小説12 「真珠湾攻撃」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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 二〇四一年十二月二日、横須賀鎮守府。

 ヒロヒト天皇がペガサスの「赤城」のリードを引く。薄紫の着物に紅色の襷をかけた姿は凛々しい。見送りにきた三人の妹と母親に気づいた。

「留守をお願いします。みんな母上の言うことをよく聞くのですよ」

「はい!」

 普段は生意気な妹たちも、幼いなりに姉の決死の覚悟を察している。

 長妹のヤスヒトは緊張の面持ち。勉強もスポーツも得意な優等生で、のんきな姉と相性は良くないが、年が近いだけ共感する部分は多い。

「やっちゃん」ヒロヒトが妹の頬に触る。「もしものことがあれば、後はよろしくね」

「……姉上、御武運を!」

「ええ、無様な戦いはしません」

 ポールにDG旗が掲揚される。皇国の興廃この一戦にあり。感極まったヤスヒトが泣きじゃくる。

 沈黙を守る皇太后が叱責。「やめなさい、縁起でもない!」

「母上」恐縮するヒロヒト。「幼い妹を置いて遠征するのは心苦しいですが……」

「身勝手な行動には慣れてます。思う存分暴れてらっしゃい。それはともかく、あなた最後に髪を切ったのはいつ?」

「ええと……忙しかったから一年前くらいかな。あっでも、前髪はたまに自分で切ってます!」

 皇太后は溜息つき、白い鉢巻を渡す。「ナデシコの女は、たとえそこが地の果てでも、乱れた身なりをしてはいけません」

 ヒロヒトは伸び放題だった黒髪をギュッと纏める。赤城に跨り敬礼、空へ駆けのぼってゆく。




 十二月七日午前八時、志摩半島にあるリバティアのマリーネ基地。入り組んだ海岸線の湾に民間人が筏を浮かべ、真珠の養殖をおこなう。人はこの静かな海を「真珠湾」とよぶ。

 狭い湾口で十メートルほどの「夫婦岩」が波に洗われる。強力な結界が張られ、敵のガイスト兵器を無効化する。

 基地の司令官室でドロシー・マッカーサーが着替え中。ボーダーのニーソックスを履き、姿見の前に立つ。火炎の様な赤毛で口元を隠す。エメラルドの瞳がますます輝く。

 背筋を電流が走る。自分のうつくしさに感動して震える。もし神が藝術家なら、その最高傑作はボクにちがいない。

 誰もドロシーを「ナルシスト」呼ばわりしないし、当人もその自覚はない。彼女が家柄・容貌・知性・人望・戦技を兼備する完璧な戦乙女なのは、数学的公理。「1+2=3」みたく問題を解いたとして、その答えが傲慢とは言えまい。

 東京で見たナデシコ高官の醜態を思い出していた。一大臣が書き殴った、拘束力を持たないただの紙切れに周章狼狽する様子は、彼らが未開民族である證明。ドロシーはどちらかと言えばナデシコに好意的だが、それでもあの国は数年後に消滅していると思う。

「ああドリー、かわいい……すき、だいすき……本当にだいすき……ボクのいとしいドール……」

 辛抱たまらず黒衣の少女は、鏡台にしがみつき自分とキスする。ドロシーはドロシーに抱かれ、天に登るほどの幸福感に浸る。

 ドンドン!

 部下の叫びとドアを叩く音が、ドロシーを忘我の境地から引き戻す。毎朝の着替えは彼女にとり神聖な儀式で、絶対邪魔しないよう命じてある。敵襲でもないかぎり。どこのバカか知らないが、厳罰に処さねば。




 雲海を突き抜け、ペガサスが真珠湾へ急行。ハーピーの瑞鶴・セイレーンの翔鶴・フェニックスの加賀・ワイバーンの飛龍・ドラゴンの蒼龍が後につづく。

 戦史上前代未聞の規模の、飛行ユニット単独での空襲だ。東條らの猛反対を、赤城を見て「空戦の時代」の到来を直感したヒロヒトは押し切った。もしこの確信が間違いなら、わたしが海の藻屑となるだけ。自分の運命は自分で切り開く。エイダちゃんがそうしている様に。

 ハーピーの瑞鶴が先頭に並ぶ。

「なあ、目的地はまだか? 今日は早起きしたから眠いよ」

「ほら」ヒロヒトが指差す。「志摩半島が見えてきましたよ。気を引き締めてください。ところで瑞鶴、あなたには謝らなきゃいけない」

「なんで?」

「めったなことでは【マリーネ】を動かさないと約束したのに……」

「事情は聞いたよ。あちきらは戦うために作られたんだ。いざってときはやるさね」

「ありがとう。救われる思いです」

 夫婦岩の小さい方の「女岩」にセイレーンの翔鶴が腰かけ、竪琴を鳴らして歌う。耳から心臓へ媚薬を流し込む、魅惑の声。結界の張られた入り江の奥から、恐ろしい巨人たちが誘い出される。オクラホマ・カリフォルニア・ウェストバージニア・ペンシルバニア・アリゾナ・ネバダ……。

 待ち構えていた二匹の龍が火を吹く。波を立ててのた打ち回る巨人たちの急所を、瑞鶴が鉤爪で抉る。フェニックスの加賀が羽ばたくと、真珠湾は紅蓮の炎に呑みこまれた。

 ヒロヒトは「九十七式」を嵌めている。剣ではなく、中島製の魔法の指輪だ。灼熱地獄をものともせず赤城を駆り基地内へ侵入、有機物か無機物かを問わず、軍事的価値あるものすべてに雷撃をくわえる。

「父上、御覧になってますか? ヒロヒトは仇を取りましたよ!」

 体中に千の目をもつネバダが、脱出しようと湾口へ向かうも、力尽きて倒れる。このままでは巨体で脱出口を塞いでしまうため、岸に這い上がった。見ためは不気味でも知能は高い。

「でやぁああああッ!」

 ヒロヒトは加賀から飛び降り、光の刀でネバダを貫く。強化版の一式は開戦に間に合わず、いまだ九十七式のまま。区別して「チハ剣」と呼ぶ。

 背後から赤城のいななきが聞こえた。

 セイレーンの翔鶴が、緑の閃光を放つ槍で刺されている。黒衣の戦乙女、ドロシー・マッカーサーだ。武器は最新型の「M4シャーマン」。

 ヒロヒトが叫ぶ。「翔鶴、逃げなさい!」

 機転のきく瑞鶴が、双子の姉を攫って飛んでゆくのを見て安堵する。しかしリバティア軍の反撃や消火が活発化しだした。そろそろ潮時か。

 火柱を背に、漆黒のシルエットが浮かぶ。緑の光槍が、遣い手の感情に影響され火花を散らす。

「騙し討ちとは」ドロシーがすごむ。「ナデシコは卑怯だ。ボクの完璧な軍歴に傷をつけた罪は償ってもらう」

「あなたがたの流儀に合わせたまでです」

「逃げるなら今だと忠告しよう。相手が誰だろうと、ボクは手加減しない」

「望むところです。リバティアでは世話になりましたが、戦場で情けは無用。いざ、尋常に勝負!」

 ミカドが左上段に構える。

 ドロシーの端正な顔に嘲笑が浮かぶ。チハ剣はポンコツで有名な【パンツァー】だ。技量や経験でも自分が遅れを取るはずない。ヒロヒトの勇気は、むしろ蛮勇と評すべき。

 ふたりの少女が交叉する。

 ヒロヒトの鉢巻が切れ、はらりと落ちる。出血は、ない。

 チハ剣は、ドロシーの腹部を貫通した。黒衣の戦乙女は串刺しされたまま、「なぜだ」とつぶやく。M4はダメージを吸収しきれず機能停止。持ち主と同時に砂浜へ落ちた。

「ドロシーさん」ヒロヒトが見下ろす。「投降しますか? それとも死を望みますか?」

 和装の天子の乱れた黒髪が、朦朧となったドロシーの視野に映る。なんとゆう崇高さか。鏡のなかの「ドリー」より美しい人間がいたとは。

 ヒロヒトは再び問う。「ドロシーさん、返事がなければ……」

 ドロシーは喀血しつつ指輪をまさぐり、「C-47スカイトレイン」を発動させる。

「アイ・シャル・リターン」

 血の染みと人型の凹みだけが、砂の上に残った。




 床に十字柄があしらわれたホワイトハウスのオーバルオフィスに、全裸で立つ痩身のドロシーと、椅子に座るルーズベルト大統領がいる。机の上には趣味の切手収集用のストックブックが。

 ドロシーの滑らかな肌は傷ひとつない。ガイスト技術による損壊は修復可能で、首でも斬られないかぎり死なない。灼ける様な激痛の記憶は残っているが。

 つまり富めるリバティアの戦士は、命が無限にある様なもの。不公平な戦いと分かっているから、ヒロヒトは人身御供となってまで開戦を避けようとした。

 眼鏡の大統領は外科医みたく冷然と、背を向けるドロシーに紐のパンツを穿かせ、ストッキングをガーターベルトで留める。すべて黒。ドロシーは人形の様になすがままだが、触れられるたび微動する。

