sigama『王道楽土のビジランテ』

 

 

王道楽土のビジランテ

 

作者:sigama

掲載誌:『電撃マオウ』(KADOKAWA)2015年-

単行本:電撃コミックスNEXT

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異形の少女が、浅草の街をみおろす。

 

濱口雄幸首相銃撃事件の2年後とあるから、西暦1932年。

満洲事変がはじまっている。

繁栄と退廃、西洋と東洋、享楽と戦乱が、めまぐるしく交錯する時代。

 

 

 

 

主人公は「コトラ」。

聖獣の力で帝都を守護する自警団の一員だ。

虎の様な爪で怪人たちと戦う。

 

 

 

 

だがその能力のせいで、彼女はモンスターと見分けがつかない。

友達とおもっていたカフェの女給を怯えさせる。

 

守っている対象から疎まれる主人公。

アクションものの人物像としてフックが利いている。

 

 

 

 

作品の最大の特色は、浅草の風景。

ランドマークである十二階建ての「凌雲閣」は、

史実とことなり震災後も生き延び、魔窟と化した。

 

 

 

 

わらべ歌を口ずさみながら鞠をつく、おかっぱの少女。

物語とおなじかそれ以上に、背景描写に力がはいっている。

 

 

 

 

一方で、眼高手低の感はなきにしもあらず、

登場人物が多くて敵味方の区別がつきづらかったりする。

それでも年末年始に異世界へ旅したいなら、本作はオススメだ。






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鍵空とみやき『ハッピーシュガーライフ』2巻

 

 

ハッピーシュガーライフ

 

作者:鍵空とみやき

掲載誌:『月刊ガンガンJOKER』(スクウェア・エニックス)2015年-

単行本:ガンガンコミックスJOKER

ためし読み/1巻の記事

 

 

 

1995年の映画『セブン』は、「七つの大罪」にまつわる連続猟奇殺人を描くが、

なかでも「嫉妬(ENVY)」が中心的な地位を占めていた。

キリスト教圏では、妬み嫉みこそがもっとも忌むべき悪徳なのだ。

 

「松阪さとう」の場合、嫉妬をおぼえる自分に気づいてウキウキ。

だってそれって、わたしが人を本気で愛している證拠だから。

 

 

 

 

よって神は、愛しあう少女たちを裁こうとする。

百合の教えに調伏された「しお」が、異教徒として追われる。

 

 

 

 

ペドフィリアとゆう醜い欲望の犠牲となる。

うつくしすぎるがゆえ、世界は百合を許容しない。

 

 

 

 

月蝕の様にいびつな狂気が、さとうを暴力の使徒とする。

漆黒の夜空に真紅の雨をふらす。

 

 

 

 

いとおしすぎるから、すべてが裏切りにみえる。

無邪気さを愚かさに、一途さを利己心に解釈してしまう。

少女を愛した少女の精神が、愛そのものに蝕まれ自己否定へゆきつく。

 

 

 

 

螺旋階段をひたひたと、澄まし顔で、ときに笑顔で、

神ですら手が届きそうにない深みまで降りてゆく。

愛の底にある愛の、またその表皮を剥いたら、核にある因子はなにか。






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尾崎かおり『人魚王子』

 

 

人魚王子

 

作者:尾崎かおり

発行:新書館 2015年

レーベル:ウィングス・コミックス

ためし読み/『神様がうそをつく。』の記事]

 

 

 

10月にも書いたが、「痴漢」は恰好のインサイティング・インシデントだ。

『氷の微笑』でアイスピックを振るうシャロン・ストーンほど異常じゃないにせよ、

思春期の娘が巻きこまれる事件として最悪なもののひとつで、読者を刺激する。

 

本短篇集の「アメツキガハラ」では、尻を触られた「海野あかり」と、

彼氏ができたばかりの親友との対位法が、功を奏している。

 

 

 

 

72ページの短篇がうごきだす。

親友に八つ当たりしたあと、今度はトイレで自分のパンツに敵意をむける。

 

 

 

 

高らかな笑い声をあげ、多摩川ぞいの町を疾走。

ノーパンの天使は22ページで最高速に達し、

散文的な現実から韻文的なファンタジーへ飛翔した。

 

 

 

 

後篇。

処女喪失のあとの入水。

海とゆう大きなものが、破瓜の痛みを通じて、

自分のカラダとゆう小さなもののカタチを明確化する。

 

 

 

 

「人魚王子」の舞台は沖縄。

たかみち『りとうのうみ』に続けて読んでも違和感ないだろう。

アラフォーで「中二病な自分をも抱擁出来る」ようになった作者が、

その内向性を保持しつつ、開放的な風や光を物語へよびこんだ。

 

 

 

 

沖縄の海に、死のイメージをかさねて表現する手法は、

北野武の映画でも顕著だが、尾崎かおりの解釈は独特で深遠だ。

 

 

 

 

限りなく青にちかいモノクローム。

キタノブルーやたかみちブルーに匹敵するうつくしさを湛えつつ、

そっけなく共感を拒絶したり、気まぐれに愛を謳い上げる世界観。






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『サイバー剣士 暁ジュン』第3章 「カズサ」

登場人物・あらすじ


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 日曜の午前八時。警視庁で用事があるため、ジュンは有楽町線に乗っている。ゲームのしすぎで寝不足の目をしばたく。赤いヘッドフォンで電子音楽を聞きつつリズムをとる。

 永田町駅で乗車した二十代の男を見て、ジュンの瞳はきらめいた。鏑木上総は警視庁公安部に所属する警察官。身長は百七十六センチと高いが、ひどく痩せこけて前髪が長く、服は黒づくめ。警察と言うより詩人か何かに見える。ちなみに父親は鏑木治三郎、現在の東京都知事だ。

 ジュンはヘッドフォンを首にかけ、席を立つ。アイフォンを握りしめる。

「カズくん、おはよう」

「ああ師範、おはようございます」

「道場以外で『師範』はやめて」

 ジュンは昨年引退した祖父の跡を継ぎ、月に一回、警視庁の道場で指導している。もともと祖父を手伝っていたので顔は知られており、古武術の物珍しさもあって、警視庁でもそれなりの評判が定着している。

 そこで出会ったのが、文学青年風の警官のカズサだった。オクテなのか、ジュンが話しかけるたび黒縁眼鏡の下の目が泳ぎ、頬は紅潮するが、そんな繊細さも彼女の好みだ。

 ジュンが言う。「ねえ、ラインとかやってる?」

「一応は」

「じゃあさ……」

 折り悪しく車輛は桜田門に到着、ふたりが下車したところに、髪を逆立てた男が笑顔で近づいてきた。ジュンは軽く舌打ちする。

 ツンツン髪が言う。「若先生、ちぃーっす!」

「こんちわ」ジュンが答える。

「きょう鏑木と対戦するんでしょ。それの相談でもしてたんスか」

「まあね」

「言っとくけど八百長は犯罪ッスから。俺のときと違って、こいつに手加減したら現行犯逮捕ッス」

 ツンツン髪は馬鹿だが、ジュンがカズサにベタ惚れで特別扱いするのに気づいている。いや、カズサ以外は皆知ってるが。

「逮捕できるもんならしてみろよ。また病院送りにするぞ」

「怖えーっ! めっちゃ睨まれた」

 カズサが言う。「俺も八百長は嫌だな。たとえハンデをもらうにせよ、真剣勝負がいい」

 階段を登りながら、カズサがまじまじとジュンを見つめる。異性には淡白だが、正義漢なのだ。ジュンの胸は騒ぐ。

「カズくんのそうゆう真っ直ぐなところ、いいと思う。だからメキメキ上達してる」

「悪いけど、十四歳の女の子に成長を褒められてもなあ」

 子供扱いされたのはともかく、年齢を覚えられていると知ってジュンは感動する。

「東大卒で、仕事ができて、剣道も頑張ってる。二十五歳で巡査部長はすごいって聞いたよ。あたし尊敬してるんだ」

 隣で懸命に笑いをこらえるツンツン髪のみぞおちに、ジュンは肘を捩じ込んだ。

 手摺をつかんで呼吸を整えたツンツン髪が尋ねる。

「で、ルールはいつもと同じッスか」

「うん」ジュンが答える。「二本取ったらあたしの勝ち。一回でもあたしに触れられたら、カズくんの勝ち。触るのは手でも足でもどこでもいい。道場の外で不意打ちしてもOK」

