かんの糖子『秘すれば』
秘すれば
作者:かんの糖子
掲載誌:『別冊ヤングチャンピオン』(秋田書店)2014年-
単行本:ヤングチャンピオン・コミックス
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美貌の姉「朱音」が、SM行為に耽るのを偶然に目撃。
姉弟のあいだの隠微な秘密を、一枚づつ剥がしてゆく物語だ。
朱音は幼稚園教諭。
美人だが恋愛経験がないため、同僚から強引に合コンに誘われ、
そこで知り合った男に求められ、倒錯の世界へ足をふみいれた。
でもいまだ処女のまま。
事情を知った弟が、姉をオトナにするレッスンをはじめる。
朱音のカラダは刺激物質でも分泌するのか、変態を呼び寄せてしまう。
高校生のときから毎日の様に痴漢にあっていた。
被害を減らしたくて地味なパンツルックで通勤するが、
うなじや胸やくびれや尻やふくらはぎの猥褻さは隠せない。
弟「青蒔(せいじ)」も、朱音のうつくしさに狂わされたひとり。
幼いころ姉のおもらしを見て以来、弱みを握って優位に立つ。
本当は、誘惑されてたのかもしれないが。
幼稚園の同僚「マイマイ」が酔っぱらって、姉弟の家に泊まりに来た。
朱音が寝ている隣でイタズラする。
翌朝、マイマイは夜になにがあったか覚えてないと言う。
酒がはいると淫乱になるタイプらしく、動揺する姿がかわいい。
玄関を出たあと舌をだすけれど。
女には誰だって秘密がある。
だがそれは、本当の秘密とはかぎらない。
墨をながした様な長髪。
黒目がちの瞳。
白磁みたくなめらかな肌。
衣を何枚剥がしても辿りつけない、その女そのものに、
奥の奥まで指をのばしてまさぐる、あまり人に教えたくない傑作。
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芥文絵『妹ができました。』
表題作(2012年)
妹ができました。
作者:芥文絵
発行:新書館 2015年
レーベル:ウィングス・コミックス
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百合作品をあつめた短篇集。
シンプルだが、写実的でもある独特の人物描写。
手の込んだ背景も雰囲気がある。
『卒業の日』(2013年)
どことなく放心状態の、あっけらかんとした面持ちの女の子が、
フォトリアルな背景の前にたたずむと、詩情がうまれる。
ぴんと張りつめた空気のなかで少女らは愛しあう。
『そうして私たちは』(2013年)
ふるびた木造校舎。
小学生にしては落ち着いた色のワンピース。
繊細なタッチで描かれる黒髪。
人形を髣髴させるその少女は中学生となり、よりうつくしく成長。
血のかよう有機体だと證明した。
ちょっかいを出す男の先輩を無視するが、幼なじみにだけ笑顔をみせる。
『私の好きなあの子のこと』(2014年)
女同士の三角関係。
腕組みして笑顔、バッグに両手を添えて笑顔、視線を逸らす。
その答えは?
一対一でさえ女の子はややこしいのに、これはもう解決不能か。
以上の様に、芥文絵は「構図」で語りかける作家だ。
セリフやストーリーより、空気感の方が雄辯。
ちょっと気取ったアート寄りの作品とみなすこともできる。
ただ、少女漫画の主観性を昇華した、ストロングスタイルの百合を魅せることも。
混じりあう吐息の分子が反応し、激情を炸裂させる。
単行本総扉
むくむく盛り上がる雲。
ジャンパースカートの制服。
アイスキャンディ(スイカとソーダ)。
色ちがいの髪留め。
描かれてはないけれど、蝉の声や夏の匂いまで感じられる。
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小説16 「軍神ドロシー」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
遥か眼下に凝灰岩の絶壁が見える。標高684メートル、三河高原の鳳来寺山だ。
セイレーンの翔鶴は竪琴を爪弾きながら、悲しい歌をうたう。失った仲間を悼む様にも聞こえる。ただその声は恐怖を感じさせない。
雲の帳を切り裂き、美声に誘い出された幻獣が二体飛来。グリフォンの「エンタープライズ」と、コカトリスの「ホーネット」だ。両者ともミッドウェーの生き残り。
翔鶴が敵と騒々しい輪舞を踊るところに、妹の瑞鶴と新鋭の大鳳が馳せ参じ、三対二の優位をつくる。神鳥ガルーダである大鳳の体型は人に近いが、鷲の頭と翼を持ち、総身が金色に輝く。
「姉ちゃん、ここはあちきらに任せろ!」
瑞鶴はホーネットの鶏の喉に食らいつき、引きちぎる。大鳳は神聖な剣で、エンタープライズを深々と突き刺す。
情報によれば、この二体を斃せばリバティアの運用可能な飛行ユニットがゼロになる。王手のかかった局面だ。
天皇ヒロヒトは機動部隊の指揮を瑞鶴に委任、自身は主力部隊を率いる。ユニコーンの「榛名」の背に跨り、豊橋平野を疾駆する。無念の死を遂げた、ペガサスの「赤城」の面影を髣髴させるのが、彼女が好意を抱いた理由。
名古屋への道を塞ごうと、豊川に掛かる橋の前で巨人が立ちはだかる。アイアンゴーレムの「サウスダコタ」だ。貧弱なチハ剣でぶ厚い装甲を貫けるのか? それでもヒロヒトは、躊躇せず榛名に鞭を当て加速。母からもらった緋色のリボンで束ねる後ろ髪が揺れる。
抜即斬、一撃で足首を切断。川が溢れるほどの震動をともない、鉄の巨人が倒れた。
耳を聾するサウスダコタの絶叫のなか、異音が微かに聞こえる。音源は真上。馬上のヒロヒトが見上げると、火炎の柱がまっしぐらに落ちてきた。攻撃魔法の「ドーントレス」だ。
どうにか直撃は免れる。
「きゃっ……榛名、どうどう」
和装の天子は手綱をひいて一角獣をなだめる。
爆風で破れた電照菊のビニールハウスに、ドロシー・マッカーサーがいた。黒のワンピースは、日の傾いた田園風景に溶けこむ。赤毛は爛々と、夕陽を照り返しながら燃える。
ドロシーは菊を一輪折り、カチューシャに挟んで髪飾りとした。いちいち芝居がかった動作が、ヒロヒトを苛立たせる。
ミカドは下馬して抜刀。「どうやらドロシーさんを斃さねば、わたしの道は開けない様です」
「陛下はボクを好きになるべきだ」
「なんて自己中なの……」ヒロヒトは舌打ち。「わたしには心に決めた人がいます。あなたより一億倍ステキな人です」
「意味がわからない。そんな人間がこの世にいるわけない。陛下以外に」
ドロシーは緑の電光を放つ槍を下段に構える。真珠湾では懐に飛びこまれ不覚を取った。槍を幾度かクイッと引き寄せ、相手の動きを誘う。
ヒロヒトは中段。微動だにせず。切先だけがゆらゆら上下し、視線を釘づけにする。
焦れたドロシーは、和装の天子の白いふくらはぎを突く。ヒロヒトはそれを刀で受けたまま、滑る様に体を寄せる。火花が散る。また腹部を刺し貫かれるのを恐れ、黒衣の少女は飛び退いた。
「やれやれ」ヒロヒトは屈んで下段に。「あなたは本当に見かけ倒しですね」
「う、うるさい!」
まんまと挑発に乗った強引な突きを刷り上げ、片膝をついた体勢で左手を峰に添え、ヒロヒトは敵の喉を刺した。
「ん、喉仏? まあいいや、これがナデシコの剣術です。大和魂のなんたるかを思い知ったでしょう。おっと、今回は逃がしませんよ」
ヒロヒトは【シュトック】を斬って破壊、テレポート魔法を封じる。
菊畑に仰向けに横たわるドロシーは、裂けた喉からヒューヒューと息を漏らす。血塗れの全身に、黄色い花瓣が貼りつく。リバティア一の美少女の哀れな姿だった。
しかし遠のく意識で、下着に仕込んでいた予備の【シュトック】を起動。目も眩む閃光とともに消えた。愕然とする宿敵を残して。
「そんな……スペアを持ち歩いてるの……」
ナデシコは一個の【シュトック】が国宝扱いだった。予備など考えられない。後継機「一式」の開発も遅れに遅れ、完全に陳腐化したチハ剣でごまかしている。
命懸けの真剣勝負を繰り返しながら。
ヒロヒトは一角獣の榛名を駆り、豊川に設けた拠点に帰投。禿頭の東條英機が、忙しく采配を振るうのを見つけた。
「爺、【マリーネ】の損害状況は? 翔鶴がまた負傷したと聞きます」
「陛下、よく御無事で! 戦果はホーネット死亡、エンタープライズとサウスダコタ重傷。快勝ですが、詳しくは後ほど。まづは治療を」
「かすり傷です。あのコたちを優先して」
体中の生傷が痛むが、乏しいガイスト鉱はできるだけ幻獣に回したい。捨身の努力をする彼女らにしてあげられる、せめてもの助けだから。
「恐縮ながら」東條は有無を言わさぬ表情。「王者にとって、自己犠牲はときに悪なのですよ」
ヒロヒトは治療室へ移る。女性技術士官に破れた着物を脱いで渡し、裸で水槽に浸かった。ガイスト技術で細胞を再生するシリコンプールだ。生温かく、ぬめりのある液体が傷口に染みこむが、まるでマッサージみたく心地よい。
「ああ、極楽……莫大な国費がかかるけど、これは癖になるわ……」
東條が治療室に飛びこむ。「陛下、緊急事態です!」
「きゃあ! 馬鹿者、出て行け!」
「聞いてくだされ。リバティアの【マリーネ】が、飛び石作戦で三浦半島を急襲したのです」
「えっ……東京の目と鼻の先じゃない」
動顛したヒロヒトは水槽で立ち上がる。膨らみはじめた胸や、まばらな恥毛に気づき、東條は慌てて目を伏せる。
「は、母上」ヒロヒトは蒼白に。「妹たちも……みんなの安全は確保できてるの……」
マッカーサー、許すまじ。そして恐るべし。
いますぐテレポーテーションで救援に駆けつけねばならない。失敗すれば自分がまるごと消滅する危険な魔法だ。それをタクシーにでも乗る様に連発するとは!