 ルーズベルトはよそよそしい声で言う。「対ナデシコの【マリーネ】は壊滅か。これで私の戦略に一年の遅れが生じた」

「言い訳はしません」ドロシーは紅潮しながらも真顔で答える。「ナデシコは強かった。ボクの油断が敗因のすべてです」

「二正面作戦を十分に遂行する力は、まだリバティアにない。しばらく敗北がつづく。雪辱を果たしたいだろうが、そう簡単ではないぞ」

 ドロシーは振り向いて懇願。「どうかチャンスをください! このまま解任されるのは、ボクにとって死ぬより辛いことです!」

 ルーズベルトは部下の股間に目をやる。勃起した男性器が下着からはみ出ている。ドロシーはアッと叫んでうずくまった。

 ドロシー・マッカーサーの本名は「ダグラス」。ファリーヌ系の母親に伝わる風習で、幼少期は女の恰好をして過ごした。養成校〔シコーラ〕に入っても女装癖はなおらず、人目を忍んで女物を着るのをルーズベルトに見咎められた。

 これが名高い軍人であるマッカーサーが、大統領の個人秘書の様に使われる理由。弱みを握られ、着せ替え人形として弄ばれていた。本人もまんざらではないのだが。その證拠に「彼女」の性器は、はち切れそうなほど膨張している。

「苦しいだろう」ルーズベルトはそこへ手を伸ばす。「私が出してやろう。手でも口でも」

 ドロシーは華奢な両手で大統領の首を絞める。涙がソバカスのある頬を濡らす。

「そこまで……そこまでボクは堕ちたくない……」

「ふふふ」大統領は動じない。「たまにはこうゆうプレイもいいかもな」

 興を削がれたルーズベルトは、退室を促す手つきをした。ドロシーはキャミソールだけ着て、ゴスロリ衣装を脇に抱え小走りする。この部屋の汚れた空気を一秒も吸いたくない。

 ドアノブを引きながら尋ねる。

「……大統領、ひとつだけ腑に落ちないことが」

「言いたまえ」

「あなたは、真珠湾が攻撃されると知っていたのですか?」

 静寂が執務室を満たす。

「大統領はすべてを知らなくてはいけないが、他の当局者は知らなくていいことがある」

「質問の答えになってません」

「では答えよう。リバティア国民を見殺しにするほど、私は堕落していない」

 ドロシーは扉を閉じる。愚問だったと後悔した。あの冷血漢に誠実な返事を期待するなんて。

 リメンバー・パールハーバー。いまボクが考えるべきは、これだけだ。




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桑佳あさ『老女的少女ひなたちゃん』

 

 

老女的少女ひなたちゃん

 

作者:桑佳あさ

掲載誌:『月刊コミックゼノン』(徳間書店)2014年-

単行本:ゼノンコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

スカートより、モンペ。

ファッションセンスより、あおぐ方の扇子。

 

個性的な5歳の幼稚園児「ひなた」は、88歳のおばあさんの生まれ変わり。

作品世界では、ほかにも「老女的少女」が存在する。

リアル幼女の反則的なかわいさも、ひょっとしてタイムパラドクスのせい?

 

 

 

 

前世での記憶ものこっている。

幼稚園におちていた梅の実で、好物の梅干しをつくり皆にふるまう。

チート性能をいかした活躍がみどころ。

 

 

 

 

周囲には、自分の中身がおばあちゃんなのを隠す。

しゃべり方はババ臭いが、よく気の利く、できた娘とおもわれている。

 

家事はいまの母親より得意。

88+5歳だから当然だけど。

 

 

 

 

娘が遥かに年上と知らず、賢しらな態度で世話を焼く若いママ。

気の毒なのでなにも言わない、ひなたの視線がサスペンスフル。

 

本作にはエレクトラ・コンプレックス的な残酷さがある。

「母性」に対するアンチテーゼとの解釈もなりたつ。

 

 

 

 

スマートフォン時代の文化に、おばあちゃんの知恵で対抗する、

「たった一人の反乱」がたのしいが、ときに世界と和解することも。

たとえばお祭りの日とか。

 

 

 

 

時代を超えて変わらないもの、たとえば海とか。

感動的なシーンだ。

 

 

 

 

93年も生きれば、だれだって悟りの一つや二つひらけるだろう。

そんなひなたの目を借りて見る世界はみずみずしい。

たわいない泥団子合戦だって、かがやいている。






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松井勝法『ハナカク -The Last Girl Standing-』4巻 死闘のあとさき

 

 

ハナカク -The Last Girl Standing-

 

作者:松井勝法

掲載誌:『月刊コミックゼノン』(徳間書店)2013-5年

単行本:ゼノンコミックス

ためし読み/過去の記事→1巻/2巻/3巻

 

 

 

キックで圧倒する「ニナ」に対し、カウンターの隙をうががう「花夏」。

絶望の淵に足をかけてのダンス。

駆け引きがアツい。

 

 

 

 

キックで制空権を握られてもパンチがある。

パンチを見切られても寝技がある。

総合格闘技ならではの総力戦をギュッとつめこんだ名勝負だ。

 

 

 

 

格闘のディテールこそが『ハナカク』の神髄。

おしゃれなニナの露出多めのリングコスチュームが、

試合終盤の汗でバックチョークを滑らせ、命取りに。

 

 

 

 

ゴングが鳴ったあと、試合前の事情があかされる。

強さに裏打ちされた傲慢さが、勝敗を運命づけていたことなど。

 

松井勝法は、ツインテ少女を肯定も否定もしない。

とにかくいい顔をしている。

 

 

 

 

客がはけた会場で、花夏の同級生ふたりは席を立たずにたたずむ。

たとえ拳を交えなくても、いい顔してる。

 

僕は格闘技にくわしくないけど、サッカーの試合後に似た感覚を味わったことが。

 

 

 

 

花夏とコハの友情も、本作の得意技。

ニナ戦後に進展をみせ、いよいよガチ百合かとおもわせる。

 

 

 

 

勿論『ハナカク』のガチ百合は、ベッドでなくリングで催される。

 

作者のツイッターでの発言によると、本作は掲載誌をかえ続行するらしい。

ときに匂いやかに咲き誇り、ときにはかなく散る、

色とりどりの名花が、また鮮烈な表情をみせてくれるのだろう。






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小説11 「ハル・ノート」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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 ホワイトハウス三階の室内プールで泳ぐのが、フランクリン・ルーズベルトの日課だ。障碍があるからこそ一層、猛烈に体を鍛える。ボクシングのヘビー級王者ジャック・デンプシーに肉体美を褒められたのが自慢だった。

 黒衣のドロシー・マッカーサーは、バスタオルをもって大統領を目で追う。とても下半身不随に見えない速度に舌を巻く。バケモノじみた精力だ。

 国務長官のコーディリア・ハルがあらわれた。ブロンドの髪をショートボブにした二十三歳。白のジャケットを羽織り、ピンクのスカーフを胸に垂らす華やかな装い。

「きゃあ、ドロシー!」開口一番ファッションの話題。「リボンつきのカチューシャかわいい! どこで買ったのぉ?」

「ボクの服はほとんど大統領からいただいたものです」

「ふぅーん」

 コーディリアは、十七歳の黒衣の少女の全身をねめまわし値踏みする。彼女はルーズベルトが築いたハーレムの長で、公式に後継者に指名されてもいた。ルーズベルトが史上初めて三選されたせいで、大統領就任は遠のいているが。

 国務長官はタオルをひったくって走り、大統領がプールから上がるのを手助けする。地上では無能力者にひとしい。

「お疲れさまですぅ、ミスター・プレジデント。逞しい泳ぎに惚れ惚れしちゃう!」

「ありがとう、ディリー」ルーズベルトは横たわって体を拭かせる。「ナデシコとの交渉はどうなった?」

「えへっ、順調ですよぉ。ガイスト鉱を禁輸するって聞いたら、野村大使が目を白黒させちゃって。超ウケたんですけど」

 コーディリアが身をよじる。大統領がフレアスカートごしに尻を撫でたから。

 ドロシーは見て見ぬふりし、胸元の黒いリボンを直す。

 ルーズベルトがドロシーの方を向く。「〈トレーダー〉としてはどう思う?」

「協定案はもっと宥和的であるべきかと。ナデシコの政体は特殊で、反応が予測困難です」

「ミスター・プレジデント」コーディリアはルーズベルトの顔を自分に向ける。「あのコは戦争屋だから、『ミュンヘン会談』の失敗も知らないの。真に受けないでねぇ」

 食い下がるドロシー。「ボクは必ずしもチェンバレンが間違っていたと思いません」

 コーディリアの頬が痙攣。この世にドロシー・マッカーサーほど目障りな女はいない。名将の娘で、ガイスト適合者の養成校〔シコーラ〕を史上最優等の成績で卒業した天才。なにより彫刻みたく端正な美貌が、外見に自信のあるコーディリアにさえ劣等感を抱かせる。

「なんなのよ! 変な服着た女にゴチャゴチャ言われたくないんだけど……ああん、らめぇッ!」

 大統領の右手がスカートの中まで侵入した。

「ドロシーの懸念は正しい」ルーズベルトは指を動かしつつ言う。「まだリバティアの軍備は整っていない。少なくともあと二年必要だ。一方で我々はデモクラシーを守るため、孤立主義を捨てねばならない。暴発しない程度にやつらの頭を小突いてコントロールするんだ」