 カズくんに触られるなら、むしろ嬉しい。

「これまで不意打ちしたやつは?」

「いない。警官は頭が固いね」

「反撃が怖いからッスよ……わっ!」

 改札口への階段を登り切ったツンツン髪が、戯れにジュンを突き落とそうとする。

 しかし両手は空を切った。

「見え見えだっちゅうの」

 ツンツン髪の背後に立つジュンが、右手に長財布を持っている。男は慌ててコートのポケットを探る。それは自分の財布だった。

「いつの間に!」

「稽古のあと、また三人でサイゼ行こう。ただしあんたの奢りで」

「うげえ」

 カズサは目を丸くして立ち尽くす。

「完全に消えた。まるで手品だ」

「手品だよ」ジュンが答える。「古武術は目眩ましの技が多いんだ。実戦じゃ無意味だろうね。まあ使う予定もないけど」

「まったく勝てる気がしない」

「うふふ」

 ジュンは財布を返し、上機嫌で改札口を抜ける。

「今回も賭けをしよう」ジュンが続ける。「カズくん、勝ったら何が欲しい?」

「何をもらえるのかな」

「カズくんが欲しくて、あたしがあげられる物ならなんでも」

「雪風流の奥義が見たいと言ったら」

 二秒ほど間が空いた。

「見せたげる」

 じいちゃん、不肖の弟子でゴメン。

「俺が負けたときは」

「あたしとデート」

 ツンツン髪でさえギョッとするほど、大胆な発言だった。カズサは目を伏せて当惑する。

「なんちゃって」ジュンが笑う。「いまの無し。彼女さんとかに怒られるよね」

「いや、その条件飲んだ。弱いけど俺だって警官なんだ。負けないよ」

 男二人が4番出口の階段を登る後ろで、ジュンはガッツポーズを連発する。来た。あたしの時代来た。

 ほころんだ頬を両手で叩く。油断大敵。好事魔多し。月に叢雲花に風。

 絶対勝つ。死んでも勝つ。雪風流宗家のすべての秘術を駆使して勝つ。




 警視庁本部庁舎の剣道場で、防具をつけた約四十名の男女が激しく撃ち合う。

 緑のジャージだけ着ているジュンは、木刀を杖にして仁王立ちしている。竹刀はすぐ壊してしまうので、めったに使わない。

「そこ、踏み込みが甘い! 相手の股に足を突っこむつもりで!」

 ジュンが実演すると爆音が轟く。チャリオットのテロでも起きたかと思われるほど。

 警官の一人が言う。「師範が本気で踏み込むのは禁止ですよ」

「そうだった、ごめん」

 二回床板を割ったジュンに対し、総務部から禁止命令が出ていた。生徒たちは笑う。ジュンはマスコット的存在だった。

 指導する対象は、剣道のプロと呼ぶべき猛者もいるし、普通のお巡りさんもいる。古武術に興味のある者のみ自由参加の、気楽な講習会みたいな時間だ。

 カズサが素振りする姿が目に入る。

「カズくん、すごい! 前より素振りがキレイになってる。毎日稽古してるんだね」

「ああ」

「わかるよ。あ、でも、手首を利かせるともっと速くなるかも。あと日本刀の刃筋を意識するといいよ」

 掛かり稽古を終えたツンツン髪がちゃかしに来る。

「まーた鏑木を贔屓してるんスか」

「見込みのある生徒を教えた方がいいだろ」

 カズサは言われた内容を試すが、手応えがなくて首をひねる。

「手首ってどうやって鍛えればいいんだろう」

 ジュンが答える。「さあ。あたしの手首は生まれつきこうだから」

 ジュンが左手首を右手で曲げると、すべての指が腕に密着する。

 ツンツン髪が叫ぶ。「うわっ、気持ち悪っ」

「あたしはタコより柔らかい女なのだ」

 バレリーナ顔負けの柔軟性で、ジュンは左右に前後に股割りし、のけぞって丸まって見せる。練習の手が止まり、人だかりができた。

 群衆からつぶやきが漏れる。「人間じゃない……」

「誰だよ、いま言ったの」

 同種族なのを疑われたジュンが立ち上がると、別方向の靴脱ぎ場に来客がいるのが目に入る。革ジャンを着た肥満体型の男で、長めの髪に似合わないパーマをかけている。

「くだらねえ。ヨガのレッスンかよ」

 男は甲高い声で毒づき、無遠慮に道場へ入りこむ。彼の名は山下政信。カズサの同僚だ。年齢は三十八歳で、仲間内では「チーフ」と呼ばれる。垂ネームからカズサを識別し声をかける。