この戦いは前途が見えない。真っ暗で、生きた心地がしない。
ヒロヒトらが横須賀鎮守府に帰還したとき、半島では交戦が始まっていた。リバティアの飛行ユニットは十五、地上ユニットは七。その生産力は想像を絶する。くわえて早くも、エンタープライズやサウスダコタが復帰。
対するナデシコは飛行ユニット八、地上ユニット五。約半分の劣勢。隔絶した工業力の差で、「絶対国防圏」が突破されかけている。
ハーピーの瑞鶴が喚きながら飛んできた。
「ヒロヒト、姉ちゃんを止めてくれ! 大怪我してるのに出撃するって言い張るんだ」
ドックへ向かうと、翔鶴が力なく海水から這い上がろうとしていた。羽毛が焼け焦げ、肩口の傷から骨が露出。長時間の戦闘に耐えられそうにないが、妹の身を案じてるのだろう。
「翔鶴、気持ちは嬉しいけど、しばらく休んでなさい。瑞鶴はわたしが守ります」
ヒロヒトは嘘をついた。翔鶴の囮戦術は、ユニット数以上の価値がある。たとえ満足に動けなくても、いてくれたらどれほどありがたいか。
聡明な翔鶴は大きな翼で、ヒロヒトを優しく抱きしめる。自分の本意が見抜かれていると知り、和装の天子は泣きじゃくるしかなかった。
三浦半島の海岸は、黒白の縞模様の地層がうつくしい。サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦が、つぎつぎと巨獣を送り出す。グリフォンのエンタープライズらが、航空支援をおこなう。指揮官のスプルーアンス大将は、新式の「エセックス」に騎乗。【マリーネ】としても大型となるスフィンクスだ。
機動部隊を率いる瑞鶴が先手を打った。航続距離の長さを活かし、敵が迎撃態勢を整える前に総掛かりで叩く。彼女が考案した、必殺の「アウトレンジ作戦」だ。
だがスプルーアンスは冷静沈着。目的は上陸作戦の掩護にあると割り切り、防禦に徹する。魔法の矢「ヘルキャット」を乱射し、まるで七面鳥でも狩るかの様にやすやすとナデシコの幻獣を翻弄。
海岸に血の雨を降らしつつ、ガルーダの大鳳、ヒポグリフの飛鷹が絶命した。
ユニコーンの榛名に乗り、地上ユニットを統御するヒロヒトは、上空の仲魔たちが死んでゆくのを絶望の思いで眺めていた。
敵の戦略は大胆だが、戦術は堅実。圧倒的な物量で力押しする一方で、無理をしない。
どうやって勝てと言うのか。
変わり果てた姿の瑞鶴が、窮地から辛うじて生還した。
「姉ちゃんが、まだ海岸にいる……助けてくれ、お願いだ!」
日が落ちて半島は闇に沈む。城ヶ島の岸壁にあいた空洞「馬の背洞門」の方から、か細い歌声が響く。ヒロヒトは一角獣を急き立てる。
翔鶴を引っ張りだそうと、穴に突っこんだアイアンゴーレム「サウスダコタ」の腕を斬った。
「翔鶴、無事なら返事して!」
返ってきたのは、地獄の番犬の唸り声だった。これまた新鋭のケルベロス「アイオワ」。三つの頭を持ち、蛇の形をした尾が牙を剥く。驚異的な嗅覚で敵将の存在を察知したらしい。
「だぁああああ!」
ヒロヒトは空洞を駆け抜け、毒の悪臭を漂わす怪物に突進した。
水平線が明らむころ、スプルーアンスは追撃はもう限界と判断、二十四時間続いた戦闘を終了させた。
馬の背洞門では瑞鶴が、海の果てまで届きそうな声で姉の死を嘆き悲しんでいる。
ヒロヒトは、かけるべき言葉はなにひとつ思い浮かばないが、司令官として慰めにゆく。唯一の家族を失った心痛を、わづかでも和らげたい。
「こっちに来んな!」瑞鶴が泣き叫ぶ。「こうなるのは分かってたくせに……やっぱりお前ら人間は最低だ! 鬼! 悪魔!」
反論しようがない。岩場を洗う波が自分の足袋を濡らすのを、ミカドはただじっと見つめた。
いまのままでは徒に犠牲が増えるばかり。挽回するには特別な作戦が必要だ。なにか、特別な。
エアクッション型揚陸艇から降り、ドロシー・マッカーサーは湘南海岸に厚底ブーツを踏み下ろした。ナデシコ軍の抵抗を退け、平塚あたりを根拠地にする予定。
殊勲をあげたスプルーアンス大将が出迎える。
「喉の傷はすっかり癒えたようですな」
「うん」ドロシーは無表情に答える。「急遽大役を任せて、申し訳なかった」
「いえ、大軍を率いるは武人の本懐。微力を尽くさせていただきました」
「謙遜しなくていい。報告によれば、見事な指揮だったらしいね。あ、カメラ持ってもらえる?」
この閣下も他人を褒めることがあるのかと、スプルーアンスは驚きつつ、4Kビデオカメラで「マッカーサー元帥上陸の瞬間」の撮影をはじめる。
その刹那、カメラが粉々に砕けた。
「スナイパー!」
一同が砂浜に伏せる。ただひとりを除いて。
ドロシーは天を仰ぐ。「いいカメラだったのに……どうしよう……」
「元帥! 敵の狙撃です!」
「知ってるよ。ボクを誰だと思ってるのさ。絶好の場面だから、アイフォンで撮っとくか……海兵、こっちへ来い!」
さらに弾着が。銃声は聞こえない。
「元帥、どこか遮蔽物の陰へ!」
「ちゃんとした構図で写りたいのになあ……」
ドロシーは自撮り棒を装着したアイフォンに向かい、とびきりの笑顔でVサイン。普段のムッツリした様子と対照的。砂まみれの味方も、比較対象として撮影。黒衣の戦乙女は武勲だけでなく、自己宣伝の巧みさで国民の心をつかんでいた。
あれは勇気じゃなく狂気だ。スプルーアンスは必死に這い回りながら思う。あのゴスロリ少女は自己愛が強すぎ、やられる自分を想像できないのだ。
ほどなく、ナデシコの狙撃兵は海兵隊の返り討ちにあった。
銃撃戦に一切関心を示さず、ドロシーはフェイスブックにツイッターにインスタグラム……ありとあらゆるSNSに情報を流す。
スプルーアンスが声を掛ける。「閣下の映像はCGだと疑う者もいますが、ドキュメンタリーだと分かりました。恐怖を感じないのですか?」
「そりゃ怖いよ。でもビーチに寝転がっても状況は変わらないだろう。服も汚れるし」
「怖がる様には見えませんでした」
「マッカーサーは、つねにマッカーサーを演じなきゃいけないのさ。ボクは救国の英雄である完璧美少女なのだから」
スプルーアンスは気が抜けた。この娘は尊敬に値するが、絶対に友人にはならないだろう。
「なるほど、スケールが違う。閣下は次の大統領選に出馬なさるとゆう噂もありますな」
ドロシーは血相を変える。「誰がそんなことを言った。ボクが司令官の任務を放棄して、政界に進出するなどと?」
「いえ、兵どもの他愛ない話でして……」
「二度と口にするな。デマでボクの足を引っ張るやつは軍法会議にかけてやる」
ドロシーの澄み切ったエメラルドの瞳に射抜かれ、スプルーアンスは後ずさる。なんと不器用なのだろう! これほど感情的な反応は、出馬宣言に等しいではないか。
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『姉妹ちがい 米田和佐短編集』
『僕の姉が魔法使いな件』
姉妹ちがい 米田和佐短編集
作者:米田和佐
発行:一迅社 2015年
レーベル:REXコミックス
[ためし読み/過去の記事→『だんちがい』1巻/2巻/3巻/4巻/『えこぱん』]
『だんちがい』テレビアニメ放映中の需要をあてこみ、短篇集が登場。
当ブログも連日の米田和佐祭りとなる。
初出は2010-15年で、目のハイライトを上の方に描き、
内面の強さが表現される様になったとか、画風の変遷を確認できた。
そして勿論、一作だけでは見えない作家の本質も曝け出されている。
『僕の姉が魔法使いな件』は姉弟もの。
パンチラや過剰なスキンシップなどで幻惑する姉の「愛」が、
実は魔法使いではないかと疑う話。
2014年ごろ、作者はケチのつけ様がない描線を手にいれた。
すべすべでふわふわな触感さえ感じさせる。
自由自在かつ安定感抜群。
水しぶきさえ、うつくしい。
これが魔法か。
『僕の姉が魔法使いな件 -amazing-』
生徒会副会長の「恵」は、脳筋暴力キャラ。
作者がどこまで意識してるか知らないが、
愛と恵は『だんちがい』の夢月と弥生そっくり。
たぶん描いてて気持ちいい、自身にとっての黄金比なのだろう。