 更衣室でコーディリアは五つめの水着を試すが、フリルつきのピンクのトップスは体に合わない。

「残念、可愛かったんだけどなぁ。ねぇドロシー、この黒いビキニはあなたに似合うんじゃない?」

 ゴスロリ少女の胸の膨らみは小さいし、それすら「盛ってる」とコーディリアは睨んでいた。水着で大統領の前に並べば勝てる。若さではちょっと負けるが、さらに年下の女をハーレムにいれて対抗馬にすればいい。計画は進行中だ。

 狼狽するドロシー。「ボ、ボクは水泳が苦手で……」

「ん、生理だったぁ? でも泳げなくてもいいじゃん。こうゆうカッコして御奉仕するのがあたしらの仕事でしょぉ」

「ほ、ほんとにダメなんです……ごめんなさい、いまからナデシコへ行ってきます!」

 そばかすの浮かぶ頬を染めたドロシーは、棚にあった外交文書をつかんでプールの外へ飛び出す。全裸のコーディリアは肩をすくめた。

 まだ書きかけだけど、まいっか。邪魔者がいない間に、大統領とイチャイチャしちゃお。




 皇居一の間に、主要閣僚と参謀将校がならぶ。屏風を背に、ヨシヒト天皇が病身をおして座っている。摂政ヒロヒトやエイダの姿もみえる。

 特使をつとめるドロシー・マッカーサーが、外務大臣・東郷茂徳にリバティア政府の提案書を渡す。のちに怒りと後悔を込め「ハル・ノート」と呼ばれる文書だ。ナデシコの高官は説明を聞くうち激昂、総理大臣・東條英機など禿頭を真っ赤にする。

「貴様らは」東條が軍刀に手をかけ叫ぶ。「摂政ヒロヒト殿下を人質に要求するのか!?」

 続いての条件は衝撃的だった。リバティアへの留学に先立ってヒロヒトは性病検査をおこない、その診断書を提出すべし。ルーズベルトの愛人になれとの要求と解釈できる。

 エイダが唸りながら、激しく爪を噛む。あくまでアドバイザーなので自分から発言しないが、いまにもドロシーに飛び掛かりそう。

 当のヒロヒトは胸を張り、微笑に見えなくもない柔和な表情を保っている。

「陛下」父に向かい進言。「わたしはリバティアへ参ります。これは国家の一大事、わたしひとりの犠牲など比較になりません」

 ヨシヒト天皇がかすれ声で言う。「しかし、自分の娘を売るような真似はできない……」

「わたしはリバティアの豊かさをこの目で見ました。国力はおよそ十倍、戦えば勝負になりません。ましてガイスト鉱の九十三パーセントをかの国から輸入しているのですから」

 堪忍袋の緒が切れたエイダが、黒衣を纏うドロシーの首根っこをつかむ。

「同盟国にこんな無理無体を働くなら、アイゼンが黙っちゃいないぞ!」

 ドロシーは手首を押し返す。「ボクはただのメッセンジャーです。感情的にならないでください。それにもし貴国が『黙ってない』なら、ルーズベルト大統領はむしろ歓迎しそうですが」

 青い目のショートパンツ少女と、緑の目のゴスロリ少女が睨みあう。

「ヒロ!」エイダは声を張り上げる。「この文書がどうゆう意味か、ヒロはわかってないんだ」

 ヒロヒトは紫の着物の衿から、懐剣の柄をちらりと見せる。

「これでも皇胤たる身、ナデシコの名を汚しはしません。一刀をもってルーズベルトを斃し、すぐさまこの胸を突いて果てます」

 剣呑な発言に片眉を上げたドロシーと目が合う。昨年夏にリバティアを訪問したときは親しく接したが、再会を祝す空気ではない。

 ヒロヒトは部屋の中央に正座し、両手を揃えて身を屈め最敬礼する。

「父上、どうか御決断を!」




 三時間後、ヒロヒトは滂沱しながら退室。精も根も尽きはて、エイダに抱きかかえられる。十一歳の娘には酷な状況だった。

「ああ、情けない!」嗚咽混じりに嘆く。「明治帝は毅然とした名君でいらしたけど、父上は……。それとも男とゆう生き物は、皆ああなの……」

「大丈夫だ」エイダが肩を擦る。「アイゼンが極力応援する。とにかくナデシコは時間を稼げ」

「エイダちゃん、男って例外なく意地汚くて卑しい生き物なの?」

「なあヒロ、しっかりしろ。あたいはこれ以上出発を遅らせられない」

「わたしは神に誓って、殿方を一生近づけない……」

 エイダは思い切って唇を、親友の唇に重ねた。エーリッヒのため取っておいたファーストキスだが、この際やむを得ない。

 ヒロヒトは口元を手でおさえ目を見開く。

「エ……エイダちゃん、なにを!?」

「ようやく目が覚めたか、お姫様。じゃあ、あたいは行くからな。毎日電話しろよ!」

 エイダは右手で受話器をもつ仕草をし、左の親指を立てる。約束どおり、ふたりは笑顔で別れた。




 翌朝ヒロヒトは、東條に連れられ父の寝室をおとづれた。息をしていない。首吊り自殺だった。

 悲しみに胸を貫かれたが、それ以上に「逃げられた」とゆう失望感が強い。遺書すらない。

「姫様」東條が囁く。「まことに遺憾ながら、式の準備をせねばなりません」

「式? ああ、葬儀のことですね。この大変な時期に御苦労をかけます」

「ちがいます、即位の礼です。あなたが天皇陛下におなりあそばすのですぞ」

 全宇宙の重力が、彼女の背中に集まるのを感じた。呼吸がとまり、卒倒しかける。ヒロヒトは「西方電撃戦」で震えていたエイダを思い出し、己を奮い立たす。

 だれだって怖い。だからわたしにだって、できるはず。

「いまは非常事態です」今上天皇がほほ笑む。「式典などは後回しでよろしい」

「しかし……」

「事ここに至れば是非もなし。爺、横須賀へ向かいましょう。鬼畜リバティアに痛撃をくわえ、ナデシコの意地を世界に知らしめるのです」




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めの『かわいさ余って好きさ100倍!!』

『ボーイフレンド』

 

 

かわいさ余って好きさ100倍!!

 

作者:めの

発行:一迅社 2015年

レーベル:百合姫コミックス

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電撃から『ちぐはぐ少女のダイアログ』でデビューしている「めの」の、

同人誌で発表した百合作品を編んだもの。

初出はいづれも2014年以降。

コクったらすかさず「うんいいよ」で答える、百合合法時代の息吹を満喫できる。

 

 

 

 

初デートでお揃いの1500円のヘアゴムを買う。

イケメンの「優子」は腕につけると言ったのに、髪に飾った。

ギャグだとおもって笑う、女子力高い「理沙」。

 

女同士だからこそすれ違い、悪意なく傷つけあうアンチノミー。

百合がはらむ本質的な残酷さに陶然とする。

 

 

『眠り姫は無邪気に笑う』

 

 

互いに互いを束縛しあう、女同士のめんどくささ。

昼休みにちょっと別行動しただけで陰口の対象に。

 

女のコミュニティに対する冷めた視線は、百合漫画ならではの趣向。

 

 

『告白アフター』

 

 

百合漫画のヒロインたちがめざすのは、コミュニティでなく戦場。

真剣で斬り結び、透明な血をながす。

 

告白に告白で返され、「うそぉぉー」と感涙にむせぶお下げ髪の少女。

求愛した側があきれて苦笑い。

千手先まで読んだって、百合に詰みはない。

 

 

『Ah.好きだよ。』

 

 

お絵かきに興じる幼い「ありさ」。

男は描かない。

かわいくないから描いてもたのしくない。

それって普通でしょ?

 

 

「森永みるく」ならぬ「森野バター」を読み耽る

 

 

18歳になったら、少女漫画より百合漫画に夢中。

相手も女の子だから、かわいさは二倍でお得だもん。

 

生得的行動か、それとも時代の風潮か、

百合の本能とよぶべきものがたしかに存在する。

 

 

 

 

幼なじみの女から突然、LINEで告られた。

さすがに驚いてiPhoneがお茶まみれに。

あわててティッシュで拭きつつ、「リアル百合ですか…」とつぶやく。

 

ファンタジーにとどめておきたかったけど、それが運命なら受け容れるしかない。

タイムラインは自分で操作できない。






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テーマ : 百合漫画
ジャンル : アニメ・コミック

タグ: 百合姫コミックス  百合 

たかみち『百万畳ラビリンス』

 

 

百万畳ラビリンス

 

作者:たかみち

発行:少年画報社 2015年

レーベル:YKコミックス

ためし読み/過去の記事→『ゆるゆる』1巻/2巻/3巻/『りとうのうみ』/『LOVE WORKS』/『SUMMER WORKS』/『果てしなく青い、この空の下で…。』

 

 

 

たかみちが、弐瓶勉になってしまった。

そびえ立つ白黒のメガストラクチャーが、読むものを圧迫。

水辺を跳ねまわる無邪気な少女もいない。

 

作者はあとがきで言う、「もっとも自分らしい作品になった」と。

ちょちょちょ、待ってくれ。

あの美しい「たかみちブルー」は、あなたらしさじゃなかったの?