「おい鏑木、ウチはこのナントカ流の稽古は参加禁止だと知ってるよな」

「チーフ、すいません」カズサが答える。「これで最後にするんで、きょうの稽古は受けさせてください」

「いいから帰り支度しろ」

 カズサは俯いて無言の抵抗をする。公安部の同僚に内緒でジュンの指導を受けるほど、雪風流への関心が強い。

 チーフは早足で歩み寄り、面布団の上からカズサを思い切り殴る。

「てめえ殺すぞ。一分で支度しろ」

 カズサは悔しさを滲ませつつ正座し、籠手を脱いで防具を外し始める。

 ジュンの我慢は限界点を超えた。キレたらカズサに迷惑がかかると思い黙ってたが、目の前の横暴は見過ごせるレベルではない。デートの約束とか、もはやどうでもいい。

「そこのデブ」ジュンが言う。「十秒で道場から出て行け」

「あ? 俺に言ってんのか」

「ここにデブはお前しかいねえよ」

「クソガキが。犯すぞ」

「あと五秒。出て行かないなら叩きのめす」

「なんだマル精か」

「わかった。試合の準備をしろ」

 ツンツン髪がジュンの腕をつかみ、道場の隅に引っ張ってから耳打ちする。

「相手が悪いッス。山下さんは五段で、全日本で優勝までした人だ」

「知るか」ジュンが吐き捨てる。

 作法通りに素早く防具をつける手際を見て、チーフが高段者だとジュンは気づいていた。ただのチンピラじゃない。ジュンが短気なのを事前に調べた上で、挑発した様に思える。

 でも、なんのために。じいちゃんの件と関係あるのか。もしそうなら、なおのこと後へ退けない。

 ジュンはジャージの上着を脱ぎ、黒のTシャツ一枚の姿となり、竹刀を提げて中央へ向かう。カズサと束の間目が合う。デート、したかったな。

「おいおい」チーフが笑う。「死ぬ気かよ」

「うら若い乙女が、あんな臭えもん身につけられるか」

「防具をつけろ、クソガキ」

「契約書に、稽古で起きた事故はあたしの責任と記してある。ビビってるなら帰れ」

「いい度胸だ。それだけは認めてやる」

 チーフのあばた面に残忍な笑みが浮かぶ。ジュンを殺す権利を与えられ喜んでいる。

 生徒たちは想定外の成り行きに、介入すべきタイミングを見出だせなかった。もう誰も止められない。

 試合開始。

 ジュンの足は、床板に根を張った様に動かない。しかし踵は浮いており、虎の様に獲物を狙う。

 チーフが叫ぶ。「来い!」

 やけに彼は苛立っている。ジュンの剣風が攻撃的なのを調査していた證拠だ。

 蛇の様に滑らかで鋭い打突が、ジュンを襲う。上下左右、目まぐるしく喰らいつく。ジュンの竹刀を払い、巻き落とし、隙を窺う。チーフは太っているが敏捷だ。

 その勢いに合わせ、ジュンは電光石火の踏み込みと同時に、コンパクトに振り抜く。竹刀がチーフの面で高らかな打突音を鳴らすが、判定は無効。

 ジュンの得意の足捌きが加速する。円を描きながら舞い、直線的に迫る。十四歳のTシャツの少女に、全国制覇者は翻弄されていた。

 観戦者たちが唸る。「速すぎて目で追えない」

「山下さんの手が止まった」

「古武術は五段にも通用するのか」

 これらの批評は、チーフの自尊心を傷つけた。

「メスガキが!」

 チーフは鍔迫り合いでジュンを突き飛ばしたとき、かすかに足を引っ掛ける。

 ギャラリーには感づいた者もいる。

「汚え」カズサが呟く。

 後退するジュンの左膝が曲がり、転びかける。チーフは起死回生の一撃を狙い斬り込む。

 雪風流【浮舟】。

 それは誘いだった。チーフの竹刀が斬るべき対象は、虚空しかない。

 死角からジュンが、脳天から爪先まで一刀両断。いやそれは錯覚で、頭蓋骨の中で激しく震動したチーフの脳は、身体のコントロールを放棄する。巨体が音を立てて沈む。

 観戦者が叫ぶ。「うおっ」

「マジか」

「強いのは知ってたが、これほどとは」

 折れた竹刀を持つジュンは警戒を怠らない。礼儀作法にこだわらない雪風流だが、残心だけは祖父に厳しく仕込まれた。それは過酷な戦場を生き延びた、元亀天正の兵たちの知恵だった。

 チーフが咆哮しながら、竹刀を拾わずに突進。さすがに意表をつかれたジュンは、倍の体重の男に組み敷かれる。不快な体臭が鼻をつく。チーフは籠手でジュンの頭を打擲。狂暴な殺意の虜となっている。

 ジュンは左腕で防禦しつつ、右手をのばして竹刀の破片をつかむ。それをナイフの様に面金の隙間へ突き刺す。

「ぐおっ」チーフが叫ぶ。

 それでも打擲は止まない。観戦者が束になり両者を引き離した。

 羽交い締めにされたジュンが叫ぶ。

「放せ、あいつをぶっ殺す!」




 一時間後。流血の惨劇が演じられた道場は掃除され、元通りとなっていた。荒くれ者が多い職場なだけあり、乱闘程度では問題視されない。

 壁に背をもたせて座るジュンが、水筒の水を飲んでいる。頬に痣がうかぶ。

 カズサとツンツン髪が両脇に立つ。ほかに人影はない。

「ふう」ジュンが息を吐く。

 カズサが言う。「激戦だったね」

「うん、たのしかった! ひさしぶりに強い相手と立ち合ったよ」

「てっきりまだ怒ってるのかと。チーフは反則技まで使ったから」

「あれくらい雪風流じゃ普通」

 カズサとツンツン髪は、顔を見合わせ苦笑する。自分たちとは別次元に属する天才児と考えるしかない。

「とにかくありがとう」カズサが言う。「俺のために戦ってくれたんだろう?」

「力は人を悪に近づけるって、じいちゃんがよく言ってる。だから常に困ってる人のため使えと」

 ましてや、それが好きな人なら。ジュンは、立っているカズサの腰に頭をもたせ掛ける。

「その若さで流派を背負うなんて重荷だろうに、君はそう感じさせない」

「別に背負ってないもん。今は道場もないし。お父さんが有名人のカズくんの方がプレッシャーきついでしょ」

 カズサの細面に皮肉な笑みが浮かぶ。

「人生の悲劇の第一幕は、親子となったことに始まっている」

「なにそれ」

「芥川龍之介の有名な言葉さ」

 東大仏文科卒らしい衒学趣味が、ジュンの心をますます奪う。彼女自身は漫画しか読まないが。

 ツンツン髪が口を挟む。

「ところでお二人さん、デートの件はどうなったんスか」

 ナイスアシスト。ジュンはツンツン髪にウインクした。

 カズサは赤面して頭を掻く。断れる状況ではない。

「君の勝ちだ」カズサが言う。「好きなところへ一日つきあうよ」

「無理しないで」

「いや、じっくり話をしたいと思ってたんだ」

「うれしい」

「でも奥義について少しは知りたい。どんな技なのかとか」

「その質問は、女子に体重を聞くくらいありえないね」

「比喩がわかりやすくて助かる。ああ、緊急連絡が入った。じゃあ師範、また今度」

「うん、またね」

 召集がかかったらしく、カズサは駆け出した。全力疾走なのが、ことの重大さを物語る。

「テロ絡みかな」ジュンが言う。

 ツンツン髪が答える。「怖いッスねえ」

「あんたは行かなくていいの」

「俺は交番勤務ッスから。頼れる街のお巡りさんッス」

「あっそ。カズくんは職場でどうなの。イジメられてないか心配」

「俺は同期だけど全然知らないんスよ。でもインターネット関係らしいッス。鏑木はパソコンに詳しいから」

「公安9課みたいなやつ?」

「どうせ児童ポルノの摘発とかッスよ。警察にカッコイイ仕事なんてありゃしません」

「実感こもってるね」

 水筒が空になった。ジュンは疲れた体を動かして立つ。

 悪くない一日だが、カズサの同僚が祖父を探っている気配は気になる。すぐ調べないと。

 ツンツン髪が尋ねる。「これからどうします? ふたりでサイゼリヤ行きますか」

「いや、帰るけど」

「そう言うと思いましたよ」




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ジャンル : 小説・文学

大堀ユタカ/伊達将範『re:teen 繭の中でもう一度10代のキミと会う』

 

 

re:teen 繭の中でもう一度10代のキミと会う

 

 

作画:大堀ユタカ

原作:伊達将範

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2015年-

単行本:電撃コミックスNEXT

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近未来的なデザインの飛行機が、「コクーン」と称される、

澄浜市に突如あらわれた謎のドームへ突入をはかる。

 

パイロットは「我高往路(がたか おうろ)」。

階級は二尉だから、自衛隊かそれに準ずる組織に属すらしい。

映画『ガタカ』になぞらえたネーミングは、本格SFを期待させる。

 

 

 

 

オーロはコクーン発生以前、澄浜市に住んでいた。

不幸な事故で親友を亡くし、思い出すだけで胸が掻き毟られる土地だ。

コクーンへの侵入は、トラウマと向き合うとゆう意味をもつ。

回想シーンが熱い。

 

 

 

 

思い出すのは、12歳の「ヒメ姉」などと遊んだ日々。

特にその眩しい水着姿が目に焼きついている。

 

勝ち気で、つるつるぺったんなヒメ姉は、文句なしにカワイイ。

あれ、でもこれ、本格SFじゃなかったっけ。

 

 

 

 

昏睡から目覚めた24歳のオーロは、機体に映る顔をみて目を疑う。

そこにいるのは11歳の自分。

 

 

 

 

ヒメ姉も、あのころと変わらない可憐さと、ツンデレぶりで登場。

コクーン内部は、事故で仲良しグループがバラバラになる前日の澄浜だった。

 

 

 

 

壮大な歴史改変ミッションがはじまった。

まずは、ヒメ姉の豪邸へ忍びこみ回線を借りる。

ロミジュリばりの大胆さにヒメ姉は戸惑う。

子供っぽいパジャマが恥ずかしいし、オーロの写真まで飾ってるから。

 

 

 

 

女子は、光の速さで成長してゆく。

1歳上だったら、大人と子供みたいなもの。

でももし、男子の中身が24歳だったら。

ヒメ姉はすばやく着替えてオーロを迎え入れるが、主導権を握られっぱなし。

 

幼なじみを口説き落とすため駆使されるタイムリープ。

「ロリータSF」とゆう新ジャンルの誕生に、ぼくらは胸を躍らせる。






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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: ロリ 

