得しても引き留められそうにない。

なので寧島にもアニメイトをつくるため、琉花も福の神にすがりたい。

 

「都会と田舎」「新世代と旧世代」などの対比をえがく一方で、

それらすべての対立軸を無効にする、「カネ」の魔力がテーマだ。

 

 

 

 

世界観の緻密さは、上山徹郎『テングガール』を髣髴させる。

プロット・女の子のかわいさ・現代風俗の取り込み方の巧みさをふまえると、

本作の充実ぶりはちょっと突出している。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

守月史貴『神さまの怨結び』3巻 エニシチギリ篇完結

 

 

神さまの怨結び

 

作者:守月史貴

掲載誌:『チャンピオンREDいちご』『チャンピオンRED』(秋田書店)2014年-

単行本:チャンピオンREDコミックス

ためし読み/同作者の過去記事

 

 

 

「江西知霧(えにし ちぎり)」は、ビッチなギャルである。

いろんな男と寝て、呪いの力で殺す。

 

現代の漫画やアニメは、ギャルをとりこむのに苦労している。

エゴイスティックな彼女たちはヒロインらしくない。

女から母親みたいに肯定されたがる、日本の男を特に困惑させる。

 

 

 

 

1話の巨乳少女「櫻」が成長し、刑事となって再登場。

自分の様に、呪いで人生を狂わされた少女たちを救おうと奮闘する。

あいかわらずの豊かな胸と、物語の壮大さに感動した。

 

 

 

 

男嫌いの知霧は、男らしくない「浦見台」に惚れている。

でも知霧は女らしくないので、思いをつたえられない。

 

 

 

 

好きな男を救うため、好きでもない男と交わる。

囚人のジレンマにおちいり、孤立無援のまま汚れてゆく。

 

 

 

 

守月史貴は、ギャルのひとりよがりな営みの核にある、とびきりピュアな熱情を、

ねっとり粘液がまとわりついたカラダへ手を突っこんで取り出す。

 

 

 

 

守月は泣きながらエニシチギリ篇のネームを切ったらしい。

エロティックサスペンスとしてのジャンルの要求と、普遍性が高度に両立。

近年稀にみる、うつくしいエピソードだ。

 

 

 

 

守月は女のサガを巨視的にとらえ、明暗善悪聖俗ないまぜにして描く。

なぜこの作家だけが、これほどの高みに達しているのだろう?






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

かのえゆうし『CRIMSON EDGE 1888』

 

 

CRIMSON EDGE 1888

 

作者:かのえゆうし

掲載誌:『アワーズGH』(少年画報社)2016年-

単行本:YKコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

馬車が走り、紳士淑女が闊歩する、世紀末ロンドン。

右の男が主人公のジン・ジャックマン、通称「JJ」。

スコットランドヤード犯罪捜査課につとめる刑事だ。

 

 

 

 

1888年は歴史上、「切り裂きジャック」が暗躍した年として知られる。

数多くの娼婦を殺し、その腹を割いた猟奇殺人犯だ。

 

 

 

 

その正体は、JJが街で偶然知り合った少女「ジル」だった。

可憐で心やさしい娘が、なぜこんな残忍なまねを。

 

 

 

 

切り裂きジャック……ヒップホップで言うなら「大ネタ」だ。

世界一有名な未解決事件だし、直接言及がない作品でも、

サイコサスペンスとしてジャンルが確立している。

本作は、その核心に「美少女」を据えるのが新解釈。

 

 

 

 

切り裂きジャックは解剖学的知識をもつことから、医者だったとゆう説が有力。

ジルは若いが、その研究室は立派なもの。

殺したあと、わざわざ女の腹を割く理由がかたられる。

 

 

 

 

ジルの妹「リズ」と墓地を探索。

ロンドン、ゴシック建築、ロリータ。

ゴスロリ服がコスプレにならない舞台だ。

 

 

 

 

作者かのえゆうしは、約15年のキャリアがある。

あつめた資料を大量投入し、勝負をかけた力作とおもわれる。

紙面にみなぎる緊張感がすばらしい。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

松本ひで吉『境界のミクリナ』

 

 

境界のミクリナ

 

作者:松本ひで吉

掲載誌:『少年マガジンエッジ』(講談社)2015年-

単行本:マガジンエッジコミックス

ためし読み/同作者の過去記事

 

 

 

その幼女の名は「ミクリナ」、職業は魔女である。

人間界を征服するため魔界からきたが、どうも勝手がちがう。

物珍しがられるわ、見たことない乗り物に轢かれるわ。

 

 

 

 

魔女たちは400年まえに迫害され、魔界へ逃れた。

満を持して復讐戦を開始したのはいいが、時はすでに中世ではない。

近代技術を手にした人間は、超自然的なものを恐れない。

 

 

 

 

自分の侵略計画はいったいなんだったのか。

途方に暮れるロリ魔女に、超テキトーな女子高生「榎本さん」が宿を提供。

人間は残酷だと聞いていたミクリナは拍子抜け。

 

現代人は神のかわりに、百合とゆう宗教を信仰している。

 

 

 

 

マジメで頑張り屋さんなミクリナの人柄が、本作の魅力。

いいところを見せようと魔法をつかったら、

榎本さんは驚くどころか、溜息つきながら一言「ショボ……」。

 

 

 

 

それでもミクリナはめげずに現代日本を飛び回る。

 

松本ひで吉は、ギャグの切れ味が売りの作家だが、

ネタだけでなく絵でも勝負できるほど上達。

 

 

 

 

5話に登場する、ミクリナの姉「キルケ」。

侵略が順調かどうか確かめにきた。

商店街で「文明の衝突」がおきる。

たとえばラーメン屋で、キルケがコショウの缶をみて驚愕。

中世ヨーロッパでコショウは、黄金にひとしい価値があるから。

 

オカルトマニアの作者は、知識をたくみに現代風俗へ溶けこませる。

確固たる「世界観」をもつのが、ひで吉先生の強み。

 

 

 

 

7話に出てくる、眼帯ツインテ中二病少女の「畑中さん」。

ミクリナは畑中さんを本物の魔女とおもい、畑中さんはミクリナをコスプレとおもう。

噛み合うようで噛み合わない会話がおかしく、

「コメディ寄りの設定ね」なんてセリフが笑いのツボを串刺し。

 

かわいく、エキセントリックで、案外中身もある唯一無二の世界。

鬼に金棒、魔女にホウキ、松本ひで吉に画力。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ  百合 

鈴木マナツ『コネクト』

 

 

コネクト

 

作者:鈴木マナツ

掲載誌:『ウルトラジャンプ』(集英社)2016年-

単行本:ヤングジャンプコミックス・ウルトラ

ためし読み/同作者の過去記事

 

 

 

『阿部くんの七日間戦線』以来3年ぶり、待望のオリジナル作品だ。

 

主人公は男子高校生の「一ノ瀬和奏(わかな)」。

音楽一家にうまれ、自分もアニソンの作曲家になるのが夢。

つまりオタクであり、学校では趣味をおおっぴらにできない。

 

 

 

 

ただ同級生に、プロの漫画家として活躍する「藤尾藤子」がいた。

自作の映像化に関心があり、ふさわしい音楽をさがしている。

 

 

 

 

藤子に口説かれる和奏。

たとえばHoneyWorksみたいに、若い才能があつまる様子をえがくのが、

この青春漫画『コネクト』のテーマだ。

 

藤子の髪のボリューム感は、『peeping analyze』の清衣をおもわせる。

 

 

 

 

それにしても本作は地味だ!