 

 

 

 

「礼香」と「庸子」は女子大生で、ゲーム会社でデバッグのバイトをしている。

黙々と開発中のゲームをプレイし、不具合をみつける仕事。

 

 

 

 

妄想か、それとも現実世界におきた異変か。

いつのまに紛れこんだ迷宮での脱出ゲームがはじまる。

 

長髪の礼香は夏服が似合う、超俗的なたかみちヒロインの典型だが、

記号的に誇張されたブサイクの庸子が、全篇にわたり画面を占める。

いつもの様に可愛さをもとめる読者はつらい。

天使と戯れた楽園からの追放。

 

 

 

 

たかみちと言えば「水」。

癒やしと透明感と輝きと女性性の象徴だった。

本作では、わざと蛇口を便器の隣に置いたり。

 

乙女が湯浴みする水も、トイレで流れる水も、

おなじ物質だろうと言いたげな、ファンにとって残酷な仕打ち。

 

 

 

 

観察力と発想力で「クリエイター」の裏をかき、

ラビリンスの突破口をひらく礼香のゲーム脳がよみどころ。

「ちゃぶ台砲」のひらめきに唸らされた。

 

理知的な物語であり、壮大かつ緻密な構成ゆえSF漫画に分類されるだろう。

もともと、たかみち作品は推理モノの要素が色濃い。

宇宙をつかさどるほどの礼香の知性は、『ゆるゆる』の「ユキ」さながら。

 

 

 

 

ここに描かれているのは、黒幕としての女子。

ユキがハルカの制服を直してあげた様に、

きょうも世界は一見つつましい女が、背後で糸をあやつる。

 

おのれの藝風を封印した縛りプレイのせいで、

かえってたかみち女子は抽象性がまし、印象がより鮮烈に。

『スプラトゥーン』のイカみたいなもの。

きっと必然なのだろうけど、それでも彼女らは一種の奇跡にみえる。

 

 

 

 

背景に溶けてゆくヒロイン。

『コミックLO』の表紙と同様に。

 

弐瓶勉『BLAME!』や士郎正宗『攻殻機動隊』への返答でもある本作は、

それらに特徴的な憂鬱さや殺伐さと縁のない、異色の時空を垣間みせる。






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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: たかみち 

篠田芽衣子『89番目のおんがく』

 

 

89番目のおんがく

 

作者:篠田芽衣子

掲載誌:『COMICリュウ』(徳間書店)2015年-

単行本:RYU COMICS

[ためし読みはこちら

 

 

 

高校生のピアニスト「上城裕也」の物語。

聴衆を熱狂させ、感涙させる力をもつ。

 

 

 

 

コンサートがおわり、熱心なお姉さまがたに囲まれる。

内心「これで満足かババア共」と悪態つきながら。

 

状況はただごとじゃない。

冒頭10ページで読者の心をつかむ。

 

 

 

 

上城が抱える葛藤は、交通事故で亡くなった兄への愛憎。

おなじくピアニストの兄に対する劣等感に苛まれ、生前は忌避したのに、

死後は彼の演奏を模して、追悼リサイタルをおこなっている。

 

 

 

 

哀れなまでの矛盾が、夜ごとに上城を苦しめる。

狂気におちいる寸前まで。

 

あだち充『タッチ』みたいなドラマ上の仕掛けと、

主人公の内面をえぐる描写が光る新人作家だ。

 

 

 

 

「お姉さまがた」も決して上城の味方ではない。

兄の忠実なコピーであることを期待し、そう強制する。

 

他者の酷薄さが、かわいらしい絵柄ゆえに一層ふかく、読み手の心に刺さる。

 

 

 

 

篠田芽衣子は1990年うまれ、京都精華大学マンガ学部を卒業している。

クラシック音楽が題材なのは、専任教員のさそうあきらの影響もあるか。

 

 

 

 

演奏者が飛んだり跳ねたりしないクラシックは地味なジャンルで、

「音楽をどう絵で表現するか」とゆう難問がつきまとう。

僕は不可能なんじゃないかとすら思っている。

すくなくとも『ラブライブ!』の様にはいかない。

 

篠田芽衣子は「エアピアノ」とゆう着想で、このアポリアを解決した。

才能をもつ人間と、もたない人間がいるとしたら、彼女はまちがいなく前者だ。

 

 

 

 

『89番目のおんがく』1巻は、変に理想化されてない、

ふたりの男子のリアルな交流がえがかれていた。

次巻からは、長髪の美少女も本格的にコミットし、

より華やかなオペラがくりひろげられるのだろう。






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八十八良『不死の猟犬』3巻 白雪姫の中出しセックス

 

 

不死(しなず)の猟犬

 

作者:八十八良

掲載誌:『ハルタ』(エンターブレイン/KADOKAWA)2013年-

単行本:ビームコミックス

ためし読み/過去の記事→1巻/2巻

 

 

 

その少女「白雪姫」は、39人殺したテロリスト。

セックスで病気をばらまく。

ふしだらで、ナルシストで、ボクっ娘で、純粋に愛をもとめて……。

髪留めとジャージに十字をあしらい、ヘッドフォンはチョーカーの役をはたす。

キャッチーだけど底がしれない造形の妙。

 

 

 

 

夜の公園でナンパされる。

用事はあるけど、せっかくだから相手することに。

朝まで僕を愛してくれるなら。

ただし愛のないセックスは嫌いだから、順番にひとりづつね。

 

 

 

 

白雪姫はおもにネトゲを通じターゲットをみつくろう。

ツイッターの流行語「オタサーの姫」に影響されたらしいキャラだ。

ネットの流行とおなじく姫も、無目的に刹那的に頽廃的にふるまう。

 

 

 

 

こちらは3巻の名場面、「姫の中出しセックス」。

男もすなる中出しといふものを、女もしてみむとてするなり。

 

 

 

 

「愛してる 愛してる 愛してるぞぉ!!」

 

まるで男みたく、空虚な愛を叫びながらイク。

紀貫之的にこんがらがるボクっ娘のエロス。

 

 

 

 

2巻の記事で「『不死の猟犬』は本質的にラブコメ漫画だ」と書いたが、

残念ながら僕はピントをはづしてた様だ。

おそらく本作は、なにものでもない。

 

 

20話扉

 

 

「ゾンビが普通で、寿命のある人間の方が異常」とゆうアイデアひとつで、

みじかいダッシュをくりかえす、作者の瞬発力をみせつける作品らしい。

 

読者は毎話、扉絵の空気感にもっていかれ、訳もわからないまま終わる。

 

 

18話扉

 

 

それはそれで、アリだとおもう。

愛おしいとおもう。

だって事前にシナリオを用意したセックスなんて最悪でしょう。






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小説10 「天駆ける馬、赤城」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