本書収録作を読み返したら、三つ編みにリボンをつけた髪型ばかりで驚いた、
と米田はあとがきで白状している。
『とあるPたちの日常』は、かわいいボカロPのエピソード。
中身は男だが、女の子の気持ちを理解するため(?)女装している。
研究熱心なあまり(?)、男勝りな姉と公園デート。
姉が男役で、弟が女役のシチュエーションにクラクラする。
ラノベ設定とかボカロとか男の娘とか、あれこれ流行をとりいれつつも、
結局は、たがいを慈しむきょうだいの話になるのが米田流。
ワンピースなどの描写は入念だが、ファッション全体の印象はどこか昭和っぽい。
サブカル厨に媚びない作風が尊い。
『生徒会さてらいと!』も男の娘もの。
女装癖がバレてるとゆうハンデにもかかわらず生徒会長をつとめる。
彼(女)が頑張るのは、好きな男子が「しっかりしたコがタイプ」と言ってたから。
米田作品は、読者の琴線に触れる瞬間がかならずある。
『僕の姉が魔法使いな件 -amazing-』
初期の『えこぱん』に顕著だが、米田は本来中二病の人だ。
パッと見は地味でも、内側は熱いマグマが滾ってる。
しばらくネコをかぶって、流行にながされるサブカル厨の視野の外で技を磨き、
ふと気づいたら、米田和佐の時代が到来していた。
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米田和佐『だんちがい』4巻 家族の肖像
だんちがい
作者:米田和佐
掲載誌:『まんが4コマぱれっと』(一迅社)2011年-
単行本:4コマKINGSぱれっとコミックス
[ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/3巻/同作者の『えこぱん』]
テレビアニメ放送中の、四姉妹と男ひとりによる、きょうだい4コマの新刊。
連載はすでに4年の長期に渡っており、
4人ならべばオーラを発し、そこはもう「だんちがいワールド」。
「団地外のだんちがい」(『姉妹ちがい 米田和佐短編集』所収)
『だんちがい』番外篇をふくむ短篇集『姉妹ちがい』も同時発売。
4コマのフォーマットを超えて世界はひろがる。
面倒見のよさと、たわわな胸で、弟妹たちを優しく包容する、
長女「夢月」が4巻で大きくフィーチャーされる。
僕は、思春期女子に母性をおしつけるストーリーに共感しないけど、
スーパーで新婚さんに間違えられたバカルキがのぼせ上がり、
新妻として嫁いできた姉を妄想する場面は、臨界点突破していた。
擬似的な母であることを逆手に取るエロス。
中学のバスケ部エース、次女「弥生」が本作の牽引役。
表情や姿勢が「動き」を感じさせ、性格もおしとやかじゃないけれど、
外見はそこかしこが女の子らしく可憐で、とにかく見ててたのしいキャラ。
同級生の「里美」と「あや」を団地の我が家へ呼ぶ。
日ごろ悪口を言いまくってる兄の話題になるが、
友人の口から「バカ」とか「オタク」とか聞くと腹が立つ。
その複雑な感情が、すべて顔に出てしまう。
今度は兄が友達をつれてきた。
「お前の妹可愛いな!」と言わせたくて、おしゃれする。
髪留めやネックレスまでしている。
1巻あとがきで、ファッションセンスのなさについて自虐ネタを描いた作者は、
現在もっとも可愛い女の子を描く作家のひとりでありながら、
たしかに服は全体的に昭和っぽい。
でもそこが、本作の個性。
可愛すぎるくらい可愛いけど、ホッとできる。
彼女たちがそこにいるだけで、いとおしい。
とってつけた様な人情話がなくても、家族の大切さがつたわる。
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施光恒『英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる』
英語化は愚民化 日本の国力が地に落ちる
著者:施光恒
発行:集英社 2015年
レーベル:集英社新書
東大理学部化学科では2014年10月から、英語のみで授業をおこなう。
目的は留学生を呼ぶためで、日本人学生の研究の質を高めることは想定しない。
中学や高校でも「英語のみ」の授業が広まっている。
言語教育の専門家に「ネイティヴに教わるのが一番なんて幻想だ」と批判されてるが。
政策決定者たちは、それは「社会からの要請」だと主張するけれど、
より正確に「財界からの要請」と言い直すべきではないか?
目先のカネをもとめ社会が変質している。
たとえばTOEFLの受験料として、毎年数百億円がアメリカに流れる。
怪しい「クールジャパンムーブメント推進会議」が提唱する「英語特区構想」などは、
「狂うジャパン」と題した方がふさわしかろう。
日本人が英語下手である理由は、それこそ「社会からの要請」。
ずっと輸出に依存しない内需中心の経済だったから、身につける必要がない。
グローバル化や英語化を礼讃するのは、団塊またはポスト団塊の世代。
かれらは高度成長期に故郷を離れ、豊かな生活を謳歌する経験をあじわった。
「日本→世界」の流れは「田舎→都会」にちょっと似ている。
あと根っからマルクス主義に洗脳されてるので、進歩史観もなじみやすい。
見方によれば、近代日本が抱える宿痾でもある。
初代文部大臣をつとめた森有礼は英語公用化を主張していた。
「西洋語でないと立派なスピーチはできない」などと言う雑駁な議論は、
福澤諭吉に「坊主の説教も寄席の落語もスピーチだろう」と嘲笑されたが。
一方で東京専門学校、のちの早稲田大学は、
お雇い外国人に頼らない「邦語による教育」の理念を打ち出すなど、
明治はアンビバレントな時代だった様だ。
現代の韓国人は、ノーベル賞受賞者数で日本に水をあけられる状況を省み、
翻訳書がすくなく、英語教材で科学研究をせざるを得ない点に原因を求める。
ワロン語圏とフラマン語圏の対立が先鋭化し、
国政の停滞を招きがちなベルギーなどの事例もあり、
世界はむしろ国家と母国語のむすびつきに注目している。
英米人がこの惑星を牛耳り、英語習得者がその手先となり虎の威を借る、
まるで宇宙戦争みたいな悪夢も、あながち杞憂とは言えない。
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さきしまえのき『カーグラフィティJK』
カーグラフィティJK
作者:さきしまえのき
掲載誌:『コミックアライブ』(KADOKAWA)2015年-
単行本:MFコミックス アライブシリーズ
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とある女子高の倉庫のシャッターをあけると、シトロエン2CVが鎮座。
そこは「自動車部」の部室だった。
若者の自動車離れを食い止めようと、普通免許の取得年齢が引き下げられ、
16歳のJKが大手をふって車いじりできる時代が到来!
法律や文化を改変した「ギャップ萌え」は『ガールズ&パンツァー』同様だが、
より身近な存在をあつかうことによる日常への溶けこみ具合は、
これまで「自動車×JK」のジャンルが存在しなかったのが不思議なほど。
JKが車にめざめると、具体的にどんな意義が生まれるのか。
まづ、女子同士でドライブにゆける。
せまい車内は魅惑の百合空間に。
さすがに高校生が車を所有するのは厳しいので、
教員たちが何に乗ってるかを当てる遊びに興じる。
たとえばゴスロリの「市ノ瀬教諭」は、クルマ選びのセンスも別格なはず。
正解は、メルセデス・ベンツGクラス。
「養護教諭→医学→ドイツ→ベンツ」とゆう安直な発想が笑える。
厚底の靴は車内で履き替えるのかな。
国語担当の「芦川先生」は、天使の様に優しい性格が慕われている。
どうも作者は長髪の女子が好みらしく、
かしましJK3人組がシルエットで識別しづらいせいもあって、
ショートカット・眼鏡・パンツルックの芦川先生が、ヴィジュアル面で突出。
え、彼女がなにに乗ってるかって?