登場人物が椅子にすわって会話する場面ばかり。

これまでは『阿部くん』も『ズヴィズダー』も『peeping analyze』も、

ドッタンバッタンいそがしい物語だったから、意図的なのだろうけど。

 

藤子のうつくしい瞳に吸いこまれる。

鈴木マナツ作品は女子とゆう小宇宙により、世界観が無限に拡張される。

 

 

 

 

人気の歌い手の「小日向花音」からメールがとどく。

ニコ動へ投稿した曲を気にいったそうだ。

カフェで待ち合わせて会ってみたら、高校の後輩だった。

自分が歌い手と證明するため、花音は耳に口をよせて歌う。

 

インターネットを介しての「つながり」をえがくと思いきや、

主要人物はみな身近にいるため、現代性をじゅうぶん表現できてない。

でも以前書いた様に、鈴木の作風は反時代的要素をふくむから理解できる。

 

ギャルっぽいけど律儀、ビッチっぽいけど純情。

『阿部くん』の鳳撫子を髣髴させる花音のたたずまいに、マナツファンは小躍り。

 

 

 

 

椅子にすわっての「打ち合わせ」の場面が8回もあり、1巻は動きにとぼしい。

創作活動に付き物としても、読者がそんなところにリアリティをもとめるだろうか。

たとえば雨のなか相合傘しながらとか、自転車に二人乗りしながらとか、

プールや夏祭りの最中だって打ち合わせは可能だ。

 

主人公が受け身で、全体的にユルいのも気になるところ。

アニソンの作曲家になりたいとして、なれなかったらどうなのか伝わらない。

別にどうってことなさそう。

『阿部くん』ではミッション失敗は死を意味した。

リアルな青春ものでも、読者は「賭け金」の額がわからないとノレない。

 

 

 

 

不満をのべたのは、この作家が好きだから。

だれよりうつくしい絵を描くから。

風になびく髪と衣服、ニーハイがかるく食いこんだ太腿……。

一読者でさえ、この娘のためなら死んでもいいと思えるわけで、

主人公はもっとがんばるべき。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

『高天原ラグナロク』 第2章「中臣邸」


登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む







 運河沿いに立つヴェネツィアン・ゴシック様式の洋館に、疲れ切ったジュンが帰宅する。メレルのトレッキングブーツの紐をほどくうち力尽き、大の字になって寝る。

 三つ編みの少女がリビングから飛び出し、ジュンに馬乗りになる。五歳の妹のスミレだ。

「ねえたま、帰るの遅い!」

「ごめん、いろいろあって」

「アニメ一緒にみる約束でしょ」

「わかったから、そこどいて。パンツ丸見えだよ」

「ねえたまのエッチ」

「どこでそうゆう言葉覚えてくるの」

 ジュンはスミレを抱きかかえ、ゴロゴロ転がる。スミレがはしゃいで笑う。年が離れているせいもあって姉によく懐き、目に入れても痛くない妹だ。

 玄関でレスリングをはじめた姉妹を、グレーのオールインワンを着て腕組みした母が見下ろしている。目端のきくスミレは雷が落ちる気配を察し、リビングへ避難した。

 母が言う。「おかえりなさい」

「ただいま」

「いつまでそこで寝てるつもり」

「はい」

 ジュンはメレルを脱いで正座する。これでも名門貴族の娘であり、一応の礼儀作法は心得ている。

 鼻息荒い母の顔をみれば、城内で自分がしでかした不始末が筒抜けなのはあきらか。

「聞いたわよ。裸みたいな恰好で走り回ったそうじゃない」

「はあ」

 そっちかよ、とジュンは内心で小馬鹿にする。

 ジュンがブラウスを着てないのに気づいた母は、詰め襟のボタンを外す。黒のスポーツブラをつけた、汗の臭いのする白い上半身が露わになる。

「またスポブラつけてるのね。こないだ下着買ってあげたでしょう」

「こっちの方が動きやすいもん」

「だったら武術科なんて辞めなさい」

「それとこれとは関係ない」

「国事科に戻るのは無理でも、転校すればちゃんとした勉強ができるわ」

「しつこいなあ! ほっといてよ!」

 ジュンは声を張り上げる。自分があやうく死にかけたのは母も知ってるだろう。少しはいたわってくれてもいいんじゃないか。それともこれが母なりの心配の表れなのか。だとしたら、なおさら腹が立つ。

 母は平民出身だった。日本を代表する貴族である父と大恋愛の末に結ばれたときは、国中を揺るがす騒動になったと聞く。その引け目もあり、いまでは母は極端な伝統主義者となった。

 避難場所のリビングのドアから、スミレが半分顔を出す。爪を噛んでいる。家族同士のケンカを悲しんでいる。あたしはダメなお姉ちゃんだとジュンは思う。

 眼鏡をかけた父の栄一が、階段から声をかける。

「ジュン、おかえり」

「ただいま」

「話があるから書斎においで」

 母が言う。「こっちの話が終わってません」

「私から厳しく言っておくから」

「あなたがいつも甘やかすから、ジュンがこうなったんでしょう!」

「うん、気をつけるよ」




 書斎の壁は前後左右、本で埋め尽くされている。ほとんどが政治・経済・歴史の本だが、推理小説専用の棚がひとつある。父は政界を退いたら小説家になる願望をもっている。フランクリン・ルーズベルトとコナン・ドイルの胸像も置かれる。

 窓から夜の運河がみえる。昼間は木材を運搬する船が多いが、いまは灯りをともしたゴンドラが各国の観光客を乗せている。幻想的な景色だ。

 父娘は木製の机を挟み、向い合って座る。ジュンが机を叩いて言う。

「なんなのあの人。ああしろ、こうしろ、ああするな、こうするなって、そればっかり。あたしはロボットじゃないっちゅうの」

「心配してるのさ」

「ちゃんとしろ、ちゃんとしろって、わけわかんない。そんなに自分が完璧なお手本だと思ってるのかね」

「ジュンとお母さんは似てるよ」

「全然ちがうし。あたしは外見のことばっか気にする人間じゃない」

「気性の激しさがそっくりだ。あと美人なところも」

「なにそれ……まあたしかに、お父さんの頭の良さは遺伝してないね」

「ジュンは頭の良い子だよ。いづれお父さんを超えてくれると信じてる」

「んなわけないじゃん。退学寸前なのに」

 四十六歳の栄一は八年間摂政をつとめている。MITで博士号を取得するなど経済に明るく、「ナカトミクス」と称される政策で日本経済を再建したと評価される。ただ激務のせいで、家族のために時間を割けないのが悩みだ。夫婦仲は円満と言いがたく、ふたりの娘、特に長女のジュンがトラブルを起こしがちなのを憂慮していた。

 それでもジュンは父に信頼を寄せている。公私にストレスを抱えていても、父に話すだけで心が軽くなる。できればもっとコミュニケーションの機会がほしい。月に一度外で食事するとか、半年に一度旅行するとか。でもそれを直接求めるほど、露骨に甘えられる性分ではない。

 栄一はふたり分のコーヒーを淹れ、机に置く。ジュンはミルクと砂糖をたっぷりいれて飲む。

「ところで」栄一が言う。「アマテラスさまを濠へ投げこんだそうだね」

「あ……」

「ツクヨミさまから電話があったが、大層な剣幕だったよ」

「…………」

 ジュンはカップを持ったまま固まる。視線は褐色の水面に向けられたまま。

 自分の無思慮な行動が、父にどれほど迷惑をかけるか考えてなかった。摂政をクビになってもおかしくない。

 ジュンがつぶやく。「ごめんなさい」

「謝らなくていい。正しいと思ってしたことだろう」

「うん、まあ」

「その瞬間を見たかったよ。ジュンは美濃部達吉の『アマテラス機関説』を知ってるかい?」

「ううん」

「簡単に言えば、アマテラスさまも道具にすぎないって学説さ。道具なら、必要なくなれば捨てる選択肢もありうる」

「お父さん」

「過激だったかな。お母さんには内緒だぞ」

「あはは」

 家の外から銃声が響いた。運河の水面が震えるほど轟く。

 三人の衛士が中臣邸を警護している。P90とおなじ高速弾をもちいるハンドガンのFNファイブセブンを、彼らは装備する。ジュンの耳にはファイブセブンの発射音に聞こえた。昼に聞いたばかりの、減音された複数のSIG550らしき微音も耳にとどく。