全篇を縦書きで読む








 帰国したヒロヒトが、横須賀ガイスト工廠で技術士官に囲まれて熱辯をふるう。テーブルに図面や工具がちらばる。

「世界の【パンツァー】の進化は日進月歩です。ナデシコの九十七式の缺点はたくさんありますが、致命的なのは防禦力の弱さで……」

 技術者たちは真剣な表情で頷き、メモをとる。開発競争に遅れをとれば国が滅びかねないことを、みな意識している。

 ヒロヒトは開発中の新兵器を渡された。防禦力と機動力を強化した「一式」だ。刀状の九十七式より柄が長い、薙刀の外形。試しに素振りをおこなう。

「えいッ! たあッ! うん、かなり良くなりましたね。でも威力をもっと上げないと。完成を急いでください」

 長い黒髪が汗で額に貼りつく。東條英機が好物の羊羹と茶を用意したが、姫君はお茶を一口すすっただけで打ち合わせに戻る。

 姫様がお菓子に手をつけないなんて、と東條は目を疑う。本国でヒロヒトは一挙手一投足が注目される。留学中の様にはふるまえない。顔つきも急に大人びてきた。

 突然、「立入禁止」と書かれた奥の赤いシャッターごしに、ドタンバタンと物音が響く。動物と人間が騒ぐ声も聞こえる。

 姫君が訝る。「なにごとですか?」

「え、ええ」技術士官が作り笑いを浮かべる。「ここではよくあることです。お気になさらずに」

「シャッターを開けなさい」

 ナデシコの軍人がいかに悪しき秘密主義に染まっているか、ヒロヒトは海外経験で学んだ。判断するときは、できるだけ自分の目で見るべし。

 中には足を鎖で繋がれた白馬がいた。だいぶ暴れたらしく、留め具で傷ついた足が出血する。蹴り上げられた管理担当官が気絶している。

「まあ、なんて美しい生き物なの!」

 和装の姫君は我を忘れて駆け寄った。白馬の背に翼が生えている。天駆ける馬、ペガサスだ。莫大な水を素材とするガイスト技術【マリーネ】の一種として運用される。

「かわいそうに」ヒロヒトの目が潤む。「すぐ鎖を外してあげますね」

「ひ、姫様!」東條が慌てる。「この馬は『赤城』と言いまして、非常に気性が荒いのです。すでに三十人も蹴り殺されたほどで」

 ヒロヒトは幻獣のつぶらな瞳を覗きこむ。人間に拘束され誇りを傷つけられたが、理不尽な運命にじっと耐えている様に見える。

「責任はわたしが取りますから、外してください。あと彼は馬ではありません。ペガサスです」

「まったく」東條は顔をしかめる。「言い出したら聞かないんだから。ただし、絶対触ってはいけませんよ……あッ!」

 ヒロヒトは鞍もない天馬の背にひらりと飛び乗った。着物の裾がはだけ黒のレギンスが露わに。太い首を抱き、頬を寄せて囁く。

「赤城、苦労を掛けてごめんなさい。あなたの気高さや繊細さを、あの人たちは理解できないの。でも安心してね、今日から自由に暮らせるわ」

 天馬は高らかにいななき、猛然と駆けだす。周囲の制止をふりきり工廠の外に出た。ひろげた翼をはためかせ、瞬く間に上空へ。姫君は夢中でしがみつく。

「あはは、すてき! クレーンがあんなに小さく見える……ほら爺、ここまでおいで!」

 振り落とさないよう赤城がバランスをとるのが伝わるので、恐怖は感じない。アイゼンでも見たことないガイスト技術の神秘に感動するばかり。

 雲の向こうから、大きな鳥が飛んでくる。上半身はヒトの女の姿をもつハーピーだ。

「こいつはビックリだ」ハーピーが羽ばたきながら言う。「潔癖症の赤城が人間を乗せてるよ!」

 ヒロヒトは会釈する。「はじめまして、わたしは内親王ヒロヒト。あなたのお名前は?」

「あちきは『瑞鶴』ってんだ。ふーん、あんたが最近帰ってきた姫さんか。なんで赤城に乗ってんの?」

「気づいたらいつの間に空を飛んでて……」

「どーせ戦争に使おうってんだろ」

「いいえ、あなたたちは大事なナデシコの守り神。めったなことでは動かしません」

 瑞鶴はヒロヒトをまじまじと観察する。

「へえ、そーかい。信用していいのか分かんないけど、一応姉ちゃんも紹介しとくか。おーい、こっち来い!」

 雲のなかから、ほぼおなじ外見の半人半鳥が滑空する。

「このあちきそっくりの美人が」瑞鶴が羽で指す。「双子の姉の『翔鶴』。あちきと違ってセイレーンだから間違えんなよ。チョー歌がうまいんだぜ。ほら姉ちゃん、挨拶しな」

「…………」翔鶴は妹の陰に隠れた。

「しっかりしろよ、長女だろ……。まあこんな感じでコミュ障だけど、歌を聞けば人間はみんな惚れちゃうのさ。姉妹ともどもよろしくな!」

 ハーピーの無邪気な笑顔がヒロヒトに伝染する。たのしい友達がふえて嬉しい。

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」




 恰幅のよいゲオルギー・ジューコフ上級大将が、クレムリンの廊下をのし歩く。気分は重い。溺愛する弟を失った上司に、これからまみえるから。心神喪失状態にあるとも聞く。

 ドアをあけると、ユリア・スターリンが拳銃の銃身を口に咥えている。

「なにをしているのです!」

 ジューコフはあわてて銃を取り上げる。スライドを引くと薬室が装填されており、背筋に寒気が走った。

「返しなさい!」ユリアは爪をたて部下に掴みかかる。「ヤーシャの宝物をどうする気!?」

「お辛いのはわかります。しかしこの難局を乗り切るには同志が必要なのです」

「返せ、泥棒!」

 高官同士の見苦しい取っ組み合いが続く。騒ぎを聞きつけた兵士二名が力づくでユリアを椅子へ押しつけた。

 ユリアはジューコフの報告に関心をしめさない。ときおり冷笑めいた表情を浮かべるのみ。アイゼン軍による大量虐殺、特に【ヴァンピーア】に対するそれにすら無反応。

「同志スターリン」ジューコフは苛立つ。「あなたの民族が絶滅しかかってるんですよ!」

「うるさいわね。あなたは声が大きすぎる」

「茶化さないでくだされ!」

「いたって大マジメだけど。大量虐殺が悪いんなら、あたしはどうなるのよ。処刑でもする? 好きにしたらいいわ」

「同志……」

「ところであなた、なぜ靴下を手に持ってるの? 暖かそうでいいわね。ヤーシャは寒がりだから、きっと喜ぶわ。ちょうだいな」

 黒の厚手の靴下を胸にあて、ユリアは聖母の様にほほえむ。

「それは【ヴァンピーア】の頭髪から作られたものです。アイゼンは彼らの金品を奪い、強制労働させ、役に立たない人間を殺します。ただし、使えるものはすべて毟り取ってから」

 ユリアは靴下を取り落とす。「ふふっ……うふふふ……」

 やるじゃない、子猫ちゃん。ここまで徹底的に掠奪するんだ。こんなに貪慾なんだ。ヤーシャの命だけじゃ足りないくらい。

 そっちがその気なら、受けて立つわ。




 エーリッヒ・フォン・マンシュタインは前線を離れ、越後を訪れていた。パルチザンによる奇襲が活発化し、後方が撹乱されるのに対処しにきた。

 越後はかつて「オーゼル」とゆう〈ブランド〉があったが、アイゼンに合併されてからはローザリンデ・ハイドリヒ親衛隊大将が統轄する。行政官庁は春日山城に置かれている。

 ハイドリヒのオフィスから、ピアノの伴奏にあわせバイオリンの音が流れ出る。技術的に完璧なだけでなく、演奏者の孤独感がにじみでる様な、プロ顔負けの音色だった。

 エーリッヒの来訪に気づき、ローザリンデが弓をとめた。金髪を両側でまとめツインテールにしている。服はフィールドグレーのSSの制服。

「御機嫌よろしゅう、元帥」ローザは細い目をさらに細める。「ヘンデルはお好きでして?」

 エーリッヒはぶっきら棒に答える。「あまり詳しくない」

「そうそう、モーツァルトを嗜まれるんでしたわね」

 銀髪の青年は警戒する。無口な彼は、エイダとすら音楽の話をしたことがない。ワーグナー崇拝者の彼女と趣味が合わないから。ではなぜローザが知ってるのか?

 国家保安本部、そしてローザリンデ・ハイドリヒに知らないことはない。少なくともそう人に思わせていた。長野で高級娼館を経営し、そこで客に諜報をおこなっているとの噂もある。ときに自分が客を取るとさえ……。とにかくアイゼンでもっとも危険な人物だった。

「パルチザンについて相談に来た」エーリッヒが言う。「国防軍はゲリラ戦の適性が乏しい。非常に不本意だが、SSの助けを借りたい」

「おーっほっほ」ローザは口元を隠して笑う。「皆が元帥の様に正直だと、あたくしの仕事も少なくて済みますのに。では佐渡島へ参りましょう。収容所を直に御覧になるとよろしくてよ」




 異臭、鉄面皮な警備兵、絶望すら忘れた収容者の表情……。鉄条網に囲まれたその強制収容所は、一目見ただけでその活動の忌まわしさが直感できる施設だった。

 貨物船が到着し、あらたな収容者数百名が「荷降ろし」される。その内訳は被差別民族・政治犯・同性愛者・障碍者など。ライフルの銃把で殴られても我が子を抱いたままの女に、犬をけしかけて無理に引き離す。

 エーリッヒは水筒の水で胃薬をながしこむ。

「まさか、アイゼンがこれほどの非道を働いていたとは……。ハイドリヒ、貴様は良心が痛まないのか!?」

「あら、心外でしてよ」ローザリンデは片眉を上げる。「あたくしほどの温情主義者は歴史上存在しないのですから。どの様にパルチザンを掃討したか御存じ?」

「たやすく想像つく。不当逮捕・拷問・裁判なしの死刑執行……」

「ドゥムコップフ! 当代随一の名将も、治安維持に関しては白痴同然ですのね」

「なんだと?」さすがのエーリッヒも血相変える。

「あたくしが最初にしたのは、最低賃金の五十パーセント引き上げですわ。労働者階級を懐柔し、パルチザンのリーダー格どもが焦って暴走したところを一斉に弾圧。アメはひたすら甘く、ムチはひたすら痛く。これがあたくしの統治哲学ですの」

 ツインテ少女が胸を反らせ思想を開陳するのを、銀髪の青年は黙って聞いていた。警察活動は誰かがやらねばならない。自分にその余力がなく、ローザがこの分野の権威なのは事実。汚れ仕事を頼める人間など、そういるものではない。

 いくつか情報を交換したあと、エーリッヒはまた戦場へ向かった。

「おーっほっほ」客を見送りながらローザは勝ち誇る。「総統から『ヴァンピーア問題の最終的解決』を任されたのが、このあたくし。それはアイゼン最大の秘密を握ったのを意味する。つまりいづれあたくしが帝国を牛耳るのですわ!」