柊ゆたか『新米姉妹のふたりごはん』

 

 

新米姉妹のふたりごはん

 

作者:柊ゆたか

掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(KADOKAWA)2015年-

単行本:電撃コミックスNEXT

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親の再婚によって急遽家族となったふたり。

ちなみに顔が怖いのが「あやり」で、変顔が「サチ」。

姉の方が頼りないインスタント姉妹っぷりは、サブロウタ『citrus』を髣髴。

 

 

 

 

あやりがキッチンですらりと刀を抜く。

それはウザい姉を斬るのではなく、生ハムの原木を削るためのナイフ。

料理がすきな、セーラー服JKの立ち居振る舞いを玩味する漫画だ。

 

 

 

 

テーマは「料理×百合」。

サムライの様に凛然とした黒髪少女は、刃物が似合う。

 

料理漫画と百合漫画は、比較的アクションのとぼしいジャンルだが、

両者をつなぐ回路からダイナミックな絵をみちびく。

熟達した作家ならではの秘術が尽くされている。

 

 

 

 

のんきなサチ姉さんは、食べるのと百合が専門。

水玉のシュシュで、身だしなみに無頓着な妹をポニーテールにしたのは、

この作品のキーヴィジュアルを決定づけた好アシスト。

 

 

 

 

親睦を深めようと、3話で映画館デート。

あやりは、はじめて食べるポップコーンに感動。

音が大きくなるタイミングにあわせて頬ばったり。

 

 

 

 

「男は胃袋からつかめ」と言うけど、女はもうすこし複雑。

結局、百合より美味な御馳走なんてありはしない。

 

 

 

 

「長物」を手にして、背筋をのばす立ち姿の端正さ。

初音ミクに匹敵する、ネギの似合うヒロインだ。






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テーマ : 百合漫画
ジャンル : アニメ・コミック

箸井地図/櫛木理宇『ホーンテッド・キャンパス』2巻 スピリチュアル灘こよみ

 

 

ホーンテッド・キャンパス

 

作画:箸井地図

原作:櫛木理宇(角川ホラー文庫刊)

掲載誌:『Nemuki+』(朝日新聞出版)2014年-

単行本:Nemuki+コミックス

ためし読み/1巻の記事/『ハイリコ』1巻/2巻

 

 

 

第4話は浴衣回。

藍さんが飲んでるのはアサヒスーパードライ。

作画担当者は、女の子の趣味では傑出しているが、

ビールにはさほどウルサくないらしい。

原作が銘柄に言及してるかもしれないけど。

 

われらが灘こよみの浴衣はスルー。

 

 

 

 

かわりに、こよみ秋冬コレクションがたのしめる。

 

冬になると、セーターを着た女と面したとき、目のやり場に困る。

たとえ胸が小さくても、細さを確認せずにいられない。

そこで視線をさりげなく首から上へ誘導する柄がエレガント。

 

 

 

 

5話では、中2の引きこもり少女「巴絵」を助ける。

なにかに取り憑かれているらしい。

 

 

 

 

仲谷鳰『やがて君になる』は、女らしい体の線を隠しつつ強調する、

ボレロのシルエットの機微を捉えた作品だった。

本作はピンチの場面でこよみが身をひねらせ、絶妙な角度を見出す。

闘牛士よりセクシー。

 

 

 

 

ネタバレなのでくわしく触れないが、こよみが可愛い女子の象徴として、

存在論的に再定義される神秘に、読者は戦慄するだろう。

 

 

 

 

ちなみに扉絵でのみ浴衣姿を披露。

引き立て役の八神をしたがえながら、デジタル迷彩で夏の闇へ溶けこむ。

灘こよみは、重層的にフェイクな霊的存在となった。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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『サイバー剣士 暁ジュン』第2章 「パワーグローブ」

登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む








 五反田のソープランド「インペリウム」は宮殿風に豪華だが、閑古鳥が鳴いている。水源が汚染された翌日に、泡姫と戯れる物好きはいない。

 自動ドアが開き、コートに両手をいれた暁ジュンがあらわれる。蝶ネクタイをしたボーイは目を丸くする。客ではないし、面接希望者にしては若すぎる。

 ジュンが尋ねる。「暁新八って客がいませんか」

「はあ、どう言った御関係で」

「孫です」

 通された個室で、薄い生地のワンピースを来たソープ嬢三人に囲まれ、祖父の新八が寿司を食べている。日本酒の瓶が散らばる。

 新八は六十九歳にしては百七十五センチと長身だが、痩せている。白い髪は短く刈られ、顔に深い皺が刻まれる。長い年月、厳しい稽古で体を痛めつけた人間の顔だ。洒落たアーガイル柄のセーターを着ている。

「よくここがわかったな」

「じいちゃんの家にあったチラシで覚えてた」

 ソープ嬢たちが騒ぐ。「しんぱっちゃんのお孫さん? かわいい! 年はいくつ?」

「十四歳。中三です」ジュンが答える。

「わかーい! 大人になったらウチで働かない?」

「それもいいかもしれないッスね」

 ジュンは無愛想に言う。体を売ってるからと軽蔑はしないが、特に親近感は覚えない。

 三十万円入った銀行の封筒を渡す。昨晩母に相談したら激怒され、やむなく自分のお年玉を預けた口座からほぼ全額引き落とした。

「すぐ返してね。あとお酒は止めなよ。また倒れるよ」

「悪いが当分返せそうにない」

「目白のマンションの家賃があるでしょ」

「あれは売った」

「え、道場も手放したの」

「仕方ないだろう。お前が継ぐには早いし」

「じいちゃん、なにやってんだよ。言いたかないけど、それあたしの貯金だよ。ママは超怒ってるし、スミレだって心配してる」

「用が済んだら帰れ」

「ひどい態度だな。人をこんなところに呼びつけておいて」

「いや、呼んでないが」

 三人のソープ嬢は「こんなところ」とゆう発言に顔を曇らせる。新八は手を振って彼女たちを下がらせた。

 鼻をふくらませたジュンが浴槽の縁に腰を下ろす。湯は張られてない。

「うちに変なロボットが来たよ。じいちゃんも知ってるんでしょ」

「そうか、あれが来たか。『虚実隊』について何か言っていたか」

「キョジツタイ?」

「聞いてないならいい」

「あたしはじいちゃんの一番弟子だ。師匠が困ってるなら助太刀する」

「孫娘に頼るほど、俺は老いぼれてない」

 ジュンは俯いてコートのポケットをまさぐる。ジャラジャラと金属音がする。薄い唇が震えている。

「じいちゃんがいなくなったら、あたしは誰に剣術を教わればいいんだよ」

 新八は長い息をつく。刀を持ち運ぶゴルフバッグから、光沢のある銀色の手袋を取り出し、ジュンに放り投げる。

「もしもの時のために、これを貸してやる。お前なら使いこなせるだろう」

「左しかないよ」

「手首の部分に、いつもいじってる機械を嵌めるんだ」

「アイフォンのこと? あ、ぴったり」

 自動的に「Zambyo」とゆうアプリがインストールされ、起動する。手袋の中の指を動かすと画面のグラフが連動。あたらしいオモチャにジュンの顔は綻んだ。

「たのしい」

「お不動さんの真言を覚えてるか」

「正月に一緒に新勝寺へ行ったじゃん」

「真言を唱えながら九字を切ると操作できる」

「なにそれ、かっこいい! 帰命す、普遍の諸金剛に。暴悪大忿怒者よ、破壊せよ……」

「あっ、待て」

 ジュンがすばやく「臨兵闘者皆陣烈在前」の印契を結んだ途端、浴室の照明と暖房が切れた。

 新八は闇の中でジュンの頭を殴る。

「まったくお前と言うやつは。すこしは考えろ!」

「痛えな、なんで叩くんだよ」

「ここいら一帯が停電になったろうが。それを返せ」

「うるせえ」

 ふたりが取っ組み合うあいだに電力は恢復。

 ジュンがアイフォンの画面を見ると、品川区近辺の地図が表示されている。

「ひょっとして」ジュンが言う。「この手袋が停電を起こしたわけ? 変電所にハッキングするとかして」

「さっきからそう言ってるだろう」

「すげえ! どこで手に入れたの」

「俺が四年ほどアメリカに住んでたのは知ってるな」

「うん。あたしが生まれる前だよね」

「当時の弟子がコンピュータの専門家で、その後もちょくちょく会って協力してたんだ。最近癌で死んでしまったが」

「意外。じいちゃんはガラケーすら持ってないのに」

 新八はマットに寝転がり肩をすくめる。ジュンはくすっと笑う。飲む打つ買うの悪癖で、二年前に亡くなった妻を泣かせてばかりいた遊び人だが、愛嬌があって我が祖父ながら可愛いと思う。