 音だけでは判断できない。だがもしファイブセブンの発砲が一発だけなら、蝦夷の襲撃により衛士が斃されたと想定せざるを得ない。

 母親が忌み嫌うため、邸内に武器はない。ジュンは、本棚にあるルーズベルト大統領の胸像をつかんで書斎を出る。

 階下から乱暴な足音と、母と妹の叫びが聞こえる。敵は階段を上ってくる。迷いがない。

 ジュンは階段の途中で息をひそめる。侵入者にとって踊り場が一番危険だと、訓練で知っている。不意を打って銃を奪いたい。

 異民族の服をまとう三人の蝦夷が、折り重なる様にして姿をあらわす。ふたりはSIGのストックを折りたたんでいる。互いをカバーしつつ、三方向へ銃口をむける。ひとりは眼帯をつけたピンク髪の女で、ジャンパースカート風の青いワンピースを着ている。ロシアの民族衣装であるサラファンだ。

 かまわずジュンは躍りかかる。眼帯で隠れた女の左目の側から胸像を振り下ろす。女のルガー・スーパーレッドホークが火を吹く。マグナム弾は大統領を粉砕し、ジュンの左胸を貫いた。




 ジュンは頬が濡れているのを感じる。いま自分は書斎の絨毯に倒れていて、冷たい液体はさっきこぼしたコーヒーだと理解した。

 あらたに血液が絨毯を汚している。およそ二リットルの出血で人は死ぬ。だがすでに牛乳パック一本分は流れたのではないか。血圧低下のせいで混濁する意識のなかでジュンはかんがえる。

 ドアの前に立つ栄一が、虚ろな表情でつぶやく。鼻血が出ている。強制される様な棒読み口調だ。

「私、中臣栄一は拝金主義者の走狗である。国政をあづかる立場にありながら、金銭のみに執着し、この国を腐敗するに任せた。かかる危機から日本を救うのは常陸幕府であり、偉大な将軍たる土蜘蛛閣下しかいない。私は閣下の主張が正当だと認める。アマテラスさまは彼の要求どおり、降嫁して妻になるべきだ……」

 栄一の視線の先には、三脚に乗せたビデオカメラと、蝦夷がひろげる原稿がある。ピンク髪の女が満足そうに演説に聞き入る。映像を宣伝に利用する気だ。いや、すでにリアルタイムで配信してるかもしれない。

 栄一の左に母が、右にスミレが立つ。泣きわめくスミレを男がおさえる。逆側でもうひとりが刀を振り上げている。斬首の様子をおさめた動画を流すのが、蝦夷の常套手段だ。

 スミレが叫ぶ。「ねえたま、起きて!」

 家族を救わなくては。すくなくとも五歳のスミレだけは命に代えても。しかし脳の命令が手足にとどかない。五感の情報もだんだん乏しくなる。両手は体の後ろで縛られてるらしい。

 白刃にさらされた母と目が合う。切れ長の目が細まる。立腹した、冷たい表情。食卓で肘をつくジュンを叱るときとおなじ。この期におよんで、母はなぜ怒ってるのだろう。

 自分がもがいていることに対してだと、ジュンは気づく。せめてあなただけでも生き延びてほしい。だから何もしないで。時間を稼げば、助けがくるはずよ。そう母は訴えている。

 ジュンは、妹の方が母親から愛されていると思っていた。自分が逆の立場でもそうだろう。スミレは甘え上手な末っ子で、だれからも可愛がられている。贔屓されて当然だ。

 でもお母さんは、あたしを生かそうとしている。自分自身の生存の可能性など一切かんがえずに。

 結局、母は長女の性格を理解してなかった。とことん天邪鬼で、人の期待どおり動くことが決してない性格を。

 ジュンは呼吸を乱しながら立ち上がる。視覚は正常に機能せず、照明のついた室内が薄暗くみえる。七挺のSIGが向けられる。

「そこのピンク」ジュンが言う。「殺すならあたしを殺せ。お母さんとスミレは一般人だ」

 女はリボルバーの銃床でジュンのこめかみを殴る。皮膚が破れ、出血する。

「わたくしの名は夜刀神《ヤトガミ》。もっと敬意を払うとよくってよ。ロシア貴族の家系なの」

「うるせえ、悪趣味女」

「日本の貴族は無作法ですこと」

 今度は二回殴る。ジュンの膝は折れかけるが、踏みこたえた。

「こんなことして何になる。ヘイトをあつめるだけだ」

「あなたがたが生命を愛する以上に、わたくしたちは死を愛するの」

「ふたりを解放しろ!」

「土蜘蛛さまの命令は三つ。中臣栄一は殺すな、中臣ジュンはできれば殺すな、ほかは好きにしろ。生きていたいならお黙りなさい」

 夜刀神に氷の瞳で見返され、ジュンは狂信者と交渉する愚をさとる。

 両手を縛られたジュンは、夜刀神の懐へ飛びこみ、透きとおった肌の首筋に噛みつく。あらがう敵の頸動脈を切断しようと、深く歯を立てる。

 蝦夷に後頭部を打擲され、ついにジュンは昏倒した。




 敵二名に両脇から抱えられて外階段を下りるとき転落し、ジュンは意識をとりもどす。

 絶望していた。斬首の瞬間は見なかったが、蝦夷がそれを躊躇したはずがない。是非はともかく、彼らは非情なプロフェッショナルだ。

 衛士の発砲から三十分は経過しただろうに、まだ警察や軍の特殊部隊はあらわれない。

 どうでもよかった。敵への怒りすら覚えない。家族を救えなかった自分にとって、もはや感情など重荷にすぎない。

 シュコダのワゴン車二台が、ソーラーライトに照らされた庭に駐まっている。手入れの行き届いた芝生が台無しだ。

 車内へ連れこまれる栄一が、振り返ってジュンに言う。

「ジュン、またゴルフに行きたかったな」

 ドアが閉じ、シュコダは発進した。

 半分昏睡状態のジュンは混乱する。いったいお父さんは何を言ってるんだ。あたしはゴルフなんてしたことないのに。

 ジュンの脳裏に電撃が走る。

 よろけながら、スミレが遊んでいたブランコに歩み寄る。父のゴルフバッグが立て掛けてある。ジュンは走ってるつもりだが、敵から見れば徘徊老人さながら。蝦夷の顔に嘲笑がうかぶ。

 ゴルフバッグをあけ、朱塗りの鞘におさまった刀をとりだす。伝家の宝刀「鬼切」だ。栄一は妻の目をごまかし、ここに隠していた。

 即座に抜刀したジュンに対し、慌てた蝦夷四名がSIGをかまえ、引き金をひく。

 神術【ミカヅチ】。

 それは神の言葉をつたえる氏族である審神者《サニワ》のひとつ、中臣氏に継承される秘技だ。

 ミカヅチは時間をとめる。言い方を変えれば、光速にちかい機動力を使用者にあたえる。

 迅雷が中臣邸の庭を襲った。四人の蝦夷は、自分たちが攻撃されたことさえ知らないまま、十数個の肉片と化した。

 燃え尽きたジュンは鬼切を取り落とし、血の海のなかへ倒れる。妹の名をつぶやいていた。




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ジャンル : 小説・文学

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ジャンル : 写真

板倉梓『すいもあまいも』

 

 

すいもあまいも

 

作者:板倉梓

発行:マッグガーデン 2016年

レーベル:マッグガーデンコミックス EDENシリーズ

ためし読み/同作者についての過去記事

 

 

 

絵柄こそシンプルで愛らしいが、板倉梓は設定や演出に凝るタイプだから、

良くいえば王道、悪くいえば月並みなラブコメの本作は、キャリアのなかで異色。

出産経験が影響し、すこし丸くなったのかも。

 

 

 

 

ヒロインは高校3年の「天現寺じゅん」。

両親がアメリカにいる間、1年の主人公「米倉蓮司」の家に居候することに。

脱衣所での遭遇イベントなど、ベタな路線をたどる。

 