それは第1巻のハイライトなんで、単行本で御確認を。
車は人なり。
所有車をみれば、その人がわかる。
ステキな女子も、クルマと一緒ならもっと絵になる。
ピカピカに磨き上げた、カモシカみたく機敏そうな足回りに、目は釘づけ。
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小説15 「ティーガー」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
ローザリンデ・ハイドリヒ親衛隊大将が、金髪のツインテールを揺らし邸宅から出る。もとは【ヴァンピーア】の資産家の所有物だが、オーナーはいま強制収容所にいた。メルセデスのオープンカーの側に立つ副官が、軍靴をぶつけ敬礼。
「ハイル・ヒトラー!」
ローザリンデは朝に弱い。「……っとら……むにゃむにゃ……さっさとドア開けなさいよ」
副官は直立したまま。
「閣下、再度申し上げます。オープンカーでの移動は危険です!」
「そんなにテロが怖いんですの? サスーリカの土民どもに、わたくしに歯向かう度胸があるものですか」
自分でドアを引いて乗りこむ。彼女は東方の王であり、その高貴な姿を民衆に見せつけることが統治に必要だった。まして今日はエイダ・ヒトラーに対面する。気弱なふるまいはできない。
若い副官は助手席に座る。彼とは肉体関係がある。その青々と刈り上げたうなじを見てローザはほほ笑んだ。心配されるのは嬉しい。
庄内平野の田地の匂いのする風のなかをメルセデスは北上。最上川にかかる橋の前で、倒木が道を塞いでいる。
「困りましたね」副官が振り返る。「どかせられるか、もしくは迂回できるか見て参ります」
ローザの脊髄を悪寒が駆け下りる。
「バックしなさい! 全速力で!」
それと同時に、右後輪のあたりで手榴弾が炸裂する。副官は降車しヘックラー&コッホで応戦するが、パルチザンは影も形もない。
「閣下、お怪我は!?」
「無事でしてよ」ローザはウィンクする。「はやく総統にお知らせしなくては。車を出しなさい」
頑丈なメルセデスは、パンクしたまま酒田にある総統大本営へたどり着いた。騒ぎを聞きつけたエイダが走り寄り、ドアノブに手をかける。
「ローザ、災難だったな……あっ」
金属片が、シートと乗員の腹部を貫通している。
「ジ……ジーク・ハイル……」
「医者を呼べ!」エイダは絶叫。「副官、貴様は何をしていた!?」
「彼を責めないでくださいまし……悪いのはわたくしの傲慢さなの……あと、襲撃犯は紅い目をしてましたわ……」
「もういい、しゃべるな」
「あなたの帝国が完成するのを見たかった……そして、いつかはわたくしが……」
エイダの腕のなかで、ローザリンデの発言は中絶した。十五歳だった。だれより有能で、鉄の意志を持つ、「アイゼンの理想の乙女」とエイダに激賞された少女の最期だった。
エーリッヒ・フォン・マンシュタインが、みすぼらしい身なりをした労働者風の男を突き出した。親衛隊の尋問を受けて痣だらけだが、紅い瞳は盛んに燃える。
男は悪態をつく。「ヒトラー、次はお前の番だ。同志が必ずやり遂げてくれるだろう」
エイダは眉一つ動かさない。
「あたいの友達を殺しておいて、その言い草か」
「お前の名前は歴史上最大の悪人として残る。未来永劫、呪われ続けるんだ」
「そーかよ」
エイダは暗殺実行犯を蹴り倒す。声を上げる暇すら与えられず、男は戦車レオパルト2の履帯の下敷きとなった。
「アディ!」エーリッヒが目を剥く。「パルチザンの情報を引き出さないでどうする」
「知るか。どうせ口を割らねーよ。こいつらを庇う様なら、村ごと焼き払え」
「お前は感情的になりすぎる!」
「うるせーな。じゃあ兄者は、あたいが殺されても同じことを言うのか」
「アディ……」
口を開けば、人を傷つける言葉しか出て来ない。ジャケットに両手を突っこんだエイダは翻り、その場を後にした。
もしユリア・スターリンによる「大粛清」を正当化するなら、国家や軍の指導者が若返った点を挙げられる。そんな政治的議論の真偽はともかく、すくなくとも軍事面においてサスーリカは、たしかに急速な近代化を達成していた。
綿密な立案作業に基づき、作戦行動がなされる様になった。執拗な欺瞞工作や偵察のあと、複雑に組み合わされた陸空の協働行動が敵陣に深い亀裂をつくり、ユリアやジューコフらがT-34を振るい突進。それはガイスト時代に最適の戦術だった。天才戦略家トゥハチェフスキーの没後に、彼の「縦深攻撃理論」が実現したのは皮肉と言うべきか。
民族衣装のサラファンを着たユリアが、リバティア製のトラックの荷台に立つ。いまや工業力は敵国アイゼンを上回るが、それでもルーズベルト大統領からの物資供与はありがたい。
青のサラファンはジャンパースカート風の作りのワンピースで、凝った刺繍が施されている。頭にココーシュニクを被る姿は神々しく、仰ぎ見る兵たちは憧憬の面持ち。
助手席に座るゲオルギー・ジューコフ上級大将が、小窓から荷台へ声をかける。
「きょうは一段とお美しいですな」
「女の武器も活用してこその総力戦よ。これが『弔い合戦』なのを、全軍で共有できてるかしら」
「かつてない士気の高さです。ただ補給の限界が近づいています。足が止まった部隊もあるくらいで」
ユリアの顔色が変わる。「どこの部隊? 指揮官はだれ?」
ジューコフはいかつい顔を顰める。彼が失言するたび、部下の生命が失われるのだった。
「そいつらは懲罰大隊送りよ!」ユリアは狂った様に叫ぶ。「あたしは復讐の女神ネメシス。命令違反は承知しない。これまで以上に」
数か月の時を経て、ユリアは弟の死を克服した。正確に言うと、発作を起こして入院する頻度が減った。憎悪は自分でなく、敵にぶつけるのが賢明だと、やっと理解した。
具体的に言うと、アイゼンの子猫ちゃんをこの手で八つ裂きにする。比喩表現でなく。
ラスプティツァ。それは泥濘期を意味する。雪解けしたサスーリカ全土が沼地に。長い長い冬のあとに続く苦悩の季節。
おしゃれなエイダは、お気にいりのスニーカーやニーソックスが汚れるのを嘆く。
「なんてクソッタレな国なんだ……神がこの土地を創りたもうた理由がわからない」
サスーリカ兵は泥の中から現れ、死んで泥の中へ帰ってゆく。人と言うより両生類の軍隊だった。
参謀将校が通信文を読み上げる。
「SS軍団からです! 敵、最上川を越え、我を包囲しつつあり。鶴岡からの撤退の許可を求む」
「シャイセ!」エイダは文書をはたき落とす。「いま弱みを見せたら終わりだ。死守命令は絶対従わせろ……いや、あたいが直接指揮を執る。ついてこい!」
エーリッヒが妹分の腕を掴む。「司令官は現場の判断に干渉するな」
右腕を捩じ上げられながら、エイダは虎の様に牙を剥く。
「その手を離せ。いくら兄者でも許さないぞ」
「分からないなら何度でも言う。軍事のことは私に任せろ。信じられないのか?」
「西の方が微かに香水臭いんだよ。サスーリカの牝狐がきっといる。決着つけさせろ」
エーリッヒは苦笑いし、エイダを解放した。匂い! この娘は嗅覚にもとづき軍配を振るっている! しかもそれが大抵的中するから質が悪い。
銀髪の青年は仕方なく、非合理的な要素も組み入れて策を練りなおす。他の追随を許さない演算能力を誇るコンピュータは解答をすぐ導いた。
サスーリカ軍は高級指揮官から兵卒まで、復讐心の奴隷となっていた。一秒でも早く、殺戮・掠奪・陵辱の報いを受けさせることしか頭にない。
エーリッヒは魔術師の様に、敵の感情を手玉に取る。彼らは進撃していたのでなく、進撃させられていた。補給が滞り全軍が停止したとき、包囲していたはずの軍隊が包囲されていた。
エイダは新兵器を起動。巨大なウォーハンマーの「ティーガー」だ。泥田の真ん中で不倶戴天の敵と対峙する。
ひとりはショートパンツを穿き、ジャケットの下にパーカーを着るカジュアルなスタイル。もうひとりは優雅な民族衣装。
言葉は交わさない。彼女たちには戦うべき理由がありすぎた。
先手をとったユリアがT-34、光の鞭で連打するが、かつてエイダを叩きのめした攻撃は撥ね返される。空間そのものが鋼鉄と化した。
ユリアは動揺を隠しながら言う。「いいオモチャを手に入れたみたいね」
「ああ。もっと遊んでたいけど、瞬殺しちゃうだろうな」
「へぇ、一端の口を利くようになったじゃない。マンシュタイン君と何かあったかな」
老練なユリアは、華麗なフットワークで円を描く様に動く。たとえ新兵器が強力でも、T-34が機動力で劣るはずない。
一撃だった。
遠心力で加速したハンマーは目標を正確に捉え、【パンツァー】を無力化し、その遣い手をノックダウンした。
サスーリカの優美な狐は、泥の中で仰向けになり痙攣。大量の血が口から溢れる。
「あ……ありえないわ……」
だがティーガーも機能停止した。複雑な機構ゆえ、泥土により故障しやすい缺点がある。
エイダはとどめを刺すのを断念し、背を向けた。分別を辨えたと言うより、アイゼンの兵力不足が顕著で、無理できないのが実情。
次に立ち合うときが、最終決戦だ。
奪還した鶴岡の市街で、エイダがぽつんとガードレールに腰掛ける。それに気づいたエーリッヒは、ねぎらう様に自分の水筒を渡す。
エイダは口をつけかけるが、なんとなく恥づかしくなり突き返した。
「いいよ。別に喉渇いてないし」
「脱水症状は兵士の大敵だ。いいから飲んでおけ」
「やさしいな。あたいは今回もしくじったのに」
勢いよく飲み干す四歳下の妹分を、銀髪の青年は柔和な笑顔で見守る。
「お前はよくやってる。ティーガーは決して使いやすい武器じゃない。大したものだ」
「なんだよ……珍しく褒めるから照れるじゃんか……」
エイダは辺りを見渡す。将兵が慌ただしく往来する。目まぐるしい攻防がしばらく続くだろう。
返された水筒の最後の一口を、今度はエーリッヒがすする。
「なぁ兄者」エイダがなにげなく呟く。「ひとつお願いがあるんだけど……」
「改まってどうした」
「……今夜あたいを抱いてくれないか?」
水が気管に入り、エーリッヒは激しくむせる。
「きゅ、急になにを言い出すんだ! だいいち処女じゃなくなれば、ガイスト適性も失うだろう」
「迷信だにゃあ! それに、こんな能力なくなったって構わない。女にここまで言わせて、兄者は逃げるのか?」
「お前は妹みたいなもので……」
「そう、妹みたいなものさ。でも初めて会ったときから七年間、ずっと好きだった。兄者、そろそろ態度を決めてくれ。あたいのことを好きなのか、それとも嫌いなのか?」
エーリッヒが唾を飲みこむ音が響く。
「二者択一しかないのか」
「好きか、嫌いか?」
「そりゃ好きにきまってる」
エイダは想い人にしがみつき、唇を重ねた。息切れしながら延々と求める。エーリッヒの両手が尻をまさぐるのを感じる。やっぱり女の胸や尻が好きだったのかと内心でほくそ笑む。
急報を告げに来た部下は、愛し合うふたりを遠巻きに見て困惑するが、意を決して呼びかけた。
「お、お取り込み中のところ失礼します! スターリングラードのパウルス大将から、支援の要請です!」
「わかった、いま行く。アディ、また後でな」
エーリッヒは恋人に目配せし、軍装を整えつつ早足で司令部へ向かう。あれほど恋愛に関して臆病だったのに、途端にエイダを「自分の女」みたく扱うのだから、男とは面妖な生き物だ。
唇に右手を添えてエイダは溜息つく。
長年待ち焦がれた瞬間だったわりに、感動しなかった。ファーストキスじゃないからか。ヒロとした口づけの方がドキドキした。
この感情、いったい何なんだろう。
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水瀬いのり『Milky Star』 ドラマCD『√HAPPY+SUGAR=IDOL』主題歌
【画像をクリックするとYouTubeに飛びます】
Milky Star
水瀬いのりの楽曲
ドラマCD『√HAPPY+SUGAR=IDOL』主題歌
作曲:カヨコ
作詞:分島花音
発表:2015年
8月8日、六本木のニコファーレで催されたニコ生のイベントに、
声優の水瀬いのりがミニハットをつけて登場。
「きょうは……すごい女の子がいっぱいで、幸せです!」
いつもと客層が正反対なのは、乙女ゲームのRejetのイベントだから。
観覧者は男性声優目当てに集っている。
アウェー戦と言ってよく、出演者としては守りに入るのがセオリー。
「うわぁ、ピンクの色もありがとう……嬉しいです~」
30秒ほどの短いMCで煽られる観客。
いのすけは猛烈な頭の回転の速さを感じさせる。
ジュニアアイドルのキャリアで場慣れしてるのもあるか。
マスコットキャラの「さとぅ」が闖入。
それでも息の合ったダンスをみせる。
「甘い甘いミルキーウェイ 光る恋のスピカ♪」
360度をかこむLEDモニターがキラキラ輝き、まさにそこは乙女の夢の世界。
この日彼女は、イベントを掛け持ちしていた。
『Milky Star』はこれが初披露、そもそも楽曲を単体でリリースする予定もなく、
最高のパフォーマンスでなくても辯解可能だが、完璧なそれを見せた。
「乙女系」の宇宙での自分の立ち位置を把捉、天体望遠鏡のレンズみたいに、
無色透明で最大公約数的な女の子を演じきっている。
アニメとゆう背景を保ちつつ、顔出し仕事も積極的におこなう今の声優は、
「2.5次元」の存在と評されたりする。
なかでも水瀬いのりは、水樹奈々を崇拝し歌手指向が強く、
アイドル・藝能人の定義の更新を迫るミステリアスな人だ。
言うなれば「2.7次元」?