 やかましい足音がドア越しに響いた。

 新八と同年代の小太りの男が、二人の若者を連れて浴室に入る。ヤクザだった。




「しんぱっちゃん」親分が言う。「どうも良くない筋と揉めてるらしいな」

 新八は寝たまま答える。

「お前に迷惑はかけない。しばらく匿ってくれりゃいい」

「サツも相当力入れて探ってるぜ。こうゆうことは先に言ってくれねえと」

「なんだ、追い出そうってのか」

「わかってくれよ。昔とは違うんだ」

「そんな恩知らずでよく極道がつとまるな」

 ダボダボの服を着た若い衆が割って入る。

「おいジジイ! 親父にナメた口きいてんじゃねえぞ」

 浴槽に腰掛けているジュンが呟く。

「うるせえな」

「んだとコラ」

 若い衆はフードをつかみジュンを立たせる。ジュンは薄笑いを浮かべるだけ。苛ついた若い衆は衝動的に殴りつける。

 ジュンは頬をさすり、口腔内に異常がないか確かめる。笑みを浮かべたまま。

 若い衆は酒瓶を割って兇器にする。

「クソガキ、殺す」

 寝転がってそれを眺める新八は、わざとらしくあくびする。

「バカヤロウ」親分が言う。「嬢ちゃんが怖がってるじゃねえか」

 若い衆が答える。「でも親父」

「俺に任せとけ。しんぱっちゃん、事務所まで来てくれるか。話をつけよう」

 ジュンが鼻で笑うのを、三人のヤクザは聞かない振りした。女子中学生に叩きのめされては、おまんまの食い上げになると計算して。

 起き上がった新八にジュンが尋ねる。

「あたしはどうすればいい」

「今回の騒動は俺ひとりで落とし前をつける。警察が接触してきても無視しろ」

「日曜に警察で稽古があるんだけど」

「いかないでいい」

「いくよ」

「なぜ」

 ジュンは前髪をいじる。

「だって好きな人がいるんだもん」

「勝手にしろ。雪風流の看板はお前のものだ」




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

柳原満月『軍神ちゃんとよばないで』2巻

 

 

軍神ちゃんとよばないで

 

作者:柳原満月

掲載誌:『まんがタイムファミリー』『まんがホーム』(芳文社)2013年-

単行本:まんがタイムコミックス

ためし読み/1巻の記事

 

 

 

もし上杉謙信がうざかわニートだったら、とゆう戦国4コマは、

『まんがホーム』への出張を挟みこんで、9か月で第2巻が出陣。

 

 

 

 

表紙を見てもわかる様に、2巻のテーマは「お尻」だ。

やわらかでハリのある膨らみに触れたら、荒馬だっておとなしくなる。

 

 

 

 

2巻のストーリーは、兄妹が争うお家騒動。

グータラでブラコンな少女が、支配権を確立してゆく。

 

 

 

 

ニート設定と史実とのあいだの齟齬が、無視できないほど大きくなる。

さすがに引きこもりに戦国武将はつとまらないが、

虎千代ちゃんは一向に覚醒せず、いまいち感情移入できない。

 

 

 

 

そこで、あらたな女子である。

他家へ嫁いだ姉、仙洞院・綾御前が登場。

妹の美尻に巨乳で張りあう。

 

 

 

 

性格はドSで、幼い虎千代を散々いたぶっていた。

倒錯的とも言える姉妹の関係は、

ぐっちょんぐっちょんのエロも得意な作者ならでは。

 

 

 

 

いよいよ武田家の軍師・山本勘助も計略をしかけてきた。

綾御前が高飛車系ドSなら、こちらはひねくれ系ドS。

眼帯もかわいい。

 

まさに群雄割拠、お尻以外も見どころ満載だ。






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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ:   萌え4コマ 

ウルリケ・ヘルマン『資本の世界史』

『ハロー!! きんいろモザイク』(テレビアニメ/2015年)OP

 

 

資本の世界史 資本主義はなぜ危機に陥ってばかりいるのか

 

著者:ウルリケ・ヘルマン

訳者:猪股和夫

発行:太田出版 2015年

原書発行:2013年

 

 

 

なぜあれほど豊かだった中国やローマでなく、

1760年以降のイングランドで資本主義が勃興したのか。

答は、「労働者の賃金がほかの地域の2倍だったから」。

雇用者は、人間を機械で代用して利益をあげようとする。

結果として爆発的に生産性が高まった。

また、下層階級が食料品以外のものを買うのも可能だった。

 

トマ・ピケティ『21世紀の資本』が流行したせいか、

「資本主義=不平等」的な忌まわしいイメージがつきまとっているが、

平等指向が資本主義本来の姿とも言える。

 

 

『干物妹!うまるちゃん』(テレビアニメ/2015年)

 

 

資本主義の脆弱性は、金融危機が相次ぐ19世紀にはやくも判明した。

国家による援助があってはじめて、資本主義は成功できる。

特に金融市場は、買い支えや調整措置など、国家の介入がないと存続不可能。

 

競争的な市場経済なんて、自営業者のあいだにしか存在しない。

大企業が「競争」を口にするのは、それが宗教原理だから。

 

 

『楽園追放 -Expelled from Paradise-』(日本映画/2014年)

 

 

ドイツの経済ジャーナリストがものした本書は、

資本主義とゆうピースを大きな歴史のなかにピッタリと嵌め込み、

現在と未来について読者に絵解きしてくれる。

 

たとえば現代のグローバリゼーションの年齢は160歳で、ちっとも新しくない。

科学技術は、インターネットでさえ、資本主義のルールを一切変えなかった。

通信が高速化しただけで、送り手と受け手の構造はおなじ。

 

世界でも指折りの豊かな工業国であるイタリアを、ユーロ危機にかこつけ、

まるで貧しい発展途上国であるかの様に語るのは笑止千万。

発券銀行に国債をどしどし買わせるべし。

アイルランドの成功例が参考になるだろう。






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テーマ : 政治・経済・時事問題
ジャンル : 政治・経済

川床たろ『オンナノコガレ!』

 

 

オンナノコガレ!