 

 

 

いかにも当て馬っぽい女の子が、オクテな主人公にからむ。

駄菓子屋で売ってるラムネの様な、昭和の味。

 

 

 

 

お得意のカッチリ決まった構図や、流麗なカメラワークはひかえめ。

言いかえると、カッコつけてない。

でも独特のリズムやモンタージュで見せる演出は、やはり映画的。

 

 

 

 

ギャル系の同級生に強引にさそわれ、服屋へ行く。

そこでのやりとりがたのしい。

ギャルズの言動は傍迷惑なのに、板倉絵で描かれると可愛くおもえる。

 

 

 

 

そして最終話の昂まり。

「板倉梓にハズレなし」の法則はいまだに有効。

 

 

 

 

1巻完結で小品だが、その分混じりけのない古典的ラブコメ。

職人藝をたのしみたい。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 板倉梓 

高野ひと深『私の少年』

 

 

私の少年

 

作者:高野ひと深

掲載誌:『月刊アクション』(双葉社)2015年-

単行本:アクションコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

30歳のOL「多和田聡子」は、ひとり公園でサッカーの練習をする美少年と、

学生時代にフットサルをやっていた関係で親しくなる。

あまりに可憐で、はじめて見たときは女の子とおもう。

 

 

 

 

小学6年生の「真修(ましゅう)」の生活もえがかれる。

くたびれて汚れた服をいつも着ている。

家庭でネグレクトをうけてるらしい。

髪は伸ばしてるのでなく、だれからも切れと言われないだけ。

 

 

 

 

幸福に縁のなかったふたりの距離がちかづく。

手前の聡子にほどこされた「ボケ」の表現など、技法に関しても挑戦的だ。

 

ただ作者はあとがきで、「おねショタもの」へのこだわりのなさを明かす。

もともと企画は性別が逆の「ロリコンもの」だった。

実際キレイはキレイだが、それが少年である必然性はとぼしいと感じる。

 

 

 

 

とはいえ本作は注目に値する。

会社の同僚「椎川」と飲みに行ったら、婚約者を紹介された。

一瞬硬直する聡子。

 

 

 

 

聡子は大学時代、1年ほど椎川と交際していた。

フラれたが、未練はない。

すくなくとも自分にそう言い聞かせている。

 

 

 

 

意識無意識にかかわらず、女心を平気で踏みにじる奴には絶対負けたくない。

それでこの微妙な笑顔。

応援したくなる主人公じゃない?

 

 

 

 

残念ながら1巻時点で、メインプロットである少年愛については、

「飲み会事件」ほどの巻き込まれ感はない。

良くも悪くもクールなのだ。

しかし前述の様に力のある作家だし、今後も名前を追いかけたい。






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『二ツ星の料理人』

 

 

二ツ星の料理人

 

出演:ブラッドリー・クーパー シエナ・ミラー ダニエル・ブリュール エマ・トンプソン

監督:ジョン・ウェルズ

脚本:スティーヴ゙ン・ナイト

制作:アメリカ 2015年

[公式サイトはこちら

 

 

 

予告篇をみて期待していた。

腕はあるが情緒不安定な料理人のアダムが、流れついたロンドンで店を開き、

ミシュランの審査員をアッと言わせ三つ星を獲得しようとゆう物語。

流浪のガンマンが活躍する西部劇みたい。

 

 

 

 

序盤は『七人の侍』に似ている。

ロンドンを練り歩き、くすぶっている職人たちを引き入れるプロットが。

ブラッドリー・クーパーの台詞に『七人の侍』が出てきてニヤリ。

よい物語はつねに古典的で、かつ独創的。

 

 

 

 

厨房はよく戦場に喩えられる。

この混沌のなかで最高のパフォーマンスをみせないと競争に敗れる。

短気なアダムはすぐ怒鳴り散らし、物を投げる。

 

 

 

 

サービスを仕切るトニーが参謀役。

無限に金と時間をかければ、だれでも旨いものはつくれる。

戦略立案し、資金をあつめ、宣伝し、縦割りの効率的な組織をつくり、

ビジネスの形を整えてはじめて、レストラン経営はなりたつ。

 

 

 

 

女料理人エレーヌ役のシエナ・ミラー。

しつこくせがまれて店を移ったのに、完璧主義者のアダムにきびしく責められる。

エレーヌは理不尽なふるまいに憤るが、徐々にふたりは心をかよわせる。

大人の恋愛が描かれる点は、『七人の侍』にない魅力。

 

 

 

 

エレーヌはシングルマザーで娘がひとりいて、このサブプロットも印象的。

子供の存在が、大人たちに精神的成長をうながす定番の流れだけど、

シビアな話の連続のなかで一息つける。

 

 

 

 

鑑賞後、アクション映画をみた様な爽快感をえた。

本作は「男の映画」と言ってよいだろう。




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あらたまい『ほおばれ! 草食女子』

 

 

ほおばれ! 草食女子

 

作者:あらたまい

掲載誌:『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)2015年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

グルメ漫画はもうお腹いっぱいだ。

でも無職になったばかりの24歳の元OL、「日高ちゆ」の皿に雑草が。

読者は食欲より、好奇心が刺激される。

 

 

 

 

隣の部屋にすむ女子大生「スズ」は、野草を採集する趣味があった。

渡りに船とはこのこと。

収入がなくても、タダで食材が手に入る。

 

 

 

 

作者は二児の母らしい。

公園の水場で、ステーキの付け合せに出てくるクレソンを摘み、

台所に「沼の臭い」を充満させて炒め物をつくる流れなど、よく描けている。

 

 

 

 

ちゆが会社をクビになった理由はカバー下に。

コピー取りの単調さにおもわず職場で居眠り。

 

 

 

 

ジョブステ(職業斡旋所)でのやりとりも身につまされる。

生活力ゼロの主人公の言動を通じ、現代日本の生きづらさが浮かび上がる。

 

 

 

 

8話に登場する15歳の「カヤ」。

豪邸にショタ執事とふたりで暮らす、謎のお嬢さまだ。

節約のため、ちゆとスズにサバイバル術をまなぶことに。

 

 

 

 

庭の雑草をごちそうに変えるスズに、カヤは感服。

きらららしくないシビアさと、らしいライトさを組み合わせた、

個性的なレシピがあらたなジャンルを創出する。






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タグ: きらら系コミック  百合 

『高天原ラグナロク』 第1章「蝦夷」


登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む







 中臣ジュンは、土塁の上の石垣に指を差しこむ。足をかけて登りだす。タダでボルダリングができてうれしい。学校の制服である黒いショートパンツからのびる脚は白く長い。腰のベルトに刀を提げている。

 背後で水をたたえる千鳥ヶ淵は、高天原城の北西部に位置する濠で、外敵をふせぐ役割をになう。絶好の侵入ポイントをジュンに発見されてしまったが。

 十六歳のジュンは、紅梅学院武術科の四年生。女子である。ここ北の丸で毎日、軍事訓練にいそしむ。ただ学習態度は理想的と言いがたく、きょうも授業中に城外へ抜け出し、コンビニのイヅモマートで買い物をした。高天原城が鎮座する出雲市は、ちかごろの政情不安で流通が混乱し、なにかと腹がへってしかたない。

 城壁の瓦屋根にすわり、口にくわえていたレジ袋から、おにぎり・惣菜パン・サンドイッチ・パスタ・ポテトチップス・チョコ・アイスを出して並べる。幸福感にひたりつつ、ツナサンドにかぶりつく。ジュンに餌付けされているカラスが飛んで来たので、パンをちぎって食べさせた。

 壁の内側にふたりの女学生があらわれる。ひとりは武術科の同級生で、髪の長い方は国事科のブレザーを着ている。紅梅学院は国事科・理工科・伎藝科・武術科の四学科に分かれ、高級官僚をそだてる日本最高のエリート校だ。ただし体力だけが取り柄の武術科は、学内の地位がもっとも低い。