私はイベントで皆さんにお会いして楽しい時間を過ごすことも
素敵だし楽しいと思っていますが
やっぱり自分の軸にある第一の希望としては
自分が声を当てたキャラクターや作品をずっと好きでいてもらうこと。
だからこれからも*声*でたくさん恩返ししていきますねっ。
しかしブログでは「2.3次元」的発言が。
悩ましい。
要するに、次元数にこだわる僕の頭が古いんだろう。
西部劇で有名なジョン・ウェインは駆け出しのころ、自分が無能な役者だと悟り、
日常生活の話し方や歩き方までタフガイらしくふるまうことで、
「ジョン・ウェイン」とゆうキャラクターを独力でつくりあげた。
現代日本では「水瀬いのり」の神話が、全次元を包摂する勢いで進化している。
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バラマツヒトミ『ポケドル』
ポケドル
作者:バラマツヒトミ
掲載誌:『コミックアライブ』(KADOKAWA)2015年-
単行本:MFコミックス アライブシリーズ
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1億総アイドル時代に、またあらたなアイドル漫画が登場!
とびきりの笑顔、可憐な衣装、がんばる姿のいじらしさ。
屋上にいくら屋を架してくれてもかまわない。
黒髪ストレートの「黒河内ミサ」は14歳。
オーディションに合格し、山奥から上京したばかり。
そのグループは「ポケットドール」と言い、先輩もいる。
初対面でいきなり盗撮され戸惑う。
ミサはアイドルをめざす前は空手の修行に励んでいた。
つい反射で正拳突きが飛び出し、29歳の「桃瀬ゆき」を失禁させる。
体を張ったギャグが売りの漫画だ。
ゆきりんによる犯罪スレスレの百合セクハラがたのしいが、
後輩の自撮りのノリについてけないとか、
アラサーアイドルならではの悩みもあり、しみじみ笑わせる。
ポケドルは性的な意味でも体を張る。
だれもが気になるアイドル業界の闇にメスをいれたり。
つまり、「枕営業」って本当にあるの?
山育ちのミサは、業界の裏技をはじめて知った。
グループのためと思い立ち、周囲の制止にもかかわらず志願する。
世界一ポジティブな枕営業だ。
そんなクソ度胸と運動神経を買われ、センターを任される。
ただし弱点は笑顔。
初ライブでは力むあまり白目を剥き、変顔が逆に話題となる結果に。
プロデューサーが幼女だったりして、アイドルものの予定調和を破壊。
ほかのメンバー、そしてライバルグループもみんな可愛く、
そのくせ最高にキテレツで、ブレイク前夜の勢いに圧倒される。
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小沢かな『ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-』
ブルーサーマル -青凪大学体育会航空部-
作者:小沢かな
掲載誌:『月刊コミック@バンチ』(新潮社)2015年-
単行本:バンチコミックス
[ためし読みはこちら]
空をめざす女の子って、なぜこんなに魅力的なのだろう。
大学1年生「都留たまき」が、航空部でグライダーにとりくむ物語。
つるたまは大のジブリファン。
『風の谷のナウシカ』にさらっと言及して種明かし。
本作はナウシカへのオマージュだ。
高校まではバレーボールに熱中したバリバリの体育会系。
その反動で「大学デビュー」に燃えている。
単身上京、オールラウンドサークルに入り、ステキな相手をさがす。
汗臭い女はモテないから、運動できないフリしたり。
しかし、ふと目に入ったグライダーに気をとられ、地が出て全力で打ちかえす。
テニスボールがぶつかり破損、修理費200万円を請求される。
「体で返済する」ため航空部への加入を余儀なくされた。
社会生活は大学デビュー、世界観はジブリ、動機は借金……。
第1話でしっかりと人物設定を構築。
助走が大事な点、飛行機とストーリーは似ている。
航空部の活動はモロに体育会系。
声出しを卒業したくてたまらず、怒鳴られても沈黙を守る。
うぶな娘がクール系と熱血系の先輩ふたりを振り回すのは、少女漫画的。
作業用の「つなぎ」へのこだわりなど、細部の描写もおもしろい。
1巻後半では、つるたまの内面が語られる。
ただの能天気少女じゃない。
優秀な姉と、彼女を贔屓する父に対するコンプレックスが、妹の心を支配。
両親が離婚して以来別居し、もう4年も会ってないが、
いまも姉のことを思い出すだけで頭が真っ白になるほどのトラウマ。
高原の滑空場で、世界でもっとも会いたくない人物と再会。
女だてらに関西の強豪校の主将をつとめていた。
声も出ずへたりこむ、つるたま。
あの頃の様に、人を傷つけることしか言わない姉。
なぜ、空をめざす女の子が魅力的なのか。
それは、感情とゆう乱気流に翻弄されるさまが、飛行そのものだから。
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『干物妹!うまるちゃん』10話 それが世界
うまると今と昔々
テレビアニメ『干物妹!うまるちゃん』第10話
出演:田中あいみ 野島健児 安元洋貴 小清水亜美
脚本:杉原研二
絵コンテ:山崎みつえ
演出:野木森達哉
原作:サンカクヘッド(集英社「週刊ヤングジャンプ」連載)
監督・絵コンテ:太田雅彦
副監督:大隈孝晴
シリーズ構成:あおしまたかし
キャラクターデザイン:髙野綾
アニメーション制作:動画工房
放送:2015年
自宅でくつろいでたら、好物のコーラをこぼした。
机の下にはモデムがある。
心配したとおり故障してしまう。
対策を講じようにも、ネットにつながらないと手も足も出ない。
タブレットもゲーム機もアウト。
うまるの楽しい自宅ライフは、インターネット接続を前提としていた。
世界から隔離された様な、この孤独感。
僕も最近あじわったのでわかる。
兄に小遣いをもらい、はじめて漫画喫茶へゆく。
高速インターネット、漫画読み放題、ドリンク飲み放題。
せまいけど、ほしいものは全部揃ってるから気にならない。
はっきり言って自宅より快適、一生ここにいたい!