 

作者:川床たろ

掲載誌:『COMIC it』(KADOKAWA)2015年-

単行本:it COMICS

[ためし読みはこちら

 

 

 

17歳になるまで、近所の床屋で切っていた野球少女「碓氷塁(うすい るい)」。

人に紹介されてはじめて美容院へ行ったら、

オネエ系の美容師が、ほわほわでキラキラな髪型にしてくれた。

 

 

 

 

髪型を褒められるのが、こんなに嬉しいものだなんて。

たとえ女子力ゼロでも、女子は一夜で女子になる。

 

 

 

 

ただし一朝一夕でオトナの女にはなれない。

ビューラーなんてどう見ても兇器だし。

 

 

 

 

メイクと肌の手入れをおぼえた次の科目は、もちろんお洋服。

美容師の「シノブさん」に連れられショッピングモールへ。

手当たり次第に試着しまくる、華麗なファッションショーのはじまり。

 

べつに男にモテたいとか目立ちたいとかではなく、

女の子の「自己解放」の過程としてのファッション。

百合漫画の古典、森永みるく『GIRL FRIENDS』を髣髴させる。

 

 

 

 

水を得た魚の様にイキイキする塁をみて、すこし切なげなシノブさん。

一生の仕事にするほど女子のファッションが好きなのに、自分は着れない。

「女子であること」が特権なのを塁は理解してゆく。

 

店舗特典での映画ポスターからの引用などを見るに、

これが初単行本の川床たろは、引き出しの多い雑食系の作家らしい。

 

 

 

 

親友の「ゆき」は、塁と正反対のオシャレ女子。

シャツワンピ一枚で、変幻自在のコーデを披露する。

友達の着こなしを見ると、勉強になるだけじゃなく、すごく楽しいと気づく塁。

 

 

 

 

教えあい、学びあい、競いあい、助けあい、高めあう。

そこに女子がふたりいれば、かわいさの魔法で世界がきらめく。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合 

『サイバー剣士 暁ジュン』第1章 「突発」

登場人物・あらすじ


全篇を縦書きで読む








 オリーブ色のモッズコートを着た暁ジュンが、高田馬場にある自宅の門を開く。コートの下は、中学校の紺のセーラー服と黒タイツ。

 馬の様に寸胴な四足歩行ロボットが、玄関へつづく敷石を塞いでいた。ロボットは滑らかな動作で立ち上がり、平坦な口調で言う。

「暁ジュン、君に話がある」

「あたしにはないけど」

 ジュンは背負っているギターケースに右手をのばす。日本刀を忍ばせている。

 ロボットの前面のカメラが傾き、ジュンの手の動きを追う。頭部は赤く塗装されている。

「私は」ロボットが言う。「戦闘支援システム『ZB2』だ。アメリカ海兵隊で試験運用されている。怪しいものではない」

「さてはじいちゃんのイタズラか」

「私の開発コードが『ザンビョウ』だったと言えば信じてもらえるか」

 ジュンの大きな目が見開かれる。それは古武術「雪風流」の奥義の名だった。知っているのは第十一代宗家の自分と、先代の祖父だけ。道端で口にするのは許されない言葉だ。

 ジュンは二月の寒空の下で震え、両手をコートのポケットに突っこんで言う。

「本当にロボットがしゃべってるの」

「人工知能がロボットにしゃべらせている」

「じいちゃんとは知り合い? 正月に『しばらく奥多摩へ行く』と言ったきり、連絡取れないんだ」

「暁新八からメッセージを預かった」

「家の中で聞くよ」

 ジュンは、母親と二人暮らしの二階建ての白い家に顎をしゃくる。




 四足歩行ロボットは、窓から板張りの床のリビングへ入った。ジュンが敷いたタオルで足を拭く。

「器用だね」ジュンが言う。

「アフガニスタンの山でも登れる。ところでジュン、よければ充電したいのだが」

「これをプリウス用のコンセントに挿せばいい?」

「そうだ。ありがとう」

 ジュンは台所で、浄水器つきの蛇口からコップに水を注ぐ。美容院とネイルサロンを経営する母は忙しく、不在のときが多い。お掃除ロボットのルンバが床を横切る。

 ソファに沈み、足を組んだジュンが尋ねる。

「で、メッセージってなに」

「新八は君に金銭的援助を求めている。彼は犯罪に巻き込まれ、警察に追われている」

「電話すりゃいいでしょ」

「詳しく言えないが、きわめて重大な事件なのだ。警察に傍受される恐れがある」

「だからと言って、あんたを送るとはねえ」

 ジュンは溜息をつき、コップの水を飲む。

 あまりに胡散臭い。祖父の身は心配だが、突然あらわれたロボットを信用するのは無理だ。そもそも放浪癖のある祖父が、ふらっと行方をくらますのは珍しくない。

 一一〇番しよう。変な機械を引き取ってくれと。

「いま新情報を受信した」ロボットが言う。「テレビのニュースをつけてくれ」

 ジュンがリモコンを操作すると、薄明に浮かぶ巨大なダムで、タンクローリーから液体が注がれる映像が流れる。

 きょう未明、武装した集団が奥多摩の小河内ダムを襲撃、警備員を拘束した上で、推定十六キロリットルの炭疽菌を水源へ投入。さらに「チャリオット」と名乗る組織が、ユーチューブに犯行声明をアップロードした。

「うっ」

 ジュンが白い喉を押さえる。コップ一杯分を飲み干した。腸炭疽症の致死率は高い。

「一日で」ロボットが言う。「水はここまで届かない。それに水源への攻撃なら浄化可能だ」

 青ざめたジュンは口に指を突っこむが、焦ってうまく吐き出せない。

「やれやれ」ロボットは続ける。「生物兵器に関する米軍の知識を信頼してほしいものだ」

 ジュンはロボットのカメラを睨んで言う。

「人の心はそう単純じゃないんだよ」

 深呼吸したジュンは、アイフォンで犯行声明の動画を再生。目出し帽をかぶる迷彩服の一団が、薄暗い部屋で演説している。

 東京の民よ。退廃した都市の奴隷たちよ。これは「デス作戦」である。死は平等だと知れ。

 われわれはまず東京の物質面を破壊した。つづいて精神面・経済面の順に作戦を遂行し、この都市を根底から改造する。

 東京の民よ、汝は我らを恐れるべし。

「戦車と死神」ジュンが呟く。「タロットカードから取った名前かな。中二病なセンスだ」

「立ち直りが早いな」

「おかげさまで。たしかにじいちゃんは、この事件に巻き込まれたっぽい。奥多摩へ行くと先月言ってた」

「新八は、『例の場所』で君を待つとのことだ」

「へえ」

 テレビは生中継で、鏑木治三郎・東京都知事の記者会見を映す。知事はいかめしい顔つきで、都民に理性的な対応を求めた。

 ジュンが言う。「次は精神面への攻撃か。気味悪いなあ」

「ジュン、一つ頼みがある」

「なに」

「私を家に置いてくれないか。電気は不味いが、静かで広々として気にいった」

「ママになんて言うんだよ。絶対怒られる」

「私が説得しよう。根拠地を提供する見返りに、先端技術で君の行動を支援する」

「強引なやつ。ま、考えとくよ」

 ロボットのカメラを保護する枠を、ジュンはよしよしと撫でた。




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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

登場人物とあらすじ

登場人物

 

暁ジュン(14歳)

女子校に通う中学生だが、古武術「雪風流」第11代宗家を務める。

警視庁で月に一回剣術指南をおこなっている。

性格は気まぐれで、怒ると手がつけられなくなるタイプ。

 

暁新八(69歳)

ジュンの祖父であり剣術の師匠だが、すでに引退している。

テロ事件に何らかの形で関与し、警察に追われているらしい。

飲む打つ買うの悪癖を止められない遊び人。

 

赤兎馬

米軍が試験運用中の四足歩行ロボット。

高度な人工知能を搭載しており、ジュンと行動を共にする。

新八が開発にかかわったらしい。

 

鏑木上総(25歳)

警察官で、階級は巡査部長。東京大学文学部仏文科卒。

警視庁公安部サイバー犯罪対策班、通称「虚実隊」に所属する。

ヒョロヒョロしたイケメンで、ジュンに好意を寄せられている。

父は東京都知事の鏑木治三郎。

 

山下忠道(46歳)

通称「ボス」。警察官で、階級は警視。虚実隊の隊長を務める。

オウム真理教を壊滅させるなど、公安警察の伝説的存在。剣道八段。

 

山下政信(38歳)

通称「チーフ」。警察官で、階級は警部補。虚実隊の副隊長。

忠道の実弟。粗暴な性格で、ジュンとは犬猿の仲。

 

諸星菫(12歳)

ジュンのいとこで、同じ姫百合学園へ通う。渾名は「神童」。

世話好きな性格で、交友関係が広い。






あらすじ

 