 同級生の熊曾さやかが、ジュンを指さして笑う。

「また脱走してたんだ」

「だって購買はロクなもの売ってないし。すぐ売り切れるし」

「そこの石垣が一番登りやすいんだよね?」

「うーん、秘密なのに」

 女子の噂好きには辟易させられる。秘密保持の重要性をわかってない。教官にまで伝われば、問題児のジュンは退学の恐れもある。

 国事科五年生の大和碓子が左右を見回す。百六十四センチのジュンより長身だが、体はずっと細く、おそろしく睫毛が長い。絶対見劣りするので、女なら隣に立ちたくない美貌だ。成績優秀らしく、先月転入したばかりなのに武術科にも評判が鳴り響いている。

 国事科の紺ブレザーをみるとジュンの胸は疼く。十二歳で国事科へ入ったが、そこで人間関係のトラブルをおこし二年次に転学した。武術科の方が自分向きと思うが、高官の地位を約束された国事科生の自信あふれる佇まいに嫉妬をおぼえる。

 大和が袖を口にちかづけ、唇をうごかす。ジュンの隣のカラスが一声鳴いて飛び去る。

 ジュンが尋ねる。「大和さんはなんの用?」

「お客さんが来るの」

 大和の小顔に微笑がうかぶ。なにかを期待する表情だ。たとえば新作のアイスの蓋をとるときの様な。

 悪寒が脊髄を走るのと同時に、ジュンは壁から飛び降りる。ビュッとゆう不気味な風切音が聞こえる。

 銃撃だ。おそらくサプレッサーつきのライフルで濠の側から撃たれた。

 大和がブレザーに隠していた短刀を抜き、熊曾を背後から貫く。電光石火の動きだ。近接格闘術の訓練をうけた武術科生に反応をゆるさない。

 ジュンは遮蔽物をもとめ木立へ駆けこむ。続々と壁を越えた七人の男女が、左右に分かれ安全を確保する。ひとりが茂みの中のジュンを見つけ、アサルトライフルSIG550の照準をあわせる。

 短刀をもった大和が、男のSIGのハンドガードを押し下げて言う。

「放っておけ。あれはただの学生だ」

 男が答える。「でも佩刀してます」

「無抵抗なら殺すな。僕たちは無差別攻撃をおこなうテロリストじゃない」

 大和の声が急に低くなったのにジュンは気づく。

 侵入者はみな、バックパックから着物を取り出して羽織る。異国風の刺繍が施されている。色鮮やかなフェイスペインティングを手早くおこなう。

「エ……エミシなのか」ジュンがつぶやく。

 蝦夷《えみし》は辺境の少数民族で、中央政府と抗争をくりひろげている。蝦夷が神々の住まう高天原城へ足を踏み入れるなど前代未聞だ。

 大和は制服を脱ぎ、ボクサーパンツ一枚になる。引き締まった体は胸の膨らみがなく、股間が盛り上がっている。男だった。女装して学院へ潜入し、仲間を呼びこむルートを探っていた。

 大和碓子と名乗っていた男は、短刀で長髪を切り、渦巻き模様の濃紺の着物に袖をとおす。しゃがんでいるジュンに目配せする。横たわり血を流す熊曾に顎をしゃくり、ジュンに言う。

「手当てすればこの女は助かる」

「お前は何者だ」

「僕の名は土蜘蛛。常陸幕府の将軍だ」

「幕府? そりゃまた時代錯誤な」

「ふふ。武士道と神道、化石同士の戦いさ」

 衣装で民族的アイデンティティを主張する八人は、つぎの目的地へ移動する。ピンクの髪の女は無反動砲のAT4を担いでいる。こいつは穏やかじゃない。

 ジュンはアイフォンで学院に電話し支援をもとめたあと、熊曾に駆け寄る。自分のブラウスを脱ぎ、破って包帯がわりにして止血する。

「がんばって」ジュンが言う。「すぐ応援がくる」

「あ……あいつら……」

「しゃべらないで」

「あいつら、どこ行ったの」

「わからない。まさか大和さんが男とはね。あんなキレイな男がいるんだね」

「武道館で武藝上覧をやってるの。陛下が出席なさってて、六年生も警備に駆り出されてる。ちょうど終わるころ……」

「やばい」

「おねがい、アマテラスさまを助けて」




 太陽の女神アマテラスは、日本の神々を統べる最高神であり、地上世界の支配者でもある。いまは御料車のトヨタ・センチュリーロイヤルに乗り、武道館から御所のある吹上へ移動している。余裕で歩ける距離だが、外で生身は晒せない。

 ドーンと大音量が鳴った直後に、フィンをひろげた成形炸薬弾がセンチュリーロイヤルの側面に直撃、爆炎で辺りを照らす。それでも戦車なみの装甲は、ガラスもふくめ衝撃に耐えた。道路に煙が立ちこめる。

 御料車を前後から挟んで守るセルシオ二台に、蝦夷がSIGを発砲。車列は立ち往生する。

 背広を着た護衛役の衛士たちが、PDWのFN・P90で応戦する。PDWは新弾薬をもちいるサブマシンガンのこと。火力では襲撃者に劣らないが、敵は練度がたかく、奇襲の混乱もあり、衛士はつぎつぎ斃れてゆく。

 白のセーラーワンピをまとう幼女が、御料車の反対側の観音開きのドアから、衛士に付き添われて降りる。まぶしく輝く金髪。主神アマテラスだ。泣きべそをかいている。

 衛士がみづからの体を盾としてアマテラスをかばい、来た道を引き返す。蝦夷はそれを追う。武道館を通り過ぎ、田安門の重厚な櫓門をくぐる。

 ピンクの髪をツインテールにむすび、左目に眼帯をつけた女が回転式拳銃を撃つ。ルガー・スーパーレッドホークの44マグナム弾は防弾ベストを貫き、最後にのこった衛士を葬った。

「おーっほっほ」ピンク髪が笑う。「アマテラスさん、おとなしく投降なさいな。命までは取りませんわ」

「う……うぐぅ」

「あらあら。神様ともあろうお方が泣いてるのね」

「ぬしらは天罰を恐れないのか」

「地獄を見た女に怖いものはなくってよ」

 千鳥ヶ淵にかかる傾斜のきつい橋の下から、女の叫び声がとどく。

 胸元が大胆にあいた黒いドレスの女が橋を駆け上る。身長は百七十センチ弱の痩身。漆黒の長い髪をふりみだす。アマテラスの妹で、夜をつかさどる月の女神ツクヨミだ。まなじりを決し、怒りに震える。武装はしていない。

「姉上さま!」

 ツクヨミはそう叫び、うずくまるアマテラスに覆いかぶさる。

「面倒なのが来ましたわね」ピンク髪が言う。「でも将軍さまは、妹は殺せとおっしゃってたわ」

「だまれ不浄の民!」ツクヨミが叫ぶ。「貴様らに姉上さまは指一本触れさせない」

「うつくしい姉妹愛ですこと」

 五発のマグナム弾がツクヨミの背に撃ちこまれる。神々の恢復力は桁違いで、人間にとっての致命傷でも簡単に死なない。しかし肉は爆ぜ、血は流れ、痛みは走る。ピンク髪はSIGを借りてさらに撃ち続ける。

「もうよい!」アマテラスが叫ぶ。「ヨミちゃん、わらわは降伏する。これでは本当に死んでしまう」

 血を滴らせながらツクヨミはほほえむ。

「私はいまとっても幸せ……愛する姉上さまに命を捧げられて」

「やめろ……やめてくれ!」

 意識をうしなったツクヨミが血の海のなかに斃れる。絶望のあまり硬直したアマテラスは、なすがまま蝦夷に拘束される。

 そこに上半身はスポーツブラだけのジュンが割って入り、身長百十センチ程度のアマテラスを抱え、濠へ投げこむ。悲鳴のすぐあと、下からドボンと水の音が響く。呆気にとられた蝦夷にジュンはP90を突きつける。