ただ3時間も経つと、なんとなく虚しさが忍び寄る。
おかしいな、いつもと同じことしてるのに、たのしくない。
そこで物語は、家族や友人の価値を再認識する人情オチに接続。
とはいえアニメ版うまるの魅力は、腕利きのDJの様なミックスの妙。
巧みに原作を切り貼りし、オリジナルを超える解釈をしめす。
家族万歳のテーゼを語らせるのが、うまるである必要はない。
UMRには、UMRの哲学があるはず。
「人付き合いとかめんどくさい」のオタク思想と、
「でもやっぱりリアルで誰かとつながりたい」とゆう社会通念の妥協点。
勿論それはゲームセンター。
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テーマ : 干物妹!うまるちゃん
ジャンル : アニメ・コミック
小説14 「ミッドウェー会戦」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
皇居の表御座所で、十二歳になったヒロヒトが任天堂の携帯ゲーム機をうごかす。ソフトは『ファイアーエムブレム』の新作。〈トレード〉のシミュレータとして、各国の軍隊で採用されている。対戦相手は東條英機。
1%と表示された「必殺」が運悪く発動、リーダーユニットのペガサスナイトが斃れた。ヒロヒトは即座にリセット。
「ちょ、姫様ズルい!」タイトル画面を見て東條が不平を鳴らす。
「出陣を前に縁起が悪いでしょう。それと、あなたはいつまで姫様呼ばわりするのですか」
「……失礼しました、陛下」
鷹揚な性格がヒロヒトの長所だが、最近は些細なことで機嫌を損ねがち。
東條は今回の「MI作戦」を支持しない。味方を三手に分け、誘い出した敵を挟撃するとゆう複雑さを、職業軍人としての勘が拒絶する。すくなくとも真珠湾攻撃には、一撃離脱のシンプルさがあった。
だが大成功を収めた真珠湾でも反対したため、彼は引け目を感じてもいる。新時代の戦術を自分が理解できないだけかもしれない。
ニャーと小さな声と鈴の音を鳴らし、黒猫が部屋に入ってきた。ヒロヒトの膝に乗る。
「おや、猫を飼い始めたんですね」
「ええ」ミカドは相好を崩す。「気づいたら住み着いていて。名前はまだないですけど」
ひとりでいると疎外感に苛まれるので都合よかった。ネコ顔のエイダに似てるのも気に入っている。
失恋がこんなに苦しいなんて、知らなかった。
破壊の跡がなおも残る真珠湾基地の一室で、ドロシー・マッカーサーが目をつぶる。右手を水晶球に乗せている。
黒衣の「乙女」がいま操るのは、遠隔透視魔法。潜入させた猫の目を通じ、作戦名・指揮官・兵力・攻撃日時および地点まで丸裸にした。
部下のスプルーアンス少将が口笛を吹く。
「元帥閣下の魔力は桁外れですな。その水晶球も、由緒ある骨董品なのでしょう?」
「ふふっ」ドロシーは目を開く。「これはイーベイで落札した安物なんだ。ゴスロリ美少女には黒魔術が似合うから、まあ形だけね」
この人自分で美少女って言っちゃったよ、とゆうツッコミを、如才ないスプルーアンスは飲みこむ。上司の不興を買って、軍人は務まらない。
赤毛の少女は少将を伴いドックを視察する。翼をもった動く石像のガーゴイルが、技術士官と揉めている。幻獣の名は「ヨークタウン」。
「どうしたんだ」ドロシーが小競り合いに首を突っこむ。
「ケッ」ヨークタウンが牙を剥く。「どうもこうもないぜ。大怪我したばかりなのに、次も出撃なんて冗談じゃねえ!」
司令官が面々を見渡すと、技師たちはお手上げと言わんばかりの身振りをする。ドロシーは緑の光槍を起動。
「ヨークタウン、リバティアはお前を遊ばせるため飼ってるわけじゃないぞ」
ガーゴイルは巨体のわりに小さな目で、放電する槍と、その遣い手を値踏みする。人間にしては手強い女だ。
「その上から目線が不愉快なんだよ。てめえらに協力しても、なんのメリットもないだろーが」
「メリットはあるけど」
「あ……」
ドロシーは両膝をつき、海水に浸かるヨークタウンの頬にキスする。ザラザラした肌で唇がすこし痛む。悪魔の様な風貌の幻獣は照れたのか、ブクブクと泡を立て水面下に潜った。
二〇四二年六月五日午前六時。ヒロヒトはペガサスの赤城を駆り、濃尾平野の上空を南進。フェニックスの加賀、ドラゴンの蒼龍、ワイバーンの飛龍と編隊を組む。眼下に木曽三川が流れる。
別行動していたハーピーの瑞鶴が、暇をもてあまして近づいてきた。姉の翔鶴は負傷が癒えておらず横須賀にいる。
「この川って、鵜飼をやってるんだろ。あちきも見てきていいか?」
「作戦が無事終了したらね。それでね、あのう、これはちょっと言いづらいんだけど……」
「なに?」
「前から気になってたんだけど、あなたの胸って隠せないのかしら。目の遣りどころに困るって言うか、軍には殿方もいるわけだし……」
瑞鶴は裸の胸をグッと反らす。
「なんだよ、こんなにキレイなおっぱいを見せない方がおかしいだろ。自分がペッタンコだからって僻むなよ」
「失礼な! わたしはこれから大きくなるんです!」
かつてない激昂ぶりに震え上がり、瑞鶴は持ち場である西の揖斐川へ飛び去っていった。
長良川の急流に、大和ら巨人をのせた筏が数枚浮かぶ。上流で伐採した丸太をその場で組み立て、即席の軍艦にした。別働隊のいる西の揖斐川、東の木曽川も同様。作戦では河口付近に「一夜城」を築き、交通の要衝を守る〔ラビリーント〕の「ミッドウェー」を攻略する予定。
しかしながら、MI作戦の目的は要塞攻略でなく、真珠湾で無傷の敵飛行ユニットをおびき寄せる点にある。左右どちらかの先遣隊に食いついたところを、ヒロヒトが率いる主力部隊で挟撃。
壮大で巧緻な戦略だが、東條が危惧するとおり、そのややこしさは机上の空論めいている。
偵察から戻ったワイバーンの飛龍が、旋回しながらギャーギャーとけたましく喚く。黒光りする鱗をもち、ドラゴンと違い前肢がない。
「敵飛行ユニット三体発見か……確かなの? 情報より一体多いわ」
ヒロヒトは川面を見下ろす。加賀と蒼龍が筏の上で、対地攻撃スキルへの換装作業をおこなう。タイミングが悪い。属性攻撃にこだわる彼女の周到さが裏目に出た。
気性の激しい飛龍が声を大にする。上空の二体だけで先手を打とうと進言している。
「でも、もし敵とすれ違ったら、あの子たちが二対三で迎え撃つことになる……」
ヒロヒトは赤城を駆って水面に近づき、スキルを再換装する命令を技師にくだす。怒る飛龍の鳴き声が上から響く。
赤城がいなないた。低空を這う様に飛ぶ、ガーゴイルのヨークタウンを発見。飛龍もコカトリスのホーネットと交戦を始めた。雄鶏の体に、コウモリの翼と蛇の尾を生やす幻獣だ。
ガーゴイルの口が裂け、残忍な笑みが浮かぶ。真っ赤な舌が血を求めている。
「来たわね……いでよ、零式!」
ヒロヒトは光の弓を構え、三本の矢を同時に放つ。全弾的中。ヨークタウンは絶叫しながら川底へ沈んだ。
手綱を引いて上昇、飛龍に加勢する。巨大なニワトリにきらめく矢を発射。飛龍も自慢の速力を活かし、敵をきりきり舞いさせる。
ナデシコの【マリーネ】は、リバティアのそれを寄せつけない。だが自軍が苦戦する様子を、高度八千メートルから眺める戦乙女がいた。ドロシー・マッカーサー。上半身が鷲で、下半身が獅子のグリフォンに跨る。
「賽は投げられた。いくぞ、エンタープライズ!」
赤毛を靡かせ急降下。緑の光槍でヒロヒトを貫こうとする。和装の天子は咄嗟に抜いたチハ剣で防ぐ。鞍から落ちかけたが、赤城が懸命にバランスを保って主人を救う。
形勢は逆転。ヒロヒトの掩護も空しく、加賀と蒼龍は致命傷を受ける。筏ごと炎上し浅瀬に乗り上げた。赤城は制御を失い、騎手をのせたまま漂う様に墜落、ヒロヒトを砂礫に投げ出す。光刃を杖にして立ち上がったとき、彼女は目を疑った。
「赤城……赤城!」
白い胴体に大きな裂傷が走り、内臓が無惨にはみ出ている。駆け寄ったヒロヒトの足元を血が染める。
「こんな傷を負って飛んでいたの……」
はやく気づいて応急処置すれば、あるいは助かったかもしれない。脱力したヒロヒトは血溜まりにうずくまる。
ドロシーはグリフォンの上で、ピーッと指笛を鳴らす。引き際だった。飛龍の機動力に手を焼いており、これ以上粘れば、敵の地上ユニットが助勢するはず。三体撃破は十分な戦果だ。水中に隠れていたヨークタウンも悪びれずに顔を出す。
「飛龍!」血塗れのヒロヒトが叫ぶ。「あいつらを逃がさないで……赤城の仇を取るのよ……刺し違えてきなさい!」
命令を最後まで聞かずに、ワイバーンは急発進する。一対三の不利をものともせず、ヨークタウンに齧りついて錐揉み落下。地上で首ごと食いちぎって吠える。
「なんて勇猛なんだ……畏怖に値する敵だ」
ドロシーは反撃の指揮を取りつつも、感嘆を禁じえない。
ヒロヒトは川岸で、赤城の濡れた瞳を見つめる。そっと懐剣を抜き放つ。楽にしてくれと彼は訴えていた。【マリーネ】を後に残すわけにもゆかない。
震える両手で首を掻き切る。赤城はゆるやかに呼吸を止めた。
「うぐっ……ぐぐぅ……」
ヒロヒトは悲しみも怒りも感じない。すべて自分の責任だった。ひたすら惨めだった。
人が聞いたら笑うかもしれないけど、わたしはそれなりに賢く、心の強い人間だと思っていた。とりあえず、優柔不断な父上よりは立派な君主になれると信じていた。
まったく思い違いだった。失恋してヤケになり、国家を危険に晒すただの馬鹿者だった。天皇になんて、なるんじゃなかった。この重圧に耐えられるエイダちゃんは、やっぱりすごい。
父上、そして明治帝をはじめとする御先祖様。社稷を守る義務を果たせなかったこと、ひとえにヒロヒトの罪でございます。詫びて済む話ではないですが、いまから御報告に参ります。
やっちゃん、逃げる様にしてバトンを渡すけど、怒らないでね。わたしは軍神となってナデシコを見守ります。あなたは頭がいいから、きっとうまくやれるわ。あと、妹たちには優しくね。
母上、先立つ不孝をお許しください。本当に親不孝な娘でごめんなさい。
刀身の光が、自分をこの絶望から解放する恩恵に見える。勢いよく喉へ突き立てる。
細く、真っ白な手が短刀を押さえた。乱れた赤毛の、黒衣を纏う少女がいた。
「ハラキリは野蛮な風習だ」
ヒロヒトは無感動に言う。「なんなの……わたしの邪魔をしないで」
「あなたは軍国主義の犠牲者です。リバティアへの亡命を、ボクが保證します。降伏するよう、一緒にナデシコに働きかけましょう」
ドロシーの発言は、どこか宇宙の果ての言語に聞こえた。いったい何がしたいのか。いや、どうでもいい。ヒロヒトは刀を離さない。
「ユア・マジェスティ」ドロシーは力づくで兇器を奪う。「理性を取り戻してください。あなたにとって良い話をしてるんですよ」
「わたしは至って正気だけど。返して」
「ですから! 死んでなんの意味があるんですか。一刻も早く戦争を終わらせるのが、ボクらの使命でしょう」
「ドロシーさん。わたしは人の好き嫌いがあまりないタイプです」
「ええ、わかります」
「でもあなたのことが大嫌いです。そしてあなたの国も。わたしが鬼畜リバティアに亡命って、バカじゃないですか?」
黒衣の乙女は唖然とする。これまで人から嫉妬された経験は数知れないが、軽蔑されたことは一度もない。
ドロシーの独り言が漏れる。「ぶつぶつ……」
「なんです?」
「こんなことはあってはならない……」
「はぁ」
「ボクみたいな完璧美少女の誘いは、誰だって応じるのが当然なんだ……そう、この人は正気じゃないんだ……」
ヒロヒトは立ち上がり、レギンスの膝の砂を払う。ゆるんだ襷を締め直す。縹色の着物は血が滲み、壮絶だ。
女子にしては長身のドロシーと向き合う。
「なにはともあれ感謝します。おかげで闘志が蘇ってきました。今回は大敗しましたが、戦力はまだ互角」
「…………」
「ナデシコは最後の一兵まで戦います。あなたがたも、その覚悟で来ることね」
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今井大輔『クロエの流儀』
クロエの流儀
作者:今井大輔
発行:日本文芸社 2015年
レーベル:ニチブンコミックス
[ためし読みはこちら]
うしろの金髪少女は「クロエ」。
ブアイソだけど、フランス人だから許される。
礼儀作法にうるさい彼女は、道端に空き缶を捨てたクソババアを注意。
相手は反省どころか、文句を言って去ろうとする。
時代劇で日本語をまなんだクロエは、やたら口調が古めかしい。
あと、曲がったことが大嫌い。
相手が人生の大先輩だろうと、容赦なく斬り捨てる。
全20話、毎回8ページで撫で斬りにするスタイルを確立。
サムライの心を忘れた日本人のかわりに「舌刀」を振るう。
夜の街とか、闘いの舞台の背景がキマってる。
自転車に乗ってるとき職務質問してきた警察官も抜き打ちに。
国家権力は、一般市民に振りかざすべきじゃないと。
抜身の刀の様にまっすぐなリセエンヌ。
クロエの父も日本かぶれのフランス人で、ちいさなレストランを営む。
この親子の渡日に至るまでのエピソードも気になるが、
ハードボイルドな漫画なので事情は明かされない。
店をてつだう娘が、横柄な客を一刀両断。
「お客様は神様だ」と言われたら、「全知全能なら自分で作れ」と切り返す。
反論できない。
クロエはただ上から目線なのではなく、電光石火のエスプリで立ち合う。
だから無敵。
高校の先輩に公園へ呼び出され、交際を迫られる。
このナルシスト野郎がどうぶった斬られるのか、気になるでしょう?