 天と地を駆けまわり埃だらけの赤城を、ヒロヒトがホースで水をかけ洗う。

「ふぁーいあーえーむぶれむ、てーごわいシミュレーション♪」

 上機嫌の姫君は鼻歌まじり。大好きなゲーム『ファイアーエムブレム』の「ペガサスナイト」になった気分でいる。赤城はマスターを信頼し、嫌いな水をじっと我慢する。

「よう、ヒロ!」エイダが姿を見せた。「うひゃあ、ペガサスか。ナデシコの【マリーネ】は立派だなあ」

「えへへ、可愛い子でしょう! 東京はどうでしたか?」

「体調が悪いらしく陛下には会えなかったけど、お袋さんに挨拶できたぞ。ちょっと怖い感じだな。『早く東京に戻れ』と伝えるよう頼まれた」

「あはは……また怒られる……」

 ヒロヒトの帰国に付き添い、エイダもナデシコを訪問していた。滞在は二日間の予定で、すぐ東部戦線へ復帰する。

 エイダは水道台に腰かけ妹分の作業を眺める。おもわず微笑が浮かんだ。

「ナデシコに来ると、ヒロがお姫様なのを実感するよ。意外としっかりしてるし」

「そんな! 父上が御病気がちだから、名目上摂政を務めるだけで」

「実はヒロのガイスト適性って、あたいが同い年のときより高いんだぜ。悔しいから黙ってたんだけどさ」

「いやあ、わたしなんてまだまだです……そんなに褒められたら困っちゃうなあ……」

 おだてられ身悶えする姫君のホースから水が飛び散った。

「うわっ、冷てッ!」エイダは逃げ惑う。




 タオルで短い金髪を乾かしつつ、エイダが呟く。

「あたいはいつも背伸びしてたんだ。周りが年上の男ばかりだし。だからヒロに出会えて嬉しかった。ヒロと一緒だと自然でいられた」

「わたしこそ、エイダちゃんには感謝の気持ちでいっぱいです」

 赤城をドックに戻したヒロヒトは、唇をきつく噛みしめる。絶対泣かずにエイダを送り出すと決心していた。

 エイダの声が震える。「だからヒロと別れたくない。もう一生会えないかもしれないなんて嫌だ」

「そんなこと言わないで。お互い悲しくなるだけです」

「もう戦いたくない。ケガをしたり、味方が死んだり、敵を殺したり……。あたいの夢はミュージシャンになることだったんだ。どこかで道を間違えてしまった」

「エイダちゃん、お願い。わたしは明日、笑顔でさよならしたいんです!」

 エイダはタオルを噛むが、嗚咽が漏れるのを止められない。

「あ……あたいは、ヒロが大好きだにゃあ! 世界のどこにいても、ヒロのことを考えてる……なあ……信じてくれるか?」

 ヒロヒトの返答は言葉にならない。ふたりの少女はかたく抱擁しあい、天に届くほどの声で号泣した。




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笛『へんてこバスと飴玉くるり』

 

 

へんてこバスと飴玉くるり

 

作者:笛

掲載誌:『まんがタイムきららキャラット』(芳文社)2014年-

単行本:まんがタイムKRコミックス

[ためし読みはこちら

 

 

 

不思議な4階建てバス「月光号」で、知らない町を旅する4コマ漫画。

絵本みたいな世界観と、きらら印の可憐な少女がハーモニーを奏でる。

 

 

 

 

バスのなかは、隠し通路がいっぱいで迷宮さながら。

屋根裏部屋へゆくつもりが、灯台にでたり。

 

情報量多めな絵柄はあまり4コマに向いてないけれど、

一歩一歩塔を登る感覚と、下降する視線が交叉し、奇妙な酩酊感をもたらす。

 

 

 

 

なぜか車内に本屋さんまであって、新刊の早売りをしていた。

コンビニじゃないところがいい。

 

 

 

 

普段はサボってるが、モンスターが出現すると俄然はりきりだす、

お転婆な運転手の「アオイさん」。

キャラクターもそれぞれ独特の持ち味が。

 

 

 

 

特筆すべきは天才詩人の「ビー玉ちゃん」。

CMにたくさん出演するセレブでもある。

 

職業詩人が出てくる漫画なんてそうない。

すくなくとも僕は記憶にない。

 

 

 

 

倉庫へ行ったらそこは幼稚園で、かわいい生き物がお歌をうたっていた。

 

「童話っぽい世界」と「子供だまし」は紙一重で、むつかしい分野と思うが、

本作は素材のえらびかたに繊細な審美眼が感じられ、

可愛くて、あたたかくて、どこか懐かしい雰囲気にひたれる。

 

 

 

 

作者・笛はPCゲームの原画師として名高い。

十数年のキャリアがささえる、夜空と町並みと女の子のラビリンス。

 

詩情あふれる景色をながめるため、あなたも乗車してみませんか?






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ジャンル : アニメ・コミック

タグ: きらら系コミック  萌え4コマ  ロリ 

真田ジューイチ『危ノーマル系女子』3巻 エントロピー

 

 

危ノーマル系女子

 

作者:真田ジューイチ

掲載サイト:『COMICメテオ』(ジー・モード)2012年-

単行本:メテオCOMICS(フレックスコミックス)

[過去の記事→1巻/2巻

 

 

 

セーター越しのふくよかなシルエット、カチューシャ、アンニュイでやさしい笑顔。

そして喉元の痛々しい疵痕。

「クラリッサ」こと、倉多里叉の登場である。

 

 

 

 

3巻は、十数年前の「辻斬り事件」が浮上する。

因縁ありげな新キャラが3人。

「闇ハーレム」を形成する7人娘の掘り下げもできてないのに。

 

長篇の語り手は、変化をつけるため新キャラに頼りがち。

たとえば『ストライクウィッチーズ2』で高村和宏監督が、原作者に頑なに抵抗し、

ウルスラとマルセイユしか出さなかったのは、稀有な例外だろう。

 

エントロピーが増大しつづけ、宇宙が熱的死をむかえるのは摂理としても、

藝術作品は混沌より秩序がこのましい。

 

 

 

 

表紙はまたも十華さん。

出してもらえない他の娘は不平たらたらだろう。

デザインはモダンになったが、単色なのはおなじ。

 

『危ノーマル系女子』のアンデンティティは保持されている。

 

 

 

 

十華さんのコンサバかつガーリーな装いは、

本巻では冬の重ね着となり一層見栄えする。

ツーサイドアップにした髪型が、競争相手に差をつける。

 

変化をとりいれて際だつ個性。

それはつまり女子のファッションのこと。

 

 

 

 

「盗聴」とゆう固有スキルがストーリーをころがす。

正ヒロイン格でありながら、黒幕でもある奇跡のキャラ。

 

 

 

 

「おかえりー、お兄ちゃん♡」

コタツでぬくまる妹から言われたいセリフ第1位。

 

出番はすくないが、迷もますます可愛くなっている。

 

 

 

 

『危ノーマル系女子』3巻は、すべてが最高ではないが、

唯一無二の作品なのでケチをつけても仕方ない。

トビラの先でなにが待ってようと、つきあわざるをえない。






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二駅ずい『彼女はろくろ首』

 

 

彼女はろくろ首

 

作者:二駅ずい

掲載誌:『別冊少年マガジン』(講談社)2015年-

単行本:講談社コミックス マガジン

[ためし読みはこちら

 

 

 

ちょっと首が長すぎる高校1年生、

「鹿井(かのい)なつき」がヒロインの、ろくろ首系ラブコメディ。

 

 

 

 

暑すぎる日は、冷蔵庫に頭をつっこんで涼む。

弟にトビラを閉められたりするけど。

 

便利な様で、あんがい面倒な日常をえがく。

 

 

 

 

本作は、いまや定番化した「モン娘系」のジャンルに属す。

あえて政治的に公正ぶるなら、可憐な少女を珍奇なモンスターに見立て、

露骨に性的搾取するセクシズムの側面がある。

 

「なぜ、ろくろ首なのか?」

作者はその疑問に答えねばならない。

 

 

 

 

答え。

女の首はうつくしいから。

ときに顔以上に表情豊かだから。

 

 

 

 

幼なじみに押し倒され、唇をうばわれる。

逃げようと思えば、いくらでも逃げられるのに。

言葉と裏腹の感情を、その首はものがたる。

 

 

 

 

「のびる首」とゆうカードを一枚与えただけでひろがる、ラブコメの宇宙。

いつだって僕たちは、女の子の外見にまどわされる。






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小説9 「フクシマ要塞攻略」

『わーるど・うぉー!! かれらの最高のとき』


登場人物・あらすじ・用語集


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 豪雪・補給の停滞・T-34の威力・敵予備兵力の意外な多さ……。諸々の理由でアイゼンの侵撃は足止めを食らった。雪の積もるテントでエイダとエーリッヒが軍評定をひらく。

「なんてこった」エイダが叫ぶ。「寒さで【パンツァー】が起動しない! 絶対零度でも故障しないって触れ込みなのに」

 丸まっているシェパード犬ブロンディの下に差しこんで温めた。愛犬は迷惑そうに身じろぎ。

「アディ」地図を睨むエーリッヒが言う。「やはり福島を攻撃するのは愚策だ」

「一直線に青森を攻めろって言うんだろ。軍事のことしか考えてないから。なあ知ってるか? アイゼンはガイスト鉱の85%を輸入に頼るって」

「軍事的安定がなくては、政治や経済も成立しないはずだ」

「まあね。で、あたいはその全部を顧慮しなきゃいけないんだ」

 だから楽しい。アイゼンのみんなの幸福が、あたいの肩に掛かってる。これほどやりがいのある仕事はほかにない。




 厚手の羊革コートを着こむユリア・スターリンが、馬で雪原を疾駆する。機械化部隊がまるで役に立たないので、時代錯誤と思いつつ騎兵師団を率いていた。

 全身白の雪上迷彩服の男がスキーで近づく。新設したスキー旅団の指揮官で、ゲリラ戦の功績がある。

「同志スターリン、状況を報告します」

「わかったわ」ユリアは副官をよぶ。「紅茶を用意なさい!」

 下馬したサスーリカの優美な狐は、折りたたみ椅子に腰かけた。銀のサモワールで保温した紅茶を、ハンサムな副官がカップに注ぐ。

「あなたもどうぞ」ユリアが赤軍大佐に一杯勧める。「さすがにジャムはないけどね」

「スパシーバ、同志。工場の移設は無事終わりました。すでに主要な施設は北海道にあります。油田や鉱山など、どうしても動かせないものは破壊しました」

「結構。さぞかし子猫ちゃんが悔しがるでしょうよ。発疹チフスの流行は?」

「医師たちの献身的な努力により、エピデミックには至っておりません」

「ありがたい話ね。なんだかんだ言って、愛国心に優る武器はないんだわ」

 政府機能のほとんどは海峡の向こうの函館へ疎開し、本土には幕僚部しか残してない。一方でユリア自身はクレムリンに留まると宣言、市民の恐慌を最小限に抑えた。

 さあ子猫ちゃん、かかってきなさい。これはプライドとプライドの対決よ。先に心が折れた方が負け。シンプルでいいじゃない?