「形勢逆転」ジュンが言う。

 ジュンと三人の蝦夷が、銃を構えて睨み合う。拉致作戦は失敗した。これ以上戦闘をつづけたところで蝦夷に利益はない。

「愚かな拝金主義者」ピンク髪が言う。「あなたは今日のおこないを後悔しますわ」

「はあ?」

「せいぜい報復に怯えていることね」

「こっちのセリフだっちゅうの」




 千鳥ヶ淵で溺れたアマテラスは救出され、ツクヨミによる人工呼吸で蘇生した。混乱の極みにある高天原城をいったん離れ、ツクヨミの住居がある赤坂御用地へうつる。

 天井の高いホール「日月の間」に、今回の騒動の責任者があつめられる。兵部卿・兵部省警備局長・熊曾・ジュンの四人。熊曾は重傷を負っているが、事の重大さゆえ招集を拒否できなかった。

 ソファに座るアマテラスの金髪を、ツクヨミがタオルで拭いている。

「へくちっ」アマテラスがくしゃみする。

「姉上さま、お風邪を召したの?」

「とんだ災難であった」

「ええ。いったい何人の首が飛ぶのかしら」

 あくまでそれが比喩であり、文字どおり物理的に首が切断されないことを、不運な四人は祈った。

 ツクヨミはまだ、銃弾でズタズタに破れ、血をたっぷり吸いこんだドレスを着替えてない。銃創は癒えたが大量出血のあとであり、もともと血色の悪い顔がさらに青褪めている。真冬の三日月の様にうつくしい。

 はめ殺しの大きな窓ガラスから、木立にかこまれた庭が見える。ガルムとフェンリルとゆう放し飼いの二匹の狼が餌を食べている。ツクヨミは人肉を食べさせているとの噂がある。

 真紅のゴスロリ衣装を着たおかっぱ頭の少女四人が、ホールへ入ってくる。ツクヨミに直属する諜報機関の「カブロ」だ。出雲市内を巡回し、神々に対する不逞な言動があれば、それを処罰する権限をもつ。

 壁際にならぶ四人に、カブロがそれぞれPDWのMP7をむける。尋問のはじまりだ。

「さて」ツクヨミが言う。「警備局長から話を聞きましょうか」

「は……未曾有の事態を招きましたこと、責任の重さに胸が潰れる思いであります」

「それで」

「この罪、万死に値すると痛感しております」

「立派な心がけね」

「はっ」

「で、なぜあなたはまだ生きてるの」

「あ……いえ、その」

 警備局長の目の前に立つカブロが、4・6ミリ弾をフルオートで四十発撃ちこむ。数発が外れ、檜の壁に穴をあける。

「つぎ、兵部卿」ツクヨミが言う。「あなたは監督者としての責任があるわね」

「至急改善にとりくみます」

「具体的には」

「警備の人員を増強し……」

「自分の不始末をおねだりに利用するなんて不遜だわ。予算がつかなかったらどうするの」

「それは……」

「なんかあるでしょ、外務省と情報共有するとか」

「はい、手配いたします」

「監視システムを更新して効率化するとか」

「仰せのとおりに」

「もういいわ。無能はそれ自体が罪よ」

 MP7がふたたび火を吹く。おかっぱ頭のカブロたちは眉ひとつ動かさずに殺す。

 ジュンは腋にじっとり汗をかく。スポーツブラの上に詰め襟の制服を直接着ている。

 絶体絶命だった。有力貴族である兵部卿まで処刑されるとは予想外だ。アマテラスを濠へ投げこんだのは戦術的に間違ってない。しかし相手は神だった。触れば祟りがある。

 ティッシュで鼻をかむアマテラスの首に、ツクヨミが両腕をまわす。

「これからは私が警備の全権を握るわ。いいでしょう?」

「雑事は人間に任すべきじゃが」

「あのコたちは優秀なの。二度と蛮族を姉上さまに近づかせない」

 四人のカブロが捧げ銃の姿勢をとる。

「うーむ」アマテラスが唸る。

 平和を好むアマテラスとちがい、ツクヨミは精神的に不安定な面がある。一部では「狂気の神」と称されている。だが橋の上で庇ってもらった恩があり、無下にことわれない。

 気丈に直立姿勢を保っていた熊曾が膝をつく。ジュンのブラウスが巻かれた背中の刺し傷を押さえている。

「アマテラスさま」ジュンが言う。「熊曾さんは治療を受ける必要があります。また明日に御報告させていただけませんか」

 ツクヨミが笑う。「じきに病院へいかなくてすむ体になるわ」

「お言葉ですが、侵入ルートが漏れたのはあたしのせいです。熊曾さんは悪くありません」

「善し悪しを判断するのは神の役目。お前じゃない」

「なにを偉そうに。あたしがいなけりゃ、あんた死んでたろ」

 うずくまる熊曾が、目を丸くしてジュンを見上げる。四人のカブロの銃口が集中する。血相を変えている。神に対する暴言。即刻射殺すべき罪だ。殺さねば自分が死刑に処される。

「ふん、小癪な」ツクヨミが言う。「挑発して隙をうかがう戦略か」

「人から親切にされたら感謝しろって、お姉ちゃんに教わらなかった?」

「貴様ッ! 姉上まで愚弄するか!」

 激昂したツクヨミは、カブロからMP7をひったくる。ジュンは朱塗りの鞘を左手で軽くおさえる。ドサクサにまぎれて佩刀したまま。アマテラスはソファで震えながら涙ぐむ。

 ツクヨミが言う。「神に刃をむけたとあれば、貴様ひとりの罪にとどまらない。一族郎党皆殺しだぞ」

 ジュンは鯉口を切る。家族への言及が、彼女の目つきを冷酷にした。もう引くに引けない。

 ツクヨミは意外に思う。この十六歳の娘に対しては、脅しが脅しにならない。水を浴びせると逆に燃えさかる、ある種の火災の様だ。

 アマテラスが上ずった声でジュンに尋ねる。

「ぬしの名はなんと言う」

「中臣ジュン。紅梅学院武術科四年」

「もしや摂政・中臣栄一の娘か」

「はあ、まあ」

 アマテラスとツクヨミは顔を見合わせる。彼女らは神であり、人ひとりの生死を気に病むことは本来ない。しかし摂政の娘を殺したとあれば、事後処理がなにかと億劫だ。

 高天原城では、血統がすべてだった。




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ジャンル : 小説・文学

登場人物とあらすじ

登場人物

 

中臣ジュン

紅梅学院武術科4年。16歳。退学寸前の劣等生。

神の言葉をつたえる「審神者」の家系で、神術「ミカヅチ」をつかえる。

気まぐれな性格だが、人懐っこいところもある。非常に喧嘩っ早い。

 

忌部玉依(いんべ たまより)

紅梅学院国事科6年。18歳。生徒会長をつとめ、成績は学年主席。

中臣氏とならぶ名家の出身。神術「カミガカリ」をつかう。

性格はまじめで、ジュンをライバル視している。摂政になるのが夢。

 

那須与一

紅梅学院武術科2年。14歳の女子で、射撃の天才。

学院では珍しい平民出身であるためイジメられていたが、

そのとき助けてくれたジュンを慕っている。

無愛想で口も悪いが、なんだかんだでジュンにだけは忠実。

 

服部半蔵

紅梅学院院長。75歳。

代々続く忍びの家系で、諜報機関を率いる。神術「アマツクモイ」をつかう。

ジュンを孫の様に可愛がっている。

 

中臣栄一

摂政・太政大臣。46歳。ジュンの父。

マサチューセッツ工科大学で経済学のPhDを取得した。

「ナカトミクス」と称される経済政策で、日本経済を再建したと評価される。

子供には優しく、ジュンのよき理解者。推理作家になるのが夢。

 