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月子『バツコイ』
バツコイ
作者:月子
掲載誌:『ハツキス』(講談社)2015年-
単行本:KCxハツキス
[ためし読み/『つるつるとザラザラの間』の記事]
美人ばかりの辯護士事務所を中心にえがく恋愛漫画。
エリート女子は仕事もプライベートもしたたか。
主人公は28歳の「美留町(みるまち)カホリ」。
街で見かけた男が、服とか声とか嫌いじゃないタイプなので食事に誘う。
意気投合し、そのままホテルへ。
『つるつるとザラザラの間』も女子中学生の逆ナンから始まったから、
作者好みのシチュエーションかもしれない。
実は相手の「砂後谷(すなごや)」は妻帯者、浮気はすぐ嫁バレ。
事務所総がかりで、離婚交渉とカホリの恋を支援するドタバタぶり。
中高生をヒロインとする『つるザラ』『彼女とカメラと彼女の季節』にくらべると、
年齢こそ倍増したが、恋愛で葛藤するのはかわらない。
あとがきで作者は、女性辯護士に取材したことを明かしている。
「おカネ>愛情」とゆう現実を教えてくれる漫画だ。
こちらは『Kiss』にゲストとして掲載された読み切り。
事務所の同僚、28歳の「四十九院(しるしいん)ヨーコ」を主人公とするスピンオフ。
勉強と仕事にかまけすぎ、いまだ処女の無表情キャラだ。
高校の同窓会でのドレス姿がかわいい。
カメラに爬虫類、百合にBLと題材はなんでもありだけど、
女子のピュアな魅力をひきだすのが巧みな作家だ。
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冨澤浩気『戦渦のカノジョ』
戦渦のカノジョ
作者:冨澤浩気
掲載誌:『週刊ヤングマガジン』(講談社)2015年-
単行本:ヤンマガKC
[ためし読みはこちら]
ミニスカート、吊り目、ショートカット、縦に並んだ泣きぼくろ。
89式小銃もよく似合う。
サイバーテロで壊滅した日本でのサバイバルにいどむ。
北海道の高校にかよう「真琴」は、京都へ修学旅行に来ていた。
班での自由行動中、クラスメートの「優樹」との距離がちかづく。
一生の思い出になりそうな旅。
楽しいことばかりでなく、チャラい男に絡まれたりも。
平凡な学生の目線で第1話はすすむ。
空爆される古都。
いかにもヤンマガらしい、「ドラゴンヘッド2.0」的な展開。
自衛隊員の描写はあまり好意的でない。
最近は「庶民の味方」みたいに持て囃されることの多い彼らだが、
「武器をもつ男たち」の本質的な冷酷さを、作者はきっちり描く。
ヤンマガの漫画といえば、殴り合ったり殺し合ったりするイメージ。
露骨なエロスも期待できる。
そんな雑誌のリアル寄りの特色は押さえつつも、
かわいい女の子がストーリーを牽引するのが当世風。
新人作家だし、正直荒い部分は目につく。
意地悪に言えば、まこっちゃんの短いスカートで釣ってる作品だ。
でもそれはそれで、いいんじゃない?
気高い使命感、凛とした空気感が貴重じゃない?
制服姿でカノジョはきょうも、終わらない修学旅行をつづける。
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小説13 「史上最大の巨人、大和」
『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』
黒塗りのリムジン、トヨタ・センチュリーロイヤルが皇居へ向かう。夕闇が迫る沿道に提灯行列が連なる。老若男女が日章旗や旭日旗を振る。鎧袖一触でリバティアとビッグベンを蹴散らす快進撃に、国民は舞い上がっていた。
後部座席にエイダ・ヒトラーがいる。帰国途中、ヒロヒトを激励に来た。
「すごい人出だな」
「いまナデシコ国民は」東條英機が答える。「大東亜新秩序の建設に燃えています。アイゼンと我が国で、八紘一宇の理想を完成させようではないですか!」
ふふ、とエイダは鼻先で笑う。泥沼の東部戦線でもがく彼女は、空疎なスローガンが戦場でなんの意味も持たないのを痛感している。
多忙なヒロヒトは横須賀におり、出迎えに来れなかった。エイダはすこしホッとした。前の別れ際に弾みでキスしてしまい、どうゆう顔をして会えばよいか分からない。防弾ガラスに頭をゴンゴンぶつける。
どうしてあたいは、いつも後先考えず行動するのか。ヒロのやつ、怒ってるかもしれない。あたいだって、いきなり誰かにキスされたら嫌だもの。うう、気まづい。
横須賀のマリーネ基地。着物の裾をたくし上げ、ヒロヒトがペガサスの体を洗う。水が嫌いな赤城は、不快げに身じろぎする。たっぷり用意された飼い葉のため我慢している。
「こんにちは、赤城。わたしがママよ♪」
ヒロヒトは赤城を世話するのが大好きで、いつも鼻歌まじりになる。連戦の疲れも吹き飛ぶ。
うっとりと純白の翼を撫でながら言う。
「あなたは本当にうつくしいわ。恋人がいなくていいのかしら。ひとりで寂しくない?」
天馬は不機嫌そうに蹄で地面を掻く。余計なお世話らしい。
「じゃあ、わたしと結婚するのはどう? 天子と天馬、お似合いのカップルじゃない。さすがに子供は作れないだろうけど」
赤城は大きな舌で飼い主の顔を舐める。唾液まみれになりながらヒロヒトは笑う。
「あはは、赤城はツンデレなのね。まるでエイダちゃんみたい。ああ、早く会いたいなあ!」
ヒロヒトは赤城の首をきつく抱きしめる。エイダと会うのは「あのとき」以来。なにかが起きそうな予感で胸は張り裂ける寸前。
空から騒がしい声が聞こえる。見上げるとハーピーの瑞鶴が飛んでいる。姉の翔鶴も後に続く。
「こらヒロヒト、また赤城を贔屓してるな!」
着地した半人半鳥の女が、翼を広げて怒る。
「そんなことありません。わたしは【マリーネ】のみんなが好きですよ」
「だったらあちきと姉ちゃんにも御褒美くれよ! 囮役の姉ちゃんなんて、ケガばかりで一番損な任務なんだぞ。あちきはそれが不憫で……」
羽根で目元を隠し泣くフリをする。
「なにが欲しいですか?」
「肉! 叙々苑に行きたい!」
「あなたがたを高級焼肉店に連れてったら、国家財政が傾きそう……ただでさえ逼迫してるのに」
水を張ったドックで突然、波しぶきが飛ぶ。五階建てのビルほどの人型の頭部が浮かんだ。顔の中央に一つ目がある巨人サイクロプスだ。手に鉄槌を持っている。
ヒロヒトはこの単眼の巨人をはじめて見た。味方とはいえ恐ろしい。
「あなたが大和ね?」
「そうだべ。史上最大最強の幻獣だべ」
ミカドは巨人の右手を指差す。「とても大きなハンマーですね。なんでも壊せそう」
「雷も落とせるべ」
東京湾に数本の稲光が走り、轟音が響く。ヒロヒトは両耳を塞ぐ。赤城が暴れ、瑞鶴と翔鶴は飛んで逃げた。
大和がドックから上がる。かすかに動くだけで建物は激しく揺れ、和装の天子は柱につかまる。巨人は脛当てと胸当てを装備していた。
「オラは防禦も最強だべ。オラさえいればナデシコは無敵だべ」
背中と頭部が無防備なのにヒロヒトは気づいた。敵の飛行ユニットに攻撃されたらどうなるのか。
「わたしでさえ」ヒロヒトは巨人を見上げる。「あなたのことを名前しか知らなかった。なぜ諸元を公表しないのかしら。抑止力になるのに」
大和が嘲笑する。骨まで震動させる音量。
「所詮は人間の浅知恵だべ。オラのことは最高機密にしとくべ」
「でも、それだけ強力なら外交材料になります」
「邀撃作戦が聯合獣隊のドクトリンだべ。リバ公を近くに引きつけ、オラたち巨獣が待ち伏せて叩く。あんな羽根の生えたチビどもは頼りにならないべ」
遥か上空で瑞鶴が異を唱えている。地上ユニットと飛行ユニットは不仲だ。
ヒロヒトは腕組みし首を捻る。舵取りがむつかしい。
「うにゃあああああ! よっしゃハイスコア!」
ゲームセンターにいるエイダは、ガンシューティングのゲームをクリアした。どうしても秋葉原に行きたいと言うのでヒロヒトが連れてきた。
ミカドは目を瞠る。「初プレイでワンコインクリアってすごい! エイダちゃんって何をやらせても器用ですね」