突然あらわれた四足歩行ロボットが、祖父の失踪を告げる。

聞くところによると、東京の大改造をもくろむテロ組織「チャリオット」に、

祖父が何らかの形で関わっており、警察に追われているらしい。

14歳の女子中学生・暁ジュンは、都内各所を駆け巡り、

得意の古武術と、サイバー戦能力で奮闘しながら、陰謀を阻止しようとする。

しかし、片思いの相手である25歳の公安警察官・カズサまでが、

テロリズムの舞台裏で蠢いていることを知り……。

破天荒な少女剣士が、テクノロジーを駆使して闘うサイバーチャンバラ。



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テーマ : オリジナル小説
ジャンル : 小説・文学

猪熊しのぶ『初めてのあの日、ぼくらは』

 

 

初めてのあの日、ぼくらは

 

作者:猪熊しのぶ

掲載誌:『コミックヘヴン』(日本文芸社)2015年-

単行本:ニチブン・コミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

新宿駅東口にあらわれた「卜部千早」が注目の的となる理由は、

可憐なルックスだけでなく、オリンピック出場が確実な陸上選手だから。

 

 

 

 

オムニバス形式の恋愛漫画である本作は、

『SALAD DAYS』(1997-2001年)の「10年代版」と位置づけられる。

ヒロインの目を大きく、等身を低くして絵柄はアップデート。

ツイッターでの引退宣言が転機となるなど、今日的な小道具をもちいたり。

 

 

 

 

週刊少年サンデーでは不可能だったセックスもえがく。

漫画のたのしみがギュウギュウに詰まっている。

 

 

 

 

4話「とりかえばや!」が白眉だ。

向かいの家に住む夫婦は、おなじ顔をしている。

双子同士で結婚したから。

 

 

 

 

両家の子供は「いとこ」の関係だが、おなじ遺伝子を受け継ぐためソックリ。

実質的な二卵性双生児だ。

 

ありふれた朝の日常をえがく3ページが、こんなにシュールな光景に。

ベテラン作家ならではの語り口のうまさ。

 

 

 

 

いとこのトシの心が離れてゆくのを嘆き、鏡にキスする都子。

戯れに「入れ替わり」を試したばっかりに。

TSものや近親相姦ものといった流行のテーマを、作者は意の侭にしている。

 

 

 

 

たとえばホムンクルス『レンアイサンプル』を読むと、

完璧な画力と練り上げられたストーリーに脱帽するが、

この「双子」が睦み合うシーンのうつくしさに比べると、まだ青臭い。

 

「SALAD DAYS」を通過し、酸いも甘いも噛み分けた作家だけが表現できる、

言うなれば「DESSERT DAYS」が本作なのだろう。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

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あずま京太郎/日向寺明徳『サクラブリゲイド』4巻 クロースアップ

 

 

サクラブリゲイド

 

作画:あずま京太郎

原作:日向寺明徳

掲載誌:『月刊少年シリウス』(講談社)2014年-

単行本:シリウスKC

ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/3巻

 

 

 

本作は「巨大ロボットもの」なる、ファンに不平屋が多い非生産的ジャンルで、

単行本4巻を重ねるなど独自の地位を築いた。

 

「女の子がかわいい」とゆう飛び道具のおかげである。

この場面は、背中の傷の下に埋め込まれた「セカンドナーヴ・システム」の検査。

月経と、ロボット操縦の関係についても語られる。

女子をいっぱい出すための、取ってつけた様な設定が既成事実化してゆく。

 

 

 

 

前巻であずま京太郎は、ロボットバトルに官能性をもちこむのに成功。

つづく4巻の視覚的テーマは「アップ」だ。

一瞬の表情を切り取り、ラブコメ気分に点火する。

梓のバストショットが彩る表紙もすばらしい。

 

 

 

 

上陸許可をもらい、バイクと車にわかれてお出かけ。

二人乗りする桜と梓をみつめる雛の横顔にハッとする。

幼くて天真爛漫で、色恋と縁のない性格に変化が生じた。

風になびく、いわゆるアホ毛もいい。

漫画的リアリティの最上の部分がここにある。

 

 

 

 

アメリカ海兵隊のパイロット、「リリアナ・アスキス少尉」と遭遇。

星条旗を連想させるストライプのニーソックス。

メカニックデザインの弱さを、女子のデザインでおぎなう。

お尻へのこだわりも増強されている。

 

 

 

 

本作は「敵」がはっきりしなかったが、

リリアナ少尉は主要キャラクターなみの存在感をしめしだした。

キーワードは百合である。

バスケ対決のあとの心の通い合いがうつくしい。

 

 

 

 

戦闘描写もアップで迫る。

二度目となる海兵隊との対戦で、ついに敵も人型ロボットを導入。

 

 

 

 

リリアナのドリルが、雛が操縦する「改人」の装甲を穿つ。

メカの硬さと重量感と、女子のやわらかさと可憐さがクロースアップされる。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合 

北野武/ミシェル・テマン『Kitano par Kitano』

兄の大と

 

 

Kitano par Kitano 北野武による「たけし」

 

著者:北野武 ミシェル・テマン

発行:早川書房 2012年

レーベル:ハヤカワ・ノンフィクション文庫

 

 

 

黒澤明は文学と絵画、手塚治虫は医学と生物学、宮﨑駿はミリタリー、村上春樹は音楽。

かならず偉大な作家は、本業と直接関係ない素養をもっている。

北野武の場合、それは数学だ。

 

俺にとっての勉強と言えば、科学と数学だったね。

その他の科目はどうでもよかったの。

本なんか読まなかったしね。

小説だの漫画だのは、うちでは禁止されてたから。

 

生家は貧しかったが、母さきが伝説的な教育ママで、

次男の大は東大を出て教授になったほどだが、

末っ子の武の理系指向も母親の影響が大きい様だ。

 

本書はフランス人ジャーナリストによるインタビュー。

戦後の小学校教育で九九の暗記に力をいれたのは、

当時の日本にソロバンがなかったから、などの発言も勉強になる。

 

 

『華氏911』(アメリカ映画/2004年)

 

 

1965年、明治大学工学部へ入学。

北野はいわゆる団塊の世代だが、マルクス主義にかぶれなかった。

レーニンなど一冊も読んでない。

ベルイマンの『処女の泉』が、タイトルからエロティックな作品を期待して見たら、

やたら難解な映画でだまされたなど、非文学青年的エピソードが満載だ。

 

世界の政治は重要で複雑だから、映画にとりこむのは危険だと、

マイケル・ムーアの『華氏911』を批判するくだりも、作家性があらわれている。

 

 

『その男、凶暴につき』(日本映画/1989年)

 

 

1989年、深作欣二の降板をうけて『その男、凶暴につき』を監督。

 

目の前にある技術の機械とか道具とか、全部、

自分の思いどおりに操れるようになりたいって思った。

こうやって、『その男、凶暴につき』を撮りながら、

被写体深度とか光の作用、演出の複雑さなんかを発見してったわけ。

 

映画演出の世界にすぐ適応できたのは、工学部出身なのが役立ったろう。

竹内薫との共著『コマ大数学科特別集中講座』でも、

因数分解をつかってシーンの長さを決めるなどの秘訣を明かしている。

 

映画を撮るのは、まずは自分が楽しむため。

日曜大工に熱中するような感じかな。

ひとつひとつの作品を、俺はおもちゃとかオブジェみたいに考えてるの。

 

映画製作は「共同作業」の典型だと僕はおもっていたが、

北野にとっては「ひとり遊び」なのだった。

 

 

『座頭市』(日本映画/2003年)

 

 

勝新太郎が演じた『座頭市』はビデオで何本か見ただけ。

東映ヤクザ映画世代の北野には古臭く感じられるのだろう。

 

俺の『座頭市』にはカンフーも、タイ式のボクシングも、中国のボクシングもない。

とにかく俺の感じるまま、自己流でいきたかったから。

だから、ありきたりの斬り合いのシーンはないよ。

ほとんどの殺陣のシーンは、俺が想像、考案したとおりになってる。

 

北野映画のアクションは、若いころ習ったボクシングが基盤。

「パンパン!」とワンツーパンチでノックアウトする場面が多い。

剣戟ですらワンツーを決めるのだから、彼がいかに原理に忠実であるか!