 ああ、そうそう。やるべきことがもう一つあったわ。




 クレムリンの閣僚会議館の中庭で、若い女性秘書三人が大はしゃぎ。想い人に渡したラブレターの返事を、ここで聞くことになっている。相手は、サスーリカ女性で知らぬ者のない王子様。昂奮せずにいられない。

 通せんぼする様に、彼女らのボスが立っていた。煙草をヒールでもみ消す。

「ど、同志スターリン!」

「戦時中なのに堂々サボり?」ユリアは低音でつぶやく。「それとも仕事は終わったのかしら。ならあなた達は優秀ね。網走あたりで才能を発揮したらどう?」

 それが脅しでないのをクレムリンの住人は知っている。金髪の娘が縋りつく。

「お許しください! すぐ職場へ戻ります。これからは寝ずに働きますのでどうか……」

「ああ臭い!」ユリアはハンカチで鼻を覆う。「売春婦の息で鼻が曲がる! でもあたしは寛大だから、イワン雷帝みたく皮を剥いだりしないの。さっさと消えなさい」

「ユリア様……そんな……」

「次にお前達を見かけたら、一族郎党皆殺しよ」

 ユリアは呆然とする部下に背を向け、奥の噴水へむかう。弟のヤーコフが手持ち無沙汰そうに座っている。

「あらヤーシャ」ユリアはうそぶく。「こんなところにいたのね」

 弟の顔が輝く。「姉さん!」

「ひょっとしてガールフレンドとの待ち合わせ? お邪魔だったら退散するわ」

「まさか! 困ったことに、そうゆう浮ついた娘もいますけど」

「あなたも恋人がいておかしくない年頃よ。いいパートナーを見つけて、姉さんを安心させてちょうだい」

「あはは。前から言ってる通り、ユーリャ姉さんより美しく、より賢明な人がいたら結婚したいと思っています。望み薄ですが」

 ユリアは、涙が頬を濡らすのを止められない。

 弟のためなら、すべてを犠牲にできる。どれだけ汚れてもかまわない。この天使を守るべく、あたしは生きている。




 エイダは五人パーティで、福島にある海岸沿いの〔ラビリーント〕に潜っている。手元の方眼紙に迷路の構造を描きこむ。

「ここまでダメージ床、と。はあ、めんどくさ」

 冒険者を阻む数々の仕掛けを解き、第四階層まで踏破した。アイゼン鉱を採掘するまであと一歩。

 金切り声が暗い迷宮にこだまする。ゆっくりと特大の雄鶏の頭があらわれた。つづいて山脈の様なヘビの胴体が。視線で人を即死させる「バジリスク」だ。

「あいつは」エイダの声は震える。「まだこっちに気づいてない。階段まで突っ走ろう」

「ムチャだ」エーリッヒが囁く。「もう一度FOEと戦えば全滅する。そんなリスクは冒せない」

「くそッ」

 エイダが壁を叩く。カチッとゆう微かな音を五人は聞きとった。〔ラビリーント〕全体が震動。異音は次第に大きくなり、轟音となる。

 逃げる一行は激流に飲みこまれ、階層の奥まで流される。鉄格子が降り、袋小路に閉じこめられた。脱出口で大蛇が待ち構える。

 エイダが叫ぶ。「みんな覚悟を決めるにゃあ!」

 先陣切って光刃で斬りつける。怒声をあげる怪獣が嘴で反撃。女パラディンが割って入り、盾で防ぐ。鎧を貫通され斃れた。生死は不明。

「メディーック!」エイダは回復役を呼ぶ。

 反応がない。

 振り返ると、メディックは救急バッグを持ったまま、白目を剥いて死んでいる。同じく後衛のアルケミストも。

「貴様あああああ!」

 逆上するエイダを引きずり、エーリッヒはバジリスクの脇をすり抜けた。

 息を切らし遁走するふたりは、下り階段の前を通りかかる。エイダが足をとめた。

「兄者、アリアドネの糸は?」

「残りひとつだ。これは温存するぞ」

 念のため兄貴分は壁の隠しスイッチを押す。鉄格子が階下への道をふさぐが、エイダは咄嗟に滑りこんだ。エーリッヒは虚しく格子をつかむ。

「アディ、また無謀な真似を!」

「失礼な」エイダはジャケットの埃を払う。「『リスク分散』と言ってくれ。三人もやられて手ぶらじゃ帰れないだろ」

「お前一人でどうするつもりだ!?」

「兄者は素直に糸を渡してもいいし、あたいを見捨ててもいい」




 後方基地で、ヤーコフが予備兵を訓練している。召集年齢を五十歳まで拡げ、サスーリカ軍の予備兵力はは千四百万人にふえた。

 しかし士気と練度は低く、ライフルの持ち方から教えねばならない。忘れたフリをしてるのかもしれない。泥酔するものもいる。ヤーコフは過保護な姉のせいで、前線へ出れない不遇を嘆いた。

「緊張感がないぞ!」ヤリギン拳銃を突き上げる。「いま我らの農地は荒らされ、住居は潰れ、女たちが犯されている。いま、このときもだ!」

 それでも酒臭いあくびをした中年男に銃口を向けたとき、発砲音が基地の裏側から響いた。侵入者に対し守備兵が射撃している。

 瑠璃色の着物に襷をかけた黒髪の少女が、細身の光刀を手に、アイゼン兵を率いる。敵の背後で通信施設や橋梁などを破壊する空挺作戦を遂行中。諜報員でもあるヤーコフは彼女に見覚えある。ナデシコの内親王ヒロヒトだ。

 予備兵は逃散したが、ヤーコフは兵舎の陰に身を潜めた。ピロシキを歩き食いする姫君は油断している。人質にとれば形勢逆転だ。

「武器を捨てろ!」後ろから銃を突きつける。

 右手の九七式を離し、左手のピロシキを頬張ったヒロヒトは、振り向きざま拳銃をはたき、ヤーコフの手首を極めて地面へ転がす。

「ごめんあそばせ」パンを咀嚼しながら言う。「護身術はナデシコの乙女の嗜みなんです」

 右腕を捻じり上げられ苦痛に喘ぐヤーコフの、彫りの深い美男子ぶりにヒロヒトは目を瞠る。

「サスーリカのフィギュアスケート選手がステキと思ってたけど、絵に描いた様なイケメンが本当にいるのね。まさに王子様!」

 自分も一応お姫様なのにときめいた。




 福島第一要塞の上空を数十匹のドラゴンが舞う。陸と海から怪物が津波のごとく押し寄せる。エイダが迷宮を攻略するのを阻止しようと、東北全体のガイスト機能が暴走していた。

 カノン砲・榴弾砲・ロケット砲・対空砲……アイゼン軍は大砲千三百門をかき集め、手持ちの砲弾すべてを降り注ぐ。二十四時間止まない砲撃を、まる五日間つづけた。

 撃墜される龍、粉々になる巨人、突撃しては食いちぎられるアイゼン兵。それは「世界の破滅」と題すべき地獄絵図だった。

 エーリッヒは日隠山から双眼鏡で戦況を眺める。〔ラビリーント〕から脱出したあと、要塞攻囲戦の指揮をとっていた。副官のシュタールベルク中尉が早足で歩み寄る。

 中尉が敬礼。「将軍、弾薬はあと六時間分しかないとのことです!」

「そうか」エーリッヒは双眼鏡から目を離さない。「なら二時間で陥落するのを願おう」

「ですが我が軍の人的損耗も甚だしく……」

「砲撃中止を進言するのか?」ようやくエーリッヒが振り返る。「悪いがそれは副官の職掌じゃない。ところで『グスタフ砲』の設置はどうなった」

 リニアモーターカーから取り外した「グスタフ機関」の荷電粒子砲への改造は、四千人を動員しての作業が長引き、すでに三週間に渡る。完成すれば現時点で世界最強の攻撃兵器となるが。

 副官が答える。「理論上は使用可能だと砲兵将校は言っています」

「よし、射撃命令を出せ。モンスターを薙ぎ払い、天蓋をぶち抜くんだ」

「しかし将軍」副官が抗議する。「中にはまだ総統がいらっしゃいます。危険ではないですか!」

「ふふ……悪運だけは強いんだよ、あいつは」

 エーリッヒは爆煙に包まれた要塞をレンズ越しにながめる。

 私は私の流儀で戦う。アディ、お前もそれを信じてるんだろう?