「ヒロはすぐ死んだなあ」
「わたしはドラクエやFEとかが好きなんです」
はしゃぐ少女たちを、十名のSPが警護する。ほかの客はあえて天皇に見向きもしない。ヒロヒトは神のごとく敬愛されていた。
ふたりは仲良くプリクラを撮る。出来上がりを見てエイダが奇声をあげた。
「うわっ、キモッ!」
「自動で目の大きさが補正されるんですよね。エイダちゃんはもともと大きいからバランスが……」
「あのさあ、ナデシコの女子って外見にこだわりすぎじゃない?」
「元がかわいいから言えるんですよ」
「そんなことない。ヒロの方がかわいいよ。最近大人っぽくなったし」
「いやいやいやいや……」
ヒロヒトは幸福だった。いろいろ悩みはあるけど、すべて忘れられる。この時間が永遠に続いてほしいと願わずにいられない。
ペンで画面に「I love you.」と書いた。
エイダが笑う。「あはは、なに書いてんだよ!」
「冗談で書いたんじゃありません。あなたのことが好きです。愛してます」
「え……」
「もう自分の心に留めておけない。エイダちゃん、わたしの恋人になって」
皇居に戻ったヒロヒトとエイダは、千鳥ヶ淵の堀に沿って歩く。満開の夜桜を眺めながら。
エイダは多辯になり、真珠湾攻撃の戦術的革新性を褒め称える。
「ヒロはすごいよ。【マリーネ】の使い方を変えた功績で、世界の歴史に残るな」
「あくまで真珠湾攻撃は」ヒロヒトの表情に翳りが。「ガイスト鉱の供給を確実にするための前段階、支作戦にすぎません。本番はこれからです」
会話が途切れた。エイダは短い金髪をいじる。
ヒロヒトは足を止め、告白したばかりの相手と向き合う。薄紅色の着物が、宵闇に朧に浮かぶ。
「エイダちゃん。突然あんなことを言って、嫌われても仕方がない。でも無視されるのは耐えられない」
「む、無視なんかしてないよ」
小柄な天子は胸に手をやる。そこに懐剣を忍ばせている。
「わたしがどんな覚悟で告白したか、あなたは知ってるはず。大和撫子の本気を見くびらないで!」
強まった風が桜花を散らす。エイダは赤面し、蚊の鳴く様な声でつぶやく。
「あ、あたいは兄者が好きなんだ……ヒロの気持ちは嬉しいけど、はいとは言えないよ……」
「答えてくれてありがとう。これで前向きに日々をすごせます」
十一歳のヒロヒトにとり、生まれて初めての失恋だった。奥歯を噛みしめ泣くのを堪える。一面に花瓣が散らばる堀の水をじっと見つめる。
「なあ」エイダは気を揉む。「早まった真似はするなよ。ヒロさえよければ、ずっと友達でいてほしいんだ」
ついに一筋の涙がこぼれた。
「やっぱりエイダちゃんは優しいな。だから大好き。安心して、わたしは自分を粗末にはしません。身も心もあなたのものです」
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フクハラマサヤ『水瀬まりんの航海日誌』完結
水瀬まりんの航海日誌(ログブック)
作者:フクハラマサヤ
発行:芳文社 2014-5年
レーベル:まんがタイムKRコミックス
見習い水兵「まりん」の仕事も、そろそろ板についてきて……ない。
ここに引用した部分は、作者の技量をうかがわせる。
駆逐艦の激しい揺れ、クローズアップのかわいさ、脳天気ぶり、体を張ったオチ。
いまどきの萌え4コマのたのしさを凝縮。
最終第2巻で印象的なキャラは、潜水艦をあやつる「イーナ」。
艦内に引きこもりっぱなしで、お母さんに心配される。
食事を持ってきても、ちらっと顔をみせるだけ。
まりんを乗せて潜行中、巨大イカに襲われる。
絶体絶命ってほどじゃないが、艦長だから最悪の事態を想定してうごく。
かわいい顔して、女子がみな責任感つよいのが本作。
艦長「舞」のひととなりも類型的じゃない。
先頭に立ち部下を統率するより、お姫様抱っこされる方が多い。
でもそのやさしさが慕われている。
2巻で僕のすきなシーン。
休憩時間、まりんが地球の遊びであるリバーシをおしえる。
勝負そっちのけで、それがふたりだけの時間であることにときめく。
戦いと日常と百合のトライアングル。
ストーリー終盤は、陽炎が大和を旗艦とする大艦隊に挑むなど熱い。
昭和っぽい中二病趣味にツッコミもはいるが。
大成功した作品ではないにせよ、既視感あるけど新しかったり、
ガチミリタリーだけど殺伐度ゼロだったり、不思議なバランスが印象ぶかい。
さざめく波よりキラキラ。
百合のトライアングルのまぶしさが、目に焼きついて離れない。
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うみのとも『そよ風テイクオフ』
そよ風テイクオフ
作者:うみのとも
掲載誌:『まんがタイムきららMAX』(芳文社)2013年-
単行本:まんがタイムKRコミックス
[ためし読みはこちら]
人力飛行機をつくる「飛行部」の女子高生の物語。
自転車漕いでプロペラをまわす、『鳥人間コンテスト』に出てくるあれだ。
主人公は片側だけ三つ編みにリボンの「風牧紅羽」。
パイロットと部長をつとめる。
パラグライダーもハンググライダーもなんでもござれの、空を愛する少女。
アホ毛が鳥っぽい。
フクロウの「ジョー」をペットにしており、学校まで連れこむ。
やたら面倒見のよい鳥で、むしろ紅羽が世話されている。
たとえ人力でも、飛行機づくりは折り紙ほど簡単じゃない。
設計士の娘である「東雲こころ」が設計担当。
制服姿の女子を愛でながら、レイノルズ数がどうとか流体力学をまなべる、
いつもの漫画の殿堂、ドキドキ☆ビジュアル4コマだ。
海苔巻きの様にCFRPシートを巻いてパイプをつくる。
熱硬化させてるあいだは、パンを焼くみたいでウキウキ。
どんな地味な作業にも、女子っぽい要素を見出すのがきらら。
副部長の「小鳥遊桐江」が黙々と翼を組み立てる。
かしましい紅羽が隣室にいるので作業は捗るが、
キャッキャウフフの声が気になりウズウズ、結局集中できない。
天使の様に空を舞うヒロインと、それをサポートするスタッフたち。
「組織としての百合」を描くのが本作の特色。
天空をめざす乙女らに、ときめかない読者はいないだろう。
群青色の夢が風に乗り、狭い4コマの枠をこえ羽ばたく。
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烏丸渡『NOT LIVES』8巻 原点回帰
NOT LIVES -ノットライヴス-
作者:烏丸渡
掲載誌:『月刊コミック電撃大王』(アスキー・メディアワークス/KADOKAWA)2011年-
単行本:電撃コミックス
[ためし読み/以前の記事→1巻/2巻/3巻/4巻/5巻/6巻/7巻]
ラストバトル開始。
新ルールにのっとり与えられるスキルは、『テトリス』風のブロックで表現される。
あいかわらず見せ方がうまい。
4年つづく連載だが、視覚的なアイデアは涸れてない。
むしろ最後だからと一気に投入してきた。
「皇帝紳士」はファミコンの「パワーグローブ」を装着。
こんなおいしいネタを温存してたのが憎い。
人工衛星から放たれるビームで街ごと破壊。
ラスボス感出まくり。
微笑をたやさない謎のプレイヤー、「鉄壁のストラトス」も本格参戦。
そのモットーは、「防御は最大の攻撃」。
本作の登場人物は、プレイスタイルによってキャラ立ちする。
真ん中のあいたチャイナドレスとか、ビジュアル面でスキルを重ねがけ。
これぞ『NOT LIVES』!
天使の羽をおもわせる白き刃「ホワイトラプター」でキメるのは、1巻以来か。
集大成って感じがする。
へっぽこラブコメ要素もちょっとだけ進展。
告白になってない告白は、シゲルならではの低クオリティ。
僕の好きないつきちゃんについては、もうあきらめた。
彼女は不遇なんだ。
『NOT LIVES』の巻数は2桁で表記される。
もし10巻で終わるなら、うつくしい。
眠たげな天使の、悪魔的な奮戦を、目に焼きつけろ。
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