 

 

映画『TAKESHIS'』より

 

 

フランスは死刑を廃止した国でもあるよね。

俺、死刑には反対だよ。

 

ノンポリの数学オタクであるがゆえ到達した思想。

教養だけが個性を生む。






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テーマ : 芸能一般
ジャンル : アイドル・芸能

伊藤いづも『まちカドまぞく』

 

まちカドまぞく

 

作者:伊藤いづも

掲載誌:『まんがタイムきららキャラット』(芳文社)2014年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

15歳の「吉田優子」が悪夢から覚めると、ツノと尻尾が生えていた。

なにごともなかった様に登校するが、友人に指摘される。

やっぱりみんな気にするんだ。

 

 

 

 

頭が重くなったため、転んでトラックに轢かれそうに。

突如あらわれた魔法少女が左手一本でとめる。

6年前に世界を救ったとゆう噂の「千代田桃」は、おなじ高校へ通っていた。

 

 

 

 

ツノの生えた「シャドウミストレス優子」、通称「シャミ子」は闇の一族の末裔で、

数千年の長きにわたり、光の一族との戦いをくりひろげてきた。

桃は命の恩人だが、彼女が魔法少女である以上、斃さねばならない。

しかしスペックの違いを痛感し、とりあえず最終決戦は延期。

 

 

 

 

すべての元兇である御先祖様と対面。

子孫を叱る姿はおそろしいが、炭酸飲料が飲めないなどの弱点も。

カエルの先祖はカエルだった。

 

 

 

 

「かわいい魔族vs魔法少女」の本筋だけでもキャッチーだが、

そこに祖先崇拝をからめ「家族の物語」としても仕立てる。

一族にかけられた呪いのせいで、4人家族は月4万円で生活している。

娘を支援しようと、母は趣味の懸賞応募をやめると決意。

 

お母さんがカワイイ漫画に駄作なし。

 

 

 

 

家計の助けになればとアルバイトをはじめる。

初給料で妹の「良子」にプレゼントを贈ろうとするが、

遠慮ぶかい妹が希望するのは、姉の戦いに役立ちそうなグッズばかり。

兵法書に孫子でなく六韜三略を選ぶのが渋い。

 

 

 

 

本当に欲しいのはUSBトイカメラだった。

税込2138円を奮発した姉の優しさに涙をこぼす。

無理してるのは尻尾の萎れ具合でわかるから。

 

絵もセリフもやや情報量が過剰な漫画だが、すくなくともこの場面は、

魔族としてのギミックと家族愛が融合しており秀逸。

妹がカワイイ漫画に駄作なし!






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テーマ : 4コマ漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ:   萌え4コマ  きらら系コミック  百合 

守月史貴『神さまの怨結び』2巻 アンチヒロイン・江西知霧

 

 

神さまの怨結び

 

作者:守月史貴

掲載誌:『チャンピオンREDいちご』『チャンピオンRED』(秋田書店)2014年-

単行本:チャンピオンREDコミックス

ためし読み/1巻と『捻じ曲げファクター』の記事

 

 

 

8話に登場する「江西知霧(えにし ちぎり)」である。

縁を、契る。

ひとことで形容すると、ギャルっぽい。

不幸な少女がさらに堕ちてゆく顛末を、読み切り形式でえがく本作において、

ツリ目で性格のキツい知霧は、1話の「櫻」に匹敵する印象的なキャラ。

 

 

 

 

一見遊んでる風だけど、大の男嫌い。

カラオケで騙され、酔い潰れたところをイタズラされる。

 

前にも書いたが、守月史貴による女体、特に胸は杏仁豆腐を連想させる。

白くて水分たっぷり、ぷるぷるふにゃふにゃで、口にふくめば甘そう。

デッサンの狂いすら美点に感じられる特異な画風。

 

 

 

 

虐げられ、辱められ、汚されても、知霧は復讐心を圧し殺して生きる。

それが「シューダン生活」ってヤツだから。

 

一瞬の殺意のあとの空疎な笑顔。

ピアスのエレガンス。

漫画のトリックをつかいこなす。

 

 

 

 

彼女の素行が不良のそれに近いのは、家に帰りたくないから。

母の交際相手と顔をあわせる虞れがある。

 

 

 

 

ここで本作のギミックである「怨結び」が発動。

セックスにより憎い相手を消し去る。

穢らわしい体液しか残さずに。

「死の本能」を説いたフロイト『快感原則の彼岸』のコミカライズだ。

 

 

 

 

知霧は、「怨結び」のルールを超越したモンスターへ変異してゆく。

 

伝統社会では男が権力を握っていたから、

神話は男の観点から語られていると思ったほうがよい。

神話の女性とは男の観念のなかの女性である。

この結果、女性は美しい至上のものとしてか、

あるいは忌むべき恐ろしい存在という両極端に分化して語られる。

 

『世界神話辞典』 松村一男「女性」

 

良くも悪くも神話的なヒロインが誕生した。

 

 

 

 

掲載誌『チャンピオンREDいちご』休刊をのりこえて復活した本作は、

次巻予告によると、暴走する知霧と、刑事となった櫻の相剋を描くらしい。

 

正直僕は守月をナメていた。

お色気しか能のない作家のひとりに数えていた。

これほど壮大な叙事詩をものすなんて想定外だ。






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テーマ : 漫画
ジャンル : アニメ・コミック

佐々木ミノル『中卒労働者から始める高校生活』5巻 陰影

 

 

中卒労働者から始める高校生活

 

作者:佐々木ミノル

掲載誌:『コミックヘヴン』(日本文芸社)2012年-

単行本:ニチブンコミックス

ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/3巻/4巻

 

 

 

1巻は6刷、2巻は4刷、3巻は3刷!

ここまで具体的に増刷回数を誇る単行本帯はめづらしい。

『中卒』を無視して10年代の漫画は語れない、と言える存在感。

 

 

 

 

前巻からつづく文化祭が終了、たのしい打ち上げがはじまる。

通信制高校だからお酒を飲む者もいて、宴はたけなわに。

若葉と真実のあいだの焼けぼっくいに火がついたり。

 

 

 

 

子持ちの若葉は本作ならではのJKで、作者の感情も乗っている。

いい感じになったのに突き放す心理をありのまま描く。

母としての倫理、マコトの恋人への遠慮、軽く見られたくない自尊心……。

複雑だ。

 

 

 

 

未成年の莉央も飲んでいた。

予想にたがわず酒に弱く、より一層めんどくさい女に。

「好きって言え」「あれはノーカウント」「私の気持ちは態度から察しろ」

 

 

 

 

アルコールは彼女を素直にもさせた。

「いったよ」じゃなくて「ゆったよ」なのが可愛い。

 

 

 

 

だが本作は、青春の光より影を強調。

2巻でおきた事件について母に謝罪されるが、

娘は冷たい視線を投げるだけで、一言も発しない。

 

肉親に対しあんまりな態度ではあるが、

思春期の娘が一度閉ざした心をふたたび開くのは稀で、リアルだ。

 

 

 

 

ついにマコトの父が登場。

くわしく語られないので想像すると、罪を犯し収監されていたが、

出所から2年経ってひょっこり顔を出した様だ。

妹を養うため辛酸を嘗めている息子の職場へ。

 

 

 

 

片桐父子の再会は、陰影に富む名場面となった。

 

浮き沈みを丁寧に追う心理描写が本作の特徴だが、

おそらく真実と真彩の父は、生まれつき他者への共感能力をもたない。

兄妹の心などなんの自覚もなく踏みにじる。

でも若者の人生なんて、そんなものかもしれない。






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