 エーリッヒ・フォン・マンシュタインは、福島制圧の功により十九歳で元帥府に列せられた。




 和装の姫君が石畳を颯爽と横切る。下駄の音が小気味よい。

「赤の広場って、別に赤くないんだ。ちょっとガッカリ」

 〈マネージャー〉の肉親を生け捕った殊勲者であるヒロヒトは、交渉のため北上しクレムリンを訪れている。

 書記長官邸へ通されると、ユリア・スターリンは食事中。ヒロヒトは席を勧められる。鮭のソテーにかかる香ばしいソースをみて、唾を飲みこむ。

「知っての通り交戦中だから」食器を鳴らしながらユリアが言う。「外交辞令は抜きにしましょ。それで、用件は?」

「捕虜の交換です。そのうちの一人がヤーコフ・スターリン氏であることを確認しました」

 食器の音が止まる。

「ありえない。遠路はるばる申しわけないけど、無駄足だったわね」

「アイゼンのマンシュタイン氏は彼に会ったことがあります。身元は確実です」

 ユリアがフォークを自分の右手の甲に突き刺す。鮮血がテーブルにひろがってゆく。

「きゃっ」ヒロヒトが飛び上がる。

「……ありえないと言ってるでしょう。スターリンの弟が、おめおめと俘虜になるものですか」

 ユリアに為す術はない。降伏しようとした指揮官や、臆病にふるまう兵士を、政治委員は容赦なく粛清してきた。もし自分の家族だからと特別扱いしたら、反応は火を見るより明らか。全国で一斉に叛乱がおきる。

 サスーリカの民衆は暴君を拒絶しない。むしろ歓迎するフシがある。彼らが決して認めないのは「弱い権力者」だ。弱さを見せた途端、玉座から引きずり降ろされ、あらたなイワン雷帝に取って代わられる。

 それが母なるサスーリカだ。




 官邸を出たヒロヒトは、肩を落として帰りの車に乗りこむ。交渉は大失敗で、エイダにあわせる顔がない。

 ジルのリムジンが路肩に寄せて止まった。女の運転手が後ろに向かい訊ねる。

「あなた、きょうだいは?」

「スターリン書記長!」ヒロヒトの声が裏返る。

 運転手の右手は包帯が巻かれる。左目の妖しい輝きも見紛えようがない。

 ユリアは重ねて聞く。「ねえ、きょうだいはいるの?」

「はい、妹が三人。みんな生意気ですが」

「そう。ならば若くても、年少の家族を思う女の心はわかるわね。頼みごとのできる立場じゃないけど、あなたに託したいものがあるの」

 充血した「両目」が物語っていた。ヒロヒトが手渡された小瓶の中身が毒薬であることを。

「お願い」虚脱状態のユリアは倒れこむ。「せめて苦しまない様にしてあげて……」

 ヒロヒトは後部座席から手を握る。「わかりました。最大限努力します。ヤーコフさんが帰国できる様に」

 若くて楽観的なヒロヒトの優しさが、ユリアには残酷だった。すでに砕け散った彼女の心が、さらに傷つく。

「ああ、ヤーシャ! あたしの天使! どこでなにをしているの? なにを思っているの? きっと姉さんを怨んでるのね? 血も涙もないこの姉さんを! ああ! ああ!」

 一切の慰めの言葉が届かない深い闇へ、ユリアの魂は堕ちていった。




 ヤーコフ・スターリンはアイゼン軍の基地で、自分が捕虜になった事実を否定する姉の発言を伝え聞いてすぐ、壁に頭を打ちつけて死んだ。最期の言葉は、姉と祖国を讃えるものだったと言う。享年十七。




 服に赤い星を縫いつけた老若男女が、貨物列車に押しこまれる。少数民族「ヴァンピーア」の強制移住がはじまった。アイゼンからサスーリカへ送られ、奴隷的な労働を強いられる。

 なかには重病を患う者もいる。不衛生なコンテナで感染がひろがり、到着までに少なからぬ死者が出るだろう。

 憂鬱そうなヒロヒトは、隣で腕組みするエイダに話しかける。

「エイダちゃん、親友だから敢えて言います。こんな政策は間違いです!」

「ヒロの言いたいことはわかる」エイダが鼻を鳴らす。「やり方に問題があると、あたいも思う。でも安心しろ、アイゼン人は組織運営の天才なんだ。じきに状況は改善する」

「そうじゃなくて……そもそも、市民から居住権を奪うのがおかしい……」

「奪ってないよ。やつらは東方でよろしくやればいい。そしてアイゼンは一つにまとまり、もっと強くなる」

「エイダちゃん、わたしはあなたが心配なの」

「嬉しいよ、本気で考えてくれて。あたいは周りが見えなくなるから、ブレーキ役が必要だ。これからも遠慮せず忠告してくれよな!」

 エイダは満面の笑顔で、四歳下の友人の肩を抱き頬ずりする。ヒロヒトは気づかれない様に涙をぬぐった。ヤーコフを救えなかった無力さも、彼女を悲しませていた。

 軋む音をたてて貨物列車が動き始める。走りだした列車は、だれも止められない。




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神崎かるな/黒神遊夜『武装少女マキャヴェリズム』3巻 眠目さとりのモダニティ

 

 

武装少女マキャヴェリズム

 

作画:神崎かるな

原作:黒神遊夜

掲載誌:『月刊少年エース』(角川書店/KADOKAWA)2014年-

単行本:角川コミックス・エース

ためし読み/当ブログの記事→1巻/2巻/『しなこいっ!』

 

 

 

神崎かるなの描線は、『竹刀短し恋せよ乙女』2巻あたりで完成したが、

うつくしさにますます磨きがかかってもいる。

 

鍛え上げた少女剣士たちの肢体は、意外なほどしなやかな曲線美を誇り、

解剖学的リアリズムから逸脱しないまま、「萌え」の文法と調和する。

 

 

 

 

かといって本作を「美少女バトルもの」の棚にならべ、

愚作の山に埋もれさせるのは賢明でない。

 

「浮気」したノムラをお仕置きするシーンでも、いちいち蘊蓄がこぼれ出すなど、

情報量で読者をつなぎとめる作風はあいかわらず。

 

 

 

 

見せ場は大浴場での立ち廻り。

ヌク前に、ランジェリーの吟味は缺かさない。

 

 

 

 

3巻でフィーチャーされるマイナー武術は「吹矢術」。

古武術についての圧倒的な造詣をもとに、

ゴシック的世界を現代日本に流露させるのが黒神遊夜の語り口だが、

本作は悪ノリぎみな「武藝のコンビニ」状態となっている。

 

 

 

 

では、不思議ちゃんな天然剣士「眠目(たまば)さとり」戦をみよう。

全裸なのは読者サービスと、ノムラに対する視線誘導。

 

 

 

 

アクションシーンほど刺激的な絵はない。

そこに性的刺激をくわえ、一層複雑なあじわいに。

見てはいけない。

でも見ないと死ぬ。

 

さとりの流派は各派をミックスした「警視流木太刀形」

要するに「現代剣道こそ最強なのでは」とゆう、

神崎・黒神作品を全否定しかねない強烈なアンチテーゼ。

 

 

 

 

悲壮感ただようゴシック世界から、あけっぴろげなモダニティへ。

きっとそれは進化なのだろう。






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タグ: 神崎かるな&黒神遊夜 

鈴木マナツ/岡田麿里『selector infected WIXOSS -peeping analyze-』完結

 

 

selector infected WIXOSS -peeping analyze-

 

作画:鈴木マナツ

原作:LRIG

ストーリー原案:岡田麿里

掲載誌:『ウルトラジャンプ』(集英社)2014年-

単行本:ヤングジャンプ・コミックス・ウルトラ

ためし読み/当ブログの記事→1巻/『阿部くんの七日間戦線』1巻/2巻

 

 

 

ウィクロスのスピンオフが2巻で完結。

少女らはカードで戦い、笑顔で裏切り、復讐で傷ついてゆく。

 

 

 

 

物語とゆう名の螺旋階段が、ドリルの様に心を穿孔する。

そこは暗くて冷たい。

 

 

 

 

カードに閉じこめられた、呪われた存在に身を落としても、

少女らは少女でありつづける。

嘘、後悔、不安定な心、はかない夢。

 

 

 

 

カードゲーム特有の華やかでドラマティックな道具立てを、

鈴木マナツは非の打ちどこころなく視覚化した。

作家としておおきく「グロウ」したのは明々白々。

 

 

 

 

だがマナツファンは、マナツらしさに注目する。

第一に女の子のスタイル。

ことさら肉感的でも、露出過多でもないが、やたらなまめかしい。

 

 

 

 

トレードマークはX脚ぎみの足。

たとえ季節が冬で厚着してても女らしく、しとやかなシルエット。

 

 

 

 

鈴木マナツの作風は、いわば「遅れてきたゼロ年代作家」。

いい意味で外連味がある。

「がんばるぞい」的な軽さより、「残酷な天使のテーゼ」的な重さを好む。

ところが10年代の最強武器「百合」まで手に入れ、もはや別格の存在に。






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