アマテラス

太陽の女神であり、日本の主神。身長115cmで金髪。

セーラーワンピースを着ている。神術「ニチリン」をつかう。

天真爛漫な性格だが、ときおり深い洞察力をしめす。

 

ツクヨミ

月の女神。アマテラスの妹。両性具有だとも噂される。

青白い肌と、うつくしい黒髪が特徴。神術「ヌバタマ」をつかう。

「カブロ」とゆう諜報機関を率いる。

崇拝的に姉を愛している。やや情緒不安定。

 

土蜘蛛

21歳。少数民族「蝦夷」のリーダーで、叛乱をおこす。

女装して紅梅学院に潜入していたほどの美貌の持ち主。

敵に対し容赦がなく、暴力的手段も辞さない。

 

夜刀神(やとがみ)

17歳。土蜘蛛の右腕。

亡命ロシア貴族の血を引く美女だが、戦乱に巻きこまれ、

政府軍の拷問をうけて左目をえぐられ、硫酸の風呂に漬けられる。

髪はピンクのツインテール。ロシアの民族衣装のサラファンを着用。

日本政府を激しく憎んでいる。

 

 


 

 

あらすじ

 

16歳の少女・中臣ジュンは、神々が住む高天原城で武術の訓練に励んでいる。

あるとき少数民族「蝦夷」が城を襲い、主神アマテラスを拉致しようとする。

たまたま居合わせたジュンは機転によって阻止するが、叛乱軍の怒りを買う。

母と妹は殺され、父は人質となる。

内戦の嵐が吹き荒れるなか、神々の思惑に振り回されつつも、

近代兵器や神術をもちいて、ジュンは学院の仲間とともに陰謀に立ち向かう。



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ジャンル : 小説・文学

暁月あきら/西尾維新『症年症女』

 

 

症年症女

 

作画:暁月あきら

原作:西尾維新

掲載誌:『ジャンプスクエア』(集英社)2016年-

単行本:ジャンプコミックス

ためし読み/西尾維新についての過去の記事

 

 

 

『めだかボックス』コンビの新作である。

主人公である「少年」は、ある新病のせいで他者の個性を読み取れない。

視覚において、人の顔が塗り潰されてみえる。

たとえば人間ピラミッドから人間性が奪われ、ただのピラミッドに。

 

 

 

 

街を歩くと、看板さえも無個性な存在として目に映る。

逆に言うと人間の顔は、自分を売りこむ看板にすぎない。

 

 

 

 

治療と研究をおこなう病院を、長い髪の「少女」が訪れる。

彼女のうつくしい顔だけは認識できる。

 

 

 

 

こちらは少女の視点からみた少年の姿。

彼女も同病だった。

 

 

 

 

これほど鮮やかなボーイミーツガールは稀だろう。

思春期の恋愛感情にありがちな視野狭窄が、戯画的に強調されている。

 

 

 

 

少年は少女とおなじ、より高度な研究機関へうつる。

この百面相は、顔認識をテストするための当てっこゲーム。

僕は「蔑(さげすみ)」が好きだけど、どれもかわいい。

西尾の原作独特の遊戯性を、暁月はうまく料理している。

 

 

 

 

「キャラ」が持て囃される現代文化の一翼をになう作者たちは、

あらたに「そもそも個性とはなにか」とゆうテーマを提示。

主人公・ヒロイン・モブキャラなどのお約束を当然視する読者をからかう。

やたらエスカレーターの長いこの施設はNERV本部に似てるとか、

ツッコむのがバカらしくなるくらい読者を翻弄する。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

瀬戸口みづき『ローカル女子の遠吠え』

 

 

ローカル女子の遠吠え

 

作者:瀬戸口みづき

掲載誌:『まんがタイムスペシャル』(芳文社)2014年-

単行本:まんがタイムコミックス

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アラサーの「有野りん子」は、東京でデザイナーとして働いていた。

けっきょく芽が出ず、地元の静岡へもどるが。

心でなく、肋骨を物理的に折られる事件が、帰郷のきっかけのエピソード。

 

 

 

 

静岡では事務員として職につく。

やはり落差は大きい。

特に「女はこうあるべき」とゆう保守性が。

 

 

 

 

課長も悪い人じゃないが、「30過ぎて独身は恥づかしい」とか平気で言う。

この価値観が田舎、つまり日本のマジョリティであり、今後も変わりそうにない。

 

 

 

 

りん子と一緒に昭和的なズッコケを演じたのが、同僚の「雲春」。

東京出身だが、酒の席の失言で左遷された。

上司のくだらない戦国武将話へのツッコミがおもしろい。

 

 

 

 

ハッチは、りん子の高校の同級生。

ほぼ同時期に東京から出戻った。

こちらはブラック企業時代にうけた傷がまだ癒えてない。

引用しないが、「茶摘み休暇」が許されて泣く場面はおかしくも感動的。

 

都会と田舎、どちらが良いとも悪いとも言えない。

ただ、ちがうだけ。

 

 

 

 

「静岡あるある」ネタが、本作のセールスポイント。

静岡県民の信仰の対象と言えば富士山だが、

それは山梨県民との宗教戦争の火種になりうる。

 

 

 

 

「しぞーか」は神奈川と愛知に挟まれて影が薄いけど、

本当は富士山・お茶・伊豆・サッカー・ヤマハ・徳川家康と魅力たっぷり。

海の幸も豊富だ。

しかし雲春はグリーンピース激怒必至の、ある商品を発見する……。






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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 萌え4コマ 

ミウラタダヒロ『ゆらぎ荘の幽奈さん』

 

 

ゆらぎ荘の幽奈さん

 

作者:ミウラタダヒロ

掲載誌:『週刊少年ジャンプ』(集英社)2016年-

単行本:ジャンプコミックス

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「出る」と噂の温泉宿で、格安で暮らすことになった少年の物語。

霊能力をもつ主人公の目には幽霊が美少女に映るため、事故物件にならない。

むしろうらやましい。

 

 

 

 

1話でワケあり女子が一挙に5人登場。

ヒロイン幽奈・ロリ仲居・酒好きのお姉さん・堅物くの一・ネコ娘。

本作がハーレムラブコメだと宣言する。

 

 

 

 

ショートカットの黒猫娘「夜々」がお気にいりだ。

二の腕の描写や、肌のトーンなど奇麗で、ぜひ単行本で味わってほしい。

 

 

 

 

各キャラの紹介もそこそこに、4話から学校篇へ突入。

同級生の宮崎千紗希は、ヒロインに匹敵する吸引力がある。

クロッチや縫い目も丁寧にえがかれている。

 

 

 

 

千紗希が悩まされていた心霊現象は、化け狸が原因とわかる。

正体は10歳の少女「こゆず」。

 

 

 

 

変化の術を勉強中で、かわいい千紗希につきまとっていた。

特にたわわな胸にあこがれている。

 

 

 

 

読者にサービスするのが作家の務めとしたら、

『ゆらぎ荘の幽奈さん』は最高の漫画のひとつだろう。

のぼせるほど満足させられる。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ 

梅木泰祐『あせびと空世界の冒険者』5巻 低空域篇開始

 

 

あせびと空世界の冒険者

 

作者:梅木泰祐

掲載誌:『COMICリュウ』(徳間書店)2014年-

単行本:RYU COMICS

ためし読み/これまでの記事

 

 

 

やさしく誇り高い、おさげ髪アンドロイドのあせびさん。

そろそろユウとくっついて幸せになってほしい。

 

 

 

 

しかし本作は、80年代ラブコメの要領でじらす。

ふたりはたがいに強く意識しあうけど、関係は進展しない。

恋敵に見せるわかりやすい反応が最高。

 

 

 

 

物語は新章へ突入し、キャラもふえた。

低空域探査の専門家ダインは、さっそくあせびさんにコナをかける。

ガチな拒否反応がかえってくるが。

 

 

 

 

天才的な飛行船設計者であるリコリス。

古代文明と秘密のつながりをもってるらしい。

 

いわゆる「姐御キャラ」風の、どちらかと言えばオーセンティックな造形。

本作のキャラデザは全体的に、10年代の作品にしてはシンプル。

 

 

 

 

低空域用の装備に着替えるシーン。

前巻の記事で、僕は「お色直し」の必要性について触れたが、

作者側もとっくにわかってたらしい。

 

 

 

 

防護マスクをかぶるため、前髪をアップにして後髪をたばねる。

かわいいけど、むしろ地味になった。

ただ恋敵にも情けをかける、まっすぐな気性に磨きがかかっている。

 

ひらひらふわふわした「女の子らしさ」より、「普遍性」を追求する作品だ。

 

 

 

 

最後にあえて、犬も食わないマクロ分析をしてみよう。

 

エヴァンゲリオンに精神汚染されたのか、ゼロ年代・10年代の物語は、

やはり斜に構えるのをよしとする風潮があったと思う。

それに対し本作は、エヴァ以降のスタイル(=可愛いは正義)をリスペクトする一方で、

ナディア以前(=可愛いだけが正義じゃない)への回帰でもある。

大ベテランである美樹本晴彦のキャラデザを前面にうちだした、

アニメ『甲鉄城のカバネリ』とおなじ方向へ疾走している。






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ばったん『にじいろコンプレックス』

 

 

にじいろコンプレックス

 

作者:ばったん

掲載誌:『ヤングマガジンサード』(講談社)2015年-

単行本:ヤンマガKC

[ためし読みはこちら

 

 

 

「JK×下着」がテーマのオムニバスだ。

おそらく女子高生は皆なんらかの下着をつけてるから、

色も形もバラエティゆたかな物語を期待できる。

 

 

 

 

1話の「新妻さやか」は、両親の離婚で田舎へ引っ越してきた。

金髪で見るからに洗練されてて、同級生から羨望されつつも敬遠される。

 

 

 

 

そんなさやかに対し、空気読めない系女子「窪田ちなつ」が、

天使だなんだと言ってつきまとい、環境のちがいをこえた友情をはぐくむ。

 

昔はヤンマガ本誌にもこういった読み切りがいくつかあって、

ヤンキー漫画やエロ漫画、車漫画と共に

バランスが取れてたように感じるんですよね…。

最近じゃ特に安全牌、ある程度実績を残した作家しか

本誌に載せてないような気がします。

長い付き合いの中、情が出て切りにくくなったのかもしれませんが、

それじゃイカンでしょ…。

成り上がりをモットーとした雑誌なら常に下克上を生み出さないと…。

 

駄埼玉MK-Ⅱ氏のレビュー

 

掲載誌は『ヤングマガジンサード』で、有り体に言えば3軍あつかい。

大手出版社はベテランの雇用を維持する一方、中途半端にルーキーも囲おうとする。

その結果、座組に時代が反映されない。

 

 

 

 

がっちりした体つき、強めの表情。

描くべきところは描きこむ、メリハリのきいた絵柄だ。

 

 

 

 

3話の「秋庭つかさ」の、見知らぬ男とゆきずりで一線こえたあとの、

オタク友達との会話のズレっぷりなどに、現代的感性をみてとれる。

 

 

 

 

6話の「武田八重」は、惚れた男のパンツを盗んで穿いている。

結末は、かなしくも共感できるもの。

 

上掲のレビューは、松本剛などが載ってたころのヤンマガ本誌と比較しているのだろう。

たしかにばったんの作品はそれらに劣らない。

「そんなに新人の新鮮な新境地をみたけりゃコミティアでもいけば?

ウチは商売でやってるんで」とゆう、リスク回避姿勢の強い業界に順応しつつ抗う。

 

 

 

 

5話の「シキシマ」がスカートの下に隠していたのは、レッグカットの跡。

下剋上なき時代に、静かなレジスタンスが進行中だ。






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『死と乙女と中野』 第12章「シバ」




登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む







 深夜の桔梗学園中等部は、窓に差しこむ月光しか照明がない。

 サッサは追跡を振り切ろうと走っている。息を切らしている。廊下は長く果てしない。背後の足音が徐々に大きくなる。

 とにかく校舎の外に出なくては。サッサは階段を下りて一階へむかう。

 踊り場の大鏡に、黒のワンピースを着た自分が映る。顎のほくろの位置もおなじ。

 サッサは鏡を叩いて叫ぶ。

「お姉ちゃん、助けて! 追われてるの」

 どれだけ訴えても、怯える自分しかそこにはいない。鏡の上部にシバが映る。赤のロングカーディガンを羽織っている。

 シバはゆっくり階段を下りながら言う。

「逃げてもムダだ」

「こないで」

「人は無垢なままじゃいられない。おのれの罪に向き合え」

「いや」

 サッサはオルファのカッターを両手で握って黒刃を出し、続けて言う。

「ちかづいたら刺します」

「それがあたしの望みだ」

「私は悪くない……私のせいじゃない……」

「さあ、一緒にいこう」

 サッサはオルファを、シバの腹部に何度も突き刺す。白いシャツが血に染まる。シバは微笑しつつ、小柄なサッサを抱きしめる。サッサはオルファを取り落とす。ふたりはかたく抱擁したまま踊り場に崩れ落ちた。

「はいカット!」サッサが叫ぶ。「きょうの撮影は終わりです。お疲れさまでした」

 撮影スタッフが機材の後片付けをはじめる。

 サッサは母校を舞台に、劇場公開予定の映画『死と乙女と中野』を撮っていた。ツバキの描いた漫画が原作だ。

 解散した百合研は、サッサを会長に迎え「百合文化研究会」として復活した。サッサが監督した二本の短篇映画が評判となり、映画会社から声が掛かった。

 小道具を担当する太った中年男が駆け寄り、上目遣いでサッサに言う。

「あのう、監督」

「はい」

「次の撮影でつかう猫なんですが、あしたの朝イチにどうしても間に合わなくて……」

「えー」

「すみません! 動物プロダクションに片っ端から電話したんですが」

「それはマズイなあ。うーん……海のシーンに出せばいいか。なんとか話はつながる」

「ありがとうございます、すぐ手配します!」

 装飾係はその場で電話をかける。

 無愛想で女の子らしさの欠片もないサッサは、コンビニのバイトですら雇ってもらえなかったが、いまや年嵩の男たちを使いこなしている。撮影現場では愛想笑いより、的確ですばやい指示の方が歓迎される。

 シバは血糊のついた服を私服のパーカーに着替え、楽屋にしている教室から出てきた。

「先輩」サッサが言う。「これから飲みにいきません?」

「勘弁してよ。お前と飲むとかならず朝までになるんだもん。きょうは帰って御飯食べて寝る」

「つまんないの。まあいっか。脚本直さなきゃいけないし」

 シバは桔梗大卒業後、迅雷社に就職し漫画編集者となった。ツバキの遺作をヒットさせるなど早速結果を出している。いまは会社員だが、監督であるサッサと映画会社に懇願され、リメイク元である短篇とおなじく出演中だ。

 疎遠になったマエは、サッサが成功したと知って、よりを戻そうと向こうから連絡してきた。虫がいいとサッサは思ったが、それもマエらしいと受け容れた。以前ほどではないが仲良くしている。

 タッキーの行方はわからない。生死さえも。もし生きてたとしても、工作員のキャリアは終わったろう。

 サッサとシバはタクシーへ乗りこむ。

「ねえ」サッサが言う。「御飯食べて寝るだけなら、ウチに来ません? 追加撮影もしたいし」

「いいけど。なに撮るの?」

「ラブシーン」

「ちょっ」

「ふたりきりの方がいいでしょ」

「いや、その、心の準備が……」

「照れてる照れてる。私たち来月から同棲するのに。先輩かわいい」

「お前を百合の世界に引きこんだのを、あたしゃちょっと後悔してるよ」

 ふたりはタクシーが自宅につくまでの十五分間、唇を求めあいつづけた。




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苑田 謙

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